私こと射命丸文は新聞記者だ。自慢じゃないけど嘘の記事は書いたことがない。
まぁ、多少の誇張ぐらいはするけど……。
そんな私は新聞のネタを求めて日々幻想郷を駆け回っている。
一部の読者の方からはガセ記者とか言われるが先ほども言ったように嘘は書いてない。
今日は以前紅魔館の図書館への空き巣(?)についての追加取材を魔理沙さんにしましょう。
前に取材した時はどうもはぐらかされた感じがしましたし。
そうと決まれば善は急げです!
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「なに? ヴワルから本を借りてくることへの追加取材だ?」
「はい、そうです。是非ともお話を聞かせていただきたいと思って」
「この前に話したじゃないか。アレじゃ不満だっていうのか?」
「もちろんです! あんなので納得できるわけないじゃないですか!」
「じゃあ、逆に聞くがあんたは私から何を聞きたいんだ?」
「え?」
言われてみれば……私は何を聞きたかったんでしょう。
空き巣のこと? 紅魔館の住人達との関係のこと? それとも本のこと?
私は何を聞きたい? 私は何故聞きたい?
と、私が悩んでいると彼女は笑みを抑えもせずに口を開いた。
「悪いな、ちょっとからかうだけのつもりだったんだがそんなに悩むとは思わなかった。お前って意外と真面目なんだな」
「意外とは何ですか。私はいつだって真面目ですッ!」
「そーか、そーか。じゃあ、お前の期待に応えられるかどうかは分からないが私なりにまた話してやるよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、とりあえず何で本を借りるかについてだが、これは簡単だ。知識が欲しいから借りる。難しい事は無い」
「それはそうですけど……魔理沙さんにまったく何の関係の無い本を持ってく事もあるそうじゃないですか。それは何故なのですか?」
私の質問に彼女はふむと顎に手を当て少し考えたあとに少し予想外な事を言った。
「そうだな、それはさっきのお前と同じ状態にある時だな。何をすればいいか分からない。どうすればいいか分からない。その答えを探そうとしてるからだろうな。自覚はないが」
「それこそ意外です。失礼だと思いますけどあなたがそんな悩みを持つとは考えづらいです。もし仮にそうだとしても、それがどうして図書館に行くことにつながるのですか?」
その言葉に彼女は一瞬きょとん、とした後、少し含みのある笑みを浮かべながら私に一歩近付いてくる。
私は、幻想郷の中でもかなりの力があると自負しているが彼女に、ただ一人の人間に気圧されて一歩後ずさってしまった。
「私は人間だからな。寿命は短いし精力的に動ける時間も妖怪とかと比べれば格段に短い。いや、お前らからすればまさに一瞬ってところか?」
「な、何を言ってるんですか?」
「だから少しでも早く、そして効率的に知識を得たいんだ。だったらアテ無く探すなんて非効率なことはしないであるところから持っていく。それはある意味当然のことだ。どうだ、わかるか? いや、わからないだろうな。お前は妖怪で私は人間なんだから。そしてお前は強く、私は弱い。お互いに相容れないだからわからないのは当然だ」
彼女は一人で話を片付け、その勢いに飲まれただ手帖とペンを持って立ち尽くすのみだった。
そしてそんな私を見て彼女は乾いた唇を軽く舐めて潤した後に言葉を続ける。
「……なんてちょっとかっこいいことを言ってみたが実際はただの八つ当たりだ。私は弱い。だから自分に持ってないものを持ってる奴に憧れるし嫉妬もする。それどころか憎みすらもする、殺したいと思うことすらある」
そして、小さく「もっとも地べたを無様に這いずりまわってる自分が一番憎たらしいんだけどな」と呟いたのを以前地獄耳と評された私の耳は捕らえた。けれど私はそれに気付かなかったフリをし
「じゃあ、どうして霊夢さんやパチュリーさん、アリスさん達とあんなに楽しそうに話せるんですか?」
「好きだからさ。好きでもないやつと楽しく話すなんて器用なことは私にはできない」
「けど、さっき憎いって」
「言ったな」
「おかしいじゃないですか。憎いのに好きだなんて」
「好きが憎いを上回ってるだけだ。それに憎いからって逆恨みをしたってしょうがない。憎しみを作るのは自分、憎しみを無くすのもまた自分だ」
「そういうものなんですか?」
「そういうものだよ。少なくとも私にとっては、な」
私の目の前にいるこの魔法使いは本当に人間? 何百年も生きた大妖怪じゃなくて?
