Coolier - 新生・東方創想話

Intersection

2006/02/21 19:44:25
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「死ぬということは、生きているよりいやなことです。
 けれども、喜んで死ぬことが出来れば、くだらなく生きているよりは幸福なことです」

谷崎潤一郎






<1>

その日の天気は曇り空だった。
太陽はかろうじてその丸い形だけをさらしているだけで、強烈な日差しは入ってこない。
幸い、雪が降っていないのが何よりであったが、この様子であれば、いつ豪雪になるかおかしくはなかった。

ここは博麗神社。幻想郷と外の世界の境に位置する神社である。
この世界においては宴会場として使用されるのが専らであったが、それ以外は巫女以外誰もいない寂しい神社であった。
つまり、この神社にただひとり暮らしている巫女―――博麗霊夢は事実上、ひとりぼっちだった。

既に先代は亡くなっており、今は彼女がこの神社をやりくりしている事となる。
だが、博麗霊夢その人は、巫女稼業も今日で終了だと考えていた。

霊夢は鏡に映る自分自身の姿を見た。下手をすれば、自分の顔を見るのも今日で最後かもしれない。
彼女のトレードマークである大きな紅白のリボンを身につけると、フッと微笑んだ。

これで全てが終わる。霊夢はそう確信していた。
今までの記憶がどうとか、過去がどうたらは全く関係無い。そう、決着を付ける時がやってきたのだ。
彼女は今から殺し合いをしにいくのである。この服は、死装束には似合わないかもしれないけれど。
しかし、考えてみれば彼女・・に見せる最後の姿になるかもしれない。
身なりはそれなりに整えておく必要があった。

霊夢は一通りの確認を終えると、その部屋から出て行った。
障子を閉めて、前を見やる。そこには普段の光景が飛び込んできた。一面の銀世界であるが、博麗神社である事は変わらなかった。
この神社とも、別れを告げなければならないかもしれない。それは希望的観測かもしれないが、現実でもあった。

「うーん、なかなかサマになってるじゃない」

霊夢の姿を見て、ひとりの女性が言った。
八雲紫。ありとあらゆる境界を操る能力を持つ妖怪である。
長い間を生きていたためか、落ち着いた物腰と言動を持つ美女で、とにかく年下への面倒見がとても良い事で知られている。
かくいう霊夢も、様々な機会において紫の掩護を受けてきた。それと同時、2人はとても仲が良かった。

「やっぱり貴女も導師服は似合うものね」

紫は霊夢の全体を見て言った。
現在、霊夢が着用しているのは八雲紫が普段着ている導師服である。
それといっても紫のスペアであり、霊夢に合わせてサイズを若干直し、色は紅白色に変えてあった。

「ありがとう、紫」
「どういたしまして。………霊夢、わかってるわよね?」

紫は念を押すように言った。紫は今から最後の戦いを行う霊夢の身を案じていた。
それは長年友達であり続けた彼女の、ささやかな励ましだった。

「ええ、あいつとの決着は、私以外他にはいないから」

霊夢は目を瞑って言った。外の風が冷たく、吐く息が白かった。

「全く、私も馬鹿な奴を弟子にしちまったもんだなぁ」

そう言ったのは博麗神社の祟り神こと魅魔だった。
数年前、霊夢と戦った時と変わらない格好をしているが、彼女の心は変わっていた。
今まで面倒を見てきてやった2人がすれ違うようになってしまったのは、どうしてだろうかと魅魔は思っていた。

「……決着だぜ。そんな言葉、霊夢には合わないよ」

魅魔は腕を組みながら言った。同時に呆れてもいた。
あんなに仲が良かったあの2人が、ついにどちらかが死ぬまでの戦いを演じるのだから。

「ごめんなさい、魅魔。…でも、私が決めた事だから」

しっかりと前を見据え、霊夢は言った。
その黒い瞳が一段と輝いていた。

「言うねぇ。お前も成長したもんだ。良い眼をするようになった」

そう言うと、魅魔は右手を霊夢の右肩にポンと乗せた。

「いいか霊夢。殺すつもりで戦え、そしてあいつにガツンと言ってやれ。
 あいつは単純だからな。お前なら勝てる。だから勝って、馬鹿弟子を鍛えなおしてやってくれ」

それは魅魔からの願いだった。
少なくとも、今霊夢が戦いに挑む相手は彼女の弟子なのだから。
家を捨て、親を捨て、家族を捨てた魔法使いの少女を拾い、一人前になるまで育てたのは魅魔だった。

