「な、何これ!こ、こここんなの私知らない!!」
本を片手に、さとりは何か叫んでいた。お燐とお空は慌ててさとりの方へ駆け寄り、固まったさとりを目撃する。
「…」
赤面し顔を隠すさとりを前に「これは只事じゃない…」と考えるお空たち。
ペットに囲まれながら、さとりはゆっくりと口を開いた。
「ちょっと前にこいしを探しに外に出て、色んなところへ行ったのよ。するとね、通り過ぎる人ずーっと、BL好きだ…みたいな事を考えてるの!それでなんだろうって調べたら…」
「し、調べたら…?」
「い…異性のすっごくえっ…ちな本…」
「!?!?!?」
真っ赤なさとりを前に、お空たちもどうすれば良いのか分からなくなる。
「もう、どーすれば良いのー!!!」
さとり腐女子異変の開幕である。
―「そもそも何ですけど、何でそんな本をさとり様が持ってるんですか?」
奥から引っ張り出したフード付きの服とスカートを着て、お燐の背中にベッタリとくっつき、さとりは考えていたことを話し始める。
「前、こいしを探すついでに、人里で本を借りたからだと思う。だけど…」
「何で人里で本なんか…地底にも沢山あるんじゃないですか?」
「えぇそうだけど、どんな本があるのか気になってたのよ。」
「でも、それじゃあ何でそんな破廉恥な本を借りたんですか?」
「適当に本を選んでたら紛れた、としか言いようが無いけど…」
「(それってさとり様が隠してるだけなんじゃ…)」
「ねぇーお燐?」
「はいっ」
「私はこんなの読まないって分かるわよね?」
「はぃ」
「次そんなこと思ったらご飯抜きだからね。」
「それは不味いですよ!」
「冗談よ、とりあえず、早く鈴奈庵へ行くわよ!」
足早に鈴菜庵へ向かうお燐とさとりだったが、周囲からみれば明らかに不審者としか見えなかった。人里に着いた頃には「怪しい奴らが来た!」とすぐさま噂になってしまう。
それをお燐は直観的にじわじわと感じていた。
「ちょっとさとり様!ここに来る前から不審者でしたけど、今は更に不審者過ぎですよ!さっきからずっとひっつき虫みたいだし、ちょっとは上手くやって下さい!」
「でも…こんなところで私の正体がバレたら生き地獄でしょう?ただでさえ私の姿を見ただけで変なウワサが分かるくらいだもの、こんな所でバレれば…ほんと、考えたくも無い…」
「そうかもしれないですけど…第一、鈴奈庵?に行ってどうするつもりですか!」
「とりあえず、この本を…」
「あら、何事かと聞いて駆けつけてみたら、何でここに厄介猫が居るのかしら?」
本を返し、噂について聞く。そう言いかけた瞬間、偶然人里の方に来ていた霊夢が騒ぎを聞きつけ様子を見に来きてしまった。まさか霊夢が来るとは到底考えもつかなかったさとりはとりあえず、策を練りはじめる。
「…(もう!さとり様のせいですよ!)」
「…」
「随分と怪しさ全開の奴もいるじゃない?ここで何をするつもりかしら?」
「それより何でこんな所に巫女がいるんですか!」
「どーでも良いでしょそんなこと、とにかく誰なのかはっきりしてちょーだい。」
「…(さとり様のせいですよ!!)」
「貴方も共犯よ!ねぇお燐、何とかして!」
「どう頑張っても無理です!ここは素直に姿を見せた方が…」
「嫌よ!死ぬのと同じくらい嫌!!」
「ごちゃごちゃ言ってないで、早く見せなさい!」
「さとり様!流石にそろそろ顔見せなきゃまずいです!」
「ヤダヤダヤダ!絶対嫌!もーーー!」
ずっとコソコソやり取りしているお燐とさとりを見て、霊夢は鬱陶しく感じていた。頑なに姿を隠そうとする意図は意味不明だったが、とにかく怪しい奴には変わらない。お札とお祓い棒を取り出し、臨戦体制に入る。
「とりあえず、ボコせば大体分かるかしら!」
いきなりとんでもない量の弾幕を打ち込み、お燐は慌て、さとりは顔を隠しながらもその弾幕を捌く。
