Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷エアレース (MINさんごめんなさい)

2006/03/22 07:30:58
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 MINさんの「幻想郷最速決定戦」とネタがかぶりますが、MINさんの作品がアップされる以前から書いていたものです。
「幻想郷最速決定戦」とはいろいろ毛色の違う作品になっていると思います。別にけんかを売っているわけではありません。












 ひらり

 ひらり

 ぱさり


 「あれ、なんなのかしら、この紙切れ」


 幻想郷は今晩秋を迎えつつある。
 博麗霊夢は落ち葉を掃く手をいったん止め、どこからともなく舞い降りてきたいっぺんの紙切れを手に取る。どこか懐かしい感じのする晩秋の空、薄い青空を羊の群れが行く。冬に備えて、そろそろ蓄えが必要かなと思う。自分の空を飛ぶ能力を生かし、ふつうの人間には危険すぎるような場所に生えている薬草とかを取り、それを食料や燃料と物々交換をする、もう何年もしている生活のサイクルだが、ことしはその苦労をいくらか軽くできるかもしれない。
 その紙切れにはこう書いてあった。

○月○日、幻想郷エアレース開催。
 
 やたらと寒くなっている今日この頃、みなさんいかがお過ごしでしょうか。と形式ばった挨拶は不要ね。冬寒いのは当然ですわ。
 退屈しのぎに幻想郷を回るレースを開催します。優勝したら、程度にもよるけどあなたの願い事を何でもひとつだけかなえてあ・げ・る(はあと)。参加資格は己の気合と若干の飛ぶ能力だけ。負けた選手でも、いい走りをするわねと思った人には敢闘賞としてマヨイガの小物雑貨をあげるわ。場所は指定の日にぽや~んと飛んでいて騒がしく思える場所がそう。奮って参加してね。

八雲紫とレース黒幕一同より

 「なんというか、いきなり何の脈絡もなく、こんなイベントを開くのかしら。で、この(レース黒幕)ってのは何者?」
 紫は確かに隙間を操ってなんでも手に入りそうではある。しかし・・・。
 「何でも願いがかなうって、もしかして、敗者は生贄にされて殺される、とか。」
 よくみると手紙には続きがあった。

 P.S.そうそう、べつに負けたものはみんな死ぬとか、魂抜かれるとかそんなことはないから安心して、それから、あんまり殺伐とした願い事はこちらとしても引くからそのつもりでね。

 「信じてみてもいいかな、よ~し、今年の冬はもっと暖かくすごすぞ。」
 ひとりガッツポーズを決める。冷たい風が吹き、掃き寄せた落ち葉が再び散らばってゆくのも忘れて。

*   *   *
 
 「なんでもかなえるときたか、じゃあ貴重なグリモワール、紅魔館の奥深くにあいつが隠していそうなやつが欲しいな。」
 こちらは魔法の森にすむ魔法使い、霧雨魔理沙。彼女の郵便受けにくだんの手紙があった。彼女はよろこんで承諾すると、早速準備に取り掛かる。 
 「具体的な場所指定はなし、適当に飛んでいて、騒がしく感じる所、か。罠かもな、でもリスクに見合うだけの価値はありそうだ。まあなんとかなるさ」
彼女は蒐集物だらけの床を漁りながら準備する。

*  *  *

 「こんなチャンスを待っていたわ。これで優勝したら、みんな私のことを注目して、友達百人できるかな、ね、上海、蓬莱。」
 二人の人形は力強くこくこくとうなずく。
 「シャンハーイ(『優勝者は何でも願いがひとつだけかなう』というのは怪しすぎじゃないかしら)」
 「ホラーイ(かも知れないな、でもせっかくマスターが外界に興味を持ってくれたんだ。引っ込み思案のマスターとしては大きな進歩だと思う。なあに、いざとなったら我々が体張ってお守りするだけのこと)」

*   *   * 

 真夜中の魔法の森、妖怪たちを前にリサイタルを開いていたミスティア・ローレライは上機嫌だった。
 「このレースに勝って~♪、二度と食べられないでいられる地位を~~~♪ それがたった一つの望み~~~♪。」
 「そーなのかー。じゃあ私、焼き鳥いっぱい食べさせてもらお。」 歌を聴いていたルーミアがよだれをたらす。
 「ちょっ、あんた今なんつった?」

  *   *   *

 とある山のてっぺんで、毛玉たちが集会を開いている。
 (このレースに勝てば、なんでもくれるだってヨ。)
 (じゃあ俺達毛玉の地位向上を、ただの雑魚キャラとして生きるのはもうごめんだべよ。)
 (そうだね、じゃあみんな集まれ、合体するべ。)
 毛玉たちが一点に集まり、クリーム色の柔らかい光を放つ。次の瞬間、直径1メートルほどの巨大毛玉が誕生した。
 「さんざん我らを撃墜した巫女どもめ、目に物見せてくれる。」
 心の中で複数の人格ならぬ毛玉格が気炎をあげる。


*   *   *


 参加を決めたものたちは、それぞれの思惑と期待を胸にレース当日を迎える。
 「ああ、騒がしそうな場所発見。」 

 霊夢はふわふわとあてどもなく飛んでいるうちに、紅魔館のほうから花火や楽器の音が聞こえるのに気が付く。なぜか幻想郷の新聞記者がマイクを手に解説をしている。
 「さあ、紅魔館、マヨイガ、白玉楼、永遠亭主宰、幻想郷暇つぶしエアレース、オリキャラクラス、優勝は出来損ないの蝶、ジャンク・バタフライさん。かれは飛べない蝶でありながら、その分発達した自慢の脚力で・・・。」

 霊夢は紅魔館の庭に降り立つ、いくつものテーブルが並べられ、お菓子などが置かれていた。大勢の談笑する声や声援が飛び交う。レースにはいくつかの部門があるようだ。塀の外側にそって、紅魔館を囲むように観客席が設営されている。
 「こうやって食べてくださいとばかりに置いてある、ということは食べてもいいのね。」
 「あっ、霊夢、お前も参加するのか。」
 「そうよ、私達の番はいつ始まるのかしら。」
 「なんでも、優勝者に欲しいものを何でもくれるのは『あんりみてっどくらす』だけらしいぜ。で、今やっているレースはその前座。」
 「霊夢、わたし負けないからね!」
 「アリスは参加賞がお似合いだぜ。」
 「魔理沙こそ、一番狙って破滅するのがふさわしいオチよ。」

