『看取りマニア』
紫さまが死にかけの猫を拾ってきた。どう見ても助からないのに縁側で座布団に載せてその毛皮を撫でていた。やがて猫が息を引き取ると、紫さまはその死骸をスキマに落とし込んだ。
別の日、紫さまが死にかけの烏を拾ってきた。やはり同じように縁側で座布団に載せてその羽毛を撫でていた。やがて烏が息を引き取ると、紫さまはその死骸を同じようにスキマに落とし込んだ。
紫さまは死にかけの動物なら大抵のものは拾ってきた。蝶でも蜘蛛でもカナヘビでも。そしてスキマに落とし込んだ。ただし死にかけのものだけだった。さすがに魚は拾ってこなかった。水から出したらそれは死んでしまうからだ。
紫さまが拾ってこない動物もある。犬やイノシシや熊だった。死にかけでもさすがに大きすぎた。そういうときは動物が死ぬまで大抵傍に寄り添っていた。
紫さまはセミは拾ってこなかった。拾おうとすると最後まで暴れて抵抗するからだそうだ。セミはどこまでも生にしがみついていた生き物だった。
紫さまはミミズも拾ってこなかった。どこまでが生でどこからが死かわからないからだそうだ。気が付いたら死んでいるらしかった。
紫さまはカマキリも拾ってこなかった。死にかけの身体の中にハリガネムシがいるからだ。ハリガネムシは死にかけではない。
紫さまはモグラも拾ってこなかった。土の上で死なないからだ。それから私はモグラを掘り返して狩ることをやめた。
紫さまが死にかけの人間を拾ってきた。不思議なこともあるものだと私は思った。紫さまは拾ってきた人間を床の間に寝かせ、枕もとに座って撫でていた。藍さまに葛湯を作らせると、手ずから運んで与えていた。葛湯は重湯になり、重湯も白湯になった。やがて紫さまは人間をスキマに落とし込んだ。
紫さまはそうせずにはいられないのだそうだ。なんとなく、紫さまの友人さまの姿が思い浮かんだ。
『看取りマニア』 <了>