「アリスちゅわ~ん!おっはよーう!さぁさぁ朝から一杯食べて、今日も元気に頑張りましょうね!!」
日が昇り、起きだしてきたアリスは、まず私の顔を見て露骨に嫌な顔をした。ううっ、傷つくわ。
そして次に、朝食が既に用意されていたことに少なからず驚いたようだ。目を丸くし、部屋の入り口で呆然と立ち尽くしている。
しかし、彼女が驚くのも無理はない。食卓に並んだ湯気の上がる美味しそうな朝食を見れば誰だってそうなる。焼いたトーストに金色のバター。カリカリに焼けたベーコンエッグ。お砂糖とミルクたっぷりのコーヒー。
我ながら会心の出来だ。素晴らしい。ワンダホー。
「ほら、見て!朝ご飯なんて久々に作ったけど、美味しそうでしょう?ね?ね?」
ささっと椅子を引いて、座るように促す。
しかしアリスは顔を顰め、食卓に並べられた朝食達を一瞥するとぽつりと呟いた。
「私はいつもトーストにはアップルジャム。卵はスクランブル。コーヒーはブラックよ」
「ガァーーーンッ!!わ、分かった、今作り直すからね」
「別にいいわ、食べるから」
アリスは不服そうな顔をしながらも席について、無言でナイフとフォークを動かし始めた。
「どう美味しい?」
私がおずおずと尋ねると、アリスはぶっきら棒に言った。
「バター塗りすぎ。ベーコンが焦げてる。砂糖も多すぎるわ」
「ううっ、ごめんね、ごめんね」
「別にいいわよ」
凄く気まずい。
おかしいなぁ。手作り朝ご飯でアリスちゃんのハートをがっちりキャッチの筈だったのに。
「――ねぇお母さん。何しに来たの?」
コーヒーを啜りながらいきなり本題に入る我が娘。私なんて本題に入る心の準備も出来ていないのに!
「何しにって――そりゃねぇ?」
シドロモドロになってしまう。最初はただ様子を見て、ハッピーバースデイだけ言って帰るつもりだったのが、あの記者の件以来、おかしいことになっている。兎に角、丑の刻参りとクスリについては問い質しておくべきか。
「えーっと、あのね、丑の刻参りやってるって本当?」
「誰に聞いたのよ」
「記者みたいな女の子」
「またあの天狗なのね。本当にお喋りなヤツ」
アリスはふんと鼻を鳴らすだけで、特に否定する様子は見えない。
「ね、ねぇ、丑の刻参りやってるって、ほ、本当なの?」
「本当よ――でも勘違いしないで。研究のために必要だからやっているだけだから」
「じゃ、じゃあね。クスリはどうなの?」
「クスリ?『胡蝶夢丸』のことかしら?別に、ただのストレスに効く薬よ。害は無いわ」
「害は無いって――昔も言ったでしょ?普段からお薬ばっかりに頼ってたらダメだって」
その言い方に癪に障る所があったのか、アリスはムスッとしたような表情をしてこちらを睨んだ。
「ねぇ、お母さんはわざわざお説教するために、やって来たの?だったら大きなお世話よ。私だっていつまでも子供じゃないんだから、放っておいてよね」
その棘のある言い方に、私は戸惑いを覚えずにいられなかった。
アリスも少し言い過ぎたと思ったのか、暗い視線を手元に落とす。
一段と気まずさが増した。
しかし彼女の言うことは尤もだ。
たしかに私はこんなつまらない言い合いをしに、此処へ来たのではない。怪しい儀式も、謎のクスリも、アリス自身の不安に比べれば些細なことだ。私にも話したいこともたくさんある。だけど、こうして近くで見えてみれば、用意していた言葉達は全く無力だった。
それでもなお、私は自身の無力さに抗うように言葉を必死に探す。
「あのね、アリスちゃん、違うのよ。お母さんは、貴方のことが心配だったの。だって最近は手紙も殆ど来ないし、やっと来ても『心配するな』とか短いし――かえって心配になっちゃったから見に来たの。ただ、それだけよ」
「本当、心配性なんだから」
ふっと一瞬だけアリスの顔が和らいだように見えた。しかし、それも一瞬。
「それで、どうしてお供も連れずに一人で来てるのよ?夢子はどうしたの?」
「夢子ちゃんには黙って一人で来たわー。だって私が一人で出掛けようとすると、怒るんだもん」
「――ッ!そんなの当たり前じゃない!!お母さんは自分の立場分かってるの!?」
アリスは立ち上がり、バンッ!と食卓を叩いた。
私はびっくりしてビクッと体を震わす。
「お母さんは――神綺様は、魔界の神様なんだよ!?こんな所で油売ってて良い訳ないじゃない!!」
『神綺様』という呼び方は、何だか母親としての存在を拒否されているようで、頭を横から殴りつけられたようなショックを受けた。
でも、それは確かにそうなのだ。私は魔界を作った正真正銘の神様で、ふらふらと独り身で異界を訪ねて良い身分なのかと問われれば疑問符は浮かぶ。
「うーっ、で、でもアリスちゃん!私はアリスちゃんの母親なんだから――」
そう私はアリスの母親でもある。母親が娘のことを心配するのは当然だ。
しかしアリスは頑として譲らない。
「でも、も無いでしょう!神綺様は公私混同をなされているのです。勝手に魔界を出て、幻想郷に住んでいるような物好きの魔界人如きに心を砕く必要なんてありません」
「アリスちゃん、そんな他人行儀な言い方しないでよっ!昨日は魔理沙と喧嘩もしてたし、心配で心配で仕方ないのよ」
「魔理沙は関係ないでしょ!!」
「でもね、でもね、お手紙ではお友達が一杯いるって言ってたのに、本当は殆ど友達いないとかいう話も聞くし、心配で――」
「あの天狗め」
「いないの?友達いないのは本当なの?」
「別に、友達なんて要らないわ。私は私の修行や研究もあるから、遊んでばかりもいられないし」
「でも、その研究だって順調じゃないでしょう?」
「そりゃ順風満帆って訳じゃないけど――って何で私の研究のこと知ってるの!?まさか書斎に勝手に入ったの!?」
「ご、ごめんね」
「ああ、もう!私の部屋には勝手に入らないでよ!普通、考えれば分かるでしょ!?」
「でででで、でも、アリスちゃんのことが心配で」
「だから、そんなの理由にならないでしょ!?もう、とにかくお母さん――じゃなくて、神綺様は魔界にお帰りください」
「だからその他人行儀な呼び方は止めてって言ってるでしょ!」
「じゃあお母さん、早く魔界に帰ってよ!」
「ヒドイ――そんな露骨な言い方は無いでしょ!?」
「何でよ!?そもそもお母さんが心配し過ぎなだけなのよ?私には私の生活があるんだから、今更ノコノコ出てきて干渉するのは止めてよねっ」
「またそんなこと言って!強がりばっかり言うのは止めなさい!!」
「強がってなんて無い!私はもう子供じゃないんだから!お母さんも早く子離れしてよ!正直、鬱陶しいわ!!」
「鬱陶しいなんて、そんな言葉遣いしちゃダメだってあれほど――」
「あー、またそうやって小言ばっかり!」
「私も言いたくて言ってるんじゃないわよっ!どうして、貴方はもっと素直になれないの!?ほら、誕生日の事だって魔理沙にちゃんと言ってなかったんでしょう?あの子ね、あの後、アリスの誕生日忘れてた自分が悪いって凄く申し訳なさそうにしてたわよ。喧嘩の原因も魔理沙が全部悪いんじゃなくて、ちゃんとそういうことを他人に言えない貴方にも非はあるのよ?分かってるの?」
「なぁーっ!そういえば何で昨日は魔理沙の家にいたのよ!?どうして!何故!?」
「私が怪我して倒れてるところを助けてくれたのよー。昔は生意気で暴れん坊の子供だとばっかり思ってたのに、久しぶりに会ってみれば男言葉の飄々とした素敵な女の子になっちゃってて、お母さんもう吃驚!!ちょっと胸トキめいちゃったー、うふふふふふふふふ」
「ちょっと、いい歳して何考えてるのよ!?というか怪我?怪我ってどうしたの!?」
「聞いてよ聞いてよ、空飛んでたら突然幽香に襲われてさ、ヒューン!ドーン!って感じでやられてトホホホホーみたいな」
「また幽香なんだ」
「――え?」
ゾクリと背筋を嫌なモノが走った。
何か今、とんでもない地雷を踏んだのかも知れない。実際に、アリスの表情は一転して、 悲壮とも言える決意を滲ませたものへと変わっていた。背筋が凍る。言いえて妙だが、頭身の毛も太るとはまさにこのことだ。
「ちょっとアリスちゃん?おーい」
「また幽香なのね。またあの女、お母さんに手を出したのね」
その表情に強いデジャ・ヴュを覚える。昔、魔導書が欲しいと言って来た時も、確かこんな決意を滲ませた顔をしていた筈だ。そして唐突に、頭の隅で弾けるように、一つの考えが頭をもたげた。
「えっとね、正直に答えてね。昔、魔導書を上げたこと憶えてるでしょ?あれは一体――何に使ったのかしら?」
「何にって、そんなの決まってるでしょ。お返しをする為に決まってるじゃない」
アリスの蒼い瞳の中でチロチロと燃える赤い熾き火を確かに見た気がした。私の中の疑惑は一瞬にして確信に変わる。
フラッシュバックするあの日の光景。
魔導書を与えて、しばらくすると傷だらけになって家に帰ってきた幼い日のアリス。
新しい魔法に失敗したんだと、そんな風にずっと呑気に思っていた。しかしそれは私の余りにも楽観的な観測に過ぎなかった訳だ。そして今、アリスは再びあの日と同じ行動を取ろうとしている。
「――アリスちゃん!!」
しかし私の叫びは彼女には届いてないようだった。アリスは怒りを押し殺した能面のような顔でこちらへ向き直ると、ひょいと右手を上げた。
「上海、蓬莱」
ヒュンと何かが空を切る音がする。
何事かと訝る前に、二体の人形が何処からともなく飛び出してきた。その内の一体は昨晩も見た蒼いドレスの人形。そして二体の人形は姿を見せると、そのままくるりと私の周りを一周した。
「え、ちょっと!何!?」
体が眼に見えない何かによって拘束され、椅子の上へと固定される。
私の体を縛るもの――これは糸だろうか。
「こうでもしないと、私の後に付いて来るでしょうから」
「アリスちゃん!ダメ、絶対、ダメだって!!」
糸は思ったよりも強く、簡単には切れない。無茶に力を入れても、糸がキツく体に食い込むだけだった。軽く混乱する私を無視して、アリスは私の背後へと廻った。
そして、ごめんねと呟き、首筋に一撃。
「へぶうっ!?」
目の前に火花が散り、断線しようとする意識。
それでも何とか刹那で踏み止まり。外へと消えてゆくアリスの背中に向かって手を伸ばそうとしたが――。
