それを見つけたのは神社の近くだった
ほんのりと淡く光る丸い物体、材質は鉄とも真鍮とも取れそうだ
宴会帰りに、空を飛ばずにたまには歩いてみようと階段を下りてみた
そしてその階段の途中に、石の隙間に、それはぽつりと落ちていた
「慧音、これが何かわかった?」
「調べては見たんだが・・・どうも古い小銭のようなんだ」
人里の少し離れた位置にある慧音宅
外見はどこにでもある一軒家の中で、蓬莱人の妹紅と半妖の慧音が古銭を見て頭を捻っていた
「ああ、そうだ、たしかどこかの書物にこれに似たものが書いてあった気がする」
「ふーん?」
「えーと、どこにしまったかな・・・」
慧音はすっくと立ち上がり、がさがさと書物を閉まってある棚を探り始める
妹紅はというと、ソワソワとしながらその様子を湯飲み片手にじっと見続けていた
「お、あったぞ妹紅、確かこれだ」
「どれどれ?」
慧音が丁寧に書物をちゃぶ台の上に置く
その表紙の文字はボロボロになっていて読む事は出来なかった
「どこだったかな・・・」
パラリパラリとページをめくり、目的の絵を探す、書物自体はそれほど古くなさそうなのだが
今にも粉となりそうなほどボロボロになっていたので、慎重にめくっていく
「あ! 慧音、あったよ!」
「まあ待て、落ち着け妹紅」
気のはやる妹紅を抑えて、慧音がちゃきっと眼鏡をかけた
そのページには、妹紅が拾ったのと同じ小銭と、文字列が描かれていた
「書の劣化が激しいな・・・えーと、これは・・・」
博・・・・・・社の・・・銭箱に・・・・・・の・・・銭・・・・・・げ入・・・・・・者
・・・の者・・・・・・・・・夢・・・・・・・・・える・・・・・・・・・・・・であろ・・・
「これ以上はさすがに分からないな・・・」
「うーん、これだけじゃ何も分からないって」
二人とも首をかしげながらみょんな顔で唸った
「・・・ん? ちょっと待て」
ふと、慧音が何かに気づく
「どうしたの?」
「この文字の冒頭の部分だが・・・博麗神社・・・ではないか?」
「・・・あっ」
その事に気づかされた妹紅も、食い入るように書物を見る
「銭箱・・・賽銭箱・・・?」
「博麗神社の賽銭箱・・・!」
そして少しずつ、謎の文字列のキーワードが明らかになってゆく
「の、銭、げ入、者・・・むう?」
「げ入・・・げ入・・・投げ入れ・・・者??」
「む・・・! 銭を投げ入れた者・・・」
その後、解読作業が延々と続き、いつの間にか辺りもすっかり暗くなっていた
「博麗神社の賽銭箱に、銭を投げ入れた者・・・」
「その者・・・ここら辺はちょっとわかんないけど・・・夢、かなえる、であろう・・・」
二人の解読が終わり、ふーっとため息がもれる
「う~ん・・・この読めない部分が気になるなぁ・・・」
妹紅が諦めきらないと言わんばかりに、書をじーっと睨みつける
「これは私の推測だが・・・多分その読めない部分は」
「読めない部分は?」
「そんなに顔を近づけるな・・・多分、その者、何々の夢をかなえることであろう、みたいに・・・」
「ふむふむ」
「だから顔が近い! ・・・まあ、言ったとおりに回りくどく書いてあるんだろう」
「・・・ふーん?」
「そうして書いたほうが読み手に対して色々と・・・私はそんな事しないが」
