「……咲夜」
「はい」
「これはどういうことかしらね?」
「見ての通りであると存じますわ」
レミリアは、まるで悪魔の城とも思える光景を目の当たりにして顔をしかめる。
まぁ、実際そうなんだけど。
ポコポコと泡立つ朱色の溶岩。
ゴーッと火を吐くガーゴイル像(レミリア&フランドール仕様)。
額に青筋を浮かばせたレミリアは我慢できずに叫ぶ。
「なんでよりによって紅魔館が第三コースになってるのよーっ!!?」
第三コース レミリア城
「その名前はダサい! せめてスカーレットキャッスルとかにしなさいよ!」
「わたし好みにいくなら最初に「風雲!」とか付いてればそれっぽいんだけど」
「ふむ、それもなかなかに面白そうだね」
「それだけで難題になりそうなお城ね。見事侵入せよってね」
「いい加減にしなさいあんた達!!」
今にもサーヴァントフライヤーでもとばしそうな剣幕でレミリアは怒鳴る。
その後方で、片方はその紅魔館に住んでるコース制作者二人がこんなこと話していた。
「良かったのパチュリー? 紅魔館こんなにしちゃって……」
「いいの。あとでちゃんと元に戻せば」
「そうなの」
やっぱりパチュリーも魔法使いだけあって、悩みなんて無いのかも。
「どーでもいいがさっさと始めようぜ。毎度毎度前置きが長すぎるんだ」
「そうよ、ただでさえレースには関係ないネタばっかりなのに、どうでもいいコントが最初に入ってくるから肝心のレースの描写は半分くらいになってるのよ」
「いやいやイナバ、どうでもいいものなんてこの世に存在しないわ。この世に存在するものには必ず意味はあるのよ」
「姫様、その意味が姫様達を笑わせることだと言ったら怒りますよ?」
「……さ~、レースを始めましょうか~」
「ひ~め~さ~ま~っ!!」
「はいはい、もう分かったからさっさと位置につきなさい、ホラレミリアいつまで怒鳴ってるの」
引き続き司会兼レースクイーンの霊夢に促されて、鈴仙とレミリアは渋々位置に着く。
「それじゃあ第三レース始めるわ」
ぴっぴっぴー!!
今宵もお馴染みのシグナルと共に全員開幕ダッシュを敢行する。
今回のレミリア城は、建物の敷地内なだけに直線的かつ直角的コースになっている。
そのため、最初に先頭に立ったのはやっぱりというかなんというか、一番出足の速い文だった。
「ふふ、この調子で第三レースもいただきです!」
「そうはいかない! ここで負けるわけにはいきません!!」
そのあとに続くのは、なかなか上位に食い込めずに成績が伸び悩む妖夢だった。
妖夢としては、総合優勝を狙うにはここでなんとしてもトップに立たなければいけない。
第二レースでは思わぬ失態から順位を大きく落としてしまっただけに、その勢いには鬼気迫るものがあったりする。
その後ろには残り全員が三位争い集団を作っている。
「あなたの足ではわたしの風には追いつけませんよ?」
「追いつく必要なんて無い。斬ればいい。わたしは風を斬って進むだけ」
「文字通りの抜き身ですね」
「ええ、手加減無しって事よ」
何か凄くいい大世界が構築されちゃってます。
強敵と書いて「とも」って読んじゃうかもしれないです。
しかし、そういう世界をぶっ壊す罠が存在するというのもまたお約束というものであってですね。
レミリアガーゴイルが火を吹く傍を駆け抜けていく二人の上に突如大きな影が出現した。
「え?」
「な!?」
ドッスン!! ドスドス!!
