「~~の書」一章“アリス・マーガトロイド”
気を失った魔理沙を私の家に担ぎこんでから丸一日と一晩が経った。
だと言うのに、この傍迷惑な遭難者は未だに目を覚まさない。
もっとも、最初は紙の様だった顔色も元の健康的な色に戻り、紫色に変色していた唇もピンクの輝きを取り戻している。くせのあるハニーブロンドの金髪が、朝日にあたってとても綺麗だ。
呼吸も落ち着いている事だし、健康に関して言えばもう心配する必要は無いだろう
もっとも、幾つか腑に落ちない事柄はあるのだけれども・・・
使い魔の人形、上海人形と蓬莱人形が洗面桶に冷たい水を汲んできてくれた。
『シャンハーイ』
『ホラーイ』
「ありがとう、看病は私が続けるから貴女達は鍋の火加減を見てきて頂戴。」
魔理沙の頭の濡れタオルを取り上げ、水に浸す。
手が切れる程冷たい湧き水、人間よりは強靭な肉体を持つ魔界人だが、手はすぐに真っ赤に悴む。
「まったく、私も人が良いというか甘いというか…」
冷たい濡れタオルを額に乗せられた魔理沙が、むずがる様に息を漏らす。
「魔理沙も黙って寝ている分には、可愛げがあるのにね。」
●
私、アリス・マーガトロイドと霧雨魔理沙との関係は、簡単に言えば友人以上・ライバル未満。
同じ魔法使いを職に選び共に収集癖を持つ私たちは、最初の出会いの事もあって互いに咬み付きあう事も珍しくは無い。
でも、どちらかと言えば人付き合いが苦手な私を、好き勝手に引っ張りまわしながらもリードしてくれるこの黒白古風な魔法使いは私の大切な友人だ。
そう、魔理沙は何時だって強気で前向きで意地っ張り。
だから、魔理沙のこんな無防備な寝顔を見ていると、とても可愛らしく感じる反面、物足りなくも思ってしまう…これは魔理沙に毒された結果、と言ってしまっても良いのではないだろうか?
「悪かったな、可愛げが無くて。」
「きゃぁっ!!」
ばしゃっ
寝ているはずの魔理沙が突然声を掛けてきたのでびっくりして洗面器をひっくり返してしまった…頭から洗面桶を被り、びしょぬれになった魔理沙がこちらを半眼で睨んでいる。
「…ありがとよ、おかげでばっちり目が覚めたぜ…」
あぅあぅ
「ま、魔理沙!あ、あのねこれはね!!」
「わかってるよ、ぶっ倒れた私を寝ずに看病してくれていたんだろ?」
「い、いやそんななんで私がアンタナンカを寝ず二看病したりなんか!!」
あぁ、なんでか妙に緊張してしまって声がうらがえってる…格好悪いなぁもぅ…
「…ありがとう。」
えっ?急に真剣な顔つきになった魔理沙が、まっすぐに見詰めてくる。
「今回ばかりは助かった。ありがとうアリス、感謝してるぜ。」
あぅぅぅ、顔が真っ赤になってるのが自分でも判る。
神妙にしているこいつは、なんでこんなに可愛らしいんだか…
必死に俯いて顔色を隠そうとするが、耳まで赤くしていれば、ばればれだろう。
「と、まぁそれはさておいてだなぁ…」
どびしっつ
「ひぁっ!」
額に強烈な一撃、そばを見ると魔理沙が放ったであろう小さな星弾がぷかぷかと浮いている。
「朝っぱらからなんてことしやがる!心臓が止まるかと思ったぜ!」
「なによ!あんたが急に脅かすのが悪いんでしょ!」
互いに毛を逆立てていがみ合う事しばし。
「へっくしゅん!」
魔理沙のくしゃみで毒気を抜かれてしまった。
「あ~もう!わかったわよ、私が悪うございました!それでいいから、とっととお風呂に入っていらっしゃい!風邪ひくわよ!」
「はいはい、そうさせてもらうぜ…もっとも…」
にやり
あ、嫌な予感。
「水さえ引っかぶらなければ、私は風呂に入る必要は無さそうだけどな。どっかの親切な奴が、寝ている間に体を拭いてくれてたみたいだし。ご丁寧に下着まで取り替えて♪」
あぅあぅ
「だだだだだだだって、しょ、しょうがないでしょ!!貴女全身ぼろぼろで泥まみれだったし、怪我してないか確かめなきゃいけないし!!」
その通り、何もやましい事などあろうはずも無いのだが…
このアマうそ泣きしながら「うぅ、もうお嫁にいけないぜ。」などとほざいてくれやがる。
前言撤回、振り回すにしても程々にしてもらいたい。
「しょうの無い、責任とってもらうか。」
「何のよ!」
「アリス、一緒に風呂に入ろう。私が直々に背中を流してやるぜ。」
は?
