夢を見ている。
気がつくと私は獣になって人を殺している。
大きく口を開き、喉を噛み千切り、爪で体を裂き、腸を引きずり出す。
―――――、――――――
口の周りを血で汚して、爪を割りながらも、それを止めない。
無感動のくせに楽しんでいる。
感動なんか覚えていない。ただ嬉しい。
ぐちゃぐちゃと手で腸を弄る感覚と音がとても心地良い。
何て酷い夢だろうと思う。
けど止められないのが現実だった。
――――、―――――
声帯はすでに腐り、喘ぎ声しか口から漏れない。
喉を震わせて歓喜の声を上げる。
楽しい。こんなに楽しいことをどうして私は―――――
目が覚めると酷い嫌悪感に苛まれる私はそれを忘れるために自分だけの時間に篭る。
「ふぅ」
部屋に戻った私はベッドに腰掛けて疲れで出たため息を感じた。
この紅魔館の主に仕えてどれぐらい経つのか分からないが長い方だとは思う。
すでに自分が何でここに入ることになったのかさえ忘れてしまったほどだ。長いだろう。ただそう思う。
最近は紅白や黒白が現れて館を別の意味で叩きのめしたことを切っ掛けにこの館は変わった。
長い冬が続いたりとか、月が隠されたりとか、花が異常発生と言うか大輪を咲かせたなどさまざまな事変があったものだと思う。
過ぎるのは早い。気付いたら諸々のことが何十年も前のことのように感じる。
「歳は食ってないはずなんだけど・・・・・・」
呟くと随分と情けなく感じる。
”普通”であれば出会いを感じたり、恋をしたり、愛しい人と結ばれたり、子を産んだり、母親になったりとしているだろう。
最も、この館に入った時点でそういった普通の願いは抹消されるに等しいが。
「それ以前に相手が居ないし」
そう呟くと本当に周囲の男性比率が異常に低い。むしろ一人しか居ないのはどーよ?と心の中で会議を始めるが無駄な堂々巡りが発生したので投了して会議を終了させる。
「やれやれね」
最近は独り言が増えた気がする。
おまけに働きすぎのせいか体中が居たい。
いや、私は歳じゃあないはずだ。まだ若い。
と思いたいが数少ない人間の中で私は結構年上だ。考えただけで切ない。
「嗚呼、悲しみに耽るのは我が心のみか」
嘆いてみるが余計に切なくなった。
そろそろ休憩時間は終わり。体内時計はしっかりと動いているのでそれに合わせて時計以外も動かすことにする。
気のせいか分からないが部屋から出るとき獣の唸り声が聞こえた。
ぶっちゃけて夜の紅魔館は不気味である。
必要の無いことだが一応は行われている巡回。
普段なら三人一組なのだが、私自身、館内部では実力がある方なので一人でも十分であった。
本当なら私自身、チームを組みたいのだがお嬢様に任せたと言われたら首を縦に振り、忠誠の言葉を吐くしかない。
けど本心は鉄を思わせる堅さとは違い冬山で遭難しているぐらいにぶるぶるです。ごめんなさい、泣いていいですか?
色々と心の中で呟くがどれもこれも慰めにならない。
と、たまたま通りがかった窓から外を覗くと夜空をきらきらとしたものが飛んでいた。
「・・・・・・・・私は見なかった」
呟き、言い訳を作る。けど後で色々言われそうなので静かに早歩きで今晩は出掛けておられないお嬢様のところへ妹様、大脱出!お付は無しの方面で!をお伝えしに行く。
てか、なにその三流映画のサブタイトルみたいなのは?
外の木々が風で揺れる音を無視するためにわざとやってみたが別の意味で無視できたので取り敢えずよかったことにする。コワクハナイデスヨ?