ぴらぴら~……
「…………開けて悔しき玉手箱?」
「霊夢、大・正・解」
「あぁも徹底的にプレスするあたり、芸が細かいね」
「あぁ、やっぱりお約束って素晴らしいわ」
「……何なの、あのあたかも生きているかのようにプレスしまくる墓石は……」
「霊夢、幻想郷には不思議なことがいっぱいあるのだよ」
「あらあら、みんな見事にひっかかってくれているわね」
―現場の音声
「うおっ!?」
「わぁっ!?」
「むきゅっ!?」
「ぎにゃ!」
「ぐわおえぇっ!」
―誰の悲鳴かはご想像にお任せします。
そんな中、ただ一人運良く潰されずにこのエリアを通り抜けることが出来たのは、
「あ、あんなのに潰されてピラピラになったりしたらスカーレット家末代までの恥だわ……」
意外にもレミリア・スカーレット。
「まぁ、でもわたしのお城でのレースでわたしが負けるなんて結果はありえないわね」
その後もひっきりなしに落ちてきたりあまつさえ先回りして落下して来たりさえする墓石を避けながら進んでいく。
コースを順当に進んでいくと、今度はいつもパチュリーがいる図書館だった。
大きく開かれた扉の横に、順路を示す矢印アリ。
しかし、図書館に突入したレミリアの目に飛び込んできたのは、
「なっ、あ……穴……?」
図書館の壁に見事に空いた巨大風穴だった。
しかもご丁寧に穴を通って外に出るように、順路を示す矢印がある。
っていうか、いつから穴は図書館のフェイバリットアイテムになってしまったんだろうか。
「全く……、何が悲しくてあんな穴を通って外に出なきゃいけないのよ……」
そしてレミリアに更に過酷な運命が襲いかかってきた。
パパパパパパパパパパン!!!
「いたたたたたたっ!? な、何よこれは!?」
色とりどりの無数の小さな弾が縦横無尽に飛んできて、レミリアに襲いかかる。
その正体は、……B○弾だった。
くれぐれも人に向けて撃っちゃダメですよ!?
そしてようやく弾の嵐が止まって、
「誰だぁっ!? 今撃ったのは!?」
『は~い、撃ったのは、難題「恐竜のかぶりものをした怪盗」部隊でした~』
『ちなみに、本当は紅魔館での定番イベントにならって煎った豆の予定だったんだけど、あなたが参加することになったから弾を変えたのよ』
スピーカーから響いてくる解説陣の声にレミリアは頭が痛くなった。
そして外に出たレミリアはさらに愕然とすることになった。
「ってオイ!! また花畑にミステリーサークルができてるじゃあないのよ!」
しかも、いつぞやのミステリーサークルよりも更にサイズがデカくて派手だった。
もう我慢ならずレミリアは怒髪天を突くように突っこんだ。
その様がまるでEXアルト○ーゲルみたいに見えたと、後日黒猫は語る。
「あいつら……、どこまで紅魔館をいじくれば気が済むのよ……っ!?」
まぁ、結局の所、笑いの神様はなかなかしぶとかったのだった。
「……パチュリー、本当に良かったの?」
「いいの、仮想空間だから」
「いや、そうじゃなくて……」
アリスが言いたいのは、レミリアがあんなに痛い目見るようなコースでいいのかということなんだけど、やっぱりパチュリーは気にしていない。
「レミィはあの程度ではケガはしないから大丈夫よ。それに、レミィは自分でこの大会に参加したの。何があっても自業自得よ」
「案外シビアなのね、あなた達の関係って……」
アリスはとりあえずパチュリーが気にしていないのでそれ以上の追求は諦めたようだった。
そして、霊夢は霊夢で別のことを聞き始める。
「紫、あのミステリーサークルに何の意味があるの……?」
「背景ね」
「…………あ、そうなの」
「もう、なにか反応を返してくれないとこっちが困るじゃないの」
「割と困ったちゃんはもう喋るな。
二千日通しにしてやろうか……。
あぁそれから順位を出すわよ。
トップ レミリア
二位 文
三位 妖夢
四位 魔理沙
五位 橙
六位 鈴仙
七位 チルノ
ドベ ミスティア
というところね」
二周目に入り、またしても落ちてくる墓石を必死で気合い避けする面々。
でも、落ちてくることは分かっているので、少なくとも一週目のような結果にはならなかった。
でもこんな結果もあったりして
「どーんっ!!」
「えっ、ちょっ!? ふぎゅっ!」
ドッスン!! ドスドス!!
ぴらぴら~……
いきなりチルノに突き飛ばされた鈴仙はバランスを崩して落下点で転んで、本日二度目のぴらぴら。
そして、
「や~い、ひっかかった~。えぎゃいっ!?」
ドッスン!! ドスドス!!