 「西行寺幽々子さ~ん、優勝者のバタフライさんをどう思いますか。」
 「う~ん、どっちかというと蝶は見慣れてるからエビフライのほうがいいわね。」
 「・・・ありがとうございます・・・。食欲の対象にならなかっただけでも幸いでしたね。さて、スタート地点の小悪魔さん、そちらの状況はどうですか~。」
 「は~いこちら妖精クラス、スタート地点の小悪魔でーす。いまチルノ選手がやる気満々なせいで、冷気に満ち溢れてまーす、正直寒いでーす。おおっと、いま春の妖精リリー選手が棄権を表明しました。これ以上並んで待ってたら凍死するそうです。そもそも彼女の活動期間は春だけですし。注目は大妖精選手、いつもチルノ選手のお守りをしているせいか、平然と目を閉じてコンセントレーションを高めています。では私も退避しまーす。ブルブル。」

 「ところで、なんでこんなイベント開くんだ、幻想郷でも屈指の勢力がスポンサーになってるようだが。」
 「暇つぶし兼、興行収益による生活費確保のためよ。」 
 そこらじゅうのお菓子をぱくつく魔理沙に答えたのは、『レース黒幕』のひとり、レミリア様。片手にワイング
ラスをもって優雅にご登場。
 「ふーん、それで優勝者には何でも願いがひとつかなえられるってホント?」 霊夢がたずねる。
 「私は嘘をつくときはつくけど、時には本当のことも云うわ。」
 「怪しいわね、でも異変のにおいも感じないし、いまは不問にしてあげる。」

 「は~い、みんなよく聞いて『アンリミテッドクラス』受付は正門前だよ~。」 外界の『拡声器』という道具を使い、黒猫の橙が呼びかけて回っている。『なんでもひとつだけ願いがかなう』という割には、参加者は少ないようだ。
 「やっぱり何かの罠かしら。」 と霊夢はつぶやいた。それとも、幻想郷の住人達はそれほど欲深くないということなのかも知れない。少なくとも主催者であろう面々は、かつて自分が戦った相手でもあったが、今ではすっかり宴会仲間だし、何よりさほどドス黒い背景はないとこの巫女の勘が告げている。

 「まあいっか。もし何かあったらそのままレースから異変解決に変更すればいいしね。」

 そんな霊夢を、隙間空間を通してマヨイガの寝床から見つめてるのは紫さま。式神の藍が紅魔館のレース会場から問い掛ける。

 「紫様、本当のことは伝えなくていいのですか。」
 「いいのよ、それにこういうレース物では背後にうごめく陰謀が付き物だし。」
 「どこで仕入れた知識ですか? まあいいや、それでは参加説明を彼女らにしてきます。」
 「お願いね。」  

 受付用紙に自分の名前と優勝した暁に叶えてもらう願い事を書く。受付嬢をしているのは門番の美鈴。彼女は用紙をパチュリーに手渡した、パチュリーは内容を確認したあと装飾の施された箱に用紙を入れる。その箱に幾種類もの魔法をかけて厳重に施錠する。

 「しかし意外だな、門番のお前は出ないのか、なんでも願いがかなうんだぜ。」
 「いいんですよ、ここが気に入ってますし。」 彼女には特に不満はないようだった。
 「それはそうと、ずいぶん即物的で深刻さのかけらも感じない願いばかりね。」
 パチュリーが言葉に皆が反発する。
 「こっちは深刻なんだけど。」
 「私は生存競争かかってんのよ。」
 「人間一人では生きて行けないし。」
 「毛玉にも意地がある。」
 「そーなのかー。」
 魔理沙だけ「まあ、深刻ぶっても寿命縮むだけだしな。」とあっさり答える
 「そうですね、迂闊でした、皆さんの健闘をお祈りしてます。頑張ってください。」
 美鈴がすかさずフォローを入れる。屈託のない笑顔。
 「ねえパチュリー、コースはどんななの?」
 「それはマヨイガの狐さんに説明してもらうわ。」 彼女は藍を呼んだ。

 「よしきた、コースは今から配る地図に描かれている。コースに沿って一定の間隔で毛玉が並んでいるからそれを指標にするといい。途中に点アイテムのごとく水や握り飯とかが浮遊しているから、適当に取って食べてくれ。これはスポンサー提供だからお代は要らない。じゃあアナウンスがあるまで待っていてくれ。」 

*   *   *


 妖精部門はチルノの勝利だった。他の妖精はみな彼女の発する冷気で調子が出なかったらしい。
 「こちら小悪魔です、チルノ選手には賞品として、付けうさみみ一式と永遠亭で使えるうさうさ券一年分が贈られます。次はいよいよ本日のメインイベント、程度にもよるが優勝者にはなんでも願い事が叶えられる『アンリミテッドクラス』の開始でーす。」

 「ぴんぽんぱんぽーん、『アンリミテッドクラス』参加の選手の方は紅魔館正門上空、カラー毛玉の並ぶラインに集結してください。レース20分前です。」
 「おお、ついに始まるぜ、霊夢、今回も容赦なしだからな。」 魔理沙の明るい声。
 「ええ、返り討ちにしてやるわ。覚悟なさい。」 霊夢も言い返す、お互い殺気はない。口は悪くても仲良しなのだ。
 赤、青、黄、緑、オレンジ、ピンク、色とりどりのカラー毛玉が並ぶ、無理やり着色されたらしい。みんな横一直線に並び、開始を待つ。

 「開始10分前です。」
 (冬支度の食料食料・・・。)
 「5分前。」
 (門外不出の魔導書・・・。)
 「4分前。」
 (友達百人・・・。)
 「3分前。」
 (食われないですむ暮らし・・・。)
 「2分前。」
 (焼き鳥いっぱい・・・。)
 「一分前。」
 (わが同胞がこんな使われ方を・・・毛玉開放・・・。)