「へぇ、只者じゃないわね。」
「…(どうやって素性を明かさずこの場を収めるか…とにかく戦うしかないわね。)」
「(誰だ?あの厄介猫と関係がある強い奴…)」
突如さとりが弾幕を放ち、反撃を開始する。
「…(バレたら終わり、バレたら終わり…)」
さとりにとって弾幕勝負に勝つよりもバレたくない気持ちの方が強い。故に素性がバレそうになることに敏感になっていた。
「少し荒療治だけど」
そう言って弾幕を放とうとする。霊夢に向けてというよりは周囲に向けて適当に打ち、人々を非難させて3人だけの状況を作り、話し合いで穏便に済ます…はずだった。
さとりの服の中から一冊の本が落ちる。
「ちょっ待っ…」
「隙あり!」
「いだっ!」
吹き飛ばされ、フードが落ちる。すぐさま被り直すさとりだったが、無駄だった。
「(え!あの地底のトップ!?)」
「(何でここに居るんだ?)」
「(あの本BLってことは噂は…)」
「(本当なんだ!!)」
「何で本なんか持って…それで、一体全体何が目的かしら!」
霊夢はその本をさとりに見せつけるように掲げる。
心が読めてしまうが故に、とてつもない羞恥心に晒されたさとりはもうぐちゃぐちゃになっていた。その場で丸くなり、耳を塞いで何も聞かないようにする。この時初めて心を閉ざしたいと本気で思ったほどに、心は一瞬にしてズタズタにされていた。
「ねぇおりんー!たすけてー!」
泣きじゃくるさとりに、お燐はすぐに本を取り返し、さとりに駆け寄る。
「ちょっと!早くその本返して!あと、さとり様はその本が好きじゃないから!間違えて借りたのを返しに来ただけだから!」
「…?(これ、そんなにやばい本なのかしら?)」
すぐさま二人きりになれる場所にまで移動し、しゃっくり上げて泣くさとりをあやし、移動を始める。
「さとり様、大丈夫ですか?」
「…無理…ほんとむりぃ…」
「(あぁー…これダメなやつだ…)」
おんぶしつつ赤子のようにさとりの背中を揺すっては「次どこに曲がりますか?」と聞く。ぐったりとしながらも指だけ動かして鈴奈庵の方向へ案内するさとりは最早、屍のようだった。
そうやって色々ありながら鈴奈庵に着いたのは、夕方の少し前くらいだった。
「さとりさま、立てますか?」
「…うん。」
手を引っ張りながら、鈴奈庵へ入る。
「あ、いらっしゃいませ〜。珍しい客人ですね。」
「えーと、本の返却と色々聞きたいことがありまして…」
「ところで、その方は?」
「…私よ、二月前に本を借りた古明地さとり。」
「あー!本の返却ですか!是非本の感想を教えて下さい!」
本を取り出し、小鈴に渡す。
「…(あ〜、あの本か〜)」
「…」
数ページ開き状態を確認した後、机の上に静かに置く。
「これ…すっごく良いですよね!」
小鈴がパラパラと捲りながら、勢いよく話し始める。
「いやぁ、何よりこの可愛い系の主人公が意外と肉食系で…」
「…え?」
「特に最後のシーン!色々読んできましたがここまでドキドキさせてくれるのは中々無いですよ〜」
「貴方、これ読んでるの?」
「勿論です!さとりさんはどのシーンが好きでしたか?」
「あ、えーと…それより…」
「やっぱりここですよね!ここの男子が…」
小鈴のマシンガントークに、さとりは圧倒されて言葉が詰まっている様子だった。話そうとした瞬間にはもう次の言葉が飛んでくる。心を読んでも、考えているというよりかは脊髄反射で話しているらしく、なんとかして切り口を探すしかない状況だった。そんな主人の隣で、お燐は初めての図書館に迫力を感じていたのか「うぉぉ…」となっている。
側から見れば異様な光景だった。地霊殿の主が本好きの人間と一緒になって会話(?)をし、その隣に地獄猫がそこら中にある本を手に取って読み始めている。