ぴらぴら~……
因果応報とはまさにこのことだろう。
「馬鹿だねぇ、前を見てないから……」
呆れながらミスティアは潰されてる二人を抜き去る。
そして、一週目には拾う余裕の無かったアイテムカードを拾っていく。
「さて、な~んのカードかな~?」
「かんぜんなるすみぞめのさくら」
「ふむふむ、それじゃあ早速使っちゃおう~! 桜よ、願わくば今宵だけは墨染に開花せよ~♪」
どんなかけ声だ。
さすが、紫の教育を受けただけある。
ぽんっ!
って音がしたような気がして、ミスティアの手の中に現れたのは、
「…………、イカだ……」
何故イカ。
イカって言ったら弾幕結界だろ、って突っ込みはナシの方向で。
つか桜はどうした。
「…………(ピンポーン)」
無言のミスティアの頭上で電球が灯りました。
「そっかぁ~、これはボスからの啓示だね」
神の啓示じゃないのか……。
ミスティアは思いっきり高くかまえる。
……イカを。
「墨染開花宣言!」
だからどんなかけ声だ。
次の瞬間、あちこちで、
びちゃっ!
「「「「「「「ぷっ!?」」」」」」」
それはまさしく悪夢。
ミスティア以外の全員が顔をイカ墨で染めて目を白黒させている。
そんな中、夜雀という名の小悪党は、レース中であることも構わず禁断の行為を敢行する。
「では、ミスティア・ローレライ、いざ参ります!」
解き放たれた小悪党はずびゃっと取りだしたポラロイドを片手に、前が見えずにもがく連中めがけてカメラを構える。
ぱしゃっぱしゃっぱしゃっぱしゃっぱしゃっ
「ふふふふ、そうよミスティア、それでいいの。良い子ね~」
「……十六夜咲夜流……」
「まぁまぁ」
白昼堂々犯罪行為に及ぶ部下を微笑まし気に見つめる紫に本気で千日通しの刑を敢行しようとする霊夢を止める霖之助さん。
「顔を真っ黒に染められて右往左往する女の子って素晴らしいとは思わない?」
「いや、全くだ。惜しむらくは少々王道すぎて捻りが足りない気もするが……、まぁそこはご愛敬だろうね」
「あぁ、そうそう、焼き増しの注文はこちらに冊子があるからいくらでも……」
「おい!! 何悪徳商売してるのよ!? ってこらそこ、注文するんじゃあないっ!!」
霊夢が見たのは、どけこら、とか、わたしが先よ、とか、チルノちゃ~ん、とか言ってる面々だった。
具体的に人名を上げるとすればアリスとかパチュリーとか咲夜とか永琳とか幽々子とか文の烏とか他にも
「ああああっ!? 大妖精、あんたまで!? あんただけはまともだと思ってたのに!?」
「だって……、チルノちゃん可愛いんだもん」
ほっぺに手をあてて、いわゆる「いやんいやん」のポーズをする大妖精。
普通こんなポーズしたらウザがられそうだけど、大妖精には妙に似合っていて可愛かった。
「あぁもう! こいつらなんとかしてよぉっ!!」
記憶せよ、幻想郷において司会進行役とは常に苦労人であると。
一方ミスティアは、
「は~、いい仕事しましたぁ~」
最後に撮ったレミリアの写真を収めとっても満足げに汗を拭い、さりげなくトップの座をモノにしていた。
「くそ、一体なんだと言うんだ……」
まさか「恥ずかしい写真」を激写されたとは夢にも思っていない魔理沙は、ようやく顔の墨を拭ってレースに復帰する。
他のメンツもようやくレースを再開するが、よもやミスティアが全員を大きく引き離してトップに立っているなど、誰が想像しようか。
「お、トップ争い集団が見えてきたぜ」
魔理沙の視線の先には、熾烈なデッドヒートを繰り広げるレミリア、文、妖夢の姿が見える。
と、ここで妖夢がはなった「むそーふーいん・しゅう」のホーミング弾が文を狙撃する。
しかし、文は同時に「むそーふーいん・さん」を後方に発生させて凌いだ。
