ごめんなさい。妹紅。
今日はちょっとやりすぎちゃったみたい。
まあ、すぐに復活するから別にいいよね。
それにこれは妹紅がかわいすぎるからいけないのよ。
もこたん大好き!
「姫。明日から温泉に行かれてはどうでしょうか?」
「は? いや、いきなりそんなことを言われても。今は屋根の上の鞠を取ろうとはしごを上っている途中なんだから、後にしてよ」
「いえいえ。今だから言っているのですよ。この方が話がしやすいですし」
ガッ!
ぐらぐら
「ちょっ、えっ永琳。今なんかしなかった? はしごがすごい勢いで揺れたんですけど」
「大丈夫です。私ははしごを蹴ったりなんかしてませんから。さらに言えば、姫が私の言うことを聞いてくれなければ、蹴りの威力がますますアップするなんてこともありませんから」
ガッガッ!
ぐらぐらぐら
「待って、待って! わかったわ。聞く。今聞きます。どうぞおしゃべりください永琳さん」
「少し落ち着いてください。日本語が変になってますよ。ほら、わたしなんかこんなに落ち着きながらはしごを蹴っているじゃないですか」
ガッガッガッガッ!
ぐらぐらぐらぐらぐらぐら
「うひー。もうだめー!」
バッターン!
ぽてっ
「なんともかわいい音を出して落ちましたね。ここ数百年で一番のかわいらしい姫でしたよ。いつもこの状態をキープしていれば、姫の人気も少しは上がるかもしれませんね」
「永琳は私に、いつもはしごから落ちろというの!」
「そうです」
「いや、真顔で即答はかんべんしてください」
「ところで、どうして屋根の上の鞠をとるのに、空を飛ばなかったのですか?」
「あっ」
もこたん大好き!!
「それでなんで急に温泉なのよ」
「それはですね。そもそもの原因は、先日の姫と妹紅との不毛な決闘にあります」
「ああ。永琳と慧音がギャラリーだったから普段の3倍増しでハッスルしたあの夜のことね。それがどう温泉と関係するのよ」
「そうです。姫が妹紅をぐちょぐちょのめちょめちょのミンチにしたあの夜のことです。実はあの後、私と慧音との間でちょっとした話し合いをしまして」
「ふんふん」
「お二人の戦いっぷりがあまりにもひどくて見ていられないものですから」
「ほうほう」
「お二人が仲良くなって一緒に手をつないでピクニックに行くというところまでは望まないにしても、現在の状況を少しでもなんとかしようと思いまして」
「それでそれで?」
「……姫。頭を蹴ってもよろしいでしょうか?」
ゴガッ!
「いたー!」
「その合いの手はいらつくのでやめてください」
「蹴ったわね……。お父様にも蹴られたことないのに!」
「なにをおっしゃるのですか。こんなものは蹴りのうちに入りません。私の本気の蹴りを喰らえば姫の頭ごとき原型をとどめることなく消滅するでしょう。こぶができただけですんで運がよかったと思ってください」
「実はラッキー? やったー」
「そう、ラッキー」
もこたん大好き!!!
「というわけで私と妹紅は幻想郷の山奥にある温泉宿までやってきました。そうです、永琳と慧音が考えたという二人が仲良くする方法というのが、とりあえず二人で旅行でもさせとけばいいんじゃね、というものだったのです。なにそのアホな結論と皆さんお思いでしょうが私もそう思います。しかしそれを永琳に言うと本気の蹴りが飛ぶことが容易に想像できるので私はなにもいわずに永琳から温泉宿までの地図とわずかなお金を受け取りここまで妹紅と二人てくてくと歩いてきたというのが現状なわけです。なお妹紅について言えば、やはり慧音に刺されるよりは私と温泉にいくほうがましという結論に達したため、案外すんなりと温泉旅行を承諾したそうです。さあ、これからの二人の前には、いったいどんな湯けむり殺人事件が待ちうけているのでしょうか。これですこしでも温泉に興味でも持って貰えれば嬉しい限りです」
「ねえ輝夜。あんた何してんのよ?」
「いや。ちょっと司会ぐせが付いちゃって」
「? わけがわからん」
それにしても、妹紅と旅行かぁ。
ほどほど長い付き合いになるけど、こんなこと今までなかったわね。まあ、あるわけないけど。
でも私、妹紅のことは別に嫌いじゃないのよね。というよりむしろ好きね。というか実はものすごく好きで好きで狂おしいほどに好きだったりしたりなんかして。
最近では、妹紅とは殺し合いをする前に、一緒にご飯をたべて、トランプしたりしてのんびりしてたりもするから、妹紅も私のことは嫌っていないと思う。というよりむしろ好きね。というか実はこの輝夜さんのことが好きで好きでたまらなくて、夜な夜な輝夜さんのことを想ってばんじゃいしているに違いない!!
