Coolier - 新生・東方創想話

東方裁判 ~ 幽香VS文 「後編」

2006/04/14 12:11:32
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「──では、まず射命丸さんにご自分の正当性の説明を要求します。私から見ても、貴方の方が不利ですので」
咲き誇る紫の桜の下で、私たちの闘いの火蓋が切って落とされた。
このような場面においても、天狗はやはり自信に溢れる様子で口を開いた。
なるほど、伊達に長く生きているわけではないということか。

「……こほん。では説明しましょう」
わざとらしく咳払いをし、天狗は語を継ぐ。

「まず、最近の私の新聞の売れ行きは、良しと言うことが残念ながらできません。様々な原因が考えられますが、私個人の力ではこれは解決できないとの考えに至り、今裁判にかけられている盗撮という行為に及びました」
そう……、ここまで聞く限りではやはり天狗の方が間違いなく悪い。ここからどう切り返すのかが見物ね……。

「ここで新聞とは読者に確かな情報と娯楽性を与える物であると主張します。そこで情報は何か事件が起きないとどうしようもないため置いておきますが、娯楽性について考えたところ、珍しい写真や意外な写真を載せることで読者に楽しんでいただけると結論しました。しかし、そういった類の写真はそれだけに撮影するのがとても困難で、かつ了承も得にくいものです。ですから、盗撮するしかないと。……私はこれを読者に娯楽性を提供するための仕様がない行為と主張します」
雄弁な天狗の主張に一応の区切りが付いた。
この時点ではまだ、私に言ってた内容と大差ないわね。

「……これについて、幽香さん。反論をどうぞ」

「ん~……、そうね。何度も言うけど……」

「あ、ちょっと待って幽香」
私が言いかけたところに霊夢が割り込んできた。
一体何?という言葉を中途に止められた不快感を込めて霊夢を睨むが、霊夢はそれを華麗に流し、天狗へ質問した。

「えーとね……まずは、なんで幽香だったの?私でも良かったんじゃない?」
……そういうことか。
確かに、私だけを狙って二回も撮ったのだから、それなりの理由があるはずよね。
なんだかんだ言いつつも、霊夢はしっかりと考えているらしい。
これまで、今ほどこのサボり巫女が頼もしく思えたことはなかったわ。

「ん……、それはですね、人間妖怪問わずオールマイティに恐れられている幽香さんの写真は特に意外性があるだろうと考えたからです」

「ふーん……」
……まあ、確かに普段の私からは想像もつかないわよね。
けれど、だからこそ危険なのよ!
それこそ知った奴は全員抹殺しなければならないくらいにね……!
霊夢が引き下がったのを見計らい、私はさっきの続きを言うために口を開いた。

「じゃあ、言うけどね。あんたにとっては良いかもしれないけど、私にとってその写真は面子に関わることなのよ。本人の了解も得ずにそういうのを掲載しちゃうのは、やっぱり危険なんじゃないの?」

「そうよね……。読者が喜んだとしても、あんたは同時に敵を作ることにもなるわ。それで良いの?」
個人の尊厳。
これが恐らく、この論争におけるキーワードだ。
こんな人間臭い言葉は使いたくないのだけれどね……。
霊夢も力添えしてくれた。
さあ、どう出る射命丸文……?

「確かに、幽香さんのプライドも蔑ろにすることはできません。勿論そうですよ?しかしですね……」
この最大の質問を前にしても、天狗はやはり自信に満ちた様子だった。
少しぐらい考えても良いはずなのに、即答してきた。
何故?
強力な後ろ盾があるわけでもないのに、どうしてそんなに堂々としていられるの?
霊夢を見ると、やはり天狗の異様なまでの余裕ぶりに困惑しているようだった。
裁判の場のおいて優勢か劣勢かなんてのは、もはや関係ない。
この雰囲気が危険だ。
天狗に、呑まれる……。