 「申し訳ありません、輝夜さんと妹紅さんがコース前方で殺しあってます。慧音さんが止めるまでしばらくお待ちくださーい。」
 「何だよっ!!」




 「お待たせしました、八雲藍さんの尻尾の狐火がすべて消えたらスタートです。」
 紫の式神である藍の尻尾の先に炎がともっている、やがて炎はひとつまたひとつと消えていき、
 ついに、最後の火が消える。 「スタートです。」

 「悪いなみんな、先に行かせてもらうぜ。」

 猛前と魔理沙が飛び出す。マスタースパークを逆方向に発射してロケットエンジンの代わりにする。続いて霊夢、アリス、ミスティア、ルーミア、大毛玉の順に飛び出していく。
 「うわーん、いきなりに焼き鳥にされるかと思った。こらルーミア、なに見てんのよ。」
 魔理沙の噴射した魔力のせいでミスティアの服が焦げている。ルーミアが狩猟者の目でそんな彼女を見つめている。
 
 「・・・・・・ミスチー・・・うまそー・・・。」
 「こら、私は餌じゃないわよ。」
 「わかってるわ、冗談よ。」
 「じゃあその目つきやめい!」

 「最終レース、アンリミテッドクラスの火蓋が今切って落とされました。スタート直後のダッシュで魔理沙選手が先頭に並び、続いて霊夢、アリス選手の順に飛んでいます。やや遅れてミスティア選手とルーミア選手がもつれるようにとび、大毛玉選手はびりっけつ。一番後ろをペース弾幕少女として十六夜咲夜さんがついています。ちなみにレースの模様は要所要所に配置されたカメラ付毛玉によって、紅魔館中庭の大型スクリーンに映し出されます。レース中の解説担当はわたくし幻想のブン屋こと射命丸文。文文。新聞もよろしくおねがいしまーす。」


 「そろそろ魔法の森上空だな。」 魔理沙は手渡された地図を確認する。毛玉のパイロンがコースに沿って規則正しく空に浮かんでいる。
 「しっかし、このコース配置、まるで・・・。」
 すぐ前方に鋭角の急カーブ。
 「とっ、減速減速。」 「お先に!」
 カーブをそのままのスピードでは曲がりきれず減速する。その魔理沙を霊夢が追い抜いた。
 「直線でカッ飛ばすしか能がないの?」
 アリスも魔理沙に並ぶ。
 「まだまだ!」
 魔理沙は進行方向を保ったまま自分の向きを九十度変え、魔力を噴射して強引にカーブを曲がる、重力操作の魔法で相殺しきれないGがかかる。
 「ぐっ。」
 「なんて力技・・・。」 霊夢絶句。
 「そんなんで内臓破裂しても知らないわよ。」 アリスが悪態をつくが、心配そうな顔。
 「どっこい、乙女の体は柔軟にできてるぜ。」 再び魔理沙がトップになる。
 「魔理沙、さすがは私のライバル。弾幕ごっこ以外も相当やるわね」

*   *   * 
 
 コースから少し離れた茂みの中で、小さな影が動いている。『小細工なしで勝ちたい』とアリスにお留守番を命じられたはずの二体の人形だった。どこからともなく取り出した毛玉の着ぐるみをつけて待ち伏せしようとする。

 「シャンハイコレキルノイヤー」 「ダメダヨ、シャハイトホライデマスタータスケルノ」

上海人形が蓬莱人形の作った特製毛玉スーツを嫌がっている。蓬莱人形は彼女をなだめすかしながら着せようとする。より細かいことを誰にも聞かれずに話すため、二人は通話方式を変え、アリスとその人形にしか分からない言語を使う。

 「ホラーイ(マスターのためだ、このレースでマスターが勝って有名になれば、友達が大勢できる、マスターにはわれわれ以外の仲間も必要だ)」
 「モシミンナバレチャタラ、マスター、モットモットキラワレルゥ」
「ホラーイ(だからこその変装だろう。それより通話方式をEXAM方式からc・n・v方式に変えろ、傍受されるぞ)」
 「シャンハーイ(ううむ、じゃあこれっきりだよ)」
 
 上海人形に毛玉スーツを着せると、蓬莱人形はそのジッパーを締めてやる。毛玉人形の出来上がり。

 「シャンハーイ(これで走路妨害するのね。なんか罪悪感感じちゃうな)」
 「ホラーイ(しかしマスターの社会復帰のためだ)」
 「シャンハーイ(こんなことをふつうにやってたら余計社会復帰できなくなるんじゃないの)」
 「ホラー・・・」

 「かわいいお人形さん、何してるの?」

 人形達がぎょっとして振り向くと、一人の給仕服を着た女性が膝をかがめてこちらを見つめている。警戒心と幼子に対する慈愛が入り混じった表情。人形だけコースから外れていくのを不審に思い、ペース弾幕少女の咲夜が後を追っていたのだ。

 「シャンハーイ(どうしよう、見つかっちゃったよ)。」
 「ホラーイ(うろたえるな、我々の意図はまだばれていないはず。対人かわいがられ用のEXAM方式で話そう)。」
 「シャンハーイ(これってc・n・v方式と違って、マスターと人形仲間以外の人とも話せるけど、どうも情報を伝えにくいんだけどなあ)。」
 「ホラーイ(いいから急いで通話方式を変えろ、余計怪しまれる)」

 「作戦会議はすんだかしら。」
 「エエト、ヮタシタチィ、マスターノオトシモノサガシニキタノ。」 「ソウ、オトシモノー。」
 「かわいいー。じゃああとで代わりに探してあげるからお姉さんと遊ぼっか?」
 「ドォシヨー。ホライ」 「ウン、ドォシヨー。」

(まずいことになったぞ、この場を逃れるうまい言い訳はないか?)蓬莱人形が必死に考えをめぐらせる。

 「デモ、マスタァガ『シラナイヒトツイテチャダメー』テイッテター。」 

 (うまい、でかしたぞ上海、ここはいちかばちか。)

