超注意!!
このSSにはあるゲームの、あるキャラクターとのコラボレーションとなっており、ついでにそのキャラクターの重大なネタバレを含んでいます。
すべてを了承し、それを受け入れてくれる方のみ、どうかこのSSをお楽しみ下さい。
その日の昼下がり、博麗霊夢は大きな落し物を拾った。
それは文字通り、空から突然落ちてきた不意の落し物だったのだろうが、それでも掃除中に、しかも集めたごみの上に落ちてくるのはやめてくれ、と真剣に霊夢は思う。ごみが舞って、掃除が面倒になるじゃないか。もういいや、掃除は、今日は中止にしよう、そう考えて、霊夢は落し物――人間と思しき少女に声をかけてみた。
「もしもし、生きてる?」
「あと5分寝かせて」
「掃除の邪魔なんですけど……」
「…………」
「……ほんとに寝てるし」
眠っているのをいいことに、霊夢は少女を観察してみる。第一印象としては、薄汚い。白い帽子の下からのぞく、短く刈り取った髪は埃まみれ。服も汗と埃で薄汚れている。素材は悪くなさそうなんだからもったいないと思う。霊夢に負けないくらいまっ平らな胸のせいで、下手をすると、男の子に間違えられてもおかしくないんじゃないだろうか。だけどそれでも霊夢は彼女を綺麗だと思った。なぜかと言われるとわからないが、とにかくそう思わせるオーラが出ているからとしか言えなかった。
「はあ、仕方ないわねえ。ほら、立てる?手を貸すから」
「うー……」
少女は霊夢に引っ張られる形で立ち上がる。その勢いのせいで、彼女の帽子が頭からずり落ちる。瞬間、少女は信じられない勢いでそれが地面につく前に拾い上げる。
「うわ、ちょっとあんた、頭臭いんだけど!?ああ、もう、風呂沸かしてあげるから、とりあえず綺麗になりなさい!」
「どーもー……」
霊夢は少女を境内まで運ぶと、汚れた上着を脱がせ、洗濯桶に放り込んだ。ついでに彼女の帽子も洗ってあげようと、それに手を伸ばした瞬間、その手が払いのけられる。
「帽子に触らないで」
さっきまでぐったりした口調だった彼女から、想像できないほど強い意志が伝わった。
「ふー、生き返ったー」
少女が風呂から上がってきた。彼女が着ていた服はすべて霊夢が洗濯中なので(帽子は彼女が頑として触らせなかったので洗ってない)、今彼女が着ているのは霊夢の古着である。すなわち、少女の今のいでたちは、霊夢の巫女服に、彼女が後生大事に抱える帽子という、世にもアンバランスな組み合わせである。
「ありがとー、一週間ぶりのお風呂だったから気持ちよかったー」
「い、一週間!?」
「うん」
巫女服になった少女はけろりと言ってのけた。
「一週間って、その間何をしてたんだか……」
「わたし?人を探してるの」
「人探し?どんな人」
「わたしのセンパイ」
「男?」
「うん、わたしが好きな人。この帽子の元の持ち主」
少女は自分の被っている帽子を指差した。隠すことなく、ストレートに自分の気持ちを告白されて、霊夢はちょっと赤面した。
「だから、あんまりここでゆっくりしてる暇はないのよね、助けてもらって何だけど、ごめんね?」
「まあ、いいけどね。その代わり、あんたの服が乾くまで、うちでちょっと仕事してもらうけど」
「うーん、そのくらいはいいけどね。で、何すればいいの?」
「神社のお掃除。わたしの代わりによろしく」
「うえー、面倒くさそう……」
心底嫌そうな顔をして、少女はぼやいた。どうやら、根っこのほうでは霊夢に通じるところがあるのかもしれない。
日が沈みかけたころ、少女は境内に戻ってきた。肩をこきこき鳴らす。よっぽど疲れたらしい。
「終わったよー」
「あら、ありがとう、助かるわ」
夕日を眺めながらお茶を飲んでる霊夢を見て、少女は不満顔だった。
「自分はお茶ばっかり飲んでて、ずるい」
「管理者の特権」
「ぶーぶー」
「まあまあ、あんたの分も用意してるわよ」
「やった」
少女は霊夢の計らいに、あっさりと上機嫌になった。どうやら根っこはかなり単純らしい。
少女は用意されたお茶と羊かんを行儀悪くぱくつく。特に羊かんはお代わりを要求するぐらいであった。
「そんなに羊かんが好きなの?」
「ううん、甘いものなら何でも好きよ?わたしが元いた世界じゃ、砂糖は高級品だったから、天然の砂糖が入ったものが普通に食べられるのが、何よりも幸せ」
「ふ、ふーん……」
霊夢は彼女の話にちょっとついていけず、曖昧な答えを返すことしか出来なかった。困惑した表情をしている霊夢を気にも留めずに、少女はあろうことか、手をつけてない霊夢の羊かんにまで手を出そうとした。慌てて霊夢は羊かんを引き寄せる。
「これは駄目」
「けち」
「ああ、そうだ。今日はうちで宴会やるらしいから、その準備もお願いね」
「宴会!?楽しそう!ねえ、それわたしも参加していい?」
「いいけど、食われても知らないわよ?集まるのは妖怪とわずかな人間だけだから、あんたみたいな人間じゃ、逆に食糧にされても知らないわよ?」
「ふーん、でも、何でキミは食べられないの?」
「単純、それはあいつらより強いから」
「何だ、そんな事か、じゃあ、わたしも参加資格ぐらいならありそうね。こう見えても勲章いっぱい持ってるから」
日が沈み、いい感じに空に星が瞬きだした頃、いつも通りに霧雨魔理沙は箒をかっ飛ばして神社にやってきた。
「おーす、今日も一番乗りだぜ」
「残念、二番手よ」
「はあ、なに言ってやがる。お前はゼロ番目、わたしが一番目。どこが違う?」
「特別参加よ、今日の宴会に参加したいって」
「はじめましてー」
「おお、珍しい。この神社に人間の参拝客が来るなんて」
「参拝客じゃないわ、拾い物よ」
「拾われ物でーす」
「ノリのいい奴だな……よし、参加を認めてやるか。わたしが幹事の魔理沙だ」