「霊夢。私も魅魔と考えている事は殆ど同じよ。貴女なら勝てるわ」

紫はその眼差しを霊夢に向けて言った。
霊夢から見れば、『あの八雲紫』が本当に泣きそうだったのは、恐らくこれが最初で最後かもしれなかった。

「大丈夫よ。私があいつに負けるはずがないわ。必ず叩き潰す」

魅魔と紫はその眼を疑った。
霊夢は復讐心に燃える犯罪被害者のような形相をしていたからだ。
だが、彼女とて悲しんでいるのは理解できた。それは当然なのだから。

霊夢は戦いをしに行くのだが、それは戦いというより殺し合いに近かった。
それなのに「叩き潰す」という表現を使ったのは、やはり殺したくない相手だからだ。
それに、霊夢に「殺す」という言葉は余りにも不適合だった。

「霊夢、寒いでしょ……」
「紫……」

紫は霊夢にてきぱきとマフラーをかけてやった。
そして、霊夢の赤くなった頬に自身の両手を合わせた。
霊夢は、本当は外にいたために紫の手は恐ろしく冷たいはずだが、何故だか暖かく感じられた。

「生きて、帰ってきなさい」
「………当然よ。こんな所でくたばってたまるもんですか」

霊夢はにっこりと笑顔を浮かべて言った。

「じゃあ、行ってくるわね」
「ああ、精一杯やってこい。そして、あいつをここに引きずり出して来い」

魅魔は笑っていた。何故笑っているか、それは自分でもわからなかった。
本当は笑えないはずの絶望的状況であるにもかかわらず、魅魔は笑顔だった。
それは、霊夢が彼女に勝利するという絶対的な確信があったからかもしれなかった。

「……行ってらっしゃい、霊夢」

紫が言った。霊夢は無言で頷いた。
雪で積もった博麗神社の敷地を霊夢は歩いていく。
目指すは神社の裏山。そこに、戦うべき相手は待っている。

魅魔と紫は、霊夢の背中が見えなくなるまで見送っていた。
その時、天空からは白い固体が降ってきた。雪だ。

「雪………か」

魅魔は大空を見上げて呟いた。
それと同時、自分の隣で膝を付いた人物に驚きの視線を向けた。

「お、おい紫! どうした!?」
「……みまぁ。霊夢が………霊夢が行っちゃうよぉ………」

八雲紫は泣いていた。その泣き方は半端ではなかった。

こいつはさっきまでずっと我慢していたのか? その我慢が一気に噴出してしまったと言うのかい!?
魅魔はそう思い、八雲紫という人物は、そんなに精神的に弱かったかと思っていた。

「おいおい。落ち着け。行くって言ってもな、霊夢は必ず帰ってくる。だから泣くな。お前らしくも無い」
「でも………でも………」

参ったな……。魅魔は自分自身を呪いたくなった。
彼女は知らないが、八雲紫はある意味で精神的に弱い部分があった。
普段は強気な発言と胡散臭さで知られ、幻想郷の誰よりも強く、一部の強者を除いて倒せない存在と知られていた。
だが、八雲紫は辛い過去を背負っていた。それは孤独だった。

幻想郷が今のように隔離される以前から生きていた彼女にとって、その人生は長く、辛いものであった。
なにしろ隔離される以前の幻想郷は、人間と妖怪が互いを殺し合う戦国時代。その戦乱の時を、紫は生き延びてきた。
当時から強大な力を持っていた彼女は、軽い力で人間や同属の妖怪を簡単にひねり潰す事ができた。
それ故、その自分こそが正しく、それが幻想郷での存在意義であると認識されてしまったのである。

だから、彼女の周りには誰もいなかった。
八雲紫という妖怪は人間はそもそも妖怪側からも恐れられ、『彼女と出会ったら間違いなく殺される』というデマですら流布していた。
紫は常にひとりぼっちだった。孤独に怯え、風説に恐怖し、人生そのものを呪いたくなり、死にたいと思った事があった。
彼女はその戦乱の世を生き延びた事は生き延びたが、代わりに失った物は余りに多すぎた。

