伊吹萃香は鬼である。
角が生えてるだけとか、身長が小さいとか、
ていうかただのガキだとか酷い言われようだが
立派な一匹の鬼である。
しかし、この小さくても立派な鬼。
残念なことに、一つの弱点があった。
「さ…酒が…」
―――酒が無いと、力の半分も発揮できない。
連日連夜の宴会だったが、一日に少しでも酒を飲まなければ
萃香はまるで駄目なただの少女になり下がる。
いや、それでも十二分に強いのだけれども。
―――昨日は寝すぎた。
彼女から、昨日飲んだ一升瓶18本分の度数90度の大吟醸によるアルコールは
完全に抜けていた。
酒に強い萃香だが、幾らなんでも飲みすぎたとは思う。そのまま20時間ほどたっぷり寝こけてしまったのだ。
妖夢とか一合飲んだだけでダウンしたしなぁ。
「酒…酒が足りない…」
萃香の腹から情けない音が出る。
空腹だ。
しかし、彼女にとっては空腹なんぞこの際どうでもいい。
酒が無いことは、死ぬよりも、空腹よりも、何よりも辛いことだった。
「酒…酒は…どこだ…」
まるでアルコール中毒者のようにふらついた足取りで歩く萃香。
彼女の足取りは、自然と博麗神社へと向かっていた。
*
博麗霊夢は巫女である。
神に仕える身ながらも某魔界神と戦ったという過去はあるらしいが、それはどうでもいい。
そして一番好きな酒はお神酒などではなく大吟醸という噂もあるが、それもどうでもいい。
そしてその巫女は今、一番忙しい状況にあった。
「…散らかして帰るなっつーに。」
霊夢は竹箒を片手に持ちながらため息をつく。
博麗神社は神社自体は普通の大きさだが、敷地は馬鹿みたいに広い。
その馬鹿みたいに広い敷地で、幻想郷中の少女が集まって宴会するのだ。
こう聞くと聞こえはいいのだが。
ついでに眼の保養にもなりそうなのだが、敷地の住人にとってはたまらない。
なんせ一日ごとに酒蔵にある酒が十升ぐらい無くなっていくのだ。
それが連日連夜続いたせいで、もはや神社に酒などほとんど無い。
どうにか今日の夜に飲む酒が一人分あるぐらいだ。
加えて、その空き瓶やゴミなどは全部敷地内に散らばっているのだ。
霊夢にとって不愉快なのは言うまでもない。
「萃香がいるとこういうとき便利なんだけどなあ。」
霊夢が竹箒でゴミをかき集めながら呟く。
―――萃香の能力。疎と密を操る程度の能力。
つまり彼女にとっては、物を集めたり散らばしたりするのは簡単なことなのだ。
魔理沙やアリスはその能力を羨ましそうに思っていたが、やはりこればかりは天性の能力。
幻想郷中でも彼女しかできない能力だ。
「酒…酒…」
「ん?」
死にそうな声が近づいてくるのに、霊夢は気づいた。
声の方向を見ると、今にもその場でぶっ倒れそうな顔で歩いてくる小さな人影。
身長の四分の三はその大きな角じゃないかと思える少女。
―――伊吹萃香だった。
霊夢の目が光る。
―――いい所に来てくれた。
霊夢は欲望全開で、萃香のほうに走っていった。
「萃香ー。」
「あ……霊…夢……」
霊夢は近づいてちょっとびっくりする。
いつもは通常の人間より元気百倍で酒と勇気だけが友達さなはずの萃香の顔色がものめっさ悪い。
萃香は霊夢を見つけると、ちょっと笑顔で。
…いや、それでも十分顔色悪いんだけど。
とにかく本人にとっては最高の笑顔で霊夢に言った。
「霊夢…お酒…ない…?」
「あ…酒?」
―――成る程、そういうことか。
酒が足りないのならば、彼女の顔色が悪いのも何となく理解できる。
なんせ、以前酒が飲みたくて香霖堂を訪れ、酒が無い事に不満を持ってキレ始め、香霖堂をぶっ潰したぐらいである。
あのときばかりは香霖も放心状態になっていたが、まぁそれはいい。
しかし、それを考えると神社全壊だけは勘弁して欲しい。
正直、本気で萃香を潰しかねない。
ここは素直に彼女の要求に応えておこうと、霊夢は思った。
が。
「…酒…酒か…」
「あるでしょー…昨日まで…あんなに…宴会続きだったん…だし…余りもの…ぐらい…」
そのまま喋っている内にぶっ倒れるんじゃないかこいつ。
だがどうしよう。
今日は宴会こそ無いものの、彼女が満足できるような量の酒はもう無い。
―――仕方ない、か。
霊夢は、萃香に気づかれないようにスペルカードを背中で構える。
時間稼ぎにはなるだろう。
何せ幾ら強い鬼とはいえ、酒を飲んでいない萃香。
それははっきり言えば陸上に上がった鮪のような存在だ。
泳がなければ死ぬんだから、陸上に上がれば即死決定。
即死した鮪にスペルカードを使うようなもんだから。ある意味無駄といえば無駄。
けれどもそれ以前に、霊夢はやっておかねばならないことがあった。
霊夢は笑顔で萃香に言う。
「あるわよ、一応。」
「ホント!?」
萃香の顔が一瞬にして輝く。
―――少し水を与えたかな。
ちょっと失敗した気がするが、その後さらに続ける。
「その代わりさ、まずは敷地内に散らばったゴミ全部集めてくれない?