「よろしく、魔理沙。わたしはニーギ。豪華絢爛にしか生きられない女よ」
「な、何だ、変な奴だな」
「もしくは、笑顔が可愛いニーギちゃんでも可」
「面白い奴だな、ますます気に入ったぜ」
「ふーん、ニーギって言うんだ、初めて知ったわ」
「っておい、霊夢は名前聞いてなかったのかよ」
「だって、不便感じなかったし」
「それってどうだよ……」
やれやれと霊夢に呆れ顔を見せたあと、にっこり笑って魔理沙はニーギに手を差し出す。ニーギもその手を握り返した。と、ちょうどそのとき……
「あら、見ない顔。どこから流れてきたのかしら」
「それが今日のメインディッシュ?」
従者、咲夜を引きつれたレミリアが到着した。咲夜の手には宴会用のブランデーが握られている。
「おお、咲夜とレミリアじゃないか。紹介しよう、特別ゲストだ。間違っても食糧じゃない」
「ゲストでーす」
「あら、そう、飛び入り参加ね。芸のひとつでも出来るのかしら?」
「うーん、シャーペンで頭の上に乗っけたりんごをぶち抜くぐらいなら出来るけど?」
「30点」
「きびしい!!」
「そのくらいの芸なら咲夜がよくやるわ」
「うーん、困ったなー、そんなこと言われてもわたし、ほかに出来ることと言ったらカトラス一本で、ミノタウロスを両断するとか、マシンガン一丁でスキュラを蜂の巣にするとかそのぐらいしか出来ないし……」
「……咲夜、あの子の言ってること、理解できる?」
「いえ、わたしも半分も理解できません……」
「そう、わたしの耳がおかしくなったわけじゃないのね、よかった」
「な、変な奴だけど、面白い奴だろ?」
「ま、まあね、ここいらには変な奴はごまんといるものね。よろしく、えーと……」
「ニーギだそうだ、自称、豪華絢爛にしか生きられない女」
「よろしく!」
「よろしく、ニーギ。お酒はいけるクチ?」
「……メチル?」
「失礼な、紅魔館秘蔵のブランデーよ。そんな安酒なんて、目じゃないわ」
「やった、昔、わたしもよく隠れてお酒飲んでたけど、周りにはメチルしかないから、普通のお酒が飲めるのは本当に嬉しい!!」
「……本当に変な子」
「ちょっと、くっちゃべってないで、宴会の準備手伝ってよ!!」
「あ、ごめーん、じゃ、またあとで」
ニーギはレミリアに手を振り、霊夢の手伝いに戻っていった。
「こんばんは~」
「魔理沙、お酒を持ってきたわよ、白玉楼でも銘酒と名高いどぶろく。これでいい?」
「おお、そいつを楽しみにしてたんだ!!」
ちょうど霊夢とニーギが宴会の支度を終えた頃、幽々子と妖夢が到着した。二人の話によれば、あとから紫も来るらしい。永遠亭の面々は、今日は不参加らしい。何でも、はずせない用事が出来たらしいが、どうせいつもの妹紅と輝夜の殺し合いだろう。
「今日は人形遣いも久方ぶりに来るそうだ。普段引きこもりの癖にこういうときだけは顔を出してくるからな」
「あれ、パチュリーは来ないの?」
「ああ、パチェは喘息の発作で寝込んでるわ。顔には出してないけど、宴会、行きたかったみたいよ」
「ねえ、パチュリーって誰?」
「ああ、うちで飼ってる魔女のことよ」
「お嬢様、仮にもお友達を飼ってるとは、いささか失礼では……」
「あら、そういえば気づかなかったけど、見ない顔がいるわね?」
「おい幽々子、それはぼけて言ってるのか?」
「あら、眼中になかっただけですわ~」
「うわ、何気にひどいこと言われてる!?」
「幽々子さま、一応気には留めておきましょうよ。で、その子は何?」
「特別ゲストでーす。キュートで可愛いニーギちゃんとでも呼んでね」
「あら、人間なのね。死後迷うことになったら、是非我が白玉楼へいらっしゃいな」
「まだ死ぬ気はないので保留させてもらうわ」
「あら~、残念。意気がいいから、人気者になれると思うのに~」
「じゃあ、予約ならOK?」
「ええ、構わないわよ」
「それはありがとう。もしかしたら、大勢そっちへ送り届けることになると思うから」
「……可愛い顔して殺人鬼?」
「振り払う火の粉を払ってるだけよ。乙女の恋路には邪魔者が一杯なの」
どうやら早くも冥界の住人に気に入られたらしく、ニーギは幽々子の冷たい手に触られて、ちょっとだけ居心地悪そうにしていた。
一方で、早くも馴染んでいるニーギを見て、霊夢は少しだけ驚く。並の人間なら怯えて逃げ出してもおかしくないこの百鬼夜行の宴会に溶け込めているのは、彼女の知る限り数えるほどしかいない。自分の見解が狭いのか、それとも世界というのはかくも広いものなのか、この閉鎖された世界では知る由もないが、霊夢は少なくとも、あのニーギという少女の中に、そんな哲学を見たような気がした。
「おや、難しい顔しちゃって、どうしたのよ?宴会には似合わないわよ?」
「いつからそこにいたのよ?萃香」
「鬼はいつでも神出鬼没」
「またわけのわからないことを……で、今日も飛び入り?」
「そうね、ついでに今日は面白そうな人間も来ているみたいだし、ちょーっとからかってやろうかなって」
「ほどほどにしなさいよ。やりすぎのようなら、わたしが出禁にしてやるわ」
「うわあ、それは勘弁!!」
いつものように酒に酔った千鳥足で、ニーギに近づいていく萃香。
「始めまして、人間さん。わたしは伊吹の萃香。鬼よ」
「はじめまして、わたしはニーギ。豪華絢爛にしか生きられない、そういう女」
「よろしく、ニーギ。どう、会っていきなりでなんだけど、わたしととことん飲んでみない?」
「お酒の飲み比べ?いいわよ、受けてたつわ。勝負に逃げていたら、センパイに示しがつかないもの」
おおー、と、ギャラリーが騒然となる。鬼である萃香に、真っ向から挑んだ人間というのはどれほど久しぶりであろうか?