紫にとって大切だったのは、自分自身を怖からず、優しく受け入れてくれる家族や友人だった。
だからこそ、別れについての感受性は、人一倍強かった。それは強すぎたと表現すべきだろうが。
ともかく、紫は大切な誰かを失う事は肯定できなかった。空想でもいい、妄想でもいいから否定したかったのだ。

「いいか。霊夢はあんな魔法使いに殺されるタマじゃない。きっと戻ってくる。生きて最高の笑顔を向けてくれる」
「……………本当?」
「当たり前だ。あいつを死なせてたまるかよ……」
「………信じて………良いわよね?」
「ああ、信じろ。そして応援するんだ。霊夢はきっと勝つ。そして、……あいつを連れて帰ってくるさ」

魅魔がそう言うと、紫は何かが爆発したかのようにむせび泣いた。
それは彼女が始めて見せた涙だった。

(そうか……、紫に必要だったのは―――)

泣きじゃくる紫を優しく抱き締めながら魅魔は思った。

雪は止む気配を見せず、強く降ってきた。
そういえば、雪が降る日は何かが起きると言われているが、それは確かに本当の話だったかもしれない。
魅魔は目の前の現実を受け入れながら、ただひたすら、何かを考えていた。






<2>

霊夢との決戦を迎える1日前、霊夢と戦うになるその相手は、雪の降る魔法の森を歩いていた。
もはや空を飛ぶ事なんてどうでも良くなっていた。何故ならば、自分は博麗霊夢に殺されるという運命を受け入れるのだから。
だが、ただでは死なない。幻想郷最強の魔法使いという存在を見せつけ、桜花の如く散っていく。
これが彼女―――霧雨魔理沙という女の物語の終幕と、彼女自身は考えていた。

「………それにしても、相変わらず寒いぜ」

魔理沙は大きく息を吐いた。季節は冬なので、当然ながら吐く息が白かった。
彼女の服装は、かつての白黒の衣装とは大きく変わっていた。
外の世界から持ち込んだのか、よくわからない服をまとい、スカートにドロワーズだった当時とはうってかわってズボンを履いていた。
髪もかつては背中に届く辺りだったが、今では腰の辺りまで伸ばしている。
そして身長もかなり伸びた。数年前までは魂魄妖夢と変わらないほど小さかったが、現在は170cm近くあった。

空は曇っており、まるで工場で製品を組み立てるかのように雪を生産し続けていた。
森の中に人為的に作られた道を歩く。そこには数羽の鳩がいたが、魔理沙が近付く前に飛び立っていった。
彼女が発する異様なオーラに屈したのか、それは魔理沙でもわからなかった。

「とりあえず、あいつに顔を出さないとな…」

そのために霧雨魔理沙は歩いていた。
多分、これが最後となる。………次に彼女と会う日は恐らく無いかもしれない。その時、自分はこの世にいないかもしれない。
魔理沙は彼女との思い出を回顧していた。

随分昔に出会って、何だか良くわからない魔法を引っさげて登場したけれど、コテンパンに叩きのめしてやった。
次に会ったのが、幻想郷中から春度が奪われた事件の時。
以前と違って魔法のレベルも上がり、自律型人形を使うようになったが、マスタースパークで叩き潰してやった。
その次が、永夜異変の時であり、その時は共に戦った。
ついでに言えば、今までの仲間が集まって、宇宙人を共同戦線でボコボコにしたのが正しい。

魔理沙は永夜異変の時は、あれは集団リンチに近いのではないかと思っていた。
まあ、今となっては懐かしい思い出である。その思い出も、自分から消えかかろうとしている。
しかし、魔理沙はそれも普通のものだと考えていた。何故ならば、本当に消えると思っているのだから。

しばらく歩いて、魔理沙は目的地に到達した。
自分がかつて暮らしていた家とほぼ同じ作りの西洋建築の住居。
彼女が直截ここを訪れるのは随分久しぶりだった。あいつ、どうしてるかな? 生きていればいいけど。

魔理沙は意を決して、扉を叩いた。
ドンドンという音が、雪の降る森に響いた。
しばらくして、内部からトタトタと足音が聴こえた。

「はい、どちら様―――――」
「よぉ、久しぶり」
「……………ま、魔理沙………なの?」

魔理沙は眼前の少女を見た。彼女は、あの時から全く変わっていなかった。

「迷惑かけたな、アリス」
「魔理沙………魔理沙ぁっ!」

その少女、アリス・マーガトロイドは魔理沙に飛び付いた。
魔理沙は笑いながらアリスを受け止める。ああ、何年振りの再会だろう。
でも、このぬくもりを感じられるのは、わずかでしかない。

