「あ、そうだ、猫飼おーっと。」
紅魔館の薄暗い地下室で吸血鬼の少女は一体何を思ったのか、よく分からないことを言い始めていた。
「ねぇパチェ〜、ちょっと猫飼いたい。」
「賛成ね、早く捕まえに行きましょうか。」
「…あら?いつもみたいに否定しないのね。」
「猫は特別よ。魔法使いたるもの、従属として1匹くらい欲しいと思うもの。」
「へぇ〜…それってただ猫が欲しいだけなんじゃ?」
「前々から思ってたことよ〜」
「これ、小悪魔が聞いたらなんというか…」
「あの子はあの子で大丈夫でしょう。恐らく…」
「そもそも、なんでパチェの従属になるみたいな感じなのよ。あくまでも私のペットとして飼いたいんだけど?」
「良いじゃない、従属でも。」
「むー、ペットが良いんです〜。」
「分かったわ。それじゃあ、2匹捕まえてきたら良いじゃない。」
「あーそっか、じゃあそうしよーっと。それなら久しぶりに外に出るか!」
手を前に掲げ、不穏な空気が流れ始める。
「待って!フラ…」
「きゅっとしてドカーン!」
なんの躊躇もなく一握り。紅魔館は半壊し姉や美鈴は駆けつけ、咲夜は動揺し、パチェは開いた口が塞がらなかった。
「あ、つい癖が。」
駆けつけたレミリアがフランを見つける。
「ちょっとフラン!何をしてるのよ!これ、誰が修理すると思ってるの!」
「…お姉さまじゃなくて、咲夜でしょ?」
「そうだけど、そうなんだけど!もう少し常識を知りなさい!」
「ねぇパチェ、どっちが先に猫を捕まえられるか勝負しない?」
「え?…あぁ、そうねぇ…そうしましょう。」
「待って、どういうこと?」
「おねーさまは関係ない!」
「猫?ちょっとよく分からないのだけど?」
「とにかく、パチェ、もう行くわよ!」
「え?あぁ、分かったわ。」
「よーい、ドン!」
「ちょっと!フランもパチェも急にどうしたのよ!」
ほぼ半壊した紅魔館を背後に、吸血鬼の妹と大魔法使いが猫を探しにいく。レミリアはあれこれ考えてみるがすぐに諦め、咲夜と美鈴は訳も分からず館の修復を急いだ。
「…私、捨てられちゃうのかな?」
誰も小悪魔だけが不安を抱いていたとは知らずに。
―「ねーこ、ねこねこ、ねーこねこ〜。どーこだ。」
適当に猫が居そうな場所を探す。しかしそんなところ考えても分からないフランは片っ端から探してみることにした。
「あぁー…あつい…」
ノリで外に出たものの、咲夜がいないから太陽の光が当たって体中から煙が出る。猫のためならこれぐらい仕方ないが、やはり太陽は不愉快だった。そんな時ちょうど視界に入った博麗神社で涼もうと思い、寄り道をする。
「はぁ!?猫!?」
「そう、猫探してるの。」
出されたお茶を味わいつつ、疲れたフランは縁側で寝っ転がっていた。そんなフランを見ながら、霊夢は普通に話しかける。
「何を思ってここに来たかと思えば、とんだ大迷惑じゃない。それで?私に手伝えって言うの?」
「いえ、パチェと勝負してるの。先に猫を見つけた方の勝ちってね。ここには涼みに来ただけよ。」
「それならまだ良いわ、とっとと見つけて帰んなさい。」
くつろぐフランに霊夢はほんの少しだけ鬱陶しく感じていた。レミリアはともかく、妹のフランはあまり会話をしたことが無いからである。噂によれば破壊神だの恐れられる存在だの、ろくな話を聞かない。フランの印象は決して良いものではなかった。
しかし、フランを知るにはちょうど良い機会でもある。霊夢はフランを知る為に少し躍起になっていた。
「それで、どうするの?」