「すごいわね、ただの小娘と思っていたけど、なかなかどうして」
「これは面白くなりそうね~、妖夢もいつか挑戦しなさい」
「ええっ、無理ですよ!勝てるわけないじゃないですか!」
「おお、面白くなりそうだな、よし、ここはひとつ賭けといこうじゃないか!!胴元はわたし、一口1円からでどうだ」
「萃香に5円!!」
「萃香に10円!!」
「萃香に!」
「萃香に2円!」
「うう~、お、思い切って萃香に5円!!」
こういうことに関してはお祭り好きなこの面子で、乗ってこないのはいなかった。しかし、やはり人間が鬼に勝てるわけがないと思っているのか、賭けるのは萃香ばかりだ。
「おいおい、萃香しか賭ける奴いないのか?これじゃ賭けにならないぜ」
「じゃあ、わたしがあの人間に有り金全部」
そう言い、財布を放り投げたのは、いつの間にか現れた八雲紫であった。
「おお、いつから来た?紫」
「つい今しがたよ。危うく面白いものを見逃すところだったわね」
「ちょ、ちょっと、紫様、本気ですか!?人間が鬼に勝てるわけないじゃないですか!それに、有り金全部って、貴重なお金をどぶに捨てるのと同じことじゃないですか!?」
当然のように猛反発するのは、彼女の式神、藍であった。
「あら、そのときは貴方が汗水流して稼いでくれるんでしょ?」
「はああ~……泣きたい」
「霊夢はどうする、って賭ける金がないのか」
「うるさい!!」
「よし、これで決まりだな!!ニーギが勝てば紫の一人勝ち、萃香が勝てば全額均等に配布するぜ。あ、もちろん妨害工作なんて無粋な真似はやめろよな」
「ふふん、どうする?降参するなら今のうちよ?」
「ごめん被るわ。何もしないうちから逃げる女なんて、センパイにふさわしい女じゃないもの」
「……OK。それじゃ、はじめるわよ。霊夢、合図はよろしく」
「は~、面倒ね」
霊夢は二人に同じ大きさの杯を手渡すと、そこに萃香自慢の瓢箪から、酒をなみなみと注ぎ込んだ。
「……こほん、では、はじめ!!」
霊夢の声が神社にこだました。
萃香が一気に杯を飲み干す。対して、ニーギは味わって飲んでいるらしく、ゆっくりと飲んで酒の味を吟味している。
「く~、美味い!!こんなお酒は初めて飲んだわ!!」
「ちょっと、勝負をする気があるわけ?これが飲み比べということを忘れてない?」
「ああん、せめてもうちょっと味わわせて~」
「まあ、いいわ。わたしはさっさと飲ませてもらうから」
萃香は早くも5杯目に突入している。ニーギはゆっくり飲んでいるのが災いして、まだ2杯目を飲み終えたばかり。ハイスペースで飲み続ける萃香とは明らかに差が開き続ける一方であった。
「おいおい、これは萃香の勝ちかあ?」
「そうみたいね、悪いわね、紫。貴方のお金、有意義に使わせてもらうわよ」
「あら、まだ勝負がついたわけじゃないのに、もう勝ち誇ってるの?」
既に、萃香は10杯目を迎え、ニーギは4杯目に入ったばかりである。誰が見ても勝負は明らかに見えた。しらけたムードがその時……
「っぷは~、ふふ、人間、そろそろあきらめたほうがよくない?普通の人間がわたしに挑戦したことはほめてあげるけど、所詮ただの人間じゃわたしには勝てないわよ」
「ただの人間?ふっ……」
ニーギの口が意味ありげに笑いを浮かべた。
「努力を続けている限り、ただの人間はそうではないのよ」
突然、ニーギのペースが上がる、上がり続ける。5杯、6杯、7杯……それには萃香も驚いたらしく、思わず手を止めてしまう。それは致命的なロス。気がついた時には、ニーギは萃香と並ぶ。おおー……とギャラリーの喚声。
「し、しまった……」
慌てて萃香は杯を口に持っていく。当然、ニーギもそれに負けないように食らいつく。
「よーし、行け、負けるなニーギ、巻き返せ!!」
「萃香、何してるの!?手を抜くんじゃないわよ!!」
「ええい、人間、何をしている、もっとペースを上げろ!!」
いつの間にか両者へのエールの声が飛び交う、白熱の勝負になっている。それに答えるかのように飲み続ける二人。萃香も普段とは違うペースで飲み続けたせいか、いささか酔いが早い。一方、ニーギのほうも顔は真っ赤となって、誰がどう見ても限界が近いことは明白だが、それを努力と根性でねじ伏せているようである。
「負けられない、わたしは鬼よ!鬼の誇りにかけて、負けるもんですか!!」
「もうちょっとだ頑張れわたし、アールハンドゥガンパレード、アールハンドゥガンパレード、とっつげきー!!」
殆ど同時に、杯の酒を飲み干す。巻き起こる喚声。しかし、そろそろ終わりが近づきつつあることは明白であった。めったに酔わない萃香が顔を真っ赤にし、ニーギの根性も折れかけている。手に持つ杯が震えている。
『……っぷはあ!!』
そして、99杯目を同時に飲み終えた二人。100杯目の杯を手に取り、互いの顔を見合わせる。
「ここまでよく頑張ったわね……ふふふふふふふ」
「こっちも、挑まれた勝負に負けられない意地ってものがあるのよ……くすくす」
「でも、お互い限界が近いようね……この一杯にすべてを賭けましょう」
「いいわ、乗ってあげる」
二人は一呼吸置いて、杯を手にし、それを口に持っていく。深呼吸に合わせて、満たされた酒が揺れる。
「いざ!!」
「勝負!!」
同時に。二人は酒を飲み干した!!
動きを止めるふたり。しんと静まり返る神社。
「ど、どっちだ……?」
「しっ、静かに」
微動だにしない二人。見守る観衆。そして……
ぐらりと傾くニーギ。そのまま地に倒れ伏す。
「うー……もーだめだー」
目を回して立ち上がれないニーギ。
「こ、これは萃香の勝ちか!?」
「……ゆ、紫様、どうするんですか!?ああ、明日から白飯だけの生活になってしまう~」
「……ちょっと待って、萃香の様子がおかしいわ」
見ると。萃香のほうも寝息を立てている。どうやら潰れたらしい。
「これはもしかして……」
「引き分け?」
「そうみたいね」
魔理沙が拍手をする。それに釣られ、一人、また一人と拍手。大きな拍手の渦が二人の健闘を祝福した。
「……ん?ちょっと待って。この場合、掛け金のほうはどうなるの?」
「ギックウ!!」
「魔理沙、あんたまさか、さりげなく胴元の総取りにしようと思ってたわね?」
「なななななんのことかな?さっぱりわからないぜ」
といいつつも魔理沙の声は震えてるし、目だって泳ぎっぱなしだ。誰がどう見ても図星を突かれたのはまるわかりである。たちまち詰め寄られ、うろたえる魔理沙。
「魔理沙、お金を返しなさい!!」
「わたしは5円!!」
「わたしは2円よ!!」
「魔理沙、速く紫様の財布を返せ!!」
「とほほ……」
魔理沙の一儲け計画、頓挫。
「おーい、遅くなったわよー。ってあれ、なにしてるの?」
最悪のタイミングでやってきたアリスのことは誰も見向きしていなかったことを加えておく。
「お疲れさん、水はどう?」
「お~、ありがとう~」
