Coolier - 新生・東方創想話

魁!!東方塾 永夜大四重凶殺編 第2部 IT’S REQUIEM FOR…(後編)

2006/03/24 12:05:56
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(前編からの続きです)


「なかなかタフなのね。あれだけの藁人形アタックを食らっても倒れないなんて」
「なんのなんの…まだまだ…これ、から、よ」

あれからてゐは何度も藁人形の体当たりを食らった。
ダメージはかなりのものである。
アリスの言うとおり、立っていることが奇跡に近いほどのタフネスである。

「興味あるわね。あなたがそこまでして戦う理由…」
「あんたなんかに、教えると、思う?」
「別に。聞けないなら聞けないでも構わないし…今はこっちも急いでるんだしね」

アリスが右手を顔の高さに上げた。
呼応するように、藁人形達が一斉にてゐの方へ身体を向ける。

「悪いけど、これでトドメを刺させてもらうわ」
「な…に…」
「じゃあね、兎さん。いつか、敵味方の関係から離れたところで――会えるといいわね」

もう何度目になるだろうか。
立っているのがやっとのてゐ目がけ、雲霞のごとく押し寄せる藁人形の群れ。
しかも、今度の突撃は今までとは段違いに速く、人形の数も多い。
言葉通りの「トドメ」の一撃であった。

(ぐ…くそ、こりゃ、無理かな…)

隙間を見出すことすら難しい高密度弾幕、いや、人形幕?
身体を引きずるほどの負傷がなくても、避けきれるかどうか。
もはやチャージショットやスペルカードを発動させるだけの、魔力の余裕はない。
絶体絶命。

(ごめん、みんな…鈴仙…わたし、ダメだったよ…)

頭に浮かぶのは、仲間達の顔。
自分を信じて、ここまでついて来てくれた地上の同胞達。
「GOOD LUCK!」と、親指を立てて笑う、鈴仙の顔。
鈴仙の笑顔。
笑顔。

「れい、せん…わたし、は…」

自称・幻想郷一の詐欺師は、ふざけて仲間達を騙すことがよくあった。
部下の兎であったり、鈴仙であったり…あるいは屋敷の主であったり。
しかし、作戦行動をとる際は別であった。
敵に対しては狡猾に、時に卑怯にすら映るであろう立ち回りは、仲間にとっては信頼の種となった。
最も「信頼度」の高い策士たる彼女の命令に、兎達は皆疑うことなく従い、動く。
そして、成功を収めてきた。
単体の戦闘力ではてゐを上回る鈴仙も、任務遂行における彼女の的確な判断や、部下からの厚い信頼に対し敬意を払っていた。
てゐの『ウソ』を、仲間の誰もが『信じて』いた。
――てゐが敵を騙すためにつく『ウソ』を、仲間の誰もが『信じて』いた。
今までも。
今も。

「ああ、そっか…わたし、みんなに、ウソついちゃったんだ…」

『リーダー』 部下達は、今も。
『てゐ』 鈴仙は、今も。

「みんなごめんね…ウソだったんだ…ウソだったの」


「さっきの『ダメだった』っていうのは」

――「エンシェントデューパー」――


瞬間。
てゐの身体を中心に、ラストスペル以上の威力を持つ弾幕が展開される。
今にも彼女の身体に体当たりをかまそうとしていた藁人形達は、一体残らず撃ち落された。

「うそ!?どこにこんな力が残って…」
「ふふふ。勝手に騙されてくれてた?まだ終わらんよ!!」
「ひ、百式!?」

驚愕の表情を浮かべながら、必死で弾幕を回避するアリス。
あれほど消耗した状態から…(おそらく)ラストワードを発動させた!?
未だ止まない弾幕の嵐の中で輝いているのは、てゐの二つの瞳。

「わたしは負けない!生きて鈴仙と添い遂げる!!」
「それなんて08小隊!?」

しかし、てゐの魔力にも限界が来ているのか、ラストワードはすぐに消滅する。

「っく…火事場のクソ力じゃ、こんなもんが限界か~」
「ホントにあんた、しぶといわねえ…」

余裕の表情を浮かべるアリスだが、内心では安堵のため息をついていた。
正直、あのままラストワードを展開され続けていた場合に、避けきれたという自信がない。

「魔力を温存してたってこと?」
「ちがうわ。底の方に残ったやつを、無理やりかき集めて爆発させた…ってとこかしら?」
「ドーンと弾けてすぐ消えた。まさに花火ね」

窮地は脱したが、それでもてゐの不利に変わりはない。
半ば無理矢理のラストワード発動によって、魔力残量が冗談抜きでゼロのてゐ。ダメージも当然ある。
対するアリスは、一瞬たじろいだもののスペルカードが一枚破られただけで、まだ魔力にも若干の余裕、何より上海、蓬莱が健在である。

「何だっていいわ。仲間がいる限り…わたしは何度でも立ち上がる!!」
「…なるほどね。兎って寂しいと死んじゃうんだっけか…」

それは裏を返せば、寂しさを吹き飛ばす仲間の存在がある限り、兎は死なないということなのだろうか。
確かに、あれだけの負傷にもかかわらず、てゐの目は死んでいない。
その強い光を宿した目でアリスをにらみつけると、再び構えを取る。

「魔力がなくても…わたしには、この拳がある!!」

ロイヤル・イナバ・シード。
兎の身体に備わる天性のバネと、拳の回転により必殺の威力を生むコークスクリュー・ブロー。

「わたしは…わたしの『ウソ』を『信じ』続ける仲間のために、あんたを倒す!!」
「…」

アリスは考える。
これまでと同じような手段で倒したところで、この兎は何度でも立ち上がってくるだろう。
小細工は通用しない――否、通用しても勝てない相手。
そうやっててゐが立ち向かってくる度に、いつ自分が倒されないとも限らない。

「…負けたわ」
「何!?」
「わたしの人形繰りでは、あなたの心は折れない。…あなたは、強いわ」

アリスはため息を一つついて、目の前の強敵にそう告げる。

「どういうことよ?」
「そういうことよ」

てゐは疑わしげにアリスをにらみつける。
もちろん、構えは解かない。

「七色の人形使い、アリス・マーガトロイドは敗北を認めたの」
「…敗北?」
「ええ。敗北」

アリスは肩をすくめて見せる。
その動作に、戦う意志は感じられない。

「本当に?」
「ええ、本当よ。ウソは言わない」
「それじゃ…」
「しつこいわね。あんたの勝ちよ」

勝ち、というその言葉は、てゐ以下、全ての兎の耳に響いた。
勝ち。勝利。
――作戦の成功。

「や…」
『やったああああ!!』

屋根の上の兎達が歓声を上げる。
てゐは未だに信じられない、という顔をしつつも、喜びの色を隠しきれない。

「リーダーが勝った!!」
「ミッション完了!」
「鈴仙さまを守りきったわ!!」

思い思いの言葉で、てゐの、そして自分達の戦果を讃え合う。

「…ありがとう。無益な殺生はしたくなかったしね」
「そうね、お互いに」
「ま、経緯はどうあれ私たちの勝ち…お帰りはあちらよ。あんたの仲間は、すぐには解放できないけど…」

てゐは廊下の先、アリスたちがやって来た方向を指差す。

「そう。帰るときはあっちね。わかったわ」
「わかったらさっさと行ってもらえる?ウチはまだ忙しいのよ、今夜は」
「イヤ」

アリスはてゐの言葉を、一言で切って捨てる。
「退却しろ」という命令に対する、明確な拒絶の意思。
はて、これは一体どういうことか?
アリスは負けを認めたのではなかったのだろうか?



[その頃の物置小屋の中]

霊 「え~それじゃ…いっ○く堂のものまねします」
他 『わ~、パチパチパチ(拍手)』 

霊 「…あれ?」
霊 「…声が」
霊 「…遅れて」
霊 「…くるよ」

霊 「以上です」
他 『…』
魔 「あのさ、霊夢」
霊 「何?うまかったでしょう、衛星中継」
魔 「それ、こんな真っ暗なとこでやっても、わかんなくないか?」
霊 「!?」



先ほど白旗を揚げたはずの相手の顔を、てゐはいぶかしげに見つめる。

「…イヤ?あんた、負けを認めたんじゃなかったの」
「ん…そうよ。全力で戦えないマヌケな人形使いは、ど根性ウサギさんに降参してしまいました」
「だったら、おとなしく帰って…」
「だからイヤ。幻想郷の満月を返してもらうまで、帰るつもりなんてないわ」

てゐはここで、アリスが身にまとう雰囲気がさっきまでと変わっている事に気づく。
先ほど、戦う意志を失ったように見えたが――それは違う。
戦う意志も含めたその在り方全体、「戦いに対する姿勢」が全く変化していた。
勝利に酔っていた屋根の上の兎達も、徐々に張り詰めていく空気を感じていつしか静まり返る。

「なるほど。降参したってのは、ウソね」
「ウソじゃないわ。あなたは温室育ちの都会派魔法使いを負かした。それは胸を張って自慢できる真実よ」
「ならあんたは…今ここで『帰らない』ってダダこねてるあんたは、何なのさ」
「んー…別人?」
「いや、こっちに聞かれても」

そう、今ここにいるアリスは、先ほど負けを認めた者とは別人であった。
淡々と人形を操り、余力を残して敵を倒す。
弾幕のキモはズバリ、ブレイン。
それが、ついさっきまでてゐと対峙していた「七色の人形使い」だとすれば、今ここにいるアリスは――

「正反対ってわけね、さっきのやつとは」
「うーん…そんなに変わってたのかしら」

アリスの顔に浮かんでいるのは、普段の理知的な微笑ではなく、童女のように悪戯っぽい笑顔。
それでいて、体から立ちのぼる魔力のオーラは、先ほどとは比べ物にならないほど強大かつ、邪悪で。

「結局、まだ戦わなきゃなんないみたいね…」
「ふふ。いいじゃない、久々に本気にさせてくれた強敵さん。それに、戦うのは一瞬よ」
「…何?」
「次の一撃で終わりにするわ」

アリスは左手に抱えた魔導書――グリモワールを開く。
新たな臨戦態勢。

「言ってくれるじゃない。悪いけど、こっちも一撃で決めるつもりだから」

てゐは先ほどと同様、踏み込んでパンチを放つための構えを取る。
仮初めの勝利に緩んだ心を、一瞬で引き締める。

「ふふ、いいわね。究極の一撃対一撃…そうね、どうせなら完全に対等な条件でやりましょうか」
「対等な条件…?」
「あなたの『一撃』はさっきの戦いで見せてくれたでしょう?だからわたしも、ネタバレしてあげるわ」
「何!?ふざけ…」
「まあいいじゃない。聞きなさい…」

アリスは楽しげに、そして少しだけ厳かに話し始めた。

「こんな話があるの。昔、157戦157KO負けという、東方ラスボス史上最弱とうたわれた『神綺』という魔界神がいた…


ある時、彼女の最愛の娘の一人が魔界を出て幻想郷へ行くことを決意した。
しかし、幻想郷は博麗大結界によって外の世界から隔絶されており、容易に中に入ることはできなかった。
見送りに来ていた神綺は娘とともに結界に阻まれ、幻想郷を前にして立ち往生することになった。
なんとかして結界に穴を開ければそこを通りぬけることができるが、結界は強力。並みの魔力では破ることは不可能…!!
このままでは、娘の新たな門出を祝うことはできない…!!
そこで彼女は……!!

