Coolier - 新生・東方創想話

レミリア・スカーレットVS紅美鈴

2026/09/18 18:14:54
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 紅魔館には、一週間に一度だけ、門番の紅美鈴が料理当番を担当する日がある。
 言っても彼女は私より古株だし、私がお嬢様に拾われる前は美鈴が料理当番だった訳だし、何よりもその日は私の手が空く。文句を言う理由は、探してもどこにも見当たらない。
 門番としての仕事ぶりについてなら、私には言いたいことが山ほどある。居眠り。油断。侵入者への無警戒。挙げていけばきりがない。むしろ、よくもまあこれで門番が務まっているものだと、感心を通り越して呆れる日すらある。
 しかし、料理に関してだけは別だった。
 回鍋肉。青椒肉絲。麻婆豆腐。炒飯。小籠包。焼売。餃子。天津飯。酢豚。油淋鶏。八宝菜。どれも驚くほど美味しい。
 厨房から漂ってくる匂いだけで、その日の紅魔館は少しだけ機嫌がよくなる。空気の粒子そのものが緩む、とでも言えばいいのだろうか。普段なら図書館から一歩も出てこないパチュリー様ですら、この日だけは自分から食堂へやって来る。フランドール様など、料理の匂いを嗅ぎつけると、まだ食事の時間になっていないうちから椅子に座って嬉しそうに足をブラブラさせて待っている。あの吸血鬼特有の鋭敏な嗅覚は、こういう時ばかり無駄に有効活用される。

 私だって、美鈴の料理は好きだ。悔しいことだが、認めざるを得ない。包丁の扱いなら私にも自信がある。銀のナイフを振るう技術については、誰にも負けないつもりだ。ただし、それはあくまで獲物を仕留める技術であって、食材を捌く方の話ではない。中華包丁の扱いと鍋捌きとなると、美鈴には到底敵わない。
 だからこそ、その日のお嬢様の言葉が、私にはまるで理解できなかった。
「美鈴。また手加減しているでしょう」

 その日の献立は焼売だった。
 蒸籠から取り出したばかりの焼売は、皮がしっとりとしていて、餡は柔らかい。肉の旨味と椎茸の香りがちょうどよく溶け合い、味見と称した摘み食いでも文句のつけようがなかった。仕事中でなければビール片手にこの焼売を楽しみたいところだ。
 この完成度に文句をつけられるとしたら、それはもう味覚ではなく難癖の領域だろう。

 お嬢様は三つほど召し上がったところで、フォークを置いた。
「最高に美味しいわ」
「えへへ、ありがとうございます」
 美鈴は素直に頭を下げた。この女は褒められると本当に分かりやすく嬉しそうにする。顔をへにゃっとさせる笑顔は正直可愛らしい。
「でも、まだ手加減しているでしょう」
「……はい?」
 私は思わず美鈴の顔を見た。美鈴も私を見た。そして、二人揃ってお嬢様を見る。三人でお互いの顔を見合う、なんとも間の抜けた沈黙が食堂に降りた。
「ニンニクよ」
 お嬢様は言った。
「ニンニクが足りないの」
 私は、なるほど、と頷いた。ようやく話が見えてきた。あれだけ勿体ぶった前置きの末にたどり着く結論が、たったそれだけかと思うと、少々拍子抜けする気持ちもあったが。
「つまり、お嬢様は焼売にもっとニンニクを入れてほしい、と」私は良くできた従者なので、お嬢様のお気持ちを代弁する。
「そういうこと」
「美鈴」
「はい」
「何故、入れないのです?」
 そう言って私は美鈴を見る。
「隠し味として入れてますよ」
「では、次からはもっと——」
「駄目です」お嬢様の言葉を遮るように美鈴が口を開く。
「どうしてよ!?」
 お嬢様が身を乗り出した。テーブルが小さく軋む。

 美鈴は困ったように笑っている。しかし、私は気づいた。あの顔は、困っているのではない。諦めている顔だ。長年この手の押し問答を繰り返してきた者だけが浮かべる、独特の笑みである。
「お嬢様」
 美鈴は言った。
「これは加減ではなく、気遣いです」
「気遣いというのが加減でしょう」
「そうとも言います」
「だったら、そんな気遣いはいらないわ」
「必要です」
「必要ないわ」
「必要です」
「私は五百年以上生きた吸血鬼よ」
「知ってます」
「だったら、ニンニク程度で私に気を遣う必要なんてないでしょう」
「あります」
 即答だった。お嬢様の眉がぴくりと動いた。

