注意、この物語は、同じ作品集にある私の前作『ごろごろを止める手立てなし』の外伝にあたり、『ごろごろを止める手立てなし』を読んでいないとさっぱり意味がわからないかと思います。
それをご了解下さった方は、この先にお進み下さい。
ごろごろによる被害は博麗神社だけではなかった。ごろごろに押し潰された様々な悲喜劇、これは、森の無名戦士達が巨大なごろごろに立ち向かった、愛と勇気と豪胆の物語である(いくらか嘘)。
「みんな大丈夫?」
「チュンチュン!チュン!!」
木の上にある雀の巣、そこを覗き込み尋ねる少女に子雀達は元気そうに答えた。
ここは幻想郷のとある森の中、木の枝に座り、雀たちの巣を覗き込んでいるのは夜雀のミスティア・ローレライであった。
無力な小鳥達にとって、大きな(小鳥達からすれば)力を持つ彼女は、森の小鳥達の頼れる『お姉さん』であり、その気さくな性格から皆に慕われていた。
「あははっ、元気みたいだね!よかった~最近紅白の巫女が小鳥を捕まえて回ってるって話を聞いてたから不安だったの」
「チュン…」
ミスティアの言葉を聞き、不安そうに身を縮める子雀達。ここ数ヶ月、近くの森には紅白の巫女が出没し、何やら「焼き鳥~鳥鍋~」とか言いながら小鳥を捕まえてまわっているという話が彼女達の元へと届いていた。
幸いにしてまだこの森には来ていないのだが、出没地点が徐々に近づいているとの話で、ミスティアはまだ巣立つことのできない子雀達を心配していたのだ。
「焼き鳥にするんだって、野蛮だよね」
「チュンチュン!」
ミスティアの言葉に子雀達は強く反応する、どうやら意思の伝達はできているようである。
「『文々。新聞』に『焼き鳥反対!いたいけな小鳥達を食べる野蛮な行為をやめさせよう!!』って意見広告を出してるんだけど反応が薄いのよね、やっぱりあんな弱小新聞じゃだめなのかな…」
「チュン…」
沈む夜雀&子雀達、しかし、巫女が『文々。新聞』を読む可能性は低く、しかもその記事を見たところで小鳥捕獲をやめる可能性はさらに低かった。
彼女にしても、生死がかかっているのだから『はいそうですか』とやめるわけにはいかないのだ。なんといっても、現在彼女の食料はもっぱら狩猟採集に頼らざるを得ない状況に陥っていたのだから…
もちろん、そんな事情はミスティア達の知るとところではなかったし、一部の鳥が好んで集めている金属の小さな円盤を賽銭箱に入れることで、一挙に事態が好転するのだという事も知る由はなかった。
少女と子雀おしゃべり中…
「うん、ひとまずみんなはちゃんと静かにしてるんだよ、そうすればきっと見つからないわ」
「チュン!」
さて、しばしの間子雀との雑談を楽しんだミスティアは、最後に子雀達に注意を促して立ち上がった。
「じゃねっ!」
「チュン!」
ミスティアは、子雀達に別れを告げると、上昇して森の上空へ消えていった。
子雀達との、ほんわかとして楽しい会話…微妙にダークな話題も混じっていたが…を楽しんだミスティア、彼女は木々の上に出ると、我が家へと針路をとった。
「あはは、随分話し込んじゃったな~。早く今夜の晩ご飯でも探して…」
しかし、そんなほんわかした気分で高度をとったミスティアの目にとびこんできたのは、自分達の住む森に向け急速接近中のごろごろであった。
ごろごろは森へと徐々にその巨体を近づけつつあり、その巨大な姿は、森をまさに押し潰さんとしているかのようだった。
目の前に広がるあまりに信じがたい光景に、ミスティアは何度か目をこすり、頬をつねった後言った。
「なっ!何よあれ~!!」
そんなことを言っても答えてくれる者などどこにもいない、そもそも知る者などいないだろう…
あんな物が森に突入してきたら…ミスティアは自分の想像に慄然とした。森の木々はひとたまりもなく押し潰され、自分たちは瞬時にして住処を失うだろう…
「いけないっ!止めなきゃ!!」
小鳥達の保護者を自認するミスティアは、使命感に駆られて全速力でごろごろの前面に向かう。
「おっきい…」
ミスティアは呆然として呟いた。
ごろごろは近くで見ると本当に凄まじい大きさであった。小山ほど…いや、高さを見ればその程度では済まない、そんなものが森へと迫ってくる…
「でも…止める!」
だが、ミスティアはすぐに自分を取り戻した。森に住む沢山の小鳥たち、そしてさっき話したばかりの子雀達の顔を思い浮かべたミスティアは、決死の覚悟でごろごろに立ちふさがり、敢然と言った。