ニーギはふらふらになりながら、霊夢の用意した桶の水を引っかぶる。
「わっ、飛沫が飛んだじゃない!!」
「あ、ごめんごめん。でも気持ちいい~」
「そりゃアレだけ飲めば気持ちいでしょうよ」
霊夢はため息をつく。普通に振舞っているが、霊夢もあの勝負に興奮した一人である。ちょっとだけニーギを見る目が変わっていた。
「ほら、あんたも起きなさい。酒の肴用意してあんだから!!」
「む~……」
萃香は不機嫌そうに目をこする。大きなあくびをひとつ。
「う~……不覚だわ。人間相手に酔い潰れるなんて」
「いえーい」
「あー、もう悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!」
「うるさい」
「次は絶対リベンジしてやるんだから!!」
「お~、いつでも来―い」
「よっ、今日のヒーロー、調子はどうだ?」
「うん、ちょっとお酒が残るけど、まだまだいけるよ!!」
「元気な奴だなー、よし、あっちにいい酒があるから、一緒に飲むぞー!!」
「おー!!」
魔理沙とニーギは肩を組み合うと、二人して、違う輪の中に入っていく。そこで、つまみをほおばりながら、魔理沙の吟醸酒を飲んでいる。その様子を目で追っていた霊夢に声が掛かる。
「楽しそう?」
「うわあ、びっくりした!」
紫の声だった。
「面白い子ね、あの子。霊夢の次くらいに」
「そうね、わたしから見てもすごく面白そうな子だもの」
「でも、あの子どこから来たのかしら。幻想郷では見かけない子ね。それにあの帽子、幻想郷では見たこともないものだけど」
「まあ、いいんじゃない?どこから来たか分からなくても、ニーギはニーギでしょ」
「貴方がそういうならそれでいいのかもしれないわね。わたしも宴会の席で何無粋なこと聞いているのかしら」
「おーい、霊夢。わたしに酌しろ~」
「霊夢~、わたしにも~」
「あんたらわたしをなんだと思ってる!?」
言いつつ、手に徳利を持っていく霊夢を見て、紫は笑った。
今日の宴会は乱入者、ニーギで盛り上がった。魔理沙は魔理沙で、ニーギの持っているシャーペンに興味津々になり、ニーギ自身も進んで魔理沙やレミリアたちと身の上話を語ったりもした。酒も入ってるせいか、魔理沙たちはニーギの話についていけなくても、大いに盛り上がれたし、ニーギも彼女たちの武勇伝を面白おかしく聞いていた。
「なあ、ニーギ、わたしとの出会いの記念に一本このシャーペンって奴をもらっていいか?」
「いいよー。どうせ腐るほど持ってるし」
そんなこんなで楽しいひと時を過ごしていた霊夢たち。しかし、そういう時間ほどあっという間に過ぎていくものであり、気がつけば酒に潰れて眠っているもの、もう騒ぎ疲れてぐったりしているものもちらほらと見受けられた。
「……そろそろ今日はお開きだな」
「そうね。あー、今日は楽しかったなー」
「おう、近年まれに見る盛り上がりっぷりだったぜ」
「それってわたしのおかげ?」
「そうだな、今日はありがとな、ニーギ」
「うん、わたしもありがとう。こんな楽しい時間なんてひさしぶりだったから」
「それはありがとうな。じゃ、今日のところはお開きだ。じゃーな」
「ってこらー!いつも言ってるけど、片付けぐらい手伝えー!!」
箒に乗って飛んでいく魔理沙の背中に霊夢が飛びっきり大きな声で怒鳴りつける。魔理沙はそんな霊夢の怒鳴り声をBGMに空へと舞い上がり、あっという間に夜の中に消えていった。
「はあ~、いっつもいっつもあいつら肝心なところを手伝っていかないんだから」
「じゃ、わたしもこれで」
「ちょっと待ちなさい」
逃げようとするニーギの首根っこを引っつかむ霊夢。
「あ、嫌な予感……」
「あんただけは逃がさないわ。さあ、後片付けを手伝いなさい!!」
「ひえ~……」
ニーギは霊夢に無理やり後片付けを手伝わされる羽目になった。とはいっても、霊夢は殆どがニーギにやらせていたのだが。
「ふー、疲れたー……」
「ご苦労様、こっちは大助かりよ」
「そりゃ、キミは何もしてないもんねー……」
「あら、したわよ。貴方への応援」
「ずるいー、差別だー」
「あ、そうだ。あんたの洗濯物が乾いたから、そこに置いといたわよ」
「あ、それはありがとう。でもやっぱりずるいぞー」
「さ、仕事も終わったし、寝ましょう寝ましょう。あんたの分の布団も用意してるけど、どうする?」
「そう、じゃ、お言葉に甘えようかな」
単純極まりない娘である。
明かりを消し、部屋にさす光は月明かりだけ。布団の中にもぐったニーギと霊夢は同じ部屋で眠っていた。
「霊夢、起きてる?」
「うん、何、子守唄がほしいの?」
「ちがーう!」
「冗談じゃない」
「……いい世界ね、ここ」
「そう?結構シビアな世界よ?妖怪はうざいし、お賽銭は入らないし、宴会はうちが会場になっても誰も片付け手伝ってくれないし……」
「それは霊夢の観点から見た場合でしょ」
「そんなに気に入ったのなら住めばいいじゃない」
「うん、でも駄目、ここにはセンパイがいない」
「そう、それじゃそのセンパイとやらが見つかったらまたうちに来ればいいじゃない」
「じゃあ、結婚式の式典やら結納は霊夢がよろしく」
「うわ、面倒くさそう……」
「いいじゃない、いろいろ手伝ってあげたでしょ?」
「はあ、まあいいか。覚えてて、気が向いたらやったげるわ」
「わーい」
「話はそれだけ?今日はもう疲れたからお休みー」
「おやすみー……」
ニーギと霊夢はまぶたを閉じる。静寂の中、二人の意識は心地よい眠りに落ちた。
すずめの騒がしい鳴き声が聞こえた。朝日が部屋に差し込んでまぶしい。霊夢は目をこすって、あくびをする。隣に敷いたニーギの布団を見る。空だった。布団を触る。まだ暖かい。
慌てて外に飛び出す霊夢。鳥居の前でニーギが伸びをしている場面に出くわした。
「ありゃりゃ、こっそり出て行くつもりだったのに」
「もう行くの?」
「うん、早くセンパイを探さなきゃいけないから」
「もう少しゆっくりしてもいいんじゃない?」
「ちょっとだけアドバイス。いい男ってのはどんどん遠くへ行っちゃうわ。だから早く捕まえないと、どんどん遠ざかって見えなくなっちゃうの。霊夢もいい男を見つけることがあったなら、恋の先輩のアドバイスを思い出してね」
「まあ、そのときはそうさせてもらうわ」
「じゃあね、霊夢。楽しいひと時をありがとう」
「またね、ニーギ。暇になったらここに遊びにいらっしゃい」
「うん」
ニーギは後ろを向いて手を振ると、鳥居をくぐって石段を駆け下りていく。霊夢はその後姿を、見えなくなるまで見送っていった。
「……台風みたいな女の子だったわね。さしずめ極楽台風といったあたりかしら」
その姿が見えなくなった後、霊夢はポツリとつぶやいた。
「お~、霊夢、昨日の宴会は楽しかったな」
「だー、くつろぐな、お茶飲むな、掃除の邪魔するな!!」
「掃除さぼってるじゃないか。にしても昨日の奴面白かったよなー。……あれ?」