「昔の人ってめんどくさいことしてたんだねぇ」
ぱったーんと妹紅が体を後ろに倒し、うーんと背伸びをする
「妹紅も相当昔の人だろう・・・」
「ははは、それは言いっこなし!」
そして二人は談笑を交わしつつ、夜も更けていった・・・。
翌日の昼過ぎ、慧音宅の先に二人が立っていた
「妹紅、本当に行くのか?」
「うん、私が拾ったんだし、どうせだから賽銭箱に投げ込んでくるよ」
「そうか・・・私はここであの書物を詳しく調べなおしてみるよ、気をつけるんだぞ」
「ふふ、大丈夫だって、私は不死身だよ?」
会話を交わし、妹紅は神社へ向かわんと振り返る
「ああ、わかってるさ・・・なあ、妹紅」
「ん?」
ふと、慧音が呼び止めた
「・・・その、お前の叶えたい夢・・・は・・・・・・いや、やっぱり・・・」
「ん~、はっきりしないなぁ・・・ま、大丈夫大丈夫、慧音が心配してるような夢じゃないわよ」
「そうか・・・ん、わかった、行ってこい!」
「うん、行ってくるよ、でも、まだ叶うかどうかすらわからないんだけどね、あはははは」
「・・・ははは、確かにそうだったな」
慧音の苦笑を聞きながら不死鳥がゆっくりと空へ舞い上がり、空に赤色の軌跡を残す
「さて、私ももう一仕事か」
見届けた慧音も体の向きを変え、家の中へと姿を消した
だが、夢を叶えんとする妹紅の先に待ち受ける運命は、あまりにも過酷だった
「どいてどいてー!!」
「ほへ?」
人里が見えなくなった頃に、突如来襲した幻想郷最速の烏天狗
その衝突時の破壊力は、バットレディスクランブルをも上回った
「いっ・・・・・・ったぁぁぁぁい・・・・・・」
衝突の衝撃で体勢が立て直せず、地面にまで落下した、苦痛に満ちた表情で空を見上げる
その見上げた先には、火達磨な状態で悲鳴を上げながら飛んでいく烏天狗の姿があった
「あー、まー、そりゃ燃えるよね」
普段、妹紅は全身に高温の炎をまとわせながら飛ぶ、そこに体当たりなどしようものなら無論こうなる
「あいたたたたた・・・いきなり前途多難だ・・・」
妹紅は思いっきり追突されたわき腹を抑えながら、再度空へと飛び上がった
「どけどけー!!」
今度は、魔力をまとった魔法使いに体当たりされるとも知らないで
「うぅ~・・・・・・」
紅魔館を囲む湖、そのほとりにもんぺを来た少女の姿
「今のは・・・ちょーっとやばかったなぁ・・・」
ぷかりぷかりと湖に浮かぶ、その目に映るのはただただ広大な空
魔法使いのブレイジングスターとやらで吹き飛ばされ、なお喋る元気は失わない
ちなみに紅魔館に向かっていた魔法使いとは、衝突後約一分ほど空中をランデブーしていた、無意識で
「ふはぁ・・・さて、そろそろ生きますか」
誤字ではない、それは置いといて、少女がゆっくりと飛び上がる
「うへぇ、体が濡れて力が出ない」
やれやれといった表情で水を切るように腕をぶんぶんと振る、その時だった
「あー! お前はあの時の鳥ー!」
「あ?」
ふと横を見れば、そこには氷の妖精、チルノ
「この前はよくも半溶けにしてくれたなー!」
「あらら、厄介なのに会っちゃったなぁ・・・」
二人の相性は悪い、火と氷だからだ、だが実の所、一方的にチルノが敵対視しているだけだが
「食らえ! パーフェクトフリーズ!」
そして今日の妹紅のコンディションは最悪だった