 「ゥオネエサン、ヘンタイー。シャハーイトホライニイタズラスルー。」 「ヘンナヒトー。」

 「なっ? この私が、変態。」
 
 人形達が咲夜を非難する。咲夜は言われたことが信じられず。両手で顔を覆って泣き出してしまった。

 「ううう、お姉さん、そんなつもりなかったのにー。」
 「シャンハーイ(お姉さん泣いちゃったよ)。」
 「ホラーイ(上海人形、これはきっと演技だ、だまされるな)。」
 「シャンハーイ(でも、本当に泣いてるよ)。」
 「ジャー、シカタナァイナ。」
 人形達は咲夜に近づくと、涙をハンカチで拭いてあげようとする。
「オネーサン、ゴメンネー。」 「ウタガァテ、ゴメンネー。」
「ううん、わたしもごめんね。・・・・・・こんな事してね。」

 いきなり咲夜の手にバスケットが出現し、すぐさまふたを開け、二体の人形を閉じ込めてしまった。

 「悪いけど、レースが終わるまでお姉さんといっしょよ。」
 「ダシテェー。」 「ダマシタナー。」

 「アリス選手、何やら仕組もうとした人形を咲夜さんに没収され、戦力ダウン。反則はいけません。ここでCM入りま~す」 

*   *   *

 画面が変わり、鈴仙が映る。  

 「八意医院、永遠亭イナバ薬局は竹林のどこかで、内科外科、人間、獣、妖怪なんでも受け付けております」

 永琳がウインクしながら人差し指を立ててしゃべる

「ただいま被検体大募集中! もしかしたらキミも究極生物になれるかも知れないゾ。ただし、失敗しても恨まないでネ♪ アナタが必要なの、待っているワ(はあと)」
 
 *   *   *

 「先頭集団はそろそろ永遠亭、鈴仙・優曇華院・イナバさんの能力による『魔の廊下』コースに差し掛かっていまーす。ここでは空間識失調の危険がありますので、速さよりもどれだけ自分の位置を把握できるかが突破のカギになります。」

 竹林のどこかにある不死のモノたちとその従者のすむ館、永遠亭。イナバたちが長い廊下の掃除をしている。彼女たちは今日がレースだということを知らなかった。

 「あ~あ、退屈だねえ。」 イナバの一羽が愚痴をこぼした。
 「でも、平和だからいいんじゃない。」 と同僚イナバ。
 「平和なのはいいけど、なんかこう・・・。」
 「こう・・・?」
 「こうどかーんと何かが飛んできたり・・・。」

 空を切り裂く音が聞こえ、何人かの弾幕少女達が猛スピードで廊下のイナバ達を横切っていく。

 「きゃああ。アンタのせいで本当にどかーんと飛んできたじゃないのよ。」
 「そんなこと言ったって。れいせん様~。」

 「きたわね、じゃあ障害作るよ。」 月のウサギである鈴仙がゆっくりした足取りで二羽のイナバの前に現れ、やっときたかというような顔で幻視の術を起動させる。効果はすぐに現れた。黒白の魔法使いが突如ふらついたかと思うと、廊下のそばの障子を突き破り、コース外へ飛び出してしまう。ガッツポーズを決める鈴仙。

 「一丁上がり、魔理沙、いつもの本泥棒の報いだよ。」

 「おおっと、魔理沙選手クラッシュ! このままリタイアか?」 スクリーンで一部始終を見ていた会場がどよめく。

 「おっと、まだリタイアする気はないぜ。」

 魔理沙が別の部屋から障子の戸を突き破って現れ、コースに戻る前に彼女を見つめる。魔理沙の顔はしてやられた、というより、してやったり、という顔つきである。
 よく見ると、魔理沙の服の一部分が膨らみ、書物の角が頭を出している。

 「悪いな、ちょっとバランス崩して突っ込んだ先がなぜか書庫だった、んで気づいたら本が服の中に入ってしまった。今レース中で時間がないんで、後で返すぜ。」

 「こら~今返せ~。」 魔理沙は加速し、半泣きになって抗議する鈴仙の姿が背後で小さくなっていく。

 「転んでもただでは起きない魔理沙選手。しかし霊夢、アリス両選手に抜かれてしまいましたあ。」

*   *   * 

 竹林を抜けて野原に出る、秋晴れの空、はるか高空に浮かぶ絹雲が美しい。霊夢とアリスはしばらくレースを忘れ、純粋に飛行を楽しむ。

 「こうやって弾幕ごっこもせずに飛ぶのも気持ちいいわね」 霊夢が隣を飛ぶアリスに言った。
 「私、霊夢と並んで飛ぶの初めて」
 「嬉しい?」
 「えっ、まあ・・・その、悪くないわ」
 「微妙な答えね、まあいいわ。ところで、あなたの願い事って何?」
 「さあね。世界征服とか、究極の自動人形を作ることとかかもね」 アリスは素っ気無い表情を装う。
 「嘘おっしゃい」 
 「そのとおり、嘘よ」   

 後方から猛スピードで魔法使いが追い上げてくる。

 「さあ、勝負再開よ。」
 「待って、霊夢の願い事ってなに。」
 「私に勝ったら教えてあげる(我ながらものすごく即物的で恥ずかしいんだけど)」

 霊夢がスピードを上げ、アリスも負けじと魔力を振り絞って飛ぶ。いつもは全力を出そうとしない自分だったが、今日は違うかもしれない。そうアリスは思った。

 (こうしてみんなと一緒にいられるだけでも、私の願い事は半分かなったようなものよ、霊夢)

 そう考えていた矢先、毛玉に頭をぶつけるアリスであった。

*   *   *

人里が近い。収穫にいそしむ村人たちが作業の手を休めてこちらを眺めている。霊夢や魔理沙とちがい、あまり強くない人間はこうして集まって暮らしている。彼らの中にも不思議な能力を持ち、そう簡単には妖怪に喰われない者も多いのだが、やはり夜の幻想郷を一人で歩けるほどの人は少ない。何人かが自衛用スペルカードを取り出してこちらをにらみつけている。自分を警戒しているのだろう、そう思えてアリスは辛かった。