ついでにそれを処理してくれるなら、余ったお酒渡してもいいわよ。」
「やるやる!絶対やる!」
萃香は満面の笑みで力を発動させる。
―――疎と密のうち、密を操る程度の能力。
つまり、何かを『萃める』能力。
彼女がそれを発動させると、僅かな時間で。
敷地内のゴミは霊夢と萃香の目の前に集まった。
その総体積は―――とんでもない事になっていた。
「…何よこれ。」
「ゴミよゴミ。今集めた。ねーお酒」
「何でうちの敷地にこんなにゴミが散らばってるのよ。幾らなんでも多すぎじゃない。」
「頂戴よ、もう私お酒が無く」
「ああー、大吟醸の瓶だのブランデーの瓶だの…何よこれ、誰の服?」
「て今すぐ倒れそうなんだけど。」
萃香の言葉をさらりと流しながら、霊夢は集まったゴミを見て落胆する。
「ねーねー、霊夢ー。」
「…あ、ごめん、何?」
「お酒頂戴ー。」
霊夢はその言葉を聞いて、笑顔で返す。
「処理してくれたらって、約束したはずだけど?」
「え?」
「集めて、かつ処理してくれたらお酒あげるって言ったのよ、私。」
「えー!」
萃香がまるで子供のように。いや子供同然なんだけど、
そんな感じで文句を言う。
「ぐだぐだ言うな。お酒欲しいんでしょ?」
「うー…わかったわよー。」
萃香はしぶしぶ、ゴミの中に手を突っ込む。
流石に酒を引き合いに出されると弱いらしい。
そしてそのままゴミの塊を引っ張るようにふらふらと歩いて神社の敷地内から出て行った。
流石は密を操る能力者。
霊夢はその後姿を見てガッツポーズをとる。
「ふふ♪これで掃除が終わったーっと。さて、お茶でも飲んでよ。」
うまく鬼を騙した腹黒い巫女は、機嫌よく社の中へと戻るのだった。
*
それからしばらくして。
博麗神社に鬼が戻ってきた。
「霊夢ーっ!お酒ーっ!…って、あれいない。」
庭には巫女は既にいなかった。
もしかしたら社の中に戻っているのかな、と思い歩いていく。
すると予想通り、彼女は縁側で緑茶をすすっていた。
「霊夢ーッ!」
「あら萃香。何の用?」
「お酒早く頂戴ッ!もー駄目っ!飲まないと死ぬっ!」
その程度で死ぬ鬼もいかがなものかと。
霊夢はそう思うが、とにかく返事だけはしておく。
「あーはいはい、ちょっと待ってなさい。」
霊夢はそういって社の中の部屋に歩いていく。
―――ああ、ようやくこれでお酒にありつける。
萃香はまるで断酒20年ぐらいしている元アル中のような喜びを感じていた。
そしてしばらくして霊夢が戻ってくる。
手には―――コップが握られていた。
しかも酒が注がれているのかと思えば、僅かに液体が入っているような状態。
ペットボトルの蓋が溢れるぐらいの量の酒が、コップの中に注がれていた。
萃香は呆然とした。
そして霊夢が話しかける。
「はい報酬のお酒。」
「えーっと、霊夢?」
「何かしら?」
「…これだけ?」
「ええそうよ。残念なことに連日連夜の宴会で、ほとんどお酒が無かったのよ。
ちなみにこれが今神社にあるお酒の全て。」
「じょ、冗談でしょ?」
ますます萃香は呆然とする。
―――どんな量だこれ。
