Coolier - 新生・東方創想話

マヨヒガの来訪者

2006/03/06 19:12:29
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*オリジナルキャラ(男)が出てきます。そう言うのがダメな方は読まれないほういいです。
*視点はオリジナルキャラの視点オンリーです。
*以上のことを踏まえた上で読まれる方は下へどうぞ。



























気がついたらどこを歩いているのか分からなくなった。
つい先ほどまでは普通に自宅へ向かう道を歩いていたはずだ。
だが今は木々溢れる森の中を歩いている。
おかしい。
自宅は良くあるような住宅街にあり、公園を含め森のような場所はどこにも存在しないはずだ。
当ても無く彷徨っているとやがて視界が開けた。
そこには古い日本家屋が建っていた。
助かった、あそこで少し休ませてもらおう。
そう思いその家へと入って行った。
「すみませーん。どなたかいらっしゃいませんかー」
声をかけてみるが留守らしくシーンとした空気だけが漂っている。
丁度出かけてしまっているのだろう。
縁側に腰を下ろすと疲れた足を投げ出す。
「一体どうなってるんだ・・・」
今貴方は過去へタイムスリップしましたと言われれば十分信じられる状況にあった。
しかし情報が無さ過ぎる。
異世界か、過去か、それともただ場所だけが違うのか・・・。
色々と考えをめぐらせている時だった。
グゥ~~~・・・
「そう言えば腹へったな~・・・」
昼を食べてから大分時間が経っている。
家の人には申し訳ないが何か食べさせてもらおう。
我ながら暢気なものだと思ったがじたばたしたところでどうにもならないとも思った。
「藍様~、今日の晩御飯はなぁに?」
「今日は久しぶりに魚を焼こうと思っている」
「わーいお魚お魚~!」
どうやら家の住人が帰ってきたようだった。
子供とその親かな?
でもさっき藍様って呼んでたような・・・まあいいか。
「すみません、道に迷ってしまった者なのですがここはど・・・」
しかしその言葉は最後まで言い切られることはなかった。
家の住人らしき人は人ではなかったからだ。
あまりのショックに言葉を続けれなかったのだ。
「それはお困りでしょう。どうぞお上がり下さい」
「は・・・はい・・・」
そう言って先に家に入って行く女性の腰の辺りから1、2、3、4、5、6、7、8、9本の狐の尻尾が生えていたからだ。
良く見ればそれは一つ一つがちゃんと動いている。
「お兄ちゃん入らないの?」
隣で声をかけて来た少女も頭に猫のような耳と腰に2本の猫の尻尾が生えている。
「あ・・・ああ」
とりあえず家に入る事にした。
まずは落ち着こう・・・。

