――紅い悪魔が住むから紅魔館。
――時が止まったように感じるから永遠亭。
……まあ、どっちも時は止まってるぞ、って言われたら終いな気もするけど。
だったら、幻想郷はどうして幻想郷?
夢幻と夢想の行き着く郷だから?
それはおかしいと思う。だって、夢も幻も妖怪も異星人もおかしな人間だって、
そこに居れば全て現実じゃないか。
本当の夢って言うのはね?
――叶わないからこそ、叶えようと願うからこそ、夢って言うのよ?
そう、良い例えで表すとね?
――叶わないと思ってた事が叶った所で目が覚めるなんて、最高の夢じゃない?
◆
「これはまた随分と……。」
我知らず、嘆声を漏らす郁未。
「私達にとっても広いし、少し持て余しているくらいなんですが……。」
やはり良い家ですよね、と言葉の続きを汲み取る鈴仙。
「…………。」
そんな二人に見向きもせず、無言で先を歩くてゐ。
古い日本の趣を色濃く残す永遠亭の廊下。明かりを極力取り込まない構造のため、全体が薄暗い屋敷の中を郁未はてゐに案内され、鈴仙の師匠が待つ大広間へと向かっていた。
「それにしても、兎ばっかりね。」
所々で顔を見せる姿は、てゐよりさらに小柄な白い姿ばかり。さすが月の民、小間使いまで兎とは恐れ入った。
「ほとんどが地上の兎ですし、人語を使える者となると相当珍しいですよ。」
「月の兎はどれくらい居るの?」
「私だけです。」
「……それ、ほとんどっていうか全部じゃないの?」
兎としてカウントしなければ。
「そうなんですよ。なので、私の言う事よりもてゐの命令の方が良く従うんです。私は地上の兎語は解りませんし。」
「……あなたの位置付けって、どうなってるの?」
「一応は兎達のリーダー、ですが……実質率いてるのはてゐですね。」
そんなんでいいのか、月の兎。誇りとかは無いのだろうか、と尋ねようとすると、
「……あのさ。」
今まで黙っていたてゐが不意に足を止め、振り向いた。……明らかに疑いの眼差しを向けて。
「まだ、私は貴方の事を信用した訳じゃないよ? 霊夢に逆らっても面倒だから入れただけ。」
「てゐ、貴方……。」
鈴仙が何か言おうとしたが、郁未は手で制し、
「いいのよ。――顔も見た事無い人をいきなり『信用する』って言われるより、よっぽどね。」
「……それだけは同意見ね。」
それきり、てゐはこちらを見ようとせず、ただ先を歩き続けた。
無言と足音だけがしばらく続き、この屋敷が静寂に満ちている事を改めて実感させられる。
(……このまま静かに終わればいいんだけど。)
そう願いつつも、郁未はどこかで荒事は避けられないのではないかと思いを抱いていた。
霊夢は『眼』にさえ気を付ければ危険は無いと言っていたが、妹紅の激情や先程までのてゐのうろたえ振りを見ていると、
(――鈴仙の師匠、永琳とやらは私を目の仇にしている筈。そんな人が素直に話に応じるかしら?)
自分の命が懸かっているというのに、つくづく冷静だな、と冷めた思考に支配され、
(……っと、いけないいけない。)
『眼』の色が無意識で変わりかけたのを慌てて抑える。
そう、自分からチャンスをみすみす捨てる訳にはいかない。最大限の努力をした上で、結果駄目だった時以外は『力』を使う必要は無いのだ。
うん、と小さく頷き、己の思考をクリアに。
ただ静かに、その時を待つ。
◆
「――っ!」
富士の花火が咲き乱れる中、魔理沙は長年の相棒である箒を駆り、出し抜くチャンスを窺っていた。
(くそ……早く追いつかないといけないってのに……!)
郁未は月人の思考回路の危なさを知らない。自らを仇と狙う相手を刺客として差し向けるような奴らだ。人の話を聞く耳があるかどうかという保証は無い。
(鈴仙が後ろから、って事は無いだろうが……輝夜の奴まで動いたら――。)
『月の頭脳』と『永遠と須臾の罪人』。この二人が相手では、いかに自分達の弾幕を凌いだ郁未――『虚空を穿つ朱月』とて勝ち目はあるまい。
だから、早く彼女に追いつかなければならないのに。
「どうしたぁ! いくらでも殺してみなさいよ!」
激しさを増す炎の弾幕。妹紅の怒りの如く噴き上がる、爆砕の烈華は壁のように行く手を阻む。
さらに、前回のようにただ立ち塞がるだけではなく、
「――それともそっちが死ぬかぁ!?」
「くっ……!」
炎の爪で切り裂こうと迫る鳳凰をすれすれでかわし、マジックミサイルを放つも、その爪で簡単に握り潰されてしまう。
積極的な攻撃に、堅実な防御と回避。今夜の妹紅の動きは、明らかに不死身であるという前提を無視していた。
そう、今日の戦いはどちらが倒れるか、という勝負ではない。
足止めを喰らっている時点で、こちらが負けているのは明白なのだ。
「ちょこまかと動くんじゃないっ!」
レミリアが放つ矢と蝙蝠は決定打として効果が薄く、
「くそ……不規則ですら読みきっているようね……。」
咲夜の変則的なナイフの動きの中にすらパターンを見出しつつあり、
「こんな事なら、アレを持って来るべきだったわ……!」
今さら無いものねだりで己の不覚を正当化するアリス。つーかお前はもっと捻れ。レーザーと人形以外に種は無いのか。
皆一様に後の事を考えているようで、スペルカードを発動しようという動きは見られない。
故に、拮抗状態は続く。
(このままじゃ埒があかん! 気乗りしないが、『アレ』をやるしかなさそうだぜ……!)
そう、満月の夜に気まぐれで決行した幻の秘技。あの技ならスペル無しでも充分な火力がある。
「おい、アリス!」
「何よ! ようやく『マスタースパーク』撃つ気になったの?」
「アレやるぞ、アレ!」
「アレって……まさか、あの安直なネーミングの!?」
「ネーミングセンスはどうでもいい! とにかくやるぞ!!」
「ちょ、ちょっと! ……もう、魔力の調整もせずに……!」
こちらが呪文を唱え始めたのを見て、慌てて下に付くアリス。
魔理沙達の動きを見て、他の三人もそれぞれの行動に出る。
「お嬢様、あれが例のアレですわ。サポートします。」
咲夜は二人に迫る弾幕の防御を引き受け、
「ふぅん……私もパチェかフランと合体符でも作ってみようかな。」
場違いな程のんびりな口調で、しかし俊敏に翔ける事で囮を務めるレミリア。
「何をやる気か知らないが……まとめて焼き尽くしてやる!!」
そして全ての動きを無視し、天翔ける鳳凰の両翼を具現したスペルを起動する妹紅。
決着のため、全てが動き出していた。
◆
「ここよ。」
そこまで見てきた中でも、一番立派な襖の前で、てゐは立ち止まった。
郁未と鈴仙も倣って足を止めると、てゐは半目を向け、
「私はここまで。後は二人だけでどうぞ。」
しれっと告げられた言葉に、焦ったのは鈴仙だ。
「ちょ、ちょっと、てゐは一緒に入らないの?」
「案内しろ、としか言われなかったもん。正直、鈴仙にも入って欲しくないよ。」
真剣な眼差しを向けられ、一歩を退く鈴仙。
(……心配してくれてるのね。私のせいで、鈴仙が傷付くんじゃないかって。)
そう心に呟き、郁未は二人の様子を見守る。
落ち着きを取り戻した鈴仙が、言葉を選ぶようにゆっくりと、
「……私は、一緒に行かないといけない。連れて来い、って言われた責任は果たさないといけないし、万が一の時に郁未さんを弁護する必要があるかもしれない。」
「赤の他人なのに? 私のフォローも満足に出来ないくせに、随分大口叩くじゃない。」
「……いくら悪ぶっても、本音を隠しきれてないよ、てゐ。」
微笑し、小さい素兎の頭を撫でる、月の兎。
その瞳は赤く妖しいけれど、確かに情愛の宿った優しい目だった。
「……知らないよ? 痛い目に遭っても。」
「もう慣れてるよ。――誰かさんのお陰でね。」
そう言って、でこピン。てゐは一瞬顔をしかめたが、すぐに無邪気な笑顔で、
「そうねー。じゃあ、私はこれで失礼。」
ぴょんぴょんと、跳ねるように去っていった。
「――いいの?」
二人になってから、確認するように郁未が問うと、
「……大丈夫です。ちゃんと、師匠に説明して見せますよ。」
ややぎこちない、しかし力のある笑顔で鈴仙は頷いた。
「……よろしい。では、――行くわよ。」
襖の丁度切れ目の真ん中に立ち、両手で一気に開ききった。
◆
そこは、本当の意味での和室であった。
洋式の要素が一切立ち入る隙の無い調度品。至る所にあしらわれた洗練された装飾。よく手入れされた美しい目の畳。
外に面していないため障子は無かったが、襖に囲まれたその空間は、まさしく日本の美の結晶であった。
そんな和の集大成とも言える部屋に、唯一場違いな存在が一つ。
赤と黒に真っ二つに分かれた服を、上下反対の色配置で着ている白髪の女性。
頭には、外の世界ではある意味時代錯誤的なナースキャップを戴いており、その色合いもやはり赤と黒。
なんとも目によろしくないその女性は、しかしこの場所に相応しい礼節でもって出迎えた。
机に隠れて見えないが、恐らく正座のまま頭を伏せ、
「ようこそ、永遠亭へ。私は当屋敷の主人に仕える薬師にして、そちらに居る鈴仙・優曇華院・イナバが師、八意 永琳と申します。」
どうぞお見知りおきを、と笑みの顔を上げた。
自然、こちらも身が引き締まり、
「……初めまして。私は天沢 郁未と言います。今日の昼にこちら……幻想郷に迷い込んだ、人間界の者です。」
ぺこり、と廊下に立ったまま一礼。ちなみに、両者の距離は30m程離れているが、お互い相手の顔はちゃんと認識出来ているようだ。こっちは見えてるし。
「ウドンゲ、貴方が紹介するのが先でしょう?」
と、永琳は笑顔のまま隣に立ったままの鈴仙を諌める。
「……あ、そうですね……すみません。」
頭を下げる弟子に、師匠は苦笑。
「まあいいわ。……こちらにどうぞ、郁未さん。」
「あ、はい。」
勧められるのに従って、郁未は彼女の前にある机まで歩いていく。
丁度対面に備えられた座布団に腰を落とし、鈴仙もその横に座った。
正座は慣れていないので、疲れる。が、これも我慢の内と割り切らなければ。
「さて、郁未さん?」
「はい。」
笑顔のままでこちらを見ている薬師に、敵意は感じられない。なので少しだけ緊張の表情を解く。
「貴方に来てもらった理由は……解るかしら?」
「……私が、月の民に関係があるから……でしょうか。」
レミリアと鈴仙の話を総合して、辿り着いていた推論を口にすると、正面の月人は満足そうな頷きを見せ、
「そうです。具体的な所までは解らないけど……貴方の中に眠る力の波動は、まさしく月の民が持つそれと酷似している。」
「やはり……そうなんですね。」
ようやく辿り着いた。それまで興味すらなかったけど、今はとても重要な、アイツの正体を知る事が出来る。
はやる気持ちを抑え、彼女の次の言葉を待った。しかし、
「そう。――もう、私達にとっては鬱陶しいだけの力。」
「――え?」
声色一つ変えず、場の空気だけを変える言の葉に、郁未が疑念を感じ、
「――っっ!?」
転瞬、場面はその形を変えて展開していた。
◆
「――しまった!?」
二人の姿が忽然と消えたのに、鈴仙は一瞬遅れて気付いた。
(やはり……師匠は彼女を……!)
予測はしていたが、こうもあっさりと出し抜かれた事に舌打ちしながら、対処を考える。
「……基本は、あの時と同じ筈。直に目にしていた私なら――。」
天文密葬法。天才を自認する永琳が『大した事は無い』と言い切る、至高の秘術。
(……綻びは、必ずある。封印術である以上、封を解くだけの隙間は用意されなければならない!)
狂いを生じさせる事に長けた『狂気の瞳』は、故に綻びを見つけ出し、それを調律するための力も宿している。
今こそがそれを発揮する時と見定め、鈴仙は己が全霊を賭けて師たる全能に挑む。
「私は……もう、逃げない!!」
未だ、過去と向き合う勇気は持てないけれど。
今から目を逸らさない度胸くらいは、自分にだってあるのだと信じて。
◆
「――準備は良い?」
「いつでも行けるぜ!」
普段からは想像もつかないほど息の合った応答。それを間近で見る奇術師は苦笑し、
「随分と仲が良い事で。パチュリー様とどっちが本命かしらね。」
「馬鹿に付き合ってる暇は無い! 行くぞ!!」
「ええ! ――上海、お願い!!」
絶妙な魔力のシンクロに、咲夜は思わず息を呑んだ。
(……これは、想像以上ね。)
両腕は休み無く動かしながら、大いなる力の胎動をしっかりと焼き付ける。
「「行っけぇ――!!!」」
そして、どこまでも真っ直ぐな赤の絨毯(スペクトルミステリー)を、寸分の狂い無く恋の欠片(スターダストミサイル)が駆け抜けて行く――。
◆
「んなっ……!?」
レミリアに強引に接近戦へと持ち込まれていた妹紅は、高速で向かってくる魔力の奔流に気付くのに遅れた。いや、警戒はしていたが、肉弾戦こそを本領とする紅い吸血姫の鬼神の如き猛攻の前には、他に気を遣る余裕など無かったのだ。
「くそ……反則だろそんなの!」
スペルの発動式を瞬時に変換し、本来は弾幕を放つ使い魔で自身を守る壁とするも、
「がっ……!!」
妖しきを貫く赤の光条によって集中力を欠き、
「ぐああああっっ!!!」
即座に叩き込まれた星屑の魔弾が使い魔ごと彼女の身体を吹き飛ばした。
「よっしゃあ! 直撃だぜ!」
「使い魔で威力は殺されたけど……すぐには再生出来ない筈よ!」
魔法使い二人は揃ってガッツポーズ。
「……大した反則奥義ね。」
言いつつも笑顔の咲夜は、
「――後は何とかしておくわ。」
時を止め、魔理沙を送り出す。
「ああ、任せるぜ!!」
黒い流星が一瞬で姿を消した事を確認し、再び時間を刻み出す。
「……さて、ようやく真面目にやれるわね。」
「さっきまでも充分真剣でしたよ? 私は。」
すんでの所で回避し、横につけたレミリアの言葉に、咲夜は苦笑。
「無駄話はその辺にしとくんだな!」
「「!」」
怒りに満ちた声に振り向けば、既に完全な姿でこちらを睨む妹紅が居た。
「早い……もう再生したのか?」
いつぞやの丑三つ時とは段違いの修復速度に、自身も再生能力を持つレミリアですら舌を巻いた。
「気の入りが違うって事だ。第一……お前らみたいに楽天家じゃないんだよ、私はなぁ!!」
叫び、妹紅の姿が掻き消えた。
「パゼスト……!」
時限制スペルの発動に備え、三人は構えるが、
「……え?」
攻撃が来ない。その事に不審を抱いた直後、
「狙うべき奴以外に用は無い!」
遠くから聞こえた鳳凰の声に、アリスは焦りを覚えた。
「――まさか、魔理沙を……!?」
彼女は今完全に背を向けてしまっている。高速である故にブレーキをかける瞬間は致命的に隙があり、
「うおっ!?」
くぐもった悲鳴が聞こえ、それが意味する事が何であるかを知る前に、
「魔理沙――!!」
アリスは叫んでいた。
◆
「――ここは……?」
自分が今居る場所が何であるのか、郁未は即座に理解出来なかった。
とりあえず足場に空気の床を置いて、辺りを見渡して見ると、
(え……宇宙!?)