「私も危険を承知の上で行為に及んでいることを理解していただきたいですね」

「……なんですって?」
私は精神的な焦りを見抜かれぬよう、平静を装った。
普段からこういうことには慣れている。
むしろ、焦りを表に出してしまったら負けだ。

「貴方がご自分のプライドを主張するのは結構ですが、私も命を賭けて盗撮に望んでいる……これは対等な立場と見て良いんじゃないですかね──……裁判長?」

「ほう……」

「────っ!」
天狗がニヤリと笑って、閻魔に問う。
表面には出さずとも、私はこの天狗の答えに愕然とした。
お互いに害を持っているのだから、対等だと……?
馬鹿げたことを、とは思うが返す言葉が見つからない……。
助けを求め、霊夢を見るが……霊夢も私と同じらしい。
目を伏せ、首を横に振った。
くっ……、こんなことが……っ!
なんとも悔しい!
思わず親指の爪を噛み切ってしまった。
……普段の様子に騙されていた。
目の前の天狗は、相当キレる……!

「確かに……、貴方が命を賭けてまでいるのであればそれは評価するべきですね」
閻魔の言うことは、……正しい。
これは私と天狗の問題として私情を出さずに公平に物事を見るのは正しい。
ここで閻魔に対し怒りをぶつけるのはお門違いだ。
それくらいは分かってる。
でも……、だけどっ!

「ですが……」

「……?何か問題でも?」

「まだ、何か言いたいことがあるのではないですか?幽香さん?」

「!」
言いたいことだと……?
閻魔の顔を見る。
まだ手はありますよ、とでも言いたげな表情だ。
瞬間、私は理解した。
閻魔は……、私の味方らしい!
そして、彼女がそういう以上きっと何かがある。
考えろ幽香、落ち着くのよ……。
私は常に余裕でなくてはね。
軽く笑みを浮かべ、思考に入る。
確かに天狗は頭がキレる、確かにね。
けれど、その程度じゃ私には及ばない……!

「ふふふふ……あっはっはっはっ……」

「……何がおかしいのでしょうか?」

「くすくす……、そうね忘れてました。あまりにも余裕すぎてねぇ……」

「……?」
天狗は訝しげに私を見る。
それはそうだ、あれで自分の勝利を確信していたのだろうから。
無論、まだあの余裕さは残っている。
けど、すぐにそんなものは消し去ってあげる……。

「確かに……、私たちは両者共に害を持ってる。その点では対等ね」

「なら……」

「でもね、一つだけ対等じゃなかったのよ。何のことだか分かる?」

「……いえ」

「そう……。それはね、私に利がないのよ」

「利……、というと?」
天狗の表情がだんだんと険しくなってきた。
そう、それで良いの……。

「あんたは新聞の人気が上がるかもしれない利を持ってるわよね?でもね、私には害しかないのよ。これって不公平だと思わない?」

「……!そ、それは……」
天狗が一瞬だがハッとしたような表情を見せた。
言葉からも焦りが感じられる。
かかった!

「そうでしょ?それじゃあ、やっぱり駄目よねぇ?」
挑発するように、笑んでみせる。
これで後は自爆なり何なりしてくれるのを待つだけだ。
くっくっくっ、その様子を想像すると楽しくて仕方がない。
少し前までは天狗もこんな気持ちだったのだろう。
調子に乗りすぎたわね!

「……それならっ!読者の皆様の注目の的になれるかも……」

「却下。嫌よ、そんなの。私が嫌だと思うならそれは害にしかならないわよ?あらあら、私の害が増えたわねぇ?」

「なっ──!?」
天狗はしまったとでもいうように、唇を噛んだ。
ほらほら、もうあんたは敗北の道を進むしかないのよ……。

「な、なら、これならどうでしょう!?新聞への掲載料、掲載料を出しますよ!悪い話ではないでしょう?」

「あー、ちょっと待った」

「……霊夢?」
今でも十分に暮らせているから要らないわ、と返そうとした時に不意に今まで沈黙していた霊夢が口を開いた。
何だろうと思い、すぐに悟る。
これが事実上、決着の言葉になるであろうことを──。

