季節は三月
冬ももう終わり、リリーブリーダー達にとっては一年で最も大事な時期が訪れる
それは・・・春の産まれる日
「えーと、去年は収入がこれだけで、支出が・・・・・・」
「また大赤字ウサね~・・・」
竹林の奥深くに潜む永遠亭、その広大な屋敷の一室で今日も二人の兎が溜息をついていた
部屋の真ん中にぽつんと置かれたちゃぶ台の上には、赤色でびっしりの家計簿
「・・・去年は収入がこれだけで支出が・・・」
「れ、鈴仙、何度数えなおしても結果は同じウサよ?」
「うう・・・去年は収入がこれだけで支出が・・・支出が・・・ふぇぇぇぇん!!」
「鈴仙泣かないで! 私の稼ぎで何とかなるウサ! 大丈夫ウサよ!」
「・・・ぐすっ・・・毎年毎年てゐに負担かけてばかりで・・・ひぐっ・・・ごめんねぇ・・・てゐ・・・」
「気にする事無いウサよ! 私達は運命共同体ウサ! だから頑張るウサ!」
「(ぐしぐし)・・・うん・・・うんっ、そうだね! 今年こそ・・・この赤字を半分以下にしようね!」
「そ・・・そうウサね・・・(あわわ、すっかり貧乏癖がついちゃってるウサ・・・)」
『エイ、エイ、オー!!』
寝静まった永遠亭の廊下に威勢を煽る掛け声が響く
貧困極まるこの屋敷で、未来への希望を捨てない二人の弾兎
これから彼女達の未来には、一体何が待ち受けているのか――。
夜が開け、日光が幻想郷を淡く照らす頃
「フジヤマヴォルケイノオオオオオオ!!」
「ブリリアントドラゴンバレッタ!」
とある竹林で赤く燃え盛る不死鳥と一人の姫が殺し合いをしていました
「んぶわっ!」
不死鳥は弾幕に吹き飛ばされ
「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!」
姫は爆炎に消し炭にされましたとさ
「終わったわ、鈴仙、てゐ、残骸を回収して」
「はーい」
「はいウサ~」
たんぱく質が焼けた臭いが充満する中、火バサミを片手に姫の残骸をひょいひょいと回収していく兎二人
もう何度もやってきた事なのでその動きはまさに奉仕活動のプロのようである
「ここは上腕骨・・・ここは鎖骨・・・ああ、崩れた!」
「うう・・・やっぱり慣れたといっても嫌になるウサね~・・・」
どうせなら飛び散った妹紅も回収して混ぜてやろうかとも考えながら
鼻歌交じりに背中に背負った籠へとひょいひょい放り込んでいく
「二人とも、後は任せるわ、混ぜたら承知しないわよ」
「はーい」
「はいウサ~」
一瞬ギクリとしながらも、飛び去っていく永琳を尻目に回収を続ける二人
竹林中に飛び散った破片は思いのほか多く、全て拾い集めた頃にはすっかり日も真上まで来ていた
「はぁ~、ようやく終わった~」
「お疲れウサ~」
「ふっかーつ!!」
全部拾い集めて一つに纏めると、途端にびかーっと籠が光り輝き
中から黒髪の女性がぬっと沸いて出てきた
「わわっと・・・姫、せめてリザレクション一回分ぐらいの魔力は残しておきましょうよ~」
「そうですよー、毎回毎回拾い集めるのも骨が折れるウサー」
「何か言ったかしら?」
「「いえ、何も」」
結局姫の眼光の前に成すすべなく目をそらす二人
だが彼女達は気づいている、魔力を使い果たした姫などチルノにすら劣る事を
永琳の存在さえ無ければ確実にツープラトンスープレックスを決めていることだろう
兎は臆病だがやる時はやるのだ、でもやれない、永琳がいるから
「お腹がすいたわ、イナバ、お昼ご飯は?」
「師匠がもう作り終えてる頃だと思います」
「そう、さすが永琳ね」
返答を聞くと同時にくるりと向きを変えて永遠亭へと飛んでゆく姫
その後姿を見つめながら、鈴仙は大きく溜息をついた
「・・・てゐ、私達も帰ろう」
「・・・・・・・・・・・・」
「てゐ?」
反応が無いことに気づき、振り返ってみれば
そこには足元を真剣な表情で見つめているてゐの姿があった
「どうしたの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・てゐーっ!!」
ズドン!!