「帰りたくない。でも、猫ってどんなところにいるのか分からないし見つけようにも探せないわ。」
「猫なんてそこら中にいるものじゃない、人里にけっこう居そうだけど?」
「えぇ〜人里?人里で探さなきゃいけないの?」
「無理に探せなんて言ってないわよ。でも、どこに居るかと言われたら…やっぱり人里になるんじゃないかしら?」
人里に行きたくない、どうしてもそう考えてしまうフランはレミリアの事を思い出していた。
「えぇ〜…(お姉様はこういうことに慣れてるから良いけど、私はそうとはいかないし…そもそも外に出ることがないから勝手に何かと壊れて…あー、これ絶対怒られるパターンだわぁ〜…)」
冷静に先のことを考えてみれば、ほぼバッドエンドになりそうである。ごろごろしているフランが更にぐだぐだとなっていく。
「あんたが人里行ったら、ろくでもないことになりそうねぇ」
霊夢がそう話すくらい、半ば諦めが募る。
「えぇ〜…人里かぁ…」
「そういやあんた、見た感じ一人だけで探してるけど、他に探してるやつはいるのかしら?」
「だから、パチェが探してるわ…って、そういえば勝負中じゃない!」
殆ど液状化していたフランに突然やる気が込み上げる。
「少しはずれたところを探してみなさい、その辺りが一番大丈夫そうだわ。」
「そうね、それじゃあ、ちゃっちゃと見つけようか!」
するとフランはルンルン気分で霊夢が指差した方向へ進んでゆく。
「吸血鬼はよく分からないものね。」
そう思う霊夢だった。
―「あー、暑い暑い暑い。猫なんて探してられないわ。」
人里から少し離れていそうな大木の影に座り、辺りを見渡す。近くにはお墓とお花畑。なんだか猫が居そうな雰囲気である。
「…ミャー」
微かに猫の鳴き声が聞こえた。その声を頼りに静かに移動すると、猫の溜まり場のようなものを見つける。
どうやら、なにかの餌を食べているらしい。
「やっと居た〜!」
あまり見たことがない猫、白もいれば焦茶もいて、どいつもこいつも個性的で可愛いらしい。その中でも一際可愛いやつが1匹いた。
そーっと近づき、ぎゅっと捕まえる。
「こいつにしよーっと!」
「にゃっ!にゃー!」
尻尾が2つで、真っ黒な柄、こいつだけは他の猫とちょっと違っていた。
そのまま、ルンルン気分ですぐに持ち帰る。
「そうやって墓場で見つけた黒猫を持って帰ってきたと…それで?どうするの?」
黒猫を連れて帰ってきたものの、まだ飼える環境は当然整っていない。それにレミリアは動物を飼う気などさらさらなかった。
「トイレはどこに置くの?」
「そんな物、必要かしら?」
「紅魔館に野放しにするつもり?」
「そうね、そんな感じよ。もちろん私が独占するつもりだけど。」
レミリアは黒猫を抱いたフランを見ながら、「これ、絶対に大丈夫じゃない。」と心配になっていた。ただでさえ紅魔館を平気でぶっ壊すような破壊神である。猫が破壊されれば、こちらとしても嫌になる。物はまた良いが生き物を破壊されるのはまた別の話、レミリアはどうするべきなのか悩んでいた。
そんな中で抱いていた黒猫はずっと逃げ出そうとジタバタする。しかしフランがちょっとだけグッとすると、たちまちおとなしくなった。
それもそのはずである。
「ミャ…(どうしよう、ここで妖怪の姿に戻ったら殺されるかな。しかも黒猫で飼われるかもしれないし…どうせなら捕まった時にすぐ戻るんだった!あーもう!助けてさとり様!!)」