満天の星空。いや、地に足が着いていないのだから、虚空を満たす銀河と言った方が正しいか。ともかく、そこは無限の宙(そら)そのものだった。
(あれ……でも、何で呼吸が――)
当然の疑問を抱くのも束の間、
「それは、ここが偽りの宙(そら)だからよ。」
「!?」
声に慌てて振り向くと、そこには。
「……八意、永琳……。」
己をこの空間に引きずり込んだ張本人の姿があった。
いつの間にか手に弓を携えた彼女は、先程とは違う底知れぬ雰囲気を纏っており、容易には触れ難い存在のように感じられた。
(……っ!)
そこから生まれるプレッシャーという『空気』を能力で抑え込み、何とか己を保つ。
「ふふふ、どうやら本人ではなさそうね。まあ、そんな事は会う前から解っていたんだけど。」
微笑しながらの台詞に、郁未は思わず息を呑む。
「……あなたは、私の何を知っているの。」
「貴方の事なんか知らないわよ。私が知っているのは、貴方の中の『貴方』。」
「っ! そこまで……。」
知っているの、という言葉すら出ない。それだけ目の前に居る女性は圧倒的な存在感を持っていた。
こちらが身動きを取れない事が滑稽なのだろう、永琳はクスクスと笑いながら、
「さて。――貴方、どこまで聞いたかしら? そして、――どこでそうなったの?」
「……答えない、って言ったら?」
どう答えた所で『結果』は同じだろう。だから敢えて強気に出てみるが、
「……無駄よ。私が『識れ』ない事なんて無いのだから。」
「!?」
いつの間にか目の前に立っていた彼女に、思わず、
「――っ!!」
『眼』の色を変えていた。だが、
「遅い。」
「むぐっ!?」
目にも止まらぬ速度で『何か』を口に叩き込まれたと気付いた瞬間、
――郁未は、落ちていた。
◆
「くそ……どこにあるの、綻びは……!」
『狂気の眼』で部屋全体を見回すも、それらしきものが見つからない。
時間だけが過ぎる事に、鈴仙は焦りを感じていた。
(やはり師匠には敵わないの……? 私のような未熟者では、どだい無理な――)
「鈴仙!」
その時、不意に襖が開き、てゐが入って来た。
「てゐ!? どうして……。」
「輝夜が部屋から出て来るよ!」
「――姫が!?」
てゐが輝夜を呼び捨てにするのはいつもの事なのでもはや咎めず、告げられた事実のみを確認する。
「どうして姫が? もう夜なんだし眠ってる筈じゃあ……。」
「『ふて腐れるのも飽きたから、ちょっと暴れてこようかな』って兎達が聞いたって!」
「……こんな時に……!」
つくづく間というものを知らない御仁だ。というかその気になれば部屋の中からでも外の様子は解る筈なのだから、最初から出て来てくれていればこんな騒ぎにはなっていないものを。
などと今さら愚痴っていても仕方が無い。とにかくこの状況を脱する方法を――
「――そうだ、てゐ!」
「何?」
目の前の素兎が持つ能力を思い出し、鈴仙は発案する。
「郁未さんに幸運を分けてあげて! そうすれば、私の力だけでも封印の緩みを見つけられるかもしれない!」
「えー? それ、本気で言ってる?」
半目でこちらを見るてゐの文句も気にせず、捲し立てる。
「このままだと、師匠自身の手で幻想郷が滅ぶ可能性だってあるの! 師匠や貴方は知らないだろうけど、彼女の能力は……!」
極限状態に追い込まれた時にこそ、暴走の危険性が生まれる。
見ず知らずの場所に迷い込み、見ず知らずの相手に誘われるという異常事態から生まれた突発的な行為であったのだと、自身が体験した恐怖から鈴仙は感じ取っていた。
そして、そこで抱いた思いが彼女に傷を与えてしまった事を謝るためにも、
「お願い、てゐ! 彼女を助けて!!」
「…………。」
じっと。偽り無き本心の瞳で虚言の申し子を見つめる。
そして、
「……しょうがないなぁ。」
やれやれ、というジェスチャーを見せたてゐは苦笑を浮かべ、
「――後で謝るのは、鈴仙一人だよ?」
「てゐ! ありがとう!」
小さな手を握り、感謝の意を露わにする。
それにてゐは照れたような笑みでこちらを見上げ、
「……ま、同じ兎仲間だしね。」
相変わらずの減らず口も、今は頼もしく聞こえた。
◆
意識の闇に落ちた郁未は、己の記憶の闇を彷徨っていた。
(――く。もう今さら、見ても壊れやしないけど……。)
それでも、辛い事に違いは無い。彼女が歩んできた道程は、やはり想像を絶していた。
(はぁ……我ながら、もうちょっと落ち着けって言いたくなるわね……。)
魔理沙達に語ったのはほんの一片。自身が経験したものだけでないおぞましい記憶が、鮮やかに甦っては砂のように消えていく。
(つくづく、何で私が選ばれたのか……疑問するまでも無く解る気がするなぁ。)
一度母と別れた時から、『天沢 郁未』は人間ではないモノに成り下がってしまった。今さらながらその事を痛感しつつも、もはや達観してそれを受け入れてしまえる自分が居る。
(つまりは、最初から私以外に適格者は居なかったんだ。アイツやアレからすれば、葉子さんですら不良品に過ぎない。)
自我に焦がれられるだけ、まだ彼女は人に戻れるチャンスがあった。事実、今はそうして生きている筈だ。
(アイツは解ってたんだろうな。たとえ自分が受け継がせようとそうしなかろうと、私が私だけで居られる筈が無いんだって事が。)
そう。踏み入れた時点で、いや生まれた時からもう手遅れだったのよ、『私』達は。
(まあもうそれはいいや。諦めた。降参ですよ、ええ。)
それでも自覚しなければ、生きていけたかもね。ギリギリ、ヒトとしては。
(それなら壊れる方が幾分マシよ。――って、そういう方向に持っていかないでよ。凹むなぁ……。)
今のは自爆だと思うけど。――さて、本題ね。
(うん。)
――貴女は、アレとアイツが同一だっていうのは気付いてた?
(気付くも何も、今の私達の関係そのものじゃない、アイツらは。)
相変わらず聡明ね。まあ、それは『私』もだけど。
(うわ、その自画自賛最悪っ!)
あはは。で、つまりはどういう事か解るわよね?
(……要は、最初から私の中に『力』はあったんだ。いや、私だけでなく、アレが選んだ人間全ての中に。……勿論、欠片程度だろうけど。)
という事は?
(――アレは、表から自分の存在を消す事で、器だけを輪廻させていたのね。で、私がアレの本来の身体そのものだったと。)
正解。――良ければ、彼と変わってもいいけど……。
(ヤ・ダ。どうせ教えてくれないもの、肝心な事は。)
そうね。じゃあ『私』から説明するわ。
目が覚めたら目の前に居る月の頭脳。彼女が殺しそびれた使者の生き残りが、アレの正体よ。
(やっぱり月人だったんだ……で、分離したのは『器』のためね?)
飲み込みが早くて助かるわ。彼女にこっぴどくやられた身体はもう使えなかったから、一旦仮初めの肉体に力を移して、魂であり思念体としての『月』だけを残して、闇に潜んだの。魂まで廻すと記憶や知識の情報が劣化するから、取り出して自分を保っていたのね。
(でも、経年劣化は避けられないんじゃあ……。)
命が永いとは言っても、それは明白ね。だから万が一のために仮初めの肉体にも『空気』の供給を絶った魂を残しておいた。でも、偽の身体に偽の心、その上息も出来ず成長もしない筈だった人形が、自我を持ってしまったのね。
(ふーん……何となく、アリス辺りに聞かせたら飛びつきそうな話ね。)
事実飛びつくわよ。――まあ、その後は貴女も知ってる通りの彼と、ただゆっくりと枯れていくだけの『心』が残った。もう、『心』に月の民だった頃の記憶なんて欠片も残っていなかったでしょうね。
(……成る程。で、千年の時が流れて、満を持して現れた『器』に返り討ち、と。)
彼としてはそれでもアウトだったんじゃないかしら? いつ壊れるかも解らないんだから。
(――てか、あんたがアイツそのものでしょうが。)
まあ、ね。――さて、『久しぶり』だね、郁未。
(うん。――人の顔借りなきゃ肝心要の事を喋れんのかアンタはっ!!)
うわ……相変わらず血圧高いね。ちゃんとカルシウム取ってる?
(ゴメン訂正。――自分の顔だと本当の事しか喋らないのね、アンタは。)
さっきの説明も嘘じゃないけど?
(はいはい。……そうか、ずっと守ってくれてたんだ。)
うん。今日だけで何回僕が頑張ったか解る?
(恩着せようったってそうはいかないわよ。アンタの責任なんだからね、全部。)
相変わらずで何より。君を信じた甲斐があったね。
(ありがと。……ついでに自分で説得しなさいよ。)
それは無理だね。でも、粘っていればいつかは解決するよ。
(ここまで来て他力本願? アンタも相変わらずねぇ……。)
最高の褒め言葉だね。――さて、それじゃあ僕まで『視』られる前に起きなよ、郁未。
(了解。――あ、最後に一つ聞いていい?)
何? 僕が郁未を好きかどうかって事?
(そんな解りきった事じゃなくて。――あのね……。)
――私達、まだ人として居られるかな?
◆
「――っ!」
急激な意識の覚醒。突き飛ばされたような錯覚を得た郁未が目を開ければ、
「――成る程ね。貴方は、そのものではないけどそのものに等しいという訳か。」
空間に引きずり込まれた時と同じ位置関係で、自分達は居た。
天才の薬師は微笑のままで、
「胡蝶夢丸、ナイトメア。悪夢を見せる筈の秘薬さえも、貴方にとっては快楽を与えたに過ぎないようね。」
「……余計なお世話よ。」
確かに、自分が笑顔である事を自覚しているけど、改めて指摘されると何だか腹が立つ。
彼女の口振りとアイツの言葉から察するに、『月の頭脳』の二つ名の通り、こちらの脳で展開していた夢を覗き見たのだろう。アレにも似たような事をされたし。
「……解ったでしょ? 私はあなた達を連れ戻しに来た訳でもないし、この世界を壊す気なんて毛頭無い。ただ、自分が何者なのか知りたかっただけよ。」
それでいいでしょ? と矛を収める事を求めたが、永琳は首を横に振り、
「いいえ。例え今はそうであったとしても、これから貴方が狂わない保証なんてどこにも無い。だから――」
弓の弦を引き、
「――ここで消えてもらうわ。」
叡智そのものを具現し、一切の油断無き弾幕を放った。
◆
「……っ!」
妹紅の使い魔の壁に道を阻まれた魔理沙は、背後から迫る絶命の一撃を覚悟した。
(……やれやれ。こんな事なら、『ブレイジングスター』で突っ込んどけば良かったぜ。)
らしくない後悔をしながらも、潔く身を委ねる。が、
「……あれ?」
いつまで待っても紅蓮の凶爪が来ない事に疑問を抱き、ふと後ろを見てみると、
「く……そ! 何で邪魔をする、霊夢っ!!」
幾重の結界に絡め取られた、囚われの朱雀が激昂するのが見て取れた。
「何……?」
もう一度後ろを振り返ってみれば、そこには。
「これで貸し一つよ。……返さなくてもいいけど。」
いつもの面倒臭そうな顔でこちらを見る、紅白の巫女が宙にたゆたっていた。
「れ、霊夢? 何でこんな所に……?」
「ああ、さっきからずっと永遠亭に居たわよ。今回の原因が原因じゃないのを見届けたから、頭に血が上ってる馬鹿を止めに来たの。」
「誰が馬鹿だとぉ!?」
身動きが取れなくなっても、やはり激情家。先程以上の気迫で睨む妹紅の視線を霊夢は軽く受け流し、
「あんたしか居ないでしょうが。彼女はただの人間よ、月の民じゃないわ。」
「あの『眼』が普通の人間だって言うのか!? そんな事――」
「人の話を聞け。」
指の一振りでさらに強く縛り上げ、ぐああ、と妹紅が呻くのも意に介さず、
「レミリア。あんたは解ってるわよね?」
「当然。最初からパチェが見てたからね。」
追いついて来たレミリアがしれっと言った台詞に、赤面する者が二人。
「な……じゃ、じゃあ、私が土下座したのも……。」
「私が無様に倒れたのも!?」
「勿論、全部。」
うあああ、とシンクロ悶えを見せる魔法使い達を無視し、咲夜は冷静に、
「そうか、珍しく先回りしてたのね、霊夢。」
「紫の手引きがあったのよ。アイツから言ってくるくらいだから永遠亭しか心当たりが無くてね。」
「つまり、いつも通り行き当たりばったりか。」
「まあ、そういう事。」
「……そこは否定しろよ。」
「「時間の無駄。」」
「そこでハモるか。」
しかも巫女と吸血鬼が。
「でも、どうして郁未を追いかけなかったの? そうすればもっと穏便に事は進んだ筈よ。」
「一番物騒だったお前が言うのか、それを。」
「あ、あれは魔理沙が汚れてたせいで……。」
「はいはい、論点がズレてる。魔理沙と会ってるのは確実だと思ったし、ルーミアを迎撃したくらいだから、どのみち面倒は起きるだろうと思ったからね。」
「体の良い言い訳ね。」
「……咲夜、貴方は人の事を言えないでしょう。」
確かに。問答無用で一触即発だったし。
「とにかく、こいつはふん縛っておくから、あんたは郁未を見てきなさい。こういう時こそ甲斐性有り余った魔理沙の出番よ。」
「甲斐性は余るとかそんなもんじゃない、ってかどういう意味だ。」
「……自覚無いの? 魔理沙。」
何でそこでため息を吐く。……おいこら、他の皆まで。
「まあいいから。足は二番だけど手は一番早い魔理沙にピッタリの仕事よ。」
「――後で覚えとけよ、お前。」
……いや訂正。一緒に頷いてる三人も。
「それじゃ、一発かまして来るぜ!」
箒に跨り直し、魔理沙は一直線に永遠亭へと向かった。
◆
――その弾幕は、まさに網目の如く広がる人類の系譜。
「くぉ……凄まじいわね、これは……。」
無数の光糸の隙間に身を滑り込ませ、人を外れしヒトは呟く。
紅い吸血鬼の針山地獄も相当なものであったが、加減を知らないこの攻撃に比べれば、
「いや、比較する事自体間違いか……。」
ギリギリでかわさなければあっという間に細切れだ。あくまでもこちらの絶命だけを狙う『ごっこ』でない弾幕が、休み無く展開されていた。
郁未の瞳は黒のまま。薬を飲まされる直前以外、彼女が『彼女』に変わる事は無かった。
(だって、それは彼女の言葉を認める事になるから――!)