「そこのごろごろっ!止まって~」
とはいえいまいち迫力に欠けるミスティアの制止、しかしごろごろは聞く耳を持たない(そもそも耳なんてない)。
「ちょ、ちょっと待って~!」
彼女は続いて哀訴するが、巨大陰明玉は全く意に介することなく前進を続ける。そもそも言葉が通じないのだから頼んでもどうしようもないのだが…
「止まらないと…どうしよう?」
しかし、そういったことに気が回らないミスティアは空中でおろおろするするばかりになる、だが彼女に悩んでいる暇はなかった。
やがて覚悟を決めたミスティアは攻撃を開始した。
「私がやらなきゃ!真夜中のコーラスマスター!!」
ミスティア渾身の弾幕攻撃、だが…
「効いてない!?」
そう、ミスティアの弾幕はごろごろに届くやいなやかき消された。まるでごろごろの周囲に結界が張っているかのように…
小鳥達とは比較にならない力を持つミスティアだが、その力は直接的な攻撃力と言うよりも『人間を鳥目にする』といった変則的な部分が大きい。
その決して高くない火力では、ごろごろを破壊する事はおろか、その足止めをすることすら叶わなかった。
「そんなー」
持ちうるほとんどの力をもって放ったラストスペルが全く通用せずに精神的に大きな衝撃を受け、そして、同時に全力を使った後の疲労感も重なりミスティアは呆然とする。
しかし、世の中精神力だけではどうにもならない事はいくらでもあるのである。
「う…なんとかみんなだけでも逃がさないと…」
だが、きりかえの速いミスティアはすぐに森に反転した。
ごろごろを止められないのなら、どうにかして小鳥たちだけでもその進路上から待避させるのだ。
「みんなー!急いで逃げて!!性悪なごろごろが接近中なの!このまま森にいると潰されるよっ!!」
ミスティアは森の中を飛び回り、小鳥たちに避難を促した。
「チュンチュン」
「ピーピー」
小鳥たちは信頼するミスティアの声を聞くとすぐに脱出を開始する。森中に小鳥達の羽音が響き渡り、空は鳥の姿で覆われた。
ミスティアの言葉がすんなり受け入れられたのは、彼女が普段から皆に信頼されている証であった。
「よーし、みんな急い…きゃっ!?」
木立の中を飛び回るミスティアは、幾度となく木の枝にぶつかり、次々とその傷を増やしていく。だが、彼女はそんなことなどに構っていられなかった。
「枝…こんな傷気にしていられるもんかっ」
彼女は、体中をぼろぼろにしながらも飛び続けた。森を飛び、小鳥達を助ける。あとは全て下らぬ事なのだ…
「みんな~危ないから逃げて~!!」
「ピーピー!」
「えっ!?」
そんなミスティアを呼び止めたのは、とある小鳥のつがいであった。
「ピー…」
「あっ!」
ミスティアに哀訴する小鳥に、彼女は重大なことに気付く。
そう、まだ巣立ちを迎えていない雛鳥達はまだ飛び立てない…
「うん、わかった。任せて!あなた達の子どもは私が守るからっ!」
いつもほんわかとして子どもっぽいミスティアであるが、今の彼女は立派な大人の風格を漂わせていた。
「ピヨピヨ!」
「あっ、待っててね、今助けるよ」
恐怖に駆られ、泣き叫ぶ雛鳥をあやしながら、そっと巣を持ち上げ飛び立つミスティア、危機が迫っている所から順々に…持てるだけの巣を持ち、かつ落とさないように安全な区域に運ぶ。
もちろんごろごろが進路を変えたときに備えて、余裕を持って避難させていた。
少女奮闘中…
「はぁ、これで全員?」
へろへろになりながらも巣の輸送を終えたミスティアが言った。だが…
「チュンチュン!」
「えっ!?」
ミスティアを呼び止めたのは雀のつがい…ごろごろ発見の直前に話した子雀達の親鳥である。
まだ子雀達の避難が終わっていないという…
「え、まだ?だって声が…まさか!?」
もう助けを求める声は聞こえなかったはず…そう言いかけたミスティアの脳裏に、ちょっと前の問答が蘇る。
「うん、ひとまずみんなはちゃんと静かにしてるんだよ、そうすればきっと見つからないわ」
「チュン!」
「あ…私の言ったことを守って…いけない!」
そう、子雀達に言った言葉…紅白の巫女をはじめとする外敵から身を守るすべを教えたのだったが、それが今回仇となっていた。
ミスティアを信じる子雀達は、助けを求めず巣の中に閉じこもっていたのだ。声のする所ばかり注目していた彼女は、あの子雀達の存在を失念していた。
子雀達の巣の辺りは、まもなくごろごろに押し潰される。果たして間に合うだろうか…?