 (妖怪は人を喰う。私はそんなことはしないとは言え、やはり私も妖怪の一種。みんな私を招かれざる客として見ているのね)

 ところが、

 「もうちょっと低く、ゆっくり飛んでくれないかなあ。そうすれば・・・ハアハア。」
 「あっ見えた。ちっドロワーズかよ。」

 「なっ?」

 アリスの頭に血が上る。警戒されていたと思っていた自分が馬鹿みたい。

 「このお~。」 弾幕を村人A&Bに向けて乱射。

 「やべえ、怒っちゃった、逃げろ」 「げっ当たる」 「わははは喰らいボム発動」 「喰らいボ・・・わー失敗した」 「へへーん、だっせーだっせー」

 
 へらへら笑いながら逃げ回る村人A&B。被弾しても死なず、服がこげているがそれでもへらへら笑い続けている。人里の人間とはもっと弱くはかないものだと思っていたが、意外とタフなのかもしれない。それにこのスピードと高度で飛んでいて中身を確認できるなんて、すごい動体視力。あまりにも苛酷な環境なので刹那的になっているのだろうか。ともあれ、これくらいの弾幕があたっても死なないなら、別に上白沢慧音に守られなくても大丈夫なのでは? それよりも・・・。
 
 (・・・今度は、可愛い下着を着けてこようかしら・・・。) などと頬を赤らめながら考えてしまう。

 「アリス、いくら寂しいからって、あんな連中にまで自分を安売りしちゃだめだぜ。」
 「げっ魔理沙!」

 いつのまにか魔理沙が横に並んでいる、しかも思考まで読まれている。

 「魔理沙には関係ないわ」
 「まあともかく、前方不注意だぜ」

 またガイド毛玉に頭をぶつけるアリスであった。

 *   *   *

 紅魔館の庭、これ東方二次創作的にいいのか、電源とかはどうしているのか、といいたくなるようなオーロラビジョンを見ながら、レミリアは他の大口スポンサーと話し合っている。

 「なんだか退屈ね、もっとこう、デッドヒートというか、秒単位で抜きつ抜かれつという展開はないのかしら」
 「そうね、みんなが魔力妖力全開で飛んでくれないと完成しないし」 幽々子もうなずく。
 「レースもいいけれど、あれがうまくいかないと出資した意味がないって永琳が言ってた」
 輝夜が頬杖をついて興味なさそうに言う。
 「じゃあ私の家に細工しようかしら」 紫がけだるそうにつぶやく。
 「ちょっと、みんなレースに興味ないの? 私だけはしゃいでる子供みたいじゃないのよ。」
 「だって子供みたいなモンでしょ。レミィ」 
 「今言ったのは誰? そう呼んでいいのはパチェだけよ」

 純粋にレースを楽しんでいるのはレミリアだけらしい。

  *   *   *

 トップに立った霊夢は、浮遊する食事用おにぎりを頬張りながらコースを確認する。もうすぐマヨイガが見えてくるはずだった。この家は決まった場所には存在せず、地図を頼りに行くことなどできないはずだったが、今回はレースを盛り上げる要素としてコース上に固定されている。

 「しかし、どうも見覚えのあるコース配置ね」

 「このマヨイガ内部はワープゾーンになっています。屋内に突入し、うまく部屋を進めば大幅にショートカットできますが、運が悪いといつまでも出られません。もちろん素直に家の上空を通っていくこともできます。さあどの選択がもっとも賢明か?」  

 「ついでにマヨイガからなにか失敬しちゃお。どうも優勝を狙うより、こういう副産物ねらったほうがお得なようね」

飛行状態のままマヨイガの家屋に侵入。なにか持ってって良さそうなものを探す霊夢。

 「持ってって良い物なんてあるか~」

 狐の声がとどろいた。

 「ここは手堅く、正攻法で行くぜ」 上空をそのまま通過する魔理沙。

 しばらくしてアリスが通りがかる。

 「遅れちゃった。一か八か、ワープゾーンに賭けてみるか。」 見ると縁側で黒猫が気持ちよさそうにひなたぼっこをしている。

 「あっ、アリスお姉ちゃんがんばって~。」 黒猫が声ををかけた。アリスは笑顔で手を振って応えると、家屋に進入した。なんだかんだで結構愛されているアリス。知らぬは本人ばかりなり。  
 
 魔理沙がマヨイガを通り過ぎたとたん、ふすまを破って霊夢とアリスの二人が同時に飛び出した。霊夢は(いろいろ物色していたこともあったのだが)内部で迷い、アリスはあっさり出口を見つけることができた。多分家主の能力でいろいろと細工してあったのだろう。三人は並んで飛ぶ。

 「やった、霊夢と並んだ。」
 「優勝は私がいただくぜ」
 「たくさん品物をゲットできたけど、やっぱ優勝したくなってきたわ。」

 魔理沙が加速し、筒の中をなぞるようにらせん状に飛び、霊夢やアリスに接近して揺さぶりをかける。

 「ちょっと、ぶつかったら危ないじゃないのよ!」
 「せっかくだからな、道中ぐらいいろんなとび方を試してみたいんだ」
 
 ならばこっちもと、アリスもペースを上げる。
 周囲の景色が猛スピードで通り抜けていく。
 「全力出せば凄いじゃないか」
 「あんたに全力で相手してあげるほどの価値はないわ」

