カツカツと乾いた靴音を響かせる人物がそこにいる。
そして、空気を固めてしまうほどの瘴気を出す紅主もそこにいた。
「紅主か……?」
最初に口が動いたのはハンターの方だった。
「そうだ、っと言ったら?」
続けて、紅主もニヤリと笑って言う。
「消す」
紅主の言葉に対し、ハンターは言い放つ。
違うと言ったところで悪魔であるために消されるであろう。
まあ、今の紅主にとってはどうでもいいことである。
「……………」
「……………」
2人は黙って対峙する。
ここは閉鎖空間であるがため、風も吹かない。
それ故、2人が動く切っ掛けは全く造られない。
そんな中、ハンターが持っているナイフの1本がずり落ち始めた。
「………?」
ナイフが地面に落ち、金属特有の音がする。
その音をゴングに、ハンターは駆けた。
紅主はまだ動いていない。
ハンターが落としたナイフを凝視してしまい、反応が遅れてしまったのだ。
「もらった!」
ハンターが紅主の懐まで飛び込み、持っているナイフで一閃する。
しかし、そこに紅主の姿はない。
「遅い!」
いつの間にか飛んでいた紅主は力を溜め、ハンターに向けて弾を打ち出す。
「ミスディレクション」
さっきまでの位置にはハンターは既にいない。
気が付けば、紅主と同じ高度にいた。
「インディスクリミネイト」
ハンターの動きは止まらない。
そのまままた懐に飛び込み、すぐに後ろに下がった。
「紅色の冥界」
ハンターの言葉の後にすぐ紅主も言葉を放つ。
紅主の懐から出現し始めたナイフは散らずに全て落ちた。
「さぁ、どう動く?」
紅主が放った言葉は結界となり、辺りを紅に染める。
「この程度でいい気になるな」
ハンターにはまだまだ余裕の色が伺えた。
その余裕の理由を、紅主は知っている。
「ザ・ワールド」
地下の悪魔の時と同じ言葉で、また全てが停止する。
紅主はもちろん、結界の機能も停止している。
「紅主、貴様の敗因は私を知ろうとしないことだ」
止まっている世界の中で呟き、ハンターは紅主に向かって突撃する。
「つっ!?」
しかし、届かない。
真っ直ぐ進むと突如、何かにぶつかった。
「馬鹿な……壁だと?」
止まって触ってみると、確かにそこには何か壁がある。
けれど、何も見えない。
「くそっ」
ハンターは壁を確認した後、すぐに後ろに下がった。
その行動の1,2秒後、全てが動き出した。
「どうしたの?かかってこないの?」
挑発する紅主。
「……貴様、私の力を知っているのか?」
突如戦闘を止め、ハンターは紅主に言った。
「さぁ?何のことかしら?」
紅主は全て知っていた。
ハンターが時を操れることも、そしてそれを一度やると再度やるのに10分ほどの時間を要することも。
「まあいい」
ハンターはナイフを持ち直し、気を溜めた。
「殺人ドール」
突如ナイフが剣へと変わる。
それと同時に、1本だった剣が多数に増えた。
「ゆけ!」
ハンターが手持ちの1本を投げると、他の剣も全てそれに続いた。
いや、続いたのではない。
1本投げたことが起となり、他の剣がそれによって動き出しただけである。
何処かの魔法使いが操る人形のように、放たれた剣は動いた。
「これが何だって言うの?」
紅主は向かってきた剣を全て避けた。
「甘い」
しかし、それはハンターの想定の内だった。
というよりも、最初から避けさせるために放ったに等しい。
「いつのまに!?」
紅主の周囲には大量の剣があった。
円を描くように紅主の周りを囲み、止まっている。
紅主が驚き、そして止まったその一瞬をハンターは見逃さない。
合図も無しに、周囲の剣は一斉に紅主に襲い掛かった。
「どうした紅主よ。まさかこれで終わりか?」
剣の集合体を見つめながらハンターは勝ち誇ったように言った。
「いいえ、全然まだよ?ハンターさん?」
「!?」
紅主の声と共に、紅い光が横一文字に走った。
辛うじて回避するものの、ハンターの脇腹には血の染みができあがる。
「隙とは探すものじゃなくて己で生むものでしょう?自分の言葉は忘れない方が良いわ」
近くにいた1匹のコウモリに多くのコウモリが集まり、紅主を形成する。
「貴様が何故それを知っている?」
「聞こえただけよ」
「そうか」
出血など気にも止めず、ハンターは構えて紅主に向き直った。