お嬢様のところに行き、報告をしたらすぐさま追跡を開始され、私は帰ってからとのこと。と、いうか居ると邪魔になるから!秘密はおねえちゃんのもの!とモロにシスコンちっくな発言をなされて飛んでいかれた。
ただ心配なんですよね?それだけなんですよね?自分の心で何度も呟くがそれに答えてくれる人は当たり前のように居ない。
部屋に戻り、日記をつける。
密かな趣味、と言ったら全然違うが無駄に文面が多いので趣味っぽいといったら趣味っぽい。愚痴が約9割を占めるが。
何時も書き終えると始めから読み直し、変なところや誤字脱字の修正。そして今日の出来事を振り返ったりする。そうすることで私はこれだけ頑張りましたと自慰をする。ストレスは溜まります。隅っこからそりゃもうもっさりと。
ええっと、今日の日記のタイトルは『大追跡!妹は何処へ!?姉がその後を追う!その居場所を突き止めた先にある真実とは!?』
・・・・・・・ま、間違いは無いからいっか。
・・・
・・・・・
・・・・・・・
読み終えると同時に睡魔が奇襲を仕掛け、ふらふらしてきたので素直に理性を全滅され渡しはベッドの中で意識を落とした。
何故か眠る前に近くで獣の唸り声が聞こえた気がした。
目を覚ますと何時ものように不快な気分になっていた。
夢を見ていたことには間違いないのだがその夢が分からない。
それはそれで当然のことなのだが私の場合、酷く曖昧だ。
ただ体の感覚が覚えていた。
顎と指がやけに痛かった。それだけだった。
『あなた随分と顔色が悪いのね。どうかしたの?』
お嬢様に会うなり開閉口にそう言われた。
お嬢様は体中がボロボロで顔には痣や頬が腫れ上がっていたりしたが激戦だったんだなぁと言うぐらいに普通だったので後回しにした。だってほっとけば直るし。って当人が言ってた。
朝の挨拶をしにお嬢様の部屋に訪れると随分と困ったような顔をされてそう言われたのだからよほどなのだろうと思った。
私自身はそうは思わないのだが朝の挨拶を済ませ、朝食を取りに食堂に行く途中でお嬢様のご友人であるパチュリー様と出会った。口の周りが赤く染まっており、服にも僅かに赤い後が残っていた。
朝食を済ませたのだろうと思った。
『・・・・・・・・あなた大丈夫?』
また言われてしまった。
周囲からは無関心なキャラで通っているパチュリー様にでさえそう言われたのだから本当によほどの事なのだろうと感じ取れた。
取り敢えずは、と返しておく。
『そう、自己管理はきちんとしなさい』
と有り難いお言葉で返されたのでありがとうございますと感謝すると共に食堂に入る。
「悪いけどケチャップの量は多めでね」
分かりましたーと料理番からの返事を聞き、指定席に座る。
やはりオムレツは冒涜的なまでにケチャップは多目が一番なのだ。
とは言え、パチュリー様のように服に付かないようにしなくては。シミが取れにくいからね。
おまちどうさまでーす、とレストランのように運ばれてきたオムライスの上には赤いケチャップがかかっていない。
代わりにケチャップ一本分が添えられていた。
完璧よ、とウェイトレスになっている料理番に言い、感謝の極み、と返してきたので早速私はケチャップ一本空にした。
真っ赤に彩られたオムライスを見て私は何故か先ほどのメイドのうなじが妙に気になった。
次の日、メイドが一人消えた。
気がつくと私は日記を書いていた。
何時の間に、と思うが覚えが無いわけではない。ただ感覚が無かった。
「そんなに疲れてるのかしら」
呟くと疲労感がドッと押し寄せてきたような感覚に陥る。言わなきゃよかった。
と後悔するが後の祭り。
朝、パチュリー様に言われたとおり少しは自分の体を可愛がろうと思い、明日は有休でもとろうと思った。
その事を伝えにお嬢様の部屋に行くと棺桶の中で悶えている生ものらしきものがあったので脳髄反射で棺桶ごと蹴り飛ばした。
その後、お嬢様からちゃんと了承を得た。