「間に合わせる!」
ミスティアは超低空で子雀の巣に向かう。
彼女の顔を、羽根を、容赦なく木々が打ちつける。
「う~!あきらめるもんかっ!!」
だがミスティアはめげない、さらに加速して子雀達の巣を目指した。痛みはとっくに感じなくなっていた。
「待っててみんな!今行くから!!」
ミスティアは、持ちうるすべての力で羽ばたき、巣を目指した。
子雀達の巣
ごろごろごろ
ごろごろは木々を圧し潰し、通過した跡を荒地に変えながら巣に迫ってきていた。もはや子雀達の視界は、巨大なごろごろに占められつつあった。
「チュン…」
それでも子雀達は不安そうに小さな声を上げるだけである、信頼するミスティアの言った事…ならば絶対に間違いはないのだ。そう、絶対に…
もはや巣の十数メートル先までごろごろが迫ったとき、彼女は現れた。
「みんなっ!大丈夫!?」
「チュンチュン!」
傷だらけになりながらも現れたミスティアに子雀達が歓喜の声を上げた。
「待ってて!私が助けてあげる!!」
彼女はそっと、だが急いで巣を持ち上げる…木々を押し潰す不気味な音はすぐ側まで迫っていた。
「チュン!」
子雀達が不安を訴える。
「やっ!」
ミスティアが巣を持ち上げ舞い上がるのと、巣のあった木が倒れたのはほとんど同時であった。直後、木のあった所はごろごろに押し潰される。
「間に合った…やった~!!」
「チュンチュン!!」
間一髪で空へと舞い上がり喜ぶミスティアと子雀だったが、しかし危機はまだ去っていなかった。
「え…」
強力な力を感じたミスティア…
遥か彼方の空中に幾人かの人影がある、ごろごろに攻撃を…?
「逃げなきゃ!」
方向的に、明らかにミスティア達は人影とごろごろを結ぶ直線上にあった。
慌てて逃げようとするミスティア、だが…
「あっう…!」
「チュン!」
森の木々で散々に痛めつけられた彼女の羽根は、辛うじて飛ぶのが精一杯であった。それをさらに増速しようとした結果、羽根に激痛がはしる。
「あぐっ…」
もはや彼女は自分を浮かせる揚力さえ発生させれなくなっていた。だが、遥か彼方の空中では光が集まりつつある、もはや射線から逃れるのは不可能だろう。
あれは…魔理沙とかいう奴のマスタースパーク?あんなのを喰らったら私も子雀も…
ミスティアの一瞬の思考、彼女のとりうる行動は一つだった。
「みんなごめんっ!」
「チュン!?」
残った全ての力で、ミスティアは巣を遠くへと放り投げた。マスタースパークの射線から逃れ得るように…
「チュンー!!」
子雀達がミスティアを呼ぶ声がした。
「あはは、ごめんね乱暴にして…それともう一つごめんね、もうみんなと遊べないよ…みんな、元気でね」
「チュンチュン!!」
力を使い果たし落ちてゆくミスティアだったが、その顔は満足げだった。なぜなら一番の目的は達成できたのだ、子雀達は親雀達に拾われるはず…だから…だから後悔はしない。
ミスティアの意識が薄れゆく中、彼方から強力な光線が放たれた…
しかし、光線より先にミスティアにたどり着いた者達がいた。
「チュン!」
「ピー!!」
「えっ!?」
皆でミスティアを持ち上げ、全速で離脱するのは…森の小鳥たちだった。
直後、大音響と共に、猛烈な爆風がミスティア達を襲う。
「ピー!」
「チュン!チュン!!」
「きゃっ!?」
ミスティアと小鳥達はちりぢりになって落下していく、ミスティアの意識は再び遠くなった。
「チュンチュン!」
「ん…え」
ミスティアが意識を取り戻したとき、目の前に居たのはミスティアが助けた子雀達だった。
「あ、みんな大丈…うっ!」
激痛に顔をしかめるミスティア。
「チュン…」