「どうしたのよ?」
「いや、確かに飛び入り参加の人間がいたことはなんとなく覚えてるんだが、おかしいな、ここまで出かかってるのに、名前も顔も思い出せない」
「なに言ってるのよ、ぼけるのは早いんじゃない。ええと……」
「な、出てこないだろ?」
「うん、おかしいな、魔理沙のボケが移ったのかしら」
「わたしはボケてない!!」
「うーん、まず、わたしが空から落ちてきたその子を拾って……ええと、女の子だったかな?」
「えーと、確かそいつはわたしにこんなものをくれたんだよな」
「……何よそれ?」
「シャーペンというらしい。便利だぜ、物を書くにはちょうどいいし、何より武器になる」
「ふーん」
霊夢はシャーペンを魔理沙の手から借りるとノックを押し続ける。カチカチという、うるさい音を聞きつつも、霊夢はもう名前も顔も思い出せない誰かの思い出を、必死に思い出そうとしていた。
このSSにはあるゲームの、あるキャラクターとのコラボレーションとなっており、ついでにそのキャラクターの重大なネタバレを含んでいます。
すべてを了承し、それを受け入れてくれる方のみ、どうかこのSSをお楽しみ下さい。
その日の昼下がり、博麗霊夢は大きな落し物を拾った。
それは文字通り、空から突然落ちてきた不意の落し物だったのだろうが、それでも掃除中に、しかも集めたごみの上に落ちてくるのはやめてくれ、と真剣に霊夢は思う。ごみが舞って、掃除が面倒になるじゃないか。もういいや、掃除は、今日は中止にしよう、そう考えて、霊夢は落し物――人間と思しき少女に声をかけてみた。
「もしもし、生きてる?」
「あと5分寝かせて」
「掃除の邪魔なんですけど……」
「…………」
「……ほんとに寝てるし」
眠っているのをいいことに、霊夢は少女を観察してみる。第一印象としては、薄汚い。白い帽子の下からのぞく、短く刈り取った髪は埃まみれ。服も汗と埃で薄汚れている。素材は悪くなさそうなんだからもったいないと思う。霊夢に負けないくらいまっ平らな胸のせいで、下手をすると、男の子に間違えられてもおかしくないんじゃないだろうか。だけどそれでも霊夢は彼女を綺麗だと思った。なぜかと言われるとわからないが、とにかくそう思わせるオーラが出ているからとしか言えなかった。
「はあ、仕方ないわねえ。ほら、立てる?手を貸すから」
「うー……」
少女は霊夢に引っ張られる形で立ち上がる。その勢いのせいで、彼女の帽子が頭からずり落ちる。瞬間、少女は信じられない勢いでそれが地面につく前に拾い上げる。
「うわ、ちょっとあんた、頭臭いんだけど!?ああ、もう、風呂沸かしてあげるから、とりあえず綺麗になりなさい!」
「どーもー……」
霊夢は少女を境内まで運ぶと、汚れた上着を脱がせ、洗濯桶に放り込んだ。ついでに彼女の帽子も洗ってあげようと、それに手を伸ばした瞬間、その手が払いのけられる。
「帽子に触らないで」
さっきまでぐったりした口調だった彼女から、想像できないほど強い意志が伝わった。
「ふー、生き返ったー」
少女が風呂から上がってきた。彼女が着ていた服はすべて霊夢が洗濯中なので(帽子は彼女が頑として触らせなかったので洗ってない)、今彼女が着ているのは霊夢の古着である。すなわち、少女の今のいでたちは、霊夢の巫女服に、彼女が後生大事に抱える帽子という、世にもアンバランスな組み合わせである。
「ありがとー、一週間ぶりのお風呂だったから気持ちよかったー」
「い、一週間!?」
「うん」
巫女服になった少女はけろりと言ってのけた。
「一週間って、その間何をしてたんだか……」
「わたし?人を探してるの」
「人探し?どんな人」
「わたしのセンパイ」
「男?」
「うん、わたしが好きな人。この帽子の元の持ち主」
少女は自分の被っている帽子を指差した。隠すことなく、ストレートに自分の気持ちを告白されて、霊夢はちょっと赤面した。
「だから、あんまりここでゆっくりしてる暇はないのよね、助けてもらって何だけど、ごめんね?」
「まあ、いいけどね。その代わり、あんたの服が乾くまで、うちでちょっと仕事してもらうけど」
「うーん、そのくらいはいいけどね。で、何すればいいの?」
「神社のお掃除。わたしの代わりによろしく」
「うえー、面倒くさそう……」
心底嫌そうな顔をして、少女はぼやいた。どうやら、根っこのほうでは霊夢に通じるところがあるのかもしれない。
日が沈みかけたころ、少女は境内に戻ってきた。肩をこきこき鳴らす。よっぽど疲れたらしい。
「終わったよー」
「あら、ありがとう、助かるわ」
夕日を眺めながらお茶を飲んでる霊夢を見て、少女は不満顔だった。
「自分はお茶ばっかり飲んでて、ずるい」
「管理者の特権」
「ぶーぶー」
「まあまあ、あんたの分も用意してるわよ」
「やった」
少女は霊夢の計らいに、あっさりと上機嫌になった。どうやら根っこはかなり単純らしい。
少女は用意されたお茶と羊かんを行儀悪くぱくつく。特に羊かんはお代わりを要求するぐらいであった。
「そんなに羊かんが好きなの?」
「ううん、甘いものなら何でも好きよ?わたしが元いた世界じゃ、砂糖は高級品だったから、天然の砂糖が入ったものが普通に食べられるのが、何よりも幸せ」
「ふ、ふーん……」
霊夢は彼女の話にちょっとついていけず、曖昧な答えを返すことしか出来なかった。困惑した表情をしている霊夢を気にも留めずに、少女はあろうことか、手をつけてない霊夢の羊かんにまで手を出そうとした。慌てて霊夢は羊かんを引き寄せる。
「これは駄目」
「けち」
「ああ、そうだ。今日はうちで宴会やるらしいから、その準備もお願いね」
「宴会!?楽しそう!ねえ、それわたしも参加していい?」
「いいけど、食われても知らないわよ?集まるのは妖怪とわずかな人間だけだから、あんたみたいな人間じゃ、逆に食糧にされても知らないわよ?」
「ふーん、でも、何でキミは食べられないの?」
「単純、それはあいつらより強いから」
「何だ、そんな事か、じゃあ、わたしも参加資格ぐらいならありそうね。こう見えても勲章いっぱい持ってるから」
日が沈み、いい感じに空に星が瞬きだした頃、いつも通りに霧雨魔理沙は箒をかっ飛ばして神社にやってきた。
「おーす、今日も一番乗りだぜ」
「残念、二番手よ」
「はあ、なに言ってやがる。お前はゼロ番目、わたしが一番目。どこが違う?」
「特別参加よ、今日の宴会に参加したいって」
「はじめましてー」
「おお、珍しい。この神社に人間の参拝客が来るなんて」
「参拝客じゃないわ、拾い物よ」
「拾われ物でーす」
「ノリのいい奴だな……よし、参加を認めてやるか。わたしが幹事の魔理沙だ」
「よろしく、魔理沙。わたしはニーギ。豪華絢爛にしか生きられない女よ」
「な、何だ、変な奴だな」
「もしくは、笑顔が可愛いニーギちゃんでも可」
「面白い奴だな、ますます気に入ったぜ」