「本当に魔理沙なの?」
「お前が間違えるはずはないだろ? 私は正真正銘の霧雨魔理沙だぜ」

アリスは魔理沙の顔を見た。アリスから見れば、それはとても綺麗な女性だった。

「魔理沙…。髪も身長も伸びて……。うん、凄い美人になったわね」
「私はそうだと思わないけどな。…とりあえず、中入れてくれないか? 外は寒すぎるぜ」
「え、ええ、わかったわ。さあ、入って」
「じゃあ、遠慮なくお邪魔するぜ」







「それにしても………。変わってないな」

魔理沙はアリスの家の内部を見るなり呟いた。
本棚から一冊の魔道書を手に取る。

「ああ、確かこれはアリスと2人でヴワル魔法図書館を襲撃して、私が狙っていたけど取られちまったやつか。
 これが私があげた人形についての本で……。懐かしいな、何もかも」

魔理沙は魔道書を本棚に直して言った。

魔理沙の外套を掛けに行ったアリスが戻ってきた。
手には紅茶が入ったカップととクッキーが並べられた皿が置かれたトレーを持っている。

「本当に信じられないわ。魔理沙がこうやって戻ってきてくれるなんて」
「そうだな……。私が行方をくらまして何年経った?」
「……4、5年って所かしら? 私も詳しくは覚えていないけど」

魔理沙は紅茶のカップに口を付けた。味はアッサムのミルクティー。葉は紅魔館から手に入れたものだろう。
誰が煎れても確かに美味い味を提供する。たが、アリスが煎れた紅茶は、それよりも格段に美味いと魔理沙は思っていた。

「魔理沙、どうして貴女は急にいなくなったの?」

アリスは当時と変わらない表情と声で言った。
『魔法使い』という『種族』に生まれた彼女は、人間と違って第二次性徴後の成長と、後の老化は存在しない。
故に身長も魔理沙に追い越され、別次元の存在に見えた。

「………霊夢を倒すためだ」
「えっ………?」

アリスは疑いたくなった。疑問に思えるかもしれないが、魔理沙のそれは本気だった。

「私にも、誰にも言えないちょっとした事情があってな。
 …私が姿を消したのは、あいつを倒すために、鍛えるためだったんだ」

魔理沙は嘘は言っていなかった。
かつて、四季映姫・ヤマザナドゥの教えを受けた彼女はあれ以来そうなったが、アリスだけには真実を言っておきたかった。

「ちょっ……倒すって、どういう事よ?」
「だからお前にも言えない事情があるんだよ。…許してくれ、アリス」

アリスは何がどうなっていると同時に、霊夢と魔理沙は仲の良い親友ではなかったのかと思っていた。
思えば、博麗霊夢はとてもじゃないが霧雨魔理沙と仲が良かった。
自分自身よりも、魔理沙の事を知っているし、親交が深い事はアリスも認めていた。
そんな2人がどうして………。

「―――――ないから」
「…え?」
「霊夢を殺したら、例え魔理沙でも許さないから………!」

アリスは涙目になっていた。アリスの隣にいた上海人形が驚いた素振りを見せた。
何の理由があったとしても、それだけは彼女でも許せなかった。

第一、霧雨魔理沙に人殺しなど似合わないから。
第二の理由は、幻想郷で自分が知っている人間は、誰でも傷付けさせたくなかったからだ。つまり争いは嫌いだったのである。

「どうしてよ。…何でこうなっちゃうの? 
 折角皆と仲良くなれたのよ! それなのに、何で魔理沙は霊夢と戦うの!?」

魔理沙はアリスがこうなる事は覚悟の上で話していた。
彼女も気持ちも確かにわかる。だが、もはや背に腹はかえられなかった。
そういえば、何で私は霊夢とすれ違ってしまったんだろうな。

「私とあいつが敵対したからだ。それと………私は霊夢は殺さない。それだけは約束する」

魔理沙は言った。アリスはえぐえぐと泣いていた。上海人形は、何をどうすればよいのかわからず混乱していた。
確かに魔理沙は覚悟を承知の上だったが、ここまで泣かれれば手が付けられなかった。
…さて、この場合、他の人間ならばどうやって対処するんだろうなと思った。