「そのへんどうなのよ! 妹紅!」
あら? 妹紅どこ?
「おーい。一人で漫才してないでこっちこい。おいてくぞー」
「待ってよ妹紅。二人の時間は永遠だからそんなにあわてなくても大丈夫よ。あっ。もう記帳済ませちゃったの? お名前の欄に蓬莱山輝夜と蓬莱山妹紅と書いてちょっとだけ新婚気分を味わおうと考えていた私のささやかな思いをぶち壊しにするその妹紅のクールさがたまらないんですけどそのへんはどうなんですか!!」
「何が?」
「ごめんなさい。真顔返しだけはかんべんしてください」
ふーんだ。腹いせに妹紅の名前の欄を藤原もこたんに書き換えてやる。ではさっそく……
「どうした輝夜? えんぴつ持った姿勢で止まってるぞ」
「そりゃ止まりもするわ!! なによこの私の名前は! 蓬莱山ヒギィってそれはどこのアリスの友達ですか!? びっくりしすぎて閻魔にこんにちはしてきたわよ!!」
「へー。不死人なのに三途の河を渡ったのか。輝夜は器用だな」
「器用関係ない! それより私はヒギィなんて言わない! むしろもこたんが一生もこもこりーん言ってなさい!」
「もこたんって呼ぶなー!」
そのとき妹紅の右手が一億万度の業火を放ちながらうなりをあげた!
輝夜の顔面にヒット!
輝夜は999999999のダメージを受けた。
輝夜は死んだ。
しかしすぐに生き返った。
だが妹紅はさらに殴り続けた。
輝夜はこのまま永遠に死と復活を繰り返すのだ。
そして死にたいと思っても死ねないので、
そのうち輝夜は考えるのをやめた。
第2部完
「ヒギィ」
もこたん大好き!!!!
なんだかんだあって夜になり、今は妹紅と温泉に入っています。
こうやってのんびりとお湯につかって考えてみると、さっきまでの自分はひさしぶりの旅行にちょっとはしゃぎすぎてたみたいね。
反省。反省。
妹紅も肩までお湯につかって、とっても気持ちよさそうに目をつぶってる。
こうやって無防備な妹紅を見ていると、出会ったばかりの頃の刺々しい妹紅が嘘のようだわ。
出会ってからいつもいつも殺し合って、いつしか殺し合うことに慣れて、今ではもはや殺し合うことがただの遊戯になってしまった。
今のこの馴れ合った関係も悪くないけれど、あのころの妹紅の表情を、憤怒と殺意と憎悪に満ちているすてきな表情を思い出すと、妹紅と初めて出会ったあの日に戻るのもいいかなと思う。
あの当時は、逆恨みした生意気な小娘という以上の感情は無かったから、適当にあしらっていたけど。
いつからだろう。
こんなふうに妹紅を想うようになったのは。
月夜の竹林で、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺されて
そうだ。初めて私が殺された日。
妹紅がようやく自分の力を使いこなせるようになり、完全に妹紅をなめていた私を火の鳥で燃やし尽くしたあの日。
炎に焼かれながら私は見ていた。
妹紅のすっごく嬉しそうな顔を。
それまでの憎しみで固まっていた表情がくずれて、宿敵にようやく一矢を報いた喜びで、ぐしゃぐしゃに泣いて笑っていたあの顔を。
永遠とも思える時を過ごしてきて、感情が少しづつ磨耗していって、なにをしてもなんの感動も覚えなくなっていた私は、負けた悔しさと素直に感情を出せる妹紅への嫉妬がごちゃごちゃになって、
気が付いたら自分も泣いていた。
まあ、その涙はすぐに私の体ごと蒸発しちゃったんだけどね。
そっかあ。あのときからなのかな。
ふふふ。
「ちょっと輝夜。なんでこっちみてわらってるのよ。きみわるいからやめて」
「なんでもないわよ。妹紅が綺麗だから見とれていただけ」
「はあ? なにいってんの。のぼせてんじゃないわよ」
のぼせてなんかいないわ。
月の光に照らされてる妹紅はとても綺麗だわ。
ゆげでよく見えないけど。
でも、目をつむっていても私にはわかる。
その妹紅の綺麗な髪が。瞳が。唇が。耳が。首筋が。鎖骨が。肩が。腕が。胸が。おへそが。腰が。脚が。
指の一本一本から爪の一つ一つまで。
妹紅の全てが。全てが!全てが!!全てが!!!!!