「粗茶ですが」
「わざわざすみません・・・」
出されたお茶を一口飲む。
とにかく落ち着こうと軽く深呼吸をする。
「・・・ここは一体どこなんですか?」
改めて質問する。
この際この女性達が妖怪だろうとなんだろうと今のところ敵意はなさそうだから黙っておけば襲われまい。
「ここはマヨヒガ。道に迷った者がたどり着く場所です」
「まよいが・・・迷い家か」
確か聞いた事がある。
道に迷った者がたどり着く一軒家。
確か遠野物語と言う本に出てきたはずだ。
空想の話だとばかり思っていたがまさか存在するとは・・・。
「・・・ここから帰る・・・」
グゥ~~~・・・
言葉を遮るほどの大きな腹の虫が鳴った。
うわ~・・・恥ずかしい・・・。
顔を赤くしながら狐の女性を見ればクスクスと笑っている。
「お腹空いているんですね」
「ははは・・・お恥ずかしい・・・」
小さくなる事しか出来ない。
「もう直ぐ夕食を作りますからよろしければどうぞ」
「あ、すみません」
そう言って狐の女性に頭を下げる。
「そう言えばまだ名乗っていませんでしたね。私は八雲藍。八雲紫様の式です」
「しき・・・ああ式神の事ですね。俺・・・いえ私は木嶋白。白と書いてあきらと読みます」
妖怪じゃなくて式神の方だったのか。
ならば主人は力ある人だろう。
帰る方法も分かるはずだ。
「私は橙!藍様の式なんだよ!」
猫の少女、橙ちゃんが元気良く言った。
式神が式神を持つなんて変わっているな~。
何が嬉しいのか橙ちゃんは俺の事をニコニコと見つめている。
やがて夕食のいい匂いが漂ってきた。
「いい匂いね」
「うわ!」
突然後ろから声がしたので驚いた。
つい先ほどまで人の気配なんてしていなかったはずなのだが・・・。
慌てて振り向くと空間がぱっくりと裂けてそこから金髪の女性が顔を覗かせていた。
金髪の女性は俺を指差すと藍さんに聞いた。
「あら?藍、これが今日の夕食?」
なにぃ!!!!
「違いますよ紫様。迷い人です」
・・・心臓に悪い。
っと、この人が紫様なのか。
「お邪魔させていただいております。私は木嶋白と言います」
丁寧に挨拶すると紫さんは微笑んだ。
「ようこそマヨヒガへ。私はスキマ妖怪の八雲紫と申します」
どうやらここには人はいないようだ。
妖怪なら人食べても別におかしくは無いな。
食べられたくはないが・・・。

御飯に豆腐のお吸い物、焼き魚とほうれん草の胡麻和え、バランスのいい食事だなこりゃ。
「こら橙!挨拶がまだだ!」
早速魚に齧り付こうとしていた橙ちゃんを藍さんが叱る。
「ごめんなさい藍様。いただきま~す!」
「はい、いただきます」
俺も手を合わせて挨拶をすると食べ始める。
ゆっくりと食べる紫さんや藍さんと違ってものすごい勢いで橙ちゃんは食べている。
おっと、箸を止めてる場合ではなかった。
橙ちゃんのあまりの喰いっぷりに思わず止まっていた箸を動かす。
「おかわり~!」
・・・早い。
まだ俺が3分の1も食べるか食べないかというのにもう橙ちゃんはおかわりですか・・・。
まあ成長期だからだろうな。
再び止まっていた箸を動かす。
その後、全員が食べ終わる間に2回のおかわりを橙ちゃんはした。
良く入るお腹だこと・・・。

「ふー・・・」
食後のお茶を飲んで一息つく。
そろそろ話を切り出すべきだろう・・・。
「あの~・・・」
「帰る方法はあるわ。それもとっても簡単だから今直ぐにでも帰れるわよ」
どうやら予測済みだったらしい。
まあここで思うことなんてそれぐらいしかないか。
「そうですか・・・」
だがこのまま帰るのはなんだか気が引けた。
食事をご馳走になっておきながらはいさようならでは悪い気がしたからだ。
「何かできることはありませんか?一食ご馳走になったお礼がしたいのですが・・・」
最も俺が出来る事などたかが知れてはいるのだが・・・。
「そうね~・・・貴方何か得意な事あるかしら?」
「肩のマッサージくらいならそれなりに得意ですけど・・・」
まあ現状で出来るのはそれくらいだな。
割とマッサージは得意で学校の先生なんかには結構重宝がられた記憶がある。
「じゃあお願いできるかしら?」
「ええ、それじゃあ失礼します」
一言断ってから手を肩へ添える。
女性への礼儀だ。
親指を肩甲骨と背骨の間に入れてギュッギュッと揉む。
同じ場所を揉むのではなく少しずつずらして凝っているポイントを探す。
「あ・・・そこ・・・そこが気持ちいいわ」
手の触感でもそこが一番凝っている事が分かる。
そこを重点に置きながら全体を揉み解す。
有る程度揉んだら今度は肩を叩く事にする。
両手を開いたまま近寄せる。
そして素早くトトトトトと連続して叩く。
連続でチョップしていると思っていただければいい。
力任せに叩くのではなくリズム良く叩くのがコツだ。
右肩から背中を経由して左肩へと叩く場所を移動させる。
「これは効くわ~・・・」
一往復させた後再び揉む。
叩く、揉む、叩く、揉むと繰り返し行う。
「あ~・・・気持ちいい~・・・」
暫くマッサージを行った。