「いい?お母さんのいうことをよく聞きなさい」

神綺は娘の肩に手を置くと、ゆっくりと、しかし強い口調で言い聞かせた。

「あなたはわたしの合図で、結界に向かって一気に駆け抜けて」
「ええっ!?」
「こわがらないで。お母さんを信じるのよ…いいわね?」

最初は驚いていた娘も、神綺の決意に満ちた視線に導かれるように肯く。

「さあ、行きなさいっ!!」

娘は母を信じ、結界めがけて全速力で駆け出す。

「いってらっしゃい…愛する娘よ…」

神綺は全身の魔力――無から生命を創りだし、世界さえも構築する巨大な力を、身体の一点に集中させる。

「受けとりなさい!これが、魔界の創造主の最強の魔法!!」

奇跡は起きた。
神綺の放った魔弾は博麗大結界を貫き、幻想郷と外界とをつなぐトンネルを作る。
娘はその中を駆け抜け、幻想郷へと辿り着いたのだ。
神はそのまま歩いて帰った…


だけど、その時の魔法は伝説として名前を残したわ」

アリスは語り終えると、軽く息をついた。

「伝説の魔法ですって?あの博麗大結界を破るほどの?」

信じられない、という表情で話を聞いていたてゐ。

「ありえないわ!そんな伝説なんて…作り話ね!!」
「信じる、信じないはあなたの勝手よ」
「くだらない昔話はもういい。さっさと来なさい!すでに勝敗は…見えたわ!!」

てゐは必殺パンチを放つために気合いを集中する。
対するアリスも、呪文を唱えるべく、グリモワールのページを繰る。

「見せてあげる。偉大なる神から引き継いだ遺産を……!!」
「あんたにこれ以上つきあってるヒマはないわ!吹っ飛べ!!」

拳を引き、大きく前に踏み込む。
全体重を乗せて放つ一撃必殺のフィニッシュ・ブロー、「ロイヤル・イナバ・シード」。
アリスは避けることも守ることもせず、てゐの突撃を迎え撃つ。

「我が名はアリス!魔界神・神綺が造り給いし命が一つ…『死の少女』アリス!!」

目の前の敵が高らかに叫んだ瞬間、てゐは気づいた。
ウェーブのかかったアリスの金髪、その一部が、いつのまにか赤い髪止めによって束ねられていたこと。
そして、天をつくようにそびえ立つその髪の毛――いや、アホ毛というべきか――が、まるで生き物のように蠢いていたこと。

(何!?)

刹那、敵の得体の知れない動きに狼狽するてゐ。
しかし、すぐに心を持ち直し、さらに間合いを詰める。

(関係ない…相手が何をしようと、やることは一つ!!)

ここまで来たらもはや、相手の出方に合わせて手段を変える余裕も、そうするつもりもない。
既にラストワードを発動した今、魔力も体力も限界を迎えている。
己を信じ、相手に拳を叩き込むだけだ。

「人形使いよ、原初のイナバに会ってきなさい!『ロイヤル・イナバ・シード』!!」

てゐは最後の一歩を踏み込むと、全身全霊をかけてパンチを打ち込む。
体重移動、軸の回転、拳のスピード、全ての要素において完全なパンチ。
加えて、インパクトの瞬間の拳の回転が、爆発的な威力を生む――しかし、その拳が、アリスの顔面にねじ込まれることはなかった。

「――え?」

一瞬、てゐには何が起こったのかわからなかった。
気がついたときには、自分の身体が宙を舞っていた。
舞っていた?
違う。
てゐの身体は、高速で吹き飛ばされていた。

「どう…して…」

周囲の光景が、ものすごい勢いで前方に遠ざかって行く。
その身体が廊下の壁を突き破って庭に出て行く瞬間、彼女は見た。
パンチを打つ瞬間に合わせ、カウンター気味にてゐの身体を吹き飛ばしたものの姿を。

「なんて…たくましい…」

それは、アリスの頭から分離し、二本の足で床に立つアホ毛の姿。
音速の魔弾となっててゐの身体に体当たりをかましたそれは、勝ち誇るように金髪を揺らしていた。
壁を貫通したてゐは、さらに庭の囲いを突き破って飛んでいき、やがて見えなくなった。
それを確認すると、アリスはてゐが飛んでいった方向に視線を向け、もういない相手に手向けの言葉を放つ。

「Go home walking!(歩いてお帰り!)」



「たくましいなw」…
魔界の神には 何もない場所から 生命を創り出す力が 生まれつき備わっており
同時に この魔界神に創られた生命も この力を少しだけ受け継いでいる
神は ゼロから生命を作り出せるが 神の子らは 生命を生み出すのに その素体を必要とする 
すなわちそれは 己の肉体の一部である
肉体の一部から創られた生命は 不完全な存在であるが それ故に術者の思うように 力を付与できる 
故に 高い魔力を持つ者ほど 強力な生命を創り出し 自在に操ることができるのである 
術者の分身とも言うべき この生命体は 何度も生え変わる 髪の毛が素体に使われることが多い
このような経緯で髪の毛から生まれた生命を 「たくましいなw」と呼ぶのである
二本の足で地面に立ち 歩く・走るといった単純な動作しかできないが パワーとスピードは術者の魔力次第
敵に向かって走らせ ぶつけるだけで 一撃必殺の魔弾にすらなる強力な魔法であり
この能力の本家である 魔界神のアホ毛から生まれたものは 博麗大結界を貫通するほどのパワーを持っていた
ちなみに 「たくましいなw」 という名前の語源については 学会でも未だに謎に包まれているが
調査の結果 「モンバン」 「シンキスレ」 「カコログ」 といったキーワード(言葉の意味は不明)がわかっている

岡崎比較物理学研究所蔵書 「ルイズお姉さんもて王サーガ ぱゃんに゙ゃんじゃんじゃいぃぃっ!!」より



残った兎達がアリスのたくましいなwによって再起不能にさせられるのに、1分とかからなかった。
アリスの全魔力を注いで召喚された分身の超高速の動きは、目で追うことすら不可能であった。
そして同時に、大砲の弾もかくやという爆発的な突進力に耐えうる者もいない。
ことの全てが終わり、たくましいなwがアリスの頭に戻るころには、廊下のいたるところに気絶した兎の身体が転がっていた。

「ふう…全く、骨の折れる相手だったわ」

しみじみと、しかし淡々と語るアリスの表情は、既に普段の都会派魔法使いのそれに戻っていた。

「因幡てゐ…だっけか?あなた、強かったわよ。冗談抜きで」

壁に開いた穴、その向こうにいるであろう相手に語りかけるアリス。

「ま、さっきのわたしは霊夢達には見せらんないわね…さて」

くすりと笑うと、仲間達の閉じ込められている小屋を見る。

「今度は、わたしがみんなを助ける番ね…」




[その頃の物置小屋の中]

霊 「えーそれでは続きまして、『神と聞いて歩いてきました』と言いきらないうちに『歩いてお帰り』される神綺のものまね」
魔 「おっ、十八番!」
紫 「待ってました~」
レ 「ところで神綺って誰なのよ?」
魔 「知らないのか?アリスの母親だぜ。宴会のときに見ただろ(第1部参照)?」
レ 「ああ、あのカリスマの欠片もないアホ毛の…」
幽 (あの人になら勝てるかも…)
霊 「はい、じゃあ行くわよー。じゃあ魔理沙、フリお願い」
魔 「オッケー。『え、絵版に神キタ―――!!』」
霊 「神と聞いて歩いt」
他 『歩いてお帰り』
霊 「…酷いこと言われた気がする」

(少女爆笑中…)

魔 「いやあ、相変わらず霊夢の神綺マネはうまいなあ」
霊 「これで表情も見せられたらいいんだけどねー。声だけだと限界があるわ」
咲 「そんなことないわ。一片のカリスマも感じさせない『酷いこと言われた気がする』の響きなんか完璧よ」
ア 「ほんと、そっくりですこと」
霊 「そんなに似てた?う~ん、それもなんか複雑ね…って、あれ?」
ア 「次はルイズ姉さんの真似でもやってくれないかしら?ねえ…霊夢…」
霊 「も、もしかして…あ、アリス?」
ア 「もしかしなくてもそうよ」
霊 「え、えっと、今のは、その…」
ア 「わたしが普段使わない奥の手まで出して必死で戦ってる間、あんたたちは人の親をダシにして盛り上がってたわけね」
霊 「い、いやその、わたしたちは、ここから出る方法を考えるために…」

(アリス、外から鍵を外しておいた小屋の扉を開け放つ)

レ 「ちょっと、まぶしいじゃないの!いきなり開けないでよ!!」
ア 「うるさい!!ここから出る方法だあ?だったらこの大量の食べかすは何よ!!」
霊 「あ、やっぱりこぼしてたわ。暗闇で食事なんてするもんじゃないわね」
ア 「飯食ってただとぉ!?この…心配して損した!!」
魔 「ま、まあまあアリス…実際わたしらもどうしようもなかったんだよ。腹が減っては戦はできぬって言うし…」
幽 「ん~…あら?明るいわね。朝かしら」
ア 「寝てるやつまでいますけど」
幽 「だって途中でアリスの声がしたから、助けてくれるまで小屋の中でマターリしようってみんなで決めたんじゃないかしら?」
霊 「わわ、幽々子、それ言っちゃダメ!!」
ア 「…」
霊 「そ、そんな目で見ないでアリス!!ちがうのよホラこれは、そう、信頼よ信頼!みんなアリスを信じてたから…」
ア 「…」
霊 「アリスなら、きっと外の兎を倒してわたし達を助けてくれるって…ね?あ、あの、アリスさん?」
ア 「…」
霊 「あ、アリス?」
ア 「…」
霊 「えーと、…おにぎり、食べる?(チャーハン風味)」



――魔操 「リターンイナニメトネス」――



永遠亭からやや離れた場所にある、竹林の一角。
そこに、一匹の妖怪兎が大の字になって倒れていた。

「と、途中までかっこいいマジバトルだったのに…ガクッ」

実際そうでもない。



因幡てゐ 死亡確認



「…で、やっぱりここが敵の本拠地なわけね」
「そうなるな。さっきの兎の話なんかも合わせて考えると、まず間違いない」

アリスは今、自分が眠っていた間の経緯を魔理沙から聞いている。
物置小屋から無事(ではなかったが)に脱出した一行は、屋敷のさらに奥深くへと進んでいた。

「それにしても、大きいお屋敷ねえ…」
「物置小屋がまるごと一戸室内に入っちゃうくらいだからな。廊下も随分と長い」

廊下をはさむように並んだ部屋の扉は、一つとして開くことはなかった。
そしてさらに激しさを増す兎達の攻撃。
屋敷の外にいたものとは比べ物にならない強さ、言わば精鋭部隊であった。
しかしリーダーであるてゐが倒されて統制が取れていない上に、霊夢たちは休養をとって体力が回復している。
今も威勢よくぶつかってきた兎を、咲夜のナイフが一撃で撃墜した。

「まあ、これだけ警備が厳しいってことは…」
「目的が近いってことね」

霊夢は長い通路の先、まだ見ぬ異変の犯人をにらみつける。

「アリス、さっき倒した兎のリーダーって…あの、ワンピース着た幼女っぽいやつ?」
「ええ。他にもたくさん倒したけど、あれはザコね」
「となると…まだ、あいつが残ってるわね」

霊夢は竹林で自分を追い詰めた赤い瞳を思い出していた。
あの兎が今回の黒幕とは思えないが、おそらく次に立ちはだかる強敵は彼女だろう。

「賽銭箱に隠れてたヤツか。確かに、そこらの兎とは雰囲気が違ったな」
「あら…噂をすれば影、かしら。早速お出ましみたいね」

紫が指差す先。
行く手をふさぐように現れたのは、真紅の目の妖怪兎、鈴仙・優曇華院・イナバであった。



STAGE5 BOSS BATTLE 2

『狂気の月の兎』 鈴仙・優曇華院・イナバ VS …?