だが、心配そうに見つめる子雀達の前で、いつまでもそんな顔をしてはいられなかった。
「私は大丈夫、他のみんなは?」
彼女は無理矢理笑顔を作り、自分を助けた小鳥達の安否を尋ねた。
「チュン!」
「ピーピー」
「そっか、よかった…」
負傷者多数あるも死者はなし、それが答え。
「~♪~♪」
ミスティアは歌い出した。
「~♪~♪」
それに小鳥達も唱和する。
森の中に楽しげな歌が響き渡った。ごろごろとマスタースパークで森は大損害を受けたが、それでも彼女達の歌声は明るかった。
自分たちは生きている、住処がなくなっても生きている。
そして、この森はいつの日か必ず再生するのだ。
ミスティア達の歌声は、暗くなってもなお、響き渡っていた。
『おしまい』
それをご了解下さった方は、この先にお進み下さい。
ごろごろによる被害は博麗神社だけではなかった。ごろごろに押し潰された様々な悲喜劇、これは、森の無名戦士達が巨大なごろごろに立ち向かった、愛と勇気と豪胆の物語である(いくらか嘘)。
「みんな大丈夫?」
「チュンチュン!チュン!!」
木の上にある雀の巣、そこを覗き込み尋ねる少女に子雀達は元気そうに答えた。
ここは幻想郷のとある森の中、木の枝に座り、雀たちの巣を覗き込んでいるのは夜雀のミスティア・ローレライであった。
無力な小鳥達にとって、大きな(小鳥達からすれば)力を持つ彼女は、森の小鳥達の頼れる『お姉さん』であり、その気さくな性格から皆に慕われていた。
「あははっ、元気みたいだね!よかった~最近紅白の巫女が小鳥を捕まえて回ってるって話を聞いてたから不安だったの」
「チュン…」
ミスティアの言葉を聞き、不安そうに身を縮める子雀達。ここ数ヶ月、近くの森には紅白の巫女が出没し、何やら「焼き鳥~鳥鍋~」とか言いながら小鳥を捕まえてまわっているという話が彼女達の元へと届いていた。
幸いにしてまだこの森には来ていないのだが、出没地点が徐々に近づいているとの話で、ミスティアはまだ巣立つことのできない子雀達を心配していたのだ。
「焼き鳥にするんだって、野蛮だよね」
「チュンチュン!」
ミスティアの言葉に子雀達は強く反応する、どうやら意思の伝達はできているようである。
「『文々。新聞』に『焼き鳥反対!いたいけな小鳥達を食べる野蛮な行為をやめさせよう!!』って意見広告を出してるんだけど反応が薄いのよね、やっぱりあんな弱小新聞じゃだめなのかな…」
「チュン…」
沈む夜雀&子雀達、しかし、巫女が『文々。新聞』を読む可能性は低く、しかもその記事を見たところで小鳥捕獲をやめる可能性はさらに低かった。
彼女にしても、生死がかかっているのだから『はいそうですか』とやめるわけにはいかないのだ。なんといっても、現在彼女の食料はもっぱら狩猟採集に頼らざるを得ない状況に陥っていたのだから…
もちろん、そんな事情はミスティア達の知るとところではなかったし、一部の鳥が好んで集めている金属の小さな円盤を賽銭箱に入れることで、一挙に事態が好転するのだという事も知る由はなかった。
少女と子雀おしゃべり中…
「うん、ひとまずみんなはちゃんと静かにしてるんだよ、そうすればきっと見つからないわ」
「チュン!」
さて、しばしの間子雀との雑談を楽しんだミスティアは、最後に子雀達に注意を促して立ち上がった。
「じゃねっ!」
「チュン!」
ミスティアは、子雀達に別れを告げると、上昇して森の上空へ消えていった。
子雀達との、ほんわかとして楽しい会話…微妙にダークな話題も混じっていたが…を楽しんだミスティア、彼女は木々の上に出ると、我が家へと針路をとった。
「あはは、随分話し込んじゃったな~。早く今夜の晩ご飯でも探して…」