食道を流れる段階で即効全部無くなりそうな量の酒じゃ、満足はできない。
「冗談よ…と言いたい所だけど、本当なの。」
「えぇーッ!!??」
今までに無いぐらい大声で萃香は叫ぶ。
「う、嘘でしょぉっ!?」
「だから本当だってば。」
どうにも信用なら無い。
いや、信じたくない。
鬼の力ならば楽勝とはいえ、あのゴミを全部処分したのだ。
具体的に言うと、一個一個砂レベルにまで分解して川に流したり、
まだ使えそうなものは香霖堂に売った。
そこまでしたのだから、それ相応の報酬は欲しい。
「ちょ、ちょっと酒蔵調べさせて!」
「無理ね。」
「ホントかどうか確かめたいんだってばーッ!ていうかこれだけじゃ足りなーいっ!」
「ああ、つまりこの量じゃ満足できないのね?」
「当たり前じゃないッ!」
萃香は酒が入っていないことも忘れ、思い切り叫ぶ。
ちょっと頭がくらくらしたが、酒のためならなんて事は無い。
そして、霊夢は笑顔で言った。
「そう、残念ね。」
言った言葉とは裏腹に、彼女は笑みを浮かべていた。
そのとき萃香ははっと気づく。
彼女の右手にはコップが。
―――じゃあ、左手には?
左手は今まで後ろに隠してあって何も見えなかった。
そして、霊夢はその左手を引き抜き―――スペルカードを取り出し、叫ぶ。
「夢想封印ッ!」
「やっぱりーッ!!」
霊夢から霊気の塊とも言うべき巨大な弾が、いくつも発生する。
そしてそれは、まるで萃香に狙いを定めたかのように―――放たれた!
ズゴォォォォォォンッ!!
「ふぅ…一件落着♪」
霊夢は、社に二重結界を張り、社への被害は完全に抑えた。
目の前には、圧倒的な量の煙。自分のところへは来ないけれども。
萃香は完全に吹き飛ばされただろう。
そう思って安心していた。
「さーて、今日は宴会が無いけど、夜用のお酌の準備しないと♪」
その時だった。
バキィッン!
「!?」
二重結界が、破られる音。
霊夢はその音に耳を疑った。
後ろを振り向くと、そこには萃香がいた。
―――いや、正しくは、
萃香の足が見えた―――
『ミッシングパープルパワー』
限りなく巨大化した萃香。
社を包み込むことができるほどの大きさに、萃香はなっていた。
霊夢は、冷や汗を流しながら萃香に言う。
「え、えーと萃香?無事だったの?」
「うん無事だった♪」
笑顔だが―――その眼は笑っていなかった。
彼女は別に、夢想封印を飛ばされたことに怒っているのではない。
ただ働きされたことに怒っているのではない。
―――酒が無いと、嘘を吐かれた事に怒っているのだ。
「霊夢ー。お酒…あるみたいね?」
「あ、うん、ちょっとあるの、忘れてて…」
「嘘を、言うなぁぁぁぁぁぁっッッッ!!!!」
「ああっ、ちょっと!?ここで暴れないでよっ!?社がっ、社がーッ!?」
巨大化した萃香は、霊夢の張った結界の中で暴れだす。
その姿は、まさに鬼。
酒を飲んでないとはいえ、やはり鬼は鬼であった。
―――神社が甚大な被害を被った事は、言うまでもない。
ちなみにその後、正気に戻った萃香が完全にキレた霊夢に夢想転生を喰らったのも言うまでもない。
さて、事件の一番の被害者は誰でしょう?