どっかーんっ、という派手な音が辺りに響き渡る。
そして、三周目に入る頃には魔理沙は完全にトップ争い集団(と魔理沙は思っている)に追いついた。
「はっはっは、この霧雨魔理沙様が遂にトップに立つ時が来たのだ!」
「ちょっ、何勝手なこと言ってんのよ! 今度こそわたしが勝つのよ!」
「わたしのV2です!」
「誰にも譲らない! 譲るものか!」
四人はしつこく落ちてくる墓石を気合い避けしつつ、一心不乱に前に進む。
そして、図書館の穴の前には、とっても見慣れた、っていうかできれば見慣れたくないものがあった。
「「「「また看板かよ!!!!」」」」
全員一斉に叫んだ。
その看板の傍らには
「いらっしゃ~い」
「って、ここで何してるんですか幽々子様!」
さっきまで焼き増しの注文をしていたはずの西行寺幽々子がのんびりと立っていた。
「何って、輝夜に「この難題はあなた無しでは成り立たないのよ」って言われたから来たの」
「え?」
難題「激突! 早食い競走(グルメレース)」
「「「「無理」」」」
ハモった。
たった二文字だけど。
「巫山戯るな!! こいつに食い物がらみで勝てる奴なんかいるものか!!」
「今までのどの難題よりも難題らしいですけどね……」
「大丈夫よ~、自慢じゃないけどわたしは足は速くないし」
「いや、そういう問題じゃないです幽々子様」
「ルールは簡単。コースのあっちこっちにある食べ物を食べながらゴールを目指すのよ」
「なんでそんな下品な勝負をしなきゃいけないのよ……」
「幽々子様、そんな勝負二度としてはなりませんよ!?」
さすがに作法に厳しいレミリアや妖夢は苦い顔をする。
幽々子は相変わらずのぽやや~んとした笑顔で説明を続ける。
「それから、食べたものの数が五品以上じゃないとゴールできないのよ」
「「「「…………」」」」
「ちなみに、予備人員としてルーミアちゃんもいるから、この後来る人も安心ね」
「そのルーミアはどこにいるんだよ」
「今はちょっと外してるわ」
「ともかく、さっさと始めましょうよ」
「では、よ~い……ど~んっ」
気が抜けそうな声と共に、5人(?)は走り出す。
ミステリーサークル周辺には、確かにカレーパンとか、クレープとか、ま○ごとバナナとか、ツナマヨおにぎりとか、ロー○ンで売っていそうな食い物が陳列している。
一品目は魔理沙はヨーグルト、レミリアはトマトサンド、妖夢は納豆巻き、文は海藻サラダ、幽々子は……速すぎて何喰ってるのか分かりません、あしからず。
「幽々子はただ食べてるだけだなオイ……」
「っていうか、あきらかに五品を超過してますよね……」
そのあとも、焼きそばとか苺ジャムパンとかネギトロとかナタデココとか、とにかくカロリー多いものばっかりなので、五品目を食べる時には、全員すっかり満腹になっていた。
「うえ……、さすがにちっとばかし腹が重いぞ……」
「咲夜に胃薬用意して貰わないと……」
「霊夢さんだったら、そくざに袖の中にしまっちゃいそうな品揃えでしたね……」
「幽々子様!! もう食べるのは止めてください!!」
妖夢の声も聞こえていないような勢いで喰いまくる幽々子姫。
あぁ、幸せそうな顔……。
まぁ、それはともかくゴールを目指す四人。
レミリアは元来小食のため、食べ過ぎによる腹痛で後ろに付いてしまっている。
文も最後に食べた牛丼が腹にもたれてスピードが出ていない。
集団の先頭に着くのは魔理沙と妖夢だった。
「こ、今度こそ負けねぇ!」
「わ、わたしだって!」
そして、ゴールに来た4人だが、
「あ、お疲れ様~」
「「「「何ぃ~~~っ!?」」」」
第三コース レミリア城
トップ ミスティア +19(+10)