「うひゃっ!?」
威勢のいい掛け声と共に白兎の両腕が地面へと突きたてられる
一旦止まったかと思うと、そのまま腕をグリグリと動かして土の中へと捻じ込む捻じ込む捻じ込む・・・
「て、てゐ?」
「んん~・・・・・・・・・・・・見つけたウサーーーーっ!!!」
ボォンッ! と豪快に土が舞い上がり土煙が辺りを覆う
だがすぐに煙も静まり、何かを持ち上げているてゐの姿が徐々に露になる
その腕の先には、淡い光を放つ丸くて白くてふさふさとした毛に包まれた・・・・・・卵が!
「リリーの卵! ゲットウサー!!」
「野良リリーの卵なんて見つけたの、何年ぶりかな?」
「ざっと四年ぶりウサね~」
永遠亭、その広大な庭の隅に、簡単な柵で分けられた区画がある
名は因幡ファーム、幻想郷リリー協会(GLA)が発足した当時から続く由緒正しいファームである
その一角にある孵卵室に、このファームを取り仕切る二人の兎の姿があった
「野生の卵からは質のいいリリーが生まれるんだよね?」
C級ブリーダー「へにょりの赤眼」鈴仙・優曇華院・イナバ
「久々の稼ぎ頭誕生ウサ~? わくわくするウサー!」
S級ブリーダー「因幡の白調教師」因幡 てゐ
広大なファームの一角にあるこれまた広大な孵卵室
その部屋は等間隔に木の壁で分けられ、床には暖かな毛玉毛が敷かれている
そして一つの部屋に一つずつ、ほわほわとした毛に包まれた卵がでーんと置かれていた
ここでリリーの卵(リリーエッグ)について解説しよう
春の妖精リリーホワイトは、春の到来が近づくとなんと卵を残すのだ
といっても産むわけではなく、一年を通して貯めた魔力を卵という形にし
その卵からまた次世代のリリーホワイトが産まれ生きていく
卵はほわほわとした毛に覆われており、これが非常に温かく手触りもよい
が、それとは裏腹に卵は硬い、どこかの庭師が斬れないほどに硬い、よって枕には向かない
なぜこれほど硬いのかは分かっていないが、卵を狙う天敵が多かったからという仮説が有力である
なお、野良リリーの卵を発見するのは非常に難しい
水の中、土の中、木の中、岩の中、スカ(略)など、ありとあらゆる場所に埋められている
そのため非常に高額で取引され、一攫千金の為にリリーエッグを探す者達すらいるほどだ
「凄い・・・この卵、魔力が今にも溢れそう・・・やっぱり天然産は一味違うな~」
「もしかしたらこの卵、Aクラスも行けるかもウサ・・・!」
二人の前で今も淡い光を発し続けているリリーエッグ
その魔力の胎動は力強く、素人が見ても他のエッグとは違うのが見て取れるほどだ
「てゐ・・・私達の苦労がとうとう報われる日が・・・」
「鈴仙・・・神様は見てくれていたウサよ・・・」
涙を流しながら互いに見つめあい、手を握り合う
卵の発光によって照らされたその姿は、どれほどの苦労をしてきたか素人目にも明らかなほどに悲壮だった
因幡ファーム、それはGLAに登録されている合同ファームの一つ
ファームには個人ファームと合同ファームの二つの種類があり
前者は美鈴ファーム、魔理沙ファームなど、各個人のファームの事を指し
後者は複数のブリーダー達が合同で育成するファームの事を指す
さらにその合同ファームの中で、特に巨大な五つのファームのことを「ビッグファーム」と呼ぶ
因幡ファームは永遠亭の兎達が所属、構成しているファームだ
だが永遠亭の兎達は、てゐ以外には誰も個人ファームを持っていない、何故ならお金がかかるのだ
個人ファームを持つ以上、設備も環境も自力で揃えなければならず
調達、維持、その他もろもろで破産したブリーダーも多い
そのためブリーダー達が助け合って個人個人の負担を減らす為に合理化を図り
それがいつしか合同ファームと呼ばれるようになっていた
しかし兎達が皆で集まってコンテスト用のリリーを育てるのかといえば・・・そうでもない
何故なら、コンテスト用のリリーは独自の環境で育てないと他の色々な物の影響を受けるため
個人ファームでないと勝つことは非常に難しいのだ
すると合同ファームではリリーを育てて一体どうするのか?