普段さとりと会話をしようとする奴は居ない、さとりからすれば初めての体験だった。
「…それで、今日も他の本借りるんですか?」
流石に小鈴も疲れたのか、一呼吸おいて話し始める。そこを見逃すまいと、さとりは容赦無く噂について情報を読み取ろうとする。
…はずだった。
「ねぇ、ここに魔理沙来てな…」
さとりと目が合った瞬間、パチュリーは酷く困惑していた。
そもそも、パチュリーは本を返さない魔理沙に一度、お灸を据えるために探しに来ただけである。鈴奈庵で確認した後、すぐ人里の方で魔理沙を見かけた奴を探そうと考えていた。
それなのに、実際にいたのは予想もしなかった地霊殿の主とペットの黒猫、そして小鈴の片手にあるBL本。
いつまでも情報が完結しない、その結果、パチュリーはフリーズしてしまう。
さとりはさとりで地獄だった。知能が高く、頭の回転が早いパチュリーの考えていることを全て読み取ってしまう。しかも、いつまでも情報が完結していないせいで一瞬だけでなく持続的に読み取らせられる。
フリーズするパチュリー、そのパチュリーの心を読み取って地獄を見るさとり、何が起きているのか分からないお燐、同じくよく分かっていない小鈴。
誰一人まともな奴は居なかった。
「それで、今日も借りるんですか!」
先に動いたのは小鈴だった。この言葉でさとりもパチュリーも我に返り、冷静になる。
「…私は噂について聞きにここまで来たの。」
「噂…?」
「あぁ、あの噂でしょう?あれ、本当なのかしら。」
「いい?あれは全くのデマ!私はあんなハレンチな本読まない!」
「…え?」
突如溢れ出す小鈴の感情をさとりは見逃さなかった。
「こればっかりはちゃんと言うけど、私はそんな本読まないわ。もっと別ジャンルの本が好きだもの。」
「え、でも、じゃあなんでこの本を…」
「それは私が間違えて借りただけ!まさかそんな本だとは思わなかったし!」
「えぇ〜…」
小鈴はショックと同時に噂の事を考えていた、その中に噂の原因となりえるものをさとりは見逃さない。
「もしかして…貴方、私がこの本を借りたって誰かに話してるんじゃないかしら?」
ギクリ、そんな顔を浮かべながら更に小鈴は思い出していく。それを読むたびにさとりの顔色も段々赤くなっていく。
その顔を見て、小鈴は「もう辞めて〜!」と心の中で叫び、さとりもそれを感じ、一度整理することにした。
勝手に赤面するさとりと少し慌てる小鈴を見て、なんとなく状況を察したパチュリーは会話に入らない方が良いと判断し、ゴロゴロしていたお燐の隣に座わって、なでなでして休んでいた。
「…それでどうしようかしら」
噂が広がったのは小鈴がきっかけ。だが、そもそもさとりがこんな本を借りなければこんなことにはならなかった。責任はさとり自身にある。しかし、そもそもどうやってこの噂を止めれば良いのか思いつかない。
「これって、噂を止めればそれで良いんですよね。」
「えぇ、でも、そもそも私が間違えて借りなければ良かった話、貴方には何の責任も無いわ。だからこれは私が解決しなきゃ…」
「それなら私がメガホン持って、さとりさんは腐女子じゃなーいって叫べば…」
「それは逆に怪しい!」
悩む二人の前に、パチュリーが立ちはだかる。
「…それなら私が解決してあげようかしら?」
「まだ帰ってなかったの?魔理沙は探さなくて良いのかしら。」
「こっちの方が面白そうだし、何より、恩を売れるでしょう?」
「…それで、解決策は…あぁ、荒療治ね。」
「これで良いでしょう?」
「まぁそれで良いけど…。」
パチュリーの策はさとりの能力で何人かの意識を改変し、パチュリーの魔法でなんやかんやして、噂はデマだったと広める、というものだった。
小鈴は二人の雰囲気を感じながら大丈夫そうだと考え、「もう勝手に広めない!」と強く言い聞かせて本を戻しに席から立つ。