まず、二度の体当たりで体力を消耗、二度のリザレクションで魔力も消耗
極めつけは、全身びしょ濡れの体、火が出しづらいどころか、相手にとっては最高の状態
「やーいやーい! ざまーみろ!」
もちろん敵うわけもなく、氷付けとなって沈んでゆく妹紅
「(あーもー、なんで私ばっかりこんな目に・・・・・・どれも、これも、輝夜のせいだ!)」
遠ざかっていく湖面を見ながら、頭に浮かぶは輝夜の姿
「だぁぁぁーーーー!!」
誰にも届かぬ叫びをあげ、怒りに任せて炎を作る
チルノの目には、まるで湖底に噴出すマグマのように映っただろう
ここで慧音の雑学メモ
水が非常に高温の物質によって熱されると、一気に沸点を飛び越えて気化する
もしそこが水中なら、水によって逃げ場の無い蒸気はどこへいくか
勿論、行く場所の無い蒸気はそこに溜まり、どんどんと圧力が増してゆく
そしてその圧力が密閉している水を吹き飛ばすほどまで達した時、大爆発を起こす
これを水蒸気爆発と言う、なお、妹紅の火によって起こされる爆発を妹紅水蒸気爆発とは言わない
ズンドボォォォン・・・・・・
「うわぁ・・・綺麗な水柱」
魔法使いを止めれなかった罰として、門柱に磔にされた門番の目に浮かぶ水柱
ふと彼女の視点に、吹き飛んでいく人間と妖精の姿は映ったが、映っただけだった
「うう・・・確か輝夜に同じ事やらされたっけなぁ・・・」
吹き飛んだ先の森の奥に地面に倒れたまま、ぶつぶつ呟く妹紅の姿
「私って学習能力無いなぁ・・・あはははははは・・・はぁ」
空笑いをあげながらまた空を見上げる、大分日も傾いてきたようだ
「よっこいしょっと・・・」
むくりと体を起こして土をはらう、一気に加熱したせいで服も乾いたようだ
そのままゆっくりと振り向くと、一言
「そこ、いるんでしょ?」
振り向いた先の大きな木の裏、そこに向かって言葉を飛ばす
そして木の陰から一人、すぅっと姿を現した
「気づかれちゃったねぇ・・・」
「そりゃ、そんなに馬鹿でかい魔力してたら隠すだけ無駄だって」
妹紅の前に現れたのは、上から下まで青一色で統一された服を着こなし
変なとんがり帽子を被った不思議な女性だった
その緑色の目と髪がより彼女の奇抜さを際立たせている
「あんたは神社の宴会の時に何回か見たことあるよ、確か、魔理沙のお師匠さんだっけ?」
「そういうあんたは蓬莱人の妹紅・・・だったわね」
傾いた太陽のに照らされる森の中
悠久の時を生きる魔法使いと、永遠の時を生きる蓬莱人が向かい合った
「で、何の用? 大した関係でもない私に会いに来るって事は、それ相応の事よね?」
「そうさね、簡潔に言おうか」
魅魔が顔を下に向けて一息つき、再度妹紅へと顔を向ける
「あんたが持ってる銀の古銭、それを渡しな」
「嫌」
彼女の提案を0.01秒で断る妹紅
あまりの返答の早さだったが、魅魔もそのぐらいは予想済みだったようだ
「・・・あのね、あんたはそれがどんな物か分かっているのかい?」
「私の夢を叶えてくれるもの・・・かな?」
「夢・・・か・・・・・・はっはっはっはっは・・・」
「あ、あは、あはははははは」
二人の笑いが森に木霊する
「はっはっはっはっは・・・・・・・・・どいつも!こいつも!!お前もかっ!!!」
ズドゥン!!