実はリリー達の競技はコンテスト以外にもう一つ存在する
その名は「リリーウォーグランプリ」 通称LWGP
それは美しさも属性も毛づやも関係ない、ただ強きリリーだけが栄光を手にする世界
最初は一部のブリーダー達が弾幕を競い合っていただけの大会だったのだが
段々と規模が膨れ上がり、いつしかコンテストを遥かに凌ぐほどに発展していったのだ
今では一対一から複数対複数、そしてビッグファーム同士の総力戦など、色々な大会が行われている
現在、GLAに登録されているビッグファームは5つ
紅魔館の戦闘馬鹿の集い、門番隊によって構成され
数々の大会で優勝を掻っ攫うLWGP最強軍団、門番ファーム
紅魔館のメイド達によって構成され
レミリア様の威光を高めるために恐らく本職よりも張り切っているであろう、メイドファーム
白玉楼に死に付いたブリーダー達によって構成され
生前に培った経験と育成法でリリーを見事に育て上げる、魂魄ファーム
ワーハクタクに守られた人里の人間達によって構成され
たまにとてつもない逸材を育て上げる、ハクタクファーム
そして永遠亭の兎達によって構成されている、因幡ファーム
さて、この我らが因幡ファームだが
GLAに登録されている五つのビッグファームの中では・・・・・・ダントツに弱い
どれくらい弱いかというと、もうすこぶるブルスコファーなぐらい弱い
その理由は後で説明されることだろう・・・。
「説兎ちゃーん、誰と喋ってるの~?」
「・・・んー? 何でも無いよ、ただ月を見て詩を読みたくなっただけさ・・・」
「あまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
~三月中旬
幻想郷に春が到来し始め、リリーホワイト達が偏差弾幕でそれを知らせる頃
因幡ファームの孵卵室では兎達が慌しく駆け巡っていた
「春ー!!」
「陽兎ちゃんのヨコリー産まれたよー!」
「・・・春ぅ・・・?」
「夏兎ちゃんのカコリリーも産まれましたー!!」
「春マンドクセ」
「篭兎ちゃんのコモリーが今年も卵から出てきませーん!!」
「熱湯をかけるウサー!!」
春の息吹が幻想郷に届くと共に一気に孵化を始めるリリー達
因幡ファームだけでも毎年200匹以上のリリーが生まれる故、ここはもはや戦場である
「「「春春春ー!!」」」
「多兎ちゃんのリリー、三匹とも・・・って私はあなた達のブリーダーじゃなーい!!」
「リリーを受け取ったら皆はやく外で春を吸わせてあげるウサー!」
「鈴仙のスズリー産まれたウサー!」
「ありがとうー! スズリー久しぶりー!」
「わ、私はスズリーじゃない春よ?」
「てゐの影響受けてるぅー!!」
所狭しと兎達が駆け回り、放り投げられたリリー達が宙を舞う、見事なまでに白一色に染まった孵卵室
もし下手にこけようものなら命が危ないぐらいの密集率の中、一匹、また一匹とリリーが誕生する
このお祭り騒ぎとも取れる戦争は日が暮れるまで続き、結局そのほとんどが終わるのは深夜であった。
「産まれないね・・・」
「そうウサね・・・」
すでに月が傾き始めた夜、孵卵室の片隅の例の野良リリーエッグの前で、頑なに孵化を待ち続ける二人
卵は時折強い魔力の脈動を見せながらも、殻を突き破って中から出てくる気配はまだ見えない
「まだかなぁ・・・」
「まだウサね・・・」
一つの毛布に一緒に包まり、ウトウトとした目で卵を見つめ続ける
見つめ続け、見つめ続け、見つめ――。
チュンチュン・・・チチチチチチチチチチ・・・クルッポークルッポー・・・クックドゥドゥルドゥー・・・ミョーン・・・
「・・・ふにゃ? ・・・最後おかしくない・・・?」
「はふ・・・? あ・・・おはよ、鈴仙・・・」
朝、小鳥達のさえずりで目が覚める二人
寝起きと同時にツッコミを入れてしまうのは弄られる者の悲しき性か
「・・・まだ、出てこないね」
「焦らせるのが上手ウサ・・・」