しかし、そんなほんわかした気分で高度をとったミスティアの目にとびこんできたのは、自分達の住む森に向け急速接近中のごろごろであった。
ごろごろは森へと徐々にその巨体を近づけつつあり、その巨大な姿は、森をまさに押し潰さんとしているかのようだった。
目の前に広がるあまりに信じがたい光景に、ミスティアは何度か目をこすり、頬をつねった後言った。
「なっ!何よあれ~!!」
そんなことを言っても答えてくれる者などどこにもいない、そもそも知る者などいないだろう…
あんな物が森に突入してきたら…ミスティアは自分の想像に慄然とした。森の木々はひとたまりもなく押し潰され、自分たちは瞬時にして住処を失うだろう…
「いけないっ!止めなきゃ!!」
小鳥達の保護者を自認するミスティアは、使命感に駆られて全速力でごろごろの前面に向かう。
「おっきい…」
ミスティアは呆然として呟いた。
ごろごろは近くで見ると本当に凄まじい大きさであった。小山ほど…いや、高さを見ればその程度では済まない、そんなものが森へと迫ってくる…
「でも…止める!」
だが、ミスティアはすぐに自分を取り戻した。森に住む沢山の小鳥たち、そしてさっき話したばかりの子雀達の顔を思い浮かべたミスティアは、決死の覚悟でごろごろに立ちふさがり、敢然と言った。
「そこのごろごろっ!止まって~」
とはいえいまいち迫力に欠けるミスティアの制止、しかしごろごろは聞く耳を持たない(そもそも耳なんてない)。
「ちょ、ちょっと待って~!」
彼女は続いて哀訴するが、巨大陰明玉は全く意に介することなく前進を続ける。そもそも言葉が通じないのだから頼んでもどうしようもないのだが…
「止まらないと…どうしよう?」
しかし、そういったことに気が回らないミスティアは空中でおろおろするするばかりになる、だが彼女に悩んでいる暇はなかった。
やがて覚悟を決めたミスティアは攻撃を開始した。
「私がやらなきゃ!真夜中のコーラスマスター!!」
ミスティア渾身の弾幕攻撃、だが…
「効いてない!?」
そう、ミスティアの弾幕はごろごろに届くやいなやかき消された。まるでごろごろの周囲に結界が張っているかのように…
小鳥達とは比較にならない力を持つミスティアだが、その力は直接的な攻撃力と言うよりも『人間を鳥目にする』といった変則的な部分が大きい。
その決して高くない火力では、ごろごろを破壊する事はおろか、その足止めをすることすら叶わなかった。
「そんなー」
持ちうるほとんどの力をもって放ったラストスペルが全く通用せずに精神的に大きな衝撃を受け、そして、同時に全力を使った後の疲労感も重なりミスティアは呆然とする。
しかし、世の中精神力だけではどうにもならない事はいくらでもあるのである。
「う…なんとかみんなだけでも逃がさないと…」
だが、きりかえの速いミスティアはすぐに森に反転した。
ごろごろを止められないのなら、どうにかして小鳥たちだけでもその進路上から待避させるのだ。
「みんなー!急いで逃げて!!性悪なごろごろが接近中なの!このまま森にいると潰されるよっ!!」
ミスティアは森の中を飛び回り、小鳥たちに避難を促した。
「チュンチュン」
「ピーピー」
小鳥たちは信頼するミスティアの声を聞くとすぐに脱出を開始する。森中に小鳥達の羽音が響き渡り、空は鳥の姿で覆われた。
ミスティアの言葉がすんなり受け入れられたのは、彼女が普段から皆に信頼されている証であった。
「よーし、みんな急い…きゃっ!?」
木立の中を飛び回るミスティアは、幾度となく木の枝にぶつかり、次々とその傷を増やしていく。だが、彼女はそんなことなどに構っていられなかった。
「枝…こんな傷気にしていられるもんかっ」