ちなみにだが妹様が12人に増えて、様々な呼び方をして迫ってきたので苦しい思いをしたらしい。挙句、我慢が出来なくなって襲いかかろうとしたら突如として妹様が逆上し見事な左ストレートをかまされたのを切っ掛けに目覚めたらしい。
それを聞いて妹様の貞操の危機を未然に防げたことに喜びを感じた。
ベッドの中に入るとすぐに瞼が閉じた。
よほど疲れていたのだろうと思いながら残りカスの始末はどうしようと考えながら私の意識は落ちた。
次の日の夜、森の中で何かが居たらしい。しかし詳しい情報はない。だが、その何かが地面に向かって何かをしていたらしい。
手持ちの時計を見る。
すでに深夜。
こんな夜遅くまで掃除と言うのは疲れるものだ。
だが急がなくてはならない。
こんな真っ赤な部屋を見られたら大変だから。
次の日、メイドがまた一人消えた。周囲は仕事が辛くなって逃げたのだろうと思った。
次の日、誰かが小さな欠片を見つけた。変色したそれが居なくなったメイドの小指だということに気がつかれるのに時間がかかった。
次の日、メイドが消えた。
次の日、真っ赤な部屋が見つかった。そこは消えたメイドの部屋で当人は下半身をなくし、ベッドの中に入っていた。首はクローゼットの中にあった。
次の日、再び消えた。
次の日、外で発見された。ただし、僅かな肉片が付いた骨が。
次の日、消えた。
次の日、異様に色白くなった彼女が発見された。ただ、爪と耳と舌がなかった。
次の日、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私がそれを見つけたとき、すでに手遅れだと思った。
お嬢様が彼女が妙な空気を纏っていたと言われたので気になり、彼女の部屋に行くことにした。
部屋に入るなり感じたのは何も無いただの平凡な空気。
だが私の嗅覚がそれを捉えていた。
見た目は何の変哲も無い部屋であったがこびり付いた臭いまでは消せなかった。
部屋中にその臭いを感じると気分が悪くなった。
視覚に置いての消された光景を脳裏に思い浮かべる。
酷い有様だ。何故こんな状態になったのか分からない。
ただこの館の中ではすでにイレギュラーとして見るべきだ。何故堕ちたのかを考えても仕方がない。
今は一刻も早く部屋の主を見つけ出さねば――――――そう思い部屋を出ようとしたとき。
「何をしていたんですか?」
背後から彼女の声が聞こえた。
居ない時間を狙い、部屋に侵入したのだが侮っていた。
「何をしていたんですか?」
再度、尋ねてきた。
体中に汗が流れる。動悸が速い。心臓の音がやけにうるさく感じる。
「何をしていたんですか?」
三度目。彼女の声は氷のように冷たい。いや、むしろ研磨されたナイフのようでないだろうか。
もしかしたら私は知らぬ間に彼女の得物が突きつけられているのかもしれない。
「何をしていたんですか?」
四度目。口の中が渇き、呼吸が荒くなる。
そろそろ応えねばと思い、動悸が激しくなる中、私は彼女の方を向く。
「いや、ただ掃除をしにきただけなんだけど?」
極めて冷静な声で私はようやく応答した。
改めてみると彼女は同性が羨むほどに美しい。だが今はそれを考える暇が無い。
「そうですか」
ただ淡々と言葉を返す彼女。納得しているのかしていないのかが分からない。
ただ今は気付かれていないと必死に自分に思い込ませる。
「私はそろそろ仕事があるのだけれど?」
ただこの場を離れたい。いや、彼女の視界から、彼女の気配を感じたくない。
その一心で口から漏れた言葉が引き金だった。
「見たんですね?」
彼女の返答を待たずに部屋を出ようとするなり背後から言葉がかけられた。
ドクン、と心臓が大きく跳ね上がった。
「見たんですね?」
机の上にあった日記帳を手にしたのか渇いた音がした。
パラパラとめくる音がする。
「見たんですね?」
三度目の問い。