全てが私のもの。
誰にも渡さない。
「どっかのおばかさんがのぼせたみたいだから、そろそろ上がるわ」
そう言って立ち上がった妹紅の後に続こうとしたら、お湯の表面に銀色の一筋の線が光った。
手ですくってみたら、それは銀色に輝く妹紅の髪。
そうだ。いいこと思いついた。
その髪の毛を左手の薬指にくるくると巻きつけてみる。
自分でもばかな事をしているとは思うけど、せっかくの旅行なんだもの。
今日ぐらいばかになってもいいよね。
くるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくる
……この髪の毛、いやに長いわね。
『まったく、姫は実にばかだな』
はっ! なぜここで永琳の声が!!
幻聴!?
『いいえ。テレパシーです』
「マジで!?」
もこたん大好き!!!!!
「晩御飯も食べたし、後は寝るだけだな」
「なにをいっているのよ妹紅。寝る前にやることがあるでしょ」
「なんだ? 下ネタなら聞き飽きたから言わなくていいよ」
「私がいつも下ネタ連発しているようなふうに言うな!! 人聞きの悪い。
そうじゃなくて、さっきここの従業員に聞いたんだけど……」
「ああ、結局長風呂しすぎてのぼせて倒れて医療室にはこばれて看病されているときに聞いたんだな?」
「いらんことを説明しなくてよろしい。それでそのとき聞いた話によると」
「ふんふん」
「先月ここから一つ山を越えたところで山火事があって」
「ほうほう」
「かなり広範囲にわたって焼け野原になったんだって」
「それでそれで?」
「……自分がやられるとかなりムカつくわね。その合いの手」
「いいから続けて」
「つまりね、そんないい場所があって、しかも今夜は満月。これでなにもするなというのが無茶というものよ」
妹紅はニヤッと笑って言った。
「でもそれじゃ、あいつらとの約束を破ることになるよ」
「約束? 約束なら守っているわよ。妹紅と二人で仲良く温泉に来て、とっても仲良く殺し合うんじゃないの。こんな仲のいい二人組みは幻想郷中を探してもいないわ」
声を出して妹紅が笑い出した。
「やるか」
「やるわよ」
『だめです。なにを考えているんですか。すくなくともその旅行の間は大人しく……』
「うるさい。黙れ」
私たちの邪魔をするな。
ころすわよ。
『………………』
「さあ、外野も静かになったことだし、行くわよ!」
後が怖いけどね。特に蹴りが。
部屋の窓から飛び出す私と妹紅。
あっ。しまった! 二人とも浴衣のままだ。
まっいいか。こっちのほうが風情があるし。
それにせっかくだから服装ぐらい温泉旅行っぽくないとね。
空を飛ぶ浴衣姿の美少女二人。
このシチュエーションが面白くて笑いが止まらない。
さっきから妹紅も笑いっぱなしだ。
「妹紅、楽しい?」
「ああ。すごく楽しい」
私もよ。
毎日が楽しくて楽しくてたまらない。
「生きてるってなんて素晴らしいのかしら」
「こらー! ひとのせりふ取るなー!」
おわり
今日はちょっとやりすぎちゃったみたい。
まあ、すぐに復活するから別にいいよね。
それにこれは妹紅がかわいすぎるからいけないのよ。
もこたん大好き!