「ふーん、ニーギって言うんだ、初めて知ったわ」
「っておい、霊夢は名前聞いてなかったのかよ」
「だって、不便感じなかったし」
「それってどうだよ……」
やれやれと霊夢に呆れ顔を見せたあと、にっこり笑って魔理沙はニーギに手を差し出す。ニーギもその手を握り返した。と、ちょうどそのとき……
「あら、見ない顔。どこから流れてきたのかしら」
「それが今日のメインディッシュ?」
従者、咲夜を引きつれたレミリアが到着した。咲夜の手には宴会用のブランデーが握られている。
「おお、咲夜とレミリアじゃないか。紹介しよう、特別ゲストだ。間違っても食糧じゃない」
「ゲストでーす」
「あら、そう、飛び入り参加ね。芸のひとつでも出来るのかしら?」
「うーん、シャーペンで頭の上に乗っけたりんごをぶち抜くぐらいなら出来るけど?」
「30点」
「きびしい!!」
「そのくらいの芸なら咲夜がよくやるわ」
「うーん、困ったなー、そんなこと言われてもわたし、ほかに出来ることと言ったらカトラス一本で、ミノタウロスを両断するとか、マシンガン一丁でスキュラを蜂の巣にするとかそのぐらいしか出来ないし……」
「……咲夜、あの子の言ってること、理解できる?」
「いえ、わたしも半分も理解できません……」
「そう、わたしの耳がおかしくなったわけじゃないのね、よかった」
「な、変な奴だけど、面白い奴だろ?」
「ま、まあね、ここいらには変な奴はごまんといるものね。よろしく、えーと……」
「ニーギだそうだ、自称、豪華絢爛にしか生きられない女」
「よろしく!」
「よろしく、ニーギ。お酒はいけるクチ?」
「……メチル?」
「失礼な、紅魔館秘蔵のブランデーよ。そんな安酒なんて、目じゃないわ」
「やった、昔、わたしもよく隠れてお酒飲んでたけど、周りにはメチルしかないから、普通のお酒が飲めるのは本当に嬉しい!!」
「……本当に変な子」
「ちょっと、くっちゃべってないで、宴会の準備手伝ってよ!!」
「あ、ごめーん、じゃ、またあとで」
ニーギはレミリアに手を振り、霊夢の手伝いに戻っていった。
「こんばんは~」
「魔理沙、お酒を持ってきたわよ、白玉楼でも銘酒と名高いどぶろく。これでいい?」
「おお、そいつを楽しみにしてたんだ!!」
ちょうど霊夢とニーギが宴会の支度を終えた頃、幽々子と妖夢が到着した。二人の話によれば、あとから紫も来るらしい。永遠亭の面々は、今日は不参加らしい。何でも、はずせない用事が出来たらしいが、どうせいつもの妹紅と輝夜の殺し合いだろう。
「今日は人形遣いも久方ぶりに来るそうだ。普段引きこもりの癖にこういうときだけは顔を出してくるからな」
「あれ、パチュリーは来ないの?」
「ああ、パチェは喘息の発作で寝込んでるわ。顔には出してないけど、宴会、行きたかったみたいよ」
「ねえ、パチュリーって誰?」
「ああ、うちで飼ってる魔女のことよ」
「お嬢様、仮にもお友達を飼ってるとは、いささか失礼では……」
「あら、そういえば気づかなかったけど、見ない顔がいるわね?」
「おい幽々子、それはぼけて言ってるのか?」
「あら、眼中になかっただけですわ~」
「うわ、何気にひどいこと言われてる!?」
「幽々子さま、一応気には留めておきましょうよ。で、その子は何?」
「特別ゲストでーす。キュートで可愛いニーギちゃんとでも呼んでね」
「あら、人間なのね。死後迷うことになったら、是非我が白玉楼へいらっしゃいな」
「まだ死ぬ気はないので保留させてもらうわ」
「あら~、残念。意気がいいから、人気者になれると思うのに~」
「じゃあ、予約ならOK?」
「ええ、構わないわよ」
「それはありがとう。もしかしたら、大勢そっちへ送り届けることになると思うから」
「……可愛い顔して殺人鬼?」
「振り払う火の粉を払ってるだけよ。乙女の恋路には邪魔者が一杯なの」
どうやら早くも冥界の住人に気に入られたらしく、ニーギは幽々子の冷たい手に触られて、ちょっとだけ居心地悪そうにしていた。
一方で、早くも馴染んでいるニーギを見て、霊夢は少しだけ驚く。並の人間なら怯えて逃げ出してもおかしくないこの百鬼夜行の宴会に溶け込めているのは、彼女の知る限り数えるほどしかいない。自分の見解が狭いのか、それとも世界というのはかくも広いものなのか、この閉鎖された世界では知る由もないが、霊夢は少なくとも、あのニーギという少女の中に、そんな哲学を見たような気がした。
「おや、難しい顔しちゃって、どうしたのよ?宴会には似合わないわよ?」
「いつからそこにいたのよ?萃香」
「鬼はいつでも神出鬼没」
「またわけのわからないことを……で、今日も飛び入り?」
「そうね、ついでに今日は面白そうな人間も来ているみたいだし、ちょーっとからかってやろうかなって」
「ほどほどにしなさいよ。やりすぎのようなら、わたしが出禁にしてやるわ」
「うわあ、それは勘弁!!」
いつものように酒に酔った千鳥足で、ニーギに近づいていく萃香。
「始めまして、人間さん。わたしは伊吹の萃香。鬼よ」
「はじめまして、わたしはニーギ。豪華絢爛にしか生きられない、そういう女」
「よろしく、ニーギ。どう、会っていきなりでなんだけど、わたしととことん飲んでみない?」
「お酒の飲み比べ?いいわよ、受けてたつわ。勝負に逃げていたら、センパイに示しがつかないもの」
おおー、と、ギャラリーが騒然となる。鬼である萃香に、真っ向から挑んだ人間というのはどれほど久しぶりであろうか?
「すごいわね、ただの小娘と思っていたけど、なかなかどうして」
「これは面白くなりそうね~、妖夢もいつか挑戦しなさい」
「ええっ、無理ですよ!勝てるわけないじゃないですか!」
「おお、面白くなりそうだな、よし、ここはひとつ賭けといこうじゃないか!!胴元はわたし、一口1円からでどうだ」
「萃香に5円!!」
「萃香に10円!!」
「萃香に!」
「萃香に2円!」
「うう~、お、思い切って萃香に5円!!」
こういうことに関してはお祭り好きなこの面子で、乗ってこないのはいなかった。しかし、やはり人間が鬼に勝てるわけがないと思っているのか、賭けるのは萃香ばかりだ。
「おいおい、萃香しか賭ける奴いないのか?これじゃ賭けにならないぜ」
「じゃあ、わたしがあの人間に有り金全部」
そう言い、財布を放り投げたのは、いつの間にか現れた八雲紫であった。
「おお、いつから来た?紫」
「つい今しがたよ。危うく面白いものを見逃すところだったわね」
「ちょ、ちょっと、紫様、本気ですか!?人間が鬼に勝てるわけないじゃないですか!それに、有り金全部って、貴重なお金をどぶに捨てるのと同じことじゃないですか!?」
当然のように猛反発するのは、彼女の式神、藍であった。
「あら、そのときは貴方が汗水流して稼いでくれるんでしょ?」
「はああ~……泣きたい」
「霊夢はどうする、って賭ける金がないのか」
「うるさい!!」