二位 魔理沙(箒の差で二位)+16(+8)
三位 文 +14(+4)
四位 レミリア +12(+3)
五位 妖夢 +11(+6)
六位 鈴仙 +11(+1)
七位 橙 +10(+2)
ドベ チルノ +9(+0)
残り2コース
はんなりと続きます
「はい」
「これはどういうことかしらね?」
「見ての通りであると存じますわ」
レミリアは、まるで悪魔の城とも思える光景を目の当たりにして顔をしかめる。
まぁ、実際そうなんだけど。
ポコポコと泡立つ朱色の溶岩。
ゴーッと火を吐くガーゴイル像(レミリア&フランドール仕様)。
額に青筋を浮かばせたレミリアは我慢できずに叫ぶ。
「なんでよりによって紅魔館が第三コースになってるのよーっ!!?」
第三コース レミリア城
「その名前はダサい! せめてスカーレットキャッスルとかにしなさいよ!」
「わたし好みにいくなら最初に「風雲!」とか付いてればそれっぽいんだけど」
「ふむ、それもなかなかに面白そうだね」
「それだけで難題になりそうなお城ね。見事侵入せよってね」
「いい加減にしなさいあんた達!!」
今にもサーヴァントフライヤーでもとばしそうな剣幕でレミリアは怒鳴る。
その後方で、片方はその紅魔館に住んでるコース制作者二人がこんなこと話していた。
「良かったのパチュリー? 紅魔館こんなにしちゃって……」
「いいの。あとでちゃんと元に戻せば」
「そうなの」
やっぱりパチュリーも魔法使いだけあって、悩みなんて無いのかも。
「どーでもいいがさっさと始めようぜ。毎度毎度前置きが長すぎるんだ」
「そうよ、ただでさえレースには関係ないネタばっかりなのに、どうでもいいコントが最初に入ってくるから肝心のレースの描写は半分くらいになってるのよ」
「いやいやイナバ、どうでもいいものなんてこの世に存在しないわ。この世に存在するものには必ず意味はあるのよ」
「姫様、その意味が姫様達を笑わせることだと言ったら怒りますよ?」
「……さ~、レースを始めましょうか~」
「ひ~め~さ~ま~っ!!」
「はいはい、もう分かったからさっさと位置につきなさい、ホラレミリアいつまで怒鳴ってるの」
引き続き司会兼レースクイーンの霊夢に促されて、鈴仙とレミリアは渋々位置に着く。
「それじゃあ第三レース始めるわ」
ぴっぴっぴー!!
今宵もお馴染みのシグナルと共に全員開幕ダッシュを敢行する。
今回のレミリア城は、建物の敷地内なだけに直線的かつ直角的コースになっている。
そのため、最初に先頭に立ったのはやっぱりというかなんというか、一番出足の速い文だった。
「ふふ、この調子で第三レースもいただきです!」
「そうはいかない! ここで負けるわけにはいきません!!」
そのあとに続くのは、なかなか上位に食い込めずに成績が伸び悩む妖夢だった。
妖夢としては、総合優勝を狙うにはここでなんとしてもトップに立たなければいけない。
第二レースでは思わぬ失態から順位を大きく落としてしまっただけに、その勢いには鬼気迫るものがあったりする。
その後ろには残り全員が三位争い集団を作っている。
「あなたの足ではわたしの風には追いつけませんよ?」
「追いつく必要なんて無い。斬ればいい。わたしは風を斬って進むだけ」
「文字通りの抜き身ですね」
「ええ、手加減無しって事よ」
何か凄くいい大世界が構築されちゃってます。
強敵と書いて「とも」って読んじゃうかもしれないです。
しかし、そういう世界をぶっ壊す罠が存在するというのもまたお約束というものであってですね。
レミリアガーゴイルが火を吹く傍を駆け抜けていく二人の上に突如大きな影が出現した。
「え?」
「な!?」
ドッスン!! ドスドス!!