「わわっ!?」
魅魔の叫び声と共に放出された魔力で、周囲の木が吹き飛ぶようになぎ倒される
「あんたは! わかっているのか! その夢を! 願いを! 叶える事で! どれだけ不幸になるか!」
「ちょ、ちょっと待って、おおお落ち着いてー!」
妹紅に状況を判断している余裕は無い、今、目の前で圧倒的な魔力を纏って激怒している女性
その強さはこうして対峙するだけで、自分よりも、今まで戦ってきた誰よりも強い事がわかるからだ
「いいか! その古銭はね! 紅い悪魔も冥界の主も、月の姫や隙間の妖怪すら扱ってはいけないものなんだ!」
「ひひゃ、ひゃい!」
「それでもあんたは! その夢を叶えようというのかい!?」
「ごごごごめんなさい!!」
圧倒的精神的破壊力を持った魅魔の一喝の前に、つい尻餅を突いて謝ってしまう妹紅
「かか、返します! 返しますから!」
ポケットからすばやく古銭を取り出し、魅魔へと差し出す
その顔からは恐怖に満ちた表情が見て取れた、人は虚を突かれた事柄には、やんごとなく弱いものだ
「・・・・・・(ハッ!)・・・・・・あ、ああ、すまないね、私も少し取り乱してしまったよ・・・BeCool・・・BeCool・・・」
胸に手を当て、深呼吸して息を整える、ふぅっと息を吐いたとき、そこには穏やかに厳しい顔が戻っていた
「ふう・・・ま、なんだね、物分りがよくて助かったよ・・・なのにそれに比べて私の馬鹿弟子ときたら・・・・・・」
「そ、そうですか・・・」
額に手を当て、何かぶつぶつ言いながらゆっくりと妹紅へと歩み寄る
妹紅はというと、異常なまでの威圧空間から解き放たれた反動で、全身緩みきっていた
「まあともかく、その古銭はね、どこかの古物商にでも持たせておくのが一番なのさ」
差し出された魅魔の手に、妹紅も古銭を渡さんと自分の手を差し出す
「・・・しょうがないよね、あの隙間妖怪とかでも扱えないんじゃ、私には過ぎすぎた代物かぁ」
「そういうこったね・・・あんたには悪いとは思ってるから、いつか埋め合わ―――!!」
途端、魅魔の視界に紅色が飛び散った
「・・・いったぁぁぁぁぁぁぁーーーい!!!」
それは一瞬、ほんの一瞬、彼女らの間を通り抜けた紅い閃光が、妹紅の右手ごと古銭を奪っていったのだ
「今のは湖の悪魔だね!? ・・・まったく! この私から逃げ切れるとでも・・・」
その体に魔力を纏い直し、飛び去っていく悪魔の方を振り向いた瞬間、魅魔の動きが止まった
「・・・・・・妹紅、ちょいとひとっ飛びして今の馬鹿から古銭を取り戻してきてくれないかい?」
「あいたたた・・・・・・え?」
すでに直った右手をさすりながら、妹紅がほえ?とした表情を見せる
「大丈夫さ、泥棒にはきつーい一撃をお見舞いしてやったから、あんたでも追いつけるよ」
「え? あ、でも・・・」
「いいからとっとと行きな! あれがどんな物かわかってるんだろ?!」
「ははは、はいぃ!!」
魅魔のまたもや厳しい一喝で慌てふためきながら悪魔の後を追う妹紅
それを見届けながら、魅魔はその体を纏う魔力をさらに増大させてゆく
『うふふ、さ~て、この先どうなるのかしら・・・』
ふと、どこからか女の声が響く
「・・・あんたが協力者かい? それとも・・・黒幕かい?」
魅魔が言い終わると同時に、ぬっと空が割れ、空間の隙間が現れる
「私はどっちでも無いわ、しいて言うなら、特上席で観戦しているお客様ね」
その隙間から姿を現したのは、やはり隙間妖怪
「そうかい・・・なら、会場に乱入したお客様はつまみ出さないとね」
「あら? 私も乱入した警備員をボランティアで排除するお客様ですことよ」
ぴくり、と互いの視線が合わさる
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
ざわり、と森の空気が変貌する