「ふう…やっと全ての扉を封印したわ。もう姫は連れ出せないわよ、巫女さんご一行様」
「姫…?」

聞きなれない単語が出てきたことに、霊夢は疑念を抱く。
姫、とは何者だろうか。

「ここまで来たってことは…てゐを倒したってことかしらね」
「そうなるわね。あの兎は今頃、竹林でのびてるわ」

倒した張本人が前に出て、自分だけは今日はじめて見る相手に声をかけた。
その言葉に、鈴仙の表情がわずかに険しくなる。

「あなたたちは月の使者とは関係ないようだけど…やっぱり敵なのね」
「月の使者?」
「なんでもないわ。とにかく、ここから先へは行かせない」

鈴仙の目には明らかに怒りの色が浮かんでいた。
それはてゐが倒されたことによるものか、あるいは何か別の理由によるものなのか。

「そうはいかないぜ。何度も言うようだが、わたしらは幻想郷に満月を取り戻すために来たんだ。通してもらうぜ」
「今更力ずくでも、なんて回りくどいことは言わない。わかるでしょう?道を開けなさい」

魔理沙と咲夜が強い口調で告げる。
しかし、鈴仙は全く動じない。

「ダメよ。師匠の術の邪魔はさせない…わたしが、あなた達全員をこの場で倒す!」

鈴仙の目の赤色が、一層濃くなったように見えた。
それは、彼女の燃え上がる闘志の現われであろうか。

「面白い!食後の運動代わりだ、わたしが相手してやろう!」
「なっ!?ふざけんじゃないわよ魔理沙、あんたは第1部で十分目立ったでしょう!」
「あー?それはそれ、これはこれだぜ」
「ダメ!いい加減わたしに戦わせなさいよ!主人公なのに一回もマトモに戦ってないじゃない!!」

例のごとく、霊夢と魔理沙が出番の取り合いをはじめる。

「あんたらなんかまだいいわよ!わたしなんて戦闘以外でもほとんど目立ってないわ!!」

さらにそこにレミリアが加わり、三つ巴の争いへと発展する。
ああお嬢様、その醜い争いに参加した時点で出番は遠ざかりますよ、とは彼女の従者の心の声。
まさにお約束と言うべきか、言い争う3人の間に割って入る人影。

「お待ちください」
「「「よ 妖夢ーっ!!!」」」

どもるところまで完璧にタイミングを合わせる3人。

「ここは、わたしに任せていただきます」

二本の刀を抜きながら、妖夢は静かに前に出る。

「あの兎は確かに強者ですが、異変の真犯人ではないでしょう…皆さんのお力は、黒幕の登場まで温存しておくべきでは?」
「う、まあ…確かに、主人公は終盤で目立ってナンボだし、みたいな?」
「そうだな、ハ、ハハ、やだなー妖夢ったら。あんなザコ一匹と戦うのに、このわたしがわざわざ出るまでもないよな、うん」
「し、仕方ないわね。あの兎はあなたに譲ってあげるわ。ま、真のカリスマは、トリをかざってこそ発揮されるものよねー」

妖夢の指摘に、三者三様の態度で答える器の小さい人間と吸血鬼であった。
鈴仙の前に出ると、妖夢は二刀を構えて敵を見据える。

「行くぞ、妖怪兎!!この楼観剣と白楼剣の錆にしてくれる!」
「…刃物持つと性格変わるタイプなのかしら。まあいいわ、手始めにあんたから、狂気の淵に落とし込んであげる!!」

広い屋敷の廊下、床から数メートルの空間。
にらみ合う2人の間の空気が張り詰めていく。

「妖夢ー、その兎の目を見ちゃダメよー」
「心配そうね、幽々子」
「うーん、あの子は正攻法には強いけど、ああいう変則的な相手は苦手なのよねえ」

妖夢の主は若干不安げな目で戦いの始まりを見守る。
兎にも角にも、戦いの火蓋は切って落とされるのである。



STAGE5 BOSS BATTLE 2

『狂気の月の兎』 鈴仙・優曇華院・イナバ VS 『半分幻の庭師』 魂魄 妖夢



「先の戦いで手の内を明かしたのは痛かったわね。あなたの目さえ見なければ、どうと言うことはない!」
「赤眼催眠を見た程度で、このわたしに勝ったつもり?馬鹿言うんじゃないわ」

妖夢は鈴仙と目をあわせないように注意しつつも、その姿を視界にしっかりと捉えて距離をつめる。
対する鈴仙は、細かい通常弾をばら撒きながら、間合いを取ろうとする。
接近戦に持ち込みたい妖夢と、弾幕で勝負をつけたい鈴仙。
追う者と逃げる者。

「どうした!その程度の弾幕じゃわたしには当たらない!このまま逃げ続ける気!?」
「言ってなさい、突っ込んでくるしか能のない猪武者が!!」
「猪武者!?言わせておけば!!」

このまま追いかけっこをしていても埒が明かないと悟った妖夢は、楼観剣の剣先に魔力を集中させた。
そして高らかに宣言し、スペルカードを発動する。

「人符 『現世斬』!!」

一瞬で相手の懐にもぐりこみ、斬りつける必殺剣。
邪魔な弾幕は増幅された斬撃によって消し去り、標的への最短距離を飛び進む。
その踏み込み(実際に『踏み』込んでいるわけではないが)の速さはまさに電光石火、避けることはまず不可能。

「…っ」
「何!?」

しかし鈴仙は瞬時に妖夢の太刀筋を見切り、紙一重でその一閃をかわす。

「隙あり」

楼観剣を振り下ろした直後の隙を見逃さず、鈴仙は反撃に出る。
間髪いれずに弾幕を展開…せずに、人差し指の先に一発だけ、流線型の弾を発現させる。

「食らいなさい」

鈴仙は親指と人差し指を立てた右手を拳銃に見立てるかのように、指先を妖夢に向け――発射。
ほぼゼロ距離で放たれた弾は、一直線に妖夢の脇腹を貫通…することなく、彼女がとっさに抜き放った白楼剣の峰に弾かれる。

「うそっ!?」
「刀は一本ではないっ!!」

妖夢は空中で鈴仙に蹴りを入れ、突き放した。
再び、両者の間合いが開く。

「…やるわね」
「そっちこそ。まさか接近戦に対応してくるなんてね」

訓練された戦士にのみ可能な、刹那の世界での見切り。
時間にしてわずか数秒の間に交わされた、高度な技のやりとりであった。



「す すげえーっ!初っ端からハイレベルな攻防が繰り広げられているぜーっ!!」
「しかも、妖夢は一度もあの兎と目を合わせずに戦っているわー!!」

久々に妙に説明的な台詞で驚く魔理沙と霊夢。

「確かに相手もすごいけど…妖夢も落ち着いてるわね。幽々子、これなら心配要らないんじゃない?」
「いやいや紫、油断は禁物よ。ここからが本番」
「厳しいのね」
「あなたも、自分の式には随分とスパルタだって聞いたけど?」

幽々子の目からは、未だに不安の色が消えない。
二重の意味で半人前の庭師の真価が問われるのは、まさに今なのである。



「でもね、剣士さん」
「…?」
「今ので、あなたの剣技は見切ったわ。次はないと思いなさい」

鈴仙は自信たっぷりにそう告げた。
その言葉は、先ほどの攻撃をギリギリでかわした負け惜しみと取れなくもないが、一概にそうとも言えない余裕の響きがあった。

「見切った?…言ってくれる」

妖夢の顔がわずかに強張る。

「現世斬をかわした程度でいい気にならないことね…いいわ、試してあげる」
「へえ、そいつは楽しみね」
「こいつを避けられるものなら避けてみろ!!魂魄流の真髄、しかと見るがいい!!」

妖夢は再び剣先に魔力を集中させた。
しかし今度は、先ほどの数倍の大きさの魔力である。

「『見切った』などと…!自惚れと言うのもおこがましい勘違いっ!!」

妖夢の体を中心に、爆発的な魔力が膨れ上がる。
俗に言う「キレた」状態ではないが、明らかに妖夢は怒っていた。
先ほどまでの逃げ回るような鈴仙の戦い方、かわされた上に危うくカウンターを食らいかけた必殺剣。
これだけならば心の平静が乱れるということにはならないが、先ほどの「見切った」という発言が彼女の逆鱗に触れた。
ただ一度だけ技をかわしただけで、師より受け継いだ己の剣技を「見切った」などと言われたことが、妖夢の苛立ちを怒りに変えたのである。

(許さない…魂魄流への…我が師への冒涜だけは!)

膨れ上がった魔力を一気に解放し、先ほどよりも遥かに速いスピードで間合いを詰める。

「思い知れっ!!人鬼 『未来永劫斬』!!」

現世斬よりも速く、重く、強い斬撃が至近距離から鈴仙を襲う。
怒りに我を忘れるなどとよく言うが、今の妖夢にはその言葉は当てはまらない。
己の流派を侮辱した相手に対し、その真骨頂を何としても思い知らせるという執念が逆に彼女の頭を落ち着かせていた。
燃え盛る心とが生む一撃必殺の威力。
冷め切った感覚が可能にする超精密な照準。
冷静が力を押さえ込むことも、情熱が技を鈍らせることもない。
まさしく完璧な一撃。
このまま太刀を振り下ろせば、間違いなく勝負は終わる――それほどの一撃であった。
――しかし、その太刀は振り切られることはなかった。
鈴仙の顔を唐竹割りにしようかというその手前で――刀は、妖夢の手は止まっていた。

「…だから言ったじゃない。見切ったって」

赤い目の兎は、その口元に薄笑いを浮かべた。




「ど どういうことなのー!?」
「妖夢のヤツ、刀を途中で止めちまいやがったーっ!!」

頭を抱えて驚愕する霊夢と魔理沙。

「どうやら…見てしまったようね」
「ええ。やっぱり不安が的中しちゃったわ」
「何だって!?妖夢はあの兎の目を見ないように戦ってたんじゃなかったのか!?」

魔理沙は疑問を抱く。
どう考えても、妖夢が鈴仙の目を直接見てしまうようなミスをするとは思えない。

「そうねえ…おそらくだけど、これのせいじゃないかしら」

そういいながら進み出たのは、咲夜。
愛用のナイフを一本取り出し、その刃の表面に己の顔を映して見せた。

「刃?…まさか、あの兎は妖夢の刀に…」
「たぶんね」
「いえ、間違いないわ」

幽々子は、未だに刀を振りかぶった状態で固まっている妖夢を指差す。
そこにあったのは、鈴仙と同じ真っ赤な瞳をした剣士の姿。

「…見られたわね、妖夢」



「あ…う…」

その瞳を真紅に染めた妖夢は、身動きが取れないでいた。
四肢に力が入らず、前後左右上下の感覚がほぼ麻痺している。
間違いなく、赤眼催眠の虜となった状態――しかも、霊夢が竹林で陥った状態よりも強い狂気に中てられていた。