空は晴天。風は凪。
向日葵が咲き乱れる丘の上空に不思議なモノが浮いていた。
赤のチェックスカートに白い日傘。
風見幽香が、波間に漂うような独特の飛び方で浮遊しているのだ。
眼を閉じ、心地よい風に身を任せている様子は一見寝ているようにも見える。しかし、見た目とは真逆に、この時の彼女の意識はいつも以上に研ぎ澄まされていた。
――ふいに風が止まる。
沈黙。
そして風も無いのに向日葵が微かに揺れる気配。
「――まだ寝るには早い時間なんじゃあない?」
「違うわよ。あなたが来るのを待っていたの」
幽香が瞼を開けば、同じ目線の高さに、蒼いドレスを着た金髪の少女が浮いていた。その姿は七色の人形遣い、アリス・マーガトロイドに違いない。
「へぇー、私が来るって分かってたの?」
アリスは余裕そうに微笑む。
しかしその口元が僅かに引き攣っていることからも、強がっていることは明白だ。
「勘よ、ただの勘。まぁ本当に寝るところだったけどね」
対する幽香は余裕そのもの。アリスが現れなければ、言葉通りに本当に寝ていただろう。
そしてそうやって、まるで友達同士のように軽々しく言葉を交わしながらも、アリスと幽香のお互いを見詰める視線は鋭い。
黄金の絨毯を背景に対峙する赤と蒼。
しかし、こうして二人が向かい合うのは初めてではない。
幽香が魔界へ乗り込んだ時にアリスが立ち塞がったのが一度目の邂逅ならば、魔界を荒らされ神綺を傷つけられたアリスが幽香に逆襲しようとしたのが二度目の邂逅。
そして今回で実に三度目となる。
「で?」
「で、じゃないでしょう?しらばっくれてるなら本気で怒るわよ」
アリスが人形を呼び出す。
主人の身を守るように姿を現す人形達。その数二十以上。アリスの十指に絡めた操り糸に魔力が漲る。全ての人形達は命が宿ったように、この戦いに歓喜し、あるいは畏れるように身を震わせた。
既にアリスの舞台の準備は整っている。
しかし、一方の幽香は未だに何の行動も見せない。
アリスの表情に怪訝なものが浮かんだ。
「幽香、私はいつでも往けるわよ」
幽香が不敵な笑みを浮かべた。
「へぇー、何?私が余裕で無防備を晒してるのがそんなに不安?心配しなくてもいいわよ。私の準備ならとっくの昔にできてるんだから」
二人の下面には、太陽の光を浴び、艶やかに光る金色の絨毯。何処までも広がっているのではないかと錯覚してしまい程の黄金の野原。その全てが自分の領地であり、武装なのだと幽香は主張したいのだろう。
「なるほどね」
アリスは唇を噛み締めながら深く頷く。例え彼女が昔より力を上げているとは言え、幽香の力が圧倒的なことに変わりは無い。だが、もはやそんなことくらいで臆するようなアリスではなかった。
「悪いけど――容赦はしないから。本気で行くわよ」
アリスが一歩詰め寄る。
「本気で?本気は絶対に出さないのがあなたのポリシーだと聞いたけど」
幽香も一歩詰め寄る。
「お母さんの前に突き出して、土下座させてやるわ」
人形遣いの指が僅かに動く。
「ホント、母親のことになると見境がなくなるのは成長してないわね」
フラワーマスターは相変わらずの傘を手にしているだけ。
「それでは」
「それでは」
動いたのは、二人同時だった。
意識が覚醒する。首筋に微かな痛み、椅子に括られ、動かない体。私は三秒とフラットで、意識を失う直前のことを記憶の海から引きずり出した。
「――アリスちゃん!?」
もちろんアリスの姿は何処にも無い。
あの子は私を虐めた幽香に対し、腹を立てていた。今頃は、単身で幽香の元へと行っている筈だ。何のために?そんなのは考えるまでも無い。目には目を、歯には歯を。古今東西でもっともシンプルな復讐法を実践しに行ったに違いないのだ。何のために?他でもない私の為に。
「くぅっ――」
自分が情けなくて思わず眉間の間が熱くなる。
一体何処の世界に、自らの不始末から自分の娘を危険に駆り立てる馬鹿な親がいるというのだ。しかも一度ならず二度までも。
「ああ―――あああああああああああッ!!」
悔しさに涙が零れる。
弱さは罪なのか。そうかもしれないし、違うかもしれない。
だけど以前の戦いで私が幽香のやられてなければ、幼いアリスが使い慣れない魔導書片手に、あの暴れん坊と対峙するような真似をする必要性はなかった筈だ。そして昨夜もまた私が一方的に幽香にやられなければ、今日もまたアリスがあの暴君と対決しに行く必要性は無かった。
いや、そもそも私が幻想郷へ来なければ、このような無益な戦いの引鉄を引くこともなかったのだ。私はつくづく愚かだ。嫌がる娘の下へ押し掛け、厄介事ばかり引き起こしている。これならば、パンデモニウムで夢子ちゃんの掃除機で転がされていた方がよほど良かった。アリスに娘離れが出来ていないと言われるのも当然のダメダメ親だ。
弱さは罪なのだろうか。そうかもしれないし、違うかもしれない。
だけど私の弱さが責任の一端になっていることに違いは無い。
私の弱さは心の弱さだ。娘が心配で仕方ないと喚き、親が子の心配をするのは当然と正論を吐いて言い訳ばかりしていた。何のことは無い。自分が不安で仕方なかっただけのことなのだ。
それに、もしかしたら心の何処かで、自分の所有物のように思っていた部分があったのかもしれない。だが、あの子はもうただのアリスではなく、アリス・マーガトロイドなのだ。いつまでも『可愛い私のお人形さん』のままである筈が無い。
私はただ、あの子が本当に、私の力を必要とした時に、迷うことなく手を差し伸べてやれば良かったのだ。私自らが、お節介で動くべきではなかった。
だが、いくら後悔を積み重ねたところで、あの子は既に行ってしまっている。
もちろん、追い掛けるしかない。追い掛けて、アリスを止める。そして代わりに私が幽 香と三度目の対峙を果たさなければならない。
そうやって幽香を恐れて逃げ回るような私自身の弱い心と決着をつける――。
「――ぐすん」
冷静さを取り戻した私はまずこの状況から脱出する方法を考える。
非力な私ではいくら力を込めた所で糸を引き千切ることは出来ない。当たり前だ。私にそんな馬鹿力はないのだから。魔法で焼き切るか?悪くは無い。しかし私が本当に使う力は、そういう類のものではない。私は糸を切るための手段をイメージする――鋏なんて良さそうだ。
「よっと――」
手にした鋏で手元の糸を断ち切る。それだけで拍子抜けするほど簡単に身を縛る糸からは脱出できた。しかし喜んでいる場合では無い。
すぐに外へ出て、アリスを追い掛けるために助走を付け、三対の黒色の翼を広げた。体は簡単に空へと舞い上がった。目の前に一杯に広がる幻想郷の青い空。美しい空だが、生憎今の私にはそれを悠長に鑑賞している暇は無い。
あの子は一体何処へ。
土地勘の無い私は幽香の住処も分からない。また誰かを適当に捕まえて聞くべきか。しかし、それでは間に合わない!そもそもこの辺には誰も――。
「――――!?」
遠く丘の方で膨れ上がる魔力の気配を感じた。
一か八か、私は必死になって翼をはためかせ、音の方向へと一目散に向かった。
情けないことに、幽香が手抜きしてアリスを適当に相手してくれていればと祈りながら。
アリスは人形達を引き連れながら、幽香へと真っ直ぐに突っ込む。
しかし行く手を遮るように、種と花弁を撒き散らしながら向日葵が爆ぜる。アリスはそれを高度を上げ、向日葵畑から距離を取ることで回避する。
そのタイミングを逃がさず追撃する幽香。アリスの背後に幽香の放った花弾が迫る。アリスはさらにそれを巧みに避ける。そして反撃。
「戦符!リトルレギオン!」
アリスを囲む人形が幽香へと殺到する。
しかし幽香自身が動くより早く、また別の向日葵が爆ぜる。高速で撒き散らされる弾幕。前に出すぎた人形は幽香に迫る前に呆気なく撃墜された。
アリスは舌打ちした。幽香の『花を操る程度の能力』は地表に広がる向日葵の全てを攻防一体の武器としている。
アリスは戦う場所を変えるべきかと逡巡し、否、とすぐにその考えを否定する。
幽香の得意フィールドで打ち破ってこそ意味がある。二度とお母さんに手出しできないように、決定的な敗北の意識を刻みこんでやらねばならない。
「将を射らば先ず馬を――上海!蓬莱!」
お馴染みの二体が召還される。
アリスが魔力を回し、二体の人形が淡く輝く。
「往け!!」
主の掛け声に紅いレーザーが咆哮を上げる。
幽香はそれを回避しながら、すぐにアリスの意図を察し、感嘆の声を上げる。
「へぇー、なるほどね」
レーザーが狙ったのは幽香ではなく、地表の向日葵の方だった。レーザーの軌道に舐められ、消し飛び、燃え上がる向日葵。壮大な眺めを誇った黄金の原野が瞬く間に蹂躙されていく。
しかしアリスはそれだけでは満足することなく、駄目押しとばかりにさらにスペルカードを切る。
「アーティフルサクリファイス!!」
人形を媒介にして、爆破の魔法を紡ぐ符を展開。閃光と土煙が辺り一面を覆い、蹂躙されズタズタにされた向日葵畑が熱によって焦土と化す。これで幽香も先程のような攻撃は使えない。
しかし幽香は全く困った風でもなく、爆風の中をアリスに迫った。
アリスは接近戦に備え、すぐさま人形を再召喚。指の魔糸を機敏に動かし、剣と槍で武装した人形で幽香に攻撃を仕掛けた。
人形が手にした剣で斬りかかる。それを幽香は緩慢な動きで日傘で受け流し、人形の首へと蹴りを入れる。首がもげてスクラップになる人形。すぐさま幽香の背後を突いて、槍を繰り出す別の一体。しかし幽香は闘牛士のようにくるりと半回転し、その突きを避ける。さらにそのまま回転の遠心力を利用して、手にした長柄の日傘を振り回し、槍を手にした一体の首を斬り飛ばした。その一連の動きは、普段通りのおっとりとしたものだといのに、精妙かつ合理的だった。
「やはり強いっ!」
対するアリスはやられた分の穴埋めをしつつ、牽制用に人形をばら撒く。設置された人形が時間差で分厚い弾幕を形成し幽香を襲う。トリッキーに上下左右と動き、幽香は弾幕を避けてゆく。その隙にアリスは再び操術を駆使して、弾幕の間を縫うようにして剣を持たせた人形達を一斉に幽香へと差し向けた。
「――!?」
幽香に向かって繰り出される剣山。