「ありがとう。気持ちよかったわ」
「どういたしまして」
どうやら満足いただけたようだ。
「紫様。そんなに気持ち良かったのですか?」
藍さんが洗物を終えて戻ってきた。
「ええ、とっても気持ちよかったわ~」
「藍さんもしましょうか?」
家事をやっているのなら凝っていそうだ。
揉み甲斐がありそうだ。
「藍も日頃疲れてるでしょうしやってもらったら?」
紫さんの進めもあり藍さんもやる事にしたようだ。
「それじゃあ頼みます」
そう言って藍さんが座った。
「それじゃあ失礼します・・・む・・・」
「藍、尻尾が邪魔よ」
「すみません、気が回らなかったようですね」
尻尾が大きくて邪魔だったのだが言いづらかったのを紫さんが代弁してくれた。
藍さんは直ぐに尻尾を消した。
「それじゃあ改めまして失礼します」
早速揉もうとするがある事に気がついた。
それは藍さんの肩がかなり硬く凝っている事だ。
こりゃ結構苦労してるみたいだな。
「ちょっと両手を真直ぐ上に上げてくれませんか?」
藍さんは少しこちらを見た後素直に上げてくれた。
両腕をクッと顔に引っ付けるように手で押さえつける。
「いたたたた・・・」
藍さんが軽く痛がる。
「少し我慢してくださいね」
そのまま両手を押さえ続ける。
暫くしたら手を離してマッサージを再開する。
「よし、柔らかくなったな」
先ほどの肩を例えるならば鉄板の様に硬かったのだが今は少しやわらかくなっている。
肩凝りは筋肉が収縮したまま戻らなくなった状態の事を言うのだが一度収縮している以上に縮めて伸ばすと少しではあるが緩むのだ。
先ほどと同じように肩甲骨と背骨の間を揉む。
「う・・・これは・・・効く・・・」
こりゃ全体的に凝ってるからどこ揉んでも効果がありそうだな・・・。
ためしに揉む位置を少しずつ下へずらして肩というより背中を揉んでみる。
「そこも・・・いい・・・!」
なるほど・・・。
これは全体的に揉んだ方がよさそうだな。
「すみませんけどうつ伏せに寝てもらえますか?」
素直に藍さんはうつ伏せになる。
しかし顔の部分に手を当てているので揉み難い。
「何か当てる物があればいいんですが・・・」
「枕でいいかしら?」
どこから取り出したのか紫さんが枕を差し出した。
それを受け取ると藍さんの顔の下に入れる。
「さてと・・・」
腕を捲り軽く気合を入れる。
肩、背中、腰と全体を指で揉む。
「う・・・く・・・そこ・・・」
藍さんは気持ちよさそうに時々声を出す。
流石に範囲が広くなったぶん疲れるな・・・。
まあ喜んでもらえるしそれぐらい別にどうってことはないか。
暫く無心に藍さんをマッサージした。
時折藍さんの上げる声と虫の鳴き声以外聞こえない静かな時間が流れた。