 と言いつつ、かなり必死の形相だと霊夢は思ったが、かわいそうなので黙っててあげることにした。

 「今のスピードは全力の9割7分6厘ぐらいよ」
 「全力そのものだぜ」

 「どこまで速く飛べるか知るのもいいかもね」

 霊夢は風呂敷いっぱいの強奪・・・いや収集品を少し惜しそうな顔をしつつ捨て、加速する。

 「行けー霊夢、もっと飛ばせ~」  

 興奮して優雅なイメージぶち壊しのレミリア、幼子のようにはしゃぐ彼女を、門番は柔和な笑顔で見つめていた。

 「可愛いですね。パチュリーさま」
 「時には息抜きならぬ、カリスマ抜きも必要なのよ」 魔女も柔らかな笑顔だった。

*   *   *

 「もうすぐレースも終盤に差し掛かろうとしています。いよいよ最終関門、博麗神社階段、ここを突破し、紅魔館正門に戻ってゴールとなります。一位が霊夢選手、二位が魔理沙選手、三位がアリス選手。第二集団は四位ミスティア選手、五位がルーミア選手、最下位が大毛玉選手です。」

 「勝手知ったる我が家で負けるもんですか」 霊夢がトップに踊り出た。
 「だがな、こういう単純な直線コースは得意だぜ」
  
 魔理沙がまた逆向きマスタースパークをうってスパートをかける。猛烈な加速。

 「力の差をみせてやろう」 加速の瞬間、アリスが何か言いかけたようだが、気にしなかった。


 「魔理沙! 前~っ」 アリスは叫んだ、隙間妖怪の趣向だろう、一直線だった石段が蛇のようにカーブしている。あんなスピードでは急激な方向転換なんてできない。次の瞬間、ものすごい音を立てて魔理沙が木々の中に突っ込んだ。

 霊夢もアリスも急停止して事故現場に急ぐ。

 「魔理沙!」 アリスが半泣きでクレーターのできた場所に向かう。
 「魔理沙! まりさぁ~」 クレーターの中心に滑り降り、魔理沙の姿を探す、しかし彼女の姿はなく、焼けた箒の残骸が見つかったのみ。アリスはその場に泣き崩れ、霊夢は辛そうに目を伏せている。

 「魔理沙なら無事よ」 ペース弾幕少女の咲夜が吹くがぼろぼろになった魔理沙を抱きかかえて現れた。
 「このとおり、何とか生きてるぜ」 魔理沙が力なく笑う。咲夜の時間と空間を操る能力で助けられたのだった。

 「しっかし、咲夜が助けてくれるなんてな」
 「あなたにはツケがいやと言うほどありますからね」
 「それにしても、あんな小細工があったなんて、予想できなくはなかったんだけどな」
 「魔理沙、大丈夫なの?」 アリスが魔理沙に走りより、手を取る、まだ温かい。
 「ああ、今のは傑作だな、お前があんなに取り乱すなんて思わなかったぜ」
 「あっ、いや、フンッ、あれはただ蒐集のライバルがいなくなったらつまらないと思っただけよ」
 「それであの泣きじゃくりを説明するの? 無理すぎるわね」 霊夢は肩をすくめて微笑する。

 「アリス」 
 「なによ」
 「心配してくれて、ありがとな」
 「別に、たまにはこういう事故もいい薬よ」 そっぽを向くアリスだが、三人にはその顔が予想できた。素直じゃない。

 「さてと、お三方、レースを続ける? それとも棄権するかしら」 

 「もちろん、続行だ」
 「続けるわ」
 「続けてもいいわ」
 「よろしい。大勢に棄権されたらつまらないしね。でもその前に、降りてくれるとうれしいんだけど、魔理沙」

 まだお姫様抱っこされていた。

 「このままゴールまで運んでいってくれないか。だめか? やっぱだめだな」 咲夜に降ろしてもらい、魔理沙は自力で宙に浮かんだ。

   *   *   *

 「魔理沙選手二度目のクラッシュ。しかしまたもやコース復帰、多少スピードは落ちましたが、自力で浮かんでます。コースは神社を抜けて、ゴールへの紅魔館まで一直線です。」

 咲夜は第二集団そっちのけで、霊夢、魔理沙、アリスの三人を少し離れたところから追いかけていた。

 (この三人が、これだけの霊力魔力でゴールしてくれれば、お嬢様たちの術は完成する。ほぼ計画通り)

 三人の弾幕少女たちは、それなりの接戦をしつつ、ゴールである紅魔館に向けてまっすぐに飛ぶ。

 (第二集団の子達も必要ないわけじゃないけれど、やっぱり必要な魔力の量を満たすにはこの三人に完走してもらわないと)

 ゴールまであと500メートル。

 「結構楽しかったけど、二人とも、わかってるわね」 霊夢が二人に言う。
 「もちろん。どうもこの点だけ怪しいしね」
 「ある意味分かってて騙されてやってるようなものなんだが」
 
 アリスと魔理沙も答える。

 「私の合図で」 「おう」 「ええ」

 「いっせーのーでっ」

 三人が急制動をかけ、三人とも綺麗に横並びしたまま、ゴールラインの毛玉の列数十メートル前で止まってしまった。

 「おーっと、三人とも急停止。どうしたのでしょうか。なにやら抗議しているような様子です」

 「どうしたの、ゴールは目前なのよ」 
 「あんたたち、いつまでも騙しとおせると思っているのかしら?」 咲夜の声に、霊夢が質問で返す。
 「何のことかしら、私はお嬢様に言われて、ペース弾幕少女を務めるように言われただけですわ」
 「このコース図をみてもまだしらばっくれるつもり?」 

 アリスも声を張り上げた、霊夢と魔理沙がこっちサイドにいるのでちょっと強気。
 
 「コースの見取り図がどうかしたのかしら」 咲夜の額に冷や汗が浮いたのを三人は見逃さなかった。
 「そのコース、どう見ても魔方陣にしか見えん」 

魔理沙が言った。コースは幻想郷一帯に巨大な星型の図形と周囲を囲む円で構成されている。

 「私達のような力を持ったものが、コースをたどることで魔方陣が完成する。これだけの面積に加えて、紅魔館だの白玉楼だのといった面々が関わっているあたり、よほどの大掛かりな術式のようね。」
 
霊夢が、図星でしょ、と言いたげな目で咲夜を見る。

 「霊夢のいうとおりだ、私達は術完成にためのダシにされた、あまりいい気分じゃない。この落とし前、どうしてくれる?」
 「私と霊夢、魔理沙でこのレースにかけられた術をめちゃめちゃにしたら、さぞお嬢様の面目丸つぶれでしょうね」 

