それは靄のかかった深い闇
たとえるならば、珈琲に静かに注いだミルクの様
黒く染まりきる事も無く、白が明確な形を成すでも無い
「ん…ぅぁ…」
思考と感覚が上手く纏まらない
上下の感覚も定かでは無い
「あ…ぅ…」
さて、こういう時はどの様に事を始めれば良かっただろうか?
先ずは自分の器の形
先程からこの意識らしい物が収まっている場所 頭
何かが規則的に脈打ち、体に活力を送り出している場所 胴
胴から伸びた四つの突起 四肢
人の形のイメージが完成する
次は肉体の感覚を整理しよう
体の半面は何か柔らかな物で包まれている 触覚
耳には風に微かに揺れる木々の音 聴覚
辺りに漂うのはむっとする様な草いきれ…それに僅かに血の臭い 嗅覚
口の中には鉄錆の味 味覚
ここまで確認して、体全体に走る鈍い痛みに気づく。
どうやら自分は怪我をして森の中に倒れているらしい。
こんな時には目を開けるのに、少しばかり勇気が要る。
命に関わる様な怪我をしていなければ良いのだが…
「むぅ…んっつ」
ゆっくりと目を開ける
最初に目に入ってきたのは
「ほ…し…」
星、木立の形に切り取られた満天の星空。
中天に輝く真円の月。
それは譬え様が無いほど美しく…
「あれ?」
急に視界がぼやけてしまう、こんなにも綺麗な星空なのだからもっと眺めていたいのに。
「なみだ…?」
なんで私は泣いてしまっているのだろう?
涙で歪んでしまった為だろうか、見慣れているはずの夜空がまるで見たことの無い世界の様に思えた。
「~~の書」
…題名は血で汚れ、読む事ができない
心配していた体の怪我は、結果から言えば殆んど問題無かった。
着ていた服はあちらこちらがぼろぼろに破け、所々肌が露出しているのに。
それほどの衝撃を受けながら肌が赤くなっている程度で済んでいるのは、少し不思議だ。
「乙女の玉の肌に傷でもついたら一大事…」
急にそんな言葉が浮かんできて、口から零れ落ちる。
実際、どんな酷い怪我をしているかビクビクしていただけに、かすり傷程度で済んでいた事は素直に喜ばしい事だ。私はゆっくりと体を起こし…
「おっと」
少しよろけた。
肉体的な損傷はともかく、体の機能は未だ完全では無い様だ。
感覚と挙動の間にずれがある。
今度はもっと慎重に、両手をつきながら体を起こしていく。
視界が広がる。周囲には闇に浮かぶ木々、空には白銀に輝く満月。
月明りに浮かぶ周囲の光景にはどこか見覚えがある。
ここは幻想卿に広がる魔法の森。
人を惑わし拒む闇の森。
なんだって私はそんな場所でひっくり返っていたのだろう?
確かこの近くに泉が湧いていたはずだ。
冷たい水で顔を洗えば、未だはっきりしない思考も纏まってくれるだろう。
私は木の幹に手をつきながらゆっくりと歩き出した。
月明かりを頼りに、夜の森を歩く。
木々の合間から差し込む月光に照らし出される森は、まるで影絵の世界。
こんなにも深い森なのに、まるで生き物の気配がしない。
ゾクっ
否、気配は一つ感じる。だが、それはまっとうな生物のものでは無い。
他の気配はそれに気取られる事を恐れ、気配を殺しているのだろうか?
『!!!!!!!』
夜の森に響き渡る咆哮、それは歓喜の雄叫び、狩猟の福音。
歪んだ気配が急速に近づいてくる。
考えるまでも無く獲物は私、万全でない体調に思わず舌打ちをする。
思えば、意識を失っている間に襲われなかっただけでも、この森では奇跡に値する僥倖。
夜の魔法の森は、ただの人間にとってみれば紛れも無い魔境の類である。
いささか不利な状況ではあるが、相手の移動速度からして逃げ切るのは不可能。
先程の咆哮から察するに対話・交渉も難しいだろう。
今宵は満月、ただでさえ凶悪な魔獣・妖獣の類が最もその本能を開放する夜である。
戦闘は不可避。
「仕様の無い…」
森の切れ目、泉のある広場にたどり着く。
泉のほとりの大きな木を背にして、気配が迫る方向に体を向ける。
こちらの戦意を感じとったのか、至近まで迫った気配が急に速度を落とす。
月明かりが照らす広場、耳に入るのは微かなうなり声と草を掻き分ける音。
辺りには獣臭がたちこめ、この広場が狩場である事を声高に主張している。
嵐の前の短い均衡 空には何時しか群雲の影
ふと獣の気配が消え、月明かりが途絶える。
「……っ!!」
背筋に走る悪寒、その感覚の命じるままに前方に向かって体を投げ出す。
「GAWWW!!!!」
ゴウッ
横合いからの魂消える咆哮。直前まで私の頭があった場所を魔獣の爪がなぎ払う。
襲撃は、その一撃に留まらない。受身をとって起き上がった私に、爪と牙の洗礼が襲い掛かる。
攻撃魔法を編んでいる暇は無い。
仕切りなおしが必要、魔獣の顎が私の胴を捉える瞬間。
「はぁっつ!!!!」
キン!!
