Coolier - 新生・東方創想話

裁くということ

2006/02/27 09:50:40
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※オリジナル設定が過分に含まれております。許容出来る方だけどうぞ
※小町の口調が変なのは仕様です




「………話はこれで終わりです。もう行って構いませんよ」
 そう言って死者を送り出す。私、四季映姫ヤマザナドゥの仕事は死者を裁く閻魔だ。ただ裁くわけではなく、死者の生前の行いを知り、来世に繋がる説教を行ってもいる。ただ、これは閻魔が行う仕事の内訳には入っていない。本来なら罪を裁くだけで構わないのだ。それでも私は説教をする。それが死者のためになると信じて。
「あの……」
「どうしました?」
 死者は出ていくこともなく何かを言いたそうに私を見ている。この死者は突然の事故で命を落とした。生前彼は自由気ままに生きてきて、周りのことなど鑑みもしなかった。それ故、彼が仕事場に現れなくても誰1人として彼を心配する者はいなかった。もし、誰か1人でも心配してくれる者がいたなら助かったかもしれないのに。
 私は彼に生前の行いを客観的に聞かせ、弾劾した。それはとても酷いことかもしれない。死んでしまった後では取り返しの付かないことだから。それでも、私は言った。彼のために。
「有り難うございます」
 そう言って死者は頭を下げて出ていった。入ってきた時の突然の死に打ちひしがれていた顔ではなく、死を享受し過ちを認めて。
 自然と顔が綻ぶ。彼は来世では間違うことが無く、正しく生きられるだろう。例え記憶はなくても魂に刻み込まれているからだ。その事がとても喜ばしかった。
 時刻はようやく昼になろうかという頃。今日初めての死者が彼だった。もしかしたら今日最後かもしれないが。私の部下である死神は死者を運ぶ回数が極端に少ない。恐らく他の死神の十分の一にも満たないだろう。下手をすると一人しか運んでこない時もある。さすがに一人も運んでこないことはなかったが。
「今日のおしおきは何にしましょうか。昨日はこの部屋の掃除をさせましたし……」
 私はサボりがちな彼女に大して罰則を設けている。だが、それが応える様子もなく彼女はマイペースに死者を運び続けている。恐らくは今日も。
 だが、過去は彼女もしっかりと仕事をしていたらしい。それがこうなり始めたのはいつのことだったか。
 私は彼女が部下になった頃のことを思い出し始めた。



「四季、あなた最近仕事頑張ってるわね」
 その日、私は同僚と飲みに行っていた。最近付き合いの悪くなった私を同僚が半ば無理矢理に誘う形で。
「ええ、今日も先程まで死者を裁いていました。いつもはまだ裁いている頃合いですが」 言外に仕事途中なのに連れ出した事への非難を込める。だが、彼女はまるで気にした様子もなく、からからと笑う。
「たまには良いじゃないの。あんまり根を詰めすぎると倒れるわよ?」
「ご心配なく、体調管理はしっかりしていますから」
「まあ、いいけどね」
 そう言う彼女の顔は言葉とは裏腹に心配そうな様子が見て取れた。
 私はその視線を意識しないようにコップを傾けた。