 私はこの辺りで、少し嫌な予感がしていた。長年この館に仕えていると分かることがある。お嬢様と美鈴がこの調子で言い合いを始めた場合、だいたい、ろくなことにならない。過去のデータが、そう告げている。
「あの時のことを、お忘れですか」
 美鈴が言った。お嬢様の動きが止まった。まるで時間そのものを操作されたかのような、見事な静止だった。
「あの時?」
 私が尋ねる。すると美鈴は、少し遠い目をした。厨房の奥、あるいはもっと過去の方を見ているような目だった。
「咲夜さんがここへ来る前の話です」
 そう前置きして、美鈴は語り始めた。
 まだ紅魔館に来て間もない頃。美鈴の主戦場は厨房だった。これまで食べたことの無かった中華料理にお嬢様もフランドール様も大喜びだった。ある日、ニンニクをたっぷり使った餃子を作った。お嬢様は、それをいたく気に入った。
「美味しい、美味しいって、次々召し上がったんですよ」
「ええ」
 お嬢様が答えた。妙に小さな声だった。普段の堂々とした話し方からは考えられないほどの音量である。
「それで、その結果——」
 美鈴は言った。
「死にかけました」
「……」
「……」
 
 食堂が静まり返った。空気ごと凍りついたようだった。
 私はお嬢様を見る。お嬢様は目を逸らした。五百年生きた吸血鬼の視線誘導とは思えないほど、分かりやすい逃避だった。
「比喩ではありません」
 美鈴は続けた。
「本当に危ないところまでいったんです。珍しくパチュリー様が私を叱りに来られたくらいですから」
「そんなこと、あったかしら」
「ありました」
「覚えてないわ」
「覚えてますよね?」
「覚えてないわ」
「覚えてますよね?」
「……ちょっとだけ」

 お嬢様が折れた。私は思わずため息をついた。なるほど。これが理由だったのか。長年の謎が、ようやく解けた瞬間だった。

 それ以来、美鈴はお嬢様の料理だけニンニクを控えるようになった。お嬢様が何度「もっと入れろ」と言っても、頑として譲らない。従者としての一線というものが、この門番にもきちんとあるらしい。
「それは美鈴が正しいでしょう」
 私は言った。
「そうでしょう?」
 美鈴が少し嬉しそうに笑う。味方を得たとばかりの表情だった。
「違うわよ」
 お嬢様が不満そうに口を尖らせる。五百歳の口の尖らせ方とは思えない幼さだった。さながら五百歳児だ。
「あれは二百年位昔の話でしょう?」
「一度死にかけているなら、十分だと思いますが」
「咲夜まで!」
 お嬢様がこちらを睨んだ。私は無視した。事実を述べただけである。反論の余地がないことを言われた時ほど、人(あるいは吸血鬼)は理不尽に怒るものらしい。
「だいたい」お嬢様は腕を組んだ。
「あの時は日中に外に出ていたし、少し体調も悪かったし。そんなものに、いちいち気を遣われるなんて屈辱だわ」

 美鈴が黙った。そして、ゆっくりと顔を上げた。目の色が変わっていた。困り顔でも笑顔でもない、初めて見る種類の顔だ。
「お嬢様」
「何よ」
「こちらは、四千年の歴史があると言われている中華料理ですよ。ニンニクを減らした分、他の香味野菜で十分にカバーできる方法があるんです」
「……」
 私は固まった。美鈴から飛び出すには、あまりにも堂々とした料理論だった。
 美鈴は続ける。
「私の餃子のレシピに、五百年くらい生きた吸血鬼如きが口出しできるものではないと申し上げているんです」
「別にあなたが四千年生きているわけではないでしょう」
「どうでしょうかねぇ」
「生意気な門番ね」
「私が善意で加減して差し上げているのに、傲慢な主人ですね」

 売り言葉に買い言葉。正直、美鈴がここまで臆することなくお嬢様に反論する姿を見たことがないので、驚いた。いつもの飄々とした笑みはどこにもなく、料理人としての矜持だけがそこにあった。
 とは言え、私が仕えるまでは彼女がお嬢様やフランドール様のお世話をしていたのだから、当然と言えば当然なのかもしれない。古株には古株なりの言い分がある、ということなのだろう。
 両者の間に、見えない火花が散った。私は反射的に腰のナイフへ手を伸ばしかけた。この場を収めるために出番が来るとしたら、それはさすがに寂しい話だが。

 ——しかし。
「もういいわ、話にならない」
 お嬢様は、ふいと顔を背けた。
「今日はもうこの話はおしまい。来週は貴方の本気の餃子を作ること、良いわね」
「はい」
 美鈴も、それ以上何も言わなかった。そのまま厨房へ戻っていく。お嬢様も紅茶を飲み始めた。