「二十年前の悲劇を繰り返させはしないよ! 隙間の妖怪!」
「これは儀式、幻想郷を保つための・・・邪魔はさせないわ! 博麗に潜む悪霊!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・
「な、何よーっ!? この揺れはー!?」
「湖の南の方で魅魔様と紫がマジ弾幕勝負してるぜ!?」
「よそでやりなさいよばばあども!」
「「・・・(ピクッ)・・・」」
「なぁアリス、湖の南のほうから凶悪なほどの弾幕が紅魔館に向かって飛んできてるぜ?」
「どうやら聞こえちゃったみたいね、どうしましょうパチュリー?」
「どうするも何も、こんなの当たり判定が一ドットでも避けようが無いわ、ねぇ魔理沙?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・
紅魔館の周辺で大規模な無差別破壊が繰り広げられている頃
紅の悪魔が夕焼けがかった空を弱々しく飛んでいた
「ハァ・・・ハァ・・・くぅ・・・・・・」
その表情からは、かなりの苦痛が見て取れる
「あの一瞬で・・・おのれ!」
森の中でレミリアが二人の隙をつき、妹紅の右手ごと古銭を奪い取った瞬間
その一瞬に、魅魔は身に纏わせていた魔力を全てレミリアに叩き付けたのだ
しかもその魔力を、破壊するのではなく、衝撃として体や魔力に響くように叩き込んだ
それによってレミリアの体には、しばらくの間、重い重い痛みだけが残る事になる
「・・・見えた!」
アフリカ象ですら気絶しかねない痛みに耐えながら、それでもなお博麗神社へと進む
そしてその視界に、ようやく赤く映える鳥居が映った
「待てー!!」
「!?」
だが、博麗神社まであと少しという所で、後方から燃える鳥が迫ってきていた
「くっ・・・!」
レミリアにとってこの状況はあまりよろしくない
魅魔によってダメージを負わされた体、今だ日の沈まぬ空
何よりも、妹紅は炎を扱う、直接的な弱点ではないが、相性はどちらかというと悪い
かといってこのまま逃げ切る事も不可能だ、だが、このとき彼女はさらに致命的なミスを犯した
「そこだっ!」
「しまっ・・・!」
痛みと焦り、状況判断の遅れで周りを把握しきれなかったのだ
そして彼女の予想以上に妹紅は速かったのも要因である
それによって妹紅の放った弾が直撃し、地へと叩きつけられる
くしくもそこは、妹紅が古銭を発見した場所でもあった
「よし、後は取り返すだけ!」
空に舞った日傘を一瞬だけ視界に捉えながら、落下したレミリアの元へと向かう
今はまだ日中、真正面からやりあっても負ける要素は無い、そう思っていた
だが、その目論見はくずれさった
「ガアアアアアアアアアアアアッ!!」
悪魔の咆哮が響く、溢れる魔力が空気を揺らす
「えっ!?」
そして妹紅の視界を赤い霧が覆った
その霧はそこだけにとどまらず、周辺の森、山、神社までも覆っている
「こんな奥の手が・・・」
今、妹紅の視界はかなり奪われている、一米先が見えるのがやっとといった所だ
「あの吸血鬼はどこに・・・うっ!?」
レミリアを探そうと周りを見渡した途端、自分の心臓に何かが突き刺さる
霧の中から伸びた腕が、妹紅の胸を貫通し、引き抜かれる
「ごほっ!!」
「小娘が・・・! 私の邪魔をするなぁっ!!」
レミリアは引き抜いた腕でそのまま、妹紅の体を中空へと殴り飛ばした
「何よこの霧は・・・・・・これじゃ掃除が出来ないじゃないの!」
その頃、博麗神社の巫女、博麗霊夢は掃除の仕上げの真っ最中であった
「またレミリアが何かやってるのね・・・」
赤い霧に困惑しながらも、ざっざっざっ、と、かき集めた落ち葉を一箇所にまとめる
彼女曰く、こういうときは何もせずに、とりあえず何か起きるまで待つのが得策だ、とか
ボスゥンッ!!