ぴらぴら~……
「…………開けて悔しき玉手箱?」
「霊夢、大・正・解」
「あぁも徹底的にプレスするあたり、芸が細かいね」
「あぁ、やっぱりお約束って素晴らしいわ」
「……何なの、あのあたかも生きているかのようにプレスしまくる墓石は……」
「霊夢、幻想郷には不思議なことがいっぱいあるのだよ」
「あらあら、みんな見事にひっかかってくれているわね」
―現場の音声
「うおっ!?」
「わぁっ!?」
「むきゅっ!?」
「ぎにゃ!」
「ぐわおえぇっ!」
―誰の悲鳴かはご想像にお任せします。
そんな中、ただ一人運良く潰されずにこのエリアを通り抜けることが出来たのは、
「あ、あんなのに潰されてピラピラになったりしたらスカーレット家末代までの恥だわ……」
意外にもレミリア・スカーレット。
「まぁ、でもわたしのお城でのレースでわたしが負けるなんて結果はありえないわね」
その後もひっきりなしに落ちてきたりあまつさえ先回りして落下して来たりさえする墓石を避けながら進んでいく。
コースを順当に進んでいくと、今度はいつもパチュリーがいる図書館だった。
大きく開かれた扉の横に、順路を示す矢印アリ。
しかし、図書館に突入したレミリアの目に飛び込んできたのは、
「なっ、あ……穴……?」
図書館の壁に見事に空いた巨大風穴だった。
しかもご丁寧に穴を通って外に出るように、順路を示す矢印がある。
っていうか、いつから穴は図書館のフェイバリットアイテムになってしまったんだろうか。
「全く……、何が悲しくてあんな穴を通って外に出なきゃいけないのよ……」
そしてレミリアに更に過酷な運命が襲いかかってきた。
パパパパパパパパパパン!!!
「いたたたたたたっ!? な、何よこれは!?」
色とりどりの無数の小さな弾が縦横無尽に飛んできて、レミリアに襲いかかる。
その正体は、……B○弾だった。
くれぐれも人に向けて撃っちゃダメですよ!?
そしてようやく弾の嵐が止まって、
「誰だぁっ!? 今撃ったのは!?」
『は~い、撃ったのは、難題「恐竜のかぶりものをした怪盗」部隊でした~』
『ちなみに、本当は紅魔館での定番イベントにならって煎った豆の予定だったんだけど、あなたが参加することになったから弾を変えたのよ』
スピーカーから響いてくる解説陣の声にレミリアは頭が痛くなった。
そして外に出たレミリアはさらに愕然とすることになった。
「ってオイ!! また花畑にミステリーサークルができてるじゃあないのよ!」
しかも、いつぞやのミステリーサークルよりも更にサイズがデカくて派手だった。
もう我慢ならずレミリアは怒髪天を突くように突っこんだ。
その様がまるでEXアルト○ーゲルみたいに見えたと、後日黒猫は語る。
「あいつら……、どこまで紅魔館をいじくれば気が済むのよ……っ!?」
まぁ、結局の所、笑いの神様はなかなかしぶとかったのだった。
「……パチュリー、本当に良かったの?」
「いいの、仮想空間だから」
「いや、そうじゃなくて……」
アリスが言いたいのは、レミリアがあんなに痛い目見るようなコースでいいのかということなんだけど、やっぱりパチュリーは気にしていない。
「レミィはあの程度ではケガはしないから大丈夫よ。それに、レミィは自分でこの大会に参加したの。何があっても自業自得よ」
「案外シビアなのね、あなた達の関係って……」
アリスはとりあえずパチュリーが気にしていないのでそれ以上の追求は諦めたようだった。
そして、霊夢は霊夢で別のことを聞き始める。
「紫、あのミステリーサークルに何の意味があるの……?」
「背景ね」
「…………あ、そうなの」
「もう、なにか反応を返してくれないとこっちが困るじゃないの」
「割と困ったちゃんはもう喋るな。
二千日通しにしてやろうか……。
あぁそれから順位を出すわよ。
トップ レミリア
二位 文
三位 妖夢
四位 魔理沙
五位 橙
六位 鈴仙
七位 チルノ
ドベ ミスティア
というところね」
二周目に入り、またしても落ちてくる墓石を必死で気合い避けする面々。
でも、落ちてくることは分かっているので、少なくとも一週目のような結果にはならなかった。
でもこんな結果もあったりして
「どーんっ!!」
「えっ、ちょっ!? ふぎゅっ!」
ドッスン!! ドスドス!!
ぴらぴら~……
いきなりチルノに突き飛ばされた鈴仙はバランスを崩して落下点で転んで、本日二度目のぴらぴら。
そして、
「や~い、ひっかかった~。えぎゃいっ!?」
ドッスン!! ドスドス!!