「あ~・・・なんだか生まれ変わった気分だ・・・恩に着る・・・」
よほど気持ちよかったのか藍さんはマッサージの余韻に浸っている。
そのためか今までの他人行儀な口調が大分砕けている。
「ねぇねぇ、そんなにまっさーじっての気持ちがいいの?」
橙ちゃんがマッサージに興味を示したようだ。
「うーん橙ちゃんだとまだ気持ちよくないかもしれないな~」
多分くすぐったいか痛いのどちらかだろう。
肩凝りな子供ってのはあまり居ないだろうから。
「どうして?」
分かりきっていた質問がきた。
「橙ちゃんが疲れても寝たり休憩したりすればどこかへ行っちゃうでしょ?」
「後ご飯食べてもどっか行っちゃうよ!」
元気良くつけたしをしてくれる。
「うん、でもその疲れがどんどん溜まっていっちゃうと寝たり休憩したり御飯食べたぐらいじゃとれないんだ」
「へ~」
妖怪とは言え女性の前だ。
年齢に関する単語は禁句だろう。
多分・・・。
「そうすると肩がやたら重たく感じたり痛くなったりするんだ。そうなったらマッサージをするととても気持ちがいいんだよ」
「ふ~ん・・・」
なんだかまだ納得いかなさそうな声だがとりあえず自分にはまだマッサージが気持ちよくないものだと言う事は理解できたようだ。
「じゃあ私でも藍様や紫様を気持ちよくできるの?」
興味対象がどうやらマッサージをされる事からする事へ移行したようだ。
「ああ、それは十分できるよ。紫さんちょっといいですか?」
「ええ、いいわ」
許可を得たので橙ちゃんを連れて紫さんの所へ行く。
「こことここに肩甲骨って言う骨があるんだ。で背中の中心にあるのが背骨。この肩甲骨と背骨の間を指でギュって押すんだ」
紫さんの背中を指差しつつ気持ちよくできる場所を教える。
「こう?」
ギュ~~~~!
かなり力を込めているようだな。
指の先が白くなっている・・・。
「ちょっと痛いわ・・・」
力良く押されている為に紫さんが痛がる。
「違う違う、ギュー!じゃなくてギュッギュッ!って小さく丸を作るようにこう揉むんだ」
橙ちゃんの手ごと掴んで手本を見せてやる。
「分かった!」
元気良く橙ちゃんは頷くと今度は上手に揉んでいる。
「橙、気持ちいいわ」
微笑む紫さんを見て気を良くした橙ちゃんは楽しそうに揉んでいる。
その姿を暫く見つめた後廊下へと出て夜空を見上げた。
灯りの多い都会では見られないほどの沢山の星が光っている。
後ろからは橙ちゃんの楽しそうな声と揉まれている紫さんの声が聞こえてくる。
「どうした?何か悩んでいるようだな」
藍さんが隣へ来て座った。
口調はすっかり砕けていた。
「なんだかここで暮らしたくなってね・・・」
こちらも砕けた口調で本音を言う。
藍さんは少し意外そうな顔をした。
「向こうに帰りたいのではなかったのか?」
「向こうには帰りたかったけどね・・・。向こうじゃ親は勉強しろしか言わないし、特別夢も無いしね・・・。帰ってもいい事が少ない気がしてきたんだ・・・」
正直に言えば紫さんや藍さんが羨ましくて仕方が無いのだ。
時間に追われずに、何かを強要させられずに暮らせる場所。
現代ではそんな場所はごく僅かだ。
「正直、人間に生まれてきた自分が凄く惜しいよ。いや、人間でもいいからこちら側に生まれてきたかった」
無論こちら側ではこちら側なりの苦労はあるだろう。
だがそれを含めてこちら側のがいいと俺は思っているのだ。
「・・・私は向こう側に憧れている」
「え・・・?」
唐突に藍さんが言う。
「向こう側ではどんなに遠くに居ても話す事の出来る機械や遠くへ早く移動できる乗り物などがあるんだろ?」
確かにあると俺は頷く。
「もし私が妖怪でなければ。紫様の式でなければ向こう側に住んでいたかもしれない・・・」
なるほど・・・隣の芝生は青く見える・・・か。
苦笑している俺を見て藍さんも苦笑していた。
その苦笑はやがて大きな笑いへと変化していった。
突然笑い出した俺達を見て紫さんと橙ちゃんは顔を見合わせていた。