「ふーん…感受性が高い人間は目の色まで狂気に染まることがあるって聞いてたけど、初めて見たわね」
「何で…そんな…」
「あら、まだ気づいてない?」

鈴仙は余裕の表情を浮かべながら、苦しげに呻く妖夢に語りかける。

「曇りのない、綺麗な刀…そう、わたしの顔が映るくらいにね」

妖夢の頭上に掲げられた楼観剣の刃を見つめる。
そこに映るのは、鈴仙の真っ赤な目。

「まさか…」
「そう。あなたは刀を振上げる瞬間、その刃に映ったわたしの瞳を見てしまったのよ」
「バカな…そんな、ことが」
「できるわ。何度も言うけど、あなたの太刀筋はとっくに読めてるの。光の入射・反射の角度を調節すれば、この程度の芸当はたやすい」

結果から言えば、鈴仙は最初の一撃で妖夢の太刀筋を本当に見切っていた。
さらに、どのタイミングで、どの角度から刃に視線を送ればよいか――つまり、妖夢と鈴仙の視線が交差する、楼観剣の刃上の一点を瞬時に割り出していたのだ。
いかに妖夢の動きがすばやくとも、光の速さを追い抜くことは決してない。
鈴仙の瞳から放たれる赤い狂気の光は、神速とうたわれた魂魄流の一閃を遥かに凌駕するスピードで妖夢の瞳に入射した。
そして楼観剣が振り切られるその前に、彼女の持つあらゆる感覚を麻痺させていたのである。

「技の威力がいかに増そうとも、バカ正直な剣さばきはそのまんまね。何もしないで避けることもできたかも」
「くっ…」

体に力の入らない妖夢はふらふらと床に降り立ち、膝をついた。
それを追うように、鈴仙も床に降り立つ。



「あんな短い時間にそこまでの計算を済ませていたなんて…」
「し 信じられないわ…」

ブクブクと泡を吹きながら失神する霊夢と魔理沙。
先ほどまで妖夢の油断をなじっていた紫と幽々子も、鈴仙の実力を認めないわけにはいかなくなる。

「どうやらあの兎、只者じゃないようね」
「ええ…見た目からして他のものとは違ってるけど、それ以外にも何かあるわ」
「戦闘中、瞬時に敵の戦い方を完璧に分析する観察眼…妖夢の感情を意図的に昂ぶらせる心理的手段…あれは」

意味深げに言葉を切った咲夜に、仲間全員が注目する。

「まるで、訓練された戦士…いえ、軍師とでも行ったほうがいいのかしら?」
「どの道、あの半霊はこのままではやばいんじゃないの?」

レミリアが指し示す光景。
床に片膝をついて呻く妖夢と、それを見下ろす鈴仙がいた。




「はあっ、はあっ…くそ、これしきの、ことで」
「無理よ無理。平衡感覚が相当にやられちゃってるはずよ?あなたはもう立てないわ」

妖夢は刀を杖代わりに立ち上がろうとするも、そもそも刀の柄に体重を預けることができないでいた。

「それにしても…その目」
「…?」
「完全に視覚を狂気に支配されちゃってるわね。催眠術が解けても治るかどうか」

妖夢は自分で自分の瞳の色を見ることはできなかったが、視界に薄く赤いフィルターがかかったような状態を確認していた。
自分の目に何か異常が起こっていることは、理解している。

「感受性の強いものが月の狂気に中てられると、その感覚が色々とおかしくなるのよ」
「月の…狂気…?」
「あら、知らないかしら?本当の月の光には強力な狂気が宿っているの。そしてわたしの瞳は、それと同質の狂気を操ることができるわ」
「くっ、それが…どうしたというんだ」

狂ったように赤い瞳で、妖夢は目の前の敵をにらみつける。

「あなたの視覚は月の狂気によって完全に暴走状態にある…」
「暴走、だと…?」
「ええ。具体的に言うと…そうね、普段見えるはずのないものが見えたりとか」
「何?見えるはずのないもの…?」

思わず聞き返した妖夢の顔を見て、鈴仙がニヤリと笑う。

「ふふふ、実際に見てみるのが一番速いわね」
「くそ、その笑いを消し去ってくれる!!」
「その身体で何をするつもり?おとなしく見るがいいわ、狂気の瞳に映る、壊れた世界を!!」

その瞬間、鈴仙の目が強い光を放つ。
妖夢は今度は直視する形でその光を受けてしまう。

(しまっ――)

た、と心の中で言う暇もなく、妖夢の意識は赤い光の中に飲み込まれる。
それはまるで鈴仙の瞳の中に吸い込まれるように、どこまでも、どこまでも…




気がついたときは、暗黒の中にいた。

(ここは…どこ?)

今の妖夢には、身体のあらゆる感覚が失せていた。
先ほどまでの麻痺したような状態ではなく、まるで自分が精神だけの存在になったかのように、身体が「無い」ようなイメージ。
しかし、見ること、そして聞くことだけはできるような状態にあった。
最も、何の音も聞こえない暗闇でそれらの感覚が生きていても仕方が無いかもしれないが。

(わたしは、一体…)

暗黒の静寂を漂う妖夢の意識。
しかし、そこに唐突に声が響く。

『そこはあなたの精神の世界。あなたは己の心の淵に落ち込んだ意識としての存在』

鈴仙の声。
何を言っているのかわからなかったが、ここが自分自身の心の中だということはなんとなく理解できた。

『今のあなたには、映像を見ることと音を聞くことしかできないはずよ』

その通り。
鈴仙の声が聞こえることが、何よりの証拠。

『これからあなたには、あなた自身の記憶の映像を見てもらうわ』

記憶の映像?

『あなたの心の中に残った過去の光景。ただしそれらを見るのは、狂気によってあらゆるフィルターが外された赤い感覚』

何を、見せるのか。
何を、聞かせるのか。

『見えるはずのない物が見える、狂気の瞳。あなたはどこまで耐えられるかしらね…』

楽しげな鈴仙の声は次第に小さくなり、消えていく。
代わって、目の前にある映像が映し出された。

(これは…)





『インビジブル・トゥルース(見えない真実)シリーズ…その1』

[見えるもの]

ある晴れた秋の日。
妖夢は幽々子の使いで、魔法の森の入り口にある古道具屋を訪れていた。

「おや、いらっしゃい」

『香霖堂』と書かれた看板。
その下にある入り口を開けると、店主――森近霖之助が声をかけた。

「こんにちは。先日、こちらにうちの主がお伺いしたと思いますが…」
「ああ、あの品物だね。ちょっと待っててくれ、奥にあるから」

店主は椅子から立ち上がると、店の奥へ歩いていこうとする。

「あ、それ…」
「ん、これかい?ああ何、心配はいらないよ。ちょっとぶつけてしまってね」

妖夢は、彼がやや足を引きずっていることに気づいたのだった。
店主は軽く笑って、客を心配させまいとする。

「少し痛いが、仕事に差し支えるほどじゃない。大丈夫だよ」 
「そうですか…あの、お手伝いします」
「え?いやいや。ちゃんとお金を払ってくれるお客さんの手を煩わすわけには…」
「でも、あんな大きな品物、その足で一人では持てないかと」
「うーん…そうだな。ちょっと、手を貸してくれるかい?」
「はい!」

幽々子がこの店に注文した品とは、餅をつくための臼と杵であった。
さすがにそんなものを怪我人に持たせるわけにはいかず、妖夢は手伝いを申し出たのだ。


2人は大きな臼を店先の地面に下ろす。

「よいしょ…っと。よし、これで一式だ」
「はい。あの、足のほうは大丈夫ですか?」
「ああ、君が手伝ってくれたおかげでね。助かったよ、ありがとう」

店主は妖夢に軽く頭を下げる。
男性に頭を下げられる機会など滅多にない妖夢は、なんだかくすぐったい気持ちになった。

「い、いえ、困ったときはお互い様ですから。幽々子様の無理な注文を聞いていただいたわけですし…」
「ハハ、よくできてるね、君は。あの2人も見習ってほしいもんだ…そうだ」

店主は店の中に引き返すと、すぐにその手に何かを持って出てきた。
小さな紙袋――「甘栗」と書いてあった。

「ちょっとしたツテで手に入ってね。手伝ってくれたお礼だ、君のご主人と一緒にでも食べてくれ」
「そんな…悪いです」
「遠慮することはない。そこの臼と杵のオマケだとでも思ってくれればいいよ」

店主はニコニコしながら、微かに甘い香りの漂う袋を妖夢に手渡す。

「あ…ありがとうございます」
「こちらこそ。正直、これだけの品を一人で動かすのはきつかったからね」

店先でお互いに頭を下げあう古道具屋と客。
みょんに…いや、妙に微笑ましい光景。

「それ、一人で持って帰れるかい?」
「はい。魔法で空に浮かべてしまえばいいので…あの、これ本当にありがとうございます」
「どういたしまして。それじゃ、気をつけて。あのお嬢様にもよろしく」
「わかりました。…それでは、失礼します」
「ああ。今後とも、香霖堂をごひいきに」

妖夢は白玉楼へ帰るべく、空へ飛び上がる。
眼下では、笑顔で手を振る店主の姿。
最後にもう一つだけ空中でお辞儀をして、お札を貼って宙に浮かべた品物とともに飛び立つ。

(やっぱり、人助けってのは気持ちいいなあ…)

そんなことを考えながら、幽々子の待つ自宅へと道を急ぐのだった。



(これは…いつかの…)
『ふーん。なかなか気が利くのねえ』

映像が消え、鈴仙の声が戻ってきた。
先ほどまでの光景は、彼女にも見えていたようである。

(どういうこと?たしかに以前こんなことはあったけど…ただ過去の映像を見せただけじゃない)

少なくともあの映像には、鈴仙の言う「見えるはずのないもの」は含まれていなかったように感じた。

『焦らない焦らない。これは誰の目にも映る表向きの真実…狂気の瞳は、その裏に隠されたものを見抜く』
(隠されたもの?)
『そう、これからあなたが見る映像こそが、見えるはずのない、見てはいけないもの…』

再び鈴仙の声が遠ざかり、新たな映像が現れる。

(一体何なの…?)



