こころちゃんは、私の傍にずぅっと居てくれる。
「これは純然たる疑問なんだけどさ」
あくる日、なんだか私とずっと関わってくれる彼女のことが、どうしても気になって、その理由について尋ねてみたくなったんだ。
「なんでこころちゃんは私とずぅっと一緒に居てくれるの?」
そう言うと、彼女はそれはまぁ全く当然であると言わんばかりに告げる。
「ずっと一緒にいてはいけない理由がないからな」
「そう言ってくれる子は初めてだよ。誰も彼も、私のことなんて忘れ去ってしまうもの」
「それは全くの不思議なことだ。これほどまでに珍しい存在もないだろうに」
「珍しいって。人をツチノコ扱いして」
「事実、そうだろうに」
「否定はできないけどさぁ」
私は酷く自由奔放であって、家に帰ることすらままならないほどに勝手に体が動いてしまう。興味の惹かれる方へと足が進んで、どうにもどうにも抜け出せない。
だから今、私はずっとこころちゃんといる。
「ずっと同じ人と一緒にいて、つまらなくない?」
「それを言うなら貴様もだろう」
「それは、うーん。こころちゃんと話すのが楽しいから」
本当はそれだけではなくって。一緒にいるだけで満たされる。貴方が傍にいるだけで、心が少し幸福になる。
「ならば、私もそれで良いだろう」
「それもそうだねぇ」
あぁ、うん、きっと。私はこころちゃんのことが好きなのだろうし、彼女もきっと、受け入れてくれるのだと思う。そうでなければ、こんな私とずぅっと一緒にいてくれることなど有り得ないから。
でも、この気持ちがどういう好きなのかが分からない。友人としての好きなのか、恋としての好きなのか、それとも、それ以外の何某かなのか。
自分の気持ちが分からなくって、でも、そんな気持ちは初めてだったから、どうしていいかが分からない。
そんな私を見かねてか、こころちゃんが口を開く。
「それで、今日はどうする?」
「いつも通り、雑談でもしようよ」
「変わらないな」
「変わらないくらいがちょうどいいよ」
変わらなくっていい。こころちゃんが傍にいて、私がずっと貴方から興味を無くさないで。そうして、ずっと、ずぅっと傍にいられるなら。それで、私は幸せだからさ。
♢
私の部屋に一輪のコスモスがやってきた。地底に似つかわしくない、白く、淡い花だった。それでいて、どこか力強さもあるように見えた。
「それで、なんでコスモスを?」
私はこれをくれた張本人である、さとりお姉ちゃんに話を振る。
「貴方、花が好きでしょう?」
さとりお姉ちゃんはいっつもこんな感じで、少ない言葉で多くを語ろうとする。不思議な人だ。私が瞳を閉じてからは、より一層何を考えているのか、分からなかった。
「そりゃあ好きだけど。というか何で花が好きだって知ってるのさ。しかもピンポイントでコスモス」
私はコスモスが好きであった。なんというか、言葉にできないほどに。本当に好きなものは、言語化できないのかもしれない。
「貴方が好きなものくらい、姉は知っているものですよ」
「え、気持ち悪いね」
「あの、あの、私の心をそんな簡単に砕くのはやめてくださいね」
「うそうそ、お姉ちゃん大好き」
「私も大好きよ」
くだらない、いつも通りの軽口を交わしあって、あぁやっぱり私たちはいつまで経っても変わらないな、って思う。
私はこいしで、お姉ちゃんはさとり。それでいいんだ、それが幸せなんだから。
「それでそれで、どうして急にコスモスを?」
「なんだか最近、何かしらに悩んでいそうだったので」
そう言われて、姉にすら気が付かれていることに驚いた。存外に、お姉ちゃんは私のことを見てくれていたのだ。
「あ、え?お姉ちゃんってそういうの分かるの?」