『朱月』を引き出さなくとも、最低限の能力行使は出来る。精神と体力の両面において、『眼』の色を変えることは許されなかった。
何より、人のまま彼女の攻撃を凌ぐ事が、
(私に敵意の無い、何よりの証拠となる筈。……だと、思うんだけどなぁ……。)
深く考えると、その時点で既に人間を超えてる気がするのだが、まあそれと攻撃の意思が無い事とはまた別の話だ。
(……早く誰か助けてー……。)
彼の言葉を信じ、他者の介入で現状が解消される事を望むのみであった。まあ別に弱気じゃないが。
◆
「くっ……やはり、初めから私が出向くべきだったわね……!」
己の最高クラスのスペルがいとも簡単に回避されている事に、永琳は舌打ちした。
そう、彼女がまだ迷い込んですぐの時に攻撃を仕掛けていれば。
宵闇との接触が回避出来なくても、せめて人形遣いの家に着くまでに自分自身を刺客として仕向けておけば、確実に仕留められただろうに。
(本当に……この世界は私の思い通りにならない……!)
郁未がここに辿り着くまでに出会った者達。それは偶然や奇跡などという安っぽい言葉で片付けられないほど、あまりに出来すぎた面子と綺麗すぎる順番。
その巡り合わせすら、幻想郷という現実離れした異界の為せる業だというのか。
「そんな事――絶対に認めない!!」
天才の誇りに賭けて、奇跡という計算違い(ミス)を塗り潰す。
――もはや、主人の力を超える事すら厭わず。
◆
「……っ!?」
郁未は悟った。今まで光芒が走る場所に感じられた『通る』という空気、それが一瞬で倍加した事を。
「ちょっ……初心者に二重スペルとかあり!?」
今までの網目すらギリギリの幅だ。それが単純に半分になれば――。
(……止むを得ないかっ――!)
力を引き出さなければ防ぎようが無い。諦めかけたその時。
「――そこまでよ、永琳。」
「「!?」」
自分の背後から響いた凛と通る声に振り向けば、
「――姫様!?」
その呼び名に相応しい貴人が、にこにこ顔で自分達を見ていた――。
◆
「久しぶりに本気を見せたわね。いつもなら絶対にそんな事しないのに。」
ふふ、と上品な仕草で微笑む、姫と呼ばれた女性。
――その姿、まさに貴族。
反則的に艶めいた黒髪を肩に撫で流し、女でも見惚れるほどの――むしろ彫刻みたいに出来すぎた顔立ち。そのお召し物も、死ぬほど肌触りの良さそうな高級仕立ての着物。
一瞬で、レミリアと違う意味で『ああこりゃ敵わん』と思わせる出で立ちの彼女は、どこから見ても純和風のお姫様だった。
「……あなたが、かぐや姫……?」
聞くまでも無く解っている事を敢えて尋ねてみると、姫様はやはり微笑んで、
「そうよ。私が蓬莱山 輝夜。ここの主人よ。」
よろしくね、と手を差し伸べられる。
あ、どうも、と勢いのまま握手を交わすと、
「姫様! 何を仲良くしているのですか!! 彼女は――」
「いや、私からすれば貴方がそこまでする理由が解らないのだけど。」
手を離した姫――輝夜は、己の従者にして友人をやんわりと諭す。
「あの狡猾なイナバが臆病なイナバを助けたのよ? それがどういう意味か、賢い貴方ならすぐに解る筈じゃないの。」
「……てゐが?」
既に攻撃を止めていた永琳が、驚きを見せた。
その反応を快く感じたのだろう、輝夜はさらに笑みを深くし、
「主人である私の命令ですらろくに従わないようなあの子がよ? 私に心底仕えている貴方が、刃を引く価値は充分にあると思わない?」
「……それは……。」
まだ納得が行かないのだろう、猜疑を含んだ目でこちらを睨む永琳に対し、
「――そう。私に逆らうというのね、永琳。」
笑みのまま。しかし、
(……!?)
その黒瞳だけは、どうしようもなく狂いきった色に見えて。
地に堕ちた月の姫は、壊れた笑顔で月の頭脳を睨んでいた。
「――! いえ、そんな事は、決して……!」
「なら、いいのよ。」
ふふ、と。もう何の違和感も無く、輝夜は微笑んでいた。
◆
「ごめんなさいね。色々と迷惑をかけてしまったようで。」
「いや、まあ私も悪くないとは言い切れませんし。それに、永琳さんがあなたのためを思って黙っていた気持ちも解りますから。」
「そう? 良かったわ、少ないお客さんに嫌われたら困るものね。」
「少ないのは引き篭もってるからだろ?」
「というか、それが大部分ですけどね……。あ、お茶ここに置いておきますね。」
「もがー!!」
「あー、疲れた。魔理沙も役に立たないわねぇ。」
「既に終わってた場合も役立たずっていうの……?」
「役に立たなければ役立たず、よ。」
「少しは自分を省みなさい、咲夜。」
大広間には、関係者全員(てゐと永琳は除く)が集まっていた。
郁未を巡る一連の事件が一応の解決を見せた事で、皆の空気は緩みきっていた。
で、永遠亭側からのお詫びも兼ねて、全員で夕食会に参加する事になったのだ。
幻想郷ではこんな風に会食(むしろ宴会らしいが)する事は珍しくないそうだ。文明とはかけ離れた(言い過ぎか)生活を送っている事を考えれば、これも立派な娯楽の一つなのだろう。
料理が運ばれてくるのを待ちながら、皆好き勝手に喋りまくっている。
「もう少しで出来ますから、待っていて下さいね。」
ブレザーにエプロンという異色の組み合わせで準備を進める鈴仙が部屋を離れると、輝夜がにこにこ顔で、
「うーん、それにしてもあの子が永琳に逆らうなんてねぇ。随分頑張ったものね。」
「それはやっぱり……私のカリスマ?」
「お嬢様の前でカリスマとは良い度胸ね。」
「良いのよ咲夜、郁未が言ってるのは人望の方だから。」
「自分で人望が無いって認めるのはどうかと思う。」
「いや、いい心掛けじゃないか。」
「アンタは逆に色々削るべきね。特に甲斐性。」
アリスのジト目に、魔理沙は思い出したように眉を立て、
「だから、何で私と甲斐性が関係あるんだ。」
「大有りだと思うんだけど……っていうか、本気で言ってるの、それ?」
「大マジだ。」
「……重症よねぇ。」
「同感。」
「だから何でお前らが同意見なんだ。」
「私もー。」
「お前にだけは言われたくないぞ、郁未。」
「私は身体だけだもーん。」
「……もっと最悪ね。」
「もがが――!!」
そういえば、さっきから気になってたのだが、
「いい加減解いてあげたら?」
あらゆる意味でがんじ絡めにされ、簀巻き状態の妹紅を見て、そう言うと、
「いいのよ。私の言う事ならともかく、永琳の嘘を鵜呑みにした罰。」
「もが……ぐ。」
「あ、大人しくなった。」
「一応反省してるみたいだぜ? もういいんじゃないか。」
「そうねぇ……もう暴れない?」
「んー!」コクコク!!
激しく頷く彼女の様子に、霊夢はようやく手に持っていたお札を離し、
「はい。……後は自力でも大丈夫でしょ。」
「ん……だぁ!!」
ボゥン!!
妹紅の身が瞬時に燃え上がり、自由を奪っていた呪符やら縄やらが一瞬で燃え尽きた。
「おー、脱出手品。」
ぱちぱちと手を叩く間に、妹紅は身を起こし、
「くぁー……体中がギシギシ言ってるわ……。」
「オジン臭い(ボソッ)」
「あんたにだけは言われたくないわぁぁ!!」
「「こら。」」
霊夢と一緒に睨むと、ぐぅ、と唸って腰を落ち着けた。あ、また眼が朱いな、今。
「まあ、一応全員が納得した所で。」
「無理やりだな。」
「水を差さない。――取り敢えず今回も落ち着いたし、現状で憂うべき事は無くなったわね。一日で片が付いて良かったわ。」
「お前はほとんど何もしてない気が……。」
するんだが、という言葉は呑み込まれた。――御札取り出すの早っ!
「まあそういう訳で、――紫? 居るんでしょ?」
「お呼びかしら?」
聞き覚えのある声が、虚空から響いた。
(――この声、確か……。)
記憶を手繰り終える前に、声の主は突如その姿を現した。
◆
それは、今まで会った人妖の中でもとびきりの怪しさを醸し出していた。
まず、服装からしてもうヤバイ。
永琳以上に目に悪いド派手な色使いの……偉いお坊さんとかが着るような、そんな感じの服。
そして、奇妙な帽子から覗く、リボンがいっぱい付いた金の長髪。
極めつけは、輝夜に負けず劣らずの美貌ときたもんだ。
こんなイカレた女性に声をかけられたら間違い無く逃げる。絶対。
などと、初対面にも拘らず失礼な思考に支配された頭に、
「おやおや、随分と立派な面構えになったわね。」
彼女の声が響いた瞬間、郁未は思い出していた。
「――あなた、迷い込んだ時に近くに居たわよね。」
「あら、覚えていてくれたのね。光栄ですわ。」
うふふ、と胡散臭さ全開の笑顔を見せる美女。
その会話に反応を見せたのは、彼女を呼んだ当の本人だ。
「――ちょっと、聞き捨てならない話なんだけど、それ。」
不審そうに眉をひそめた霊夢が問い質すと、美女は手に持った扇子で顔を隠しながら、
「何が? 私はただ事実を述べただけよ? 朝も今も。」
「最初から見てるだろうとは思ってたけど……まさか、あんたが連れ込んだんじゃないでしょうね。」
霊夢の台詞に、全員が突然の来客に注視を向けた。
特に、輝夜は最大の当事者だけにドギツイ半目を送っているが、それすら美女は気にせず、
「まさか。魔理沙が言った通りよ。彼女は自分からここに入り込んだの。」
嘘じゃないわよ? と全然信用出来ない笑みを見せる彼女に対し、名前を呼ばれた魔理沙が頷きながら、
「……そうだよな。お前が犯人なら輝夜も敵になる筈だ。そうでないんだから、お前にとっても今回のは不測の出来事だったんだろう?」
「そうそう。さすが魔理沙、今回の一番の功労者ね。」
「ははは、当然だ。」
「……まあ、それもそうよねぇ。」
当事者二人があっさり納得したので、取り敢えず緊張は解ける。
「――あ、そう。」
毒気を抜かれてしまい、手持ち無沙汰になった霊夢は(やはりいつの間にか出した)針を仕舞い、えーと、と前置きした後、
「……紹介がまだだったわね。こいつは八雲 紫。見てくれはこんなだけど立派な妖怪よ。」
郁未の方に向き直り、闖入者の身分を告げた。
◆
料理(と酒)が運び込まれた後は、まさにどんちゃん騒ぎとなった。
魔理沙曰く、『お前が酒を呑めたらもっと騒いでるぜ』との事だが、自分にも相当量の酒が注がれたのは気のせいだろうか。いや、飲み干した記憶があるから確実に――
「――っていうかさあ、霊夢や魔理沙も未成年じゃないのー?」
ああ違うか、魔理沙が言ったのは『私に酒を呑ませるからがんがん騒ぐぜ』という意味であって、つまりへべれけになったこの状況はまさに彼女の理想――
「この幻想郷に法など無いの。つまり、成年も未成年も無いという事よ。」
「そっかー、それなら何してもオッケーなのねー?」
「って、それは違う気がわああぁぁぁ!?」
「いいわよー、どんどん脱がしちゃえー♪」
「いや、止めろよ主人……。」
「姫が許可したなら私もいくわね……。」
「師匠までー!? ……ぅわ、ちょ、やめ、いや――!!」
「酒に何か入れた? 永琳まで壊れるなんて……。」
「……おい、これ、火を付けなくても発火するぞ。」
「90%を超えたらもはやただのアルコールですね、お嬢様。」
「相当参ってるようね、天才も。」
「ままま魔理沙っ! わ、わた、私達も……!」
「いっ!? お、お前も飲んだのか、これを!?」
「大丈夫! 私、こう見えても慣れてるからっ!!」
「何にだ――!? れ、霊夢、助けてくれ!」
「ん……まあ、いいんじゃない? 反対はしないわよ。」
「何で一人だけウーロン茶飲んでんだ――!!」
「酔い過ぎたら帰れないしね……妹紅、あっちで静かに飲みましょ。」
「おう。輝夜ー、程々にしとけよー。」
「はいはい。――本人がオッケーならそれで程々よね♪」
「ええ。……同意の上ならむしろ無かった事に……!」
「絶対違います――!! ……ってうわ! そ、それだけは勘弁して――!!!」
「さあ、完全なるマリス砲のために……!!」
「そのネーミング嫌だっつったのお前だろうが――!!!」
……ああ。そうよねぇ。
これこそが宴会よねぇ。馬鹿騒ぎよねぇ。
あー良い肌触り。やっぱり兎だけに耳を攻めないと失礼よね。うん。
「ひー!! い、郁未さ、そ、そこはダメですってば――!!!」
「嫌よ嫌よも好きの内♪」
「違ー! だ、誰か助けて――!!」
「うるせ――!!!」
ドゴオオォォォン!!!