弾幕を避けるのに専念していた幽香に、この攻撃は回避不能。
アリスの脳裏に刹那、勝利の二文字が過ぎる。が、絶体絶命の筈の状況下で笑う幽香の表情を見て、それが単なる慢心だとすぐに悟る。
幽香は手にした日傘を広げ、先端を迫りくる人形の群れへと向けた。人形に斬り突かれるコンマ何秒前だというのにその動きに焦燥は一片足りとも無い。
幽香の体の中を力が巡る。魔力、妖力、霊力。さらには大気中のエーテルを飲み込み、マナを吸収し、その全てが渾然一体となって一点に集中される気配。
アリスの背中を悪寒が走った。
彼女はこれと似た魔術をよく知っている。いや、知りすぎている。
その脅威、その威力、その破壊力を。
「大丈夫よ、手加減はしてあげてるから」
「――――――」
幽香の笑みを残し、全てが白い閃光に飲み込まれた。
大気が焼けていた。
舞い上がった土煙で視界が利かない。
大量のエネルギーを撃ち込まれた空間が歪んでいた。
何より、極大の光線の直線状に存在した一切合財が消えていた。
魔理沙がミニ八卦炉を使い魔力をブーストさせて撃ち出す必殺の符を、幽香は何の助力も無しに自力だけで行った。その破壊力は魔理沙のマスタースパークと同等か、それ以上の力を秘めていた。それは馬鹿馬鹿しい程の有り余る力の具現だった。
現に向日葵畑の丘は吹き飛び、ペンペン草すら残らぬ平らな荒地と化している。
かつて、幽香のことを『眠れる恐怖』だと評した者がいたが、眼前の光景を眺めれば誰だってそう思うだろう。風見幽香が本気を出せばそこには恐怖しかありえない。
しかし、弾幕ごっこはあくまでも遊戯。本気の殺し合いを行うのは無粋であると幽香は知っているし、自分の強さを把握しているからこそ、普段からかなり手を抜いている。
だが、本気はやらないからといって、真剣にやらない訳ではない。今の一撃で、歴戦の魔法使いであるアリスがまさか死ぬとは思わなかったが、数日足腰が立たないくらいに痛めつけてやったつもりだったのだ。
だが、それが――。
視認は出来ないが、確かに感じるアリスの気配。人形遣いは未だ健在だ。
そしてもう一つ、新たな別の気配。
何者かが横槍を入れたことは明白だった。
真剣に、アリスから勝利を掴み取るために放った一撃が、あっさりと防がれたことに幽香は少なからず屈辱を覚えた。手加減をして、否、手加減をしてなお相手を余裕で倒せることが幻想郷最強を自負する彼女の矜持であるが故に。
「私がこの世でもっとも気に食わないことの一つは――」
土煙が濛々と立ち込める中、前方を睨み付けながら幽香が忌々しげに呟く。
「如何にもありがちな王道パターン踏襲ってヤツよ!!あなたなのね、神綺!?」
「いえす!あいあむ!」
強い風が吹いた。
土煙が流され、視界が晴れる。
そこにはアリスを抱いた魔界の神が立っていた。
真紅のローブに身を包み、背中には三対六枚の漆黒の翼。プラス自己主張の激しい一括りにされたたくましい髪型。前方には、幽香の必殺の一撃を防いだ淡く煌く五芒星の防御壁。
「良いタイミングねぇ。娘がピンチになるまで出待ちでもしてたのかしら――神様」
幽香の口元が皮肉気に歪む。
「う、煩いわね!ちょっと気絶してただけよ!」
気絶させたのは他でもない娘なのだが。
「――お、お母さん!」
神綺の腕の中で眼を覚ましたアリスが身じろきし、半ば呆然とした叫び声を上げる。
「どうして――?どうして、お母さんがここに居るの!?」
「幽香と決着を付ける為よ」
神綺は幽香を見据える。
その眼にあるのは、憎しみや敵意などでは無く、荘厳なまでの決意だけ。
「もう怖い怖いって言って、アイツから逃げるのは止めにしたの。だって、そうしないと アリスちゃんが無茶しようとするでしょ?本来は私の問題なのに、それにアリスちゃんを巻き込むのは良くないと思うの」
「そんなのお母さんは気にしなくてもいいわよ!お母さんは神様なんだから、そんなことはしなくてもいいの!私や夢子ちゃんに任せて置けばいいの!!」
確かにそうかもしれないと神綺は頷く。
「私は皆のお荷物になっちゃうから、そうした方がいいのかもしれない。だけどね、昔、私が幽香にやられた後、アリスちゃんがその敵討ちに行ったことなんて、ずっとずっと知らなかったから。ずっとずっとそうやって私の知らない所で、私のこと守ってくれてるなんて知らなかったから――だから今度は、私がアリスちゃんを守ってあげないと、そうしないと私がいつまで経ってもダメなままだから」
「ダメなんかじゃない!!」
激昂するアリス。
「昔、お母さんは、私達皆を守るために幽香に立ち向かってくれた。それだけで良いの、それだけで私は十分。お母さんが負い目を感じる必要なんて全然無いのよ。むしろ、私の力が不足していたからお母さんを守れなかった――本当にダメなのは私。だから、お願い、私に幽香と戦わせて」
「ダメよ。アリスちゃんは良くやったわ。もう休んでいなさい――それにね、そもそも貴方、私が来なかったら幽香に負けてたでしょう?そんなので幽香と戦うって言われて、はいそうですかって許可できる訳ないじゃない」
ムッとアリスが眉間に皺を寄せる。
「――あのね。お母さんこそ、幽香に勝てるとでも思ってるの?アイツ滅茶苦茶強いわよ。普段から何もせず、家でゴロゴロしてるお母さんじゃ絶対無理よ」
神綺が口元を引き攣らせる。
「そ、そんなのやってみないと分からないじゃない!!」
「私だってやってみないと分からないでしょっ!?さっきは少し油断してただけよ。あんなマスタースパークモドキ、油断さえしてなければ避けるのは簡単なんだから」
「モドキじゃないわ。私の方がオリジナルよ」
幽香としては目一杯主張したい部分なのかもしれないが、喧しい親子にあっさりと流された。
「でも、やられ掛けてたのは事実じゃないの。だからもう後はお母さんに任せて、ドンと大船に乗ったつもりでいなさい」
「何言ってるの!過去に何度も沈没してるような泥舟に安心してなんて言われても安心できる訳ないじゃないっ。この際言っておくけど、お母さんって自分が思ってるより、かなり弱いわよ?」
「ひ、酷いッ!酷いわアリスちゃん!!私、貴方をそんな子に育てた憶えはないわぁー、あんまりよぉー」
「また、そうやってすぐに凹むし。あー、兎に角、お母さんは私が守るわ。私の家で紅茶でも飲んで待っててよ」
「バカ言わないで!!アリスちゃんは私が守るわ!貴方こそ家に帰って、その、紅茶でも飲んでたらどうかしらぁ?」
「バカはあなたたち親子よ」
「「何ですって!?」」
二人の声がハモった。幽香は神綺とアリスに睨まれながらも、満足そうにふんと笑う。さっき無視されたことに対するお返しなのだろう。
「あなたたち勘違いしてるみたいだけど、どちらかが私とサシでやったところで、絶対に勝てないわよ?人形無しじゃ戦えない人形遣いだとか、毎日ワイドショー見ながら、ゴロゴロ横になって煎餅食べてる神様とかじゃ無理ね、不可能よ」
「な、何か酷いこと言われてる気がするぅ!?」
「お母さん、落ち着いて。あれは精神的動揺を誘うためのブラフよ」
「あなた相手にブラフを使うほど落ちぶれちゃいないわよ。ともかく、母親は娘を守りたいと言い、娘は母親を守りたいというのなら話は早いわ――二人同時に私と戦えばいい」
幽香はさらりとそんなことを言い、
「尤も、あなたたち程度の二流三流どころが揃った所で、私には何ら脅威にはならないけどね」
さらに挑発するようにそう付け加えて、クスクスと笑った。
「くうっ!馬鹿にして――アリスちゃん、弾幕(や)るわよ!!」
「言われなくてもそうするわ。私達のことを甘く見たことを後悔させてあげる」
「私達の愛と絆を思い知らせてやるのよ!!」
「――え、ええ」
「愛と絆よ!!!」
「分かったから、そんなに強調しなくても」
「そうなこなくっちゃね。これで少しは私も楽しめるかしら」
幽香がパチンと指を打ち鳴らす。
最初はアリスにも神綺にも何が起こったのか分からなかったが、変化はすぐに現れた。
焦土と化した地面から緑色をした芽が生えてくる。天よ突けよとばかりに茎がグングンと伸びる。そして見る間に黄色い大輪の花を付ける。
「う――そ」
「まぁ綺麗」
地肌が剥き出しになっていた丘が、段々と金色の絨毯で埋め尽くされてゆく光景は幻想の郷に在っても、なお幻想的な光景だった。神綺とアリスはその光景を驚きと共に、恍惚とした表情で見詰めているしかなかった。
「幻想郷の開花、完成ってところかしら」
再び己の領地を取り戻した幽香は満足そうに頷く。
「ま、そういうことだから、頑張って向日葵を吹き飛ばそうとしたアリスはご愁傷様」
「嫌なやつ」
「目の付け所は悪くなかったわよ。花は私の武器でもあるのだから、それを無効化しようという戦い方はとても利巧ね。ただ、その程度の浅知恵で私を圧倒することは不可能よ」
陽気に咲き乱れる向日葵を背景に幽香が両手を一杯に広げる。
「さぁ、アリス!神綺!私を楽しませて。あなたたちの足掻きを、私に見せてなみなさい!!」
「往くわよ――アリスちゃん」
「ええ、往くわ。二人でギャフンと言わせてやりましょう」
母は娘の為に、娘は母の為に。
大妖怪に至ってはただ己の気紛れの為に。
戦う理由は三者三様。
しかし、絶対に負けたくないという意地だけは三者とも共通していた。
ならば、どこまで己の意地を張れるか――それが勝負の分かれ目となるだろう。
長い時を経て、幻想郷を舞台にして因縁の対決が幕を開ける。
果たしてこれは誰が願ったことなのか。
私を守るように一歩前に出たアリスは、平常以上に精神を研ぎ澄まし、集中している。
不可視の糸に込められた魔力と指先の技巧を駆使し、彼女が繰り出した人形はその数、実に四十以上。指一本につき、人形四体以上。思考を疾走させ、それらを並行して別個に処理しているのが判る。
私は舌を巻かずにはいられなかった。
人形遣いと言うは容易いが、人形を製作するだけではなく、それを操るための技術も簡単には体得できるものではない。私は娘が想像以上に成長していることを知る。
「往くわよ」
アリスは振り向かないまま、最後に念を押すようにもう一度そう言った。
この戦い、負ける訳にはいかない。
私の為に。
アリスの為に。