「私のことをなんだと思っているのですか、こいしは」
「なんというかとんでもねーバケモン?」
「実の姉を化け物扱い……。いや確かにサトリ妖怪ではありますけれど……」
お姉ちゃんは私が瞳を閉ざしたあとも、別に普通に接してくれたし、私のことなんて興味ないと思ってたんだけどなぁ。
「私は、貴方のことを愛してますよ?」
お姉ちゃんは、酷く普通のことのように言うんだ。私は本当に本当に驚いて、言葉が繋がらなかった。
「は?」
「ひ?」
「ふ?」
「へ?」
「いや、止めてよ。止めるの待ちだよ、こっちは」
「ほ?」
「だから止めろって言ってるでしょッ!」
やっぱり、お姉ちゃんはよく分からない。普段から言葉数は少ないのに、こういうことにはノリよく乗ってくれる。
「はぁ、なんか疲れた」
「それはお疲れ様です。休んだらどうでしょう」
「誰のせいよ、誰の」
「勝手に疲れる方が悪いですよ」
「もうこの人やだ……」
「私はこいしを愛してますけどね」
再びの愛している。今度は頭の中にストンと落ちてきた。へぇ、はぁ。え、いや、そうなのか。
「あ、え、お姉ちゃんって私のこと愛してるの?」
「なんですかその邪智暴虐の塊みたいな存在がとんでも発言したみたいな顔は」
「え、だってあの古明地さとりだよ?人の心を勝手に読んで、自分の好きなように話を展開して、決して人の話を聞かないようなあの古明地さとりだよ?」
「酷い言われようです」
「事実じゃない」
「そうですけど」
それにしても、愛してる。愛してるのか。え、いや、そう言われても分からない。愛されている自覚がない。え、本当なのかな。
「お姉ちゃんって、本当に本当に私のことを愛しているの?」
「ええ、もちろん。それはもう、今すぐ貴方を抱きしめてしまって、耳元で愛の言葉を囁いて差し上げたいくらいには」
「はぁ……」
よく分からなかった。愛してるって、なんだろう。
「ねぇ、お姉ちゃん。愛してるって、何?」
「それはまたなんというか、答えのない話ですね」
「でも、私には分からないもの」
「ふむ。愛してるっていうのは……そうですね、その人が側にいてくれる事を、心の底から喜んでいて、今後もずっと、そうあって欲しいと望んでいる状態を指すんじゃないですかね」
「へー……え、そうなの?あの邪智暴虐の古明地さとりが?」
「遂には隠さなくなりましたね」
「こいしは激怒した。必ず、かの邪知暴虐陰惨残忍無情の地霊殿の主、古明地さとりを除かねばならぬと決意した」
「その世界の私何をしたんですかそれ」
お姉ちゃんは呆れたように、しかしなんだか温かく感じる目でこちらを見つめる。
息をついて、呼吸を整える。コスモスの花に目を向けて、少しばかり、癒される。
お姉ちゃんの愛してるを噛み砕いて、その言葉を理解して、そうして今、私が思いを馳せているのは、こころちゃんへの気持ち。
「恋って、どういう気持ちなんだろう」
いつの間にか口から溢れていて、気がついた時には姉にもその言葉は届いていた。
「え、こ、こいしが恋?あの自分の赴くままにしか動けず人の気持ちさえ理解できていなかったあのこいしが?」
「お姉ちゃんも隠す気ないね。で、恋ってどんなもの?」
「そうですねぇ。強いて言うなら……」
そう言い、一泊置いて、言葉を発する。
「毒、ですかね」
毒。毒か。あんなに幸せそうな響きをしておいて、毒。
「毒」
「えぇ。恋っていうのは毒ですよ。しかしどうにも取り除けない、解毒薬のない毒ですよ」
「解毒薬がない。それは大変だ」
「よよよ、こいしが毒にかかってしまって私は悲しいです」
「ならもう少し悲しい素振りを見せてよ」
「だってこいしの初めての恋なのでしょう?そんなの美味しいに……上手くいって欲しいに決まってるじゃない」