重い眼を擦りながら、二人は同時に卵を見る・・・・・・やはり、反応は無い
少々がっかりしながらも顔を洗おうと立ち上がったとき
ふと、孵卵室の入り口から騒がしい声が聞こえてきた
「鈴仙様ー! てゐちゃーん! 野良の子、出てきたー?」
「まーだーかーなー!」
「まだー?」
「MARDERー?」
どどどどと言う足音と共に入り口から津波のように押し寄せる兎の群れ、群れ、群れ
勿論か弱い二人の女性がそれに抗えるわけも無く飲み込まれるわけでして・・・
「せまいよー!」
「く・・・苦しいウサ・・・」
「早く生まれてこないかなー!」
「おぐぅぇぇぇぇぇぇぇぇ」
『ガタガタ、ギャース、ゴトゴトゴト・・・』
「うるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
瞬間、場の空気が、しん・・・と静まり返る
ピキッ・・・パキパキッ・・・パラパラ・・・と卵の殻が割れ、崩れ落ち、音を静かに響かせた
「ふぁ~・・・んく・・・・・・まったく、こんな朝から騒いでるのは誰春・・・?」
例の卵から出てきたリリーが重い瞼をほんの少しだけ上げてあたりを見渡す
だが兎達の方はただひたすらにリリーを見、固まり続けるだけであった
しかし、ついに一人の兎が震えだし、それが皆へと伝染し、それは声という形で具現化する
何故なら目の前のリリーは、銀の髪ととんがり帽子に結えられたリボン、さらになによりも目立つのが・・・
もんぺ
『妹紅だああああああああああああああああああああああ!!!!』
「うわぁっ!? 何でお前らがっ!?」
まるで幻想郷中に響きかねない叫び声と共に、孵卵室から逃げ出さんと兎達が押し合いへし合い駆け回る
しかしその叫び声で放牧されていた兎達のリリーが逆に何事かと孵卵室に殺到し入り口でどずぅんと正面衝突
さらに数に勝るリリー達が結局押し切って孵卵室になだれ込み、押し詰め状態で決壊寸前である
結局、場が収まるのは鈴仙とてゐが正気に戻ってからだった
「えーと、あなたの名前は?」
「妹紅、藤原妹紅春・・・って、なによこの語尾は!?」
「な、なんで卵の中にいたウサ?」
「それは私が知りたい春よ・・・うがー!!」
「落ち着いてー! その語尾はリリーの特徴みたいな物だからーっ!」
「一体何をどうしてどうやって落ち着けと言うは・・・・・・・・・・・・る・・・・・・ムキーッ!!」
「でもこれでリリーになったというのは確定ウサね」
「冷静に分析してる場合じゃないよー! 落ち着いてもこりー!」
「もこりーって何だ春ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ああっ、逆効果!」
飛び散る毛玉毛、暴れまわるもこりー、もしこれがいつもの妹紅だったら大惨事になることだろう
だが、今兎達の前にいるのはリリー化した妹紅である、その手からはまともに形すら成せない弾が発射され
ぽふぽふとはたく様に兎達の顔に当たる、無論それがどんなに暴れまわった所で
可愛さが引き立つだけであった
『きゃわゆい~~~!!』
「うにょあああああぁぁぁぁ・・・・・・」
考えてみて欲しい、あんなに強くてツンツンな性格のもこたんが
幼女化+リリーの格好してムキーと言いながら必死こいて威力の無い弾を打っているのだ
いやもう最高ですよもこりー、次はこのウサ耳バンドをつけてみよう
「ほらほら、その辺で皆もこりーから離れて」
「大事な話があるから下がるウサー」
二人の声で、えー、とか、ドレス着せたいー、とか不満をこぼしながらも兎達が妹紅からざざっと離れる
散々弄くられた妹紅は半泣きの状態でこっちを睨んだままだ
「実は妹紅さんにたってのお願いがあります」
二人が妹紅の前に正座をして妹紅を見据える
あまりの予想外の行動に妹紅の表情が歪んだ
「妹紅さん」
「な、何?」