「往きましょう――」
私の答えを皮切りにアリスが動く。
三百六十度、幽香を全方向から囲うようにして人形を移動させる。
次の布石の為に。
次の次の布石の為に。
弾幕は頭脳(ブレイン)。
その動きは迅速かつ緻密。
幽香は、大仰に両腕を広げ、喜色に溢れた笑みと共にそれを迎える。
アリスが魔糸を紡ぐ。ハープを奏でるように。それに合わせ、幽香を蹂躙し、打ち倒す為に一斉に人形達が襲い掛かる。
しかし幽香を守るようにそびえる向日葵の群れは、人形の接近に伴い自ら散華した。広範囲に渡って撃ち出される高密度の花弁と種の弾幕。幽香に迫っていた人形達の何体かが直撃を受け、地に転がる。
あの忌々しい向日葵がある限り、幽香には容易に接近することすら難しい。
無論、聡いアリスがそれを理解していない訳はない。理解した上でそのような行動を取るということは、何らかの意図がある筈だ。
幽香はアリスに集中して攻撃をしている。
アリスは被害が最小限になるように上手く立ち回ろうとしている。
――つまり陽動か。
アリスの意図に気付いた私は、遥か高く、空に舞い上がり、二人の頭上を押さえる位置に着く。ここならば幽香を真上から狙え、アリスへの援護もしやすい。
背中に広がる六枚の翼に力を込める。
「幽香、貴方は地にへばっていなさい」
アリスは私の動きを機敏に察すると、私の攻撃に巻き込まれないように人形共々、素早く一歩後退した。そのタイミングに併せて私は攻撃を仕掛ける。
「喰らいなさい!滅びのばーすとすとりーむっ!!」
「お母さん、それパクリっ」
翼から六条の光を放つ。
線条は互いに交差し干渉しながらも、大地に降り注ぎ、爆発四散し、地を穿った。
当然、狙ったのは幽香ではなく、視界内一杯に広がる向日葵畑の方だ。向日葵は光に呑まれ、次々と消し飛び、地面は更地になってゆく。
「ふぅん、親子揃って考えることは同じなのね」
幽香は降り注ぐ光の柱を避けながら、バカにしたようにクスクスと笑う。
「リトルレギオン!!」
間髪入れずアリスが幽香に直接攻撃を試みる。
自らを囮にした陽動に続いて、本体への波状攻撃。
しかしその時には、既に次の向日葵が咲き始めていた。再生速度が恐ろしく早い。
「――まるで学習能力が足りてないわッ!!」
再び金色の花弁を撒き散らし爆ぜる向日葵の一群。咽るような植物の香りが周囲に広がる。
アリスは己の身を守るため、人形を身代わりにしながら、それでも速度を落とさず幽香へと突っ込む。高密度の弾幕に飛び込んだ代償として、人形を多数失ったが、代わりに幽香へと肉薄することができた。
そして天敵の最接近に合わせ、アリスが繰り出したのは、編み上げブーツによる渾身のキック。ザ・蹴リス。
「このッ!」
一瞬で行われる攻防。確実に幽香を捉えたと思われた攻撃は、しかし幽香の顔面スレスレで、構えた傘によって受け止められていた。ギリギリと力が拮抗し空中で一瞬静止する。
「弱い――弱いわねぇ。同じ3ボスでも、名無しの門番の方がまだ気合が入ってる!」
幽香がさらに一押し。吹き飛ばされるアリス。否、吹き飛ばされる力を利用して距離を取ったのか。
「幽香、こっちよ!!」
再び私の攻撃フェイズ。幽香の直上へと回り込んでいた私は、両の掌の間に、不定形の暗黒塊を創り出す。躊躇無く幽香へと撃ちだしたソレは空中で分裂し、数を増やしながら 彼女へと近づく。すぐさま迎撃の為に花弾を撃ち出す幽香。しかし、私の暗黒弾はそれらを飲み込みながら尚奔る。
「ちっ――」
幽香の舌打ちが聞こえた。
私は思わずスカッと爽やかな笑みが零す。
が、それも一瞬。
幽香は傘の石突を迫る暗黒塊に向け、一瞬で魔力をチャージし、魔砲を撃ち出した。滾る魔力を腹一杯食わされた暗黒塊が消滅する。
「うわっ――ととととと」
暗黒塊を撃ち落しただけでは飽き足らず、そのまま私を狙ってきた魔砲を九十度ロールして交わす。私の居た場所を舐めるように熱風が掠めていく。全く油断できない。
しかし、魔砲を撃ったことで幽香に隙が出来た。
アリスは見越したように既に行動を起こしている。
「戦操――」
幽香に吹き飛ばされた姿勢から、空中でクルリと一回転し、スペルカードを切る。グルリと幽香を囲むように召還される人形達。そしてアリスは、自らが網の目のように張り巡らした魔糸の上へと着地すると同時にスペルを発動。
「ドールズウォー!!」
円状に幽香を囲んだ人形の軍隊が、中心部目掛けて一斉突撃する。幽香は一瞬、上空へと逃げようとするがそこには私が待ち構えている。
「チェックメイトよ!」
「クッ、花よッ!!」
幽香の呼び声に答え、向日葵が再び開花した。
いや、開花なんて生易しいものではない。地面から槍が突き出るように、向日葵の茎が伸びてきて、それが一瞬で花を広げる。十本、二十本、四十本――。
向日葵が幽香を囲む。
花を盾にするつもりか。
人形達がそれに激突する。手にした剣で向日葵を切り倒し、魔光で燃やす。
単なる植物に過ぎない向日葵は容易く断ち切られ、燃え落ちる。
しかし数と生えてくる速度が桁違いだ。まるで縒り合わせた糸のように、群れた花は尋常ではない耐久力を見せ付けた。
「なんで、突破、できないのよ――!」
「――アリスちゃん、避けてッ!!」
三度目の魔力の猛り。
号砲と共に花の盾は内側から破壊された。向日葵の中に閉じ篭っていた幽香が放ったオリジナルマスタースパーク(本人談)だ。
どうやら幽香は上手い具合に危機を好機にすり替えたらしかった。
その勝負勘の良さに恐れ入る。
「―――ッ」
アリスは人形を捨て去り、横に飛びのいて間一髪で致命的な一撃を避ける。
私も攻撃の手を緩めるつもりは無い。幽香に向かって、暗黒弾を再び――
「遅い」
「えっ?」
目の前に既に回り込んで来ていた幽香。
幽香が傘を振り上げる動作がやけにスローに感じられた。
目の奥に火花が散る。意識がブラックアウト。
「――お母さん大丈夫!?」
アリスの声で覚醒する。
どうやら空中で気絶して、そのまま落下したようだ。幸いなのは気絶していたのが僅か数秒足らずで済んだことか。額が痛む。傘で叩かれたのか、タンコブができていた。
「おでこ叩かれちゃった。あー、痛いわ」
「――あの高さから落ちて、痛いのはおでこだけなワケ?」
「?」
「いや、もういいわ――それよりも」
アリスが切羽詰った表情で周囲を見る。
「アリスちゃん、何かやばそうよ」
「ええ、かなりヤバイわ」
「どうしようか?」
「こっちが聞きたい」
「私泣きたい」
「私だって泣きたいわよ」
私達は、自分達より遥かに背の高い向日葵に囲まれていた。もちろん幽香が開花させたのだろう。追い込んだつもりが、逆に追い込まれてしまったようだ。花の一本一本が幽香の武器であり、防具であることは彼女の戦い方からも解る。
幽香本体も手が付けられないほど強いというのに、こういう風に数で攻められる戦い方をされると、正直お手上げだった。
「あらあら、もう終わり?」
声は聞こえど姿は見えず。
どの方角から強襲されても良いように、私とアリスは背中合わせになって油断無く構える。
「――それこそ、まさかよ。ねぇお母さん?」
「その通り!我が魔界軍は永久に不滅ですっ」
「笑わせてくれるわね」
ガサリ、と花の轍が揺れる。
「――そこッ!!」
アリスが一喝と共に腕を振るう。
鋭い風斬り音と共に、向日葵がスッパリと断ち斬られた。
どうやら人形を動かす魔糸を振るって切断したらしいが――アリスちゃん、貴方何時から魔界都市のマンサーチャーになったのかしら。
「ブッブー、ハズレ!」
茶々を入れる声がする。
幽香の位置は――逆か。
私はすぐさま声のした方向へとありったけの暗黒塊をぶち込んでやる。
「やったっ!?」
「まだよ、お母さんッ!!幽香は――」
「へ?」
アリスが一瞬で、何処からともなく一冊の魔導書を呼び出す。
「―――二人いる!!!」
「「大正解(イクザクトリー)」」
向日葵の轍の中から、幽香が、二人、頭の上へと飛び出してきた。
「分身!!」
二人の幽香がこちらへと傘の先端を向けていた。
この構えはもちろん――。
「ダブルスパークッ!?」
アリスが悲鳴を上げる。
「むしろデュアルスパークってところかしら」
答えて、ニヤリと幽香が哂う。
幽香の魔砲なら、全力で魔法障壁を使っても単発で耐えるのでギリギリ。分身からの攻撃に単純に2倍の威力が無かったとしても、この致命的な一撃を回避する術を私は持ち合わせていない。
心が絶望に染まる。
「お母さんは――」
だがアリスの心は死んでいなかった。
「私が守る!!」
アリスが手にした魔導書を開放したのと、幽香が魔砲を繰り出したのは同時だった。
二極の閃光に対し、七色の光が溢れ、障壁となって私達を守る。
魔導書の名は『グリモワール・オブ・アリス』。
私がアリスの為に作り出した、アリスの為の窮極の魔導書。
七色が混じりあい美しい虹色のオーラを描いた。
しかし、その程度では幽香の攻撃を防ぐまでには至らない。幽香の強大な力の前に侵食されてゆく。だが、それでも時間を稼ぐには十分だった。すなわち私が闘志を取り戻し、体を行動を起こす程度には――。
「アリスちゃん!」
私は彼女の体を抱きしめ、全力で翼に力を込めると、そのまま幽香の攻撃の軸線上から無理やり移動した。
「チッ!」
目標を失った双子の魔砲が見当違いの方向へと飛んでいく。
私は力を入れすぎたために着地に失敗し、アリス共々は向日葵畑を無様にゴロゴロと転がった。
「大丈夫、アリスちゃん!?」
「ハァハァ――何とか。でも、この本を使うのは久々だったから正直、負荷がキツイわ」
こんなことなら普段から使い込んでおくべきだったとアリスは苦々しく言う。
つまりとっておきの魔導書さえ切り札にはなり得ないということか。
質と量を兼ね備え、力押ししていれば勝てる幽香とは違い、二人掛りだというのにこちらには決め手になる切り札が決定的に欠けていた。おまけに既に満身創痍。アリスは人形を殆ど失っているし、大変遺憾なことに私の攻撃では幽香の足止めで精一杯だ。
だが、それでも。
「――お母さん」
「ええ、まだ戦えるわ」
私達は手を取り合い、立ち上がる。
劣勢に違いは無いが、それでもまだ負けてもいない――!