 実際その頃の私は彼女の言うように仕事を頑張っていて、私の言うように体調管理をしっかりしているわけでもなかった。
 その頃世界では戦争が起こっていて、死者の数が相当なものだった。それ故に仕事もいつもの日ではなかった。私は、ただ機械的にその日訪れる死者を裁いていた。それはこれまでも、これからも変わらないと思っていた。実際先輩の閻魔達はそうやって仕事をしていたから。そして最近ではいつも以上に淡々と仕事をこなしていた。
 手元には死者の生前の行動を書き記した書類。今までは一通り目を通していたが、最近では死の直前の行動ぐらいしか目を通さなくなっていた。次々と訪れる死者達を裁くにはそうするしかなかったから。
 私の部下が優秀すぎるというのもある。彼女小野塚小町は恐らくは歴代に死神の中でもトップクラスに優秀な人材だった。仕事が忙しいために碌に話したことすらなかったが、その優秀さはここを訪れる死者の数だけでも判断が付いた。恐らくは他の2倍3倍の数の死者が訪れているだろう。だが、それで良いのか、とも思う。ただ淡々と作業をこなすことが良いことなのだろうかと。仕事だからといってしまえば簡単かもしれない。だけど、それが正しいことだとはどうしても思えなかった。
 思考の海から脱却する。そろそろ死者が訪れる頃だ。手元の資料に目を落とす。最近この資料もめっきりと情報量が減ってきた。恐らくは手が追いつかないのであろう。私も仕事に忙殺されてじっくりと考えることも出来ない。
 次に訪れる死者は、少年だ。死の直前の行動は殺人。その後、火事で死亡とある。
 戸がノックされる。
「どうぞ」
「失礼します」
 そう言って小町が使者を連れて訪れた。だが、いつものように淡々とした様子はなく、少し不安げな様子だった。こんなことは初めてかもしれない。だが、それを追求している暇はない。
「小町、ご苦労でした。すぐ終わりますから次の死者を連れてきなさい」
「あの、四季様」
「何ですか?」
「その、この死者は渡し賃を持ってなかったんです」
「どうしてですか?どんな死者でも多かれ少なかれ持っているはずでしょう?それに、そんな死者を何故連れてきたんですか?」
 三途の川を渡るには渡し賃を死神に渡し必要がある。生前の徳によって、持っている額も変わるがゼロということはあり得ない。考えられるとしたら渡し賃をケチっている場合だ。その場合は川を渡ることさえ許されない。だから、そんな死者を連れてくること自体おかしな事なのだ。
「それが、こいつ渡し賃を家族に渡したって言うんですよ」
「だって、母ちゃんが全然持ってなかったんだ。だから、俺の分を上げたんだ」
 そう、少年は言った。私は小町に確認する。
「それは本当なのですか?」
「はい。実際こいつの母親は余分に渡し賃を持ってました」
「そうですか。家族思いなのですね。しかし、それで生前の罪を償うことは出来ません」
 そう、忘れてはいけない。この少年は人殺しなのだ。
「あなたは人を殺した。それはとても許されないことです。よって、あなたの行き先は地獄です。いつまでも罪を償い続けなさい」
「俺、そんなつもりじゃなかった!ただ、母ちゃんが心配だったから」
「そうですよ、四季様。その辺のことも少しは考慮に入れてくださいよ。それにこいつが人を殺した理由だって……」
「小町、黙りなさい」
 何故か死者を庇おうとする小町を睨み付け黙らせる。全くどうしたことだろうか。優秀な小町にはあり得ないことだった。
「連れて行きなさい」
 だが、それ以上喋らせるつもりもない。そんな事情があるにせよ、人殺しは人殺しなのだから。
 小町は黙って少年の手を取り、部屋を出ていった。その際、ちらりとこちらのことを見て。
 その後しばらく小町の哀しい目が脳裏から離れることはなかった。


 その後はいつものように淡々と死者を裁くだけに終わった。小町いつものように優秀な死神として仕事をしていた。そして、夜。私は小町に誘われ、彼女の自宅で、お酒を飲んでいた。いままで無かったことに驚き、誘いに乗ることにした。今日の彼女の哀しい目が気になっていたということもあったが。
「一体どういう風の吹き回しですか?あなたが私を家に誘うなんて」
 しばらくお酒を楽しんだ後、小町にそう尋ねた。彼女がただ、お酒を一緒に楽しみたいという理由で誘ったとは到底思えなかったからだ。
「ちょっと、話しておきたいって事がありましてね」
 そう言うと小町はコップを一気に煽る。そして、その勢いで渡しに近づいてきた。
「一つ昔話をさせてください」
「昔、話ですか?」
「はい、そうです」
 そう言って更にもう一杯。私はそんな彼女をただ、見ていた。
「むかしむかしあるところに母親と息子がいました。父親は戦争に行ったきり帰ってきません。そのせいで2人はとても貧しい生活を送っていました。息子は父親がいないので働きます。それでも2人が生きていくには足りません。親戚中に頭を下げてお金を借りました。ですが、返す当てなどあるはずもなく段々と親戚からも冷たくあしらわれるようになりました。それでも頑張って生きていたある日。少年の家に強盗が入りました。少年は必死で抵抗をし、気が付けば足下には物言わぬ強盗が転がっていました。呆然とする間もなく、家を火が襲いました。強盗が押し入る前に火をつけていたのです。少年は慌てて母親の元に向かいました。だけど、母親は既に強盗に殺された後でした。少年は泣きました。火が周りをぐるっと取り囲んでも泣き続けました。気が付けば目の前には三途の川。親子は寄り添って立っていました。終わり」
 小町はそこまで行って、黙り込みました。何のことを行っているのか私は理解しました。恐らくあの少年のことです。だけど、小町が何を言いたいのか私には分かりませんでした。だから、黙っていました。
「親戚中から疎まれていた親子はそれぞれの渡し賃しか持っていません。少年は持っているだけ全部を母親に渡したそうです。………ねえ、何でこいつが地獄行きなんですか?殺したって言っても不可抗力じゃないですか!」
 私はその小町の言葉に何も言い返せなかった。確かに殺したことは事実だ。だけど、そこに至るまでの家庭を考えると一方的に悪いとは言えない。果たして私のしたことは正しいのだろうか?だけど、私は閻魔だ。それは厳然たる事実だった。
「………それでも、罪は罪です」
「四季様!」
「だけど、ただ一方的に罪を裁くというのは間違っているかもしれません」
 それが今の私に出来る最大限の譲歩だった。私の能力は白黒はっきり付ける程度の能力。白を黒にすることは出来ないのだから。それでも、何かをすることは出来るのだろうか。その答えは出なかった。
「ですが、時間がないのです」
 そう、それも事実。時間がないために満足に資料に目を通すことが出来ない。いや、時間があったとしても以前の資料ではダメだろう。もっと、事細かな資料が必要だった。だけど、それは不可能だ。
「時間があれば良いんですか?」
「いえ、正確な資料も必要です」
「分かりました。何とかします」
 それで、この日はお開きとなった。