「・・・はい?」
突如、彼女の目前を何かが通った、いや、むしろ何かが跳ねていった
「・・・・・・・・・・・・」
今、彼女の目の前にあるのは飛び散った落ち葉だ
昼前からずっとサボらずにひたすらに広い境内を掃き続けて集めた落ち葉だ
そして今、その落ち葉の一部は、彼女を葉っぱ色にデコレーションしている
「・・・・・・・・・・・・」
その時、少し彼女の周りの霧がぐにゃっと歪んだ気がした
「・・・ハァ・・・ハァ・・・」
少し息を切らしながら、レミリアが境内へと降りる
呼吸を抑え、自らを落ち着かせ、威厳を保ち直す
「・・・もうこれで、邪魔者はいない・・・よし!」
奪い取った古銭を取り出し、握り締め、そのまま賽銭箱がある場所へと歩む
そして着地した場所から約十歩ほど歩いた所だろうか
ふと彼女の前に、人影のような物が映った
「誰? 私の邪魔をするのならただじゃ――」
その人影を直接目で視認した時、レミリアの体が強張る
「・・・・・・レミリア」
乾いた声が響く、悪寒が走る
背中を、脚を、腕を、首を、頭を、余す所なく駆け巡る
汗が流れる、冷たい、冷たい、汗が流れる
「ああ・・・」
声と共にレミリアの体から力が抜ける、その目から光が失われる
そこに、楽園の素敵な巫女はいなかった
そこにいたのは、妖怪を調伏する博麗神社の巫女、博麗霊夢
「(・・・どれだけ運命を操っても、変えられぬ未来・・・か)」
そしてレミリアは、自らの最後を受け入れるように・・・目を閉じた
「コホッ・・・ケホッ・・・まったく、今日は散々だよ・・・」
ボロボロの体を抑えつつも空を見上げながら、妹紅が悪態をつく
「こんな事なら、あんな物拾うんじゃなかった・・・」
昨日の出来事を後悔しながら、魔力を循環させて体を癒していく
「はぁ・・・・・・」
癒えていく体を見ながら、近くの物に背を持たれ、一息つく
すると妹紅の目の前に、コロンコロンと、あの古銭が転がってきた
「・・・・・・・・・」
無言のまま、ひょいとそれをつまみ上げる
「・・・はははは、取り戻したよ、魔法使いさん」
聞こえないけれども、言ってみる
そして立ち上がり、癒えた体を労る様に、ゆっくりと背伸びをした
ふと、右手の力が抜けた気がした
「ありゃ?」
後ろに沿った腕の先から古銭が落ちる
ふと気がつけば、さっきまで自分が背もたれていたのはなんだったか
カランカランと音がする、音のした方向を見る
それは、木の箱、神社の宴会で、巫女が何度も見てはため息をついていた賽銭箱
「ほりょ?」
妹紅の口から、もう一度みょんな声が出た
そして賽銭箱から、光が放たれた・・・
博麗神社から少し離れた森の中で魔法使いと妖怪が弾幕を繰り広げあう
もはや木々は消し飛び、地形は変わり、もはや荒地ではあるが
「なかなかやるね・・・、だけどいい加減に客席に戻ったらどうだい?」
「あら、もう戻るわよ? ・・・だって、全てが終わったんだもの」
「なんだって!?」
魅魔が博麗神社の方へと顔を向ける、その先では、光の帯が天を貫いていた
「なんてことだ・・・またあの悲劇が繰り返されるのかい・・・」
「・・・クスクス、二十年前に古銭を賽銭箱に入れた人は、今どんな思いかしらね?」
紫はどこからか取り出した扇で口元を隠し、ゆっくりと魅魔の方を見る
「・・・うるさいよ・・・・・・夢なんて、叶ってしまえば醒めてしまうのに・・・」
「そうね・・・さぁ、私達も行きましょう、そろそろ、他の皆も集まってくるわ」
「・・・そうだね、誰が入れたとしても精一杯祝ってやるとするかい」
そして光の帯に導かれるように妖精や幽霊、妖怪、人間が神社へと集ってゆく
・・・・・・ラァ~ン・・・
「・・・・・・ん・・・?」
カラァ~ン・・・カラァ~ン・・・
「何・・・? 鈴の音・・・?」
神々しい音色で、妹紅の意識が覚醒する
目を開けたときはまばゆい光に包まれていたが
その光も徐々に和らいでゆき、段々と風景が視界に形作られてゆく
パチパチパチパチパチパチパチパチ・・・・・・
「・・・・・・?」
そして次に聞こえてきたのは拍手の音か