[見えないもの]

「ふむ、急にいいものが手に入ったな」

森近霖之助は自室に一人、ちゃぶ台の前に座っていた。
ちゃぶ台の上には皿に盛られた甘栗の山。
ちなみに皮はまだ剥かれていない。

「やはり秋の味覚といえばこれだな…さて」

皿の上の山から、1個の甘栗を無造作につまみ上げる。

「えーと、どうやって剥くんだったかな…」

記憶の隅を探りながら、栗に取り掛かる。



1分経過

「む、これはなかなか手強いな…」


3分経過

「くっ、こんなに難しいものだったか?栗の皮を剥くというのは…」


10分経過

「ハアハア…お、おかしい。昔はできたはずなんだが…」


30分経過

「(ギリギリギリ)こ、この…あま、あま、あまぐり野郎…何で剥けないんだ、クソッタレ…(ギリピキ)」


1時間経過

「ちくしょう…ちくしょおおおおお!!!」


2時間経過

「何故だ!?何故剥けない!!?僕が…僕がいったい何をしたというんだ!!!」


5時間経過

「おきゃあああっ!!栗!くり!クリ!貴様、何様のつもりだコラァァァッ!!!大概にせいクソが、クソが、クソがあっ!!」


8時間経過

「もはやこれは…戦いだ…戦いなのだ…僕の…いや、幻想郷に住む全ての妖怪と人間の尊厳をかけた、甘栗との最終戦争なのだ!!!」


11時間経過

「ふふふ…ふふ、ふふふ…何だ?何が起こっている?どうして…神は僕を見放すのか!!甘栗のこんちきしょうに肩入れしやがってんのか!!」
「神と聞いて歩いて来ました」
「うるせえええええええこのアマァ!!!歩いて帰れ!!僕の邪魔をするな!!殺す殺す殺すぞぉっ!!」


17時間経過

「うっ…うっ…うわあああああああああん!!どうじで、どうじでぼくにいじわるするのぉぉ!!
どぼじでいづもぼくばっかり!!栗が、くりおが、いじめるんだ、ぼくをなかまはずれにしていじめるんだ!!
もうやだ!!もうやなんだよおおおおおおお!!」


霖之助はそのまま泣き疲れて眠った。そして…目が覚めてからしばらくして、未だに甘栗が一つも剥けていない事を思い出し……泣いた……


20時間経過

「甘栗よ」
「僕はもう、泣かない」
「怒りに振り回されることも、憎しみに顔をゆがめることも無い」
「君を認めたんだ。君と言う存在の大きさを、認めたんだ…だから!!」
(霖之助、甘栗の前に土下座)
「お願いします!!剥けてください!!もう後に退けないんです!!ここまできたらやめるわけにはいかないのです!!」
(さらに畳に額をこすり付けるようにして土下座)
「どうかお願いします!甘栗様!!お願いします!!なんでもしますから!!」



「って、あんだけお祈りしたのに剥けねえってどういうことだゴルァア!!やっぱオイラのことなめてんだろ、ああ!?」
「あああああああいってえええええええ!!!!てめえのせいでストレスが溜まりまくって巨大な口内炎ができちゃったじゃねえか!!」
「うああああ甘栗ムカつく口内炎ムカつく甘栗口内炎甘栗口内炎あががががががあああああああっ!!!」
「死ね!死ね!てめーはkshvぃれお;f(何言ってるか不明)にぶつかってマジで90回死ね!!」


23時間42分経過

「あ」

「剥けた」

朝日が差し込む和室。
ついに、森近霖之助は甘栗の皮に打ち勝った。
格闘技雑誌風に書くと、

○森近 霖之助 (12R 102分41秒 KO) 甘栗の皮● 

である。

「…さて、食べるか」
「…」
「…あ、雀が鳴いてる」
「…」
「…空しい」

11時間が経過した段階で、いきり立って壁に八つ当たりのトーキックをお見舞いした霖之助は、気づかぬうちに足の指の骨を折っていた。
怒りと苛立ちと己に対する無力感が脳内麻薬を大量に分泌させ、激痛を彼に認識させないでいたのだ。
そして、戦いが終わった今――

「い…いってえええええええええええええええ!!あし、あし、足の指折れてるうううううう!!!!」

それは、何も知らない魂魄妖夢が香霖堂を訪れる、5時間ほど前のことであった。




(な…な…何これえええっ!?)
『見ての通り。彼の怪我の真相ね』

映像が消え、あまりのショックに愕然とする妖夢。

(も、森近さん…理知的で気さくなナイスガイだと思ってたのに…あの時、微妙にときめきそうな予感さえしたのに…)
『まあ、あるわよね。ちょっとしたことでも、できないと自分の人生の全てを否定されたような気分になること』

たった今妖夢が目にした映像は、まさに「見えるはずのない」真実の姿であった。
月の狂気が、彼女を壊れた真実に対して開眼させたのであった。

(あ、あの時もらった甘栗も、嬉しかったから思わず幽々子様に内緒で独り占めしちゃったのに…)

小さな親切で、心と心が少しだけ触れ合ったように感じたあの日。
狂気の瞳を通して送られてくる映像は、そんな少女の思い出を粉々に打ち砕く。

(み…見たくなかった!!こんな光景、見たくなかった!!)
『ふふ、まだまだこんなもんじゃないわよ。あなたの理性はどこまで耐えられるかしら?』





『インビジブル・トゥルース(見えない真実)シリーズ…その2』

[見えるもの]

夏の暑い日、あれは確か午後だったか。
蝉時雨につつまれた、博麗神社。

「ふう…ここの階段も、なかなか長いわね」

妖夢は汗を拭きながら、眼下に長々と続く神社の石段を眺めていた。
もちろんその石段を歩いて登ったりはしない。
自分は空を飛べるからである。
それでも、夏の日差しは彼女にとってなかなか堪えるものであった。

「あら?」

妖夢が鳥居を飛び越えたところで、縁側に座ってお茶を飲んでいた神社の巫女が来訪者の存在に気づいた。
ちなみにいつもの日本茶ではなく、夏らしい冷やした麦茶を飲んでいた。

「どうも、こんにちは」
「珍しいわね。あんたが一人でここに来るなんて」
「ええ、ちょっと先日の宴会の件で…」

神社の庭に降り立った妖夢。
博麗霊夢は、座ったまま彼女を出(?)迎える。
と、話を始める前に妖夢はあるものを見つけた。

「あれ?それは…」
「え?あ、こ、コレ!?」

霊夢の傍らに置かれた小皿。
今は何も置かれておらず、何かの食べかすのような――固い果物の皮のようなものがわずかに散ばっていた。

「すみません、おやつの時間にお邪魔してしまったみたいで」
「あ、いいのよそんな。気にしなくて」
「そうですか…ところで、その果物は何ですか?あまり見慣れない皮ですね」

失礼かな、とも思ったが、なんとなく気になったので、妖夢は聞いてみた。

「いっ!?こ…これ!?えーとこれはその…そうあれよ!ココナッツ!!」
「ココナッツ?確か…南国の果物でしたっけ?」
「そ、そうそう。偶然手に入ってね。いやー残念だったわね。もうちょっと早く来たらあんたにもご馳走したのに」

霊夢はなんだか動揺していた。
やはり自分の食べた跡を見られて「それは何?」なんて聞かれるのはあまり気分がいいものではないのだろう。
無粋だったか、と妖夢は軽い自己嫌悪に陥った。

「いえ、お気になさらず…それにしても、意外でした」
「へ?何が?」
「霊夢さんが南国の食べ物をお好きって、ちょっと思いつかなかったもので」
「あ、アハハ、そうよねー。まあ、うん、実はすごい好きなのよ、ココナッツ」

霊夢はその場から逃げるように立ち上がる。

「ちょっと待っててね。一応お客さんだし、麦茶くらい出すわ」
「そうですか?わざわざすみません」
「気にしない気にしない」

霊夢は小皿を持つと、そそくさと奥に引っ込む。
そしてすぐに、冷たい麦茶を入れたコップを持って出てきた。

「はいこれ!すごい冷えてておいしいから」
「あ、ありがとうございます。いただきます」

その後は本来の用件のほかに、いろいろと世間話をしながら過ごした。
かつては争いあった二人が、麦茶片手に談笑する夏の午後。
ゆっくりとした時間が流れていった。



『夏の冷え冷え麦茶はほんとにおいしいわよねえ』
(そうねえ…って、だからこれが何だっての?)
『そう考えると残念ね』

鈴仙の声は相変わらず楽しそうに響いた。
意識だけの妖夢は、苛立ちを覚えながらもどうすることもできない。

(…何が残念なの)
『これからあなたは、冷たい麦茶を見るたびに今から見る光景を思い出すのよ』
(何?)
『見るがいい…あの日、あなたが見ることのなかった真実の姿を!』



[見えないもの]

×1 ズーム
「あ、アハハ、そうよねー。まあ、うん、実はすごい好きなのよ、ココナッツ」
霊夢に異常は見られない。
(何これ?さっきの映像にあったシーンじゃない)


×4 ズーム
「あ、アハハ、そうよねー。まあ、うん、実はすごい好きなのよ、ココナッツ」
よく見ると、霊夢の口元に食べかすがついている
(映像の倍率が上がった…これが何だって言うの?)


×10 ズーム
「あ、アハハ、そうよねー。まあ、うん、実はすごい好きなのよ、ココナッツ」
霊夢の口元についた食べかす。何か細長い形をしているようだ
(だからなんだって言うのよ!!)


×15 ズーム
「あ、アハハ、そうよねー。まあ、うん、実はすごい好きなのよ、ココナッツ」
霊夢の口元についた食べかす。それは、奇妙な形をしていた。
鉤爪のように二股に分かれた先端。
規則正しく並んだギザギザの突起。
ところどころにある節で曲がっている、細長い全体像。
――そう、それは。
――まるで、節足動物の「脚」のような…
(い…今のは…カブト…い…いえ!見間違いだわ!きっとココナッツのスジかなにかよ…)


『だめよ、現実から目を背けちゃ』
拡大された映像が霊夢の口元を映し出す中、鈴仙の声が響く。
また映像が変わり、今度は別の場所が映し出される。



「あ~、あっつい…」

庭を掃除しながら、霊夢はその日何度目になるかわからない台詞を吐いた。

「これが終わったら冷たい麦茶で一休みしよう…」

霊夢のたった一つにして、最大の楽しみ。
しかし霊夢は、ここで重大なことに気づく。

「そ…そういえば、お茶請けの羊羹が切れてたんだっけ…」

旨いお茶には旨いお茶請けが不可欠。
霊夢は急いで賽銭箱に走りより、中を覗き込む。

「ない…一銭も入ってない!!」

これは由々しき事態である。
お茶請けを買おうにも、例のごとくお金がない。
家にあるもので何か作る――あるものが、本当に「ある」ものならばね。チクショウ!

「ああもう!お茶請け買う金くらい入れてきなさいよ!お茶請け現物の寄進も可!!」

霊夢は苛立って、横に立っていた木を蹴飛ばす。
と、あるものが霊夢の目に入った。
それは、樹液に群がるカブトムシ――夏の風物詩ともいうべき光景。

「はあ…いいわよねあんたらは。木の蜜さえ吸ってりゃ幸せなんだから…」

恨めしげな目で虫達を見る霊夢。

「全く…甘い汁を吸って丸々と太りやがってからに…」
「丸々と…」
「甘い…」

霊夢の表情が、徐々に変化していく。

「…誰も見てないわよね」

ごくり、と霊夢の喉が鳴った。


それは、何も知らない魂魄妖夢が博麗神社を訪れる、10分ほど前のことであった。



(え、えええええええええええ!?)

映像が消え、再び暗黒の中へ戻る妖夢の意識。

『いやー、さっきも見たけど、あの巫女も苦労してるのねえ』
(ちょ、霊夢さん、アンタ!!いくらなんでもそいつは…)
『まあ何、、まさに『節制』ってやつよね』
(誰がうまいことを言えと)

げに恐ろしきは狂気の瞳、巫女が必死で隠し通した事実すらも見抜いてしまう。
これは過去の光景――それでは、妖夢の意識が現在の世界に戻ったとき、彼女は何を見るのだろうか?