 できる限りの意地悪な笑顔を見せるアリス。内心ドキドキ。

 「その通りだったとして、何がいいたいのかしら」 強気だが、動揺の色がかすかに見える。

 「そこで取引、だ。私達はこのことを綺麗に忘れて術の完成に協力してやる。どんな術か詮索もしない。その代わり私達三人分の願い事をかなえて貰う。」 

 魔理沙が提案する。しかし咲夜は不敵な表情で要求をけった。

 「ふふん、でも第二集団の子たちが完走すればいいだけのこと。それで交渉のつもりかしら」
 「ところがそうでもないんだな。私達が飛ぶことで、濃密な魔力や霊力のラインが魔方陣を描いている、そのラインが途切れたら術は失敗だ。あいつらの魔力じゃ、これを埋め合わせるラインなんて描けるわけないぜ。私らが協力しなければな」    
 「でまかせは寝てから言いなさい」 咲夜はまだ食い下がる
 「でまかせかどうか、あいつらが完走すれば判る。さあどうする? これだけ大掛かりな魔法だと、失敗したときに術者自身にはね返ってくる副作用も甚大だ。たとえ命は助かっても、まっ、メイド長の威信はズタボロ、レミリアの権威も地に落ちるのは確実だろうな」
 「ぐっ、助けてあげたのに、なんて腹黒い・・・」
 「だから、助けてくれた礼に、これっぽっちで水に流すと言ってるんだぜ」

 そのとき。

 「う~ん、いずれはばれると思ったけれど。あーもうやめやめ。嘘をつき続けるなんて性に合わないわ。咲夜ありがとね、もう無理しないで」
 「お嬢様!」

 レミリアがその場に飛んできて、すべてを話し始めた。あるものを召喚するために巨大な魔方陣を展開したこと、紅魔館やその他勢力の者が魔方陣を描けば事足りたのだが、最近退屈なのでレース仕立てにしてみたこと。ちなみにレース開催自体ははレミリアの提案だったこと。それに彼女もレースが面白かったのは事実だと言うこと。などなど。

 「はあ、それならそうと素直に言えば良かったじゃないのよ。それを呼び寄せるのはみんなの役にも立つでしょうに」 霊夢があきれて言った。

 「いきなり何かが起こるのが面白いんじゃない、もっとも人間は深刻ぶって大騒ぎするでしょうけど」     レミリアは悪びれもせずに言う。
 「それから、願い事の件はどうなんだ」 魔理沙が期待半分の顔で尋ねる。
 「魔理沙の言ったことはおそらく正しいわ。今回は私達の負け。三人とも願いをかなえてあげる。霊夢は冬支度の食料、アリスは大勢の友達、魔理沙はグリモワール、でしょ。」

 自分の願い事を公表されてブーイングする三人。

 「せこい願い事ね」 咲夜が苦笑いする。

 「私の運命操作能力で、これらの願いをかなえてあげる、それで取引成立、どう?」
 「わかったわ、二人もそれでいいでしょ?」 霊夢に魔理沙もアリスも同意する。
 「ところで咲夜・・・さん。私の人形、きちんと返して」
 「こっちもばれてますわね、可愛い人形だったのに」 咲夜は人形たちをを解放する。
 「アリスゥ~コアカアタヨ~」 「アリス、アイタカッタ~」 「家でお留守番していなさいと言ったのに」
 「ダッテ、シャンハイト、アリスノコト、タスケタカアタンダモノ」 「ホライモダヨ」
 「ああ、あなたたち・・・。」 人形たちを抱きしめるアリス。

 「これにて一件落着、でいいのかしら」 霊夢はもうレース優勝には興味ないようだ。

 「あっ、第二集団が近づいてきました、すさまじい魔力を感じます。魔力の源はルーミア選手!!」

 文の興奮した実況に一同が振り向くと、力を抑えていたリボンが取れ、エクストラな姿になったルーミアが猛烈な勢いで飛翔する。子供の姿だった普段に比べ、背は八頭身、大人の風貌を備え、禍々しいまでの魔力を帯びている。ちなみに服とかも破れず大きくなっているので読者のご期待には沿えません。

 「フハハハハ、遅い、遅いぞ有象無象ども。これで飛んでいるつもりか」 

 獲物に狙いを定めた猛禽のごとく、ゴールに突進するEXルーミア。

 「大番狂わせです、真の力を開放したルーミア選手、戦意喪失したらしい第一集団を尻目に、今一着でゴールイン!」

 あまりの魔力に当てられて、観客の一部が気を失い、永琳の救護所へ担ぎ込まれていく。

 霊夢たちも、言い表しがたい空気に吐き気を催す。もはや取引どころではない。

 「つまらん、暇つぶしにもならぬ」 ルーミアはそういい捨てるとレミリアに向き直り、こう言った。
 「レミリア・スカーレットよ、私の優勝だ、契約を果たしてもらうぞ。どんな願いでもひとつだけかなえる、であったな。」

 レミリアですらも、その存在感に圧迫され、何も答えることができないでいる。苦しげな息をしながら、主を守ろうと咲夜が前に立ちはだかる。

 「お、お嬢様に手を出す者は・・・、何人たりとも・・・。」
 「力なき人間でありながら、主を守ろうとするその意気や良し。しかし、契約は契約だ」

 EXルーミアが咲夜を一瞥すると、咲夜は電流が走ったように身体が一瞬震え、その場に倒れ伏してしまった。レミリアが重い空気を必死で押しのけ、駆け寄って彼女を抱え起こす。

 「咲夜、しっかりして」
 「お・・・じょう・・・さ・・・・・・」 咲夜の意識が消えていく。
 「咲夜!」
 「安心しろ、眠らせただけだ。だが約束を果たさぬならこうは行かんぞ」
 「何でもするわ、この身がどうなろうと、だから・・・だから咲夜には傷ひとつつけないで」