彼女は、体中をぼろぼろにしながらも飛び続けた。森を飛び、小鳥達を助ける。あとは全て下らぬ事なのだ…
「みんな~危ないから逃げて~!!」
「ピーピー!」
「えっ!?」
そんなミスティアを呼び止めたのは、とある小鳥のつがいであった。
「ピー…」
「あっ!」
ミスティアに哀訴する小鳥に、彼女は重大なことに気付く。
そう、まだ巣立ちを迎えていない雛鳥達はまだ飛び立てない…
「うん、わかった。任せて!あなた達の子どもは私が守るからっ!」
いつもほんわかとして子どもっぽいミスティアであるが、今の彼女は立派な大人の風格を漂わせていた。
「ピヨピヨ!」
「あっ、待っててね、今助けるよ」
恐怖に駆られ、泣き叫ぶ雛鳥をあやしながら、そっと巣を持ち上げ飛び立つミスティア、危機が迫っている所から順々に…持てるだけの巣を持ち、かつ落とさないように安全な区域に運ぶ。
もちろんごろごろが進路を変えたときに備えて、余裕を持って避難させていた。
少女奮闘中…
「はぁ、これで全員?」
へろへろになりながらも巣の輸送を終えたミスティアが言った。だが…
「チュンチュン!」
「えっ!?」
ミスティアを呼び止めたのは雀のつがい…ごろごろ発見の直前に話した子雀達の親鳥である。
まだ子雀達の避難が終わっていないという…
「え、まだ?だって声が…まさか!?」
もう助けを求める声は聞こえなかったはず…そう言いかけたミスティアの脳裏に、ちょっと前の問答が蘇る。
「うん、ひとまずみんなはちゃんと静かにしてるんだよ、そうすればきっと見つからないわ」
「チュン!」
「あ…私の言ったことを守って…いけない!」
そう、子雀達に言った言葉…紅白の巫女をはじめとする外敵から身を守るすべを教えたのだったが、それが今回仇となっていた。
ミスティアを信じる子雀達は、助けを求めず巣の中に閉じこもっていたのだ。声のする所ばかり注目していた彼女は、あの子雀達の存在を失念していた。
子雀達の巣の辺りは、まもなくごろごろに押し潰される。果たして間に合うだろうか…?
「間に合わせる!」
ミスティアは超低空で子雀の巣に向かう。
彼女の顔を、羽根を、容赦なく木々が打ちつける。
「う~!あきらめるもんかっ!!」
だがミスティアはめげない、さらに加速して子雀達の巣を目指した。痛みはとっくに感じなくなっていた。
「待っててみんな!今行くから!!」
ミスティアは、持ちうるすべての力で羽ばたき、巣を目指した。
子雀達の巣
ごろごろごろ
ごろごろは木々を圧し潰し、通過した跡を荒地に変えながら巣に迫ってきていた。もはや子雀達の視界は、巨大なごろごろに占められつつあった。
「チュン…」
それでも子雀達は不安そうに小さな声を上げるだけである、信頼するミスティアの言った事…ならば絶対に間違いはないのだ。そう、絶対に…
もはや巣の十数メートル先までごろごろが迫ったとき、彼女は現れた。
「みんなっ!大丈夫!?」
「チュンチュン!」
傷だらけになりながらも現れたミスティアに子雀達が歓喜の声を上げた。
「待ってて!私が助けてあげる!!」
彼女はそっと、だが急いで巣を持ち上げる…木々を押し潰す不気味な音はすぐ側まで迫っていた。
「チュン!」
子雀達が不安を訴える。
「やっ!」
ミスティアが巣を持ち上げ舞い上がるのと、巣のあった木が倒れたのはほとんど同時であった。直後、木のあった所はごろごろに押し潰される。
「間に合った…やった~!!」
「チュンチュン!!」
間一髪で空へと舞い上がり喜ぶミスティアと子雀だったが、しかし危機はまだ去っていなかった。
「え…」
強力な力を感じたミスティア…
遥か彼方の空中に幾人かの人影がある、ごろごろに攻撃を…?