「せめて隠してよ。それにまだ、本当に恋なのかすら分かんないんだってば」
この気持ちが恋なのか。そんなことも分からないくらい、私は初心者なんだよ。
うじうじと、頭の中をぐるぐると回して、必死に考える。それでも答えは出なくって、一先ず後回しにする。
「そのくらい真剣に考えることが、恋ってことですよ」
さとりお姉ちゃんがそう言ってきて、意味が分からなくって、首を傾げる。
「どういうこと?」
「このコスモスと同じくらい、美しいってことですよ」
やっぱり、恋なんてよく分からないんだ。
♢
「花って綺麗だよね」
翌日。太陽が真上から私たちを照らすくらいの時刻に、言葉にできないほどに、どうにもならない気持ちを湛えて、変わらずこころちゃんの元へ。彼女はいつも、同じ場所で待っていてくれるから、私は迷わずにそこへ向かえるのだ。
地面に手をついて座っているこころちゃんと同じように、私は隣に座り込んだ。
草がちょっぴりチクチクして、沢山の花が私たちを包み込んでいた。
その中から一輪を手折って、目の前に持ってくる。
「花っていうのは、種から芽が出て、草が生い茂って、花が咲いて、一瞬で散る。だから、どうにも美しいって思うの」
「それこそが花の楽しみ方なのかもしれないな」
「こころちゃんは花、好き?」
「好きでも嫌いでもない。幾度となく咲いて、その度に散っていくのを見てきたから」
「ふーん、そっかぁ」
何度も見てしまったら、それは当然のものとしてしか処理できなくなるのだろうか。それって、寂しいことだ。
「私はね、花が好き。綺麗に咲いて、そうしてすぐに散ってしまう。儚くって、美しい、そんな花が好き」
「そうか」
こころちゃんは、全くそれに興味がないかのように答えるものだから、なんだか悲しくって、辛かった。
……どうして、悲しいんだろう?
恋っていうのは毒ですよ───自覚したら、その思いが花開くまで、自分を蝕んでいくものですから。
そのくらい真剣に考えることが、恋ってことですよ───そのくらい本気で思い悩んでいる理由が、分からない訳ではないでしょう?
胸の中に満たされるのは、言葉に出せないどうしようも無い気持ち。
あぁ、もう。お姉ちゃんめ。私の気持ちなんて、読めないくせに分かっていたんだ。最初から分かっていて、その上で弄んでいたんだ。
興味が無い素振りをされて悲しい理由も、辛い理由もとうに分かっていた。
ずっと傍にいるだけで満たされる理由も、幸せな理由も、とうに分かっていた。
「ねぇ、こころちゃん」
「なんだ?」
「もう少しだけ、近寄ってもいい?」
「そのくらい、別に構わないよ」
そう返されたので、彼女の肩と私の肩が少しだけ触れる程の距離に。それが温かくて、温かくって。肩にちょっぴり頭を乗せて。帽子は落ちないように、足の上に。
そうしてほんの少し微笑んで。こころちゃんの顔を見て。何も映さないその顔が愛おしくって。
そうしたら、こころちゃんからも、ほんの少しの熱を預けられて。もう一度顔を覗こうとすれば、お面で顔を隠された。
胸をくすぐる温かな風を感じて、私は漸く、私の気持ちを理解した。
ずっと話を聞いてくれるから。
ずっと側にいたいから。
ずっと私を忘れないでいてくれるから。
そうしたことが重なって、私がずっと、興味を失わないでいられるから。
これがきっと、私の恋なのだと思う。
だから、だからさ。
「ずぅっと側にいてね」
「貴様が離れない限りは、きっとな」
そう言われて、嬉しくて。恋も愛も、まだちょっとだけしか分からないけど。
好きっていうのは、多分こういうことなんだ。
「これは純然たる疑問なんだけどさ」