 私は一人、取り残された。……何だったのだろう、今の。あれほどの緊張感を漂わせておいて、着地点がそれなのか。
 私はてっきり、殴り合いでも始まるのかと身構えていた。種族として純粋に強いお嬢様と拳法を極めている妖怪。二人が本気でやり合ったら正直、人間の私が止めに入るのは難しいだろう。しかし、二人とも何事もなかったかのように、それぞれの持ち場へ戻ってしまった。拍子抜けにも程がある。
 どうやら、この二人の戦場は、私が想像していたよりもずっと平和で、ずっと不毛な場所にあるらしい。


 翌週。美鈴が料理当番の日がやってきた。
 厨房から、いつもとは違う匂いがしていた。強い、刺激的な、隠すつもりのない匂い。私は嫌な予感がして、厨房を覗いた。
「美鈴」
「あ、咲夜さん」
 美鈴は餃子の餡を作っていた。その横には、山のようなニンニクがある。もはや隠し味という言葉が意味をなさない量だった。
「何をしているの」
「お嬢様からご注文があったので」
「まさか」
「本気の餃子を作ってほしい、と」
 私は頭を抱えた。
「やめておきなさい」
「私もそう思います」
「なら、なぜ作るの」
「お嬢様が望まれたので」
「あなた、先週と言っていることが違うでしょう」
「料理人としては、お客様のご要望に応えたいんですよ」
「お客様ではなく主人でしょう」
「細かいことはいいじゃないですか」
 美鈴は笑った。いつもみたいに顔をくしゃっとさせて、そこに悪意なんてまるでない様な笑顔だ。純真無垢な笑顔で主人にとっての毒を混ぜ込むこの女。実はこの館で一番怖い存在なのかもしれない。私が何百人斬ろうと、この笑顔一つには敵わない気がする。

「一応、量は控えめに——」
「駄目です」
「何故」
「本気の餃子ですから」
 私は悟った。止めても無駄だ。この二人は、もう始めてしまったのだ。何の勝負かは知らない。ただ、勝負だけは始まっている。傍観者としては、せめて怪我人が一人で済むことを祈るしかなかった。

 そして夕食。
 食卓に運ばれてきた餃子を見て、お嬢様は満足そうに笑った。まるで長年の悲願が叶ったかのような顔だった。
「いい匂いね」
「本気で作りました」
 美鈴が言う。前置きすら、もはや不要らしい。
「そう」嬉しそうなお嬢様。可愛らしい。この笑顔の裏で何が起きるかを、私も美鈴も知っているというのに。

 お嬢様は餃子を一つ取った。
 小さな口を大きく開けて餃子を頬張る。
 お嬢様が一口で食べられるように、小ぶりに作られているあたり、流石としか言いようがない。
「……美味しい」
 本当に美味しそうだった。
 二つ目。
「本当に美味しいわ」
 杞憂だったのか、本当にニンニクを克服しているか。
 三つ目。
「やっぱり、これくらいじゃないと」
 四つ目に手を伸ばしたところで、お嬢様の動きが止まった。
「……あら? お嬢様?」
 顔色が変わっている。先ほどまでの余裕はどこへ行ったのか、顔面から一切の血の気——もとより吸血鬼に血の気があるのかは疑問だが——が引いていくのが見て取れた。
「……何でもないわ」
 お嬢様は言った。しかし、その声には明らかに力がない。強がりの品質としては、過去最低クラスだった。
 そして五つ目を口に入れたところで、お嬢様は静かにテーブルへ突っ伏した。
「お嬢様!」
 私は慌てて駆け寄った。美鈴も厨房から飛び出してくる。
「だから言ったんですよ」
「言ってないでしょう」
「心の中で」
「それは言ったとは言いません」
 
 そこへ、ぱたぱたと近づく足音が聞こえた。
「いい匂い! 今日は餃子かな? ってなになに?」
 フランドール様だった。テーブルに突っ伏したお嬢様を見る。餃子を見る。美鈴を見る。そして、ため息をついた。慣れた仕草だった。
「あはは、またニンニク?」
「またニンニクです」
「お姉様、昔からニンニク下戸なのに」
「下戸という表現が正しいのかは分かりませんが」
 フランドール様は平然と餃子を一つ手で摘まんだ。が、美鈴の鋭い視線に気がつくと箸を持ち、餃子を改めて摘み上げた。姉が悶絶している真横で、堂々とした手つきだった。
「私は平気なんだけどね」
 ぱくり。
「うん。美味しい」
 姉が倒れている横で、妹は餃子を食べている。実に紅魔館らしい光景だった。この館の日常の異常さに、私も今更ながら慣れてきている自分が少し怖い。
「でも、今回の件は悪いのはお姉様だよ」
 フランドール様は言った。
「美鈴はいつもお姉様のこと考えてくれるんだから。困らせちゃ駄目でしょ」
「……はい」
 息も絶え絶えにお嬢様は返事をして、そのまま動かなくなった。
 テーブルに突っ伏したまま、微動だにしない。自業自得。その四文字が頭に浮かんだ。誰の同情も買えない見事な自滅っぷりだった。