「くっ…」
「?」
「ふふふ、あはははははは」
突如笑い出す紅主。
その様子には、流石のハンターも少し驚いた。
「何がおかしい?」
「何がおかしいかって?楽しくてたまらないのよ。気持ちが昂ぶって、とても嬉しいわ。あなたはどうなの?」
「奇遇だな。私も、とても楽しい」
ハンターはそう言うと姿を消した。
「エターナルミーク」
紅主の目の前に大量の弾が映る。
「ちっ」
今度は上空に逃げる暇もなく、紅主にはかなりの弾が当たる。
「けれど、それは一時の永遠。ただの記憶でしかない」
少し下がったハンターはそう言った。
「そうね。でもその一時をもっと味わいたくはない?」
今度は紅主がハンターに一気に詰め寄った。
紅主の爪をハンターのナイフが受け止める。
かと思えば、両者は素早く後ろに下がった。
「はぁ!」
「てやぁ!」
また再びぶつかる。
しかし、今度はただぶつかったのではない。
ハンターが下がると同時にナイフが飛ぶ。
何処から出現したのかはわからないが、ナイフは紅主へと一直線に飛んだ。
「スカーレットシュート」
けれど、紅主も負けてはいない。
思い切り大量の弾を放ち、ナイフを叩き落す。
「後ろが空いているぞ!」
「空いてるんじゃなくて空けたのよ」
後ろに回ったハンターに対し、紅主は宙返りをして蹴りを仕掛ける。
しかし、蹴りは決まることなく、空を切った。
「ミスディレクション」
後ろのハンターの姿が消え、横から出現する。
「スターオブダビデ」
それに対し紅主は蜘蛛の巣のような結界を張り巡らす。
「ジャック・ザ・ルビドレ」
ハンターの声と共に、紅主の周りに大量のナイフが出現する。
「レッドマジック」
今度は反対に、ハンターの周囲に大量の弾が出現した。
ただ言葉を交わしているだけに近いが、2人は確実に傷付いていっている。
痛みなどない。
さっきまで無表情だったハンターでさえ、笑みを零していた。
「良いわ。あなた、凄く良いわ。楽しくて楽しくて、存在ごと消してしまいそう」
「その言葉はそっくりそのままお返しさせてもらう」
言いながら、2人はまたぶつかる。
さっきと違い、多くの血が両者から飛び散った。
「……………」
微かにだが、ハンターの息が荒くなってきている。
痛みは感じていない。
けれど、身体はそれを許してはくれない。
それ故、ハンターは勝負を焦ることになった。
「ザ・ワールド」
再び全てが停止する。
紅主は技は一つずつしか使えないらしく、レッドマジックのせいか結界が消えていた。
「終わり…だ」
地下の悪魔の時と同じように、何処かを深く切りつけて終えるつもりだった。
しかし、急に力が抜け、足が縺れた。
一度傷を意識してしまったため、身体はすぐに限界を脳に伝えた。
最早精神では抑えきれない。
ハンターはバランスを崩し、倒れた。
「何をやってるの?」
もう時は正常に動き出している。
動けなくなったハンターの前には紅主が立ち尽くしていた。
「所詮、人間ね。つまらないわ」
そう言うと、紅主は右手を掲げた。
「消えなさい」
そして、思い切り振り下ろした。
『お嬢様』
「……………」
「……………」
紅主、いや、レミリアの身体に違和感が突き抜けた。
ふと、胸元を見ると、微かに光るナイフが突き刺さっている。
銀製のナイフ。
銀は魔を討ち払う力を持っている。
あぁ、自分は死ぬのだな、とレミリアは思った。
「……………」
「………何故?」
ハンターは呟いた。
襲い掛かってくるレミリアに対し、ハンターは本能的に右手を何とか動かして反撃した。
ただの防衛本能で行った反撃であり、良くて相打ちのはずだった。
けれど、レミリアの右手はハンターの左腕を僅かに掠っただけだった。
一方ハンターの攻撃はレミリアに見事に命中していた。
「何故、ワザと外した?」
ナイフから手をそっと離し、ハンターは質問する。
「私、気付いてしまったの。本当に大切なものに」
「大切な…もの?」
「美鈴や小悪魔や他のメイド達、それにパチェやフラン。皆、私はとても大切に思ってる。それを殺したあなたは憎い。けど」
ハンターの顔に、1滴の水が滴った。
「あなたも同じくらいに大切なの。いくら憎んでも、殺すことなんて絶対にできないよ」
泣きじゃくりながら、レミリアは言った。