「この穴を通っていけば貴方がこちらに迷い込んだ周辺に出るわ」
紫さんが指し示す空間の裂け目の前に立つ。
振り返ると橙ちゃんは悲しそうに藍さんを服を握っていた。
俺は橙ちゃんに笑うと藍さんを見た。
「これを持って行くといい・・・お守りだ」
藍さんが小さな勾玉を渡してくれた。
「ありがとう・・・そしてさようなら」
俺は裂け目の中へ入ろうとする。
「白!」
藍さんが声をかけたが振り返らずにそのまま飛び込んだ。
裂け目の中を走っている間も後ろから藍さんの声が聞こえてくる様な気がした。
「白!白!白・・・

 ・・・先生!白先生!起きて下さい!」
「ん・・・寝ちまったか・・・」
椅子の背もたれにもたれかかった状態で眠ってしまっていた俺を受付の女性が揺り起こす。
随分懐かしい夢を見たものだ。
ポケットの中にいつも入れているお守りの勾玉にそっと触れる。
あれからもう十五年の月日が流れている。
今年で三十五になる。
あれから俺は整体士の資格が取れる大学へ通い、マッサージを生業としている。
今は小さいながらも自分の整体院を経営している。
「こんな所で寝てると風邪引いちゃいますよ。もう若くないんですから」
「ああ・・・すまんすまん」
あんまり老けた覚えは無いんだが他人から見れば立派な中年か・・・。
「片付けも終わりましたから私は帰りますね」
「ああ、後は俺が鍵を閉めておくよ。お疲れさん」
「お疲れ様でした」
受付の女性は頭を下げると帰っていった。
さて・・・後は戸締りをしてっと・・・。
「今日の営業はもうおしまいかしら?」
「人間の営業はおしまいですが妖怪とその式なら受け付けてますよ」
「あらうれしい」
ゆっくりと振り向いた俺の目に紫さんと藍さん、そして橙ちゃんが映る。
「二名よろしいかしら?」
「優秀な助手が居ますからね」
パタパタと駆け寄ってきた橙ちゃんの頭を撫でながら言う。
「私もいっぱいいっぱい練習したから師匠にだって負けないよ!」
「ならば俺を頷かせて免許皆伝と言わせて見せろ!」
強気な橙ちゃんにこちらも強気で返す。
妙なテンションに紫さんは楽しそうに、藍さんは苦笑していた。
「それじゃあ私は橙の腕前がどこまで上がったのか見せてもらいましょうか」
紫さんが橙ちゃんを指名する。
「任せて紫様!」
気合を入れる橙ちゃん。
「じゃあ私は白先生にお願いするかな」
「まだまだロートルになったつもりは無いからな。安心して任せてくれ」
藍さんをベットへ寝かせてマッサージを始める。