「あんたはさぁ、新聞自体と新聞の人気とどっちが大切なわけ?」

「はい?……それは、どちらも大切ですが」

「なら、もう止めときなさいよ。これで新聞を発行しても絶対に人気は出ないわよ」

「な、何故、貴方にそんなことが断言できるのですか?」

「利害の一致だとか、お金だとか、そんなもので新聞を作るとどうなるか……それはね」
そこで、一旦止めると霊夢は大きく息を吸い込んだ。
そして……

「──あんたと、あんたの新聞自体のプライドが既にズタボロなのよ!!!」

「……────っ!!!」
ビシィッ!と音がしそうなぐらいの勢いで、人差し指を突きつけると霊夢は叫んだ。
おおっ……!

「人気のためにプライドすら捨ててしまう記者の書いた新聞なんて読みたいと思う?答えなさい、射命丸文!」

「……すみ、ませんでした…………、私が、間違っていました……!目先の……、利益ばかりに囚われて……新聞のためと思いながら、何一つ新聞のためなんかじゃなかった…っ!少ないながらも、いつも購読してくださる方もいるのに……それだけでは飽き足らず……っ、なんてことを……っ……ううっ!」

「……新聞をより良くしたい思いとか、名声を求めるのは分かるわ。でもね、良いじゃない。固定客がいるんだから。つまらないと言われても良いじゃない、同時に面白いと思う人もいるはずよ。……なにより、自分らしい新聞っていうのが、一番輝いているのよ……」

「う……うぅ…っ!霊夢さぁぁああーんっ!!!」

「文……っ!」
夕焼けの中、ひしと抱きしめあう二人。
そして、それを温かく見守る私と閻魔……って
                 あ                                 れ                                  ?
……んーと、何か違わない?
霊夢とか天狗とか霊夢とか天狗とか、なんかもう全てが。
というか、いつからそんなキャラになったのアンタタチハ?
それより私のこと忘れてない?ねぇ、ちょっと?

「……って、ふざけるなぁーーーーっ!!」

「「「えーーーーーーーーーーーっ!?」」」
突如、霊夢がキレだして天狗を殴りとばした。
声を揃えて驚く私たち。

「ちょ、ちょっと霊夢……?」

「あんたがこんなこと起こしたから私が呼び出されてっ!私の仕事を増やすな、このバカ天狗!」

「痛っ!?痛っ、痛いですよ!?霊夢さんっっ!?やめてくださ……あー!!すみませんすみませんすみません!!」
……霊夢が大量の陰陽玉を召喚し、天狗に叩きつけている。
これは流石に私でも恐ろしい……。
とうとう壊れたか……。
これから最低一週間は近づかないようにしないと……。

「こら!暢気なことを考えている場合ですか!霊夢を止めますよ!」

「いや……、あれは無理でしょ」

「無理でもやるのよ!」
そういうと閻魔は霊夢を止めるべく、霊夢に接近していった。
もちろん、私は行かない。
結果が見えているからだ。
……あ、やっぱり殴られた。

「むきーーっ!!年がら年中、変なことばかりしてーーっ!!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

「れ、霊夢……、貴方という……人は…………」
こいつら……、バカだ……。

……………………。


















すぴー……。

「えー……、それでは、今回の裁判は風見幽香さんの勝訴……。射命丸文さんは今後盗撮など一切しないこと……、良いですね……?」

「はい……」

すぴー……。

「では、これにて閉廷といたします……。各自解散……」

「「はーい……」」

すぴー……。

裁判がやっとのことで終了となった……。
時は既に夜。
今夜は三日月だ。
場にはボロボロの雑巾のように成り果てた天狗と閻魔、それを傍観しすっかり疲れてしまった私。
そして……、私の背中で優雅にも寝息を立てて眠る霊夢。
──あの後、霊夢は一通り暴れストレス発散すると、その場で倒れこむようにして眠ってしまった……。
良いご身分なものね……。
そして、今に至る。
閻魔の話では、この日霊夢は前日に開かれた宴会の後片付けのお陰で一睡もしていなかったらしい。
そして、ようやく片付けが終わり眠れると思ったところへ私が来たと。
……偶然とはいえ、悪いことをしたわね。色々と……。
物凄い睡魔に襲われる中、私の手助けをしっかりとしてくれたのだ。
そこには感謝するべきよね。
……最後に壊れたけれど。
というか、何故閻魔がそんなことを知っていたのか……。まあ、どうでも良いか。
何か、あいつは全てを知っているような節があるからね……。