「逃げなきゃ!」
方向的に、明らかにミスティア達は人影とごろごろを結ぶ直線上にあった。
慌てて逃げようとするミスティア、だが…
「あっう…!」
「チュン!」
森の木々で散々に痛めつけられた彼女の羽根は、辛うじて飛ぶのが精一杯であった。それをさらに増速しようとした結果、羽根に激痛がはしる。
「あぐっ…」
もはや彼女は自分を浮かせる揚力さえ発生させれなくなっていた。だが、遥か彼方の空中では光が集まりつつある、もはや射線から逃れるのは不可能だろう。
あれは…魔理沙とかいう奴のマスタースパーク?あんなのを喰らったら私も子雀も…
ミスティアの一瞬の思考、彼女のとりうる行動は一つだった。
「みんなごめんっ!」
「チュン!?」
残った全ての力で、ミスティアは巣を遠くへと放り投げた。マスタースパークの射線から逃れ得るように…
「チュンー!!」
子雀達がミスティアを呼ぶ声がした。
「あはは、ごめんね乱暴にして…それともう一つごめんね、もうみんなと遊べないよ…みんな、元気でね」
「チュンチュン!!」
力を使い果たし落ちてゆくミスティアだったが、その顔は満足げだった。なぜなら一番の目的は達成できたのだ、子雀達は親雀達に拾われるはず…だから…だから後悔はしない。
ミスティアの意識が薄れゆく中、彼方から強力な光線が放たれた…
しかし、光線より先にミスティアにたどり着いた者達がいた。
「チュン!」
「ピー!!」
「えっ!?」
皆でミスティアを持ち上げ、全速で離脱するのは…森の小鳥たちだった。
直後、大音響と共に、猛烈な爆風がミスティア達を襲う。
「ピー!」
「チュン!チュン!!」
「きゃっ!?」
ミスティアと小鳥達はちりぢりになって落下していく、ミスティアの意識は再び遠くなった。
「チュンチュン!」
「ん…え」
ミスティアが意識を取り戻したとき、目の前に居たのはミスティアが助けた子雀達だった。
「あ、みんな大丈…うっ!」
激痛に顔をしかめるミスティア。
「チュン…」
だが、心配そうに見つめる子雀達の前で、いつまでもそんな顔をしてはいられなかった。
「私は大丈夫、他のみんなは?」
彼女は無理矢理笑顔を作り、自分を助けた小鳥達の安否を尋ねた。
「チュン!」
「ピーピー」
「そっか、よかった…」
負傷者多数あるも死者はなし、それが答え。
「~♪~♪」
ミスティアは歌い出した。
「~♪~♪」
それに小鳥達も唱和する。
森の中に楽しげな歌が響き渡った。ごろごろとマスタースパークで森は大損害を受けたが、それでも彼女達の歌声は明るかった。
自分たちは生きている、住処がなくなっても生きている。
そして、この森はいつの日か必ず再生するのだ。
ミスティア達の歌声は、暗くなってもなお、響き渡っていた。
『おしまい』
>名前が無い程度の能力様
きっとそれはみすちーのキャラのせいで…あれ?周囲が暗…
>コイクチ様
彼女が頑張る姿を書きたかったのです…そう言って頂けて嬉しいです。
ご感想ありがとうございます!そう言っていただけると嬉しいです。最後の一言…ごもっともですね(笑)
細かい部分ですが、
「少女と小雀おしゃべり中」のとこでちょっと違和感が。
個人的には「少女おしゃべり中」くらいがちょうど良かったと思います。
このくらいの長さで一息に読めるようにすると、読むリズムが崩れなくて楽でした。
(揚げ足取りみたいで申し訳ない)
あと、頑張るみすちーがカワイイw
>三人目の名前が無い程度の能力様
同感であります!そう言って頂けて嬉しいです。
>四人目の名前が無い程度の能力様
面白いと言って頂けると次回へのやる気がむくむくと湧いてきます!ありがとうございます!
>「少女と小雀おしゃべり中」のとこでちょっと違和感が。
個人的には「少女おしゃべり中」くらいがちょうど良かったと思います。
このくらいの長さで一息に読めるようにすると、読むリズムが崩れなくて楽でした。
確かにテンポが悪いですね、この部分は正確さと読みやすさを天秤にかけて、結局前者をとった経緯があったのですが、あまりにリズムを無視してしまったかもしれません。それに「少女おしゃべり中」でも十分意味は通じますし…後悔。
そして申し訳ないなんてとんでもありません、貴重なご意見ありがとうございました!今後に生かさせていただきます。