地霊殿に住む古明地さとりのペット、火焔猫燐は墓でいつものように死体を掘り起こしていた。休憩がてら猫の姿になって戯れていたところ、なぜか急に吸血鬼に捕まえられて怖気づいてしまい、訳のわからないままここに連れてきた次第である。
「にゃ…(とりあえず頃合いを見て逃げたいけど…ずっとがっしり掴むのきつい…)」
フランはお燐の体をがっしりと掴んでいた。彼女なりに力加減はしているが、自由に動けないくらいにはしっかりと掴んでいる。お燐にできることは足と手をジタバタさせることくらいだった。
「えーと…とりあえずあんたの好きなようにしなさい。」
「言われなくてもそうするつもりよ。」
「にゃっ…(さとり様、早く助けて…)」
―「どこにもいないわねぇ…」
「お燐〜!どこにいるんだー!」
午後7時ごろ、さとりとお空がお燐を探しに上空から捜索を開始する。普通、お燐ならこの時間帯に帰ってくるはずなのに帰ってこないのはおかしい。きっと何かあったに違いないとお空と話しているうちに、さとりがいてもたってもいられず捜索を開始した。
「おかしいわね、いつもならすぐ帰ってくるのだけど」
「お燐ー!どこにいるんだー!」
「杞憂であれば良いのだけど。」
一方、こいしは紅魔館の前で訳のわからない事を考えていた。
「あの吸血鬼の妹さんがお燐を連れて行ったってことは…もしかしたらお姉ちゃんがここに居て、吸血鬼の妹さんに頼んで、ここにお燐を連れてきたんじゃないかって、私に内緒でここで秘密の何かをやってるんだ!えぇ〜、ずる〜い。」
そんなデタラメをかんがえながら、疲れてぐっすり眠っていた美鈴を叩き起こし、色々説明する。
「…え?お前のお姉ちゃんってあの地霊殿の主か?いやいや、ここにそんな奴いるわけないだろう。」
「いーえ、どうせ隠してるんでしょ!分かるもーん。」
「ないない、そもそもなんで紅魔館に来る必要があるんだ。そんな秘密の何かなんてするはずない。」
「はぁ…ほんと、寝てるだけの無意味な門番なくせに。」
「あ?とにかく早くお家に帰りましょうかー?」
半ギレの美鈴を前に、こいしは突然空の一点を見つめる。
「あ!UFO!」
「え?どこ?」
「バカもんばーん。」
「ちょ!おい!待て!」
隙を見てこいしは紅魔館の中へ侵入する。すぐに追いかける美鈴だったが何処にいるのか分からず「どうせ咲夜さんが何とかしてくれる。」と考えてすぐに戻って行った。
「お姉ちゃーん!お燐ー!どこー!」
紅魔館の長ーい廊下をひたすら歩く。するとその先にいたレミリアを見つける。
「ねぇ貴方、お姉ちゃんとお燐を見てない?」
「見てない…って、何故貴方がここにいるのかしら?」
「お燐が貴方の妹さんに連れて行かれたんだもん。貴方ここの主でしょう?どこにいるか分かるんじゃない?」
「お燐?ここには来てないわよ。第一、紅魔館に来るはずないじゃない。」
「だから!連れて行かれたんだって!みんなここにいるはずだもん!」
「皆んな誰も連れて来てないわよ!」
「猫よ!猫!いたでしょ猫が!」
「…待って、それじゃあ、もしかしてあの黒猫かしら?」
「そう!黒猫!それがお燐よ!どーせここにお姉ちゃんもいるんでしょ?」
「なんでそうなるのよ。とにかく、あの黒猫はフランと今遊んでるわ。あいつ、何故か急に黒猫が欲しいと言って黒猫を連れてきたもの。それと、ここに貴方の姉は居ないわ。この場にいるのはその黒猫だけね。」
「そっかー、じゃあ早くお燐連れて帰ろーっと。」
「それじゃあ、フランのところへ行きましょうか。」
「はーい、貴方良い人ね!」
「そうかしら。」
吸血鬼の主と無意識の妹、側から見れば異質なコンビである。レミリアは早く連れて帰ってもらおうと考えていた。