「……絶対よ。絶対約束してね…」
「ああ、守る。…絶対に守る」

そう言って、魔理沙は再び紅茶を含んだ。

(…まさか、こんな状況でバリバリとクッキーなんて食えないよなぁ)






「…落ち着いたか?」
「……ええ、ちょっとはね」

結局、クッキーは袋に包んで後で食べる事にした。
魔理沙は泣き止んだアリスに言った。その代わり、アリスの目の周りはかなり赤くなっていた。

「アリス、実はお前に渡したい物があるんだ」
「…渡したい物?」
「………左手を出してくれ」
「…こう?」

アリスは魔理沙に言われたままに左手を出した。
一体、彼女はなにをするつもりなんだろうか。

「……合えばいいけど」

魔理沙は若干照れながら、アリスの左手の薬指にそれを通した。

「…これって」
「香霖に無理言って頼んだんだ。……その、あいつを倒して戻ってこれたら、一緒に住もう」

それは完全なる告白であり、求婚であった。
アリスは何が起こっているのか、全く信じられなかった。
両手で顔面を隠す。魔理沙はニコニコと微笑んでいた。

「…………必ず、生きて帰ってきてね」
「ああ………」






その日、霧雨魔理沙はアリス・マーガトロイドと一緒のベッドで眠った。
アリスはすぐに寝てしまったが、魔理沙はどうしても眠れなかった。
理由は決戦の日が次の日だからである。何がどうあれ、果たして生きて帰ってこれるかが心配だった。

どうだろうな。霊夢は私を本気で殺しにかかるんだろうか。
そして私は霊夢を本気で殺そうとするのか。

全く、マジで訳がわからなくなってきた。何でこんな事になっちまったんだろうか。
だが、女に二言など無い。生きるか死ぬか、殺すか殺されるかだ。

………そしてアリス。ごめんな。







翌朝、アリスは上海人形が自分の寝間着の袖を引っ張っている事に気付いて目が覚めた。
見れば、上海人形はかなり驚いたような形相をしていた。…一体何があったの?
と、ベッドの横には魔理沙はいない。トイレでも行ったのだろうか。

眠い目をこすり、アリスは居間へと動いた。
魔理沙はいない。その代わり、テーブルの上には手紙が置いてあった。
アリスはそれに気付くや否や、すぐ手に取って読み始めた。



『アリス、まずは謝る。どうやら私は本気で霊夢と戦わなければならなくなったみたいだ。
 でも、お前との約束は必ず守る。全力を尽くして、あいつを殺さずに倒す。
 だけど、霊夢は本気で私を殺しにかかるかもしれない。だが、例えそうなっても霊夢を恨まないでくれ。
 これは私と霊夢の問題で、お前は何も悪くなく、関係無いんだ。

 最後に書いておくけど、もし私が死んだら、パチュリーとフランには風土病にかかって死んだと伝えてくれ。
 私は霊夢に罪を押し付けたくないんだ。私の力を出し切って霊夢に殺されるなら、それは本望だからな。
 それと、私の家の魔道書はお前に全部譲る。もしパチュリーが返せって言ったら返してやってくれ。

 <PS>

 最後の最後まで迷惑かけたな、アリス。こんな私だけど、お前に会えて最高の人生を送れそうだぜ!

             
魔理沙』





手紙にはこう書かれていた。アリスの手は震えに震えていた。
ポタポタと、彼女の瞳から涙が零れ落ちた。

「どうしてよ。……どうして貴女はこうやって、私を関係無いように扱うのよ!
 ……お願い、元の貴女に戻って。……魔理沙、魔理沙、………まりさ――――――――っ!!!!!」


悲痛を堪える少女の叫びが聴こえたのを、霧雨魔理沙は聴いていた。
彼女は家から出て行ったわけでは無かった。家の壁に寄りかかり、アリスが手紙を読み終わるまで待っていたのであった。

「ごめん、アリス。………ごめん」

彼女はそれしか言えなかった。

……畜生。絶対に死んでなるものか。……私は生きて、こいつに再び顔を見せなきゃいけないんだ。





<3>

博麗霊夢は博麗神社の裏山に来ていた。
決戦の場所をここに指定したのは、霧雨魔理沙の方だった。

霊夢は雪原を歩き、目的地に着いた。
そこには山の入口まで続く階段があるが、登らなくてもそこに戦う相手がいるのはわかった。

「ひとつ訊いていいかしら? 何であんたはここを選んだの?」

霊夢は階段を登りながら言った。

「私かお前の骨を埋める場所は、ここより他に場所はないからだ。
 この山なら、埋葬する所なんていっぱいあるからな」
「…ウチは神社よ。そういう事なら幽々子に頼んで欲しいものだわ」