「・・・やはり上手いな」
「本業にしてるからな」
言葉少ない会話。
話すネタが無いわけではない。
あの日の事も話そうと思えばいくらでも話せた。
だがお互いにあの日の事は触れずに居た。
夢に見た事もあるので今日は思い切って話題にしてみよう。
「今日夢を見てな・・・」
「ああ・・・」
「あの日の夢だったよ・・・」
「・・・!」
一瞬強張る藍さんの体。
微かに震える体が訴えていた。
その先を言うのか?と・・・。
「懐かしかったよ・・・」
「・・・」
藍さんは止めなかった。
だが催促もしなかった。
「ずっと聞きたかったんだがこう言った関係が壊れる事が恐くてな・・・。聞けなかった事があるんだ・・・」
「・・・ッ!」
藍さんは振り向いた。
その目は困惑に満ちていた。
言わないでくれ・・・言って欲しい・・・。
左目と右目、それぞれが訴える。
矛盾を抱えた表情が見て取れる。
「なんで帰る時に俺を呼び止めようとしたんだ?」
言った・・・ついに言った。
ずっと言えずに居た言葉。
そして言いたかった言葉。
「・・・どうしてこんな時にお前は言うんだ・・・。雰囲気ゼロじゃないか・・・」
「・・・すまんな・・・」
俯く藍さん。
その目からは滴が垂れている。
「お前が好きになった!あんな僅かな時間だったがお前が好きになった!今でも好きだ!どうだ文句あるか!」
藍さんは叫ぶように言う。
涙は止め処なく溢れ、顔は恥ずかしさで赤く染まっている。
「・・・女に先にプロポーズされるとは男としては情けないな・・・」
「え・・・?」
戸惑いの声を上げる藍さん。
「藍さん・・・いや、藍。俺もお前が好きだ。さらにまだ独身だ文句あるか?」
結婚に縁が無かったわけでもない。
お見合い話もいくつも来た。
だが全て断り続けてきた。
藍と言う一人の女性を愛してしまっていたから、他の女性が愛せなかった。
「なんだ・・・私が馬鹿みたいじゃないか・・・」
「俺も・・・だろ・・・」
お互い顔を赤く染めながら会話をする。
「・・・でも私とお前では立場が違いすぎる・・・。一緒には・・・」
「藍、白、ちょっといいかしら?」
藍の言葉を遮って紫さんが声をかけて来た。
・・・今まで居るのすっかり忘れてた。
「藍、貴方に暇を与えるわ。そうね・・・期間は白が死ぬまででどうかしら?」
「え・・・?」
随分と具体的な休暇だな。
「なるほど、つまり俺にその間藍に色々しろと言う訳か!」
「言う訳よ」
「ちょ・・・ちょっと紫様!?」
困惑する藍が声を上げる。
「人の恋路を、いくら自分の式だからってそれを邪魔するほど私は意地悪じゃないわよ」
「しかし・・・」
まだ納得のいかない藍に紫さんはニマーっと笑う。
「なるほど、藍は愛しの白様が死ぬのが耐えられないのね!大丈夫よ!白が死にそうになったら私が式にして延命してあげるから!」
「な!そう言うわけじゃありません!」
「それとも私の好意が受け取れないと言うのね・・・」
今度はヨヨヨヨと泣き崩れる。
「そうか・・・俺は愛されていないのか・・・」
こちらも男泣きする。
「あーもう結婚でもなんでもしてやるから二人ともいい加減にしてくれー!」
俺も紫さんも下手な芝居を止める。
「なんだかいつもの三倍は疲れた・・・」
藍ははぁっと溜息をつく。
「マッサージしてやるぜ。一生な」
「・・・馬鹿」
苦笑する藍を見て笑った。
「・・・なんで皆笑ってるの?」
すっかり蚊帳の外だった橙ちゃんが首を傾げるのだった。

終わり
実は最後は二つ考えていてマヨヒガに残る話と帰る話があったんですが今回は帰る話の方を選ばさせていただきました。残る話の方は読みたい方があればプチの方に書くかもしれません。(多分居ないと思いますが)
儚夢龍也
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コメント



0.810簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
何か全体的に何かの雰囲気に似てるなーと思ったらアレだ。門板のプロポスレに似てるんだ
いえ 別にだからどうした な訳ですが
とりあえず残る話をplz me
8.70名前が無い程度の能力削除
話の流れを転ずる時に若干描写が物足りない部分が見られましたが全体的に楽しく読ませて頂きました。
11.無評価名前が無い程度の能力削除
うん、プロポスレの方にするべきだわ。
作品自体はほのぼので悪かないけど、完全に場所を間違えてる感じ。
16.90名前が無い程度の能力削除
前とは大違いですね。気に入りましたよ
17.80名前が無い程度の能力削除
なかなかに楽しめたと思われますよ。基本的にマヨイガスキーですから。てなわけで残る話を激しく希望します。それはもうテンコーより激しく。
20.無評価儚夢龍也削除
もう一つの話をプチの方へ投稿いたしました。
そちらの感想はプチの方へお願いいたします。
23.70名前が無い程度の能力削除
外の世界の人が出てくる話は好きだ!
そしてなにより藍が好きだーっ!!
27.70名前が無い程度の能力削除
藍様かうあいよ!