「……あーあ、やっちゃった。」
「どうせ修理を手伝わされるんだろうなぁ……私のせいじゃないのに。」
「まあ、体を動かした方が気も晴れて良いんじゃない?」
「貴方は晴れ晴れし過ぎよ、咲夜。」
屋敷の一部が吹っ飛んだのを見つつ、静かに月見酒を愉しむ四人であった。
――ああ、今夜は三日月だったっけ。好きなのよね、あの形……。
◆
「……むぅ。トイレ……。」
ぶっ飛んでいた意識がようやく落ち着き、瓦礫に伏した身を起こす。
部屋であった空間は半分ごっそりと抉れており、恋の魔砲の威力を如実に物語っていた。
霊夢達が念のために結界を張っていなかったら、永遠亭ごと消し飛んでいたに違いない。
「凄いなぁ……これだけの力を持って、こんなに平和に暮らしてるなんて……。」
羨ましい。本心から、そう思う。
自分もこの世界で生まれていたら、どれだけ幸せだったろうかと想像してみるが、
「……今さら、よね。」
はぁ、とため息。
今日一日で色々な事があり、自分は強くもなったし、弱さを再認識する事も出来た。
身に、心に得た糧は一生の価値があるだろう。
だからこそ、
「――行くのね。」
隙間に腰掛けた境界の妖怪が、不意に横に現れた。
郁未は驚きもせず、ただ静かに頷くのみ。
「……いいの? 貴方にとってここは紛う事無き楽園よ。全てを知った事で人間部分は問題無く保てるでしょうけど、心は――」
「――大丈夫。もう壊れてるんだから、これ以上砕ける事なんて無いわ。」
自分でも本当に、自信に満ちた顔をしていると思う。
――そう、もうただの人として生きる事は不可能だろう。
他の人間に無いモノを持っている事は、紛れも無い事実なのだから。
けれど、そんな大層なものでなくとも、人は一人一人違う生き物なんだから、
――この忌まわしい『力』だって、単なる個性に過ぎないじゃない。
「極端な話、超能力者だって普段は普通の人間なんだから。……私みたいなのが一人居た所で、何の問題も無いと思うんだ。」
「…………。」
無言でこちらを見つめる、はぐれ者の妖怪。
――そうだ、はぐれ者だって良いじゃない。
自ら望んだにしろ、環境がそうしたにしろ、それがその人の人生なんだから。
――だったら、はぐれ者ははぐれ者なりに、生を謳歌してやろうじゃないか。
「だから帰るよ、私の生まれた場所へ。今は私……ううん、私『達』を見てくれる人は少ないけれど、それでも――待っててくれてると思うから、さ。」
「……そう。」
顔を扇子で隠し、目だけを覗かせる紫。その瞳の奥の色は見えないけれど、郁未には優しさが含まれている気がした。
「では、戻してあげましょう。私にとっては造作も無い事ですからね。」
「ありがとう。」
礼を述べる。それは目の前の彼女だけでなく、ここで出会った全ての人間や妖怪達、そしてここ幻想郷そのものに対しての、心からの感謝の意。
それが彼女には解ったのだろう、本当に優しい目でこちらを見つめ、
「本当に面白い子ね。そして……これからもっと面白くなるのかしら。」
閉じた扇子で虚空に線を引き、開いた空間の先には自分の住まう処。
電車で帰る手間まで省いてくれた紫にもう一度お辞儀をして、その隙間に飛び込んだ。
◆
気紛れな妖怪は最後にこう告げた。
「ねえ。もし、貴方が望むのならだけど――」
◆
「……あー、今日も平和だな。」
「そして暇ね。ま、暇でいいんだけど。」
「掃除しろよ。さっきから休憩ばっかりじゃないか。」
「だから、急いで終わらせる必要なんて無いじゃない。まだ花見には早いでしょう?」
「いや、宴会のためだけに綺麗にするのかよ……?」
雪解けの時期も過ぎ、もう間も無く桜が満開になろうかという頃。
人間界と幻想郷の境、両世界の等しく辺境に在る博麗神社は、相変わらずのんびりした空気に満ちていた。
今日も縁側でお茶を啜る霊夢を冷やかしに、魔理沙が顔を出していた。
「一回、陰陽玉を捨ててみろ。嫌でも忙しく動き回りたくなるぜ。」
「そんな事したら博麗の巫女じゃなくなるじゃない。余計神社から出なくなるわよ。」
「……何でサボる方向にしか考えが行かないんだ……。」
努力が大嫌いな巫女と、努力する事にも努力を重ねる魔法使い。
対極であるのに、何故に仲が良いのか不思議であった。
「――もう、二ヶ月か。」
ふと、思い出したように魔理沙が呟く。
霊夢は関心の無さそうな表情で、
「ああ、魔理沙が永遠亭を吹っ飛ばしてからね。もうそんなになるのか。」
「違う。いや、それも間違いじゃないが、私が言いたいのはそっちじゃない。」
あー、おほん、と間を取り直し、
「……あいつが帰ってから、って意味だ。」
「ああ、そうね。」
「そうね、って、お前なぁ……。」
あれだけ濃密な時間であったのに、この紅白にとっては既に他人事なのか。
……まあ、それほど密接に関わった訳ではないから、仕方の無い事かもしれないが。
「挨拶も無しで居なくなって……見送ったのは、隙間を開けた紫一人だけときたもんだ。あいつが迷い込んでからずっと近くに居た私にとっては、結構ショックだったんだぞ?」
「ふぅん……そうなんだ。」
と、霊夢が何故かしたり顔でこちらを見ている。……何だよ、何が言いたい。
「幻想郷一の遊び人が、一日だけしか居なかった彼女に惚れたの?」
「ぶっ!?」
飲みかけのお茶が変な所に入り、大きく咳き込む。
「げほっ、ごほっ……な、何言い出すんだ、お前はっ!」
「あら、図星みたいね。ちなみに、人間として認めた場合も惚れ込んだって言うのよね。」
「このやろ……。」
しかし事実なので、強く否定出来ない。
一旦湯飲みを置き、呼吸を落ち着けてから、魔理沙は俯き加減に口を開いた。
「……あいつ、危なっかしいからさ。心配なんだよ、私としては。こっちが気を配ってるつもりがあいつに気遣いされてるし、自分の事で手一杯な筈なのに相手の事ばっかり考えてさ。正直な所……私はあいつに何もしてやれなかったんじゃないか、って思うんだよ。」
「……ん。」
首肯した気配を感じ、先を促す合図と見て、続ける。
「多分、私と会わなくったって、あいつは一人でも輝夜の所に辿り着いて、自分の事を知ってさっさと向こうに戻ってたんじゃないか、って……考え出すときりが無いんだ。」
「…………。」
霊夢は何も言わない。その無言が自分には虚しく感じられて、
「せめて……一言聞きたかったぜ。私は――」
――お前の役に立てたのか? 郁未。
そう、口にしようとして。
「本当、お人好しよねぇ、魔理沙って。」
その言葉を聞きたかった相手が、目の前に立っているのを知った。
◆
「……郁未……!?」
はっとして顔を上げれば、あの時と同じ姿で、彼女が立っている。
はにかんだ笑顔でこちらを見る彼女は、ふふん、と勝ち誇った様子で、
「驚いた? 実はね、ちょっとした密約を――」
どふ。彼女の胸に遠慮無く飛び込む。
「ちょ、ちょっと、魔理沙? どうしたのよ……。」
こちらより背の高い彼女は、しかし前触れも無くぶつかって来た自分を優しく抱き留める。
「お前……何でここに?」
こんな格好で聞く事じゃないだろうとも思うが、体が勝手に動いてしまったのだから仕方ない。
彼女はえーとね、と前置きしつつ、こちらの身体を縁側に座らせる。
腰を落ち着けた事を確認し、腕を組みながら、こう言った。
「紫がね。帰り際にこう言ったのよ。」
――もし、貴方が望むのならだけど。
――驚かしついでに、時々遊びに来る気はない?
――それくらいなら、現実逃避にはならないと思うのだけど。
――むしろ、自分を再確認出来て、『貴方』にとってもプラスになる筈よ?
「……ってね。」
驚いたでしょ? などと言われるまでもなく、頭の中は沸騰している。
(あんにゃろ……だから、ここしばらく姿を見せなかったのか……。)
今度会ったらしばき倒す、と心に刻み、そこでふと気付いたように霊夢を睨む。
「まさか、お前も知ってたのか?」
「知ってるも何も……現場で聞いてたもの。」
咲夜とレミリアと妹紅もね、と離れて酒を酌み交わしていた連中の名前を指折りしつつ挙げた。
……という事は何か。まさか、知らないのは郁未と直接関わった奴らだけか?
「実は、魔理沙以外の皆とは会ってるのよ。次の次の日くらいまでには。」
「何ぃ!?」
本人の口から告げられた衝撃の事実に、魔理沙は驚愕を通り越して憤慨していた。
「何で黙ってたんだ! 私がどれだけお前を――」
「心配してくれてたんでしょ? ――さっきの話、全部聞いてたよ。」
「……な。」
ならどうして。自分の前にだけ、姿を見せなかったのか。
「――だって、何も言わずにいきなり姿消して、その翌日にやっほー、なんて気楽に顔出せる訳ないでしょ? ……あれだけ心配かけて、あんなに気遣ってくれたあなたには、さ。」
「――。」
つまり。それだけ自分との出会いを大事にしてくれたという事で。
「……初対面の人間に、あんなに熱くなって説教するような人の事を軽んじるなんて、――私には出来っこない。」
かつて涙を流した時と同じ、崩れそうな笑顔で、
「改めて言うよ。魔理沙、私を助けてくれて――本当に、ありがとう。」
そうだ。その言葉が聞きたかった。
別に褒められなくてもいい。鬱陶しかったでも、邪魔だったでも何でもいい。
ただ、自分が――霧雨 魔理沙という人間が、天沢 郁未という人とヒトの境界を彷徨っていた彼女にとって、どういう存在であったのか知りたかっただけなのだ。
そして、お礼を言ってもらったのなら、
「……いやいや、そんなの――」
自分らしく、不敵な笑みを浮かべて、こう応えなければいけないだろう。
「――礼を言われるほどのもんでもないぜ。」
◆
――そう、もう悪夢は覚めたのだ。
全てが夢であって欲しいと願った事で、悪夢は良い夢に変わり、そしてその幸せな夢からも目覚めた。
――そう、これからは全てが現実の事。
今までが夢であったのなら、その幻想だった部分をも取り返すくらい、現実で世界を塗り潰さなくてはいけない。
――だって、そうでしょ?
夢幻と夢想が行き着く所は、つまり。
――それすらも現実である事を認めなくてはいけない、夢が許されない世界なのだから。
~Fin~
――時が止まったように感じるから永遠亭。
……まあ、どっちも時は止まってるぞ、って言われたら終いな気もするけど。
だったら、幻想郷はどうして幻想郷?
夢幻と夢想の行き着く郷だから?
それはおかしいと思う。だって、夢も幻も妖怪も異星人もおかしな人間だって、
そこに居れば全て現実じゃないか。
本当の夢って言うのはね?
――叶わないからこそ、叶えようと願うからこそ、夢って言うのよ?
そう、良い例えで表すとね?
――叶わないと思ってた事が叶った所で目が覚めるなんて、最高の夢じゃない?
◆
「これはまた随分と……。」
我知らず、嘆声を漏らす郁未。
「私達にとっても広いし、少し持て余しているくらいなんですが……。」
やはり良い家ですよね、と言葉の続きを汲み取る鈴仙。
「…………。」
そんな二人に見向きもせず、無言で先を歩くてゐ。
古い日本の趣を色濃く残す永遠亭の廊下。明かりを極力取り込まない構造のため、全体が薄暗い屋敷の中を郁未はてゐに案内され、鈴仙の師匠が待つ大広間へと向かっていた。
「それにしても、兎ばっかりね。」
所々で顔を見せる姿は、てゐよりさらに小柄な白い姿ばかり。さすが月の民、小間使いまで兎とは恐れ入った。
「ほとんどが地上の兎ですし、人語を使える者となると相当珍しいですよ。」
「月の兎はどれくらい居るの?」
「私だけです。」
「……それ、ほとんどっていうか全部じゃないの?」
兎としてカウントしなければ。
「そうなんですよ。なので、私の言う事よりもてゐの命令の方が良く従うんです。私は地上の兎語は解りませんし。」
「……あなたの位置付けって、どうなってるの?」
「一応は兎達のリーダー、ですが……実質率いてるのはてゐですね。」
そんなんでいいのか、月の兎。誇りとかは無いのだろうか、と尋ねようとすると、
「……あのさ。」
今まで黙っていたてゐが不意に足を止め、振り向いた。……明らかに疑いの眼差しを向けて。
「まだ、私は貴方の事を信用した訳じゃないよ? 霊夢に逆らっても面倒だから入れただけ。」
「てゐ、貴方……。」
鈴仙が何か言おうとしたが、郁未は手で制し、
「いいのよ。――顔も見た事無い人をいきなり『信用する』って言われるより、よっぽどね。」
「……それだけは同意見ね。」
それきり、てゐはこちらを見ようとせず、ただ先を歩き続けた。
無言と足音だけがしばらく続き、この屋敷が静寂に満ちている事を改めて実感させられる。
(……このまま静かに終わればいいんだけど。)
そう願いつつも、郁未はどこかで荒事は避けられないのではないかと思いを抱いていた。
霊夢は『眼』にさえ気を付ければ危険は無いと言っていたが、妹紅の激情や先程までのてゐのうろたえ振りを見ていると、
(――鈴仙の師匠、永琳とやらは私を目の仇にしている筈。そんな人が素直に話に応じるかしら?)