「ねぇ、フラーン!ちょっとお話があるのだけどー?」
「何ー!今忙しいの!」
「あんたが連れてきた黒猫のことよ!その子、地霊殿の子らしいわよ!」
「そんなわけないじゃない!」
「ほんとよ!飼い主がそう言ってるんだから!」
「ちょっと、それどういうこと!」
勢いよく扉を開け、黒猫をがっしりと掴んだままフランは驚いた表情を見せる。こいしがそっとお燐を掴もうとしたが、フランはそれを拒む。
「ねぇ、なんで!なんでよりによってこの子がそいつのペットなのよ!」
「ねぇ、お燐。そろそろ戻ったらどう?」
「…にゃ」
「わっ!」
一瞬にして妖怪の姿に戻ったお燐を見て、フランは動揺を隠しきれていなかった。
「この子妖怪なの!?」
「ねーお燐?」
「あー、やっと戻れた。一生地霊殿に帰られないかと思いましたよ…」
「よーしよしよしよし…」
「わぁっ。」
フランはずっと開いた口が塞がらない。フランからすればやっとの思いで捕まえた黒猫、それがよりによって妖怪でしかも、すでに地霊殿のペットである事実がどーしても耐えられなかった。
「えー!頑張って捕まえたのに!」
「お燐は私のペットだもの、誰にも渡さないわ。」
「ねぇお姉さま、私も黒猫飼いたいー!」
「…まだパチェがいるわ。パチェに賭けましょう。」
「はーい…」
「それじゃあ私たちは帰るわね。」
「もう、私を連れ去らないで下さいね!」
悔しそうなフランを横目に、こいしとお燐は地霊殿へ早く向かった。
「ねぇ、お燐、あのお屋敷で何されてたの?」
「猫じゃらしで遊んだり、お座りとかお手とかしましたし、あと、一緒に寝てました。」
「!?」
「怖かったけど、正直楽しかった…あぁ!でも、こいし様が一番ですよ!」
「ジー…」
「えーと、ごめんなさい…?」
「よーしよしよしよし…」
「あわわ…」
「やっといた!どこ行ってたの!?」
「あーお姉ちゃんだー!」
「わっ、ちょっとこいし、なんでお燐と一緒なの?」
「紅魔館に遊びに行ってたの。」
「正確には私が連れ去られたんですけどね。」
「そう…通りでこんなに遅いわけね。とにかく、早く地霊殿に帰るわよ。」
「はーい!」
―「ねぇ、フラン。そんなに落ち込まなくても」
フランは分かりやすく、ショックで落ち込んでいた。そんなフランを見て、レミリアは珍しいと感じている。
「…だって、苦労したんだもん。日に焼けながら行ったんだもん!」
「大丈夫よ、まだパチェがいるわ。」
「…また探しにいく。」
「それにしてもパチェ遅いわね。もう夜ご飯前だけど。そういやフラン、咲夜と美鈴にちゃんと感謝しときなさいよ、あの後すぐに紅魔館治してくれたんだから。」
「はーい。」
「それと、今日はパチェが帰ってくるまで部屋で待ちなさい、帰ってきたらすぐ呼ぶから。」
「…えぇ、分かったわ。」
その後、夜ご飯を済ませてもパチェは帰ってこず、レミリアは落ち込んだフランの相手をする羽目となってしまう。
パチェが帰ってきたのは次の日の昼だった。
「やっと捕まえたわ!昨日から大変だったのよ!近づいたら威嚇されるしすぐ逃げられるし!魔法で捕まえようにもそんなことしたら猫ちゃんが嫌な思いするだろうからずっと追いかけっこしてたけど、やっぱり無理だったから結局魔法を使って捕まえたの、フランはどんな猫を捕まえてきたの?」
「…その子。」
「え?どこ?」
捕まえてる猫を指差す。
「その子。」
「え?」
「…(体が痺れて何もできない…)」