 次の日から一日に裁く死者の数は格段に減った。小町は死者の情報を集め、それを資料にする。そうしてから死者を運ぶようになった。小町の優秀さはこういったところでも発揮された。だが、その小町でも資料作成には時間がかかる。死者を運ぶ数が減るのも仕方のないことだった。
 私も死者が減った分、じっくりと資料を読み、彼らに話すべき事をまとめることが出来た。どんな死者でも平等に説教をする。そうすることで、来世では間違えないように、と。
 周りからは急に仕事が出来なくなったとしか思われていない。だが、それで良いのだと思う。少なくとも今までよりずっと死者と向き合えているのだから。周りに理解して貰わなくても構わない。少なくとも小町だけは志を同じくしているのだから。


 そうして長い年月がたった。最近では小町は私に対して馴れ馴れしいと言っても良い態度を取るようになった。部下としては失格であると思う。そして情報収集の手段を確立してからは、その間に昼寝をするようになってきた。ついこの間一人しか死者を連れてこなかった時などは寝過ごしました、と笑顔で言われたものだ。半日以上誰も来ない部屋で待ち続けた私のことも考えて欲しい。とりあえずお仕置きをした。
 最近ではお仕置きをしない日が内容にも思える。初めてお仕置きをした日からそれはエスカレートしているようにも思える、一体どうしたことだろうか。上司として失格なのだろうか?
 それでも、小町には感謝をしている。少なくとも今の仕事にはとてもやりがいを感じている。昔ではあり得なかったことだ。ただ、恥ずかしいので言わないでいるが。

 さて、もう終業時間だ。今日もサボっていた小町にはどんなお仕置きをしようか。
 そうだ、家に来てご飯を作ってもらおう。それはこの上なく魅力的な提案に思えた。
どうも、お久しぶりです。小町の口調が違うのはこの頃はあくまでもただの上司と部下の関係と言うことでこんな感じだったということで一つ。え、今?知りませんよそれは。
参考までにお仕置きの内容などを。
一日目 閻魔部屋の掃除
二日目 翌日の弁当の制作(2人分)
三日目 小町宅にて徹夜で説教
四日目 お尻ペンペン
五日目 お尻ペンペンをせがむ小町から逃走
六日目 珍しくちゃんと仕事をした小町にご褒美として四季様の手料理
七日目 休日のためピクニック
後は皆様のご想像のままに
クーヤ
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コメント



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9.40Hal削除
最近ではお仕置きをしない日が内容にも思える
      ↓
最近ではお仕置きをしない日が無いようにも思える

ですか?
11.70名無し毛玉削除
せっかく良い話なのに、ちょっと詰め込みすぎな感がありますね。
もうちょっと四季様と小町の変化を徐々に表現していった方が味わい深かったかと。 でも、こう言う話は好きですよ。