「あなた達、思ったよりもしぶといのねぇ」
幽香がゆっくりと漂うようにこちらへ向かってくる。
その顔に浮かぶのは獲物を追い込んだ狩人の目だ。
幽香の分身は既に解けている。連続で使える技ではないのか、それとも単なる気紛れか。
「不可解だわ。どんなに足掻いた所で結果は見えているというのに、どうしてまだコンティニューしようっていうのかしら。どこにそんな力が残っているんだか」
幽香は理解不能だという風に首を捻る。
「不可解ですって?」
そんな幽香を私は笑ってやる。
「簡単なことよ。一人だけならもうとっくにリタイアしてるでしょうけど、今の私達は二人で一つ。アリスちゃんが私を支え、私がアリスちゃんを支えているから二人とも倒れはしないのよ!!」
「その理屈が――解らないって言ってるのよ!」
幽香がパチンと指を鳴らした。
また向日葵弾か。
アリスの前に立ち、広げた翼より魔光を撃ち出し相殺する。
「解らない?あなた程、頭の良い妖怪が解らないですって!?」
アリスがカードを切り、人形を召喚する。
「解らないんじゃないのよ、幽香。あなたは理解したくないのよ、今の私とお母さんを支えているこの力の正体を」
操符「乙女文楽」を発動。多方面へ照射されたレーザー光が幽香共々、周囲の向日葵を蹴散らす。
しかし幽香は緩慢な動きでレーザーを回避。向日葵も次々と開花。反撃を食らった乙女文楽が撃ち落される。すぐにアリスは次の「霧の倫敦人形」を召喚。しかし展開しきる前に、幽香の容赦ない怒涛の攻撃で、人形が潰される。
「無駄よ。人形より花の方が強い。私はあなた達より強い――そして、力こそが全て!」
幽香が魔砲を発射。私はアリスを抱えると急上昇してそれを回避。それに対し、幽香が追撃の花弾を発射。二人分の体重のせいで思うようにスピードが出ない私は上手く避けれずたたらを踏んだ。空中で姿勢が崩れる。
「アハッ!!ほら、やっぱり弱いじゃない」
幽香の哄笑。分身。デュアルスパーク。
「――ヤバッ!」
二本の光線の間に身を捻るようにして捻じ込み、グレイズしつつ地上へ向けてダイブ。地面に落ちる直前にアリスを放り出す。
「解らないなら、解らせてあげるわ!私達を支えてる力ってのはね――」
華麗に着地したアリスが魔導書の力を解放。
「絆ってヤツよ!!」
七色の弾丸が渾然一体となり、虹色の奔流となって幽香を襲う。
直撃。しかし倒したのは分身の方だ。本体は未だに健在。
「こいつらッ――」
だが、思わぬ反撃に幽香は吼える。
地面スレスレから体を引き起こした私は再び急上昇、そして急旋回。
最高速で幽香に迫る。
「そう絆!そして愛!!ワハハハハハ!喰らえ幽香、ごっどはんどくらっしゃー!!」
「お母さん、それパクリっ」
全体重と全速度で幽香の顔面へとパンチをお見舞いする。さっき傘で叩かれたお返しだ。
「グッ――」
幽香が仰け反る。
チャンスだ。
「上海!蓬莱!」
アリスが虎の子の二体を召喚。魔彩光のレーザーが幽香へと迫る。
「フフ、フフフフフフ――あははははははははは!!」
幽香は仰け反りながら哄笑し、一瞬で魔力をチャージする。そして目標を目視せぬまま、山勘でオリジナルマスタースパーク(特許出願中)を発射。適当に撃たれた攻撃だというのに、的確に上海と蓬莱のレーザーを吹き散らし、逆流するようにそのまま二体を攻撃。
「モルスァー!」
「ブルスコファー!」
直撃を受けた二体が奇声を発しながら落下。
「ああッ!上海!!蓬莱!!」
「あんまり、調子に乗るんじゃ無いわよっ」
幽香の一喝に答え、地表の向日葵が一斉に開花。四散する。
「痛っ!!」
「きゃっ!!」
私とアリスは爆発にもろに巻き込まれ吹っ飛ばされる。
そして幽香は私に殴られたせいで垂れる鼻血を、服の袖で拭いつつ、地面に這い蹲った私達を満足そうに眺めながら言う。
「これで懲りたでしょう。いい加減、もう諦め――」
「あきらめない!」
「あきらめない!」
私達は立ち上がる。
全身は痛いし、埃や土であちこち汚れ、服もボロボロになって、もうさっさと家に帰ってシャワーでも浴びた方が賢明なのは解っているが、それでもこの場を退く気にはなれなかった。
「何なのよ」
幽香が珍しいモノでも見るように私達の姿をつぶさに眺める。
「どうして、何故、まだ戦えるのよ」
煤で汚れた顔を拭いながらニヤリと笑って私は答える。
「甦るたびに強くなるのが神様――今日の弾は、お嬢ちゃんのトラウマになるよ」
ふん、と幽香は鼻で笑う。
「そんなこと言ってると、こんなに向日葵も綺麗から本気で殺すわよ」
「あなたたちにプライドは無いの!?」
良いじゃないアリス、一度は言ってみたかったのよ、コレ。
「――だけど、お母さん。どうするの?私はもう人形使い切っちゃったわよ」
アリスがこそこそと耳打ちする。それは大変だ。
「グリモワール・オブ・アリスで善戦はできるだろうけど、アイツをぎゃふんと言わせるのは難しいわ」
「困ったわねぇ」
人形を遣うというスタイルである限りは、人形が無ければ戦うことが難しい。その点、花を咲かせ、さらにその種から発芽させ、次の花を生み出す幽香の戦い方は、本人の魔力がある限り永久に増え続け、尽きるということを知らない。
数で押す持久戦になれば、人形遣いとフラワーマスターとでは、前者が激しく不利となる。むしろ、幽香はそれを知っててこういう戦いに持ち込んだ気もする。つくづく侮れない。
「人形さえあれば」
アリスは爪を噛みつつ、悔しそうにそう零す。
人形さえあれば、か。
「アリスちゃんは人形があればアイツに勝てる?」
「勝てるかどうかは解らない――けど」
アリスは私の目を真っ直ぐ見ながら言った。
「負ける理由が無いわ」
強い意志の光を宿した目。
魔界を出て、幻想郷で過ごした数年間、その中で鍛えられた自信か。この子は魔理沙と一緒に戦う時は、きっとこんな目をしているのだろう。
アリスは本当に強くなった。もう何処に出しても恥ずかしくないくらいに。
そして、そんな顔をされたら私も全力で応えるしかない。
「解ったわ、アリスちゃん。もう一度だけアイツに反撃できる力を私が作る。最初で最後のチャンス。これでもし無理だったら、今の私達のアイツを倒せる方法は無いわ」
アリスは強く頷いた。
「もしなんてありえない。お母さんが作ってくれるチャンス、絶対に活かす」
「そうね。信じてるわ――アリス」
私達は強く手を取り合い、互いの健闘を祈った。まるで戦友がそうするように。
「お取り込み中のところを申し訳ないけど、そろそろ宜しいかしら?」
空気を読まない幽香が、横から慇懃無礼な声で言う。
「ええ、待たせたわね、幽香。私達もいい加減疲れたから次で最後にするわ。ねぇ、アリスちゃん?」
「そうね。残念ながら今日の最後の出し物になるわ」
「ようやく親子揃って身を張った滑稽劇も終わり?」
「ふん、大爆笑して笑い死にするといいわ」
ふぅ、とアリスは溜息を一つ吐くと、言い争う二人を無視して最終幕の始まりを告げる前口上を述べた。
「それじゃ往くわよ。皆々様、お待たせいたしました。アリス・マーガトロイドとその母、神綺による演目。その最終幕を――」
アリスは神綺より一歩手前に出て、だらりと両の手をぶら下げていた。彼女が既に手持ちの人形を失っていることは幽香も見抜いていた。それでどうやってこの劇の続きを行おうというのか。幽香はそれを見極めるつもりでアリスの動きをジッと見詰めている。
アリスの指が動いた。
視えないが確かに存在する糸をゆらりと揺らす。しかし肝心の人形が無いではないか。幽香は皮肉気な笑いを浮かべ――そしてそのまま表情が凍りついた。
人形が存在している。
いつの間に現れたのか、アリスが操る糸の先に人形が確かに存在していた。
召喚ではない。
文字通り、虚空からひょっこりと人形が姿を現したのだ。
それが何を意味するのか、一瞬で理解した幽香はその信じられないような光景に、目を見張らずにはいられなかった。
幽香は神綺の姿を見た。背中には純白の六枚の翼。まるで天使の様だ。彼女は俯き、祈るように両の掌を組み合わせている。いや、実際にそれは祈っているのかもしれない。真剣に、真摯に、敬虔に。
祈りに応えるように人形が増える。小さいの大きいの、民族色豊かなモノから無国籍なモノまで、色取り取りの人形が現れる――いや、正確を期すならばそれは生まれてきたという方が正しいだろう。
それらの人形は何も無い、虚空、或いは虚無から、創られ、生まれてきたのだ。
花が種から生まれ、花から種が作られるように、既に『在る物』が移ろい、姿を変えてゆくに過ぎないのがこの世の法則。全ての存在は流転するのが世のドグマ。
唯一の例外があるとすれば、それは世界そのものが創られた、その原初においてだ。その一時に置いてのみ、無から有が生まれてくるという奇跡が起きた。
だと言うのに、そんな奇跡を、軽々と再現する者が今、幽香の目の前に居た。
神話の幻想。
インフィナイト・ビーイング。
無限の存在――。
「――神綺!!」
幽香は畏怖と喝采を込め、その者の名を叫んだ。
私は魔界においては神という身分で語られる。