呆れながらも、霊夢は今から殺し合うはずの相手との会話を楽しんでいた。

「良い顔になったな、霊夢」
「あんたもね。お互い、美人に成長するものね」

霊夢は真っ直ぐ霧雨魔理沙を見つめた。
腕を組み、仁王立ちをするその姿は貫禄があり、カリスマが自然と醸し出されていた。

「御託なんていらない。……あの弾幕以来、私はお前を倒すために鍛えてきたっ!
 さあ勝負だ霊夢。決着を付けるぞ!!!」
「……望む所よ、魔理沙!!!」

ほぼ同時にスペルカードを取り出し、その技名を告げる。


「神霊………」――――――



――――――「恋符………」


 

「夢想封印!!!!!」



「マスタースパーク!!!!!」




互いの技が炸裂した。

凄まじい数の御札と弾丸、そして陰陽玉が放たれる。
だが、それらの弾幕は、魔理沙が放った巨大な光線によって全て掻き消された。
同時に、大量の砂埃が舞い上がった。

マスタースパークの威力は、現在ではミニ八卦炉無しでこの威力を叩き出していた。
先程まで霊夢が立っていた階段は一瞬で蒸発し、有機物と無機物両方を飲み込んでいった。

(焦るな……あいつは私を殺さない。ならば小技で決めなければならない。
 霊夢はまだ迷いがある。こんな所でいきなり大技を使うはず―――――)

魔理沙の目論見は、そこで見事に消えた。
同時に、彼女は目の前の現実が空想である事を祈った。

(………何故だ?)

目の前の現実。それは、博麗霊夢が右手を霧雨魔理沙の胸に当てている事だった。
右手には一枚のスペルカードが張られていた。

「勝負あったわね、魔理沙」

それは、あまりにも無常だった。

(………あいつは、迷いが―――――)






「霊符………博麗幻影!!!!!」







霊夢の叫びと共に、技は行使された。
魔理沙は無数の御札と共に吹き飛ばされた。
凄まじい強風が吹き、木々がなびき、雪まで飛ばされていく。

「が……がはぁっ………」

彼女は仰向けに、雪原の上に倒れていた。

(………そんな、バカな)

信じられなかった。ここでいきなり決めるなんて、信じられなかった。
起き上がろうとするが、出来なかった。そうしようとすれば、強烈な痛みが走った。

「ぐあ………」

ただ、うめく事しか出来なかった。魔理沙の肋骨は、数本折れていた。
まるで、ボディーアーマーごしであるが、至近距離で散弾銃ショットガンの一撃を喰らったような痛みだった。

霊夢が雪原を歩き、魔理沙の近くへと歩み寄った。

「おかしすぎるぜ。……どうしてあんな事がお前に出来るんだ?
 いきなりこんな大技を使うなんて………私を本気で殺すつもりだったのか!?」
「別に殺すつもりなんてなかったわよ。まあ、半分殺すつもりだったけど」

霊夢は呆れ顔で言った。

「…な、何?」
「そうでもしなきゃ、あんたは負けを認めてくれないじゃない。
 大体あんたが博麗幻影の直撃を喰らっても死なない身体ってわかってるわよ。
 全く、どれだけ戦ってきたと思ってるのよ」

弾丸のように喋る霊夢に、魔理沙はただ呆然としているだけだった。

「………そうか、迷っていたのは、私の方か」
「ようやく理解したようね。傷はゆっくりと永琳にでも治してもらいなさい」

霊夢は魔理沙に吐き捨てるように言うと、その場から立ち去ろうとした。

「ま、待て霊夢! お前、何処に行くんだよ……」
「何処って、帰るのよ」

その一言は魔理沙の心に突き刺さった。

「霊夢……頼む、待ってくれ。私はどうすればいいんだ? 私は―――――」
「誰もあんたがひとりぼっちなんて言ってないでしょ。…あんたには、帰りを待ってくれる人がいるじゃない」