またも連れ去られるお燐であった…
紅魔館の薄暗い地下室で吸血鬼の少女は一体何を思ったのか、よく分からないことを言い始めていた。
「ねぇパチェ〜、ちょっと猫飼いたい。」
「賛成ね、早く捕まえに行きましょうか。」
「…あら?いつもみたいに否定しないのね。」
「猫は特別よ。魔法使いたるもの、従属として1匹くらい欲しいと思うもの。」
「へぇ〜…それってただ猫が欲しいだけなんじゃ?」
「前々から思ってたことよ〜」
「これ、小悪魔が聞いたらなんというか…」
「あの子はあの子で大丈夫でしょう。恐らく…」
「そもそも、なんでパチェの従属になるみたいな感じなのよ。あくまでも私のペットとして飼いたいんだけど?」
「良いじゃない、従属でも。」
「むー、ペットが良いんです〜。」
「分かったわ。それじゃあ、2匹捕まえてきたら良いじゃない。」
「あーそっか、じゃあそうしよーっと。それなら久しぶりに外に出るか!」
手を前に掲げ、不穏な空気が流れ始める。
「待って!フラ…」
「きゅっとしてドカーン!」
なんの躊躇もなく一握り。紅魔館は半壊し姉や美鈴は駆けつけ、咲夜は動揺し、パチェは開いた口が塞がらなかった。
「あ、つい癖が。」
駆けつけたレミリアがフランを見つける。
「ちょっとフラン!何をしてるのよ!これ、誰が修理すると思ってるの!」
「…お姉さまじゃなくて、咲夜でしょ?」
「そうだけど、そうなんだけど!もう少し常識を知りなさい!」
「ねぇパチェ、どっちが先に猫を捕まえられるか勝負しない?」
「え?…あぁ、そうねぇ…そうしましょう。」
「待って、どういうこと?」
「おねーさまは関係ない!」
「猫?ちょっとよく分からないのだけど?」
「とにかく、パチェ、もう行くわよ!」
「え?あぁ、分かったわ。」
「よーい、ドン!」
「ちょっと!フランもパチェも急にどうしたのよ!」
ほぼ半壊した紅魔館を背後に、吸血鬼の妹と大魔法使いが猫を探しにいく。レミリアはあれこれ考えてみるがすぐに諦め、咲夜と美鈴は訳も分からず館の修復を急いだ。
「…私、捨てられちゃうのかな?」
誰も小悪魔だけが不安を抱いていたとは知らずに。
―「ねーこ、ねこねこ、ねーこねこ〜。どーこだ。」
適当に猫が居そうな場所を探す。しかしそんなところ考えても分からないフランは片っ端から探してみることにした。
「あぁー…あつい…」
ノリで外に出たものの、咲夜がいないから太陽の光が当たって体中から煙が出る。猫のためならこれぐらい仕方ないが、やはり太陽は不愉快だった。そんな時ちょうど視界に入った博麗神社で涼もうと思い、寄り道をする。
「はぁ!?猫!?」
「そう、猫探してるの。」
出されたお茶を味わいつつ、疲れたフランは縁側で寝っ転がっていた。そんなフランを見ながら、霊夢は普通に話しかける。
「何を思ってここに来たかと思えば、とんだ大迷惑じゃない。それで?私に手伝えって言うの?」
「いえ、パチェと勝負してるの。先に猫を見つけた方の勝ちってね。ここには涼みに来ただけよ。」
「それならまだ良いわ、とっとと見つけて帰んなさい。」
くつろぐフランに霊夢はほんの少しだけ鬱陶しく感じていた。レミリアはともかく、妹のフランはあまり会話をしたことが無いからである。噂によれば破壊神だの恐れられる存在だの、ろくな話を聞かない。フランの印象は決して良いものではなかった。
しかし、フランを知るにはちょうど良い機会でもある。霊夢はフランを知る為に少し躍起になっていた。
「それで、どうするの?」