理由は単純だ。私が魔界という世界そのものと、そこに在る全てを創ったからだ。魔界人は全て私の創造物であり、子供である。そして被造物が創造者を神と呼ぶのは不自然なことではなく、それ故に神の名で呼ばれる。
だが、神綺という存在が、本当に大文字の意味での『神』なのかと言われれば、私自身疑問を抱かずには居られない。
何せ私は全知全能の存在から程遠い。弾幕勝負すれば弱いし、叩かれれば痛いし、お腹も空くし、料理も下手だし、お昼のワイドショーだって見たい。そういう存在なのだ。
ただそんな情けない私にも、何故か、世界一つを創れてしまう力はあった。
無から有を創る程度の能力。
ありとあらゆるモノを創る程度の能力。
世界を創る程度の能力。
呼び方は何でもいい、呼び方自体に意味は無い。
重要なのは、モノを創るという領域においては誰にも負けない自信があるということ。
必要ならばイチゴだって服だって鋏だって創れる。
アリスが必要と言うなら人形も創る。そんなのは月とか太陽だとか空とか大地だとか、そんなモノに比べれば朝飯前だ。創り方を意識するまでも無い。それは理屈ではないのだ。方法を真似れば誰にできるというものでもない。これは術ではなく、固有の能力なのだから。私はただ、その存在を想い描くだけでソレを創り出せる。ほら、こんな風に――。
両眼を開いた。
アリスの背中が見えた。アリスの周囲には彼女を守るように浮いている人形達。ずらりと並んだそれらに魂は無いが、私にはその子達が、主人であるアリスに命令され、操られることを願っているのがよく解る。
それらの数はアリスが過去に所有したであろう数をあっさりと超え、千に達しようとしていた。その様子はさながら向日葵畑に突如として現れた万国人形博。もちろん必要とあれば、私が居る限りは千、万、億といくらでも創り出せる。
私はようやく気付いた。私が創り、アリスが使う。これが私達の戦い方なのだと。
力任せに正面から幽香と遣り合って勝てる訳が無かったのだ。幽香が数で押してくるなら、こちらも数で押せば良い。私達にはそういう戦い方ができる。
「――お母さん」
アリスが振り返りこちらを見た。
何年かぶりの尊敬の眼差しで。
私はビシッとサムアップしてマイドウターへと笑い掛ける。
「いくわよアリスちゃん。人形の貯蔵は十分?」
「戦操!」
アリスがスペルカードを宣言。
「ドールズウォー!!」
レギオンが侵攻する。敵を打ち倒す為に。
「花よッ!」
幽香はそれに対し向日葵を使うことで対処する。
数には数を。それは今日既に何度と無く繰り返されたやり取りだ。
爆ぜる向日葵。人形を巻き込み爆発四散する。数十体の人形がやられる。
しかし、千にも上る数の前ではその程度のダメージは焼け石に水。すぐさま雲霞の如く詰め寄り、向日葵を蹂躙する。電撃。包囲。殲滅。掃討。飛び散る火線。つんざく轟音。硝煙に似た香り。戦争の風景。
「ROTE ラッシュ!! ROTE!!」
並行突撃。幽香が反撃。だが余りの数に殲滅速度が間に合わない。
いくつかの攻撃を避け損ない、幽香の服の裾が激しく破れる。
幽香は圧倒されていた。
――そんな。
幽香とて負けたことが無い訳ではない。過去の弾幕勝負の内、何度かは敗北したこともある。霊夢などはその最もたる存在だ。
だが、こんなにも圧倒され、追い詰められたと感じるのは実に何百年ぶりかだった。
「この――しゃらくさいッ!!」
ジリジリと焦燥を感じ、そういう感情を抱いている自分に戸惑いながら魔砲をチャージ。 レギオンの最も厚い部分に向けて発射。閃光。蒸発。
「御代わりならいくらでもあるわよっ」
しかし減った分を神綺が片っ端から復活させる。
幽香の花を使うという一見貧弱そうな攻撃方法が予想に反して強いのは、花という在り来たりの、極ありふれたモノを使うからに他ならない。花の存在しない場所は無いし、花が咲かない場所も無い。
それに比べればアリスの人形を遣う戦い方はあまりに特殊すぎる。人形をいくら用意しようとしたところで、その数は知れている。
だからこそ幽香は開幕からアリスに数を頼った戦いを仕掛けた。数対数になれば自分が勝てる。種から花、花から種と永遠に循環する限りは花が尽きることは決してない。
だと言うのに――。
絶対的アドバンテージであった筈の数が、何の意味も成さなくなっている。
花が片っ端から刈られていく。滅ぼされていく。人の形をしたモノに。
「チィッ!!」
牽制に花弾を撃ちつつ幽香が初めての後退。
「逃がさないッ!!」
それを無数の人形達がアリスに操られるまま無表情で追撃する。
恐るべきは神綺の能力だけではなかった。千に達しようという傀儡共を、その十指だけで自由自在に操る人形遣いの手腕も今や現実的な脅威だった。
幽香は自分の油断を悔やむ。
アリス・マーガトロイド、何時までも昔と変わらぬ子供のままだと思っていたが、それは幽香の思い違いだった。彼女は格段にその腕を上げている。
しかし幽香は諦めた訳ではない。むしろ歓喜していた。己が力を振絞り、倒すべき相手が現れたのだと。
幽香がさらに後退する。人形の隊列が延びた。そこを狙って幽香が向日葵を操り弾幕を叩き込む。分断に成功。アリスは人形をそこに向かわせ隊列を立て直そうとする。
「チェストォォォォ!!」
幽香が魔砲を発射。狙いは神綺。
「しまった!お母さん!!」
アリスが絶叫する。
慌てて人形を神綺の元に戻そうとするが、間に合わない。迫る魔砲。
神綺はニヤリと笑う。
ゴォォォォォ――と風がうねった。
そこにあった空気を押しのけ、虚空から巨大な、五本の指を持った手が生えてきた。その巨大な掌が魔砲を握り潰す。
「――いや、何。最初からこうしていれば良かったのよね」
「「うっそぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」
アリスと幽香の叫び声が綺麗にハモった。
オオオオオオオオオォォォォ――と咆哮と共に巨体が全身を現す。
ソイツは金髪を赤いリボンで結い、青い洋服を身に纏っていた。
その格好だけを見ればアリスにとっても馴染み深い人形だった。
ただしその身の丈は20m近い。
「我、神の名においてこれを創造する。ユー・ノット・ギルティ!!」
「しゃ、上海?」
アリスは顔面を強張らせながら、目の前の巨大な人形に恐る恐る尋ねる。
「「「 シ ャ ン゛ ハ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ イ ッ !!!」」」
そうだと言わんばかりに大魔神が吼えた。
でかすぎてゴウッっとしか聞こえない。
「イヤァァーッ!可愛くなぁーーーーーーい!!」
アリスは危うく精神を汚染されかける。
「さぁ、アリスちゃん!これを操って戦うのよ!」
ノリノリの神が約一名。
「バカ!お母さんのバカ!!」
「な、なんですってぇー!!」
「神綺、ダンマク舐めてんでしょ?」
「やめて、そんな目で私を見ないで!私、神様だから一般人とスケールが違うのよ!解る!?」
神のカリスマ急激に降下。
先程までアリスの眼に浮かんでいた尊敬ももう微塵も無い。
「何だか、本気でムカついてきたわ――」
呟いた幽香の眼に理性は既に残っていなかった。もはや目の前のウツケをぶっ飛ばすことに全神経を集中している。
「アリスちゃん、助けて!ピンチ!」
「うわあああああああっ!もう自棄よ!!」
神綺とアリスは巨大上海人形の背に飛び乗る。
幽香は既に魔砲をチャージし始めていた。殺す気満々で全霊力を集中している。大気が震える。空気がピリピリしている。傍に居るだけで怖気が走る。恐怖に身が竦む。これが幻想郷最強の力か。
ただ、今や恐怖の権化と化した幽香が対峙する存在も、その異様さでは引けを取っていない。魔界神の娘への愛が間違った方向に結集したアーティファクト。巨大上海人形。ザ・ビッグ・エス。
「あなた達バカ親子に付き合わされた私からのせめてもの返礼よ――」
地獄の底から響くような憤怒の声で幽香が囁く。
「チリになりなさい」
「アリスちゃん、最後に貴方に逢えて良かったわ」
「え、死亡確定!?」
集中した多大なエネルギーは、あたかも巨大質量がそこにあるような威圧感を与えてくる。そんなものを食らえば本当にチリになるだろう。だがアリスも神綺もこんなバカらしいことでまだ死ぬ気は無かった。
アリスが懐からスペルカードを取り出す。
その一枚を二人で、手を繋ぐようにしてきつく握り締める。
(――アリスちゃんは私が守る)
(――お母さんは私が守るわ)
「往くわよおおおお――本家マスタァァァァァァァァアアア―――」
本家をやたら強調する幽香。
対抗する神綺とアリスの二人はカードを掲げ、高らかにスペルカードを宣言する。
「「咒符!!」」
「スパァァァァァァァァクッッッ!!!!」「「上海人形ッッ!!!!」」
幽香が極大の白い閃光放ち、神綺とアリスの魔力を注ぎ込まれた巨大上海人形が紅い閃光を吐いた。圧倒的なエネルギー同士の衝突。その前では世界など吹けば飛ぶほどの儚いモノに過ぎない。もはや勝敗など瑣事に過ぎない領域にまで足を踏み込んでいる。