さとりたちはすぐに作戦を決行すべく、鈴奈庵から出て人通りの少ない、暗い場所まで向かった。
「とりあえず適当にやるけど、あとは貴方がやってくれるって認識で良いのよね?」
「ええそれで構わないわ。そっちの方が私としてもやり易いし。」
「軽くで良いのよね?」
「えぇ、軽く。」
一息ついて、さとりは近くにいた何人かの意識を改変し、パチュリーはそこで魔法をかけて噂の認識を変えていく。
あとは時間経過を見てパチュリーが上手くやるということで解決し、さとりとお燐はそのまますぐに帰っていった。
―何やかんや大変だったがパチュリーの助けもあり、徐々に噂は消え、さとりも安心してこいしを探しに行けるようになる。お燐もお空も心配していたが大丈夫そうなさとりを見てほっとしていた。
そんな中、パチュリーは図書館の中でレミリアと話していた。
「それで?あの地霊の件は上手くやってるの?」
「えぇ、上手くできてるわ。」
「少しは能力のこと、分かったかしら。」
「全く、未知ね。やはりさとり妖怪は魔法とは全く別物。私でも何も分からなかった。」
「本来なら貴方だけで完結すること、それを上手く能力を利用させることで分析するチャンスを作り、そして恩も売ることが出来た、流石ね。」
「でも、結局の所無駄だったわね。」
「未知と知ることが出来ただけで大きな収穫。よくやったわ、パチェ。」
「えぇ、そうね。」
あの時パチュリーは分析することなど思いつかず、特に策以外は考えていなかった。しかし後々から考えてみればさとりの能力を知れるきっかけが出来たことに気づき、そのまま解析を始める。さとりも噂によって混乱していた事もあり、気付かなかった。
幸運だった、パチュリーはそう考えることにする。
レミリアが自室に戻り、一人きりとなったところで、小鈴に勧められた本を試しに読んでみる。
「わ、わぁ〜」
こうしてまた一人、腐女子が増えていったのだった…
本を片手に、さとりは何か叫んでいた。お燐とお空は慌ててさとりの方へ駆け寄り、固まったさとりを目撃する。
「…」
赤面し顔を隠すさとりを前に「これは只事じゃない…」と考えるお空たち。
ペットに囲まれながら、さとりはゆっくりと口を開いた。
「ちょっと前にこいしを探しに外に出て、色んなところへ行ったのよ。するとね、通り過ぎる人ずーっと、BL好きだ…みたいな事を考えてるの!それでなんだろうって調べたら…」
「し、調べたら…?」
「い…異性のすっごくえっ…ちな本…」
「!?!?!?」
真っ赤なさとりを前に、お空たちもどうすれば良いのか分からなくなる。
「もう、どーすれば良いのー!!!」
さとり腐女子異変の開幕である。
―「そもそも何ですけど、何でそんな本をさとり様が持ってるんですか?」
奥から引っ張り出したフード付きの服とスカートを着て、お燐の背中にベッタリとくっつき、さとりは考えていたことを話し始める。
「前、こいしを探すついでに、人里で本を借りたからだと思う。だけど…」
「何で人里で本なんか…地底にも沢山あるんじゃないですか?」
「えぇそうだけど、どんな本があるのか気になってたのよ。」
「でも、それじゃあ何でそんな破廉恥な本を借りたんですか?」
「適当に本を選んでたら紛れた、としか言いようが無いけど…」
「(それってさとり様が隠してるだけなんじゃ…)」
「ねぇーお燐?」
「はいっ」
「私はこんなの読まないって分かるわよね?」
「はぃ」
「次そんなこと思ったらご飯抜きだからね。」
「それは不味いですよ!」
「冗談よ、とりあえず、早く鈴奈庵へ行くわよ!」
足早に鈴菜庵へ向かうお燐とさとりだったが、周囲からみれば明らかに不審者としか見えなかった。人里に着いた頃には「怪しい奴らが来た!」とすぐさま噂になってしまう。
それをお燐は直観的にじわじわと感じていた。