──その後、天狗の新聞が数週間ほど停止したのは言うまでもないし、幽霊の処理についてもまた然り。
それが一人の巫女のせいだというのだから、なんとも笑えない話よね……──。

「ん……んんぅ……ん……?」

「……起きた?」

「……ここは?」

「あんたの神社に帰る途中よ。……感謝しなさい」

「ふーん……」
まだ眠気で脳が働かないのでしょうね。
ぼんやりとしている。
まあ、この様子だとあの事は覚えてなさそうかな……。

「……ねぇ、霊夢?」

「…………何?」

「あんたさぁ……寝てなかったんだって?」

「……うん、後片付けしていくような連中でもないしね……」
……確かに。
振り向いて霊夢の顔を見た。
……眠そうだ。目が据わっている。
ありがとうの一言でも言ってやろうかと思ったが、その顔を見てたらそんな気も失せた。

「ふ……」

「何笑ってるのよ……」

「あんたの顔が面白くてね」

「失礼ね…………」
それに、そんなことを言う柄でもない。
まあ、そう。今度何か菓子でも持ってってやれば良いだろう……。

「…………」

「…………」

「……霊夢?」

「すぴー……」
……また眠ってしまったらしい。



博麗神社へと着く。
中に入り、起こさないように適当なところへ横たえると布団をかけてやった。
……さあ、私も帰ろう。

「…………ん……、ゆう……か……」

「……!」
外へ出ようとしたところで、霊夢が私の名を呟いた。
驚いて振り返るが、もちろん眠っている。
……寝言、か。
どんな夢を見ているのだか……?

「…………あ……りがとう……」
ちょっと、口にしてみた。
……誰も聞いてるはずはないのに、とんでもなく恥ずかしかった。
さあ、帰ろう帰ろう……。

──そして、私は飛び立った。

おわり











えー、完結!お待ちはしていただけてないかもしれませんが、お待たせしました。
学校が始まるとやはりやる気が出るものですね。
一気に書き上げられました。
作品について語ると、実際メインであるはずの裁判短いなぁ……という感じw
いざ書いてみると、難しいんですねこれが。(←言い訳
正直、主張の辺りは微妙かなぁ……。
だって、どう考えても文が不利すぎるのですもの!自業自得ですがね……。
で、このままじゃ短すぎるしつまらんということで今の形に落ち着きましたが……いやはやなんとも。
霊夢が文を諭す場面を書いている時は何故か涙腺が緩みました。謎です。
ラストは何故かしっとりしてるし。幽香×霊夢な同志はいませんか?(いません
霊夢×幽香でも可w
で、今回は友達に読んでもらってません。
高校の方で合宿に出かけてしまいました。
まあ、頼りすぎるのも良くありませんしね。

……さっき一瞬次回予告しようかなと思いましたが、やめます。ええ。(何
多分、久しぶりに幽香から離れて妹紅メインのを書く予定です。
ではでは、今回はこれにて。
ま~れお
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コメント



0.990簡易評価
5.40ナマエナーシ削除
うーん
ちょっとストレートすぎるかな?
話の内容が平坦で、山場がないため、どっちつかずになってるかも
それでも暖かいお話は好きなので、そんなSSが好き。の40点で
12.50ゼッペル削除
お、俺も幽香×霊夢派。
同志よ
15.60名前が無い程度の能力削除
私も同じです♪
いいですよねぇ幽香×霊夢って♪