「「どうか! 私達の因幡ファームを救ってください!!」」
「断る」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「そんな事言わないで助けてくださいよ今年こそ本当に危ないんですよおおおお!!」
「うわぁぁあ! 抱きつくな引っ付くな顔摺り寄せるなー!!」
「お願いウサー!! 私の体ならいくらでも捧げるからウサー!!」
「お前は何を言ってるんだ因幡てゐー!! 体はともかく理由を言えーー!!」
しばしひと悶着
「ぜぇはぁぜぇはぁ・・・お、お願いします・・・ぜぇはぁ・・・助けて・・・ください・・・」
「ぜひーぜひー・・・だから理由を・・・ぜひー・・・」
「はぁ・・・ふぅ・・・聞いたら・・・手伝ってくれるウサ・・・?」
「内容・・・次第・・・ぜひー・・・」
「それじゃとりあえず一から説明するウサー!」
「ぜひー・・・(この詐欺兎、疲れてたのはフェイクか!)」
孵卵室にお茶とお菓子が運ばれ、どこからか取り出したちゃぶ台に三人が座る
しかしその周りは大量の兎とリリーに囲まれ、さながら真っ白な牢獄のようだ
「とりあえず、リリーブリーダーの事は知ってるウサ?」
「少しはね、慧音がブリーダーだし・・・私は育てた事無いけどは・・・・・・ゴフン」
「それじゃ話が早いウサ、簡潔に言うと・・・」
「言うと?」
「・・・もこりーの力で因幡ファームを倒産の危機から救って欲しいウサ」
「もこりー言うなーっ!!」
「ああっ、落ち着いてっ!」
「実は、私達の因幡ファームの経営状況は、崖っぷち一歩先ぐらい危機的なんですウサ」
「「スルー!?」」
その後もてゐの説明は続いた
賞金を稼いでくれる強いリリーが出てこないために圧迫される経営
それによって食事、設備をろくに整える事が出来ずに繰り返される悪循環
なんとかS級ブリーダーのてゐの稼ぎで持ち堪えてはいるが、それもいつまで持つかわからない
そんな時、まるで救世主のように突如現れたもこりー
よって妹紅は因幡ファームを救う運命を背負っているのであり、それは仏の意思である、と
説明するてゐの話術はあまりにも巧みで、妹紅もいつの間にか涙を流し、心から聞き入っていた
「ううっ・・・だけど、私だって元の姿に戻りたい春・・・」
「その方法を探すのは難しいウサ・・・死んでもリリーの姿で戻ってしまうかも知れないウサ・・・だけど」
「だけど・・・?」
「多分・・・いや、間違いなく、一年たてば・・・来年の春には元に戻れるウサ!」
「春? ああ、そうか・・・来年の春になれば・・・」
「そうウサ! だからそれまでの一年間、どうにか私達と共に戦って欲しいウサ!」
「お願いします! もこたん!」
「もこたん言うなーーーっ!!」
「ああ! もこりーが駄目だって言うから変えたのにっ!!」
「それにウサ・・・・・・」
ふと、てゐの目が怪しく光る、ここが妹紅を落とすチャンスだと長年の詐欺師の経験が言っているのだ
「今の状態で姫に見つかったら・・・凄く危険ウサよ?」
「え?」
その言葉を聞いて、少し考え込んだ妹紅の頬をつつーと冷や汗が伝った
「今の妹紅はただの子リリー、私達兎どころかそこいらの雑魚妖怪にすら負けてしまうウサ」
「う、うう・・・」
「もしそんな状況で姫に見つかってしまえば・・・後はわかるウサね?」
「うぐ・・・!」
妹紅の顔が下を向く、先ほど兎達に弄くられた時に自分がどれだけ弱くなったかは理解していた
もし輝夜と相対してしまえばどうなるか・・・多分、来年の春まで地獄を見続ける事になるだろう
「でもここなら妹紅を匿ってあげれるウサ、安心するウサよ、永遠亭の兎は全員が妹紅の味方ウサ」
「そうですよ妹紅さん」
「私達なら妹紅さんを隠し通せます!」
「嘘なら任せてください! プロですから!」
まるで事前に打ち合わせていたかのように、周りで見ていた兎達が妹紅へ優しい言葉を投げかける