こいつは
いったい
なにを
いって
いやがるのだろうか?
「だから一緒に風呂に…モガ!?」
さらに追加攻撃を加えようとする馬鹿の口に、反射的に手元にあった物をねじ込んで黙らせる。
おふろ?浴場?ばす?だれと?まりさと?いっしょに?はだかで?????
『シャンハーーーイ!!!』
すっぱぁーーん!
またもパニックに陥ってしまった私の頭に、上海人形の振るうハリセンが華麗にヒット。
うん、この間付け足した突っ込み型テンパリ防止機構は、順調に稼働中のようね。
でも、もう少し威力は抑え目にしておこう、地味にイタイ。
正気に返ってみると、魔理沙の顔色が危険な領域に達しつつある。
まぁそれだけなら構わないのだけど…
『ホ、ホラーイ…』
『シャンハーーイ!』
あれ?魔理沙の口の中でピクピク痙攣しているのは…
蓬莱人形?
「いやあああぁ~!ほーらーいー!!」
●
「だーかーらー、看病してくれた事に対する礼と、嫁入り前の乙女の素肌を傷物にしてくれた事に対する礼を兼ねて、背中を流すぐらいで手をうとうと…」
「何処をどう巡ればそういう論理に突き当たるのよ!?あんた神社に入り浸りすぎて脳みそにリリーでも湧いたの?」
まだ再起動しない蓬莱人形を胸に抱えながら必死に反論
「失礼な、霊夢はともかく私は正常だぜ。やられた事はきっちりとやりかえす、三倍返しは霧雨家の家訓だぜ。」
「…あんた、実家とは縁切っているんじゃなかったの?」
じと目で睨む私に対して、そ知らぬふりの魔理沙。口笛なんぞで誤魔化されてやるものか。
「それにだな~、アリス。お前この二日は風呂に入っていないだろ?少し臭Ury!」
みなまで言わすか
風呂符「アーティフルサクリファイス~桶」!!
狙いたがわず魔理沙のこめかみにクリーンヒットした洗面桶は、かぽーんと実に良い音がした。
気を失った魔理沙を私の家に担ぎこんでから丸一日と一晩が経った。
だと言うのに、この傍迷惑な遭難者は未だに目を覚まさない。
もっとも、最初は紙の様だった顔色も元の健康的な色に戻り、紫色に変色していた唇もピンクの輝きを取り戻している。くせのあるハニーブロンドの金髪が、朝日にあたってとても綺麗だ。
呼吸も落ち着いている事だし、健康に関して言えばもう心配する必要は無いだろう
もっとも、幾つか腑に落ちない事柄はあるのだけれども・・・
使い魔の人形、上海人形と蓬莱人形が洗面桶に冷たい水を汲んできてくれた。
『シャンハーイ』
『ホラーイ』
「ありがとう、看病は私が続けるから貴女達は鍋の火加減を見てきて頂戴。」
魔理沙の頭の濡れタオルを取り上げ、水に浸す。
手が切れる程冷たい湧き水、人間よりは強靭な肉体を持つ魔界人だが、手はすぐに真っ赤に悴む。
「まったく、私も人が良いというか甘いというか…」
冷たい濡れタオルを額に乗せられた魔理沙が、むずがる様に息を漏らす。
「魔理沙も黙って寝ている分には、可愛げがあるのにね。」
●
私、アリス・マーガトロイドと霧雨魔理沙との関係は、簡単に言えば友人以上・ライバル未満。
同じ魔法使いを職に選び共に収集癖を持つ私たちは、最初の出会いの事もあって互いに咬み付きあう事も珍しくは無い。
でも、どちらかと言えば人付き合いが苦手な私を、好き勝手に引っ張りまわしながらもリードしてくれるこの黒白古風な魔法使いは私の大切な友人だ。
そう、魔理沙は何時だって強気で前向きで意地っ張り。
だから、魔理沙のこんな無防備な寝顔を見ていると、とても可愛らしく感じる反面、物足りなくも思ってしまう…これは魔理沙に毒された結果、と言ってしまっても良いのではないだろうか?
