Coolier - 新生・東方創想話

獣畜連中月見酒

2026/10/07 18:49:12
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 畜生界の北の辺境、岩ばった山の頂上。丸太と釘で補強された縦穴の前に吉弔 八千慧が訪れた。彼女はしばし穴の奥を見降ろし、間もなく背を向けると、ゆっくりと地べたに腰かけた。座りながら彼女は1升あろうかという大ぶりな瓢箪を傍らに置いた。テンオンス大の木彫りの盃が2つ、瓢箪中腹のくびれに伸びた短い紐に結い付けられ、時折りカラコロと音を立てている。
 しばらくして驪駒 早鬼がやって来た。紙袋いっぱいに人間霊の干物を詰めて、既にそのうち1本を右手につまみ、口中にその先端だけ含んで、みちみちと噛んで味わっていた。
 吉弔 八千慧を見つけると右手を高く掲げ、彼女へ軽く声をかけた。
「よお、今夜も、うまい酒が飲めるんだな。」
「ええ、今夜も、うまい酒になると良いのだけれど。」

 明晩宵五つ、物見鋼山で月見酒と行こう。

 吉弔 八千慧の差出人名義で驪駒 早鬼宛におおよそ月1で手紙が送られる事案は、最近では珍しいことではなくなっていた。
 明日の夜に特定の場所で酒を飲もう。手紙はどれも似たような内容で、当初それを訝しんだ勁牙組一同も最近は慣れたらしい。驪駒 早鬼がつまみを1袋抱えて単身手紙に従い指定の場所へ向かって、多数の護衛役が遠くから監視するという対応も板に付き、組長その人や留守番の組員らにとっての月に1度の楽しみともなっていた。郵送役のカワウソ霊がオオカミ霊にぐちゃぐちゃにされるトラブルも、最近はあんまり起きていない。
 時間指定に法則があるのかは定かではない、しかし会場の指定には共通点が見られる。必ずその時の係争地が選ばれていた。
 畜生界北部はこの頃、勁牙組、鬼傑組間で小競り合いが頻発している。今彼女らが立つ物見山に大規模な赤鉄鉱の鉱脈が見つかったこと、というよりその採掘場を鬼傑組が開発しつつあることが、勁牙組にバレたのが原因であった。

「ちょっと八千慧、この山の半分から西はうちの領地だ、もう少し東にズレなさい、そこは私が座るんだ。」
「ふん、この山は全部私の物よ。嫌なら今夜は一緒に酒なんか飲めないわ。」
 驪駒 早鬼がおもむろに手元の紙袋を睨みつける、酒とつまみじゃ相性抜群でも勝負にならない。眉間に皺を寄せ、手持ちの干物を再び咥えてぎしぎしかじると、彼女は渋々と吉弔 八千慧の東隣にあぐらをかいた。

 係争中の鉱山、2大の組長が肩を並べ、星1つ、空1つない畜生の空を、地上界越しに月を見上げた。
 紐を解き、驪駒 早鬼に酒器を手渡し、栓を抜き、並々と酒を注いでやる。吉弔 八千慧は自分の酒器にも酒を注ぐ。
 両者手元の酒を口に当てると、ぐいと傾けてひと息にそれを飲み干した。
 見降ろすと荒野と都市の境目にひと握りの大群衆が集まり、「剛欲同盟」の巨大な旗を右に左に振り回している。
「目障りね、折角の月見酒に。」
「喚き散らした挙句に1発で叩き潰されるまでが五月の蠅の生きざまよ。それまで好きなように喚かせておきゃいいさ。」
 東の丘には大量のカワウソ霊が頂上を埋めるようにぎっしり並び、出撃体制を整えている。
 西の丘にオオカミ霊の姿はない、全員が奇襲に備えて丘の裏に隠れ、一斉突撃の合図を待っているのだった。
 2杯目の酒を飲み干し、吉弔 八千慧が口火を切った。
「剛欲の水路、あんたも狙ってたろ。私は手を引くよ、今はこの山で手一杯。水なんか気にしている余裕は私には無いんだ。」
 驪駒 早鬼が3杯目を注いだ。
「にしちゃあ鉱夫の出入り所か、用心棒の1匹もいないじゃねぇか。こんなんじゃ、あの裏に隠したうちの若いのが一発突っ込んだだけで簡単にこの山おっちんじまうよ。幹部連中の考えなんだ。お前が喧嘩するつもりならこっちも全力で行かなきゃならないが、ただ酒飲みたいだけだったら失礼だから、丘の裏に手勢を隠しておこうってな、頭良いだろ?」
 吉弔 八千慧は干物をあまり噛まない、1本丸々口内へ放り込んで何度か咀嚼したら、すぐに呑み込む癖がある。彼女は笑った。
「出来やしないさ。あそこにある私の手勢が9割カカシなのは分かるだろう?本命は街の中、あんたの事務所さ。そっちが攻めたら、あんたのビルは全部崩れ落ちちまう。嫌だろう?」
「お前頭良いなぁ、それじゃあ私は...」
 驪駒 早鬼は干物を嚙み千切りながら考えると、吉弔 八千慧を向き、目を見開いて笑った。
「お前の首捻じ切ってやるだけで、勘弁してやるよ。」
 手中で盃をくゆらす吉弔 八千慧は驪駒 早鬼に笑い返して答えた。
「ふふふ、好きにすりゃいいけれど、うまい酒を飲もうと約束したろう。喧嘩おっぱじめるのは、この酒を飲みきった後にしよう。」
「それがいい、そうしよう。」
 驪駒 早鬼は瓢箪を取ると吉弔 八千慧の盃に並々と注いだ。
 両者手元の酒を口に当てると、ぐいと傾けてひと息にそれを飲み干した。

 おわり
まだ次のssも書けそうにありませんので、賑やかし代わりにでもニコレクションの選外作品を投稿してみました。
畜生界の解像度が低すぎてそこかしこの適当さが隠せていないです。
「空は地上に遮られているから月が見えるはずもないのに、こいつらは月見を理由にして酒を飲み合っている。」といった描写を、
あからさまにならない言い回しで何か書きたかったのですが、最後までいい文が思いつきませんでした。
そもそも畜生界って月は見えないのだろうか。
くろあり
https://touhougarakuta.com/news/nicore2609_result/
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コメント



0.簡易評価なし
1.100点名前が無い程度の能力削除
二人で酒を飲んでしみじみと空気を味わっているようで良かったです。
2.100点南条削除
面白かったです
二人が醸す雰囲気がとても良いものでした