その見事な連係プレーで妹紅の心は大きく揺らぎ、もはや崩壊寸前だ
「うう・・・だけど、輝夜の近くに住むくらいなら慧音の所に・・・」
「それが一番危険ウサよ?」
「えっ!?」
てゐは心の中でガッツポーズを取った、何故なら妹紅の発した言葉こそが
妹紅を落とすための、最も確実にして最も強い発言へのルートだったからだ
「妹紅がこんなに可愛いリリーになった事をあのワーハクタクが知ったら・・・どうなるか考えてみるウサよ」
その言葉で妹紅のみならず、鈴仙と周りを取り囲む兎達も同じ事を頭に思い浮かべた
(・・・caved・・・)
「不束者ですが、これから一年間よろしくお願いいたします」
○因幡 てゐ (34分26秒 決め技:トラウマ) 藤原 妹紅×
「やったーーーーーーーーー!!」
「ありがとう! ありがとうウサー!!」
『因幡ファームへようこそー!!』
孵卵室に兎達の歓声が沸きあがり、子リリー達が紙ふぶきのようにミニ弾幕を放つ
ただ一人、素質のある子リリーが因幡ファームに生まれただけ、それだけの事で起きた
この大騒ぎは、ファームがどれだけ追い込まれていたかを切実に物語っていたのだった
その頃、何かとんでもない想像をされた慧音はどうしてるかというと
「パチュリイイイイイ殿おおおおおお!! 妹紅がっ! 妹紅が動かんですのじゃああああ!!」
「ああああああ掴まないで振らないでぇぇぇぇぇぇ・・・」
「プリイイイズ! プリイイイズ再起動オブ妹紅おおおおおお!!」
「おちおち落ち着きなさいぃぃぃ・・・妹紅は死んだわけじゃないわぁぁぁぁ・・・」
「待ちなさい! 妹紅妹紅と連呼されたら、このフランドール・スカーレット様が出てこないわけには・・・」
「はいはい、お部屋に戻りましょうね妹様」
「ああん、離してよ咲夜ー!」
「ハクターク! ハクタクハクタクハクハクタクターク! ハクククハクターク!!」
「ににに日本語かユユユーロ圏の言語ではなはな話してぇぇぇぇぇ・・・ゴフッ!」
そして一切合財ノーコメントで場面は因幡ファーム事務室へと戻る
「それじゃ、妹紅の登録名を決めますね」
「登録名?」
「名前の事ですよ、大会などで使用するので、協会に申請する必要があるんですよ」
「というわけで、この二つの中から決めるウサ!」
「ふーん、どれどれ?」
机の上に置かれた二つの紙にはこう書かれていた
<もこりー>
<春た春のリー三世>
「はるたはるのりって誰だ!? 三世って何だー!?」
「さ! この中から選ぶウサ!」
「選べるかこの馬鹿兎っ!!」
「選ばなかったらこっちで勝手に決めるウサよ?」
「勝手にしろ!!」
「そうウサか・・・・・・・・・やっぱりはるた・・・」
「もこりーでいいです、もこりーにしてください、と言うかもこりーでお願いします!」
「じゃ、もこりーで申請しますね」
「もこりー、これからよろしくウサ!」
「よろしくね!」
「・・・・・・はめられた!?」
こうして無事に登録も済み、数奇な運命に流される事になった妹紅
彼女は無事に元の体に戻れるのか! 姫に見つからなくてすむのか!
そして因幡ファームは経営危機を脱出する事が出来るのか!?
ゆけゆけ妹紅! 頑張れ妹紅! 元の体に戻れるその日まで!
次回 「反撃の狼煙」 乞うご期待ウサ!
このてゐ偽者だー!(ガビーン)
次回も楽しみにしてます~
さて今回は・・・天然者かぁ、さてさてどんなリリーに・・・
・・・もこりー?・・・
ぉうじぃざす、悪魔の誘惑はこのようなところにも。
かぁいいよ、もこりー。
もこりーかぁいぃよぉ♪
たまにと言わずにがしがし連作がんばってください。
まあ無間かつ無限の命のうち一年だ。
きっといい思い出になるだろう。
それにあの姫と永琳のことだ。
永琳リーやてるリリーになって他のファームから出てもおかしくない。
まあがんまれ。
ああ、確かに妹紅だwww
めっさ怖かったああああwww