「姫。明日から温泉に行かれてはどうでしょうか?」
「は? いや、いきなりそんなことを言われても。今は屋根の上の鞠を取ろうとはしごを上っている途中なんだから、後にしてよ」
「いえいえ。今だから言っているのですよ。この方が話がしやすいですし」
ガッ!
ぐらぐら
「ちょっ、えっ永琳。今なんかしなかった? はしごがすごい勢いで揺れたんですけど」
「大丈夫です。私ははしごを蹴ったりなんかしてませんから。さらに言えば、姫が私の言うことを聞いてくれなければ、蹴りの威力がますますアップするなんてこともありませんから」
ガッガッ!
ぐらぐらぐら
「待って、待って! わかったわ。聞く。今聞きます。どうぞおしゃべりください永琳さん」
「少し落ち着いてください。日本語が変になってますよ。ほら、わたしなんかこんなに落ち着きながらはしごを蹴っているじゃないですか」
ガッガッガッガッ!
ぐらぐらぐらぐらぐらぐら
「うひー。もうだめー!」
バッターン!
ぽてっ
「なんともかわいい音を出して落ちましたね。ここ数百年で一番のかわいらしい姫でしたよ。いつもこの状態をキープしていれば、姫の人気も少しは上がるかもしれませんね」
「永琳は私に、いつもはしごから落ちろというの!」
「そうです」
「いや、真顔で即答はかんべんしてください」
「ところで、どうして屋根の上の鞠をとるのに、空を飛ばなかったのですか?」
「あっ」
もこたん大好き!!
「それでなんで急に温泉なのよ」
「それはですね。そもそもの原因は、先日の姫と妹紅との不毛な決闘にあります」
「ああ。永琳と慧音がギャラリーだったから普段の3倍増しでハッスルしたあの夜のことね。それがどう温泉と関係するのよ」
「そうです。姫が妹紅をぐちょぐちょのめちょめちょのミンチにしたあの夜のことです。実はあの後、私と慧音との間でちょっとした話し合いをしまして」
「ふんふん」
「お二人の戦いっぷりがあまりにもひどくて見ていられないものですから」
「ほうほう」
「お二人が仲良くなって一緒に手をつないでピクニックに行くというところまでは望まないにしても、現在の状況を少しでもなんとかしようと思いまして」
「それでそれで?」
「……姫。頭を蹴ってもよろしいでしょうか?」
ゴガッ!
「いたー!」
「その合いの手はいらつくのでやめてください」
「蹴ったわね……。お父様にも蹴られたことないのに!」
「なにをおっしゃるのですか。こんなものは蹴りのうちに入りません。私の本気の蹴りを喰らえば姫の頭ごとき原型をとどめることなく消滅するでしょう。こぶができただけですんで運がよかったと思ってください」
「実はラッキー? やったー」
「そう、ラッキー」
もこたん大好き!!!
「というわけで私と妹紅は幻想郷の山奥にある温泉宿までやってきました。そうです、永琳と慧音が考えたという二人が仲良くする方法というのが、とりあえず二人で旅行でもさせとけばいいんじゃね、というものだったのです。なにそのアホな結論と皆さんお思いでしょうが私もそう思います。しかしそれを永琳に言うと本気の蹴りが飛ぶことが容易に想像できるので私はなにもいわずに永琳から温泉宿までの地図とわずかなお金を受け取りここまで妹紅と二人てくてくと歩いてきたというのが現状なわけです。なお妹紅について言えば、やはり慧音に刺されるよりは私と温泉にいくほうがましという結論に達したため、案外すんなりと温泉旅行を承諾したそうです。さあ、これからの二人の前には、いったいどんな湯けむり殺人事件が待ちうけているのでしょうか。これですこしでも温泉に興味でも持って貰えれば嬉しい限りです」
「ねえ輝夜。あんた何してんのよ?」
「いや。ちょっと司会ぐせが付いちゃって」
「? わけがわからん」
それにしても、妹紅と旅行かぁ。
ほどほど長い付き合いになるけど、こんなこと今までなかったわね。まあ、あるわけないけど。
でも私、妹紅のことは別に嫌いじゃないのよね。というよりむしろ好きね。というか実はものすごく好きで好きで狂おしいほどに好きだったりしたりなんかして。
最近では、妹紅とは殺し合いをする前に、一緒にご飯をたべて、トランプしたりしてのんびりしてたりもするから、妹紅も私のことは嫌っていないと思う。というよりむしろ好きね。というか実はこの輝夜さんのことが好きで好きでたまらなくて、夜な夜な輝夜さんのことを想ってばんじゃいしているに違いない!!