「悪かったな、可愛げが無くて。」
「きゃぁっ!!」
ばしゃっ
寝ているはずの魔理沙が突然声を掛けてきたのでびっくりして洗面器をひっくり返してしまった…頭から洗面桶を被り、びしょぬれになった魔理沙がこちらを半眼で睨んでいる。
「…ありがとよ、おかげでばっちり目が覚めたぜ…」
あぅあぅ
「ま、魔理沙!あ、あのねこれはね!!」
「わかってるよ、ぶっ倒れた私を寝ずに看病してくれていたんだろ?」
「い、いやそんななんで私がアンタナンカを寝ず二看病したりなんか!!」
あぁ、なんでか妙に緊張してしまって声がうらがえってる…格好悪いなぁもぅ…
「…ありがとう。」
えっ?急に真剣な顔つきになった魔理沙が、まっすぐに見詰めてくる。
「今回ばかりは助かった。ありがとうアリス、感謝してるぜ。」
あぅぅぅ、顔が真っ赤になってるのが自分でも判る。
神妙にしているこいつは、なんでこんなに可愛らしいんだか…
必死に俯いて顔色を隠そうとするが、耳まで赤くしていれば、ばればれだろう。
「と、まぁそれはさておいてだなぁ…」
どびしっつ
「ひぁっ!」
額に強烈な一撃、そばを見ると魔理沙が放ったであろう小さな星弾がぷかぷかと浮いている。
「朝っぱらからなんてことしやがる!心臓が止まるかと思ったぜ!」
「なによ!あんたが急に脅かすのが悪いんでしょ!」
互いに毛を逆立てていがみ合う事しばし。
「へっくしゅん!」
魔理沙のくしゃみで毒気を抜かれてしまった。
「あ~もう!わかったわよ、私が悪うございました!それでいいから、とっととお風呂に入っていらっしゃい!風邪ひくわよ!」
「はいはい、そうさせてもらうぜ…もっとも…」
にやり
あ、嫌な予感。
「水さえ引っかぶらなければ、私は風呂に入る必要は無さそうだけどな。どっかの親切な奴が、寝ている間に体を拭いてくれてたみたいだし。ご丁寧に下着まで取り替えて♪」
あぅあぅ
「だだだだだだだって、しょ、しょうがないでしょ!!貴女全身ぼろぼろで泥まみれだったし、怪我してないか確かめなきゃいけないし!!」
その通り、何もやましい事などあろうはずも無いのだが…
このアマうそ泣きしながら「うぅ、もうお嫁にいけないぜ。」などとほざいてくれやがる。
前言撤回、振り回すにしても程々にしてもらいたい。
「しょうの無い、責任とってもらうか。」
「何のよ!」
「アリス、一緒に風呂に入ろう。私が直々に背中を流してやるぜ。」
は?
こいつは
いったい
なにを
いって
いやがるのだろうか?
「だから一緒に風呂に…モガ!?」
さらに追加攻撃を加えようとする馬鹿の口に、反射的に手元にあった物をねじ込んで黙らせる。
おふろ?浴場?ばす?だれと?まりさと?いっしょに?はだかで?????
『シャンハーーーイ!!!』
すっぱぁーーん!
またもパニックに陥ってしまった私の頭に、上海人形の振るうハリセンが華麗にヒット。
うん、この間付け足した突っ込み型テンパリ防止機構は、順調に稼働中のようね。
でも、もう少し威力は抑え目にしておこう、地味にイタイ。
正気に返ってみると、魔理沙の顔色が危険な領域に達しつつある。
まぁそれだけなら構わないのだけど…
『ホ、ホラーイ…』
『シャンハーーイ!』
あれ?魔理沙の口の中でピクピク痙攣しているのは…
蓬莱人形?
「いやあああぁ~!ほーらーいー!!」
●
「だーかーらー、看病してくれた事に対する礼と、嫁入り前の乙女の素肌を傷物にしてくれた事に対する礼を兼ねて、背中を流すぐらいで手をうとうと…」
「何処をどう巡ればそういう論理に突き当たるのよ!?あんた神社に入り浸りすぎて脳みそにリリーでも湧いたの?」
まだ再起動しない蓬莱人形を胸に抱えながら必死に反論
「失礼な、霊夢はともかく私は正常だぜ。やられた事はきっちりとやりかえす、三倍返しは霧雨家の家訓だぜ。」
「…あんた、実家とは縁切っているんじゃなかったの?」
じと目で睨む私に対して、そ知らぬふりの魔理沙。口笛なんぞで誤魔化されてやるものか。
「それにだな~、アリス。お前この二日は風呂に入っていないだろ?少し臭Ury!」
みなまで言わすか
風呂符「アーティフルサクリファイス~桶」!!
狙いたがわず魔理沙のこめかみにクリーンヒットした洗面桶は、かぽーんと実に良い音がした。
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