「私が大切?」
「そう、あなた。十六夜 咲夜という存在」
「十六夜 咲夜……?」
その名前を聞いた途端、ハンターは頭を抱えた。
「わからない。私は…何だ?」
「知らなくても良いわ。いえ、むしろ知らない方が良いわ」
ポツポツと語るレミリアの身体が、徐々に薄くなり始めた。
「ま、待て、紅主!」
「さようなら、咲夜」
笑顔だった。
これから死ぬはずの紅主は、笑顔で消えていった。
十六夜 咲夜という存在を1人残して……
「お嬢様!」
「お嬢様?大丈夫ですか?」
「…………?」
誰かに呼ばれ、目を覚ますとレミリアは自室のベッドにいた。
「あれ……?」
目を擦って確かめるが、ここは確かに自室のベッドの上だ。
「大丈夫ですか?酷く魘されてましたよ?」
「ん、なんでもない」
そう言ったあと、レミリアは初めて話し掛けている者の顔を見た。
「咲夜は?」
話し掛けてきていたメイドは咲夜ではない。
前に目覚めた時と同じく、名前を知らないメイドだった。
「咲夜様は今日はお休みです」
「どうして?」
「さぁ……そこまではちょっと」
「そう。わかった、下がって良いわ」
「はい、失礼します」
メイドは一礼をして部屋を出て行った。
ボンヤリと辺りを見回すと、窓から眩い日の光が入っていることに気付いた。
久々に日が出ている間に起きたようだ。
「あら、珍しいわねレミィ」
小腹が空いたので食堂に降りるとそこにはパチュリーがいた。
「パチェ?」
レミリアは一瞬たじろいだ。
「どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「ううん、何も」
パチュリーがこちらの食堂まで食事をしに来ることも珍しいが、レミリアは違うことに驚いていた。
「本当に、本物のパチェ?」
「私以外に私がいたら見てみたいくらいよ……」
レミリアの質問にパチュリーは呆れたような表情で答えた。
「夢…だったのかな」
「怖い夢でも見たの?」
「何でもないわ」
「そう」
レミリアとのやり取りを終えた後、パチュリーは食事を再開する。
「あっ、おはようございますお嬢様」
元気のいい挨拶と共に、奥から小悪魔がカップを持ちながら出てきた。
「あぁ、おはよう」
小悪魔がいることにも少し驚いたが、今度はその事は顔に出さなかった。
「お食事、お持ちしましょうか?」
「うん、お願いするわ」
「はい」
パチュリーの所にカップを置いた後、小悪魔はまた奥へと引っ込んだ。
「ねぇ、パチェ」
「うん?」
「夜中に何か起こらなかった?」
「私はずっと起きてたけど何もなかったわ。これから寝るつもりよ」
「そっか」
それを聞いて、レミリアはホッとした。
どうやら夢だったらしい。
自分の中で、そう結論付けられた。
「あぁ、そういえば一つだけ奇妙なことがあったわ」
「奇妙なこと?」
「咲夜がね、大怪我をしたのよ」
「大怪我……?」
「本人に聞いたら『夜中に重大な事件が起こったから調べに行ったら傷を負った』って言ってるのよ。けど、他のメイドや美鈴に聞いたら『夜中に誰かが出かけた形跡はない』って言うのよ」
「………時を止めたんじゃ?」
「行きはそれで良いかもしれないけどね。あんな怪我だし、帰りに絶対見つかるわ」
「……………」
「まあ命に別状は無いし、私としてはどうでも良いけどね」
そう言って、パチュリーは小悪魔が持ってきたカップに入っている飲み物をグーっと飲んだ。
「お待たせしました~」
それを見た後、小悪魔がレミリアの分の食事を持って現れる。
「ねぇ、レミィ」
「ん?」
「良い機会だし、しばらく咲夜を休ませてあげると良いわ。従者の管理も主の仕事の内よ」
「わかってるわよ」
「じゃ、私は戻るわ。行くわよ小悪魔」
「あ、はーい。それじゃあお嬢様、ごゆっくり召し上がってくださいね」
眠そうに欠伸をするパチュリーとその従者の小悪魔は食堂から去っていった。
「従者の管理も主の仕事の内、か」
パチュリーが言ったことをレミリアは復唱する。
「食べよっと」
溜め息を吐いた後、レミリアは食事を開始した。
十六夜 咲夜は眠っていた。
何も考えず、ただ昏々と眠っていた。
その身体には包帯や絆創膏が多い。
もちろん、普段の咲夜はそんな物をつけていないし、好き好んでつけているわけでもない。