角が生えてるだけとか、身長が小さいとか、
ていうかただのガキだとか酷い言われようだが
立派な一匹の鬼である。
しかし、この小さくても立派な鬼。
残念なことに、一つの弱点があった。
「さ…酒が…」
―――酒が無いと、力の半分も発揮できない。
連日連夜の宴会だったが、一日に少しでも酒を飲まなければ
萃香はまるで駄目なただの少女になり下がる。
いや、それでも十二分に強いのだけれども。
―――昨日は寝すぎた。
彼女から、昨日飲んだ一升瓶18本分の度数90度の大吟醸によるアルコールは
完全に抜けていた。
酒に強い萃香だが、幾らなんでも飲みすぎたとは思う。そのまま20時間ほどたっぷり寝こけてしまったのだ。
妖夢とか一合飲んだだけでダウンしたしなぁ。
「酒…酒が足りない…」
萃香の腹から情けない音が出る。
空腹だ。
しかし、彼女にとっては空腹なんぞこの際どうでもいい。
酒が無いことは、死ぬよりも、空腹よりも、何よりも辛いことだった。
「酒…酒は…どこだ…」
まるでアルコール中毒者のようにふらついた足取りで歩く萃香。
彼女の足取りは、自然と博麗神社へと向かっていた。
*
博麗霊夢は巫女である。
神に仕える身ながらも某魔界神と戦ったという過去はあるらしいが、それはどうでもいい。
そして一番好きな酒はお神酒などではなく大吟醸という噂もあるが、それもどうでもいい。
そしてその巫女は今、一番忙しい状況にあった。
「…散らかして帰るなっつーに。」
霊夢は竹箒を片手に持ちながらため息をつく。
博麗神社は神社自体は普通の大きさだが、敷地は馬鹿みたいに広い。
その馬鹿みたいに広い敷地で、幻想郷中の少女が集まって宴会するのだ。
こう聞くと聞こえはいいのだが。
ついでに眼の保養にもなりそうなのだが、敷地の住人にとってはたまらない。
なんせ一日ごとに酒蔵にある酒が十升ぐらい無くなっていくのだ。
それが連日連夜続いたせいで、もはや神社に酒などほとんど無い。
どうにか今日の夜に飲む酒が一人分あるぐらいだ。
加えて、その空き瓶やゴミなどは全部敷地内に散らばっているのだ。
霊夢にとって不愉快なのは言うまでもない。
「萃香がいるとこういうとき便利なんだけどなあ。」
霊夢が竹箒でゴミをかき集めながら呟く。
―――萃香の能力。疎と密を操る程度の能力。
つまり彼女にとっては、物を集めたり散らばしたりするのは簡単なことなのだ。
魔理沙やアリスはその能力を羨ましそうに思っていたが、やはりこればかりは天性の能力。
幻想郷中でも彼女しかできない能力だ。
「酒…酒…」
「ん?」
死にそうな声が近づいてくるのに、霊夢は気づいた。
声の方向を見ると、今にもその場でぶっ倒れそうな顔で歩いてくる小さな人影。
身長の四分の三はその大きな角じゃないかと思える少女。
―――伊吹萃香だった。
霊夢の目が光る。
―――いい所に来てくれた。
霊夢は欲望全開で、萃香のほうに走っていった。
「萃香ー。」
「あ……霊…夢……」
霊夢は近づいてちょっとびっくりする。
いつもは通常の人間より元気百倍で酒と勇気だけが友達さなはずの萃香の顔色がものめっさ悪い。
萃香は霊夢を見つけると、ちょっと笑顔で。
…いや、それでも十分顔色悪いんだけど。
とにかく本人にとっては最高の笑顔で霊夢に言った。
「霊夢…お酒…ない…?」
「あ…酒?」
―――成る程、そういうことか。
酒が足りないのならば、彼女の顔色が悪いのも何となく理解できる。
なんせ、以前酒が飲みたくて香霖堂を訪れ、酒が無い事に不満を持ってキレ始め、香霖堂をぶっ潰したぐらいである。
あのときばかりは香霖も放心状態になっていたが、まぁそれはいい。
しかし、それを考えると神社全壊だけは勘弁して欲しい。
正直、本気で萃香を潰しかねない。
ここは素直に彼女の要求に応えておこうと、霊夢は思った。
が。
「…酒…酒か…」
「あるでしょー…昨日まで…あんなに…宴会続きだったん…だし…余りもの…ぐらい…」
そのまま喋っている内にぶっ倒れるんじゃないかこいつ。
だがどうしよう。
今日は宴会こそ無いものの、彼女が満足できるような量の酒はもう無い。
―――仕方ない、か。
霊夢は、萃香に気づかれないようにスペルカードを背中で構える。
時間稼ぎにはなるだろう。
何せ幾ら強い鬼とはいえ、酒を飲んでいない萃香。
それははっきり言えば陸上に上がった鮪のような存在だ。
泳がなければ死ぬんだから、陸上に上がれば即死決定。
即死した鮪にスペルカードを使うようなもんだから。ある意味無駄といえば無駄。
けれどもそれ以前に、霊夢はやっておかねばならないことがあった。
霊夢は笑顔で萃香に言う。
「あるわよ、一応。」
「ホント!?」
萃香の顔が一瞬にして輝く。
―――少し水を与えたかな。
ちょっと失敗した気がするが、その後さらに続ける。
「その代わりさ、まずは敷地内に散らばったゴミ全部集めてくれない?