 レミリアが震えながら言う、霊夢、魔理沙、アリスも彼女がこれほど儚い、弱弱しい存在に見えたことはなかった。

 吸血鬼とメイド、二人の間には、単なる種族と主従を越えた絆で結ばれているのだ。

 「よかろう、では私の求めるものを伝える、心して聞け」

 閻魔を上回る、冷徹な裁定者の声。そこにいた一同に戦慄が走る、遠くにいた文もただ固唾を飲んで見守るのみ。



「焼き鳥100本、明後日までにここに用意せい」

「はあ?」

「聞こえなかったのか、焼き鳥100本いや、負けて50本でいい。もし守られなかった場合、紅魔の運命は潰えると知れ!」

そう言って、EXルーミアは自身が作り出した闇に消えていった。

「本当に、それだけでいいのか」 レミリアが闇の中へ向けて叫ぶ。




















「そうだ、あとキャベツの千切りもだ。胃がもたれるもんで」

*   *   *

ルーミアが去ったあと、会場はもとの清浄な空気に戻った。

「なんというか、力は凄くても意外と控えめというか・・・。」

魔理沙がようやくしゃべる気力を取り戻した。

「うう・・・、お嬢様・・・?」 咲夜が目を覚ます。
「咲夜、良かった」 咲夜の胸の中で、レミリアが泣きじゃくる。

「疲れた、もうレースなんてどうでもいいから、早く寝たいわ」
「右に同じ」

 霊夢、アリスももはや勝敗に関心はなかった。

*   *   *

結局、霊夢たちとレミリアら主催者側との取引は不成立になった。三人とほかの参加者たちは参加賞をもらって家路についた。その後、紅魔館が焼き鳥50本とキャベツの千切りを用意して待っていると、再びリボンを付けられ、もとの姿に戻ったルーミアがそれを平らげて、ご馳走様でした、とお辞儀をして帰っていった。

 霊夢はなぜあんなことが起こったのか少し考えた。おそらくレース中のハプニングでリボンが取れ、誰かがまた付け直したのだろう。しかしもう終わったことだ。問題はそれではない。となりで魔理沙がお茶請けの煎餅をかじっている。

 「参加賞として食料ももらえたし、悪い出来事でも無かったろ」 
 「そうね」

 すでにレースから三日が過ぎていた。

 「しかし、例の召喚魔法、こんな形になるとはな。」

 召喚された『それ』は、空間を飛び越え、レース主催者たちの目論見どおり幻想郷にやってきた。
 『それ』は博麗神社に陣取り、いまや神社と社務所の建物を除き、その敷地すべてが『それ』で埋め尽くされている。

 「これは役に立つぜ、食料も取れるし」 魔理沙はそう言いながら、香霖堂で手に入れた何らかのアイテムを取り出した。

 「それは否定しないわ。でも」 霊夢はお茶を飲み終えると、湯飲みをゆっくりと盆に置いた。

 『それ』が神社の建物にぶつかっては消えていく、まるで神社をも侵食したがっているかのようだ。

 魔理沙はアイテムから伸びた糸のようなものを、『それ』に接触させ、反応があるまで腰をすえてじっくりと待つ。

 『それ』の匂いが、あたりに漂う。

 霊夢は立ち上がり、息を肺腑いっぱいに吸い込み、あらん限りの大声で叫ぶ。



 「よりによって、神社のド真ん中に海を呼び寄せるやつがあるかーーー」
  


 「まあ良いじゃないか、塩の欠乏も防げるし、お前も釣ってみたら、釣竿貸すぜ」

 「良くなーい」

 おわり



文文。新聞 霜月の十五

 ○月○日、紅魔館、白玉楼、マヨイガ、永遠亭、その他の協賛により、幻想郷を巡るレースが開催されたが、実は海を召喚するための巨大な魔法だったことが判明した。レース参加者らがこの魔方陣をかたどったコースを最後まで回ることにより、外界にある広大な海の一部を召喚しようというもので、術は成功し、博麗神社周辺が地形を無視して海となった。レース主催社の一人、動物虐待疑惑のある八雲紫さんは語った。

 「この幻想郷には海がないでしょう。だから呼出そうとしたの。海にしかいない魚もいるし、人間も塩がないと不便だしね。この海は人間と妖怪以外のあらゆるものが行き来できるようになっているから、メッセージを入れたビンを投げたらどこかにたどり着くかもしれないし、向こうからもいろいろなものが流れ着いてくるかもね」
 
 一方、海の寄りしろとなった博麗神社の巫女、霊夢さんは今回のことに関して批判的だ。

 「海を呼ぶといってもねえ、私の迷惑も考えなさいよ、ほかにも空いた場所なんていくらでもあるでしょうに。まあ、若干賽銭収入がアップしたのはうれしいけどね」
 
 幻想郷でもかなり強い部類に位置する妖怪たちが、なぜこのようなことを思いついたのかは分からない。
しかし人間も魚や塩を取るためにたびたび訪れ、ここならもし妖怪に襲われても、博麗の巫女がいるので安心と評判も高く、幻想郷の新たな注目スポットとなっている。夏になれば泳ぐこともできるので、海水浴を楽しんでみてはいかがだろうか。

 ちなみにレースの進行は以下の通り・・・・・・・・・


 
 かなり前から考えていたのですが、MINさんに先を越されてしまいました。しかしかなり書き進めていたので消すのも惜しいと思い、アップさせていただきました。ギャグも入れたつもりなのですが、どうも『幻想郷最速決定戦』よりキレがなさそうです。最後の駆け引きのシーンでは、腹黒分に初挑戦してみたのですが緊迫感あったでしょうか。
 ご意見、ご感想、ご批評をお待ちしております。
とらねこ
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コメント



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>EXAM方式からc・n・v方式に
吹いた。

まぁ、その。タイトルに謝罪入れるくらいなら時期をずらせばよかったんじゃないかなーと。
最速決定戦が終わった後とか。タイトルはともかく中身全然違いますし。

あとアレですか。ルーミアは元祖腹ペコキャラの面目躍如ですか。
某アホ毛On/Off騎士王ですか。
6.70偉そうに語る資格が無い程度の能力削除
大変楽しく読ませて頂きました。