「よし、これで決まりだな!!ニーギが勝てば紫の一人勝ち、萃香が勝てば全額均等に配布するぜ。あ、もちろん妨害工作なんて無粋な真似はやめろよな」
「ふふん、どうする?降参するなら今のうちよ?」
「ごめん被るわ。何もしないうちから逃げる女なんて、センパイにふさわしい女じゃないもの」
「……OK。それじゃ、はじめるわよ。霊夢、合図はよろしく」
「は~、面倒ね」
霊夢は二人に同じ大きさの杯を手渡すと、そこに萃香自慢の瓢箪から、酒をなみなみと注ぎ込んだ。
「……こほん、では、はじめ!!」
霊夢の声が神社にこだました。
萃香が一気に杯を飲み干す。対して、ニーギは味わって飲んでいるらしく、ゆっくりと飲んで酒の味を吟味している。
「く~、美味い!!こんなお酒は初めて飲んだわ!!」
「ちょっと、勝負をする気があるわけ?これが飲み比べということを忘れてない?」
「ああん、せめてもうちょっと味わわせて~」
「まあ、いいわ。わたしはさっさと飲ませてもらうから」
萃香は早くも5杯目に突入している。ニーギはゆっくり飲んでいるのが災いして、まだ2杯目を飲み終えたばかり。ハイスペースで飲み続ける萃香とは明らかに差が開き続ける一方であった。
「おいおい、これは萃香の勝ちかあ?」
「そうみたいね、悪いわね、紫。貴方のお金、有意義に使わせてもらうわよ」
「あら、まだ勝負がついたわけじゃないのに、もう勝ち誇ってるの?」
既に、萃香は10杯目を迎え、ニーギは4杯目に入ったばかりである。誰が見ても勝負は明らかに見えた。しらけたムードがその時……
「っぷは~、ふふ、人間、そろそろあきらめたほうがよくない?普通の人間がわたしに挑戦したことはほめてあげるけど、所詮ただの人間じゃわたしには勝てないわよ」
「ただの人間?ふっ……」
ニーギの口が意味ありげに笑いを浮かべた。
「努力を続けている限り、ただの人間はそうではないのよ」
突然、ニーギのペースが上がる、上がり続ける。5杯、6杯、7杯……それには萃香も驚いたらしく、思わず手を止めてしまう。それは致命的なロス。気がついた時には、ニーギは萃香と並ぶ。おおー……とギャラリーの喚声。
「し、しまった……」
慌てて萃香は杯を口に持っていく。当然、ニーギもそれに負けないように食らいつく。
「よーし、行け、負けるなニーギ、巻き返せ!!」
「萃香、何してるの!?手を抜くんじゃないわよ!!」
「ええい、人間、何をしている、もっとペースを上げろ!!」
いつの間にか両者へのエールの声が飛び交う、白熱の勝負になっている。それに答えるかのように飲み続ける二人。萃香も普段とは違うペースで飲み続けたせいか、いささか酔いが早い。一方、ニーギのほうも顔は真っ赤となって、誰がどう見ても限界が近いことは明白だが、それを努力と根性でねじ伏せているようである。
「負けられない、わたしは鬼よ!鬼の誇りにかけて、負けるもんですか!!」
「もうちょっとだ頑張れわたし、アールハンドゥガンパレード、アールハンドゥガンパレード、とっつげきー!!」
殆ど同時に、杯の酒を飲み干す。巻き起こる喚声。しかし、そろそろ終わりが近づきつつあることは明白であった。めったに酔わない萃香が顔を真っ赤にし、ニーギの根性も折れかけている。手に持つ杯が震えている。
『……っぷはあ!!』
そして、99杯目を同時に飲み終えた二人。100杯目の杯を手に取り、互いの顔を見合わせる。
「ここまでよく頑張ったわね……ふふふふふふふ」
「こっちも、挑まれた勝負に負けられない意地ってものがあるのよ……くすくす」
「でも、お互い限界が近いようね……この一杯にすべてを賭けましょう」
「いいわ、乗ってあげる」
二人は一呼吸置いて、杯を手にし、それを口に持っていく。深呼吸に合わせて、満たされた酒が揺れる。
「いざ!!」
「勝負!!」
同時に。二人は酒を飲み干した!!
動きを止めるふたり。しんと静まり返る神社。
「ど、どっちだ……?」
「しっ、静かに」
微動だにしない二人。見守る観衆。そして……
ぐらりと傾くニーギ。そのまま地に倒れ伏す。
「うー……もーだめだー」
目を回して立ち上がれないニーギ。
「こ、これは萃香の勝ちか!?」
「……ゆ、紫様、どうするんですか!?ああ、明日から白飯だけの生活になってしまう~」
「……ちょっと待って、萃香の様子がおかしいわ」
見ると。萃香のほうも寝息を立てている。どうやら潰れたらしい。
「これはもしかして……」
「引き分け?」
「そうみたいね」
魔理沙が拍手をする。それに釣られ、一人、また一人と拍手。大きな拍手の渦が二人の健闘を祝福した。
「……ん?ちょっと待って。この場合、掛け金のほうはどうなるの?」
「ギックウ!!」
「魔理沙、あんたまさか、さりげなく胴元の総取りにしようと思ってたわね?」
「なななななんのことかな?さっぱりわからないぜ」
といいつつも魔理沙の声は震えてるし、目だって泳ぎっぱなしだ。誰がどう見ても図星を突かれたのはまるわかりである。たちまち詰め寄られ、うろたえる魔理沙。
「魔理沙、お金を返しなさい!!」
「わたしは5円!!」
「わたしは2円よ!!」
「魔理沙、速く紫様の財布を返せ!!」
「とほほ……」
魔理沙の一儲け計画、頓挫。
「おーい、遅くなったわよー。ってあれ、なにしてるの?」
最悪のタイミングでやってきたアリスのことは誰も見向きしていなかったことを加えておく。
「お疲れさん、水はどう?」
「お~、ありがとう~」
ニーギはふらふらになりながら、霊夢の用意した桶の水を引っかぶる。
「わっ、飛沫が飛んだじゃない!!」
「あ、ごめんごめん。でも気持ちいい~」
「そりゃアレだけ飲めば気持ちいでしょうよ」
霊夢はため息をつく。普通に振舞っているが、霊夢もあの勝負に興奮した一人である。ちょっとだけニーギを見る目が変わっていた。
「ほら、あんたも起きなさい。酒の肴用意してあんだから!!」
「む~……」
萃香は不機嫌そうに目をこする。大きなあくびをひとつ。
「う~……不覚だわ。人間相手に酔い潰れるなんて」
「いえーい」
「あー、もう悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!」
「うるさい」
「次は絶対リベンジしてやるんだから!!」
「お~、いつでも来―い」
「よっ、今日のヒーロー、調子はどうだ?」
「うん、ちょっとお酒が残るけど、まだまだいけるよ!!」
「元気な奴だなー、よし、あっちにいい酒があるから、一緒に飲むぞー!!」
「おー!!」
魔理沙とニーギは肩を組み合うと、二人して、違う輪の中に入っていく。そこで、つまみをほおばりながら、魔理沙の吟醸酒を飲んでいる。その様子を目で追っていた霊夢に声が掛かる。
「楽しそう?」
「うわあ、びっくりした!」
紫の声だった。
「面白い子ね、あの子。霊夢の次くらいに」
「そうね、わたしから見てもすごく面白そうな子だもの」