「帰りたくない。でも、猫ってどんなところにいるのか分からないし見つけようにも探せないわ。」
「猫なんてそこら中にいるものじゃない、人里にけっこう居そうだけど?」
「えぇ〜人里?人里で探さなきゃいけないの?」
「無理に探せなんて言ってないわよ。でも、どこに居るかと言われたら…やっぱり人里になるんじゃないかしら?」
人里に行きたくない、どうしてもそう考えてしまうフランはレミリアの事を思い出していた。
「えぇ〜…(お姉様はこういうことに慣れてるから良いけど、私はそうとはいかないし…そもそも外に出ることがないから勝手に何かと壊れて…あー、これ絶対怒られるパターンだわぁ〜…)」
冷静に先のことを考えてみれば、ほぼバッドエンドになりそうである。ごろごろしているフランが更にぐだぐだとなっていく。
「あんたが人里行ったら、ろくでもないことになりそうねぇ」
霊夢がそう話すくらい、半ば諦めが募る。
「えぇ〜…人里かぁ…」
「そういやあんた、見た感じ一人だけで探してるけど、他に探してるやつはいるのかしら?」
「だから、パチェが探してるわ…って、そういえば勝負中じゃない!」
殆ど液状化していたフランに突然やる気が込み上げる。
「少しはずれたところを探してみなさい、その辺りが一番大丈夫そうだわ。」
「そうね、それじゃあ、ちゃっちゃと見つけようか!」
するとフランはルンルン気分で霊夢が指差した方向へ進んでゆく。
「吸血鬼はよく分からないものね。」
そう思う霊夢だった。
―「あー、暑い暑い暑い。猫なんて探してられないわ。」
人里から少し離れていそうな大木の影に座り、辺りを見渡す。近くにはお墓とお花畑。なんだか猫が居そうな雰囲気である。
「…ミャー」
微かに猫の鳴き声が聞こえた。その声を頼りに静かに移動すると、猫の溜まり場のようなものを見つける。
どうやら、なにかの餌を食べているらしい。
「やっと居た〜!」
あまり見たことがない猫、白もいれば焦茶もいて、どいつもこいつも個性的で可愛いらしい。その中でも一際可愛いやつが1匹いた。
そーっと近づき、ぎゅっと捕まえる。
「こいつにしよーっと!」
「にゃっ!にゃー!」
尻尾が2つで、真っ黒な柄、こいつだけは他の猫とちょっと違っていた。
そのまま、ルンルン気分ですぐに持ち帰る。
「そうやって墓場で見つけた黒猫を持って帰ってきたと…それで?どうするの?」
黒猫を連れて帰ってきたものの、まだ飼える環境は当然整っていない。それにレミリアは動物を飼う気などさらさらなかった。
「トイレはどこに置くの?」
「そんな物、必要かしら?」
「紅魔館に野放しにするつもり?」
「そうね、そんな感じよ。もちろん私が独占するつもりだけど。」
レミリアは黒猫を抱いたフランを見ながら、「これ、絶対に大丈夫じゃない。」と心配になっていた。ただでさえ紅魔館を平気でぶっ壊すような破壊神である。猫が破壊されれば、こちらとしても嫌になる。物はまた良いが生き物を破壊されるのはまた別の話、レミリアはどうするべきなのか悩んでいた。
そんな中で抱いていた黒猫はずっと逃げ出そうとジタバタする。しかしフランがちょっとだけグッとすると、たちまちおとなしくなった。
それもそのはずである。
「ミャ…(どうしよう、ここで妖怪の姿に戻ったら殺されるかな。しかも黒猫で飼われるかもしれないし…どうせなら捕まった時にすぐ戻るんだった!あーもう!助けてさとり様!!)」
地霊殿に住む古明地さとりのペット、火焔猫燐は墓でいつものように死体を掘り起こしていた。休憩がてら猫の姿になって戯れていたところ、なぜか急に吸血鬼に捕まえられて怖気づいてしまい、訳のわからないままここに連れてきた次第である。