「ちょっとさとり様!ここに来る前から不審者でしたけど、今は更に不審者過ぎですよ!さっきからずっとひっつき虫みたいだし、ちょっとは上手くやって下さい!」
「でも…こんなところで私の正体がバレたら生き地獄でしょう?ただでさえ私の姿を見ただけで変なウワサが分かるくらいだもの、こんな所でバレれば…ほんと、考えたくも無い…」
「そうかもしれないですけど…第一、鈴奈庵?に行ってどうするつもりですか!」
「とりあえず、この本を…」
「あら、何事かと聞いて駆けつけてみたら、何でここに厄介猫が居るのかしら?」
本を返し、噂について聞く。そう言いかけた瞬間、偶然人里の方に来ていた霊夢が騒ぎを聞きつけ様子を見に来きてしまった。まさか霊夢が来るとは到底考えもつかなかったさとりはとりあえず、策を練りはじめる。
「…(もう!さとり様のせいですよ!)」
「…」
「随分と怪しさ全開の奴もいるじゃない?ここで何をするつもりかしら?」
「それより何でこんな所に巫女がいるんですか!」
「どーでも良いでしょそんなこと、とにかく誰なのかはっきりしてちょーだい。」
「…(さとり様のせいですよ!!)」
「貴方も共犯よ!ねぇお燐、何とかして!」
「どう頑張っても無理です!ここは素直に姿を見せた方が…」
「嫌よ!死ぬのと同じくらい嫌!!」
「ごちゃごちゃ言ってないで、早く見せなさい!」
「さとり様!流石にそろそろ顔見せなきゃまずいです!」
「ヤダヤダヤダ!絶対嫌!もーーー!」
ずっとコソコソやり取りしているお燐とさとりを見て、霊夢は鬱陶しく感じていた。頑なに姿を隠そうとする意図は意味不明だったが、とにかく怪しい奴には変わらない。お札とお祓い棒を取り出し、臨戦体制に入る。
「とりあえず、ボコせば大体分かるかしら!」
いきなりとんでもない量の弾幕を打ち込み、お燐は慌て、さとりは顔を隠しながらもその弾幕を捌く。
「へぇ、只者じゃないわね。」
「…(どうやって素性を明かさずこの場を収めるか…とにかく戦うしかないわね。)」
「(誰だ?あの厄介猫と関係がある強い奴…)」
突如さとりが弾幕を放ち、反撃を開始する。
「…(バレたら終わり、バレたら終わり…)」
さとりにとって弾幕勝負に勝つよりもバレたくない気持ちの方が強い。故に素性がバレそうになることに敏感になっていた。
「少し荒療治だけど」
そう言って弾幕を放とうとする。霊夢に向けてというよりは周囲に向けて適当に打ち、人々を非難させて3人だけの状況を作り、話し合いで穏便に済ます…はずだった。
さとりの服の中から一冊の本が落ちる。
「ちょっ待っ…」
「隙あり!」
「いだっ!」
吹き飛ばされ、フードが落ちる。すぐさま被り直すさとりだったが、無駄だった。
「(え!あの地底のトップ!?)」
「(何でここに居るんだ?)」
「(あの本BLってことは噂は…)」
「(本当なんだ!!)」
「何で本なんか持って…それで、一体全体何が目的かしら!」
霊夢はその本をさとりに見せつけるように掲げる。
心が読めてしまうが故に、とてつもない羞恥心に晒されたさとりはもうぐちゃぐちゃになっていた。その場で丸くなり、耳を塞いで何も聞かないようにする。この時初めて心を閉ざしたいと本気で思ったほどに、心は一瞬にしてズタズタにされていた。
「ねぇおりんー!たすけてー!」
泣きじゃくるさとりに、お燐はすぐに本を取り返し、さとりに駆け寄る。
「ちょっと!早くその本返して!あと、さとり様はその本が好きじゃないから!間違えて借りたのを返しに来ただけだから!」
「…?(これ、そんなにやばい本なのかしら?)」
すぐさま二人きりになれる場所にまで移動し、しゃっくり上げて泣くさとりをあやし、移動を始める。
「さとり様、大丈夫ですか?」
「…無理…ほんとむりぃ…」
「(あぁー…これダメなやつだ…)」