「そのへんどうなのよ! 妹紅!」
あら? 妹紅どこ?
「おーい。一人で漫才してないでこっちこい。おいてくぞー」
「待ってよ妹紅。二人の時間は永遠だからそんなにあわてなくても大丈夫よ。あっ。もう記帳済ませちゃったの? お名前の欄に蓬莱山輝夜と蓬莱山妹紅と書いてちょっとだけ新婚気分を味わおうと考えていた私のささやかな思いをぶち壊しにするその妹紅のクールさがたまらないんですけどそのへんはどうなんですか!!」
「何が?」
「ごめんなさい。真顔返しだけはかんべんしてください」
ふーんだ。腹いせに妹紅の名前の欄を藤原もこたんに書き換えてやる。ではさっそく……
「どうした輝夜? えんぴつ持った姿勢で止まってるぞ」
「そりゃ止まりもするわ!! なによこの私の名前は! 蓬莱山ヒギィってそれはどこのアリスの友達ですか!? びっくりしすぎて閻魔にこんにちはしてきたわよ!!」
「へー。不死人なのに三途の河を渡ったのか。輝夜は器用だな」
「器用関係ない! それより私はヒギィなんて言わない! むしろもこたんが一生もこもこりーん言ってなさい!」
「もこたんって呼ぶなー!」
そのとき妹紅の右手が一億万度の業火を放ちながらうなりをあげた!
輝夜の顔面にヒット!
輝夜は999999999のダメージを受けた。
輝夜は死んだ。
しかしすぐに生き返った。
だが妹紅はさらに殴り続けた。
輝夜はこのまま永遠に死と復活を繰り返すのだ。
そして死にたいと思っても死ねないので、
そのうち輝夜は考えるのをやめた。
第2部完
「ヒギィ」
もこたん大好き!!!!
なんだかんだあって夜になり、今は妹紅と温泉に入っています。
こうやってのんびりとお湯につかって考えてみると、さっきまでの自分はひさしぶりの旅行にちょっとはしゃぎすぎてたみたいね。
反省。反省。
妹紅も肩までお湯につかって、とっても気持ちよさそうに目をつぶってる。
こうやって無防備な妹紅を見ていると、出会ったばかりの頃の刺々しい妹紅が嘘のようだわ。
出会ってからいつもいつも殺し合って、いつしか殺し合うことに慣れて、今ではもはや殺し合うことがただの遊戯になってしまった。
今のこの馴れ合った関係も悪くないけれど、あのころの妹紅の表情を、憤怒と殺意と憎悪に満ちているすてきな表情を思い出すと、妹紅と初めて出会ったあの日に戻るのもいいかなと思う。
あの当時は、逆恨みした生意気な小娘という以上の感情は無かったから、適当にあしらっていたけど。
いつからだろう。
こんなふうに妹紅を想うようになったのは。
月夜の竹林で、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺されて
そうだ。初めて私が殺された日。
妹紅がようやく自分の力を使いこなせるようになり、完全に妹紅をなめていた私を火の鳥で燃やし尽くしたあの日。
炎に焼かれながら私は見ていた。
妹紅のすっごく嬉しそうな顔を。
それまでの憎しみで固まっていた表情がくずれて、宿敵にようやく一矢を報いた喜びで、ぐしゃぐしゃに泣いて笑っていたあの顔を。
永遠とも思える時を過ごしてきて、感情が少しづつ磨耗していって、なにをしてもなんの感動も覚えなくなっていた私は、負けた悔しさと素直に感情を出せる妹紅への嫉妬がごちゃごちゃになって、
気が付いたら自分も泣いていた。
まあ、その涙はすぐに私の体ごと蒸発しちゃったんだけどね。
そっかあ。あのときからなのかな。
ふふふ。
「ちょっと輝夜。なんでこっちみてわらってるのよ。きみわるいからやめて」
「なんでもないわよ。妹紅が綺麗だから見とれていただけ」
「はあ? なにいってんの。のぼせてんじゃないわよ」
のぼせてなんかいないわ。
月の光に照らされてる妹紅はとても綺麗だわ。
ゆげでよく見えないけど。
でも、目をつむっていても私にはわかる。
その妹紅の綺麗な髪が。瞳が。唇が。耳が。首筋が。鎖骨が。肩が。腕が。胸が。おへそが。腰が。脚が。
指の一本一本から爪の一つ一つまで。
妹紅の全てが。全てが!全てが!!全てが!!!!!