ついでにそれを処理してくれるなら、余ったお酒渡してもいいわよ。」
「やるやる!絶対やる!」
萃香は満面の笑みで力を発動させる。
―――疎と密のうち、密を操る程度の能力。
つまり、何かを『萃める』能力。
彼女がそれを発動させると、僅かな時間で。
敷地内のゴミは霊夢と萃香の目の前に集まった。
その総体積は―――とんでもない事になっていた。
「…何よこれ。」
「ゴミよゴミ。今集めた。ねーお酒」
「何でうちの敷地にこんなにゴミが散らばってるのよ。幾らなんでも多すぎじゃない。」
「頂戴よ、もう私お酒が無く」
「ああー、大吟醸の瓶だのブランデーの瓶だの…何よこれ、誰の服?」
「て今すぐ倒れそうなんだけど。」
萃香の言葉をさらりと流しながら、霊夢は集まったゴミを見て落胆する。
「ねーねー、霊夢ー。」
「…あ、ごめん、何?」
「お酒頂戴ー。」
霊夢はその言葉を聞いて、笑顔で返す。
「処理してくれたらって、約束したはずだけど?」
「え?」
「集めて、かつ処理してくれたらお酒あげるって言ったのよ、私。」
「えー!」
萃香がまるで子供のように。いや子供同然なんだけど、
そんな感じで文句を言う。
「ぐだぐだ言うな。お酒欲しいんでしょ?」
「うー…わかったわよー。」
萃香はしぶしぶ、ゴミの中に手を突っ込む。
流石に酒を引き合いに出されると弱いらしい。
そしてそのままゴミの塊を引っ張るようにふらふらと歩いて神社の敷地内から出て行った。
流石は密を操る能力者。
霊夢はその後姿を見てガッツポーズをとる。
「ふふ♪これで掃除が終わったーっと。さて、お茶でも飲んでよ。」
うまく鬼を騙した腹黒い巫女は、機嫌よく社の中へと戻るのだった。
*
それからしばらくして。
博麗神社に鬼が戻ってきた。
「霊夢ーっ!お酒ーっ!…って、あれいない。」
庭には巫女は既にいなかった。
もしかしたら社の中に戻っているのかな、と思い歩いていく。
すると予想通り、彼女は縁側で緑茶をすすっていた。
「霊夢ーッ!」
「あら萃香。何の用?」
「お酒早く頂戴ッ!もー駄目っ!飲まないと死ぬっ!」
その程度で死ぬ鬼もいかがなものかと。
霊夢はそう思うが、とにかく返事だけはしておく。
「あーはいはい、ちょっと待ってなさい。」
霊夢はそういって社の中の部屋に歩いていく。
―――ああ、ようやくこれでお酒にありつける。
萃香はまるで断酒20年ぐらいしている元アル中のような喜びを感じていた。
そしてしばらくして霊夢が戻ってくる。
手には―――コップが握られていた。
しかも酒が注がれているのかと思えば、僅かに液体が入っているような状態。
ペットボトルの蓋が溢れるぐらいの量の酒が、コップの中に注がれていた。
萃香は呆然とした。
そして霊夢が話しかける。
「はい報酬のお酒。」
「えーっと、霊夢?」
「何かしら?」
「…これだけ?」
「ええそうよ。残念なことに連日連夜の宴会で、ほとんどお酒が無かったのよ。
ちなみにこれが今神社にあるお酒の全て。」
「じょ、冗談でしょ?」
ますます萃香は呆然とする。
―――どんな量だこれ。
食道を流れる段階で即効全部無くなりそうな量の酒じゃ、満足はできない。
「冗談よ…と言いたい所だけど、本当なの。」
「えぇーッ!!??」
今までに無いぐらい大声で萃香は叫ぶ。
「う、嘘でしょぉっ!?」
「だから本当だってば。」
どうにも信用なら無い。