「にゃ…(とりあえず頃合いを見て逃げたいけど…ずっとがっしり掴むのきつい…)」
フランはお燐の体をがっしりと掴んでいた。彼女なりに力加減はしているが、自由に動けないくらいにはしっかりと掴んでいる。お燐にできることは足と手をジタバタさせることくらいだった。
「えーと…とりあえずあんたの好きなようにしなさい。」
「言われなくてもそうするつもりよ。」
「にゃっ…(さとり様、早く助けて…)」
―「どこにもいないわねぇ…」
「お燐〜!どこにいるんだー!」
午後7時ごろ、さとりとお空がお燐を探しに上空から捜索を開始する。普通、お燐ならこの時間帯に帰ってくるはずなのに帰ってこないのはおかしい。きっと何かあったに違いないとお空と話しているうちに、さとりがいてもたってもいられず捜索を開始した。
「おかしいわね、いつもならすぐ帰ってくるのだけど」
「お燐ー!どこにいるんだー!」
「杞憂であれば良いのだけど。」
一方、こいしは紅魔館の前で訳のわからない事を考えていた。
「あの吸血鬼の妹さんがお燐を連れて行ったってことは…もしかしたらお姉ちゃんがここに居て、吸血鬼の妹さんに頼んで、ここにお燐を連れてきたんじゃないかって、私に内緒でここで秘密の何かをやってるんだ!えぇ〜、ずる〜い。」
そんなデタラメをかんがえながら、疲れてぐっすり眠っていた美鈴を叩き起こし、色々説明する。
「…え?お前のお姉ちゃんってあの地霊殿の主か?いやいや、ここにそんな奴いるわけないだろう。」
「いーえ、どうせ隠してるんでしょ!分かるもーん。」
「ないない、そもそもなんで紅魔館に来る必要があるんだ。そんな秘密の何かなんてするはずない。」
「はぁ…ほんと、寝てるだけの無意味な門番なくせに。」
「あ?とにかく早くお家に帰りましょうかー?」
半ギレの美鈴を前に、こいしは突然空の一点を見つめる。
「あ!UFO!」
「え?どこ?」
「バカもんばーん。」
「ちょ!おい!待て!」
隙を見てこいしは紅魔館の中へ侵入する。すぐに追いかける美鈴だったが何処にいるのか分からず「どうせ咲夜さんが何とかしてくれる。」と考えてすぐに戻って行った。
「お姉ちゃーん!お燐ー!どこー!」
紅魔館の長ーい廊下をひたすら歩く。するとその先にいたレミリアを見つける。
「ねぇ貴方、お姉ちゃんとお燐を見てない?」
「見てない…って、何故貴方がここにいるのかしら?」
「お燐が貴方の妹さんに連れて行かれたんだもん。貴方ここの主でしょう?どこにいるか分かるんじゃない?」
「お燐?ここには来てないわよ。第一、紅魔館に来るはずないじゃない。」
「だから!連れて行かれたんだって!みんなここにいるはずだもん!」
「皆んな誰も連れて来てないわよ!」
「猫よ!猫!いたでしょ猫が!」
「…待って、それじゃあ、もしかしてあの黒猫かしら?」
「そう!黒猫!それがお燐よ!どーせここにお姉ちゃんもいるんでしょ?」
「なんでそうなるのよ。とにかく、あの黒猫はフランと今遊んでるわ。あいつ、何故か急に黒猫が欲しいと言って黒猫を連れてきたもの。それと、ここに貴方の姉は居ないわ。この場にいるのはその黒猫だけね。」
「そっかー、じゃあ早くお燐連れて帰ろーっと。」
「それじゃあ、フランのところへ行きましょうか。」
「はーい、貴方良い人ね!」
「そうかしら。」
吸血鬼の主と無意識の妹、側から見れば異質なコンビである。レミリアは早く連れて帰ってもらおうと考えていた。