(ああ~なんかマジ笑うに笑えないし!見たくなかった、こんな光景見たくなかった!!)
『だいぶ参ってるわねえ。次でトドメよ…心の内側に潜む狂気に食われてしまうがいいわ!』





『インビジブル・トゥルース(見えない真実)シリーズ…その3』

[見えるもの]

かつて、幽々子が幻想郷中の春を集めようとしたことがあった。
春を奪われた幻想郷には終わらない冬が訪れ、多くの人妖を混乱に陥れた。
しかし3人の人間によって幽々子の野望は打ち砕かれ、幻想郷には数ヶ月遅れの春が訪れようとしていた…。

「まだあちこち寒いわね…はやく春を返さないと」

妖夢は幽々子に言われて集めた春を、今度は幻想郷のあちこちに返して回っていた。
春は「春度」と呼ばれる桜の花びらの形をしており、妖夢の仕事はまだ寒い場所にこれを撒くことである。
ちょうど今は、大きな湖の近くに差し掛かったときであった。
妖夢は湖の畔、一本の木の下に腰掛ける妖精を見つけた。

(そうだ、まだ春が届いていない場所を聞いてみよう)

あちこち飛び回って疲れた休憩がてらに、妖夢はその妖精に尋ねてみることにした。

「あの、すみません」
「…あ、はい」

妖夢は木の近くに降り立ち、妖精に話しかけた。
木の下で何か考えごとをしていた相手は、少し驚いた様子で振り向く。
緑色の髪を黄色いリボンでとめた、見た目は妖夢と同い年くらいの少女であった。

「この辺りで、その…まだ寒い場所はないですか?」
「寒い場所…?」
「ええ、その…まだ、春が来てない場所です」

おそらくこの妖精も、終わらない冬のことは知っているだろう。
さすがの妖夢も、自分が春を奪った一味ですとは言い出せなかった。

「うーん…この辺りはもう随分暖かくなってますよ。あっちの雪山あたりは、まだ寒いんじゃないかしら」

何も知らない妖精は、親切に教えてくれた。

「あ、やっぱり。確かにあそこはまだ雪が積もってますね」
「湖の周辺はもう安心ですよ。この間、お屋敷のメイドさんが春をばら撒いてましたから」
「ああ…なるほど」

湖の対岸の島には、紅い館がそびえ立っていた。
春を取り返しに来た人間の中に、確かそこで働いているメイドがいたような気がする。

「…本当に、今年は冬が長かったですよね」
「え?あ、ああ、はい、そうですね」
「わたしたち妖精には…けっこう堪えました。喜んでる子もいましたけど」

緑の髪の少女は、遠くの雪山を眺めながら語る。
そういえば、妖精と言う生き物は基本的に寒い気候が苦手だったか。
主の命令とはいえ、幻想郷の春を奪ってしまったことに対する罪悪感が今更になってこみ上げてくる。

「でも…もう、大丈夫ですね」
「え?」
「春はやって来ましたから。もうすぐ、あの雪山も桜の色に染まって…みんなでお花見に行って。楽しみです」
「それは…ええ、そうです。春はもう…ここにあります」

嬉しそうな妖精の顔。
やはり、季節は自然にめぐるのが一番だろう。
人間達に敗れたのは確かに悔しかったし、主を傷つけた者達はゆるせなかった。
しかし、これでよかったのだ。
木々が花が咲かせ、それらがやがて緑に変わり、夏がやってくる――そんな、当たり前の時の流れ。
そんな景色の移り変わりを眺めながら、ゆっくりと過ごそう。幽々子様と一緒に、お茶でも飲みながら。
妖夢の心にも、柔らかい春風が吹いているようだった。

「さて…それでは、失礼します。教えてくださって、ありがとうございます」
「はい、どういたしまして。あなたは…雪山に、何をしに行くのかしら?」
「それは…いえ、ほんの用事です」

親切な妖精に頭を下げると、妖夢は空へ舞い上がる。
さあ、一刻も早く春を届けに行こう。

「気をつけてね。雪山はまだかなり冷えるから」
「はい!色々ありがとうございます…それでは!」

笑顔で手を振る妖精。
妖夢はもう一度頭を下げると、全速力で雪山を目指した。



『あの冬の事件ってあんたらのせいだったのか。全く、迷惑ったらありゃしない』
(申し訳ありません…って、現在進行形で異変を起こしてるあんたに言われたくない!!)

さすがに3度目ともなると、妖夢にもこの後の展開がわかってきた。

(で、何?どうせまたろくでもない裏話が展開されるんでしょ?)
『あら、面白くない反応ね。まあいいわ…この後の光景を見て、完全に壊れてしまいなさい!!』

鈴仙の叫びに呼応するように、新たな映像が現れる。



[見えないもの]

寒い場所を尋ねて飛び立っていった少女を見送ったあと、緑の髪の妖精は再び木の下に腰を下ろす。

「ふう…よかった、やっぱり春は来てるんだね…」

彼女の名はわからない。
ただ周りの妖精は、彼女のことを「大妖精」と呼んでいた。
別に体がデカイとかではなく、妖精にしては若干強い力を持っている、と言う意味だ。

「そっか…そうだよね…うん、あの山にも春は来るんだ…」

膝を抱え、その間に顔を埋めながら独り言を続ける。

「そうしたら…戻ってきてくれるかな?チルノちゃん、湖に帰ってきてくれるかな…」

大妖精の肩が震えていた。笑っているのか、泣いているのか。
果たして答えはその両方であった。

「帰ってくるよね…だって春になったら、雪も溶けちゃうし…あの妖怪も消えちゃうから、チルノちゃん、一人になっちゃうよね…」
「あの妖怪…あの…チルノちゃん、ずっと帰ってこなくて…あの、冬の妖怪…チルノちゃんとった…」
「どろ…ぼう…ねこ…」
「…っ!!!」

突然、大妖精は顔を上げ、立ち上がる。

「あのっ!!冬のっ!!妖怪っ!!太ましいっ!!悪女!!」
「たぶらかしたんだよねえ~チルノちゃんを!!何にも知らない、白無垢のような心を持った純粋なチルノちゃんを!!」
「わたしのチルノちゃん!わたしだけのチルノちゃんを!ああああああああああああああああああああ!!」

大妖精は懐から藁人形を取り出すと、そばの木に勢いよく打ちつける。
ガンガンガン、五寸釘を木槌で叩く音。

「許さない!許さないけど、もうアンタも終わりだねええ!!春だもんね、待ちに待った春様のご到着だからねえ!!」
「アハ、アハハ、アハハハハハハ!!どこぞのクソ馬鹿野郎が春を奪ってくれやがったせいで、随分長いロスタイムがあったけど!」
「それももうホイッスルさ!!チルノちゃんが帰ってくる!!チルノちゃんがわたしだけを見てくれる!!」

もはや五寸釘は完全に木にめり込み、叩く意味はない。
しかし大妖精は、恨みを込めて木槌を振り続ける。

「誰にも渡さないんだから…チルノちゃんはわたしの朝ごはんを食べて、わたしと遊んで、わたしとお昼ご飯を食べて、
わたしとお昼寝して、わたしと夕飯を作って、わたしと一緒に食べて、わたしの腕の中で眠りにつくんだから!!」
「ふふ、アハハ、春よ来い恋早くこいぃぃ!!」

その瞬間、勢いよく振りかぶった木槌が、藁人形を抑える大妖精の手を直撃した。

「いひゃいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!」

指を押さえ、そこらを転げまわって悶絶する大妖精。

「痛いよ、痛いよチルノちゃん…指が痛いよ…うぇっ、心が、心が痛いよぉ…」
「痛いよチルノちゃん…痛いよチルノちゃん痛いよチルノちゃん痛いよチルノちゃん痛いよチルノちゃん
痛いよチルノちゃん痛いよチルノちゃん痛いよチルノちゃん痛いよチルノちゃん痛いよチルノちゃん痛いよ
チルノちゃん痛いよチルノちゃん痛いよチルノちゃあああん!!」

泥だらけになりながらそこらじゅうを転がりまわった挙句、急に静かになる。
地面にうつぶせに寝そべった彼女の口から、細い声が聞こえてくる。

「ねえ…チルノちゃん…早く、早く帰ってきてよお…寂しいよぅ…チルノちゃん…」
「チルノちゃん…こんなに愛してるのに…愛してるのに…」
「愛してるよチルノちゃん…チルノちゃん愛してるよ…チルノちゃん愛してるよ…」

その声は、人気のない湖に、いつまでも響いていた…。


それは、何も知らない魂魄妖夢が湖を去って、すぐ後のことであった。




映像がフェイドアウトし、暗闇が戻ってくる。

(って、こええええええええええっ!!?)
『あー、その、なんていうか…うん』
(ああぶなかったなもう!あの時『わたしが春を集めてました』とか言わなくてよかったああ!!)
『間違いなく殺されてたわよアンタ…』
(何といいますか、人は見かけによらないといいますか…)

実際にこの映像を見せた鈴仙も、さすがに引き気味である。
つーかこの作品、マジで大丈夫か?
読者の皆さん、これはネタだから。あくまでネタだからね。
本気にしないでね。

(ほんっっっとに!!見たくなかった、こんな光景見たくなかった!!)
『ふふふ…いかが?狂気の赤い瞳に映るものは』
(最悪もいいとこよ!)
『視覚を月の狂気に侵されたあなたは、これから日常のいたるところでイヤでもこんな光景が見えてしまうの』
(…何ですって?)
『いい?あなたは望みさえすれば、この精神世界を抜け出して現実に戻れる』

鈴仙の声が告げる事実。
妖夢には、それをただ聞くことしか許されない。

『しかしあなたの壊れた瞳に映るのは、見えるはずのないものが全て見える世界。そんな世界で、あなたの心は生きていけるのかしら?』
(それは…)

考えてみる。
今はすぐにでも現実世界に意識を戻し、目の前の敵、つまり鈴仙を倒すのが先決だろう。
しかし、そもそも――自分は戦えるのか?
ただでさえ赤眼催眠によってダメージを受けた状態、加えて「見える」視覚。
仮に勝ったとしても、その後の生活にどんな影響が出るのか想像もつかない。

『同様に、あなたが望むならば、この闇の中で究極の安寧を得られるわ』
(究極の安寧…)
『そう。あらゆる真実が見えてしまう現実を捨て、幸せな記憶だけに浸っていられる自分だけの世界』

そう、この世界では自分は決して傷つくことはない。
先ほどのような映像も、自分が思い出すものを選べる限り――見えることはないのだ。

(だが…なめるな!!)
『あら、そう?』
(わたしの目的は一つ!貴様を倒し、幻想郷の満月を取り戻すこと!!)
『残念ね。あなたを助けるつもりで言ったんだけど』
(言ってろ!たとえわたしの目に映る世界がどう変わろうと…魂魄流に後退の二文字はない!!)