自分の命が懸かっているというのに、つくづく冷静だな、と冷めた思考に支配され、
(……っと、いけないいけない。)
『眼』の色が無意識で変わりかけたのを慌てて抑える。
そう、自分からチャンスをみすみす捨てる訳にはいかない。最大限の努力をした上で、結果駄目だった時以外は『力』を使う必要は無いのだ。
うん、と小さく頷き、己の思考をクリアに。
ただ静かに、その時を待つ。
◆
「――っ!」
富士の花火が咲き乱れる中、魔理沙は長年の相棒である箒を駆り、出し抜くチャンスを窺っていた。
(くそ……早く追いつかないといけないってのに……!)
郁未は月人の思考回路の危なさを知らない。自らを仇と狙う相手を刺客として差し向けるような奴らだ。人の話を聞く耳があるかどうかという保証は無い。
(鈴仙が後ろから、って事は無いだろうが……輝夜の奴まで動いたら――。)
『月の頭脳』と『永遠と須臾の罪人』。この二人が相手では、いかに自分達の弾幕を凌いだ郁未――『虚空を穿つ朱月』とて勝ち目はあるまい。
だから、早く彼女に追いつかなければならないのに。
「どうしたぁ! いくらでも殺してみなさいよ!」
激しさを増す炎の弾幕。妹紅の怒りの如く噴き上がる、爆砕の烈華は壁のように行く手を阻む。
さらに、前回のようにただ立ち塞がるだけではなく、
「――それともそっちが死ぬかぁ!?」
「くっ……!」
炎の爪で切り裂こうと迫る鳳凰をすれすれでかわし、マジックミサイルを放つも、その爪で簡単に握り潰されてしまう。
積極的な攻撃に、堅実な防御と回避。今夜の妹紅の動きは、明らかに不死身であるという前提を無視していた。
そう、今日の戦いはどちらが倒れるか、という勝負ではない。
足止めを喰らっている時点で、こちらが負けているのは明白なのだ。
「ちょこまかと動くんじゃないっ!」
レミリアが放つ矢と蝙蝠は決定打として効果が薄く、
「くそ……不規則ですら読みきっているようね……。」
咲夜の変則的なナイフの動きの中にすらパターンを見出しつつあり、
「こんな事なら、アレを持って来るべきだったわ……!」
今さら無いものねだりで己の不覚を正当化するアリス。つーかお前はもっと捻れ。レーザーと人形以外に種は無いのか。
皆一様に後の事を考えているようで、スペルカードを発動しようという動きは見られない。
故に、拮抗状態は続く。
(このままじゃ埒があかん! 気乗りしないが、『アレ』をやるしかなさそうだぜ……!)
そう、満月の夜に気まぐれで決行した幻の秘技。あの技ならスペル無しでも充分な火力がある。
「おい、アリス!」
「何よ! ようやく『マスタースパーク』撃つ気になったの?」
「アレやるぞ、アレ!」
「アレって……まさか、あの安直なネーミングの!?」
「ネーミングセンスはどうでもいい! とにかくやるぞ!!」
「ちょ、ちょっと! ……もう、魔力の調整もせずに……!」
こちらが呪文を唱え始めたのを見て、慌てて下に付くアリス。
魔理沙達の動きを見て、他の三人もそれぞれの行動に出る。
「お嬢様、あれが例のアレですわ。サポートします。」
咲夜は二人に迫る弾幕の防御を引き受け、
「ふぅん……私もパチェかフランと合体符でも作ってみようかな。」
場違いな程のんびりな口調で、しかし俊敏に翔ける事で囮を務めるレミリア。
「何をやる気か知らないが……まとめて焼き尽くしてやる!!」
そして全ての動きを無視し、天翔ける鳳凰の両翼を具現したスペルを起動する妹紅。
決着のため、全てが動き出していた。
◆
「ここよ。」
そこまで見てきた中でも、一番立派な襖の前で、てゐは立ち止まった。
郁未と鈴仙も倣って足を止めると、てゐは半目を向け、
「私はここまで。後は二人だけでどうぞ。」
しれっと告げられた言葉に、焦ったのは鈴仙だ。
「ちょ、ちょっと、てゐは一緒に入らないの?」
「案内しろ、としか言われなかったもん。正直、鈴仙にも入って欲しくないよ。」
真剣な眼差しを向けられ、一歩を退く鈴仙。
(……心配してくれてるのね。私のせいで、鈴仙が傷付くんじゃないかって。)
そう心に呟き、郁未は二人の様子を見守る。
落ち着きを取り戻した鈴仙が、言葉を選ぶようにゆっくりと、
「……私は、一緒に行かないといけない。連れて来い、って言われた責任は果たさないといけないし、万が一の時に郁未さんを弁護する必要があるかもしれない。」
「赤の他人なのに? 私のフォローも満足に出来ないくせに、随分大口叩くじゃない。」
「……いくら悪ぶっても、本音を隠しきれてないよ、てゐ。」
微笑し、小さい素兎の頭を撫でる、月の兎。
その瞳は赤く妖しいけれど、確かに情愛の宿った優しい目だった。
「……知らないよ? 痛い目に遭っても。」
「もう慣れてるよ。――誰かさんのお陰でね。」
そう言って、でこピン。てゐは一瞬顔をしかめたが、すぐに無邪気な笑顔で、
「そうねー。じゃあ、私はこれで失礼。」
ぴょんぴょんと、跳ねるように去っていった。
「――いいの?」
二人になってから、確認するように郁未が問うと、
「……大丈夫です。ちゃんと、師匠に説明して見せますよ。」
ややぎこちない、しかし力のある笑顔で鈴仙は頷いた。
「……よろしい。では、――行くわよ。」
襖の丁度切れ目の真ん中に立ち、両手で一気に開ききった。
◆
そこは、本当の意味での和室であった。
洋式の要素が一切立ち入る隙の無い調度品。至る所にあしらわれた洗練された装飾。よく手入れされた美しい目の畳。
外に面していないため障子は無かったが、襖に囲まれたその空間は、まさしく日本の美の結晶であった。
そんな和の集大成とも言える部屋に、唯一場違いな存在が一つ。
赤と黒に真っ二つに分かれた服を、上下反対の色配置で着ている白髪の女性。
頭には、外の世界ではある意味時代錯誤的なナースキャップを戴いており、その色合いもやはり赤と黒。
なんとも目によろしくないその女性は、しかしこの場所に相応しい礼節でもって出迎えた。
机に隠れて見えないが、恐らく正座のまま頭を伏せ、
「ようこそ、永遠亭へ。私は当屋敷の主人に仕える薬師にして、そちらに居る鈴仙・優曇華院・イナバが師、八意 永琳と申します。」
どうぞお見知りおきを、と笑みの顔を上げた。
自然、こちらも身が引き締まり、
「……初めまして。私は天沢 郁未と言います。今日の昼にこちら……幻想郷に迷い込んだ、人間界の者です。」
ぺこり、と廊下に立ったまま一礼。ちなみに、両者の距離は30m程離れているが、お互い相手の顔はちゃんと認識出来ているようだ。こっちは見えてるし。
「ウドンゲ、貴方が紹介するのが先でしょう?」
と、永琳は笑顔のまま隣に立ったままの鈴仙を諌める。
「……あ、そうですね……すみません。」
頭を下げる弟子に、師匠は苦笑。
「まあいいわ。……こちらにどうぞ、郁未さん。」
「あ、はい。」
勧められるのに従って、郁未は彼女の前にある机まで歩いていく。
丁度対面に備えられた座布団に腰を落とし、鈴仙もその横に座った。
正座は慣れていないので、疲れる。が、これも我慢の内と割り切らなければ。
「さて、郁未さん?」
「はい。」
笑顔のままでこちらを見ている薬師に、敵意は感じられない。なので少しだけ緊張の表情を解く。
「貴方に来てもらった理由は……解るかしら?」
「……私が、月の民に関係があるから……でしょうか。」
レミリアと鈴仙の話を総合して、辿り着いていた推論を口にすると、正面の月人は満足そうな頷きを見せ、
「そうです。具体的な所までは解らないけど……貴方の中に眠る力の波動は、まさしく月の民が持つそれと酷似している。」
「やはり……そうなんですね。」
ようやく辿り着いた。それまで興味すらなかったけど、今はとても重要な、アイツの正体を知る事が出来る。
はやる気持ちを抑え、彼女の次の言葉を待った。しかし、
「そう。――もう、私達にとっては鬱陶しいだけの力。」
「――え?」
声色一つ変えず、場の空気だけを変える言の葉に、郁未が疑念を感じ、
「――っっ!?」
転瞬、場面はその形を変えて展開していた。
◆
「――しまった!?」
二人の姿が忽然と消えたのに、鈴仙は一瞬遅れて気付いた。
(やはり……師匠は彼女を……!)
予測はしていたが、こうもあっさりと出し抜かれた事に舌打ちしながら、対処を考える。
「……基本は、あの時と同じ筈。直に目にしていた私なら――。」
天文密葬法。天才を自認する永琳が『大した事は無い』と言い切る、至高の秘術。
(……綻びは、必ずある。封印術である以上、封を解くだけの隙間は用意されなければならない!)
狂いを生じさせる事に長けた『狂気の瞳』は、故に綻びを見つけ出し、それを調律するための力も宿している。
今こそがそれを発揮する時と見定め、鈴仙は己が全霊を賭けて師たる全能に挑む。
「私は……もう、逃げない!!」
未だ、過去と向き合う勇気は持てないけれど。
今から目を逸らさない度胸くらいは、自分にだってあるのだと信じて。
◆
「――準備は良い?」
「いつでも行けるぜ!」
普段からは想像もつかないほど息の合った応答。それを間近で見る奇術師は苦笑し、
「随分と仲が良い事で。パチュリー様とどっちが本命かしらね。」
「馬鹿に付き合ってる暇は無い! 行くぞ!!」
「ええ! ――上海、お願い!!」
絶妙な魔力のシンクロに、咲夜は思わず息を呑んだ。
(……これは、想像以上ね。)
両腕は休み無く動かしながら、大いなる力の胎動をしっかりと焼き付ける。
「「行っけぇ――!!!」」
そして、どこまでも真っ直ぐな赤の絨毯(スペクトルミステリー)を、寸分の狂い無く恋の欠片(スターダストミサイル)が駆け抜けて行く――。
◆
「んなっ……!?」
レミリアに強引に接近戦へと持ち込まれていた妹紅は、高速で向かってくる魔力の奔流に気付くのに遅れた。いや、警戒はしていたが、肉弾戦こそを本領とする紅い吸血姫の鬼神の如き猛攻の前には、他に気を遣る余裕など無かったのだ。
「くそ……反則だろそんなの!」
スペルの発動式を瞬時に変換し、本来は弾幕を放つ使い魔で自身を守る壁とするも、
「がっ……!!」
妖しきを貫く赤の光条によって集中力を欠き、
「ぐああああっっ!!!」
即座に叩き込まれた星屑の魔弾が使い魔ごと彼女の身体を吹き飛ばした。
「よっしゃあ! 直撃だぜ!」
「使い魔で威力は殺されたけど……すぐには再生出来ない筈よ!」
魔法使い二人は揃ってガッツポーズ。
「……大した反則奥義ね。」
言いつつも笑顔の咲夜は、
「――後は何とかしておくわ。」
時を止め、魔理沙を送り出す。
「ああ、任せるぜ!!」
黒い流星が一瞬で姿を消した事を確認し、再び時間を刻み出す。
「……さて、ようやく真面目にやれるわね。」
「さっきまでも充分真剣でしたよ? 私は。」
すんでの所で回避し、横につけたレミリアの言葉に、咲夜は苦笑。
「無駄話はその辺にしとくんだな!」
「「!」」
怒りに満ちた声に振り向けば、既に完全な姿でこちらを睨む妹紅が居た。
「早い……もう再生したのか?」
いつぞやの丑三つ時とは段違いの修復速度に、自身も再生能力を持つレミリアですら舌を巻いた。
「気の入りが違うって事だ。第一……お前らみたいに楽天家じゃないんだよ、私はなぁ!!」
叫び、妹紅の姿が掻き消えた。
「パゼスト……!」
時限制スペルの発動に備え、三人は構えるが、
「……え?」
攻撃が来ない。その事に不審を抱いた直後、
「狙うべき奴以外に用は無い!」
遠くから聞こえた鳳凰の声に、アリスは焦りを覚えた。
「――まさか、魔理沙を……!?」
彼女は今完全に背を向けてしまっている。高速である故にブレーキをかける瞬間は致命的に隙があり、
「うおっ!?」
くぐもった悲鳴が聞こえ、それが意味する事が何であるかを知る前に、
「魔理沙――!!」
アリスは叫んでいた。
◆
「――ここは……?」
自分が今居る場所が何であるのか、郁未は即座に理解出来なかった。
とりあえず足場に空気の床を置いて、辺りを見渡して見ると、
(え……宇宙!?)
満天の星空。いや、地に足が着いていないのだから、虚空を満たす銀河と言った方が正しいか。ともかく、そこは無限の宙(そら)そのものだった。
(あれ……でも、何で呼吸が――)
当然の疑問を抱くのも束の間、
「それは、ここが偽りの宙(そら)だからよ。」
「!?」
声に慌てて振り向くと、そこには。
「……八意、永琳……。」
己をこの空間に引きずり込んだ張本人の姿があった。
いつの間にか手に弓を携えた彼女は、先程とは違う底知れぬ雰囲気を纏っており、容易には触れ難い存在のように感じられた。
(……っ!)