おんぶしつつ赤子のようにさとりの背中を揺すっては「次どこに曲がりますか?」と聞く。ぐったりとしながらも指だけ動かして鈴奈庵の方向へ案内するさとりは最早、屍のようだった。
そうやって色々ありながら鈴奈庵に着いたのは、夕方の少し前くらいだった。
「さとりさま、立てますか?」
「…うん。」
手を引っ張りながら、鈴奈庵へ入る。
「あ、いらっしゃいませ〜。珍しい客人ですね。」
「えーと、本の返却と色々聞きたいことがありまして…」
「ところで、その方は?」
「…私よ、二月前に本を借りた古明地さとり。」
「あー!本の返却ですか!是非本の感想を教えて下さい!」
本を取り出し、小鈴に渡す。
「…(あ〜、あの本か〜)」
「…」
数ページ開き状態を確認した後、机の上に静かに置く。
「これ…すっごく良いですよね!」
小鈴がパラパラと捲りながら、勢いよく話し始める。
「いやぁ、何よりこの可愛い系の主人公が意外と肉食系で…」
「…え?」
「特に最後のシーン!色々読んできましたがここまでドキドキさせてくれるのは中々無いですよ〜」
「貴方、これ読んでるの?」
「勿論です!さとりさんはどのシーンが好きでしたか?」
「あ、えーと…それより…」
「やっぱりここですよね!ここの男子が…」
小鈴のマシンガントークに、さとりは圧倒されて言葉が詰まっている様子だった。話そうとした瞬間にはもう次の言葉が飛んでくる。心を読んでも、考えているというよりかは脊髄反射で話しているらしく、なんとかして切り口を探すしかない状況だった。そんな主人の隣で、お燐は初めての図書館に迫力を感じていたのか「うぉぉ…」となっている。
側から見れば異様な光景だった。地霊殿の主が本好きの人間と一緒になって会話(?)をし、その隣に地獄猫がそこら中にある本を手に取って読み始めている。
普段さとりと会話をしようとする奴は居ない、さとりからすれば初めての体験だった。
「…それで、今日も他の本借りるんですか?」
流石に小鈴も疲れたのか、一呼吸おいて話し始める。そこを見逃すまいと、さとりは容赦無く噂について情報を読み取ろうとする。
…はずだった。
「ねぇ、ここに魔理沙来てな…」
さとりと目が合った瞬間、パチュリーは酷く困惑していた。
そもそも、パチュリーは本を返さない魔理沙に一度、お灸を据えるために探しに来ただけである。鈴奈庵で確認した後、すぐ人里の方で魔理沙を見かけた奴を探そうと考えていた。
それなのに、実際にいたのは予想もしなかった地霊殿の主とペットの黒猫、そして小鈴の片手にあるBL本。
いつまでも情報が完結しない、その結果、パチュリーはフリーズしてしまう。
さとりはさとりで地獄だった。知能が高く、頭の回転が早いパチュリーの考えていることを全て読み取ってしまう。しかも、いつまでも情報が完結していないせいで一瞬だけでなく持続的に読み取らせられる。
フリーズするパチュリー、そのパチュリーの心を読み取って地獄を見るさとり、何が起きているのか分からないお燐、同じくよく分かっていない小鈴。
誰一人まともな奴は居なかった。
「それで、今日も借りるんですか!」
先に動いたのは小鈴だった。この言葉でさとりもパチュリーも我に返り、冷静になる。
「…私は噂について聞きにここまで来たの。」
「噂…?」
「あぁ、あの噂でしょう?あれ、本当なのかしら。」
「いい?あれは全くのデマ!私はあんなハレンチな本読まない!」
「…え?」
突如溢れ出す小鈴の感情をさとりは見逃さなかった。
「こればっかりはちゃんと言うけど、私はそんな本読まないわ。もっと別ジャンルの本が好きだもの。」
「え、でも、じゃあなんでこの本を…」
「それは私が間違えて借りただけ!まさかそんな本だとは思わなかったし!」
「えぇ〜…」