闇が壊れていく。
妖夢に――まだ、完全には回復していないが――身体の感覚が戻ってくる。
そして、赤みがかかった視界が、開けた。



「ど どうしたんだ妖夢ー!?」
「うずくまったまま動かなくなっちゃったわー!!」

妖夢は刀をついて立ち上がろうとした姿勢のまま、動かなくなっていた。
動きが止まっている間、鈴仙が何かを話しかけ続けていた。
妖夢は言葉すら発しない。

「思いのほか、強い催眠がかかったみたいね…」

紫は先ほどの霊夢の状態と比較しながら、戦況を分析する。

「ああっ、みんな見て!!」

不意に、アリスが驚いたように声をかけた。
彼女が指差す先、妖夢がゆっくりと立ち上がろうとしていた。

「妖夢…無事なのか?」
「それより、あの目はまだ治ってないの!?」

魔理沙と霊夢は驚愕しつつも、妖夢の復活表情を輝かせる。

「幽々子」
「…ええ」

紫と幽々子は既に気づいていた。
立ち上がった妖夢の様子が、先ほどと大きく異なっていることを――。



「あら、本当に立ち上がって来たのね」
「…」

鈴仙は若干驚いた顔で、二本の足で危なげに立つ敵を見据える。

「どう?月の狂気に侵された瞳で見る世界は?」
「…」

妖夢はうつむいたまま、何も言おうとしない。

「…何も言わないのね。やっぱりあなたの理性は耐えられなかったのかしら?」
「…いよ」
「何?」
「…耐えられないよ」

妖夢がゆっくりと顔を上げる。
鈴仙と同じ、狂気の宿る赤い瞳。

「ふーん、そう。ならあのまま、心の中に閉じこもってればよかったのにね」
「…ああ、こんな世界には耐えられないね…そう『あの子は』」
「あの子…?」

妖夢の顔には、笑みが浮かんでいた。
それはさっきまでの妖夢のそれとは違う、どこか禍々しい笑み――。

「くっくっく…ああそうさ。あの子は…あの生真面目な庭師は絶対に、こんな世界にゃ耐えられないねぇ」
「何!?」

さすがに鈴仙も、妖夢の変貌振りに気づく。

「だからわたしが出てきたのさ…あの子をこんな目が残る身体に戻すわけにゃ、いかないさね」
「あ、あなた誰よ!?」
「ん~?わたしぃ?そりゃ、魂魄妖夢さ…霊側の、ね」

妖夢と名乗る、しかし明らかに先ほどとは別人の妖夢。
先ほどのてゐとアリスの戦いの途中にも、アリスがまるで別人のように変わったが、あれとはまた違う。
あの場合は、魔界の神技を使用するために自らテンションを昔の状態に引き上げていただけである。
「気分の切り替え」と言ってもいいかもしれない。
しかし、今の妖夢は間違いなく――別の人格と入れ替わっていた。



「やはり…出てきたわね、あちらがわの妖夢が!!」
「し 知っているの幽々子ーっ!?」

幽々子は悔しそうな、しかしどこか嬉しそうな表情で声を上げた。
霊夢は思わずお馴染みのリアクションで尋ねる。

「あれは言わば『裏』の妖夢…普段、あの子の半霊の中で眠っている人格よ」
「半霊の中で!?あれってそんな使い方をするもんなの?」
「そう…あれは魂魄の血、半人半霊の一族の宿命…」

幽々子は霊夢の質問に答えるように、ゆっくりと語り始めた。


半人半霊という 人間と幽霊のハーフとも言うべき存在
人間のような身体(半人)と 浮遊する幽霊のような物体(半霊)を合わせて 一個体とする
幻想郷でも滅多に見られない この者たちの中には
人間サイドと幽霊サイド その両方に人格が存在する一族がいるという
この場合 人間側の肉体にある人格が 表面に顕現し
幽霊側の人格は 半霊の内部で 休眠状態にある
半霊は 肉体側の人格によって操られるため その中の人格が覚醒していては 問題が生じるためである
これが本来の状態なのだが これらの人格は 肉体と半霊の間で 交換することが可能なのである
人間側の人格は 自分の肉体を別の人格に預けることを嫌うため 基本的にこの入れ替えは起こらないが
稀に(人間側が精神的に大きなダメージを受けたときなど) 緊急避難として 幽霊側が 肉体を操ることがあるという

SIRASAWA歴史文庫 「カロリーも2分の1 半人ダイエットのススメ」より


「…というわけよ」
「じゃあ、あの妖夢は…」
「そう、妖夢の半霊の中に封じられた別人格よ。もとの人格は、今は半霊の中で眠ってるわ」

幽々子が語る恐るべき真実。
いつも妖夢の側を浮遊している半霊には、そんな秘密があったのである。

「でも、味方なんでしょ?」
「…まあ、一応はね」
「どうしたのよ?歯切れが悪いわね」

珍しく、幽々子が苦虫を噛み潰したような顔をしている。
霊夢にとっても他の仲間にとっても、あまり見たことのない表情であった。

「ねえ、あの子ってたまに言葉使いがおかしくなるでしょ?」
「もしかして、あの『みょん』とかたまに言ったりするアレ?」
「そう、あれは半霊側の封印が甘くて、そっちの人格が無意識に現れてる証拠なの」

ほんとに未熟なんだから、と幽々子は続ける。

「それで?」
「う~ん、幽霊側の性格に…ちょっと問題があってね。まあ、あれがこっちの妖夢に足りないものなのかもしれないけど」
「性格?」



もう一つの人格を顕現させた妖夢は、刀を構えて鈴仙と対峙していた。

「あっちのわたしをあそこまで追い詰めるとは…なかなかの精神攻撃みょん」
「ありがとう。これであなたが出てこなかったら、もっとよかったんだけど」
「そうは行かないみょん。わたしとあいつは2人で1人、助け合う関係みょん」

鈴仙は今ここにいる妖夢に、言いようのない威圧感を覚えていた。
なんだかさっきから話し方がおかしいとか、そういうことを抜きにして。

「ま、それにしても…どうやらあんたを倒すのがあっちの妖夢タンの目標らしいみょん」

さらにこの妖夢、構えに一分の隙もない。

「覚悟を決めるみょん、うさぴょん」
「ふん、そっちこそ(うさぴょん?)」

一度は決まりかけた勝負は、第三者の介入によって再び振り出しに戻った。
2人の少女はの赤い視線が交錯する。

「チェストォー!!久々に暴れまくるみょん!!」
「何度だって、あんたを狂気のどん底におとしてあげるわ!!」

妖夢と鈴仙はほぼ同時に仕掛けた。
さあ、幽霊側の妖夢の戦いの腕前やいかに。
…そこ、解説の前後で口調が違いすぎとか言うなあっ!!




「速攻で決める!狂符『幻視調律(ビジョナリチューニング)』!!」

鈴仙はスペルカードを発動した!

「川´∀`)神技ディフェンスみょん」

しかし かわされてしまった!



「まだまだ!懶符『生神停止(アイドリングウェーブ)』!!」

鈴仙はスペルカードを発動した!

「川´∀`)柔の北斗神拳みょん」

しかし ゆるゆる~っとながされてしまった!



「くっ、やるわね!ならば、散符『真実の月(インビジブルフルムーン)』!!」

鈴仙はスペルカードを発動した!

「川´∀`)エイリアスみょん」

そいつは幻だ!本体と幻が入れ替わりながら攻撃している!おまえの十文字霞切りも効かぬ!



「な…なんてやつ!わたしにこれを使わせるなんて…月眼『月兎遠隔催眠術(テレメスメリズム)』!!」

鈴仙はラストスペルを発動した!

「川´∀`)これしかないみょん」

当たる面積を最小にして波紋防御!



「あーっもう!いいかげんにしなさい!!『幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)』!!」

鈴仙はラストワードを発動した!

「川´∀`)集中!!!!相手距離確認!可動範囲確認!呼吸律動確認!右脳回転!想像力発射!!
集中力限界突破!!!!『確 定 予 測』 結果 映像!!!!!『奥儀発動』みょん」

しかし かわされてしまった!まぐれでは ないのだな!



「うああああああああ!!なんで当たらないのよ~っ!!」
「もう終わりかみょん、うさぴょん」
「くそ、こうなったら赤眼催眠でもう一度…」
「もう一度もクソも、これ以上かからないみょん」

妖夢の瞳は完全に赤く染まり、しかし狂気に操られてはいない。
というか、霊側の妖夢は狂気そのものなんじゃまいかと思う俺ガイル。

「ええーっ!?じゃあもう打つ手無しじゃないのよォ~!!」
「うさぴょん、それを自分で言ってしまうとは愚かみょん」

二刀を構えたまま、妖夢は鈴仙に近づいていく。

「もう終わらせるみょん。というか作者が疲れ気味みょん」
「ああ、それは確かにさっきの投げっぱなしな戦闘描写からも伺える…じゃなくて!」

慌てる鈴仙。
しかし、そこは既に妖夢の必殺の間合い。



「ハッ!いけない!みんな下がって!」

幽々子は急に慌てて、霊夢たちを下がらせようとする。

「ど、どうしたのよ幽々子?」
「いいから!巻き添えを食わないように、離れるのよ!」

幽々子は妖夢が必殺の構えに入るのを見て、すぐに仲間を安全な位置に誘導したのである。
その証拠に、妖夢の周りに巨大な魔力が渦を巻くように集まってきていた。



「ええ、な、何!?この威圧感は!!」
「川´∀`)Rock’n Roll!!」

妖夢は足が床にめり込むほど強く踏み込み、両手の刀に魔力を集中させた。

「M(マチヨイ)・H(ハンシャ)・E(エイセイザン)!!」

それは妖夢のラストワードにして、魂魄流の最大奥儀。
妖夢の太刀筋を完全に見切った鈴仙でも、この技をかわすことは至難だろう。

「Scheibe!!」

気合い一閃、楼観剣と白楼剣の切っ先から無数の弾が放たれる。
それは何条もの線の形をした弾幕となって鈴仙を襲う。

「ううっ…わたしは、こんなのところでやられるわけには!」

鈴仙は気合いで弾幕の隙間を縫い、避ける。
しかし、避けて動いたその場所に、神速で踏み込んでくる妖夢。

「えっ…!!」
「さらばだみょん、かわいいうさぴょん」

次の瞬間そこにあったのは、二刀を鞘に収める妖夢と、空中を舞い、ゆっくりと落ちてくる鈴仙の姿。
あまりにも一方的に、そしてあっけなく勝負は着いた。

「峰打ちみょん」

妖夢がそう言ったのと、鈴仙がドサリ、床に落ちるのはほぼ同時であった。



幽々子によって退避させられた霊夢たちは、離れた場所から快哉を叫んでいた。

「や やったわー!!」
「妖夢のヤツ、圧倒的な戦力差で兎を倒しやがったー!!」

このリアクションがなきゃ男塾のパロディなんて誰も思わないだろうな。
ほんとに霊夢と魔理沙には助けてもらっている。

「確かに変な口調、変な戦い方だったけど…」
「別に問題なかったじゃない。ていうか、『裏』のほうは随分強いのねえ」

紫とレミリアも、素直に妖夢の健闘を讃えていた。
一方でアリスは、メイドがなにやらブツブツと言っているのに気づいた。

「ん?咲夜、どうしたの?」
(言えない…§´∀`)の方が世に出たのは先だったのになんて言えない…)

五十歩百歩、おまいら両方ともめるぽのフォロワーやん。

「わかってない…みんな、あれのホントの恐ろしさをわかってないのよ…」

幽々子だけが一人、緊張した面持ちを崩さないでいた。



「く…」
「うさぴょん、無理して動かない方がいいみょん」

妖夢は倒れた鈴仙を見下ろしていた。
峰打ちとはいえ、待宵反射衛星斬の斬撃を食らったのだ。
もはや鈴仙に立てるだけの体力は残っていないだろう。

「わたしはこのまま半霊の中に戻って眠りにつくみょん」
「…」
「うさぴょんに注入された狂気も、一緒に半霊の中に封印するみょん」

裏妖夢は静かに話し始めた。
鈴仙は黙って耳を傾ける。

「これで、もとの妖夢タンの人格が体に戻ったら全て元通りになっているみょん。もちろん、お目々の色も」
「そんなことが…できるの?」
「狂気も正気も人格の一部みょん。半霊の中で眠らせればいいみょん」

これで赤眼催眠の影響もゼロになってしまった。
鈴仙の攻撃は、突然現れた「裏の人格」とやらにすべて無効化されてしまったことになる。
完全な敗北であった。

「わたしは妖夢タンを守る存在みょん。ピンチが過ぎればさよならみょん」
「そう…まさか、そんな切り札があったとはね」
「だけど、今日は久々に外に出れたみょん。次はいつになるかわからないみょん」

そう言うと裏妖夢は膝をつき、倒れた鈴仙に顔を近づける。

「な…何よ!?」
「せっかくだから目一杯楽しんでから帰るみょん」

未だに赤い妖夢の目。
その目に、淫蕩で邪悪な色が表れていた。

「ふっふっふ…ラッキーだみょん。ちょうど足腰立たなくなったカワイイうさぴょんがいるみょん」
「ええっ!?ちょ、ちょっと何をする気!!」
「決まってるみょん。一言で表すと『川´∀`)いただきます』だみょん」