閃光と爆発の中で神綺とアリスの二人は強く手を握り合っていた。
剥き出しの暴力。
狂った力の奔流。
意地と意地のぶつかり合い。
吹き荒れる力が強くなればなるほど、強くお互いの手を握る。この手を離すくらいなら死んだ方がずっとマシだと言わんばかりに強く強く、手が真っ白になる程に。
永遠にも感じられる力のぶつかり合いだったが、嵐が止むように急激にその緒力は消えた。
風が吹き、土煙が舞う。
幽香は荒涼と化した風景の中で立っていた。
神綺とアリスは地に倒れていた。
お互いを庇いあうように抱き合って、キツく手を繋いだまま。
「ホント、バカ親子ね」
気絶した二人を見下ろしながら幽香は呟く。
幽香の全身は煤だらけで真っ黒に汚れているが、傷らしい傷は無い。
結論から言えば、幽香が勝った――いや、生き残っただけだろうか。
どっちでもいいや、と幽香は投げ遣りに思う。
勝ちは勝ちだ。
だがちっとも勝った気がしないのは何故だろうか。
それはたぶん、一瞬でも我を忘れて本気を出してしまったせいだろう。二対一という変則的な勝負であっても余裕で勝つ気はあったのだ。それが思わぬ展開から、本気を出してしまった。これは頂けない。自分のやり口に反する。
それがこの試合に勝って勝負に負けた感の原因だろう。
もう忘れよう――、幽香はそう思った。
あんな変なモノ相手に全力を出しただなんて末代までの恥だ。幻想郷最強が聞いて呆れる。
「無かったことに」
幽香はどこかの歴史家のようなことを言うと、自分の巣に帰るために帰路に着いた。地面に伸びたままの親子にはもう見向きもしなかった。
ep.
「お母さん、最後のアレは不味いわよ」
「ごめんなさい」
私は情けないことにアリスにお説教されていた。
さらに情けないのは、力を使い果たしたせいで足腰が立たず、アリスにおんぶされている格好となっていることだ。私と比べ、アリスがわりと元気なのは若さのせいか。
「上海はあんなにゴツくないし、もっと可愛いの――それにさ、もっと別の方法もあったんじゃない?あんなもの出さなくても、あのまま数で押してたら勝ってたわよ」
「ごめんねごめんね」
「――別にもういいけど」
私達は結局、幽香に負けた。
やはり世の中、気合と根性だけではどうにもならないこともある。こればっかりは仕方ないと割り切るしかない。
だがああいう風に全力で戦って負けるというのは中々悪くない経験だ。もう前みたいに幽香を怖がることも無さそうだなんて無根拠に思ったりもする。
アリスもそのうちリベンジを果たすつもりではあるようだ。もちろん一人で。
「それにしても失った人形の補充のコトを考えると頭痛がする」
アリスが口をへの字にして呻く。私が創った分も含めて、最後のアレで殆ど吹っ飛んでしまい。焦土の中からサルベージを試みたものの五体満足な人形は殆ど見つからなかった。
「上海も蓬莱も酷いことに」
その二体は比較的マシな格好で見つかったが、モルスァと奇声を上げて気味が悪いので、私が斜め45度チョップを入れたら沈黙してしまった。今は他の人形共々アリスの家に魔法で転送してある。
「もぉー、心配しなくても新しい人形なら私が創ってあげるわよ。ほら、それに今日はアリスちゃんの誕生日じゃない?誕生日プレゼントってことで」
「残念だけど、それは遠慮しておくわ」
かなり良い線をいったアイデアだと思ったのだが、アリスは無碍にそれを断った。思わず不満の声を上げてしまう。
「えー、なんでよー」
「そりゃお母さんに創って貰った方が楽なんだろうけど、人形は壊れたのを修理して使いたいの。元々は私が作った人形だし、私の家族みたいなものだから、私が責任を持って最後まで面倒を見るわ」
私にとっての魔界がそうであるように、アリスにとっては人形達がそうなのだろう。
私は幻視する。あの人形達が完全に自律し明確な自我を持ち、アリスが私から巣立って行ったように、この子の元から離れて行く光景を。
それは気の遠くなるような先の話かもしれないが、十分にありえる未来の姿だろう。それはまるで私が蒔いた種が、私の知らない場所でどんどんと増えていく様だ。
私はそんな感傷を断ち切るように、ずっと聞きたかったことを質問してみた。
「そうだ。昔、魔導書を欲しがった時に、アリスちゃんが言った言葉を憶えてる?『大きくなったらママみたいになるの』ってやつ」
「え、やだ、そんなこと憶えてるの?」
「やっぱりアリスちゃんも憶えてるんだ。その言葉ってどういう意味なの?ちょっと気になってた」
「えーっと、それはね、お母さんみたいに皆に囲まれて、楽しく幸せに暮らせればいいなぁみたいな意味かな」
「――これでも結構苦労してるのよ」
「解ってるわよ!だって子供の言葉じゃない!悪意は無いわ。それにもう一つ」
「もう一つ?」
「うろ覚えだけどね、たぶん、お母さんみたいに皆を守る為に、危機に立ち向かっていける存在になりたかった。その為に魔導書が欲しかったんだと思う――でも、それも、もう昔のことよ」
「そう」
アリスの背におぶられて魔法の森を進んでいく。もう言葉を交わすことも無かったけど、華奢なアリスの背中は優しく、私はそれだけで満たされた。
「お二人さん、揃って酷い様子だな」
「魔理沙!」
おぶられてウトウト仕掛けていた頃に、例の飄々とした声が聞こえてきた。
眼を開くとアリスの家の前まで来ていて、玄関口に魔理沙と、もう一人紅白色の服を着た少女が立っていた。
「魔理沙、この人」
紅白が私の顔を見て、訝しい表情をする。
「ああ、霊夢。この人はアリスのお母さんのマサキ・シンさんだぜ」
「ドウモハジメマシテ」
「初めましてじゃないと思うけど――魔理沙、あんた気付いてないの?」
「何のことだ?」
「いや、いい。聞いた私がバカだったわ」
紅白、というか霊夢は私の顔を見ながら、
「これでようやく結界破った犯人も見つかったって訳ね。お灸の一つでも据えてやりたいけど」
なんか物騒なことを言ってる気がする。
「今日はアリスがアレな日だから見逃してあげるわ」
「おお、そうだぜ。今日はアリスのアレな日だ」
「え、アリスちゃん、今日はアノ日だったの?」
「お母さんは絶対誤解してる」
魔理沙と霊夢は、玄関の扉の取っ手を掴むと、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ようやく主賓のご登場って訳だ。皆、待たせたな!!」
「さぁ、今日は飲んで食べて、皆で浮かれ騒ぎましょう」
ガチャリ、と扉が開いた。
「「「「ハッピー・バースデイ・アリス!!」」」」
パンパンと弾けるクラッカーの音。盛大な歓迎の声。これは一体。
「ななななななななな――」
アリスは家の中の状況を見て、体をぶるぶると震わせた。
この大して広くない家の中にどうやってこれだけの人数を詰め込んだのか、驚くばかりの多くの人と妖怪が中では待ち受けていた。
「なんなのよコレぇぇぇぇぇええええ!!!!」
アリスが叫ぶ。叫びたくなるのも解る。部屋中が派手に飾りつけされていて、何を血迷ったのかクリスマスツリーや七夕の竹だとか門松まで備え付けられている。おまけに床には空の酒瓶がゴロゴロ転がってるし、明らかに既に出来上がっている面子も居る。
これじゃパーティー会場というよりも、宴会場だ。
「いや、何。アリスの誕生日だって言うんで、知り合い連中に集まって貰ったのさ」
魔理沙が得意げに言う。
「アリスとの約束破っちまったせめてもの償いってやつさ。アリス許せ。誓って、私は二度とお前との約束を破ったりはしない。何せ、ほら、私達は――親友だ」
魔理沙が赤らめた顔をそっぽ向かせながら、ポツポツとそんなことを言った。
「魔理沙――」
アリスは感極まったようにそんな魔理沙の横顔を見て、
「って、バカあああああ!勝手に家を宴会場にしないでよッ!!!」
やっぱりぶち切れて、魔理沙の首元を掴んだ。激しく揺する。
「どう見ても、神社の宴会をそのまま私の家へ引っ張り込んで来ただけじゃない!!」
「偶には良いじゃないの。毎週毎週、境内を勝手に宴会場にされる私の苦労が解るでしょう?」
「霊夢、これはあなたの差し金なのねぇ!?」
「でもケーキもあるぜ」
魔理沙の指差した部屋の中心には確かに巨大なイチゴのケーキが鎮座していた。こんなのどうやって部屋の中に入れたんだろう。
「お陰様で、ケーキを焼くことができましたわ」
私の傍へ寄ってきて、頭を下げたのは例のメイドさんだった。
「でも、まさかアリスのお母さんだとは思いもしませんでした」
その横に立つ一際背の低い女の子も口を開く。
「ねぇ咲夜、全部私が言ったとおりになったでしょう?近々ケーキが必要になるって」
「全くお嬢様には恐れ入ります」
あの時にあげたイチゴはこうして戻ってきた訳か。変なの。
「不思議な縁ですな」
と、幻想郷へやって来て最初に会った件の素敵な帽子を被った女の子が話しかけてきた。
「あれ、慧音の知り合い?」
「うむ、少しな」
モンペ姿の銀髪の少女がしげしげと私の顔を見る。