私は何時もの彼女の顔を思い描くだけで精一杯だった。そうでもしなければ自分を落ち着かせることが出来なかった。
「何を?」
内心の動揺が声色に含まれていたかどうか分からない。
だが、気付いていない。彼女のは何も気付いていないと思いたかった。
「そうですか」
彼女の声色はただ淡々としていた。そこからは何も感じない。
私はそのまま場を後にした。
今更になって彼女の髪の色がこの部屋にあった色であることを思い出せたのは自分の部屋に戻ってからだった。
夢を見ている。
私は何時ものように泣き叫ぶ彼女に向かって爪を振り下ろす。
最初は腕。次に足。と、すでにパターン化した行動を取る。
猿轡をされた彼女の声はくぐもったもので絶叫を思い描くたび頬がつり上がるのを感じる。
彼女に今の私がどう映っているのか分からない。
ただ何故と痛いと苦しいと死にたいという気持ちだけは伝わる。
ああ、私もそうだよ。何ですぐに死なないのか、なんでそんなに痛がるのか、なんでそんなに苦しいのか、なんでそんなに死にたいのか。
私は何度も彼女に問う。
こんなにも嬉しく、楽しいのにと。
気がつくと彼女の面影は無く、ただの肉片になっていた。
それを見て、醜いと思い、元彼女を蹴り飛ばす。それだけでバラバラになった。
その光景を見てああ、また面倒ごとが増えたと思って後悔した。だが、醜いことには変わりは無かった。
だから私は何時ものように時間をかけて自分の部屋を綺麗にする。
するとドアが開いた。
「え?」
何時も誰もが寝静まった頃に行っているので誰も来るはずがない。更には臭いは昼間に気付いたので防臭剤を撒いている。
だけど入ってきた彼女の顔は嫌悪の色と後悔の色が入り混じっていた。
「やはり貴女だったんですね」
その言葉を聞くとある程度目星をつけていたのだろう。
となると今晩は張り込んでいたのか。迂闊だった。彼女の臭いは覚えていたつもりなのに気付かなかったとは。
「どうして貴女が・・・・・・」
嘘であってほしかった。彼女の表情はそう語っていた。
その語りを目にしたとき私は酷く怒った。
どうして私を放っておいてくれなかったのだと。
だから私は彼女の足を切断した。
「・・・・・・・え?」
一瞬の間。
まさか私がそうするとは思っても居なかったのだろう。何時もの彼女ならよけれる攻撃をよけなかった。
彼女の体が床に落ちる。
彼女の踝より下の両足はきちんと並べ揃えられており、なんでそんな風に出来ないのかと私は怒った。
「うそ・・・・ですよね?」
その表情は私も■すんですか?と語っていた。
まさか、と思った。そうはしない。ただ彼女に正しいマナーを教えるだけだ。
それを口にする。
「違うわ。ただ貴女の泣き声が聞きたいの」
嘘偽りの無い本音を言う。
そして彼女は泣いた。
それからというもの彼女は泣いてばかりで私の躾け方がなっていないのだろうかと思うが彼女の学習能力が低いのだろうと考え直した。
ベッドの上で無気力に天井を見上げている彼女はただそれだけでも羨むほどに美しかった。
はやり彼女の代名詞ともとれる紅い髪は綺麗だった。
夜になり、私が部屋に戻ってくると彼女が私の方を見て泣き出す。
ああ、可愛らしい。彼女の泣き顔と泣き声を見るたびますます彼女のことが愛おしくなってくる。
もう止めてください。
なんど聞いたことだろうか。なんど止めてあげたいと思っただろうか。
だが、彼女は物覚えが悪いので私は心を痛めながら彼女に爪を振り下ろす。
出来の悪い彼女にこうやって真摯に教えるのにはただ一つの理由がある。
だって私は瀟洒なメイドだから。
そう思いながら私は爪を振り下ろす。
なんども、彼女が息絶えるまで。
赤い髪がどうのあたりで人間関係が分からなくなった
それでもいいかと思って読み進めたら最後でなるほど薄ら寒いものを感じた。
これがホラーだとしたらもう少し何が怖いのか統一してもらえたら+30点
そんなSSが好きの40点入れときますね