けど、確かに彼女は本当に人間だ。なら、何でこんなにも深い瞳をしている? 何でこんなにも大きい?
たかだか十数年しか生きていないような人間ごときが。
「あなたは、どうしてそんなに強く自分を持つことができるんです?」
「……どうしてそんなことを聞く?」
「わかりません。けど、気になったからです」
「……そうか。気になった、か。なら、教えないわけにはいかないよな。答えのある疑問には応えよう。私の出来る範囲で」
「すみません」
「ありがとう、でいいんだよ。お前は悪い事はしていないんだからな」
これが自分を弱いと称する人なのでしょうか。これほどまでの器だというのに。
この天狗である私を圧倒する器なのに!
「いい女になる秘訣って知ってるか?」
「それに何の関係が?」
「まぁ、いいから答えろって。何でもいいぞ」
「……化粧、でしょうか?」
「それにも一理あるな。けど、本当にいい女って言うのは恋をしてる奴だ」
「迷信ですよ」
「そうかもな。けど恋をしているやつは間違いなく輝く一分一秒を余すことなく生きている。生きているということは輝くということだ」
「輝く?」
「そう。命の輝きを、その美しさをふりまく。それはそいつの持つ魅力が最大限引き出されてるって事だ。だから恋する女はいい女なのさ」
「やっぱりさっきの話と関係ないじゃないですか、やっぱり」
「いいや、ここからが本題だ。私は恋をしている。だからこそ精一杯、無駄なく生きている。無駄なく生きるってことは自分の時間を生きてるってことだ。だから私は自分を見失わない」
「それが答えですか?」
「そうだ。まぁ、魔法使いっていうのはもとより心が強いものなんだがな」
「そうなんですか? それはいいネタになりそうです。是非ともそのお話も聞かせて下さい!」
「そうか。じゃあ霧雨魔理沙先生の魔法教室の開講、としようじゃないか」
彼女はどこからとりだしたのかメガネをかけてそう宣言した。
「じゃあ、何で魔法使いは心が強いか、だ。魔法っていうものの発動の仕組みはわかるか?」
「魔力を自分の望んだカタチに変換するって聞いたことがある気がしますけど……」
「まぁ、その程度に知ってれば問題ない。実際はもっと複雑なものだけど、今は関係ないからそれについてはほっておこう」
「あ、助かります。どうも難しい話は苦手で」
「で、その魔力を望んだカタチにするってのがミソなんだ。その望んだカタチ、というのを確かにイメージしなければならない。それには強い思いが必要だ」
「成る程、思いを強く描くから心が強くなるってことですね?」
「ああ。だから魔法使いの魔法はオリジナルなんだ。魔法ってのは発動者の思いを強く受ける。つまりそいつの魔力の色がはっきりとでるんだ」
「なんか、魔法をパクることの言い訳みたいに聞こえるんですけど」
と、私がほぼ黒だと言われている噂で茶化すと彼女は真剣な顔で言った。
「言ったろ、魔法は常にオリジナルだと。私の魔法の色は恋と星だ。当然、参考にした魔法とは魔力の色も質も性質も異なってくる。見た目だけが似ているだけさ」
「そういえば恋してるって言いましたよね? やっぱり相手はあの古道具屋の店主さんですか!? これはスクープになりますよ!!」
「違うな。私が恋しているのは星だ。夜空に光る彼らは自分の命を燃やすことで輝いている。これってかっこよくないか? だから私は彼らに負けないくらい自分の心を激しい恋心で燃やしているんだ」
「魔理沙さん、あなたって人は……」
あまりの言いように絶句する私に彼女は一言、不遜ともとれることを言い放った。
「どうだ、こんないい女、なかなかいないぜ」
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手帖を開いて今日の取材のメモを見直してハタと気付いた。
わ、私。結局、魔理沙さんに空き巣の件をはぐらかされてるじゃないですかー!!
く、くそー!! あの魔法使い、今度会ったら絶対に許しません!!
悔しさのあまりに瞳に溜まった涙をこぼさぬように見上げた夜空を極彩色の流星が横切って行く。
そしてその流星は私にこう語りかけているのだ。
「魔法使いに言葉で勝とうなんて私が生きてるうちは無理だぜ」
そんな幻聴を耳に私はこんな記事に出来ないものは仕舞った。
私がやるべきことは使えるネタ探しなんですから。
いいネタ、ないかなぁ……。
なかなか深い
人の大きさと生の長さは一致しないもの
いや、いいものでした
魔法の解釈も見事です