ふと、今まで壁だと思っていたのが、見たことのある人や妖怪達だと気づく
みんな笑顔でこっちを見、時折、おめでとう、おめでとう、と聞こえた
「・・・・・・??」
妹紅はまったく状況が飲み込めていないような顔で、あたりを見渡そうとする
しかし首が動かない、体は動いていた、ゆっくりと前に向かって歩いている
だけど自分の思い通りには動いていない、まるで、何かに動かされているように
「・・・・・・!」
何か喋ろうとするが、声が出ない、口も動かす事が出来ない
そしていくらか歩いた後、体が止まる、何故か目の前には亀がいた
何か亀が喋ってるようだが、声が小さすぎて聞き取れない
「(これって・・・何?)」
耳に意識を集中して、亀の声を聞き取ろうとする
そしてほんの一言、ある言葉が聞き取れた
「・・・・・・それでは、結婚の誓いを――」
博麗神社の賽銭箱に銀色の古銭を投げ入れし者
その者 博麗霊夢を嫁に迎える者となるであろう
「うわぁっ!?」
悲鳴と共に目が覚める
「ハァ・・・ハァ・・・・・・」
あたりは暗く、視線の先には木の板が見える
「・・・・・・ゆ、夢・・・?」
どうやら見えているのは天井のようだ
「は・・・はは・・・夢か・・・はははは・・・はぁ・・・」
安心感が満ち、安堵の溜息が漏れる、妹紅の顔に笑顔が戻る
「(・・・あれ?)」
と、その時、違和感に気づいた
「(家の天井・・・こんなのだったっけ?)」
住んでる家とも違う、かといって慧音の家とも違う
そして何よりもう一つの違和感があった
「うぅ・・・ん・・・」
「!!!!????」
ビクゥッと妹紅の全身が跳ねる
「んん・・・どうしたの・・・もこ・・・?」
妹紅の全身からどっと汗が吹き出る
胸元に誰かがいる、一緒に寄り添って誰かが寝ている・・・
見ちゃいけない、見ちゃいけない、見ちゃいけない、見ちゃいけない・・・
そう心の中で何度も念じるが、その首は徐々に足元の方向へと向いていく
「あ・・・ああ・・・・・・ああああ・・・」
黒い髪・・・輝夜? 違う、輝夜はもっと髪は長かった
じゃぁ、誰? まさか、そんな、あれは夢だったはず、夢のはずなんだ夢の・・・
「もこー・・・・・・?」
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
後日、陰陽玉から弾のように可愛い赤子が生まれたそうな
とりあえず、コメント一番のり=古銭投げ一番乗り=霊夢嫁m…(霊夢ファンよりウイルスの嵐
「玉のように」じゃなくて「弾のように」なのですね。
流石は「弾のお客様」だ。
嫁ですか? 私は慧音を(エフェメラリティ137
陰陽玉の謎が更に深まったのは気にしたい方面!
とりあえずファンタシースターⅢを幻視した私は何物ですか?
確かにこれならレミリアが異常に必死な理由も幻想郷に必要うんぬんも判りましたよ。
もこたんには是非幸せになってほしいですねw
タイトルを見たときの予想を色々と超えてた。
とゆーわけで80点。
こんな話も有りですなぁ…。
しかしこれを不幸と言い切る魅魔がすごい。
今作は完全に短編物として作りました、では今作の裏設定でもドゾ
・二十年前に古銭を投げ込んだのは魅魔
・扱っていいのが古物商だけなのは、その古物商が唯一のおと(ry
・魅魔の「どいつも、こいつも」に該当するのは魔理沙とかレミィとか
・無論、レミィは古銭の効果を知っていた
・妹紅が散々な目にあったのはレミィの運命操作によるもの
・結局魅魔は二十年前の件の後、夫婦喧嘩で博麗神社に恨み→東方封魔録(マテ
・妹紅の言う「夢を叶える」は文字通りだが、魅魔は魔理沙やレミィと同類と誤解(ワカリヅライ)
・書物がボロボロなのは、まぁ、書物をめぐって色々と(ry
半分くらいしか生きてないだろ…
しかし、文がところどころ抜けている気がする。
行間を読めということで片づけるには、ちと無理と感じるくらい。
裏設定があるのなら、本文でそれとなく示しておかないと。
次期性能が卑怯くさいwww
でも、少し原作奇妙とは違う感じ雰囲気がしました。でも、これはこれでおもしろい話でしたよ。