がばっ。
身動きの取れない鈴仙に、妖夢は覆いかぶさる。

「や、やだ、ちょっと冗談でしょ!?」
「冗談じゃないみょん…うりうり、こうしてやるみょん」
「ひぇ、や、ちょっとそんなとこ…ふあっ!!」


[作者脳内会議・議長の言葉]
以下、裏の妖夢が色々とアレな暴走をしてしまったため、細かい描写及び鈴仙の喘g…セリフを削除させていただきます。
ぶっちゃけて言うとつまり、裏妖夢のセリフだけを公開します。色々想像してお楽しみください。


(中略)

「うふふ…下のお口は嫌がってないじゃないか、うさぴょん」

(中略)

「うさぴょん、エロいよ。わたし、もう止まらないみょん」

(中略)

「鳴かせる!誰にも聞いたことのない声で…うさぴょんを鳴かせるみょん!」

(中略)

「ところで楼観剣、白楼剣につづく第3の剣があるみょん。こいつをどう思う?」

(中略)

「ほら、入ったみょん!根元まで入ったぁっ!んああぁっ…」

(中略)

「うおお、すごい…ほら、わたしの半霊はどこにいった?そうか、おまえの×××の中かっ!」
「見えないと思ったら、そんなところに隠れていたのかぁっ!」
「あんなでかいものがおまえのそこに入っているのかっ!」
「見ろ、隙間もないっ!」

(中略)

「参ったぁっ!わたしは参ったぁぁっっ!なぜなら気持ちよすぎるからだみょんっ!」

(中略)

「気持ちいすぎてわたし…お国がわからなくなっちゃうみょんッ!!」

(中略)

「川´∀`)」

(昇天)

[作者脳内会議・議長の言葉]
ありがとうございました。
ここからは、普通どおりに文章を読むことができます。
なお、カットされた文章を読むには、ワッフルワッフルと書き込んでも何も起こりません。



「うさぴょん…最後にいい思い出をありがとみょん。キミのこと、絶対に忘れないみょん」

裏妖夢は、ぐったりしている鈴仙に語りかけていた。
そして、なんだか妙にヌルヌルテカテカしている半霊に目をやる。

「人間側の妖夢タン…ゆゆ様を頼んだみょん。いま、身体を返すみょん」

ゆっくりと目を閉じ、別れを告げる。

「さよなら…うさぴょん、またいつか会ったときは…その時は、敵同士以外の間柄でありたいみょん」

妖夢の身体が一瞬、強い光を放つ。
そして次の瞬間――糸の切れた人形のように、床に崩れ落ちた。
次に目を覚ましたとき、そこにいるのは何も知らない妖夢だ。
この戦いと、その後に繰り広げられたまあなんと言いますかいろいろアレな展開を知らない、人間側の魂魄妖夢である。
自分が半霊の中で眠っていた間のことは、これからも知ることはないだろう。
なぜなら、彼女に狂った赤い視覚を与えていた月の狂気は既にないから。
自身の危機を救ったもう一人の自分とともに、半霊の中で眠りについているから。

「ん…」

ゆっくりと、妖夢に意識が戻ってくる。
精神世界から抜け出す瞬間に、入れ替わっていた人格の片割れ。

「…あれ?」

そして彼女は気づくだろう。
ついさっきまで自分を追い詰めていた相手が、横で気絶して倒れていることに。
疲れきった、しかしどこか満足げな表情を浮かべたままで。



鈴仙・優曇華院・イナバ 死亡確認

TRY NEXT STAGE→



「あー、その、幽々子?」
「…何かしら」
「やっぱ弱くても、いつもの妖夢がいいな」

魔理沙の言葉に、一人残らず顔を真っ赤にした仲間達がうなずく。

「…あれって半人半霊の特徴なの?」
「少なくとも魂魄家の者には、まず例外なく」

紫が尋ねる。
そして幽々子が答える。
互いに、妙に熱っぽい声で。

「…ねえ、妖忌がいなくなった理由って…」
「言わないで紫、お願いだから…」

やがて、妖夢が仲間達の元へ戻ってくる。

「あの、なんか気がついたら敵が倒れてたんですけど…どなたか助けてくれたんでしょうか?」
「いやいや妖夢」

幽々子は必死で笑顔を作り、目の色まですっかり元に戻った妖夢を迎える。

「すべてあなたの実力よ。妖夢、胸を張りなさい」



鈴仙を倒し、一行はさらに先を急ぐ。
薄暗い屋敷の中、目指すものはただ一つ。
幻想郷から満月を奪った真犯人。
必ずやその正体を突き止め、本物の月を取り戻す。

(主人公として…次回こそはかっこよく活躍する!)
(わたし、もう解説キャラで最後まで行くのかなあ。やれやれだぜ)
(あの物置に閉じ込められている間に時間が動いた…不覚!)
(う~ん、どうやって勝ったんだろ、わたし)
(上海と蓬莱、なんか落ち込んでるわね…どうしたのかしら?)
(妖夢を再教育する必要があるのかしら。教育したことないけど)
(読者のみんな、わたしが言うのもなんだけど、藍のこと忘れないでね~)
(このレミリア・スカーレット…次こそ出番がないと、丸焼きよ~っ!!)

8人の少女達はそれぞれの思いを胸に、長い長い廊下を行く。
彼女たちはまだ知らない。
この先に待ち受ける、真の強敵。
てゐが鈴仙を何から守りたかったか。
本当の月に起こっている、想像を絶する事実。
そして…己の運命。
レミリアお嬢様は知ってるんじゃないかって?
あのお方は次回の出番が気がかりでそれどころではないのだ。俺のせいだが。
とにかく。
幻想郷を襲った、未曾有の大事件。
霊夢たちは真実の月を取り返すため、力を合わせて全米川下り選手権に出場する。





―魁!!東方塾 永夜大四重凶殺編 第2部 IT’S REQUIEM FOR 大妖精―







TO BE CONINUED…


こんばんわ!ぐい井戸・御簾田です。
前回を遥かに上回る酷さ。もーね、ホントにすいませんでしたっ!!て感じです。
とりあえず土下座。主に大妖精のファンの方々に。
このお話は次回で完結、の予定です。
よければ最後までお付き合いください。
何はともあれ、楽しんでいただけたら幸いです。
ぐい井戸・御簾田
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コメント



0.3570簡易評価
5.100竜造寺削除
神社]―ω-≧、。о{・+*§・∀・)b∑・+*)
7.100アティラリ削除
ワッフルワッフル
いや相変わらずのカオスっぷりで
11.100名前が無い程度の能力削除
○槻でトドメ刺された。腹筋50回相当は笑かして頂きましたよ。
14.80翔菜削除
だからwwww酷いと言ってwwwwwうぇwwwwww
15.100名前が無い程度の能力削除
50点で終わらせるには惜しすぎるので。
GJ!
20.100SETH削除
相変わらず酷すぎる!こんなのに点数は1点たりともやれ・・・・

な なにっ 手 手が勝手に デジャヴッ
26.100名前が無い程度の能力削除
ヤローテメーふざけんなwwwwあれ?漏れまで手が勝手に、お、おおおおお!?
32.100名前が無い程度の能力削除
どこまで笑かしてくれますか、貴方は。

それにしても、FSS の読者って多いんですねぇ……
33.80A削除
酷い…この言葉しか浮かびませんwww
しかし…
テメーの場合 全然
カワイソーとは思わん
36.90名前が無い程度の能力削除
やれやれ…まったくやれやれだ。だが…
    そ れ が い い
38.100名前が無い程度の能力削除
ちょwwwwwwww半分wwwwwwwwww
41.100レティ・オレンジロック削除
真実は時として残酷だ。
何が言いたいかっていうと
甘 栗 む い ち ゃ い ま し た
45.90名前が無い程度の能力削除
こーりんが出てきてまたいつものHGかと思ったらああ来るか。うまい
47.100名前が無い程度の能力削除
ラバーソウル・・・
51.100名前が無い程度の能力削除
裏妖夢・・・w
54.100サブ削除
すごくカオスです・・。

>「実はすごい好きなのよ、ココナッツ」
くそっ!絶対にレロレロって言ってくると思ったのに!
55.90空欄削除
裏みょん絶対ヤりすぎみょん。
58.90大根大蛇削除
前編終盤~後編冒頭辺り、特にアリスが本気出した所なんてゾクッときたのに……。
――全部台無し。でもそれが快感。大妖精に心の底から萌えました。いやほんとマジで。
藪沢君まで出てきて本当お腹一杯なのに、まだ続きが読めるなんて……幸せです、自分。
そして、今更ながらに貴方のP.Nが、実力から言って次の幹部の人だと気付きました。
「『ぐいいど・みすだ』って面白いなぁ」とか普通に思ってましたよ……。
61.無評価ぐい井戸・御簾田削除
>大根大蛇さん 前後編ともにコメントありがとうございます。よかった、フランス代表わかる人がいて…
>空欄さん 表と裏の境界は、あなたのすぐ側に…!ということですw
>サブさん 貧困でアレに手を出しちゃう辺り、ちょっと浦安鉄○家族も混じってます。
>名前が無い程度の能力さん いろんな意味で「裏」なわけですよw 
>名前が無い程度の能力さん だんだんふしぎなよ~るが~♪
>名前が無い程度の能力さん 「いつものHG」というあなたの表現もうまい…!
>レティ・オレンジロックさん ちなみに甘栗独り占めした妖夢は後でゆゆ様に かゆ うま
>名前が無い程度の能力さん 半分?半霊のことでせうか、うどんげの×××の中の…ケヒヒ
>名前が無い程度の能力さん はじめてこんな長編でバカ話を書いたが…思ったより どうってことはあるな(体力使うんです、正直)
>Aさん  俺の作品の感想でよく出る単語のトップは何か知ってるか?「酷い」が1位で「カオス」がその次だ おまえさんがその順位を入れかえるつもりか?
…あ、入れかわんねーやw
>名前が無い程度の能力さん FSS大好きです。とくに待宵反射衛星斬のシーンの元ネタは最高ですー
>名前が無い程度の能力さん 真のふざけはここからだ!
>SETHさん ピストルズ、てめーらも腹をくくれ!(SETHさん、一つ上の名前がない程度の能力さんはおそらくスタンド攻撃を受けています。してるのは僕ですが) 
>名前が無い程度の能力さん ありがとうございます!次もそう言っていただけるよう頑張ります!
>翔菜さん 酷くするのも一苦労(ほっといたらアリスVSてゐのバトルがギャグなしで終わるとこでした)w
>名前が無い程度の能力さん いまのk○yにはあの人が必要なんですよ!
>アティラリさん な、何も起こりませんよ!書き込んだってうどみょんのネt(ry
>竜造寺さん …とりあえず、藍さまに解読してもらってきますね

…いかん、レス返しにまで変なネタがちらほらと…。
とりあえず読んでくださった方全員に!
ありがとうございました!!次回も頑張ってもっともっと面白い作品を目指します!!
63.100ハッピー削除
酷く・・・カオスです・・・

ってか、裏妖夢のせりふより鈴仙のせりふだけにしたほうがより臨場感があってよかっt(エンセントデューパー
69.80名前が無い程度の能力削除
ワッフルワッフル!!
75.100とらねこ削除
 見えるはずの無い真実に笑った。霊夢哀れ。貧乏なのがじゃなくて、そういう設定をつけられた事が。
93.90名前が無い程度の能力削除
大妖精怖いよ~