そう言うと、霊夢はそこから去っていった。
それと同時、裏山の至る所から、赤十字の腕章を付けた兎達が現れた。

「あらあら、手痛くやられたわね」

完全冬期武装の上に白衣を着込んだ銀髪の女性が言った。魔理沙は彼女の方を向く。
名前を八意永琳。魔理沙とは顔見知り程度の人間だった。

「そうか、………私は全部あいつに予測されていたのか」
「そういう事。だからもうこんなバカな事は止めにしなさい。
 はい、ストレッチャー入るわよ。1、2、3、上げて!」

永琳の指示に兎達が応じ、魔理沙を担架に乗せた。

「このままじっくり永遠亭で休養ね」
「どうやらそうみたいだな……」
「まあ、安心しなさいな。あの人形師には連絡をつけて―――って、来たわね」

魔理沙は首だけ動かして、永琳の方向を見た。
そこにはアリス本人がいた。

「魔理沙………生きてるの?」
「おお…アリス。こっぴどくやられちまった」
「魔理沙………魔理沙………うわーんっ!!!」
「あー、よしよし、悪かった」

かろうじて動く右手で、アリスの頭をくしゃくしゃと撫でた。

「あらあら、女の子を泣かせると後が怖いわよ」
「…私も女なんだがな。……それとアリス」
「…………ぐすん。何よぉ?」













一方、博麗霊夢は神社へ戻っていた。
魅魔が紫の肩を叩いて反応させ、霊夢の存在を示してやった。
霊夢は笑顔でVサインを作った。


そして彼女は口を開く。それは偶然かもしれないが、魔理沙とほぼ同じタイミングでこう言った。







「「ただいま………」」

<あとがきみたいなもの>

とりあえず―――――話が強引すぎた。

どうも、月影蓮哉でございます。
やっちまいました。中身は「もし霊夢と魔理沙がすれ違って、最後の戦いをしたらどうなるか」というわけなんですが…。
それに至る経緯を書かなかったために、どんな物語やねんって(苦笑)
まあ、その経緯については、寛大な皆様の御想像にお任せします(ぁ

タイトルは「交差」という意味です。…別にここで説明する必要はないんですが。

しかし、私は誰もやらないような物語を書くのが好きなようです。
霊夢と魔理沙のガチバトル物は見た事は無いし(そもそも東方二次創作小説にバトル物は少ないような)、
香霖と紫のカップリングなんて私が先駆者だろうし(そもそもこの2人をくっつける事自体凄い話である)。

……まあね、私は頭に思いついた話はポンポン書いてしまうんで。
それにしても、今年(2006年)19歳になるのにこの程度の想像力と文章力しか持たない自分自身が恥ずかしい。
もっと本を読まないとなぁ。興味が沸かない本以外読みませんが(ダメじゃん)。
ああ、ダメだ。もっと修行しないといかんな。

ではでは、今回はこの辺で。
これ書いてる途中、メディアプレーヤーから「富士マスタースパーク」が流れて思わず歌ってしまった月影蓮哉でした。



月影蓮哉
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コメント



0.970簡易評価
2.60翔菜削除
うーん、あまり大きな事を言える身分でもないのですが。
ご自身で仰ってるとおり、経緯がなかったため『どんなんやねん』って突っ込みました。
マジ関西弁で。関西人ですから。どうでもいい。

自分としては好き方向の話なんで、経緯とバトルシーンをもっと濃く描いて欲しかったというのが本音かな。
ある程度想像してみたりはしますが、やはり読む形でというのがあります。
あと大仰な展開の割にバトルがすぐに終わったために薄く感じられました。

……僕もバトルは似たようなもんですけどねー、難しいですよねー? 勝ちバトルは・゜・(ノД`)・゜・。
3.無評価翔菜削除
勝ちバトル→ガチバトル。
今更『がち』で『勝ち』と変換できる事を知った……orz
11.40華黒雨削除
うん、ほんと後書きにあるように「どんなやねん」な気もしたけど

終わり方とか話自体はいい感じだったとおもった
12.無評価名前が無い程度の能力削除
文章が荒すぎだが、プロットとして面白い。
大きく化ける可能性を見た。
24.60CODEX削除
ズボン姿のアダルト魔理沙・・・
(親爺妄想中)
ガンスリのフランカ!?

25.80煌庫削除
個人的には好きですね。やや強引過ぎましたが。
二人の行き違いは小さいようで実は大きいものになるのだろうなぁと感じました。
次回作、楽しみにしてます。