日の昇るより前、いつもよりずっと早く目を覚ました秋 穣子は、秋 静葉が既に床を離れていることに気が付いた。
秋 静葉は部屋の隅で菜種油が灯す小さな明かりの側で数枚の書面を凝視していた。
「おはよう、また、果し状読んでるんだね、おねぇちゃん。」
姉妹はその文書のことを「果し状」と呼んでいた。送り主は東風谷 早苗、内容は無いようなもので、山頂の世間話や自分の信者の自慢話、身内外様の馬鹿話なんかがとりとめもなく並べられている。客観的にはそれを果し状だと認識するような文面などどこにもない。手紙の末尾には次のような文面が記されていた。
今度お二人が開催される秋の収穫祭に、私も参加しようと思います。
この度はそのご挨拶にと思って、お手紙を書いてみました。
秋 穣子の言葉に何も言わず頷き、行燈の炎を優しく吹き消すと、東側の雨戸をそっと開いた。収穫間もない刈田の向こう、博麗神社の更に先に黄色く輝く太陽が姿を現した。
「恥ずかしいところ、見せられないよ。」
収穫祭当日の朝のことだった。
秋姉妹系の農家は収穫庫を共用している、その年の収穫のうち、各家々が貯蔵し切れない分を全てそこに集め、都度その中から備蓄の尽きた農家に食料を分配する。
秋姉妹宅の離れだか隣家だか分からない程離れた場所にある収穫庫の周りには既に3,4軒のだいぶ粗末な出店が並び、各農家が持ち寄った自家製の食べ物や酒が出品されている。
中央の広場には男共が子供を集め、見世物がてらに、小屋裏で女房連中が炊いた米で餅をつかせている。
朝っぱらから濁酒が出回り、大多数の大人は既に出来上がっていた。
秋姉妹はこの収穫祭会場で信者や関係者らに挨拶をして回っていたが、突然彼女らは足をすくめて互いに抱き合った。視線の先に東風谷 早苗がいた。
彼女は出店で買い求めたカマンベールチーズをもぐもぐしながらストレートのリンゴジュースを一気飲みしていたが、秋姉妹を見つけると大手を振って駆け寄って声を掛けてきた。本当は洩矢 諏訪子や八坂 神奈子と一緒に来たかったが結局1人で来たと告げる東風谷 早苗に適当に応えて追い払った後、秋姉妹は色んな意味で胸を撫で下ろした。
収穫祭開催の合図は豊穣神楽だった。広場の中央に臼が取り払われ、秦 こころがお囃子の農民と共に能を舞った。
二ツ岩 マミゾウ監督・脚本の能はその狸の意図とは裏腹に、お囃子農民の「せいやぁ!」「はぁ!」という田舎臭い合いの手に一層の滑稽さがあったが、酒の入った会衆に受けて相当に盛り上がった。秋姉妹が直々に土下座したかいがあった。東風谷 早苗も楽しそうだった。
秦 こころが退場すると間もなく、秋姉妹が収穫庫の屋根から宣誓した。
「これより豊作を祝福しお餅を撒きます!」
その前に会衆がぐっと集まる。神楽の裏で女房連中が丸め、紙に包んだ餅と小銭を秋姉妹は一斉にばら撒いた。
自分たちの財力を示したいという意思が働き、餅と小銭はおのずと東風谷 早苗に集中した、ただ彼女を喜ばせているだけと気付いた時、それらの在庫は撒き尽くした。
「これにて豊作祝いの餅撒きは終了です!皆さん引き続き今年度の収穫祭をどうぞお楽しみください!」
そう高らかに言い、秋姉妹は深くお辞儀した。
「秋姉妹さん秋姉妹さん!」
聞き覚えのある声がして2人は顔を上げた。群衆の中央で大量の餅を抱えた東風谷 早苗が彼女らに続けた。
「とても楽しいお祭りを開催していただきありがとうございます!そのお礼と言っては難ですが、わたくし引いては守矢神社一同より皆様に、豊作祝いのお花をお届けいたします!」
呆気にとられ、秋姉妹は互いに顔を見合わせた。
「それ!」
東風谷 早苗は胸に抱えた大量の餅を大空に投げ上げた。すると強風が突然起こり全ての餅を更に巻き上げ、紙に包まれた餅はひらひらと宙を舞ってゆっくりと降下した。
すると餅は花となって人々の上に降ってきた。
コスモス、秋菊、ナデシコ、種々も色々も様々な沢山の花が空を埋め尽くし、収穫祭を彩った。東風谷 早苗の奇行に空を見入っていた人々はその軌跡に驚き、頭上へ両手を掲げ次々に歓声を上げた。
青空を彩る花々を、秋姉妹は茫然として見上げていた。
「私達にはこんなことできないよね。おねぇちゃん。」
「敵わないなぁ、張り合ってたのがバカバカしいよ。」
「うん、そうだね。」
「でも、よかったよ。とっても綺麗だ。早苗さんのおかげで、みんな喜んでるよ。」
舞い降りる花を見て子供達が皆笑い、それを見て大人達も皆笑っていた。
たった一抱えだった白餅は色とりどりの花弁となって、今も絶えることなく澄んだ青空を彩っていた。
