この湖畔は古来から名の知れたキャンプ地である――と、いうわけでもないのだが、なぜだかこの時期になるとむやみやたらと妖怪だの妖怪じみたのだの妖怪になりかけだのがゾロゾロわいのわいのと集まってきて、トレーニングだの特訓だの骨休めだの乳繰り合いだのに精を出すという、いっぷう変わった習慣があるのだった。
近所にある屋敷の門番(中国妖怪)はいう。
「毎年、あのキャンプが始まるとあァもうこんな季節なんだなーって感じますね。たまに臨時コーチとして来てくれ、なんて言われるんですよねぇ。そりゃー、必要とされるのは嬉しいから、気持ち的にはやぶさかじゃないんですけど、やっぱりホラ、仕事がありますから。なかなか、ねぇ。え? つまるところ行ったことあるのかって? それは、その……」
長くなりそうなので適当にやめる。
さて今年もキャンプが始まり、さっそく近所の妖怪や妖怪以下同文なやからが集まってきて、ガヤガヤわいわいとやりはじめた。
そんななかでもひときわ目立っているのは、おなじみ氷の妖精チルノである。
チルノはキャンプ初日からズッドンガズッドンガと絶好調、氷柱的なものをあたりかまわず投げまくり、周囲に多大な被害を与えた。
「やってるわねチルノ」
「あ、こりゃ大妖精さん」
かつては湖畔の大物として活躍していたものの今では現役をしりぞき悠々自適している古強者・大妖精には、さしものお転婆チルノも頭があがらぬ。
「今年の仕上がりはいいようね。このぶんなら、夏場も乗り切れるんじゃない?」
「そっすね。いいかげん、『夏に弱い』っていうイメージはなくさなくっちゃあ」
「世間じゃ『逆夏娘』呼ばわりされてるものね」
「うぬ~っ。じゃあ今年は『逆々夏娘』になってやるんだから!」
「ふつうに夏娘でいいじゃない」
そんな塩梅でにぎやかにやっとるところへ、ブラリと訪れたのは寒気使いのレティ・ホワイト・ロック(さいきん改名して、「・」を一つふやした)であった。
LWR(彼女はこの呼び方を提唱していた)は、もっぱら冬のあいだしか活動せぬのがポリシーであったので、このキャンプには来たことがなかったのである。
LWRはツト思った。
「ぞろぞろと無為に集まりおって! こんなに密集すると暖気が篭るじゃあないの。小憎らしいから、ひとつ痛い目にあわせてくれよう」
そこでLWRは寒気を操り、キャンプ地を手ひどく冷やした。
おかげで、妖怪その他のやからはおおかた滅入った。
ぎゃくにチルノなんぞは元気になって、
「寒いのはいっこう構わないけど」
ギャラリがいないのはチト寂しいとて原因探れば、見よや、寒気の源にいるのは妖怪LWRである。
「やぁい寒気屋! つまらない真似はやめなさいよ」
「なんだ『頭が常夏娘』か。あんたには関係ないね」
「どっこい関係あるんだよ。こう寒いと見物人がいなくて寂しいんだい」
「知らんね」
「誰がデコナス娘よっ!!」
「遅いし間違ってるし」
かくしてチルノとLWRの争いが起こったが、とくに白黒つくことなく、うやむやのうちに終わった。
とはいうものの、全体的に見ればキャンプで汗を流していたチルノに分があったのは衆目の一致するところであり、誰よりもそれを自覚したLWRはひそかに雪辱を期し、その年は早くも夏から来年のキャンプ目指して調整に入ったという。
そんなLWRがチルノに雪辱を果たすか返り討ちに会うかは、しかしそのときが来てみなければどだいわからぬことである。まさにそうではありませんか。
そしてこのお話もかくべつのこともないまま、薄ぼんやりとここに幕を閉じていくのだった。終。
近所にある屋敷の門番(中国妖怪)はいう。
「毎年、あのキャンプが始まるとあァもうこんな季節なんだなーって感じますね。たまに臨時コーチとして来てくれ、なんて言われるんですよねぇ。そりゃー、必要とされるのは嬉しいから、気持ち的にはやぶさかじゃないんですけど、やっぱりホラ、仕事がありますから。なかなか、ねぇ。え? つまるところ行ったことあるのかって? それは、その……」
長くなりそうなので適当にやめる。
さて今年もキャンプが始まり、さっそく近所の妖怪や妖怪以下同文なやからが集まってきて、ガヤガヤわいわいとやりはじめた。
そんななかでもひときわ目立っているのは、おなじみ氷の妖精チルノである。
チルノはキャンプ初日からズッドンガズッドンガと絶好調、氷柱的なものをあたりかまわず投げまくり、周囲に多大な被害を与えた。
「やってるわねチルノ」
「あ、こりゃ大妖精さん」
かつては湖畔の大物として活躍していたものの今では現役をしりぞき悠々自適している古強者・大妖精には、さしものお転婆チルノも頭があがらぬ。
「今年の仕上がりはいいようね。このぶんなら、夏場も乗り切れるんじゃない?」
「そっすね。いいかげん、『夏に弱い』っていうイメージはなくさなくっちゃあ」
「世間じゃ『逆夏娘』呼ばわりされてるものね」
「うぬ~っ。じゃあ今年は『逆々夏娘』になってやるんだから!」
「ふつうに夏娘でいいじゃない」
そんな塩梅でにぎやかにやっとるところへ、ブラリと訪れたのは寒気使いのレティ・ホワイト・ロック(さいきん改名して、「・」を一つふやした)であった。
LWR(彼女はこの呼び方を提唱していた)は、もっぱら冬のあいだしか活動せぬのがポリシーであったので、このキャンプには来たことがなかったのである。
LWRはツト思った。
「ぞろぞろと無為に集まりおって! こんなに密集すると暖気が篭るじゃあないの。小憎らしいから、ひとつ痛い目にあわせてくれよう」
そこでLWRは寒気を操り、キャンプ地を手ひどく冷やした。
おかげで、妖怪その他のやからはおおかた滅入った。
ぎゃくにチルノなんぞは元気になって、
「寒いのはいっこう構わないけど」
ギャラリがいないのはチト寂しいとて原因探れば、見よや、寒気の源にいるのは妖怪LWRである。
「やぁい寒気屋! つまらない真似はやめなさいよ」
「なんだ『頭が常夏娘』か。あんたには関係ないね」
「どっこい関係あるんだよ。こう寒いと見物人がいなくて寂しいんだい」
「知らんね」
「誰がデコナス娘よっ!!」
「遅いし間違ってるし」
かくしてチルノとLWRの争いが起こったが、とくに白黒つくことなく、うやむやのうちに終わった。
とはいうものの、全体的に見ればキャンプで汗を流していたチルノに分があったのは衆目の一致するところであり、誰よりもそれを自覚したLWRはひそかに雪辱を期し、その年は早くも夏から来年のキャンプ目指して調整に入ったという。
そんなLWRがチルノに雪辱を果たすか返り討ちに会うかは、しかしそのときが来てみなければどだいわからぬことである。まさにそうではありませんか。
そしてこのお話もかくべつのこともないまま、薄ぼんやりとここに幕を閉じていくのだった。終。
「誰がデコナス娘よっ!!」の反応がとても素敵。