全てが私のもの。
誰にも渡さない。
「どっかのおばかさんがのぼせたみたいだから、そろそろ上がるわ」
そう言って立ち上がった妹紅の後に続こうとしたら、お湯の表面に銀色の一筋の線が光った。
手ですくってみたら、それは銀色に輝く妹紅の髪。
そうだ。いいこと思いついた。
その髪の毛を左手の薬指にくるくると巻きつけてみる。
自分でもばかな事をしているとは思うけど、せっかくの旅行なんだもの。
今日ぐらいばかになってもいいよね。
くるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくる
……この髪の毛、いやに長いわね。
『まったく、姫は実にばかだな』
はっ! なぜここで永琳の声が!!
幻聴!?
『いいえ。テレパシーです』
「マジで!?」
もこたん大好き!!!!!
「晩御飯も食べたし、後は寝るだけだな」
「なにをいっているのよ妹紅。寝る前にやることがあるでしょ」
「なんだ? 下ネタなら聞き飽きたから言わなくていいよ」
「私がいつも下ネタ連発しているようなふうに言うな!! 人聞きの悪い。
そうじゃなくて、さっきここの従業員に聞いたんだけど……」
「ああ、結局長風呂しすぎてのぼせて倒れて医療室にはこばれて看病されているときに聞いたんだな?」
「いらんことを説明しなくてよろしい。それでそのとき聞いた話によると」
「ふんふん」
「先月ここから一つ山を越えたところで山火事があって」
「ほうほう」
「かなり広範囲にわたって焼け野原になったんだって」
「それでそれで?」
「……自分がやられるとかなりムカつくわね。その合いの手」
「いいから続けて」
「つまりね、そんないい場所があって、しかも今夜は満月。これでなにもするなというのが無茶というものよ」
妹紅はニヤッと笑って言った。
「でもそれじゃ、あいつらとの約束を破ることになるよ」
「約束? 約束なら守っているわよ。妹紅と二人で仲良く温泉に来て、とっても仲良く殺し合うんじゃないの。こんな仲のいい二人組みは幻想郷中を探してもいないわ」
声を出して妹紅が笑い出した。
「やるか」
「やるわよ」
『だめです。なにを考えているんですか。すくなくともその旅行の間は大人しく……』
「うるさい。黙れ」
私たちの邪魔をするな。
ころすわよ。
『………………』
「さあ、外野も静かになったことだし、行くわよ!」
後が怖いけどね。特に蹴りが。
部屋の窓から飛び出す私と妹紅。
あっ。しまった! 二人とも浴衣のままだ。
まっいいか。こっちのほうが風情があるし。
それにせっかくだから服装ぐらい温泉旅行っぽくないとね。
空を飛ぶ浴衣姿の美少女二人。
このシチュエーションが面白くて笑いが止まらない。
さっきから妹紅も笑いっぱなしだ。
「妹紅、楽しい?」
「ああ。すごく楽しい」
私もよ。
毎日が楽しくて楽しくてたまらない。
「生きてるってなんて素晴らしいのかしら」
「こらー! ひとのせりふ取るなー!」
おわり
てか、いい感じにてるよピン芸人みたいに・・・!
「ロケットで突き抜けろ!」を思い出させる懐かしさに+20点
笑わせていただきました。
センスをビンビンに感じます。
でももこたんが好きで好きでばんじゃいしちゃうぐやたんはもーっと好きです(*´д`)
エンドレス殺しのシーンがクックルAAで脳内保管されました。