いや、信じたくない。
鬼の力ならば楽勝とはいえ、あのゴミを全部処分したのだ。
具体的に言うと、一個一個砂レベルにまで分解して川に流したり、
まだ使えそうなものは香霖堂に売った。
そこまでしたのだから、それ相応の報酬は欲しい。
「ちょ、ちょっと酒蔵調べさせて!」
「無理ね。」
「ホントかどうか確かめたいんだってばーッ!ていうかこれだけじゃ足りなーいっ!」
「ああ、つまりこの量じゃ満足できないのね?」
「当たり前じゃないッ!」
萃香は酒が入っていないことも忘れ、思い切り叫ぶ。
ちょっと頭がくらくらしたが、酒のためならなんて事は無い。
そして、霊夢は笑顔で言った。
「そう、残念ね。」
言った言葉とは裏腹に、彼女は笑みを浮かべていた。
そのとき萃香ははっと気づく。
彼女の右手にはコップが。
―――じゃあ、左手には?
左手は今まで後ろに隠してあって何も見えなかった。
そして、霊夢はその左手を引き抜き―――スペルカードを取り出し、叫ぶ。
「夢想封印ッ!」
「やっぱりーッ!!」
霊夢から霊気の塊とも言うべき巨大な弾が、いくつも発生する。
そしてそれは、まるで萃香に狙いを定めたかのように―――放たれた!
ズゴォォォォォォンッ!!
「ふぅ…一件落着♪」
霊夢は、社に二重結界を張り、社への被害は完全に抑えた。
目の前には、圧倒的な量の煙。自分のところへは来ないけれども。
萃香は完全に吹き飛ばされただろう。
そう思って安心していた。
「さーて、今日は宴会が無いけど、夜用のお酌の準備しないと♪」
その時だった。
バキィッン!
「!?」
二重結界が、破られる音。
霊夢はその音に耳を疑った。
後ろを振り向くと、そこには萃香がいた。
―――いや、正しくは、
萃香の足が見えた―――
『ミッシングパープルパワー』
限りなく巨大化した萃香。
社を包み込むことができるほどの大きさに、萃香はなっていた。
霊夢は、冷や汗を流しながら萃香に言う。
「え、えーと萃香?無事だったの?」
「うん無事だった♪」
笑顔だが―――その眼は笑っていなかった。
彼女は別に、夢想封印を飛ばされたことに怒っているのではない。
ただ働きされたことに怒っているのではない。
―――酒が無いと、嘘を吐かれた事に怒っているのだ。
「霊夢ー。お酒…あるみたいね?」
「あ、うん、ちょっとあるの、忘れてて…」
「嘘を、言うなぁぁぁぁぁぁっッッッ!!!!」
「ああっ、ちょっと!?ここで暴れないでよっ!?社がっ、社がーッ!?」
巨大化した萃香は、霊夢の張った結界の中で暴れだす。
その姿は、まさに鬼。
酒を飲んでないとはいえ、やはり鬼は鬼であった。
―――神社が甚大な被害を被った事は、言うまでもない。
ちなみにその後、正気に戻った萃香が完全にキレた霊夢に夢想転生を喰らったのも言うまでもない。
さて、事件の一番の被害者は誰でしょう?
存 在 を 忘 れ て ま し た 。
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いつもは嫌だけど、これは好きだなー。
なんでだろ?
そう思うのならちゃんとやって下さい。
設定を忘れていた、ということで点数は差し上げられないです。
推敲はちゃんとしてください。
お酒の種類によってアルコール度数は大体決まってますので、知っておくとお酒絡みのお話を書くときはいいかもしれませんよ?