あくる日、なんだか私とずっと関わってくれる彼女のことが、どうしても気になって、その理由について尋ねてみたくなったんだ。
「なんでこころちゃんは私とずぅっと一緒に居てくれるの?」
そう言うと、彼女はそれはまぁ全く当然であると言わんばかりに告げる。
「ずっと一緒にいてはいけない理由がないからな」
「そう言ってくれる子は初めてだよ。誰も彼も、私のことなんて忘れ去ってしまうもの」
「それは全くの不思議なことだ。これほどまでに珍しい存在もないだろうに」
「珍しいって。人をツチノコ扱いして」
「事実、そうだろうに」
「否定はできないけどさぁ」
私は酷く自由奔放であって、家に帰ることすらままならないほどに勝手に体が動いてしまう。興味の惹かれる方へと足が進んで、どうにもどうにも抜け出せない。
だから今、私はずっとこころちゃんといる。
「ずっと同じ人と一緒にいて、つまらなくない?」
「それを言うなら貴様もだろう」
「それは、うーん。こころちゃんと話すのが楽しいから」
本当はそれだけではなくって。一緒にいるだけで満たされる。貴方が傍にいるだけで、心が少し幸福になる。
「ならば、私もそれで良いだろう」
「それもそうだねぇ」
あぁ、うん、きっと。私はこころちゃんのことが好きなのだろうし、彼女もきっと、受け入れてくれるのだと思う。そうでなければ、こんな私とずぅっと一緒にいてくれることなど有り得ないから。
でも、この気持ちがどういう好きなのかが分からない。友人としての好きなのか、恋としての好きなのか、それとも、それ以外の何某かなのか。
自分の気持ちが分からなくって、でも、そんな気持ちは初めてだったから、どうしていいかが分からない。
そんな私を見かねてか、こころちゃんが口を開く。
「それで、今日はどうする?」
「いつも通り、雑談でもしようよ」
「変わらないな」
「変わらないくらいがちょうどいいよ」
変わらなくっていい。こころちゃんが傍にいて、私がずっと貴方から興味を無くさないで。そうして、ずっと、ずぅっと傍にいられるなら。それで、私は幸せだからさ。
♢
私の部屋に一輪のコスモスがやってきた。地底に似つかわしくない、白く、淡い花だった。それでいて、どこか力強さもあるように見えた。
「それで、なんでコスモスを?」
私はこれをくれた張本人である、さとりお姉ちゃんに話を振る。
「貴方、花が好きでしょう?」
さとりお姉ちゃんはいっつもこんな感じで、少ない言葉で多くを語ろうとする。不思議な人だ。私が瞳を閉じてからは、より一層何を考えているのか、分からなかった。
「そりゃあ好きだけど。というか何で花が好きだって知ってるのさ。しかもピンポイントでコスモス」
私はコスモスが好きであった。なんというか、言葉にできないほどに。本当に好きなものは、言語化できないのかもしれない。
「貴方が好きなものくらい、姉は知っているものですよ」
「え、気持ち悪いね」
「あの、あの、私の心をそんな簡単に砕くのはやめてくださいね」
「うそうそ、お姉ちゃん大好き」
「私も大好きよ」
くだらない、いつも通りの軽口を交わしあって、あぁやっぱり私たちはいつまで経っても変わらないな、って思う。
私はこいしで、お姉ちゃんはさとり。それでいいんだ、それが幸せなんだから。
「それでそれで、どうして急にコスモスを?」
「なんだか最近、何かしらに悩んでいそうだったので」
そう言われて、姉にすら気が付かれていることに驚いた。存外に、お姉ちゃんは私のことを見てくれていたのだ。
「あ、え?お姉ちゃんってそういうの分かるの?」
「私のことをなんだと思っているのですか、こいしは」
「なんというかとんでもねーバケモン?」
「実の姉を化け物扱い……。いや確かにサトリ妖怪ではありますけれど……」