「GYAUUUU!!!!!」
瞬間的に高圧の魔力を放出、魔獣の体を大きく吹き飛ばす。
月が雲から顔を出し、再び広場を照らす。
月下に蹲るのは、異形の巨体。原身は山犬や狼の類なのだろうが、全身の筋肉は造形美を大きく超えて肥大し、爪や牙の長さは小刀のそれ。
なによりこいつには頭が三つ。
地獄の番犬…
凶悪な生物が多く住まう魔法の森でも、五本の指に入るであろう凶獣だ。
しかも、満月に当てられて狂化しきっているときている。
長期戦は不利、一気に片をつける。
その意思に答えるかの様に全身の魔力が収束、無意識のうちに差し出した両手の間で渦を巻いて圧縮されていく。
魔法の発動を感じ取った魔獣が、その顕現を押さえ込もうと襲い掛かる。
だが、もう遅い。
眼前に迫った魔獣の鼻先で、極限まで圧縮された魔力が指向性を持って解放される。
「はぁぁぁぁぁっつ!!!!」
キュ…ゴゥ!!!!
極大の閃光、魔獣の獣気などと比べ様もない魔力の本流が異形の獣を一瞬で消滅させ、夜空の雲に大穴を空ける
「…あぅ」
万全でない体調で、これほど高出力の魔法を使用した反動だろう。
立っている事ができず、私はその場にへたり込んでしまった。
「み…ず」
そうだ、私はここに水を飲みにきたんだった。
笑いっぱなしの膝に喝をいれながら、泉に向かって歩く。
水面には雲に空いた穴から覗く月
そしてぼろぼろの服を纏った、か細い少女のシルエット。
ずきん
「ぅあああっつ!」
ずきん
「ああああっ!!」
頭がイタイ
「ギゥあああああっ!!!」
ずきん
「ぁぁぁあああああアアアアアア!!!!」
心が割レル
「ゥゥゥああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
ずきん
「アアぁぁぁつつ・・・・」
カラだがクダケる
「ああぁぁ・・・・・」
ずきん
「あぁ・・・・」
“ワタシ”ガコワレル
「ぁ・・・」
ずきん
「・・・」
キエテシマウ
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああアアアアアアああああああああああああああっぅぅっつ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「魔理沙!?魔理沙なの!?しっかりして、魔理沙!!!!」
コエガキコエル
「苦しいの!?怪我してるの!?待ってて、いま私の家に運ぶから…上海!蓬莱!先に帰ってベッドの支度をお願い!!」
光ガ見エル
「大丈夫よ、魔理沙。直ぐに手当てしてあげるから。」
マ・リ・サ
マ・リ・沙
マ・理・沙
魔・理・沙
霧雨魔理沙!!
あぁ…どうりで思考が纏まらない訳だ。
私が失念していたのはこんなにも単純な事。
自分が何処の誰なのか、どんな存在なのか。
思考の中心、自己の確立。
それが無くては立つ事だってろくにできようはずも無い。
「よぅ・・・アリス・・・」
ようやく意識が表層にもどってくる。
「魔理沙!気がついたの!?」
どうやら私はアリスに抱きかかえられている様だ。
「あぁ…おかげさんでね…ちょっとばかり調子が悪いんだ…っと、悪いが少し寝させてもらうぜ…」
体を起こそうとするが、上手くいかない。
アリスの上に倒れこんでしまった。
「あ!ち、ちょっと~~~!!」
体はぼろぼろで意識を保っているよりも、手放してしまう事の方が魅力的だ。
私はその誘惑に乗ってしまう事にした。
「ち、ち、ち、ちょっとあんた何処に顔をっっつ!!あぅあぅあぅ…」
体の下から、盛大に顔を紅潮させているらしいアリスの悲鳴が響き渡る。
うるさいなぁ、頭に響くだろうが。
「…お休み、アリス」
「ね、寝るな~~~~!!!!」
アリスの体は柔らかで暖かく、とても寝心地がよさそうだ。
アリスには悪いが、このまま寝てしまおう。
私は霧雨魔理沙「普通の魔法使い」だ。
たとえるならば、珈琲に静かに注いだミルクの様
黒く染まりきる事も無く、白が明確な形を成すでも無い
「ん…ぅぁ…」
思考と感覚が上手く纏まらない
上下の感覚も定かでは無い
「あ…ぅ…」
さて、こういう時はどの様に事を始めれば良かっただろうか?
