ザアザア。
三途の川に雨が降る。水子たちはきゃあきゃあと言いながら、雨に濡れて遊んでいる。それを見た鬼たちが水子立ちを追い立てている。
「雨なんていつぶりかな……」
三途の川の舟の上で立ったまま、私は呟く。
「地獄は雨が降らないのですか?」
後ろから声をかけられる。かけられると言っても今乗っているのは四季様の裁判を待つ死者なのだが……
「そうだね、三途の川は地獄に近いから、あまり降らないんだよ。地上に出れば降ったりしているのは見るけれど……あたいは晴れの方が好きさ」
後ろを振り向きながら私は答える。おどけて、あたいと言ったけれどまあいいだろう。
「そうなんですね」
里の人間にしては珍しい、中肉中背の短髪の男だった。少し若そうに見える。
「あんた、どうして死んだんだい?」
「は、はは……妖怪に殺されましてね。気がついたら三途の川にいたと言うオチですよ。死神さんに払えるだけの六文銭があって良かったですよ」
「それは生きてる人間に感謝しなよ。その六文銭も入れて貰えているんだから」
「ええ、そうします。妻と子どもを遺してしまったのが心残りですが……死んでしまったので仕方がないですね」
短髪の男はそう言って三途の川を眺めている。
「……あんた、罪が深くないといいな」
船が進む、地獄の岸が見えてくる。
「ここが地獄……」
ごくりと息を飲む音が聞こえそうな声色だった。
「ほら、次はあんたの裁判だ、早く行きな」
岸で待っている鬼たちに目配せする。
「ありがとうございました」
そう礼を言って短髪の男は鬼たちに連行されて行った。どうか裁きが公正でありますように。まあ四季様なら公正にしてくれるはずだろうけれど。
そうしてまた舟に乗り込む。ザアザアと降る雨は私の身体にまとわりついてくる。
雨は降り続く、私の全てを洗い流して。
舟は進む、次の死者を目指して。
ザアザア。
そうしてまた三途の川に着く。三途の川に岸に咲く、変わらない赤い彼岸花。だけど目に止まった彼岸花はひとつ、白かった。
珍しい。白は魂が迷い込んできたのか。それともただ本当に生えているだけなのか。それは分からないけれど。
舟から降りて私は白の彼岸花の側に行く。
「お前さん、珍しいな……」
白い彼岸花を見ているとザッザッと後ろから誰か歩いてくる音が聞こえる。
「小町おねーちゃん何してるの?」
瓔花だった。雨が降る中、瓔花は興味をそそられるとばかりに私を見てくる。
「あーっ!白い彼岸花!綺麗!」
説明をしようとしたら瓔花は叫んでいた。それにつられた水子たちが、私たちの周りに集まってくる。
「ほんとだー」
「綺麗ー」
「なんでこんな所に咲いてるのー」
四方八方から声をかけられてどこから声が聞こえるのか分からなくなる。こういう時は豊聡耳さんに任せたいところだ。
「ほら、小町おねーちゃん困ってるじゃん!静かに!」
瓔花はみんなのリーダーだからなのか静かにするように指示を出していた。ええーとブーブーとみんな文句を垂れている。
「知ってるか?赤の彼岸花の花言葉はな、情熱とか再会とかあるけど、悲しい思い出とかもあるんだ」
「なら白の花言葉は?」
水子の一人が問いかける。
「白はな、また会う日を楽しみに、だ。希望の花言葉なんだぞ」
「いいねそれ!私もまたお母さんと会いたいな!」
「また会えたらいいな。ほら私は少し歩いてくるから白の彼岸花見るなら場所どうぞ。引っこ抜くんじゃないぞ!」
「「「はーい」」」
水子たちは元気よく返事をして各々好きなところへ散っていった。
瓔花は私の足元まで来て話しかけてくる。
「小町おねーちゃん、なんか元気ないね」
「はは、分かるのか、すごいな、 瓔花は」
「むー、馬鹿にしてる?」
「してない。落ち込んでる訳じゃないぞ、ただ今日運んだ人間がしっかり裁かれてるかどうか気になっただけだよ」
「珍しいね、そんなこと気にするなんて」
「普段から気にかかってるぞ?」
我ながらこれは嘘だったか?