それらは傷を隠すため、治すためにつけられた物だ。
「咲夜、入るわよ?」
ノックの音と共に、レミリアの声がする。
その声が咲夜を眠りから呼び戻す。
「はい、どうぞ」
弱々しいが、外まで聞こえるような声で咲夜は返事をする。
ドアノブが回り、レミリアがゆっくりと入ってきた。
「どうかなさいましたか、お嬢様?」
「どうかなさいましたか?っじゃないわよ。何よその姿は」
咲夜を見ながらレミリアは呆れたように言った。
「あっ、申し訳ございません」
そう言って、咲夜はベッドから出ようとする。
「そういうことじゃなくて、その傷は何なのよ」
咲夜はてっきり、『従者がベッドの中にいながら主人に話し掛けるのは無礼だ』とでも言われたのだと思った。
どうやら『その姿』とは『傷を負っている姿』を指していたらしい。
「これは……その、昨晩また大きな事件がありまして」
「本当に……?」
「えぇ、本当です」
その言葉に勢いはなく、そしてその表情に自信がない。
包帯ではわからないが、絆創膏が貼ってある箇所の傷にはレミリアには覚えがあった。
自分が付けたものなのだから……
「まあ、信じるわ」
大きな事件があったということは嘘ではない。
なんせ、自分が起こしたのだから。
「仕事を休んでしまい、申し訳ございません」
咲夜はあくまでもその傷の原因については語ろうとしない。
恐らくはレミリアに気負いをさせないためであろう。
しかし、そんな配慮は余計に気負いさせるものだと咲夜は気付いていない。
けれど、レミリアはそれよりも聞きたいことがあった。
「どうして、私は無事なの?」
「はい?」
突拍子もない質問に咲夜は首を傾げる。
「あなたはそんなに傷を負っているのに……どうして私は無事なのよ」
質問の意図は咲夜にも理解できた。
「それは……」
「それに、何で他の皆も無事なの?」
咲夜の表情が曇る。
自分でも思い出したくないのだろう。
認めてしまえば、咲夜は『主に逆らった』という背徳を負うこととなる。
けれど、主に真実を話さないこともまた、咲夜の中では背徳に近い。
「時を…戻したんです」
「時を戻した……?」
咲夜の能力で、咲夜がよく使うのは『時間の停止』と『空間を操作すること』である。
『時を戻す』などというのは聞いたことがない。
「私はあの時、お嬢様の力が消えて元に戻ったんです。それから、お嬢様の魂を対象として時を戻しました」
「なら、どうしてあなたに傷が……?」
レミリアが言ういくつかの質問に対し、咲夜は以下のように答えた。
自分の力は時間や他者や空間を対象として作用することができるが、自身には決して作用しない。
「でも、それじゃああなた自身はその空間に取り残されてしまうんじゃないの?」
「いいえ、そうではありません」
時を止めたとしても、自身は止まらない。
それと同じで、周りの時間が戻っても発動者自身の時間だけは決して戻らない。
「じゃああなたが今ここにいるのは、あなたの時間を戻したんじゃなくて『私の魂の時間』を戻した時に一緒にあなたがついてきたということ?」
「わかりやすく言うとそうですね」
時間を『戻す』ときも『進める』ときも、咲夜はその時間に付いて行く。
例えば、今いるこの部屋の時間を戻すとこの部屋は変化していっても咲夜自身に変化はない。
レミリアの時間を戻しても、咲夜は今の咲夜のままなのだ。
「でも、私を対象にして時間を戻したのなら、私だけが動いて戻るだけじゃないの?ほら、今戻したら私が後ろに歩いて行くだけで、他の時間は変わらないんじゃない?」
「お嬢様は勘違いをなさってます」
咲夜の力は『対象だけを戻す』のではない。
『対象を中心とした時間』を戻すのだ。
「じゃあ、どうして私はその事を覚えているの?」
「それはですね」
対象を『中心とした時間』を戻すのだから、対象は咲夜と同じく『時間の逆流』の影響を受けなくなる。
先ほど例えに使った『今いるこの部屋の時間』の場合、時間を対象としているので部屋には影響が及ぶ。
けれど、『対象とされたこの部屋の時間』自体は戻らない。
けど、対象が『時間』のときはそれを確認することはできないそうだ。
「それじゃあ、どうして私の魂はこの身体に戻っているの?」
「えぇっと……」