先ずは自分の器の形
先程からこの意識らしい物が収まっている場所 頭
何かが規則的に脈打ち、体に活力を送り出している場所 胴
胴から伸びた四つの突起 四肢
人の形のイメージが完成する
次は肉体の感覚を整理しよう
体の半面は何か柔らかな物で包まれている 触覚
耳には風に微かに揺れる木々の音 聴覚
辺りに漂うのはむっとする様な草いきれ…それに僅かに血の臭い 嗅覚
口の中には鉄錆の味 味覚
ここまで確認して、体全体に走る鈍い痛みに気づく。
どうやら自分は怪我をして森の中に倒れているらしい。
こんな時には目を開けるのに、少しばかり勇気が要る。
命に関わる様な怪我をしていなければ良いのだが…
「むぅ…んっつ」
ゆっくりと目を開ける
最初に目に入ってきたのは
「ほ…し…」
星、木立の形に切り取られた満天の星空。
中天に輝く真円の月。
それは譬え様が無いほど美しく…
「あれ?」
急に視界がぼやけてしまう、こんなにも綺麗な星空なのだからもっと眺めていたいのに。
「なみだ…?」
なんで私は泣いてしまっているのだろう?
涙で歪んでしまった為だろうか、見慣れているはずの夜空がまるで見たことの無い世界の様に思えた。
「~~の書」
…題名は血で汚れ、読む事ができない
心配していた体の怪我は、結果から言えば殆んど問題無かった。
着ていた服はあちらこちらがぼろぼろに破け、所々肌が露出しているのに。
それほどの衝撃を受けながら肌が赤くなっている程度で済んでいるのは、少し不思議だ。
「乙女の玉の肌に傷でもついたら一大事…」
急にそんな言葉が浮かんできて、口から零れ落ちる。
実際、どんな酷い怪我をしているかビクビクしていただけに、かすり傷程度で済んでいた事は素直に喜ばしい事だ。私はゆっくりと体を起こし…
「おっと」
少しよろけた。
肉体的な損傷はともかく、体の機能は未だ完全では無い様だ。
感覚と挙動の間にずれがある。
今度はもっと慎重に、両手をつきながら体を起こしていく。
視界が広がる。周囲には闇に浮かぶ木々、空には白銀に輝く満月。
月明りに浮かぶ周囲の光景にはどこか見覚えがある。
ここは幻想卿に広がる魔法の森。
人を惑わし拒む闇の森。
なんだって私はそんな場所でひっくり返っていたのだろう?
確かこの近くに泉が湧いていたはずだ。
冷たい水で顔を洗えば、未だはっきりしない思考も纏まってくれるだろう。
私は木の幹に手をつきながらゆっくりと歩き出した。
月明かりを頼りに、夜の森を歩く。
木々の合間から差し込む月光に照らし出される森は、まるで影絵の世界。
こんなにも深い森なのに、まるで生き物の気配がしない。
ゾクっ
否、気配は一つ感じる。だが、それはまっとうな生物のものでは無い。
他の気配はそれに気取られる事を恐れ、気配を殺しているのだろうか?
『!!!!!!!』
夜の森に響き渡る咆哮、それは歓喜の雄叫び、狩猟の福音。
歪んだ気配が急速に近づいてくる。
考えるまでも無く獲物は私、万全でない体調に思わず舌打ちをする。
思えば、意識を失っている間に襲われなかっただけでも、この森では奇跡に値する僥倖。
夜の魔法の森は、ただの人間にとってみれば紛れも無い魔境の類である。
いささか不利な状況ではあるが、相手の移動速度からして逃げ切るのは不可能。
先程の咆哮から察するに対話・交渉も難しいだろう。
今宵は満月、ただでさえ凶悪な魔獣・妖獣の類が最もその本能を開放する夜である。
戦闘は不可避。
「仕様の無い…」
森の切れ目、泉のある広場にたどり着く。
泉のほとりの大きな木を背にして、気配が迫る方向に体を向ける。
こちらの戦意を感じとったのか、至近まで迫った気配が急に速度を落とす。
月明かりが照らす広場、耳に入るのは微かなうなり声と草を掻き分ける音。
辺りには獣臭がたちこめ、この広場が狩場である事を声高に主張している。
嵐の前の短い均衡 空には何時しか群雲の影
ふと獣の気配が消え、月明かりが途絶える。
「……っ!!」
背筋に走る悪寒、その感覚の命じるままに前方に向かって体を投げ出す。
「GAWWW!!!!」
ゴウッ
横合いからの魂消える咆哮。直前まで私の頭があった場所を魔獣の爪がなぎ払う。
襲撃は、その一撃に留まらない。受身をとって起き上がった私に、爪と牙の洗礼が襲い掛かる。
攻撃魔法を編んでいる暇は無い。
仕切りなおしが必要、魔獣の顎が私の胴を捉える瞬間。
「はぁっつ!!!!」
キン!!