 数時間後、お嬢様は復活した。吸血鬼の生命力というものは、本当に便利なものだ。あれだけ死にかけていたというのに、目を覚ませばもういつもの調子である。

 そして、復活して最初に発した言葉がこれだった。
「美鈴」
「はい」
「来週は麻婆豆腐よ」
 私は目を閉じた。何故だ。何故、この方は懲りないのだろう。麻婆豆腐にだってニンニクが入っているだろうに。この短時間で学んだことは何一つないのか。
「スカーレットデビルの名に相応しい、激辛にしてちょうだい」
「……本気ですか? 私基準の激辛って本当にびっくりするくらい辛いですけど?」
「美鈴の本気に応えてあげられる主人でいたいの」
 美鈴は少し黙った。そして、先ほどまでとは違う、料理人の顔になった。あの目だ。厨房で見たあの目である。
「かしこまりました」
 私は嫌な予感しかしなかった。しかし、お嬢様は何かを思い出したように、付け加えた。
「……ああ、それと」
「はい」
「ニンニクは、控えめでいいわ」

 美鈴が瞬きをした。私も、思わずお嬢様を見た。多少なりとも期待した自分が愚かだったと、すぐに思い知らされることになるのだが、この時はまだ知らない。
「……学習されたんですね」
「当然でしょう」
 お嬢様は澄ました顔で答えた。
「同じ失敗を二度繰り返すほど、私は愚かではないわ」
 ちゃっかり同じ失敗の数を一つ減らしていることには触れないでおいた。学習という単語の定義が、この館では独自の進化を遂げているらしい。
「承知しました」
 美鈴は嬉しそうに笑った。
「では、ニンニクは控えめに。唐辛子は——」
「限界まで」
「かしこまりました」

 私は頭を抱えた。どうやら、お嬢様は何かを学習したらしい。ただし、学習する方向が少しおかしい。まるで一つの蛇口を締めた分、別の蛇口を全開にするような学習の仕方だった。
 そこへフランドール様がやってきた。トラブルの嗅覚だけは相変わらず鋭い。
「私も美鈴の麻婆豆腐食べたい」
「フランドール様もですか?」
「うん。でも、お姉様と同じのはいらない」
「では?」
「私は辛さ控えめでいいから、花椒を効かせて。痺れるやつ」
「承知しました」


 そして翌週、美鈴の料理当番の日がやってきた。
 約束通りと言うか、主人の希望通りに麻婆豆腐が食卓に並んだ。
 一つは真っ赤だった。赤い。とにかく赤い。料理というより、何かの儀式に使う供物のようだった。皿の縁まで赤く染まり、湯気からしてすでに刺激臭を放っている。正直に言うと、厨房から食卓へサーブする際にその湯気を浴びただけで目が痛くなった。
 美鈴は本当に加減というものを知らないのか、辛味への耐性が狂っているのか。迂闊に『本気の』という言葉をあの女に言わない方が身の為だと悟った。
 
「素晴らしいわ。お皿の中に小さい紅魔館が佇んでるのかと思った」
 お嬢様は満足げに笑った。正直言ってあまり面白いとは言えない比喩だ。しかも自画自賛の色が強い。
「これこそ、スカーレットデビルに相応しい」

 一方、フランドール様の麻婆豆腐は、と言うか、お嬢様以外の麻婆豆腐は至って普通の見た目をしている。こちらは花椒の香りが強い。匂いだけで白米をかっ込めるような、胃袋を直接刺激するようなスパイシーな香りだ。
「いただきます」
 フランドール様が一口食べる。
「美味しい! やっぱり美鈴の麻婆豆腐は最高だねー」
 嬉しそうだ。屈託のない笑顔である。この館において、これほど純粋に食事を楽しんでいる姿は貴重だった。

