弦楽器特有の曲線を持った黒い弦に、一列に並んでぶら下がるかくかくとした紡錘形の宝石のようなもので、彼女の羽は構成されていた。煌びやかなその意匠は、埒外の存在たる彼女を真に正面から表したようである。
幽閉されてから久しく、彼女は平原の彼方にてその門戸を開かれた。もとよりその檻を破壊する力を秘めた彼女であっても、慕う家族との絆までは破壊せしめるに至らなかったようである。その葛藤も決して特別なことではなかったのである。単に、生まれる時代の性であったのだ。
世界は広かった。近く霧の湖では湖面に跳ねる日差しが眩しかったのを覚えている。遠く地底の果てでは、臭い水の中でおぼろげに見えた幻想を覚えている。しばらく遊んだ後、彼女はふと気が付いた。唯一の肉親たる姉がその傍に居ないということに。その失った片翼のせいで、今までの自由奔放がまるで暗中模索のように思えたのである。
その謎を探求すべく、彼女身支度を整えていた。散らかったベッドの上で、彼女はスカートを脱ぎ捨てズボンを穿いて、ローファーを脱ぎ、編み上げブーツも揃えた。茶色く艶めくブーツの紐を、一生懸命編んでいるうちに彼女はなんだか面倒くさいような気が起きていた。右に左にと蝋で固めた紐の先端を通して引っ張り出す。そのたびに鳴るずずず、という音が何かを忘れさせるような気がしていた。中途半端に靴紐の通ったブーツを脱いで、彼女はベッドの上に寝転んだ。部屋の隅に投げ飛ばしたブーツの立てる重たい音がやけに響く。屋敷はいつになく静かだった。もうすぐ昼時である。門番かメイドが、その扉を叩いて食事を運んでくる気配が、感じられなかった。
背中の宝石が揺れた。背中とベッドの隙間に入り込んで、痛い。ごりごりと背骨に当たるそれを取り除くため、羽を持ち上げた。すると羽は根元から取れて、白いシーツの上に沈んだ。不思議と痛みはなかった。一列に並んだ赤や黄や緑の宝石はまるで、黒い曲線の木に生る宝石の実のようであった。ベッドの天蓋から降る明かりが透き通って、傍のシーツを彩っている。
その内の一つを手に取って、光にかざした。数多の表面から覗くのは、どうやら過去のようであった。湖の畔であったり、黒い不思議な水であったりが窺えた。それを一口がりっと嚙み下して、眠りに落ちた。
目が覚めると、暗い地下室に私は居た。今も昔も変わらず、私は幽閉されているのだった。
幽閉されてから久しく、彼女は平原の彼方にてその門戸を開かれた。もとよりその檻を破壊する力を秘めた彼女であっても、慕う家族との絆までは破壊せしめるに至らなかったようである。その葛藤も決して特別なことではなかったのである。単に、生まれる時代の性であったのだ。
世界は広かった。近く霧の湖では湖面に跳ねる日差しが眩しかったのを覚えている。遠く地底の果てでは、臭い水の中でおぼろげに見えた幻想を覚えている。しばらく遊んだ後、彼女はふと気が付いた。唯一の肉親たる姉がその傍に居ないということに。その失った片翼のせいで、今までの自由奔放がまるで暗中模索のように思えたのである。
その謎を探求すべく、彼女身支度を整えていた。散らかったベッドの上で、彼女はスカートを脱ぎ捨てズボンを穿いて、ローファーを脱ぎ、編み上げブーツも揃えた。茶色く艶めくブーツの紐を、一生懸命編んでいるうちに彼女はなんだか面倒くさいような気が起きていた。右に左にと蝋で固めた紐の先端を通して引っ張り出す。そのたびに鳴るずずず、という音が何かを忘れさせるような気がしていた。中途半端に靴紐の通ったブーツを脱いで、彼女はベッドの上に寝転んだ。部屋の隅に投げ飛ばしたブーツの立てる重たい音がやけに響く。屋敷はいつになく静かだった。もうすぐ昼時である。門番かメイドが、その扉を叩いて食事を運んでくる気配が、感じられなかった。
背中の宝石が揺れた。背中とベッドの隙間に入り込んで、痛い。ごりごりと背骨に当たるそれを取り除くため、羽を持ち上げた。すると羽は根元から取れて、白いシーツの上に沈んだ。不思議と痛みはなかった。一列に並んだ赤や黄や緑の宝石はまるで、黒い曲線の木に生る宝石の実のようであった。ベッドの天蓋から降る明かりが透き通って、傍のシーツを彩っている。
その内の一つを手に取って、光にかざした。数多の表面から覗くのは、どうやら過去のようであった。湖の畔であったり、黒い不思議な水であったりが窺えた。それを一口がりっと嚙み下して、眠りに落ちた。
目が覚めると、暗い地下室に私は居た。今も昔も変わらず、私は幽閉されているのだった。