ぴらぴら~……
因果応報とはまさにこのことだろう。
「馬鹿だねぇ、前を見てないから……」
呆れながらミスティアは潰されてる二人を抜き去る。
そして、一週目には拾う余裕の無かったアイテムカードを拾っていく。
「さて、な~んのカードかな~?」
「かんぜんなるすみぞめのさくら」
「ふむふむ、それじゃあ早速使っちゃおう~! 桜よ、願わくば今宵だけは墨染に開花せよ~♪」
どんなかけ声だ。
さすが、紫の教育を受けただけある。
ぽんっ!
って音がしたような気がして、ミスティアの手の中に現れたのは、
「…………、イカだ……」
何故イカ。
イカって言ったら弾幕結界だろ、って突っ込みはナシの方向で。
つか桜はどうした。
「…………(ピンポーン)」
無言のミスティアの頭上で電球が灯りました。
「そっかぁ~、これはボスからの啓示だね」
神の啓示じゃないのか……。
ミスティアは思いっきり高くかまえる。
……イカを。
「墨染開花宣言!」
だからどんなかけ声だ。
次の瞬間、あちこちで、
びちゃっ!
「「「「「「「ぷっ!?」」」」」」」
それはまさしく悪夢。
ミスティア以外の全員が顔をイカ墨で染めて目を白黒させている。
そんな中、夜雀という名の小悪党は、レース中であることも構わず禁断の行為を敢行する。
「では、ミスティア・ローレライ、いざ参ります!」
解き放たれた小悪党はずびゃっと取りだしたポラロイドを片手に、前が見えずにもがく連中めがけてカメラを構える。
ぱしゃっぱしゃっぱしゃっぱしゃっぱしゃっ
「ふふふふ、そうよミスティア、それでいいの。良い子ね~」
「……十六夜咲夜流……」
「まぁまぁ」
白昼堂々犯罪行為に及ぶ部下を微笑まし気に見つめる紫に本気で千日通しの刑を敢行しようとする霊夢を止める霖之助さん。
「顔を真っ黒に染められて右往左往する女の子って素晴らしいとは思わない?」
「いや、全くだ。惜しむらくは少々王道すぎて捻りが足りない気もするが……、まぁそこはご愛敬だろうね」
「あぁ、そうそう、焼き増しの注文はこちらに冊子があるからいくらでも……」
「おい!! 何悪徳商売してるのよ!? ってこらそこ、注文するんじゃあないっ!!」
霊夢が見たのは、どけこら、とか、わたしが先よ、とか、チルノちゃ~ん、とか言ってる面々だった。
具体的に人名を上げるとすればアリスとかパチュリーとか咲夜とか永琳とか幽々子とか文の烏とか他にも
「ああああっ!? 大妖精、あんたまで!? あんただけはまともだと思ってたのに!?」
「だって……、チルノちゃん可愛いんだもん」
ほっぺに手をあてて、いわゆる「いやんいやん」のポーズをする大妖精。
普通こんなポーズしたらウザがられそうだけど、大妖精には妙に似合っていて可愛かった。
「あぁもう! こいつらなんとかしてよぉっ!!」
記憶せよ、幻想郷において司会進行役とは常に苦労人であると。
一方ミスティアは、
「は~、いい仕事しましたぁ~」
最後に撮ったレミリアの写真を収めとっても満足げに汗を拭い、さりげなくトップの座をモノにしていた。
「くそ、一体なんだと言うんだ……」
まさか「恥ずかしい写真」を激写されたとは夢にも思っていない魔理沙は、ようやく顔の墨を拭ってレースに復帰する。
他のメンツもようやくレースを再開するが、よもやミスティアが全員を大きく引き離してトップに立っているなど、誰が想像しようか。
「お、トップ争い集団が見えてきたぜ」
魔理沙の視線の先には、熾烈なデッドヒートを繰り広げるレミリア、文、妖夢の姿が見える。
と、ここで妖夢がはなった「むそーふーいん・しゅう」のホーミング弾が文を狙撃する。
しかし、文は同時に「むそーふーいん・さん」を後方に発生させて凌いだ。
どっかーんっ、という派手な音が辺りに響き渡る。
そして、三周目に入る頃には魔理沙は完全にトップ争い集団(と魔理沙は思っている)に追いついた。
「はっはっは、この霧雨魔理沙様が遂にトップに立つ時が来たのだ!」