 お嬢様も負けじとスプーンを取った。
「では、私も」
 一口。
「……美味しいわ」
 二口。
「……」
 お嬢様の動きが止まった。私は黙って見守る。ここで口を挟んでも無駄だということは、先週の餃子事件で学んでいた。
 三口目。お嬢様の目に、涙が浮かんだ。
「お嬢様?」
「何でもないわ」
「泣いてますよ」
「泣いてないわ」
「涙が出ています」
「発汗よ」
「目から分泌されるのは汗とは言いません」
「カプサイシンによる発汗よ」
「眼球に汗腺はありません」
「……吸血鬼にはあるの」
 それだけ言うとお嬢様は黙った。しかし、スプーンは置かない。意地だけは見事なものだった。この頑固さを、もう少し別の場面で発揮していただきたいものである。

 四口目。
「辛くないわ」
「泣いてますよ」
「汗よ」
「涙です」
「汗!」
「涙です」

 五口目。お嬢様はとうとうスプーンを置いた。
「……辛くて食べられない」
 小さな声だった。確かな敗北宣言である。ここまで潔く負けを認められるあたり、育ちの良さだけは疑いようがない。
 厨房の入り口で、美鈴が静かに頭を下げた。勝者の礼なのか、料理人としての礼なのかは分からない。ただ、少しだけ嬉しそうだった。
 一方、隣の席では、フランドール様がすでに自分の麻婆豆腐を完食している。
「お姉様、変な見栄を張らずに同じの作ってもらえばよかったのにね」
「うるさいわよ……」
「舌が痺れるのにお肉の味がしっかり伝わってくるんだよ?」
「そう……」
 お嬢様は水を飲んだ。そして、しばらくしてから呟いた。
「……次は勝つわ」
「次があるんですか?」
 思わず聞いてしまった。お嬢様は答えなかった。ただ、少しだけ顔を逸らした。学習能力というものについて、私はこの館に期待するのをやめることにした。


 二度にわたる勝負。ニンニク増し餃子。激辛麻婆豆腐。
 結果は、どちらも美鈴の勝利だった。何をもって勝利なのかは不明だが、勝ちは勝ちだ。美鈴の二連勝で、この馬鹿げた闘いは幕を閉じた。それ以降、お嬢様は美鈴の料理に文句を言わなくなった。
 少なくとも、今のところは。
 
 数日後。
「そういえば霊夢が教えてくれたんだけど」
 お嬢様が紅茶を飲みながら、ふと思い出したように言った。
「人里に人気のラーメン屋があるらしいのよ」
「ラーメンですか?」
「ええ。モッチモチの麺の上に焼豚、キャベツ、もやしを溢れるくらい盛ったラーメンですって。太郎だか三郎って名前のお店」

 私は黙った。
 ……ああ。
 それは、たぶんあのお店のことだ。
 休日に何度か行ったことがあるので、すぐに分かった。
 歯応えのある極太麺、濃いめの醤油スープは脂が乳化しているので塩味の奥に旨みがある。そんなスープと相性抜群なのが文字通り山の様に盛られたもやしとキャベツ。拳サイズの焼豚は箸で崩せるホロホロ。アクセントにトッピングされたニンニク。

 少食のお嬢様が、あれを食べ切れるとは到底思えない。ニンニクもえげつない位入っているし。
 しかし、私は何も言わなかった。
「美鈴。そのラーメン、作れる?」
「話を聞いただけでは、完璧に再現できるか分かりませんね」
 美鈴は少し考えてから、にっこり笑った。
「一度食べに行って、味を盗んできます」
「頼んだわ」
「お任せください」
 二人は楽しそうに頷き合っている。
 私は黙って紅茶のおかわりを淹れた。
 ……まあ、いいでしょう。
 どうせ来週も、ろくでもない勝負が始まるのだ。

 ただ一つだけ。
 お嬢様、あれはラーメンというより、ちょっとした修行ですよ。
 そう思ったが、やはり口には出さなかった。
New Classic来ましたね!
いつも晩酌しながらプレイするのでnormalがまだクリアできていません!
それより、餃子って良いですよね。私は時間がある時は皮から作ります。
酉河つくね
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コメント



0.50点簡易評価
1.100点名前が無い程度の能力削除
身を削りながら中華に挑むレミリアが可愛かったです
2.100点南条削除
面白かったです
見栄っ張りなお嬢様が最高にかわいらしかったです
二郎も当然ニンニクマシマシ
3.100点のくた削除
この餃子食べたいなぁ
麻婆はノーサンキュー
5.90点奇声を発する程度の能力削除
良かったです
6.100点名前が無い程度の能力削除
読んでるあいだ、終始ニヤニヤしてしてしまいました
全員がらしく、テンポよく軽やかに話が進んでいく構成がお見事でした