お姉ちゃんは私が瞳を閉ざしたあとも、別に普通に接してくれたし、私のことなんて興味ないと思ってたんだけどなぁ。
「私は、貴方のことを愛してますよ?」
お姉ちゃんは、酷く普通のことのように言うんだ。私は本当に本当に驚いて、言葉が繋がらなかった。
「は?」
「ひ?」
「ふ?」
「へ?」
「いや、止めてよ。止めるの待ちだよ、こっちは」
「ほ?」
「だから止めろって言ってるでしょッ!」
やっぱり、お姉ちゃんはよく分からない。普段から言葉数は少ないのに、こういうことにはノリよく乗ってくれる。
「はぁ、なんか疲れた」
「それはお疲れ様です。休んだらどうでしょう」
「誰のせいよ、誰の」
「勝手に疲れる方が悪いですよ」
「もうこの人やだ……」
「私はこいしを愛してますけどね」
再びの愛している。今度は頭の中にストンと落ちてきた。へぇ、はぁ。え、いや、そうなのか。
「あ、え、お姉ちゃんって私のこと愛してるの?」
「なんですかその邪智暴虐の塊みたいな存在がとんでも発言したみたいな顔は」
「え、だってあの古明地さとりだよ?人の心を勝手に読んで、自分の好きなように話を展開して、決して人の話を聞かないようなあの古明地さとりだよ?」
「酷い言われようです」
「事実じゃない」
「そうですけど」
それにしても、愛してる。愛してるのか。え、いや、そう言われても分からない。愛されている自覚がない。え、本当なのかな。
「お姉ちゃんって、本当に本当に私のことを愛しているの?」
「ええ、もちろん。それはもう、今すぐ貴方を抱きしめてしまって、耳元で愛の言葉を囁いて差し上げたいくらいには」
「はぁ……」
よく分からなかった。愛してるって、なんだろう。
「ねぇ、お姉ちゃん。愛してるって、何?」
「それはまたなんというか、答えのない話ですね」
「でも、私には分からないもの」
「ふむ。愛してるっていうのは……そうですね、その人が側にいてくれる事を、心の底から喜んでいて、今後もずっと、そうあって欲しいと望んでいる状態を指すんじゃないですかね」
「へー……え、そうなの?あの邪智暴虐の古明地さとりが?」
「遂には隠さなくなりましたね」
「こいしは激怒した。必ず、かの邪知暴虐陰惨残忍無情の地霊殿の主、古明地さとりを除かねばならぬと決意した」
「その世界の私何をしたんですかそれ」
お姉ちゃんは呆れたように、しかしなんだか温かく感じる目でこちらを見つめる。
息をついて、呼吸を整える。コスモスの花に目を向けて、少しばかり、癒される。
お姉ちゃんの愛してるを噛み砕いて、その言葉を理解して、そうして今、私が思いを馳せているのは、こころちゃんへの気持ち。
「恋って、どういう気持ちなんだろう」
いつの間にか口から溢れていて、気がついた時には姉にもその言葉は届いていた。
「え、こ、こいしが恋?あの自分の赴くままにしか動けず人の気持ちさえ理解できていなかったあのこいしが?」
「お姉ちゃんも隠す気ないね。で、恋ってどんなもの?」
「そうですねぇ。強いて言うなら……」
そう言い、一泊置いて、言葉を発する。
「毒、ですかね」
毒。毒か。あんなに幸せそうな響きをしておいて、毒。
「毒」
「えぇ。恋っていうのは毒ですよ。しかしどうにも取り除けない、解毒薬のない毒ですよ」
「解毒薬がない。それは大変だ」
「よよよ、こいしが毒にかかってしまって私は悲しいです」
「ならもう少し悲しい素振りを見せてよ」
「だってこいしの初めての恋なのでしょう?そんなの美味しいに……上手くいって欲しいに決まってるじゃない」
「せめて隠してよ。それにまだ、本当に恋なのかすら分かんないんだってば」