「人間でも妖怪でもないのね、不思議な感じ」
「一応、神様よ」
「ハハッ、面白い冗談!」
傷ついた。
「ちょっと妹紅!私のお酌しなさい」
そこへ良い感じに酔っ払った黒髪の綺麗な子が絡んでくる。
「んだと輝夜、アンタ何勝手に命令してんのよ!」
「二日前の勝負に負けた罰ゲームよ。まだやってなかったでしょう」
「姫様、お酌なら私が」
「いいのよ永琳、妹紅にやらせた方が楽しいわぁ」
「このッ、調子に乗って――」
燃え上がる炎。天井が焦げる。
「ちょ、家の中で何やってるのよ!!」
アリスが絶叫。
「外でやりなさい!外でッ!!」
「よし、輝夜、表に出ろ」
「良い度胸ねぇ、この家ごと吹っ飛ばしてやるわ」
「ふっ飛ばさないでッ!!」
外でドッカンドッカン音がし始める。元気な子達だ。
「あの、すいません」
おずおずと話しかけてきたの例のウサ耳の少女だ。
「うちの姫様がご迷惑を」
「まぁ良いんじゃないかしら。偶には羽目を外しても」
此処の連中は毎週こんなことをしているのだろうか。
「やめてッ!その部屋には入らないで!!」
「ちょっと、ゴミはちゃんとちゃんとゴミ箱に捨ててよ!」
「ケーキのクリームをあちこちにベタベタとこぼさないで!お願いだからッ!!!」
部屋のあちこちで狼藉を繰り返す闖入者達に、アリスは絶えず絶叫している。ああ、大変そうだ。だけど私はそれを手伝わず、見守るだけにする。本当に私の助けが必要ならば、彼女がそう言うだろう。あの子はもう一人前だ。余計なお節介はもう必要ない。
ただ、私も着替えを済ませると、すっかり手持ち無沙汰になったので、少しだけ老婆心を発揮してやることにする。ソファに腰を掛け、裁縫道具を片手に、破れたり、焦げたりした人形の服を繕う。
「わぁ素敵ですね」
ウサ耳の少女が私の手元を見ながら歓声を上げる。
「そう?裁縫くらいなら貴方にも教えてあげるけど」
「ええ、ぜひ」
「ようむー、ようむー。貴方も裁縫くらい習っておくのよー」
「幽々子様がそう仰るなら」
「良い機会だから橙も習っておきなさい」
「はーい、藍様」
こうして私の周りはたちまち人だかりならぬ、妖怪だかりができた。
「ここにこうやって当て布をして、針をこっちから通して――」
「トイレ?トイレなら向こうよ、違う、そっちじゃない!」
「あら、上手ね。じゃあ今度はもっと難しい縫い方を試してみましょう」
「うわぁああああん!やだもう!何で私がこんな目に遭わなきゃいけないのよぉ!!」
アリスもそんなことを言いながら、結構楽しそうだ。もちろん私も楽しい。
全く幻想郷とは面白い場所だ。風土や気候のせいか、それとも住人の気質だろうか?
魔界に帰ったら皆に此処のことや、アリスのことを話してやるつもりだった。
アリスはお友達に囲まれて楽しく気楽にやっているんだって。
もちろん、私の八面六臂の活躍のことも一緒にね。
私はふいに裁縫の手を止める。
疲労の為かまどろみを感じ始めていた。
「ごめんなさい。少し眠らせて」
ソファにそのまま横になる。
眼を閉じ、遠く聞こえるアリスの絶叫を子守唄にしつつ、私の意識は深く深く沈んでゆく。
ぐるりぐるりと暗転する意識の中、夢の中で私は過去の自分と重なった。
揺り篭の中で横たわる小さな赤ん坊が私を見ている。
美しい純粋な青い瞳。
――貴方の名前はそうねぇ。
私はその子を抱きかかえ、その綺麗な金髪を撫でながら考える。
――アリスにしましょう。とても素敵な響きよね?
赤ん坊が青い目を開き、笑ったような気がした。
私もその無垢な笑みにつられるようにして微笑んだ。
――ハッピー・バースデイ、アリスちゃん。生まれてきておめでとう。
何より母らしい神に幸あれ。
>同じ3ボスでも、名無しの門番の方がまだ気合が入ってる!
ただ個人的にはこういうネタはいらんかったかなぁ、と言う感じが。
ちょっとそこだけ空気が変わっちゃう感じ。
それでもいいお話でありました。
良いホーム(?)ドラマコメディでした。
ほんとにこの親娘ったらもう(笑)
旧作は未プレイですが、とても素敵な母娘SSだと思いますー
あと、幽香さんがオーラ全開で素敵でした。本家とか除いて(w
所々に散りばめられたギャグやパロディですが、個人的にはこういった途中で和ませてくれる演出は大好きです。楽しく吟味させて頂きました。
ちょっとだけ深くなった様な、もしかしたら前とあまり変わってない様な、一組の親子の絆の物語。大変、ご馳走様でした。
最後にこの点数で貴方への感謝を表すと同時に一言だけ。神綺様ばんじゃーい。
小ネタもほどよく散りばめられていて
飽きずに楽しく読めました^。
神綺様ばんじゃーい!
個人的にはもう+100点したいくらいです
遊び心満載で、バトルもギャグも色々と素敵でした。
最高です。
もとネタがわかると一気に引く。
神綺様はいい感じです。
カリスマ溢れる黒歴史2大ボスに乾杯。
パク○ネタは少々くどかった感が否めないですね。
料理のスパイスの如く加減が難しかったとは思いますが。
最近は旧作からの出張が多いなぁ。
旧作応援月間でも行われているのだろうか。
とても温かい作品をありがとう!
あとごっどはんどなでなでーとか思いついた。すごくしてもらいたい。ついでにごっどへっどなでなでーとかしたい。
最後に。
おーい、誰か魅魔様の行方を知らんか?
素敵な神様ばんじゃーい!!
もう……ヘタレカリスマお母さんのイメージそのままです。
GJ!
ともあれ良い物読ませていただきました。
すばらしい神綺とアリスをありがとうございました。
パロディネタは賛否両論のようですが個人的には好きです。
全く動かないからだと思います。
特にウニウニレーザー時に序盤戦のごとく飛び回ったら、
最強クラスだと思うのに……。
もっとも、それについて進言致しましたら、
「神様なんだから神殿の真ん中にデデンッ!…と構えてないと、ねぇ?」
ですって……。ああ、カリスマ。
素敵だ。こういうお話は大好きですよ。
ほんと、幸せものの母娘だよこの二人は。
こんなに良い娘を持った神綺と、そしてなんだかんだいってみんなに囲まれているアリス。ずっと続いてほしい、このかけがえのない幸せ。
いくつかどうかなと思う点があったためにこの点数にて。
氏の更なる飛躍を願えばこそ、100点はとっておかせてください。
心から感謝したい、ありがとう。
とか思いました。
あと、神綺様。あなたに「パクリ神の称号」を授けましょう。
∩(・ω・)∩ケンジョーウ
やはり無反応ってのが一番悲しいので、ここが良いとか悪いとか言って頂けるのは非常に嬉しい限りです。
パロディネタの塩梅は途中でもちょっと迷いましたけど、まだまだ手付かずの神綺様だし、成層圏ぶっちぎるつもりで斜め上を目指しました。
そのぶっちぎり具合が良かったか、やりすぎたかは皆様に判断して貰うとして、個人的にはもうちょっと胸キュンな話とかにも持っていけたのになぁと今更になってちょっと後悔してます。うん、バカ話過ぎて正直スマンかったです。
もしこれを読んで「神書きTEEEEEEEEEE!」とか「魔界ファミリー欲を持て余す」という奇特な方が一人でも現れてくれれば、神綺様地位向上委員会の隠れメンバーとしては本望です。
東方って、この頃から肩書きとカリスマが伴っていなかったんですね(^^;。
台無しだ!
最高です!
「そんなこと言ってると、こんなに向日葵も綺麗から本気で殺すわよ」
→「そんなこと言ってると、こんなに向日葵も綺麗だから本気で殺すわよ」
神綺もアリスもがんばった!よくやった!
個人的に神綺様は大好きなので大変楽しみながら読ませていただきました!
親子の愛だとか敵役で出てきた幽香とかステキな部分が満載でした。
結局幽香に勝てないってのも微笑ましい展開だったと思います。
ただ私のなかの夢子ちゃんは神綺様を掃除機でゴロゴロしたりはしなあぁぁぁい(つД`)
『彼』が使うのは妖糸で『彼』のライバルだった男が使うのが魔糸だったと思うのですが・・・違ったかな?
まあ、物は一緒ですが。
後、『彼』は青春鬼でなくても指や腕を動かして切る(操る)時がけっこうあります。
巨大上海はこの後どうなったのだろうか・・・・
しかしipodシャッフルで聴きながら読んでたら、槇原のHAPPY BIRTHDAY SONGかかってマジびびった。
魔界神恐るべし(違)
戦い方工夫したら無敵なのにねw
パロディネタは私は気になりませんでした。
夢子さんのお掃除ごろごろだけはちょっって思いましたけどw
堪能しました。他の作品も読んできます。
純シリアスかと思いきや、突如某青目竜が大好きな社長が出て来たりと
笑い要素もあって読み易かったです。
アリスの思春期っぷりが可愛くてしょうがなかった。
神綺さまの母性に、親を思い出して泣きそうになった。
雪風な人形ズの前作を調べてたら、こんな時間に…w
あなたの書く神綺さまが大好きです。
最初から最後まで楽しめました。
あと、レミリアになんかうるっときました。
>「モルスァー!」
>「ブルスコファー!」
なぜかこれが一番頭に残ってしまった。