今年の秋も大豊作だった。
おわり
秋 静葉は部屋の隅で菜種油が灯す小さな明かりの側で数枚の書面を凝視していた。
「おはよう、また、果し状読んでるんだね、おねぇちゃん。」
姉妹はその文書のことを「果し状」と呼んでいた。送り主は東風谷 早苗、内容は無いようなもので、山頂の世間話や自分の信者の自慢話、身内外様の馬鹿話なんかがとりとめもなく並べられている。客観的にはそれを果し状だと認識するような文面などどこにもない。手紙の末尾には次のような文面が記されていた。
今度お二人が開催される秋の収穫祭に、私も参加しようと思います。
この度はそのご挨拶にと思って、お手紙を書いてみました。
秋 穣子の言葉に何も言わず頷き、行燈の炎を優しく吹き消すと、東側の雨戸をそっと開いた。収穫間もない刈田の向こう、博麗神社の更に先に黄色く輝く太陽が姿を現した。
「恥ずかしいところ、見せられないよ。」
収穫祭当日の朝のことだった。
秋姉妹系の農家は収穫庫を共用している、その年の収穫のうち、各家々が貯蔵し切れない分を全てそこに集め、都度その中から備蓄の尽きた農家に食料を分配する。
秋姉妹宅の離れだか隣家だか分からない程離れた場所にある収穫庫の周りには既に3,4軒のだいぶ粗末な出店が並び、各農家が持ち寄った自家製の食べ物や酒が出品されている。
中央の広場には男共が子供を集め、見世物がてらに、小屋裏で女房連中が炊いた米で餅をつかせている。
朝っぱらから濁酒が出回り、大多数の大人は既に出来上がっていた。
秋姉妹はこの収穫祭会場で信者や関係者らに挨拶をして回っていたが、突然彼女らは足をすくめて互いに抱き合った。視線の先に東風谷 早苗がいた。
彼女は出店で買い求めたカマンベールチーズをもぐもぐしながらストレートのリンゴジュースを一気飲みしていたが、秋姉妹を見つけると大手を振って駆け寄って声を掛けてきた。本当は洩矢 諏訪子や八坂 神奈子と一緒に来たかったが結局1人で来たと告げる東風谷 早苗に適当に応えて追い払った後、秋姉妹は色んな意味で胸を撫で下ろした。
収穫祭開催の合図は豊穣神楽だった。広場の中央に臼が取り払われ、秦 こころがお囃子の農民と共に能を舞った。
二ツ岩 マミゾウ監督・脚本の能はその狸の意図とは裏腹に、お囃子農民の「せいやぁ!」「はぁ!」という田舎臭い合いの手に一層の滑稽さがあったが、酒の入った会衆に受けて相当に盛り上がった。秋姉妹が直々に土下座したかいがあった。東風谷 早苗も楽しそうだった。
秦 こころが退場すると間もなく、秋姉妹が収穫庫の屋根から宣誓した。
「これより豊作を祝福しお餅を撒きます!」
その前に会衆がぐっと集まる。神楽の裏で女房連中が丸め、紙に包んだ餅と小銭を秋姉妹は一斉にばら撒いた。
自分たちの財力を示したいという意思が働き、餅と小銭はおのずと東風谷 早苗に集中した、ただ彼女を喜ばせているだけと気付いた時、それらの在庫は撒き尽くした。
「これにて豊作祝いの餅撒きは終了です!皆さん引き続き今年度の収穫祭をどうぞお楽しみください!」
そう高らかに言い、秋姉妹は深くお辞儀した。
「秋姉妹さん秋姉妹さん!」
聞き覚えのある声がして2人は顔を上げた。群衆の中央で大量の餅を抱えた東風谷 早苗が彼女らに続けた。
「とても楽しいお祭りを開催していただきありがとうございます!そのお礼と言っては難ですが、わたくし引いては守矢神社一同より皆様に、豊作祝いのお花をお届けいたします!」
呆気にとられ、秋姉妹は互いに顔を見合わせた。
「それ!」
東風谷 早苗は胸に抱えた大量の餅を大空に投げ上げた。すると強風が突然起こり全ての餅を更に巻き上げ、紙に包まれた餅はひらひらと宙を舞ってゆっくりと降下した。
すると餅は花となって人々の上に降ってきた。
コスモス、秋菊、ナデシコ、種々も色々も様々な沢山の花が空を埋め尽くし、収穫祭を彩った。東風谷 早苗の奇行に空を見入っていた人々はその軌跡に驚き、頭上へ両手を掲げ次々に歓声を上げた。
青空を彩る花々を、秋姉妹は茫然として見上げていた。
「私達にはこんなことできないよね。おねぇちゃん。」
「敵わないなぁ、張り合ってたのがバカバカしいよ。」
「うん、そうだね。」
「でも、よかったよ。とっても綺麗だ。早苗さんのおかげで、みんな喜んでるよ。」
舞い降りる花を見て子供達が皆笑い、それを見て大人達も皆笑っていた。
たった一抱えだった白餅は色とりどりの花弁となって、今も絶えることなく澄んだ青空を彩っていた。
今年の秋も大豊作だった。
おわり