「小町おねーちゃん、さすがにそれは嘘でしょ」
「まあどうだろうな?今日はずっと雨か?」
苦笑いで話をそらす。
「もう。鬼さんが言うには現世から雲が流れてきてるんだって。もう少し続くみたい」
「そうか。ありがとうな瓔花。少し気分転換をしてくるよ」
「うん。気をつけてね小町おねーちゃん」
そう言って瓔花と別れる。
さあて。どこに行こっか。現世に行く気分でもない。雨はそんなに好きではないがまだ少し打たれたいと思ったので、三途の川の岸を歩いていく。
ザアザア、ザアザア。
仕事の持ち場から離れて私は気ままに歩いていく。
雨はやまない、まだ空は泣いている。
そうして歩いていると後ろからジャリジャリと石を蹴り飛ばして、走ってくる音が聞こえた。
今日はやけに後ろを見る日だな……と思って後ろを振り向いたら、ドンとなにかがぶつかる。
よろけて私は河原に転がる。ぶつかってきた相手に文句を言おうと痛みに悶えながら見ると、反対側に転がっていたのは四季様だった。
「し、しし、四季様!?なんでいきなり……」
「痛たた……小町!あなたまた死者に感情移入しましたね!」
「してませんよ……感情移入までしてません。ただ気になっただけですよ、公正に裁かれたということが」
「公正に裁きました。ただ罪が多かったので地獄行きになりしたが」
「へえ……そうなんですね。あの男、あの見た目で結構やることしてたのか。まあいいや、気になってただけですし」
「やけに強がりですね」
「強がってなんかいませんよ。興味が無くなっただけです」
立ち上がりながら私は三途の川を見る。すると見えたのは虹色。
「お、虹ですよ、四季様」
「珍しいですね」
ザアザアと降っていた雨はパラパラと止んできて、三途の川に虹を掛けた。
座ったままの四季様に手を伸ばす。四季様は私の手を取って立ち上がった。
「小町、仕事に戻りましょうか」
急かす四季様。
「……もう少しここで虹を見ていきませんか」
ゆっくりしていこうと私はそう言った。四季様は少し笑って。
「もう……私は帰ります。仕事に戻りますので、一人で見ていってくださいね」
そう言って四季様は歩いていった。
……虹か。まあ綺麗だな、と思う。特に何も思い入れなんて無いけど、綺麗だと思うのはいい事なのだろう。
パラパラ……
雨は落ちていった。虹と共に。
三途の川に雨が降る。水子たちはきゃあきゃあと言いながら、雨に濡れて遊んでいる。それを見た鬼たちが水子立ちを追い立てている。
「雨なんていつぶりかな……」
三途の川の舟の上で立ったまま、私は呟く。
「地獄は雨が降らないのですか?」
後ろから声をかけられる。かけられると言っても今乗っているのは四季様の裁判を待つ死者なのだが……
「そうだね、三途の川は地獄に近いから、あまり降らないんだよ。地上に出れば降ったりしているのは見るけれど……あたいは晴れの方が好きさ」
後ろを振り向きながら私は答える。おどけて、あたいと言ったけれどまあいいだろう。
「そうなんですね」
里の人間にしては珍しい、中肉中背の短髪の男だった。少し若そうに見える。
「あんた、どうして死んだんだい?」
「は、はは……妖怪に殺されましてね。気がついたら三途の川にいたと言うオチですよ。死神さんに払えるだけの六文銭があって良かったですよ」
「それは生きてる人間に感謝しなよ。その六文銭も入れて貰えているんだから」
「ええ、そうします。妻と子どもを遺してしまったのが心残りですが……死んでしまったので仕方がないですね」
短髪の男はそう言って三途の川を眺めている。
「……あんた、罪が深くないといいな」
船が進む、地獄の岸が見えてくる。
「ここが地獄……」
ごくりと息を飲む音が聞こえそうな声色だった。
「ほら、次はあんたの裁判だ、早く行きな」
岸で待っている鬼たちに目配せする。
「ありがとうございました」
そう礼を言って短髪の男は鬼たちに連行されて行った。どうか裁きが公正でありますように。まあ四季様なら公正にしてくれるはずだろうけれど。
そうしてまた舟に乗り込む。ザアザアと降る雨は私の身体にまとわりついてくる。
雨は降り続く、私の全てを洗い流して。
舟は進む、次の死者を目指して。
ザアザア。
そうしてまた三途の川に着く。三途の川に岸に咲く、変わらない赤い彼岸花。だけど目に止まった彼岸花はひとつ、白かった。