この気持ちが恋なのか。そんなことも分からないくらい、私は初心者なんだよ。
うじうじと、頭の中をぐるぐると回して、必死に考える。それでも答えは出なくって、一先ず後回しにする。
「そのくらい真剣に考えることが、恋ってことですよ」
さとりお姉ちゃんがそう言ってきて、意味が分からなくって、首を傾げる。
「どういうこと?」
「このコスモスと同じくらい、美しいってことですよ」
やっぱり、恋なんてよく分からないんだ。
♢
「花って綺麗だよね」
翌日。太陽が真上から私たちを照らすくらいの時刻に、言葉にできないほどに、どうにもならない気持ちを湛えて、変わらずこころちゃんの元へ。彼女はいつも、同じ場所で待っていてくれるから、私は迷わずにそこへ向かえるのだ。
地面に手をついて座っているこころちゃんと同じように、私は隣に座り込んだ。
草がちょっぴりチクチクして、沢山の花が私たちを包み込んでいた。
その中から一輪を手折って、目の前に持ってくる。
「花っていうのは、種から芽が出て、草が生い茂って、花が咲いて、一瞬で散る。だから、どうにも美しいって思うの」
「それこそが花の楽しみ方なのかもしれないな」
「こころちゃんは花、好き?」
「好きでも嫌いでもない。幾度となく咲いて、その度に散っていくのを見てきたから」
「ふーん、そっかぁ」
何度も見てしまったら、それは当然のものとしてしか処理できなくなるのだろうか。それって、寂しいことだ。
「私はね、花が好き。綺麗に咲いて、そうしてすぐに散ってしまう。儚くって、美しい、そんな花が好き」
「そうか」
こころちゃんは、全くそれに興味がないかのように答えるものだから、なんだか悲しくって、辛かった。
……どうして、悲しいんだろう?
恋っていうのは毒ですよ───自覚したら、その思いが花開くまで、自分を蝕んでいくものですから。
そのくらい真剣に考えることが、恋ってことですよ───そのくらい本気で思い悩んでいる理由が、分からない訳ではないでしょう?
胸の中に満たされるのは、言葉に出せないどうしようも無い気持ち。
あぁ、もう。お姉ちゃんめ。私の気持ちなんて、読めないくせに分かっていたんだ。最初から分かっていて、その上で弄んでいたんだ。
興味が無い素振りをされて悲しい理由も、辛い理由もとうに分かっていた。
ずっと傍にいるだけで満たされる理由も、幸せな理由も、とうに分かっていた。
「ねぇ、こころちゃん」
「なんだ?」
「もう少しだけ、近寄ってもいい?」
「そのくらい、別に構わないよ」
そう返されたので、彼女の肩と私の肩が少しだけ触れる程の距離に。それが温かくて、温かくって。肩にちょっぴり頭を乗せて。帽子は落ちないように、足の上に。
そうしてほんの少し微笑んで。こころちゃんの顔を見て。何も映さないその顔が愛おしくって。
そうしたら、こころちゃんからも、ほんの少しの熱を預けられて。もう一度顔を覗こうとすれば、お面で顔を隠された。
胸をくすぐる温かな風を感じて、私は漸く、私の気持ちを理解した。
ずっと話を聞いてくれるから。
ずっと側にいたいから。
ずっと私を忘れないでいてくれるから。
そうしたことが重なって、私がずっと、興味を失わないでいられるから。
これがきっと、私の恋なのだと思う。
だから、だからさ。
「ずぅっと側にいてね」
「貴様が離れない限りは、きっとな」
そう言われて、嬉しくて。恋も愛も、まだちょっとだけしか分からないけど。
好きっていうのは、多分こういうことなんだ。
横に座るだけ、側にいるだけ。この不器用さ、このぎこちなさこそ最高だったんだと、やっと終わる頃に気付けました。
キツネかおかめかひょっとこか、気恥ずかしい時のこころちゃんはどのお面が似合うんでしょうか。