そこから生まれるプレッシャーという『空気』を能力で抑え込み、何とか己を保つ。
「ふふふ、どうやら本人ではなさそうね。まあ、そんな事は会う前から解っていたんだけど。」
微笑しながらの台詞に、郁未は思わず息を呑む。
「……あなたは、私の何を知っているの。」
「貴方の事なんか知らないわよ。私が知っているのは、貴方の中の『貴方』。」
「っ! そこまで……。」
知っているの、という言葉すら出ない。それだけ目の前に居る女性は圧倒的な存在感を持っていた。
こちらが身動きを取れない事が滑稽なのだろう、永琳はクスクスと笑いながら、
「さて。――貴方、どこまで聞いたかしら? そして、――どこでそうなったの?」
「……答えない、って言ったら?」
どう答えた所で『結果』は同じだろう。だから敢えて強気に出てみるが、
「……無駄よ。私が『識れ』ない事なんて無いのだから。」
「!?」
いつの間にか目の前に立っていた彼女に、思わず、
「――っ!!」
『眼』の色を変えていた。だが、
「遅い。」
「むぐっ!?」
目にも止まらぬ速度で『何か』を口に叩き込まれたと気付いた瞬間、
――郁未は、落ちていた。
◆
「くそ……どこにあるの、綻びは……!」
『狂気の眼』で部屋全体を見回すも、それらしきものが見つからない。
時間だけが過ぎる事に、鈴仙は焦りを感じていた。
(やはり師匠には敵わないの……? 私のような未熟者では、どだい無理な――)
「鈴仙!」
その時、不意に襖が開き、てゐが入って来た。
「てゐ!? どうして……。」
「輝夜が部屋から出て来るよ!」
「――姫が!?」
てゐが輝夜を呼び捨てにするのはいつもの事なのでもはや咎めず、告げられた事実のみを確認する。
「どうして姫が? もう夜なんだし眠ってる筈じゃあ……。」
「『ふて腐れるのも飽きたから、ちょっと暴れてこようかな』って兎達が聞いたって!」
「……こんな時に……!」
つくづく間というものを知らない御仁だ。というかその気になれば部屋の中からでも外の様子は解る筈なのだから、最初から出て来てくれていればこんな騒ぎにはなっていないものを。
などと今さら愚痴っていても仕方が無い。とにかくこの状況を脱する方法を――
「――そうだ、てゐ!」
「何?」
目の前の素兎が持つ能力を思い出し、鈴仙は発案する。
「郁未さんに幸運を分けてあげて! そうすれば、私の力だけでも封印の緩みを見つけられるかもしれない!」
「えー? それ、本気で言ってる?」
半目でこちらを見るてゐの文句も気にせず、捲し立てる。
「このままだと、師匠自身の手で幻想郷が滅ぶ可能性だってあるの! 師匠や貴方は知らないだろうけど、彼女の能力は……!」
極限状態に追い込まれた時にこそ、暴走の危険性が生まれる。
見ず知らずの場所に迷い込み、見ず知らずの相手に誘われるという異常事態から生まれた突発的な行為であったのだと、自身が体験した恐怖から鈴仙は感じ取っていた。
そして、そこで抱いた思いが彼女に傷を与えてしまった事を謝るためにも、
「お願い、てゐ! 彼女を助けて!!」
「…………。」
じっと。偽り無き本心の瞳で虚言の申し子を見つめる。
そして、
「……しょうがないなぁ。」
やれやれ、というジェスチャーを見せたてゐは苦笑を浮かべ、
「――後で謝るのは、鈴仙一人だよ?」
「てゐ! ありがとう!」
小さな手を握り、感謝の意を露わにする。
それにてゐは照れたような笑みでこちらを見上げ、
「……ま、同じ兎仲間だしね。」
相変わらずの減らず口も、今は頼もしく聞こえた。
◆
意識の闇に落ちた郁未は、己の記憶の闇を彷徨っていた。
(――く。もう今さら、見ても壊れやしないけど……。)
それでも、辛い事に違いは無い。彼女が歩んできた道程は、やはり想像を絶していた。
(はぁ……我ながら、もうちょっと落ち着けって言いたくなるわね……。)
魔理沙達に語ったのはほんの一片。自身が経験したものだけでないおぞましい記憶が、鮮やかに甦っては砂のように消えていく。
(つくづく、何で私が選ばれたのか……疑問するまでも無く解る気がするなぁ。)
一度母と別れた時から、『天沢 郁未』は人間ではないモノに成り下がってしまった。今さらながらその事を痛感しつつも、もはや達観してそれを受け入れてしまえる自分が居る。
(つまりは、最初から私以外に適格者は居なかったんだ。アイツやアレからすれば、葉子さんですら不良品に過ぎない。)
自我に焦がれられるだけ、まだ彼女は人に戻れるチャンスがあった。事実、今はそうして生きている筈だ。
(アイツは解ってたんだろうな。たとえ自分が受け継がせようとそうしなかろうと、私が私だけで居られる筈が無いんだって事が。)
そう。踏み入れた時点で、いや生まれた時からもう手遅れだったのよ、『私』達は。
(まあもうそれはいいや。諦めた。降参ですよ、ええ。)
それでも自覚しなければ、生きていけたかもね。ギリギリ、ヒトとしては。
(それなら壊れる方が幾分マシよ。――って、そういう方向に持っていかないでよ。凹むなぁ……。)
今のは自爆だと思うけど。――さて、本題ね。
(うん。)
――貴女は、アレとアイツが同一だっていうのは気付いてた?
(気付くも何も、今の私達の関係そのものじゃない、アイツらは。)
相変わらず聡明ね。まあ、それは『私』もだけど。
(うわ、その自画自賛最悪っ!)
あはは。で、つまりはどういう事か解るわよね?
(……要は、最初から私の中に『力』はあったんだ。いや、私だけでなく、アレが選んだ人間全ての中に。……勿論、欠片程度だろうけど。)
という事は?
(――アレは、表から自分の存在を消す事で、器だけを輪廻させていたのね。で、私がアレの本来の身体そのものだったと。)
正解。――良ければ、彼と変わってもいいけど……。
(ヤ・ダ。どうせ教えてくれないもの、肝心な事は。)
そうね。じゃあ『私』から説明するわ。
目が覚めたら目の前に居る月の頭脳。彼女が殺しそびれた使者の生き残りが、アレの正体よ。
(やっぱり月人だったんだ……で、分離したのは『器』のためね?)
飲み込みが早くて助かるわ。彼女にこっぴどくやられた身体はもう使えなかったから、一旦仮初めの肉体に力を移して、魂であり思念体としての『月』だけを残して、闇に潜んだの。魂まで廻すと記憶や知識の情報が劣化するから、取り出して自分を保っていたのね。
(でも、経年劣化は避けられないんじゃあ……。)
命が永いとは言っても、それは明白ね。だから万が一のために仮初めの肉体にも『空気』の供給を絶った魂を残しておいた。でも、偽の身体に偽の心、その上息も出来ず成長もしない筈だった人形が、自我を持ってしまったのね。
(ふーん……何となく、アリス辺りに聞かせたら飛びつきそうな話ね。)
事実飛びつくわよ。――まあ、その後は貴女も知ってる通りの彼と、ただゆっくりと枯れていくだけの『心』が残った。もう、『心』に月の民だった頃の記憶なんて欠片も残っていなかったでしょうね。
(……成る程。で、千年の時が流れて、満を持して現れた『器』に返り討ち、と。)
彼としてはそれでもアウトだったんじゃないかしら? いつ壊れるかも解らないんだから。
(――てか、あんたがアイツそのものでしょうが。)
まあ、ね。――さて、『久しぶり』だね、郁未。
(うん。――人の顔借りなきゃ肝心要の事を喋れんのかアンタはっ!!)
うわ……相変わらず血圧高いね。ちゃんとカルシウム取ってる?
(ゴメン訂正。――自分の顔だと本当の事しか喋らないのね、アンタは。)
さっきの説明も嘘じゃないけど?
(はいはい。……そうか、ずっと守ってくれてたんだ。)
うん。今日だけで何回僕が頑張ったか解る?
(恩着せようったってそうはいかないわよ。アンタの責任なんだからね、全部。)
相変わらずで何より。君を信じた甲斐があったね。
(ありがと。……ついでに自分で説得しなさいよ。)
それは無理だね。でも、粘っていればいつかは解決するよ。
(ここまで来て他力本願? アンタも相変わらずねぇ……。)
最高の褒め言葉だね。――さて、それじゃあ僕まで『視』られる前に起きなよ、郁未。
(了解。――あ、最後に一つ聞いていい?)
何? 僕が郁未を好きかどうかって事?
(そんな解りきった事じゃなくて。――あのね……。)
――私達、まだ人として居られるかな?
◆
「――っ!」
急激な意識の覚醒。突き飛ばされたような錯覚を得た郁未が目を開ければ、
「――成る程ね。貴方は、そのものではないけどそのものに等しいという訳か。」
空間に引きずり込まれた時と同じ位置関係で、自分達は居た。
天才の薬師は微笑のままで、
「胡蝶夢丸、ナイトメア。悪夢を見せる筈の秘薬さえも、貴方にとっては快楽を与えたに過ぎないようね。」
「……余計なお世話よ。」
確かに、自分が笑顔である事を自覚しているけど、改めて指摘されると何だか腹が立つ。
彼女の口振りとアイツの言葉から察するに、『月の頭脳』の二つ名の通り、こちらの脳で展開していた夢を覗き見たのだろう。アレにも似たような事をされたし。
「……解ったでしょ? 私はあなた達を連れ戻しに来た訳でもないし、この世界を壊す気なんて毛頭無い。ただ、自分が何者なのか知りたかっただけよ。」
それでいいでしょ? と矛を収める事を求めたが、永琳は首を横に振り、
「いいえ。例え今はそうであったとしても、これから貴方が狂わない保証なんてどこにも無い。だから――」
弓の弦を引き、
「――ここで消えてもらうわ。」
叡智そのものを具現し、一切の油断無き弾幕を放った。
◆
「……っ!」
妹紅の使い魔の壁に道を阻まれた魔理沙は、背後から迫る絶命の一撃を覚悟した。
(……やれやれ。こんな事なら、『ブレイジングスター』で突っ込んどけば良かったぜ。)
らしくない後悔をしながらも、潔く身を委ねる。が、
「……あれ?」
いつまで待っても紅蓮の凶爪が来ない事に疑問を抱き、ふと後ろを見てみると、
「く……そ! 何で邪魔をする、霊夢っ!!」
幾重の結界に絡め取られた、囚われの朱雀が激昂するのが見て取れた。
「何……?」
もう一度後ろを振り返ってみれば、そこには。
「これで貸し一つよ。……返さなくてもいいけど。」
いつもの面倒臭そうな顔でこちらを見る、紅白の巫女が宙にたゆたっていた。
「れ、霊夢? 何でこんな所に……?」
「ああ、さっきからずっと永遠亭に居たわよ。今回の原因が原因じゃないのを見届けたから、頭に血が上ってる馬鹿を止めに来たの。」
「誰が馬鹿だとぉ!?」
身動きが取れなくなっても、やはり激情家。先程以上の気迫で睨む妹紅の視線を霊夢は軽く受け流し、
「あんたしか居ないでしょうが。彼女はただの人間よ、月の民じゃないわ。」
「あの『眼』が普通の人間だって言うのか!? そんな事――」
「人の話を聞け。」
指の一振りでさらに強く縛り上げ、ぐああ、と妹紅が呻くのも意に介さず、
「レミリア。あんたは解ってるわよね?」
「当然。最初からパチェが見てたからね。」
追いついて来たレミリアがしれっと言った台詞に、赤面する者が二人。
「な……じゃ、じゃあ、私が土下座したのも……。」
「私が無様に倒れたのも!?」
「勿論、全部。」
うあああ、とシンクロ悶えを見せる魔法使い達を無視し、咲夜は冷静に、
「そうか、珍しく先回りしてたのね、霊夢。」
「紫の手引きがあったのよ。アイツから言ってくるくらいだから永遠亭しか心当たりが無くてね。」
「つまり、いつも通り行き当たりばったりか。」
「まあ、そういう事。」
「……そこは否定しろよ。」
「「時間の無駄。」」
「そこでハモるか。」
しかも巫女と吸血鬼が。
「でも、どうして郁未を追いかけなかったの? そうすればもっと穏便に事は進んだ筈よ。」
「一番物騒だったお前が言うのか、それを。」
「あ、あれは魔理沙が汚れてたせいで……。」
「はいはい、論点がズレてる。魔理沙と会ってるのは確実だと思ったし、ルーミアを迎撃したくらいだから、どのみち面倒は起きるだろうと思ったからね。」
「体の良い言い訳ね。」
「……咲夜、貴方は人の事を言えないでしょう。」
確かに。問答無用で一触即発だったし。
「とにかく、こいつはふん縛っておくから、あんたは郁未を見てきなさい。こういう時こそ甲斐性有り余った魔理沙の出番よ。」
「甲斐性は余るとかそんなもんじゃない、ってかどういう意味だ。」
「……自覚無いの? 魔理沙。」
何でそこでため息を吐く。……おいこら、他の皆まで。
「まあいいから。足は二番だけど手は一番早い魔理沙にピッタリの仕事よ。」
「――後で覚えとけよ、お前。」
……いや訂正。一緒に頷いてる三人も。
「それじゃ、一発かまして来るぜ!」
箒に跨り直し、魔理沙は一直線に永遠亭へと向かった。
◆
――その弾幕は、まさに網目の如く広がる人類の系譜。
「くぉ……凄まじいわね、これは……。」
無数の光糸の隙間に身を滑り込ませ、人を外れしヒトは呟く。
紅い吸血鬼の針山地獄も相当なものであったが、加減を知らないこの攻撃に比べれば、
「いや、比較する事自体間違いか……。」
ギリギリでかわさなければあっという間に細切れだ。あくまでもこちらの絶命だけを狙う『ごっこ』でない弾幕が、休み無く展開されていた。
郁未の瞳は黒のまま。薬を飲まされる直前以外、彼女が『彼女』に変わる事は無かった。
(だって、それは彼女の言葉を認める事になるから――!)
『朱月』を引き出さなくとも、最低限の能力行使は出来る。精神と体力の両面において、『眼』の色を変えることは許されなかった。
何より、人のまま彼女の攻撃を凌ぐ事が、
(私に敵意の無い、何よりの証拠となる筈。……だと、思うんだけどなぁ……。)
深く考えると、その時点で既に人間を超えてる気がするのだが、まあそれと攻撃の意思が無い事とはまた別の話だ。
(……早く誰か助けてー……。)
彼の言葉を信じ、他者の介入で現状が解消される事を望むのみであった。まあ別に弱気じゃないが。
◆
「くっ……やはり、初めから私が出向くべきだったわね……!」
己の最高クラスのスペルがいとも簡単に回避されている事に、永琳は舌打ちした。
そう、彼女がまだ迷い込んですぐの時に攻撃を仕掛けていれば。
宵闇との接触が回避出来なくても、せめて人形遣いの家に着くまでに自分自身を刺客として仕向けておけば、確実に仕留められただろうに。
(本当に……この世界は私の思い通りにならない……!)