珍しい。白は魂が迷い込んできたのか。それともただ本当に生えているだけなのか。それは分からないけれど。
舟から降りて私は白の彼岸花の側に行く。
「お前さん、珍しいな……」
白い彼岸花を見ているとザッザッと後ろから誰か歩いてくる音が聞こえる。
「小町おねーちゃん何してるの?」
瓔花だった。雨が降る中、瓔花は興味をそそられるとばかりに私を見てくる。
「あーっ!白い彼岸花!綺麗!」
説明をしようとしたら瓔花は叫んでいた。それにつられた水子たちが、私たちの周りに集まってくる。
「ほんとだー」
「綺麗ー」
「なんでこんな所に咲いてるのー」
四方八方から声をかけられてどこから声が聞こえるのか分からなくなる。こういう時は豊聡耳さんに任せたいところだ。
「ほら、小町おねーちゃん困ってるじゃん!静かに!」
瓔花はみんなのリーダーだからなのか静かにするように指示を出していた。ええーとブーブーとみんな文句を垂れている。
「知ってるか?赤の彼岸花の花言葉はな、情熱とか再会とかあるけど、悲しい思い出とかもあるんだ」
「なら白の花言葉は?」
水子の一人が問いかける。
「白はな、また会う日を楽しみに、だ。希望の花言葉なんだぞ」
「いいねそれ!私もまたお母さんと会いたいな!」
「また会えたらいいな。ほら私は少し歩いてくるから白の彼岸花見るなら場所どうぞ。引っこ抜くんじゃないぞ!」
「「「はーい」」」
水子たちは元気よく返事をして各々好きなところへ散っていった。
瓔花は私の足元まで来て話しかけてくる。
「小町おねーちゃん、なんか元気ないね」
「はは、分かるのか、すごいな、 瓔花は」
「むー、馬鹿にしてる?」
「してない。落ち込んでる訳じゃないぞ、ただ今日運んだ人間がしっかり裁かれてるかどうか気になっただけだよ」
「珍しいね、そんなこと気にするなんて」
「普段から気にかかってるぞ?」
我ながらこれは嘘だったか?
「小町おねーちゃん、さすがにそれは嘘でしょ」
「まあどうだろうな?今日はずっと雨か?」
苦笑いで話をそらす。
「もう。鬼さんが言うには現世から雲が流れてきてるんだって。もう少し続くみたい」
「そうか。ありがとうな瓔花。少し気分転換をしてくるよ」
「うん。気をつけてね小町おねーちゃん」
そう言って瓔花と別れる。
さあて。どこに行こっか。現世に行く気分でもない。雨はそんなに好きではないがまだ少し打たれたいと思ったので、三途の川の岸を歩いていく。
ザアザア、ザアザア。
仕事の持ち場から離れて私は気ままに歩いていく。
雨はやまない、まだ空は泣いている。
そうして歩いていると後ろからジャリジャリと石を蹴り飛ばして、走ってくる音が聞こえた。
今日はやけに後ろを見る日だな……と思って後ろを振り向いたら、ドンとなにかがぶつかる。
よろけて私は河原に転がる。ぶつかってきた相手に文句を言おうと痛みに悶えながら見ると、反対側に転がっていたのは四季様だった。
「し、しし、四季様!?なんでいきなり……」
「痛たた……小町!あなたまた死者に感情移入しましたね!」
「してませんよ……感情移入までしてません。ただ気になっただけですよ、公正に裁かれたということが」
「公正に裁きました。ただ罪が多かったので地獄行きになりしたが」
「へえ……そうなんですね。あの男、あの見た目で結構やることしてたのか。まあいいや、気になってただけですし」
「やけに強がりですね」
「強がってなんかいませんよ。興味が無くなっただけです」
立ち上がりながら私は三途の川を見る。すると見えたのは虹色。
「お、虹ですよ、四季様」
「珍しいですね」
ザアザアと降っていた雨はパラパラと止んできて、三途の川に虹を掛けた。
座ったままの四季様に手を伸ばす。四季様は私の手を取って立ち上がった。
「小町、仕事に戻りましょうか」
急かす四季様。
「……もう少しここで虹を見ていきませんか」
ゆっくりしていこうと私はそう言った。四季様は少し笑って。
「もう……私は帰ります。仕事に戻りますので、一人で見ていってくださいね」
そう言って四季様は歩いていった。
……虹か。まあ綺麗だな、と思う。特に何も思い入れなんて無いけど、綺麗だと思うのはいい事なのだろう。
パラパラ……
雨は落ちていった。虹と共に。
中肉中背の男があの雰囲気で罪人だったの驚きました
小町の雰囲気がよかったです
特に最後の二文が印象的でした。