「でも、あの子どこから来たのかしら。幻想郷では見かけない子ね。それにあの帽子、幻想郷では見たこともないものだけど」
「まあ、いいんじゃない?どこから来たか分からなくても、ニーギはニーギでしょ」
「貴方がそういうならそれでいいのかもしれないわね。わたしも宴会の席で何無粋なこと聞いているのかしら」
「おーい、霊夢。わたしに酌しろ~」
「霊夢~、わたしにも~」
「あんたらわたしをなんだと思ってる!?」
言いつつ、手に徳利を持っていく霊夢を見て、紫は笑った。
今日の宴会は乱入者、ニーギで盛り上がった。魔理沙は魔理沙で、ニーギの持っているシャーペンに興味津々になり、ニーギ自身も進んで魔理沙やレミリアたちと身の上話を語ったりもした。酒も入ってるせいか、魔理沙たちはニーギの話についていけなくても、大いに盛り上がれたし、ニーギも彼女たちの武勇伝を面白おかしく聞いていた。
「なあ、ニーギ、わたしとの出会いの記念に一本このシャーペンって奴をもらっていいか?」
「いいよー。どうせ腐るほど持ってるし」
そんなこんなで楽しいひと時を過ごしていた霊夢たち。しかし、そういう時間ほどあっという間に過ぎていくものであり、気がつけば酒に潰れて眠っているもの、もう騒ぎ疲れてぐったりしているものもちらほらと見受けられた。
「……そろそろ今日はお開きだな」
「そうね。あー、今日は楽しかったなー」
「おう、近年まれに見る盛り上がりっぷりだったぜ」
「それってわたしのおかげ?」
「そうだな、今日はありがとな、ニーギ」
「うん、わたしもありがとう。こんな楽しい時間なんてひさしぶりだったから」
「それはありがとうな。じゃ、今日のところはお開きだ。じゃーな」
「ってこらー!いつも言ってるけど、片付けぐらい手伝えー!!」
箒に乗って飛んでいく魔理沙の背中に霊夢が飛びっきり大きな声で怒鳴りつける。魔理沙はそんな霊夢の怒鳴り声をBGMに空へと舞い上がり、あっという間に夜の中に消えていった。
「はあ~、いっつもいっつもあいつら肝心なところを手伝っていかないんだから」
「じゃ、わたしもこれで」
「ちょっと待ちなさい」
逃げようとするニーギの首根っこを引っつかむ霊夢。
「あ、嫌な予感……」
「あんただけは逃がさないわ。さあ、後片付けを手伝いなさい!!」
「ひえ~……」
ニーギは霊夢に無理やり後片付けを手伝わされる羽目になった。とはいっても、霊夢は殆どがニーギにやらせていたのだが。
「ふー、疲れたー……」
「ご苦労様、こっちは大助かりよ」
「そりゃ、キミは何もしてないもんねー……」
「あら、したわよ。貴方への応援」
「ずるいー、差別だー」
「あ、そうだ。あんたの洗濯物が乾いたから、そこに置いといたわよ」
「あ、それはありがとう。でもやっぱりずるいぞー」
「さ、仕事も終わったし、寝ましょう寝ましょう。あんたの分の布団も用意してるけど、どうする?」
「そう、じゃ、お言葉に甘えようかな」
単純極まりない娘である。
明かりを消し、部屋にさす光は月明かりだけ。布団の中にもぐったニーギと霊夢は同じ部屋で眠っていた。
「霊夢、起きてる?」
「うん、何、子守唄がほしいの?」
「ちがーう!」
「冗談じゃない」
「……いい世界ね、ここ」
「そう?結構シビアな世界よ?妖怪はうざいし、お賽銭は入らないし、宴会はうちが会場になっても誰も片付け手伝ってくれないし……」
「それは霊夢の観点から見た場合でしょ」
「そんなに気に入ったのなら住めばいいじゃない」
「うん、でも駄目、ここにはセンパイがいない」
「そう、それじゃそのセンパイとやらが見つかったらまたうちに来ればいいじゃない」
「じゃあ、結婚式の式典やら結納は霊夢がよろしく」
「うわ、面倒くさそう……」
「いいじゃない、いろいろ手伝ってあげたでしょ?」
「はあ、まあいいか。覚えてて、気が向いたらやったげるわ」
「わーい」
「話はそれだけ?今日はもう疲れたからお休みー」
「おやすみー……」
ニーギと霊夢はまぶたを閉じる。静寂の中、二人の意識は心地よい眠りに落ちた。
すずめの騒がしい鳴き声が聞こえた。朝日が部屋に差し込んでまぶしい。霊夢は目をこすって、あくびをする。隣に敷いたニーギの布団を見る。空だった。布団を触る。まだ暖かい。
慌てて外に飛び出す霊夢。鳥居の前でニーギが伸びをしている場面に出くわした。
「ありゃりゃ、こっそり出て行くつもりだったのに」
「もう行くの?」
「うん、早くセンパイを探さなきゃいけないから」
「もう少しゆっくりしてもいいんじゃない?」
「ちょっとだけアドバイス。いい男ってのはどんどん遠くへ行っちゃうわ。だから早く捕まえないと、どんどん遠ざかって見えなくなっちゃうの。霊夢もいい男を見つけることがあったなら、恋の先輩のアドバイスを思い出してね」
「まあ、そのときはそうさせてもらうわ」
「じゃあね、霊夢。楽しいひと時をありがとう」
「またね、ニーギ。暇になったらここに遊びにいらっしゃい」
「うん」
ニーギは後ろを向いて手を振ると、鳥居をくぐって石段を駆け下りていく。霊夢はその後姿を、見えなくなるまで見送っていった。
「……台風みたいな女の子だったわね。さしずめ極楽台風といったあたりかしら」
その姿が見えなくなった後、霊夢はポツリとつぶやいた。
「お~、霊夢、昨日の宴会は楽しかったな」
「だー、くつろぐな、お茶飲むな、掃除の邪魔するな!!」
「掃除さぼってるじゃないか。にしても昨日の奴面白かったよなー。……あれ?」
「どうしたのよ?」
「いや、確かに飛び入り参加の人間がいたことはなんとなく覚えてるんだが、おかしいな、ここまで出かかってるのに、名前も顔も思い出せない」
「なに言ってるのよ、ぼけるのは早いんじゃない。ええと……」
「な、出てこないだろ?」
「うん、おかしいな、魔理沙のボケが移ったのかしら」
「わたしはボケてない!!」
「うーん、まず、わたしが空から落ちてきたその子を拾って……ええと、女の子だったかな?」
「えーと、確かそいつはわたしにこんなものをくれたんだよな」
「……何よそれ?」
「シャーペンというらしい。便利だぜ、物を書くにはちょうどいいし、何より武器になる」
「ふーん」
霊夢はシャーペンを魔理沙の手から借りるとノックを押し続ける。カチカチという、うるさい音を聞きつつも、霊夢はもう名前も顔も思い出せない誰かの思い出を、必死に思い出そうとしていた。
|彡
こういうゆったりしたのもいいかも
最初ガンパレかと思ったが世界がずれてたか
アルファに取り込まれるのはとてもとても腹が立つぜ。
まあそれはそれとして、
クロスならではのアレとかソレとかがもうちょっと欲しかったかなーと思った。
とりあえずこれは作品じゃないと思うので点数は+-なし。
ニーギちゃんがいい子だってのは分かったけど、ニーギちゃんを書きたいがあまりに東方分が薄まっては本末転倒のような気がします。
頑張って。