郁未がここに辿り着くまでに出会った者達。それは偶然や奇跡などという安っぽい言葉で片付けられないほど、あまりに出来すぎた面子と綺麗すぎる順番。
その巡り合わせすら、幻想郷という現実離れした異界の為せる業だというのか。
「そんな事――絶対に認めない!!」
天才の誇りに賭けて、奇跡という計算違い(ミス)を塗り潰す。
――もはや、主人の力を超える事すら厭わず。
◆
「……っ!?」
郁未は悟った。今まで光芒が走る場所に感じられた『通る』という空気、それが一瞬で倍加した事を。
「ちょっ……初心者に二重スペルとかあり!?」
今までの網目すらギリギリの幅だ。それが単純に半分になれば――。
(……止むを得ないかっ――!)
力を引き出さなければ防ぎようが無い。諦めかけたその時。
「――そこまでよ、永琳。」
「「!?」」
自分の背後から響いた凛と通る声に振り向けば、
「――姫様!?」
その呼び名に相応しい貴人が、にこにこ顔で自分達を見ていた――。
◆
「久しぶりに本気を見せたわね。いつもなら絶対にそんな事しないのに。」
ふふ、と上品な仕草で微笑む、姫と呼ばれた女性。
――その姿、まさに貴族。
反則的に艶めいた黒髪を肩に撫で流し、女でも見惚れるほどの――むしろ彫刻みたいに出来すぎた顔立ち。そのお召し物も、死ぬほど肌触りの良さそうな高級仕立ての着物。
一瞬で、レミリアと違う意味で『ああこりゃ敵わん』と思わせる出で立ちの彼女は、どこから見ても純和風のお姫様だった。
「……あなたが、かぐや姫……?」
聞くまでも無く解っている事を敢えて尋ねてみると、姫様はやはり微笑んで、
「そうよ。私が蓬莱山 輝夜。ここの主人よ。」
よろしくね、と手を差し伸べられる。
あ、どうも、と勢いのまま握手を交わすと、
「姫様! 何を仲良くしているのですか!! 彼女は――」
「いや、私からすれば貴方がそこまでする理由が解らないのだけど。」
手を離した姫――輝夜は、己の従者にして友人をやんわりと諭す。
「あの狡猾なイナバが臆病なイナバを助けたのよ? それがどういう意味か、賢い貴方ならすぐに解る筈じゃないの。」
「……てゐが?」
既に攻撃を止めていた永琳が、驚きを見せた。
その反応を快く感じたのだろう、輝夜はさらに笑みを深くし、
「主人である私の命令ですらろくに従わないようなあの子がよ? 私に心底仕えている貴方が、刃を引く価値は充分にあると思わない?」
「……それは……。」
まだ納得が行かないのだろう、猜疑を含んだ目でこちらを睨む永琳に対し、
「――そう。私に逆らうというのね、永琳。」
笑みのまま。しかし、
(……!?)
その黒瞳だけは、どうしようもなく狂いきった色に見えて。
地に堕ちた月の姫は、壊れた笑顔で月の頭脳を睨んでいた。
「――! いえ、そんな事は、決して……!」
「なら、いいのよ。」
ふふ、と。もう何の違和感も無く、輝夜は微笑んでいた。
◆
「ごめんなさいね。色々と迷惑をかけてしまったようで。」
「いや、まあ私も悪くないとは言い切れませんし。それに、永琳さんがあなたのためを思って黙っていた気持ちも解りますから。」
「そう? 良かったわ、少ないお客さんに嫌われたら困るものね。」
「少ないのは引き篭もってるからだろ?」
「というか、それが大部分ですけどね……。あ、お茶ここに置いておきますね。」
「もがー!!」
「あー、疲れた。魔理沙も役に立たないわねぇ。」
「既に終わってた場合も役立たずっていうの……?」
「役に立たなければ役立たず、よ。」
「少しは自分を省みなさい、咲夜。」
大広間には、関係者全員(てゐと永琳は除く)が集まっていた。
郁未を巡る一連の事件が一応の解決を見せた事で、皆の空気は緩みきっていた。
で、永遠亭側からのお詫びも兼ねて、全員で夕食会に参加する事になったのだ。
幻想郷ではこんな風に会食(むしろ宴会らしいが)する事は珍しくないそうだ。文明とはかけ離れた(言い過ぎか)生活を送っている事を考えれば、これも立派な娯楽の一つなのだろう。
料理が運ばれてくるのを待ちながら、皆好き勝手に喋りまくっている。
「もう少しで出来ますから、待っていて下さいね。」
ブレザーにエプロンという異色の組み合わせで準備を進める鈴仙が部屋を離れると、輝夜がにこにこ顔で、
「うーん、それにしてもあの子が永琳に逆らうなんてねぇ。随分頑張ったものね。」
「それはやっぱり……私のカリスマ?」
「お嬢様の前でカリスマとは良い度胸ね。」
「良いのよ咲夜、郁未が言ってるのは人望の方だから。」
「自分で人望が無いって認めるのはどうかと思う。」
「いや、いい心掛けじゃないか。」
「アンタは逆に色々削るべきね。特に甲斐性。」
アリスのジト目に、魔理沙は思い出したように眉を立て、
「だから、何で私と甲斐性が関係あるんだ。」
「大有りだと思うんだけど……っていうか、本気で言ってるの、それ?」
「大マジだ。」
「……重症よねぇ。」
「同感。」
「だから何でお前らが同意見なんだ。」
「私もー。」
「お前にだけは言われたくないぞ、郁未。」
「私は身体だけだもーん。」
「……もっと最悪ね。」
「もがが――!!」
そういえば、さっきから気になってたのだが、
「いい加減解いてあげたら?」
あらゆる意味でがんじ絡めにされ、簀巻き状態の妹紅を見て、そう言うと、
「いいのよ。私の言う事ならともかく、永琳の嘘を鵜呑みにした罰。」
「もが……ぐ。」
「あ、大人しくなった。」
「一応反省してるみたいだぜ? もういいんじゃないか。」
「そうねぇ……もう暴れない?」
「んー!」コクコク!!
激しく頷く彼女の様子に、霊夢はようやく手に持っていたお札を離し、
「はい。……後は自力でも大丈夫でしょ。」
「ん……だぁ!!」
ボゥン!!
妹紅の身が瞬時に燃え上がり、自由を奪っていた呪符やら縄やらが一瞬で燃え尽きた。
「おー、脱出手品。」
ぱちぱちと手を叩く間に、妹紅は身を起こし、
「くぁー……体中がギシギシ言ってるわ……。」
「オジン臭い(ボソッ)」
「あんたにだけは言われたくないわぁぁ!!」
「「こら。」」
霊夢と一緒に睨むと、ぐぅ、と唸って腰を落ち着けた。あ、また眼が朱いな、今。
「まあ、一応全員が納得した所で。」
「無理やりだな。」
「水を差さない。――取り敢えず今回も落ち着いたし、現状で憂うべき事は無くなったわね。一日で片が付いて良かったわ。」
「お前はほとんど何もしてない気が……。」
するんだが、という言葉は呑み込まれた。――御札取り出すの早っ!
「まあそういう訳で、――紫? 居るんでしょ?」
「お呼びかしら?」
聞き覚えのある声が、虚空から響いた。
(――この声、確か……。)
記憶を手繰り終える前に、声の主は突如その姿を現した。
◆
それは、今まで会った人妖の中でもとびきりの怪しさを醸し出していた。
まず、服装からしてもうヤバイ。
永琳以上に目に悪いド派手な色使いの……偉いお坊さんとかが着るような、そんな感じの服。
そして、奇妙な帽子から覗く、リボンがいっぱい付いた金の長髪。
極めつけは、輝夜に負けず劣らずの美貌ときたもんだ。
こんなイカレた女性に声をかけられたら間違い無く逃げる。絶対。
などと、初対面にも拘らず失礼な思考に支配された頭に、
「おやおや、随分と立派な面構えになったわね。」
彼女の声が響いた瞬間、郁未は思い出していた。
「――あなた、迷い込んだ時に近くに居たわよね。」
「あら、覚えていてくれたのね。光栄ですわ。」
うふふ、と胡散臭さ全開の笑顔を見せる美女。
その会話に反応を見せたのは、彼女を呼んだ当の本人だ。
「――ちょっと、聞き捨てならない話なんだけど、それ。」
不審そうに眉をひそめた霊夢が問い質すと、美女は手に持った扇子で顔を隠しながら、
「何が? 私はただ事実を述べただけよ? 朝も今も。」
「最初から見てるだろうとは思ってたけど……まさか、あんたが連れ込んだんじゃないでしょうね。」
霊夢の台詞に、全員が突然の来客に注視を向けた。
特に、輝夜は最大の当事者だけにドギツイ半目を送っているが、それすら美女は気にせず、
「まさか。魔理沙が言った通りよ。彼女は自分からここに入り込んだの。」
嘘じゃないわよ? と全然信用出来ない笑みを見せる彼女に対し、名前を呼ばれた魔理沙が頷きながら、
「……そうだよな。お前が犯人なら輝夜も敵になる筈だ。そうでないんだから、お前にとっても今回のは不測の出来事だったんだろう?」
「そうそう。さすが魔理沙、今回の一番の功労者ね。」
「ははは、当然だ。」
「……まあ、それもそうよねぇ。」
当事者二人があっさり納得したので、取り敢えず緊張は解ける。
「――あ、そう。」
毒気を抜かれてしまい、手持ち無沙汰になった霊夢は(やはりいつの間にか出した)針を仕舞い、えーと、と前置きした後、
「……紹介がまだだったわね。こいつは八雲 紫。見てくれはこんなだけど立派な妖怪よ。」
郁未の方に向き直り、闖入者の身分を告げた。
◆
料理(と酒)が運び込まれた後は、まさにどんちゃん騒ぎとなった。
魔理沙曰く、『お前が酒を呑めたらもっと騒いでるぜ』との事だが、自分にも相当量の酒が注がれたのは気のせいだろうか。いや、飲み干した記憶があるから確実に――
「――っていうかさあ、霊夢や魔理沙も未成年じゃないのー?」
ああ違うか、魔理沙が言ったのは『私に酒を呑ませるからがんがん騒ぐぜ』という意味であって、つまりへべれけになったこの状況はまさに彼女の理想――
「この幻想郷に法など無いの。つまり、成年も未成年も無いという事よ。」
「そっかー、それなら何してもオッケーなのねー?」
「って、それは違う気がわああぁぁぁ!?」
「いいわよー、どんどん脱がしちゃえー♪」
「いや、止めろよ主人……。」
「姫が許可したなら私もいくわね……。」
「師匠までー!? ……ぅわ、ちょ、やめ、いや――!!」
「酒に何か入れた? 永琳まで壊れるなんて……。」
「……おい、これ、火を付けなくても発火するぞ。」
「90%を超えたらもはやただのアルコールですね、お嬢様。」
「相当参ってるようね、天才も。」
「ままま魔理沙っ! わ、わた、私達も……!」
「いっ!? お、お前も飲んだのか、これを!?」
「大丈夫! 私、こう見えても慣れてるからっ!!」
「何にだ――!? れ、霊夢、助けてくれ!」
「ん……まあ、いいんじゃない? 反対はしないわよ。」
「何で一人だけウーロン茶飲んでんだ――!!」
「酔い過ぎたら帰れないしね……妹紅、あっちで静かに飲みましょ。」
「おう。輝夜ー、程々にしとけよー。」
「はいはい。――本人がオッケーならそれで程々よね♪」
「ええ。……同意の上ならむしろ無かった事に……!」
「絶対違います――!! ……ってうわ! そ、それだけは勘弁して――!!!」
「さあ、完全なるマリス砲のために……!!」
「そのネーミング嫌だっつったのお前だろうが――!!!」
……ああ。そうよねぇ。
これこそが宴会よねぇ。馬鹿騒ぎよねぇ。
あー良い肌触り。やっぱり兎だけに耳を攻めないと失礼よね。うん。
「ひー!! い、郁未さ、そ、そこはダメですってば――!!!」
「嫌よ嫌よも好きの内♪」
「違ー! だ、誰か助けて――!!」
「うるせ――!!!」
ドゴオオォォォン!!!