対象は時間の逆流の影響を受けないと言っても、対象の周囲の時間は戻る。
魂を対象としたならば時間が逆流していく内に身体が周囲につくことになる。
魂が身体の中に戻っていくのではなく、身体が魂に付属されるという感じだそうだ。
「そうしてお嬢様は今の時間に戻られました」
「ちょっと待って。それじゃあどうしてまた同じ様に別世界に入らないの?どうして、元の世界のままなの?」
「それはきっと、私の中からお嬢様の力が消え去ったからだと思います」
咲夜はレミリアが咲夜に力、運命を付与する直前まで時間を戻したと告げた。
付与している途中、もしくは付与した後ならばまた世界だけが変わるか同じことの繰り返しが起こっただろう。
しかし、直前に戻すことにより、それは避けられた。
レミリアが起きている状態ならばどうなったかは判らないが、幸いレミリアは眠りか気絶に近い状態だった。
それ故、『運命を付与する』という行動自体が起こらず、普通に朝を迎えたらしい。
「あくまでこれは私の予想ですけどね」
一通り説明を終えた咲夜は大きく息を吐いた。
一方、レミリアはばつが悪そうな表情をしている。
「なんだかパチェみたいに理屈っぽいわねあなた」
レミリアにはいまいち理解ができない。
「そうですね。この理屈のほとんどは前にパチュリー様に教えてもらったものですから」
説明し終えた後、咲夜はにっこりと笑った。
その笑顔は、最後の一撃の瞬間に脳裏に浮かんだ笑顔と酷似、いや、全く同じだった。
「申し訳ございません、お嬢様」
笑顔の後、咲夜はまた表情を曇らせて謝った。
「私は駄目なメイドです。お嬢様の願いを聞き入れなかったためにお嬢様に刃を向け、お嬢様の大切な方々を手に掛け、あまつさえお嬢様の命さえも奪おうとしてしまいました……」
今回の事の発端は全て自分がレミリアの願いを聞き入れなかったからだ、と咲夜は主張する。
いかにも従者らしい考え方ではあるが、レミリアはそれを認めない。
「いいえ、違うわ咲夜。悪いのはあなたの想いを無視して軽率な行動をとった私。私の責任よ」
レミリアも自分の責任を主張する。
「いえ、従者は主の命令に絶対に従うべきなのです。だから、私が……」
レミリアの言葉を頑なに否定し、自分が責任を負おうとする咲夜。
このままでは埒があかない。
レミリアはそう思った。
「わかったわ、咲夜」
「お嬢様……」
「悪い従者には、罰を与えないといけないわね」
「はい……」
咲夜の表情がまた曇る。
きっと、解雇などを考えているのだろう。
けど、レミリアはそんなことは考えていなかった。
「1週間謹慎してなさい。その間、仕事をすることは許さないわ」
「お嬢様……?」
「良い?この命令に背いたら、今度は後がないわよ。わかった?」
笑みを浮かべながら、レミリアは言った。
「はい…ありがとうございます」
それに、対し、咲夜は泣きながら返事をした。
「馬鹿ね。罰を受けて泣きながら礼を言うメイドが何処にいるのよ?」
「ここに…ここにいますよ」
涙を流しながら、皮肉を言う咲夜。
その顔は、泣いてはいるけど確かに笑顔だった。
「ほんと、馬鹿なメイドね」
「はい」
レミリアも笑った。
罰を下し下されたのに2人共、この上ない笑顔をしていた。
1週間後、完全で瀟洒な従者が紅魔館での仕事に復帰したのは言うまでもないことである。
End...
前半見終わったらもう出てたよ
それはまあそれとして
レミリアと咲夜の互いに対する申し訳なさというかそう言うのがよく書けてたかと
まあ単なる主観ですが。
>牛っぽいのさん
前半のメッセージ欄に書き忘れてましたが、これは全部完成してから載せた物です。
ですので、メッセージを考えたりちょっと修正するだけですぐに後編を載せることができました。
冒頭に「ラブラブSSじゃない」と書きましたが、ほんとは違った意味でラブラブになってしまったかもしれません。
相手に対する思いやりは大事です多分。
>名無しさん?
前編の途中にもありましたが、咲夜には『レミリア以外には絶対に負けない力』が付与されていました。
つまりその時点でもうガチバトルではありません・・・
本当にガチで戦ったとしても、結構いい勝負になるとは思いますけどね~
その場合、私はフランを支援しますが・・・