小鈴はショックと同時に噂の事を考えていた、その中に噂の原因となりえるものをさとりは見逃さない。
「もしかして…貴方、私がこの本を借りたって誰かに話してるんじゃないかしら?」
ギクリ、そんな顔を浮かべながら更に小鈴は思い出していく。それを読むたびにさとりの顔色も段々赤くなっていく。
その顔を見て、小鈴は「もう辞めて〜!」と心の中で叫び、さとりもそれを感じ、一度整理することにした。
勝手に赤面するさとりと少し慌てる小鈴を見て、なんとなく状況を察したパチュリーは会話に入らない方が良いと判断し、ゴロゴロしていたお燐の隣に座わって、なでなでして休んでいた。
「…それでどうしようかしら」
噂が広がったのは小鈴がきっかけ。だが、そもそもさとりがこんな本を借りなければこんなことにはならなかった。責任はさとり自身にある。しかし、そもそもどうやってこの噂を止めれば良いのか思いつかない。
「これって、噂を止めればそれで良いんですよね。」
「えぇ、でも、そもそも私が間違えて借りなければ良かった話、貴方には何の責任も無いわ。だからこれは私が解決しなきゃ…」
「それなら私がメガホン持って、さとりさんは腐女子じゃなーいって叫べば…」
「それは逆に怪しい!」
悩む二人の前に、パチュリーが立ちはだかる。
「…それなら私が解決してあげようかしら?」
「まだ帰ってなかったの?魔理沙は探さなくて良いのかしら。」
「こっちの方が面白そうだし、何より、恩を売れるでしょう?」
「…それで、解決策は…あぁ、荒療治ね。」
「これで良いでしょう?」
「まぁそれで良いけど…。」
パチュリーの策はさとりの能力で何人かの意識を改変し、パチュリーの魔法でなんやかんやして、噂はデマだったと広める、というものだった。
小鈴は二人の雰囲気を感じながら大丈夫そうだと考え、「もう勝手に広めない!」と強く言い聞かせて本を戻しに席から立つ。
さとりたちはすぐに作戦を決行すべく、鈴奈庵から出て人通りの少ない、暗い場所まで向かった。
「とりあえず適当にやるけど、あとは貴方がやってくれるって認識で良いのよね?」
「ええそれで構わないわ。そっちの方が私としてもやり易いし。」
「軽くで良いのよね?」
「えぇ、軽く。」
一息ついて、さとりは近くにいた何人かの意識を改変し、パチュリーはそこで魔法をかけて噂の認識を変えていく。
あとは時間経過を見てパチュリーが上手くやるということで解決し、さとりとお燐はそのまますぐに帰っていった。
―何やかんや大変だったがパチュリーの助けもあり、徐々に噂は消え、さとりも安心してこいしを探しに行けるようになる。お燐もお空も心配していたが大丈夫そうなさとりを見てほっとしていた。
そんな中、パチュリーは図書館の中でレミリアと話していた。
「それで?あの地霊の件は上手くやってるの?」
「えぇ、上手くできてるわ。」
「少しは能力のこと、分かったかしら。」
「全く、未知ね。やはりさとり妖怪は魔法とは全く別物。私でも何も分からなかった。」
「本来なら貴方だけで完結すること、それを上手く能力を利用させることで分析するチャンスを作り、そして恩も売ることが出来た、流石ね。」
「でも、結局の所無駄だったわね。」
「未知と知ることが出来ただけで大きな収穫。よくやったわ、パチェ。」
「えぇ、そうね。」
あの時パチュリーは分析することなど思いつかず、特に策以外は考えていなかった。しかし後々から考えてみればさとりの能力を知れるきっかけが出来たことに気づき、そのまま解析を始める。さとりも噂によって混乱していた事もあり、気付かなかった。
幸運だった、パチュリーはそう考えることにする。
レミリアが自室に戻り、一人きりとなったところで、小鈴に勧められた本を試しに読んでみる。
「わ、わぁ〜」
こうしてまた一人、腐女子が増えていったのだった…