「……あーあ、やっちゃった。」
「どうせ修理を手伝わされるんだろうなぁ……私のせいじゃないのに。」
「まあ、体を動かした方が気も晴れて良いんじゃない?」
「貴方は晴れ晴れし過ぎよ、咲夜。」
屋敷の一部が吹っ飛んだのを見つつ、静かに月見酒を愉しむ四人であった。
――ああ、今夜は三日月だったっけ。好きなのよね、あの形……。
◆
「……むぅ。トイレ……。」
ぶっ飛んでいた意識がようやく落ち着き、瓦礫に伏した身を起こす。
部屋であった空間は半分ごっそりと抉れており、恋の魔砲の威力を如実に物語っていた。
霊夢達が念のために結界を張っていなかったら、永遠亭ごと消し飛んでいたに違いない。
「凄いなぁ……これだけの力を持って、こんなに平和に暮らしてるなんて……。」
羨ましい。本心から、そう思う。
自分もこの世界で生まれていたら、どれだけ幸せだったろうかと想像してみるが、
「……今さら、よね。」
はぁ、とため息。
今日一日で色々な事があり、自分は強くもなったし、弱さを再認識する事も出来た。
身に、心に得た糧は一生の価値があるだろう。
だからこそ、
「――行くのね。」
隙間に腰掛けた境界の妖怪が、不意に横に現れた。
郁未は驚きもせず、ただ静かに頷くのみ。
「……いいの? 貴方にとってここは紛う事無き楽園よ。全てを知った事で人間部分は問題無く保てるでしょうけど、心は――」
「――大丈夫。もう壊れてるんだから、これ以上砕ける事なんて無いわ。」
自分でも本当に、自信に満ちた顔をしていると思う。
――そう、もうただの人として生きる事は不可能だろう。
他の人間に無いモノを持っている事は、紛れも無い事実なのだから。
けれど、そんな大層なものでなくとも、人は一人一人違う生き物なんだから、
――この忌まわしい『力』だって、単なる個性に過ぎないじゃない。
「極端な話、超能力者だって普段は普通の人間なんだから。……私みたいなのが一人居た所で、何の問題も無いと思うんだ。」
「…………。」
無言でこちらを見つめる、はぐれ者の妖怪。
――そうだ、はぐれ者だって良いじゃない。
自ら望んだにしろ、環境がそうしたにしろ、それがその人の人生なんだから。
――だったら、はぐれ者ははぐれ者なりに、生を謳歌してやろうじゃないか。
「だから帰るよ、私の生まれた場所へ。今は私……ううん、私『達』を見てくれる人は少ないけれど、それでも――待っててくれてると思うから、さ。」
「……そう。」
顔を扇子で隠し、目だけを覗かせる紫。その瞳の奥の色は見えないけれど、郁未には優しさが含まれている気がした。
「では、戻してあげましょう。私にとっては造作も無い事ですからね。」
「ありがとう。」
礼を述べる。それは目の前の彼女だけでなく、ここで出会った全ての人間や妖怪達、そしてここ幻想郷そのものに対しての、心からの感謝の意。
それが彼女には解ったのだろう、本当に優しい目でこちらを見つめ、
「本当に面白い子ね。そして……これからもっと面白くなるのかしら。」
閉じた扇子で虚空に線を引き、開いた空間の先には自分の住まう処。
電車で帰る手間まで省いてくれた紫にもう一度お辞儀をして、その隙間に飛び込んだ。
◆
気紛れな妖怪は最後にこう告げた。
「ねえ。もし、貴方が望むのならだけど――」
◆
「……あー、今日も平和だな。」
「そして暇ね。ま、暇でいいんだけど。」
「掃除しろよ。さっきから休憩ばっかりじゃないか。」
「だから、急いで終わらせる必要なんて無いじゃない。まだ花見には早いでしょう?」
「いや、宴会のためだけに綺麗にするのかよ……?」
雪解けの時期も過ぎ、もう間も無く桜が満開になろうかという頃。
人間界と幻想郷の境、両世界の等しく辺境に在る博麗神社は、相変わらずのんびりした空気に満ちていた。
今日も縁側でお茶を啜る霊夢を冷やかしに、魔理沙が顔を出していた。
「一回、陰陽玉を捨ててみろ。嫌でも忙しく動き回りたくなるぜ。」
「そんな事したら博麗の巫女じゃなくなるじゃない。余計神社から出なくなるわよ。」
「……何でサボる方向にしか考えが行かないんだ……。」
努力が大嫌いな巫女と、努力する事にも努力を重ねる魔法使い。
対極であるのに、何故に仲が良いのか不思議であった。
「――もう、二ヶ月か。」
ふと、思い出したように魔理沙が呟く。
霊夢は関心の無さそうな表情で、
「ああ、魔理沙が永遠亭を吹っ飛ばしてからね。もうそんなになるのか。」
「違う。いや、それも間違いじゃないが、私が言いたいのはそっちじゃない。」
あー、おほん、と間を取り直し、
「……あいつが帰ってから、って意味だ。」
「ああ、そうね。」
「そうね、って、お前なぁ……。」
あれだけ濃密な時間であったのに、この紅白にとっては既に他人事なのか。
……まあ、それほど密接に関わった訳ではないから、仕方の無い事かもしれないが。
「挨拶も無しで居なくなって……見送ったのは、隙間を開けた紫一人だけときたもんだ。あいつが迷い込んでからずっと近くに居た私にとっては、結構ショックだったんだぞ?」
「ふぅん……そうなんだ。」
と、霊夢が何故かしたり顔でこちらを見ている。……何だよ、何が言いたい。
「幻想郷一の遊び人が、一日だけしか居なかった彼女に惚れたの?」
「ぶっ!?」
飲みかけのお茶が変な所に入り、大きく咳き込む。
「げほっ、ごほっ……な、何言い出すんだ、お前はっ!」
「あら、図星みたいね。ちなみに、人間として認めた場合も惚れ込んだって言うのよね。」
「このやろ……。」
しかし事実なので、強く否定出来ない。
一旦湯飲みを置き、呼吸を落ち着けてから、魔理沙は俯き加減に口を開いた。
「……あいつ、危なっかしいからさ。心配なんだよ、私としては。こっちが気を配ってるつもりがあいつに気遣いされてるし、自分の事で手一杯な筈なのに相手の事ばっかり考えてさ。正直な所……私はあいつに何もしてやれなかったんじゃないか、って思うんだよ。」
「……ん。」
首肯した気配を感じ、先を促す合図と見て、続ける。
「多分、私と会わなくったって、あいつは一人でも輝夜の所に辿り着いて、自分の事を知ってさっさと向こうに戻ってたんじゃないか、って……考え出すときりが無いんだ。」
「…………。」
霊夢は何も言わない。その無言が自分には虚しく感じられて、
「せめて……一言聞きたかったぜ。私は――」
――お前の役に立てたのか? 郁未。
そう、口にしようとして。
「本当、お人好しよねぇ、魔理沙って。」
その言葉を聞きたかった相手が、目の前に立っているのを知った。
◆
「……郁未……!?」
はっとして顔を上げれば、あの時と同じ姿で、彼女が立っている。
はにかんだ笑顔でこちらを見る彼女は、ふふん、と勝ち誇った様子で、
「驚いた? 実はね、ちょっとした密約を――」
どふ。彼女の胸に遠慮無く飛び込む。
「ちょ、ちょっと、魔理沙? どうしたのよ……。」
こちらより背の高い彼女は、しかし前触れも無くぶつかって来た自分を優しく抱き留める。
「お前……何でここに?」
こんな格好で聞く事じゃないだろうとも思うが、体が勝手に動いてしまったのだから仕方ない。
彼女はえーとね、と前置きしつつ、こちらの身体を縁側に座らせる。
腰を落ち着けた事を確認し、腕を組みながら、こう言った。
「紫がね。帰り際にこう言ったのよ。」
――もし、貴方が望むのならだけど。
――驚かしついでに、時々遊びに来る気はない?
――それくらいなら、現実逃避にはならないと思うのだけど。
――むしろ、自分を再確認出来て、『貴方』にとってもプラスになる筈よ?
「……ってね。」
驚いたでしょ? などと言われるまでもなく、頭の中は沸騰している。
(あんにゃろ……だから、ここしばらく姿を見せなかったのか……。)
今度会ったらしばき倒す、と心に刻み、そこでふと気付いたように霊夢を睨む。
「まさか、お前も知ってたのか?」
「知ってるも何も……現場で聞いてたもの。」
咲夜とレミリアと妹紅もね、と離れて酒を酌み交わしていた連中の名前を指折りしつつ挙げた。
……という事は何か。まさか、知らないのは郁未と直接関わった奴らだけか?
「実は、魔理沙以外の皆とは会ってるのよ。次の次の日くらいまでには。」
「何ぃ!?」
本人の口から告げられた衝撃の事実に、魔理沙は驚愕を通り越して憤慨していた。
「何で黙ってたんだ! 私がどれだけお前を――」
「心配してくれてたんでしょ? ――さっきの話、全部聞いてたよ。」
「……な。」
ならどうして。自分の前にだけ、姿を見せなかったのか。
「――だって、何も言わずにいきなり姿消して、その翌日にやっほー、なんて気楽に顔出せる訳ないでしょ? ……あれだけ心配かけて、あんなに気遣ってくれたあなたには、さ。」
「――。」
つまり。それだけ自分との出会いを大事にしてくれたという事で。
「……初対面の人間に、あんなに熱くなって説教するような人の事を軽んじるなんて、――私には出来っこない。」
かつて涙を流した時と同じ、崩れそうな笑顔で、
「改めて言うよ。魔理沙、私を助けてくれて――本当に、ありがとう。」
そうだ。その言葉が聞きたかった。
別に褒められなくてもいい。鬱陶しかったでも、邪魔だったでも何でもいい。
ただ、自分が――霧雨 魔理沙という人間が、天沢 郁未という人とヒトの境界を彷徨っていた彼女にとって、どういう存在であったのか知りたかっただけなのだ。
そして、お礼を言ってもらったのなら、
「……いやいや、そんなの――」
自分らしく、不敵な笑みを浮かべて、こう応えなければいけないだろう。
「――礼を言われるほどのもんでもないぜ。」
◆
――そう、もう悪夢は覚めたのだ。
全てが夢であって欲しいと願った事で、悪夢は良い夢に変わり、そしてその幸せな夢からも目覚めた。
――そう、これからは全てが現実の事。
今までが夢であったのなら、その幻想だった部分をも取り返すくらい、現実で世界を塗り潰さなくてはいけない。
――だって、そうでしょ?
夢幻と夢想が行き着く所は、つまり。
――それすらも現実である事を認めなくてはいけない、夢が許されない世界なのだから。
~Fin~
長くなるので具体的には書きませんが。
もっとも、クロスオーバー物である以上、『ズレ』があるのはある意味当然なのかもしれませんが。
しかし、創想話は東方SSを投稿するところですので、
少なくとも、『東方』としてはとても楽しめなかった。
ということでこの点にさせていただきます。
東方以外のキャラクターの自己主張が強すぎて
私には受け付けませんでした。
東方オンリーの作品に期待します。
ただ三作目くらいからですかね?↓でもあるように
自己主張が露骨過ぎて見るに堪えませんでした。
アリス辺りからまさか、とは思ってましたが流石に……
正直、東方という要素のほとんどが踏み台に使われている
といった印象の作品です。MOON関係のSSが置かれている場所に投下した方が
ウケがいいんじゃないですかね?
激しく憤りを覚えます。
でも、あまりにも東方の世界観をぶち壊しにしていませんか?
クロスオーバーでも、ここに投稿するのなら、あくまで東方がメインになるはずでは?
ごめんなさい
月が入ればなんでもOKって分けじゃないですよ?
2次創作物の危険性に見事に引っかかった作品だと思います。
アンチ幻想、現実だけをそんなに見たいのならここの感想を見たほうが手っ取り早いですよ。
感じた点数を入れさせて頂きます
実際に読んだ人の感想という現実をかみしめてください
クロス物が地雷というその意味を身を以て知ったような気がします。
MOONについては私は知らないのですが、それでも貴方様の意図が私にはまったく伝わってきません。いえ、受け付けないと言った方がいいでしょうか。
正直よく投稿できたなぁと思いますよ。
できれば一般大衆的に「分かるネタ」で書いて貰いたかった
後は他の方が言って下さっているのでこの辺で
なんですかこれは。
MOONてのは知りませんが、ここに投稿するようなお話じゃないですね。
皆さんと大体同じ意見なんですが東方分がどこへやら、な感じしか受け取れないです。
自サイトでしっかりMOONの説明も交えて掲載、とかならもうちょっとよかったのかなって思いました。
というわけで採点の文章どおり「次に期待しています(-30点)」で。
ただ比率がおかしいと突っ込まれるわけ。要はキャラの扱いね。
「5:5」「4:6」あたりならいざ知れず「8:2」「9:1」じゃ
感想で「ここでやる必要が無いだろう」とか「東方の意味が無い」とか言われても当然なわけ。
てか、MOONを知ってる知らないは置いとくとしても
東方を踏み台にしたような作品がここで読者に受けると本気で思ってるのか?
正直何を伝えたいのかがさっぱり解らない。単なる自己満足なのか?
その辺少し考えてくれ
はっきり言って言い訳にもならないよ。
ヴェドゴニア+月姫+ヘルシング+古今東西吸血鬼物の「吸血大殲」や、
CCさくら+月姫+空の境界な「月君 ~月の姫、空の世界、そして花咲く人は君~」など。
Leaf&Key系の作品は親和性が高いのもあって更に増えますね。
同時にそこからゲーム会社に就職した方も多いです。
まずはそれらの作品を見直してみて、なぜそれらが支持され、
なぜこの作品が支持されないのか、それを考えるべきだと思います。
キャラクターに特殊な能力があるとしても必ずしも東方の世界観に合うとは限らないと思います。
ましてや内容がアレなものをクロスオーバーさせてここに投下するのはどうかと……するとしてもせめて東方キャラをメインにするべきだったと思います。
既成概念に捕らわれない東方観も必要でしょう。
既成概念の無い東方観だとか
新しい試みで済まされる作品じゃあないねぇ
感想の点数と内容が全てを物語ってるんじゃない?
まぁ、妥当な評価かと
とりあえずあなたはここに来るべきではない。
過剰に東方味がどこかへいってしまってる、と考えると否定せざるを得ないわけで。
次は逆にあっと言わせるような作品に期待してます。
ただ東方がしっかりとしたテーマになっていなかったかな。
最初のほうの作品を見てこのシリーズは期待していたので少し残念です。
次もまたがんばってください。
MOONを知らないというのもありますが、楽しめませんでした。
4章あたりでお腹いっぱい。
それを踏まえた上で、次の投稿をして頂くことを期待しています
或いはLeafを知ってる者として、他作品を噛ませ犬にしている行為に納得いきません。
独りよがりの文章で、読んで楽しいのは作者だけということがよくわかった
自称現実派とのことですが、読み手に配慮するのも作家としては現実的な話じゃないでしょうか?
>空想を現実化すればどんなものであっても最後には認めざるを得ない。
ところで貴方はこの作品をもって何を現実化したのでしょうか?
とりあえず他の方々の出した点数は現実そのものです。
私は貴方の作品にマイナスでも点数をつけること自体遠慮させていただきます。
TPOって知ってます?
しかしこれは酷い、見るに耐えれません
MOONは好きです。でも、これ以上の点数はどうしても上げられないです
一言だけ。此処は「東方」創想話です。
でもまぁ読んでみて納得、文章レベルとかそういうのじゃなくて内容があまりにも…
ここまで読んだあと疲れるのは立派な才能ですね。
MOONも好きですがなんとなくこの場所には合わない文だと思いました。
これはひどい
一周回って面白いというのを少し期待していたんですが、そうでもなくて……。
中途半端に上手いからこそ、物語の荒が見え隠れしてしまうのが大きなマイナスポイントでした。
そして、「東方の二次創作小説が好きな皆さんに楽しんで読んでもらえれば幸いだ」等と本気で考えたのだとしたら――正気を疑いたくなるが一体全体どういった思考回路の持ち主なのか、私は純粋に興味を持った。
できれば作者に直接会ってそこのところを含めて詳しくお伺いしたいのだが、おそらく相手の顔を見たら私は怒りのあまり頭突きをお見舞いしてしまうだろう。
マイナスが付けたくてしょうがない
よく頑張りました