「ちょっ、何勝手なこと言ってんのよ! 今度こそわたしが勝つのよ!」
「わたしのV2です!」
「誰にも譲らない! 譲るものか!」
四人はしつこく落ちてくる墓石を気合い避けしつつ、一心不乱に前に進む。
そして、図書館の穴の前には、とっても見慣れた、っていうかできれば見慣れたくないものがあった。
「「「「また看板かよ!!!!」」」」
全員一斉に叫んだ。
その看板の傍らには
「いらっしゃ~い」
「って、ここで何してるんですか幽々子様!」
さっきまで焼き増しの注文をしていたはずの西行寺幽々子がのんびりと立っていた。
「何って、輝夜に「この難題はあなた無しでは成り立たないのよ」って言われたから来たの」
「え?」
難題「激突! 早食い競走(グルメレース)」
「「「「無理」」」」
ハモった。
たった二文字だけど。
「巫山戯るな!! こいつに食い物がらみで勝てる奴なんかいるものか!!」
「今までのどの難題よりも難題らしいですけどね……」
「大丈夫よ~、自慢じゃないけどわたしは足は速くないし」
「いや、そういう問題じゃないです幽々子様」
「ルールは簡単。コースのあっちこっちにある食べ物を食べながらゴールを目指すのよ」
「なんでそんな下品な勝負をしなきゃいけないのよ……」
「幽々子様、そんな勝負二度としてはなりませんよ!?」
さすがに作法に厳しいレミリアや妖夢は苦い顔をする。
幽々子は相変わらずのぽやや~んとした笑顔で説明を続ける。
「それから、食べたものの数が五品以上じゃないとゴールできないのよ」
「「「「…………」」」」
「ちなみに、予備人員としてルーミアちゃんもいるから、この後来る人も安心ね」
「そのルーミアはどこにいるんだよ」
「今はちょっと外してるわ」
「ともかく、さっさと始めましょうよ」
「では、よ~い……ど~んっ」
気が抜けそうな声と共に、5人(?)は走り出す。
ミステリーサークル周辺には、確かにカレーパンとか、クレープとか、ま○ごとバナナとか、ツナマヨおにぎりとか、ロー○ンで売っていそうな食い物が陳列している。
一品目は魔理沙はヨーグルト、レミリアはトマトサンド、妖夢は納豆巻き、文は海藻サラダ、幽々子は……速すぎて何喰ってるのか分かりません、あしからず。
「幽々子はただ食べてるだけだなオイ……」
「っていうか、あきらかに五品を超過してますよね……」
そのあとも、焼きそばとか苺ジャムパンとかネギトロとかナタデココとか、とにかくカロリー多いものばっかりなので、五品目を食べる時には、全員すっかり満腹になっていた。
「うえ……、さすがにちっとばかし腹が重いぞ……」
「咲夜に胃薬用意して貰わないと……」
「霊夢さんだったら、そくざに袖の中にしまっちゃいそうな品揃えでしたね……」
「幽々子様!! もう食べるのは止めてください!!」
妖夢の声も聞こえていないような勢いで喰いまくる幽々子姫。
あぁ、幸せそうな顔……。
まぁ、それはともかくゴールを目指す四人。
レミリアは元来小食のため、食べ過ぎによる腹痛で後ろに付いてしまっている。
文も最後に食べた牛丼が腹にもたれてスピードが出ていない。
集団の先頭に着くのは魔理沙と妖夢だった。
「こ、今度こそ負けねぇ!」
「わ、わたしだって!」
そして、ゴールに来た4人だが、
「あ、お疲れ様~」
「「「「何ぃ~~~っ!?」」」」
第三コース レミリア城
トップ ミスティア +19(+10)
二位 魔理沙(箒の差で二位)+16(+8)
三位 文 +14(+4)
四位 レミリア +12(+3)
五位 妖夢 +11(+6)
六位 鈴仙 +11(+1)
七位 橙 +10(+2)
ドベ チルノ +9(+0)
残り2コース
はんなりと続きます
さてと、魔理沙の写真の焼き増し頼んでk(ファイナルマスタースパーク
あぁそうだとも、お約束とはなんと素晴らしきものか・・・
だが、お約束とはもう一種類あることを忘れる事なかれ加害者諸君!
なるほど墨染め・・・深いね~
ミスティアも判っていらっしゃるね~