「ねぇ、フラーン!ちょっとお話があるのだけどー?」
「何ー!今忙しいの!」
「あんたが連れてきた黒猫のことよ!その子、地霊殿の子らしいわよ!」
「そんなわけないじゃない!」
「ほんとよ!飼い主がそう言ってるんだから!」
「ちょっと、それどういうこと!」
勢いよく扉を開け、黒猫をがっしりと掴んだままフランは驚いた表情を見せる。こいしがそっとお燐を掴もうとしたが、フランはそれを拒む。
「ねぇ、なんで!なんでよりによってこの子がそいつのペットなのよ!」
「ねぇ、お燐。そろそろ戻ったらどう?」
「…にゃ」
「わっ!」
一瞬にして妖怪の姿に戻ったお燐を見て、フランは動揺を隠しきれていなかった。
「この子妖怪なの!?」
「ねーお燐?」
「あー、やっと戻れた。一生地霊殿に帰られないかと思いましたよ…」
「よーしよしよしよし…」
「わぁっ。」
フランはずっと開いた口が塞がらない。フランからすればやっとの思いで捕まえた黒猫、それがよりによって妖怪でしかも、すでに地霊殿のペットである事実がどーしても耐えられなかった。
「えー!頑張って捕まえたのに!」
「お燐は私のペットだもの、誰にも渡さないわ。」
「ねぇお姉さま、私も黒猫飼いたいー!」
「…まだパチェがいるわ。パチェに賭けましょう。」
「はーい…」
「それじゃあ私たちは帰るわね。」
「もう、私を連れ去らないで下さいね!」
悔しそうなフランを横目に、こいしとお燐は地霊殿へ早く向かった。
「ねぇ、お燐、あのお屋敷で何されてたの?」
「猫じゃらしで遊んだり、お座りとかお手とかしましたし、あと、一緒に寝てました。」
「!?」
「怖かったけど、正直楽しかった…あぁ!でも、こいし様が一番ですよ!」
「ジー…」
「えーと、ごめんなさい…?」
「よーしよしよしよし…」
「あわわ…」
「やっといた!どこ行ってたの!?」
「あーお姉ちゃんだー!」
「わっ、ちょっとこいし、なんでお燐と一緒なの?」
「紅魔館に遊びに行ってたの。」
「正確には私が連れ去られたんですけどね。」
「そう…通りでこんなに遅いわけね。とにかく、早く地霊殿に帰るわよ。」
「はーい!」
―「ねぇ、フラン。そんなに落ち込まなくても」
フランは分かりやすく、ショックで落ち込んでいた。そんなフランを見て、レミリアは珍しいと感じている。
「…だって、苦労したんだもん。日に焼けながら行ったんだもん!」
「大丈夫よ、まだパチェがいるわ。」
「…また探しにいく。」
「それにしてもパチェ遅いわね。もう夜ご飯前だけど。そういやフラン、咲夜と美鈴にちゃんと感謝しときなさいよ、あの後すぐに紅魔館治してくれたんだから。」
「はーい。」
「それと、今日はパチェが帰ってくるまで部屋で待ちなさい、帰ってきたらすぐ呼ぶから。」
「…えぇ、分かったわ。」
その後、夜ご飯を済ませてもパチェは帰ってこず、レミリアは落ち込んだフランの相手をする羽目となってしまう。
パチェが帰ってきたのは次の日の昼だった。
「やっと捕まえたわ!昨日から大変だったのよ!近づいたら威嚇されるしすぐ逃げられるし!魔法で捕まえようにもそんなことしたら猫ちゃんが嫌な思いするだろうからずっと追いかけっこしてたけど、やっぱり無理だったから結局魔法を使って捕まえたの、フランはどんな猫を捕まえてきたの?」
「…その子。」
「え?どこ?」
捕まえてる猫を指差す。
「その子。」
「え?」
「…(体が痺れて何もできない…)」
またも連れ去られるお燐であった…