「GYAUUUU!!!!!」
瞬間的に高圧の魔力を放出、魔獣の体を大きく吹き飛ばす。
月が雲から顔を出し、再び広場を照らす。
月下に蹲るのは、異形の巨体。原身は山犬や狼の類なのだろうが、全身の筋肉は造形美を大きく超えて肥大し、爪や牙の長さは小刀のそれ。
なによりこいつには頭が三つ。
地獄の番犬…
凶悪な生物が多く住まう魔法の森でも、五本の指に入るであろう凶獣だ。
しかも、満月に当てられて狂化しきっているときている。
長期戦は不利、一気に片をつける。
その意思に答えるかの様に全身の魔力が収束、無意識のうちに差し出した両手の間で渦を巻いて圧縮されていく。
魔法の発動を感じ取った魔獣が、その顕現を押さえ込もうと襲い掛かる。
だが、もう遅い。
眼前に迫った魔獣の鼻先で、極限まで圧縮された魔力が指向性を持って解放される。
「はぁぁぁぁぁっつ!!!!」
キュ…ゴゥ!!!!
極大の閃光、魔獣の獣気などと比べ様もない魔力の本流が異形の獣を一瞬で消滅させ、夜空の雲に大穴を空ける
「…あぅ」
万全でない体調で、これほど高出力の魔法を使用した反動だろう。
立っている事ができず、私はその場にへたり込んでしまった。
「み…ず」
そうだ、私はここに水を飲みにきたんだった。
笑いっぱなしの膝に喝をいれながら、泉に向かって歩く。
水面には雲に空いた穴から覗く月
そしてぼろぼろの服を纏った、か細い少女のシルエット。
ずきん
「ぅあああっつ!」
ずきん
「ああああっ!!」
頭がイタイ
「ギゥあああああっ!!!」
ずきん
「ぁぁぁあああああアアアアアア!!!!」
心が割レル
「ゥゥゥああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
ずきん
「アアぁぁぁつつ・・・・」
カラだがクダケる
「ああぁぁ・・・・・」
ずきん
「あぁ・・・・」
“ワタシ”ガコワレル
「ぁ・・・」
ずきん
「・・・」
キエテシマウ
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああアアアアアアああああああああああああああっぅぅっつ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「魔理沙!?魔理沙なの!?しっかりして、魔理沙!!!!」
コエガキコエル
「苦しいの!?怪我してるの!?待ってて、いま私の家に運ぶから…上海!蓬莱!先に帰ってベッドの支度をお願い!!」
光ガ見エル
「大丈夫よ、魔理沙。直ぐに手当てしてあげるから。」
マ・リ・サ
マ・リ・沙
マ・理・沙
魔・理・沙
霧雨魔理沙!!
あぁ…どうりで思考が纏まらない訳だ。
私が失念していたのはこんなにも単純な事。
自分が何処の誰なのか、どんな存在なのか。
思考の中心、自己の確立。
それが無くては立つ事だってろくにできようはずも無い。
「よぅ・・・アリス・・・」
ようやく意識が表層にもどってくる。
「魔理沙!気がついたの!?」
どうやら私はアリスに抱きかかえられている様だ。
「あぁ…おかげさんでね…ちょっとばかり調子が悪いんだ…っと、悪いが少し寝させてもらうぜ…」
体を起こそうとするが、上手くいかない。
アリスの上に倒れこんでしまった。
「あ!ち、ちょっと~~~!!」
体はぼろぼろで意識を保っているよりも、手放してしまう事の方が魅力的だ。
私はその誘惑に乗ってしまう事にした。
「ち、ち、ち、ちょっとあんた何処に顔をっっつ!!あぅあぅあぅ…」
体の下から、盛大に顔を紅潮させているらしいアリスの悲鳴が響き渡る。
うるさいなぁ、頭に響くだろうが。
「…お休み、アリス」
「ね、寝るな~~~~!!!!」
アリスの体は柔らかで暖かく、とても寝心地がよさそうだ。
アリスには悪いが、このまま寝てしまおう。
私は霧雨魔理沙「普通の魔法使い」だ。