Coolier - 新生・東方創想話

嫉妬のおまじない

2026/09/07 21:37:26
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 旧都と地底の縦穴を繋ぐ橋。
 誰も渡らない橋の上に、金髪の少女が一人、橋の欄干に腰掛けていた。
 橋の守護者、そして嫉妬の妖怪、水橋パルスィだ。
 橋から何も見えない洞窟の底を眺めてぼーっとする。ここ最近でお気に入りの日課。
 だから、橋の上を歩く誰かの音が聞こえたパルスィは、嫌そうに音の方を向く。
「すみませんね。穏やかな時間を邪魔してしまって」
「言わなくても伝わるなんて妬ましい……」
「それなら帰ってくれ、と思われましても、用があって来たんですよ」
 考えていた言葉の先を全て先回りしてくるのは、地霊殿の主、古明地さとり。
 その名の通り、相手の心を見通す悟りの妖怪であり、この橋を含めた地底を管理する力のある妖怪でもある。
「で、用事は何?」
「手短に済ませますよ。最近貴方の評判を聞きましてね。一つお仕事を頼もうかと」
「評判? 私の?」
「まあ、貴方にとっては評判というより、悩みの種でしょうか」
 自分の評判に心当たりがないパルスィだが、悩みの種と聞いて思い当たる記憶が次々と湧き上がってきた。
「一気に思い出しましたねえ」
「あんたのせいでしょう。ああ、本当に妬ましい……。あいつら私をなんだと思ってるのかしら」
「評判ではあるんですから、いいじゃないですか。それで、用事というのは――」
「パルスィ、終わったよー」
 話の途中、橋の下から勢いよく飛び上がって、二人の側にヤマメが着地した。
「橋の下、結構もろかったから補強しといた。後で材料揃えて修理しに来るよ」
「いつの間に修理してたの……。確かに頼んだけど、知らない間に仕事を終えるなんて、その優秀さが妬ましいわ」
「これも仕事だからね。それに、パルスィほどちゃんと仕事を褒めてくれる人もいないし、こっちも頑張れるってもんよ」
「褒めてないわ。私は嫉妬……」
「んじゃ、また次の仕事でねー!」
 ヤマメは満足そうにしながら元気よく飛び去っていった。
 その背中を見送るパルスィは、不服そうな顔をしている。
「どいつもこいつも、どうして私の話を聞かないんだ。という顔をしてますね」
「言わなくても良いわよ! あいつら嫉妬って言葉を知らないの⁉」
 パルスィの言葉と心の二重音声に、さとりも少し後ずさる。
「人の優秀な部分を見ると妬ましく思うのは私の性。なのにあいつらはそれを褒められたと思ってる。嫉妬の呪いなのよこれは⁉」
「見ようによっては人の良い部分に気がつく親切な人、ですからね。嫉妬程度でへこむような妖怪も、この辺はいませんし」
「何よ。私がこの辺じゃ大したことない雑魚とでも言いたいの? 悪かったわね、貴方みたいに立派な力もペットも持ち合わせちゃいないのよ」
「落ち着いてください。私は貴方を貶しに来たのではなく、仕事を頼みに来たんですよ」 さとりの制止に、一応話だけは聞いてやろうとパルスィはため息をつく。
「まず、貴方はこの橋を守ってもらっていますが、まあこの橋を渡る者は少ない。せめて壊れない程度の管理がなされていれば、それで問題ないんです」
「じゃあ私はお役御免、地底から出て行けと?」
「とんでもない。貴方の評判はとてもよく聞きます。そんな優秀な方を追い出すなんて、それこそ愚か者です」
 そこで、とさとりはパルスィに改まって向き直る。
「貴方の嫉妬の呪い、人を元気づけるおまじないとして、セラピストをしてみませんか?」
「……は?」
「何を言っているんだこいつは、ではありません。私は本気です」
「いちいち読まないでよ、妬ましい。なんで私がセラピストを?」
 あまりの話に思わず縁に座っていたのを降りてしまったパルスィに、さとりは話を続ける。
「貴方ほど人の良い部分を的確に見つけられる人はいません。この地底、気性の荒い妖怪が多い分、弱い人のケアが間に合ってないんですよ」
「そんなのあんたの仕事でしょ。心が読めるんだから、一番適任じゃない」
「いや、心が読めるせいで私は嫌われてますから、相手が来てくれないんですよ」
 確かに、相談事を全部見透かされた状態なのは気分が悪い。
 それは分かるが、パルスィの橋姫としてのプライドが、素直に仕事を請ける気にさせなかった。
「でも嫌よ。私は橋姫、嫉妬の呪いの妖怪よ。それをアイデンティティねじ曲げてまでやろうと思わないわ。おまじないなんて寒気がする」
「そうですか……。でも、貴方は地底みんなの貴重な居場所なので、無理は言えませんね」
 さとりはパルスィの想像よりあっさり引き下がった。
「何よ、粘らないの?」
「心の底から嫌がってるのを無理強いはできませんよ。そういうのは分かるので」
「最後だけいい人ぶらないでよ、妬ましい……」
「あ、今ちょっと揺らぎましたね」
「早く帰れ!」
 絶対に嫉妬の呪いとして名をあげてやる、そう心に誓うパルスィだった。
お久しぶりです
折り畳み傘と申します

初めてサークル立ち上げたり個人誌書いたり繁忙期だったりで忙しくしておりました
今回は東方ニコレクションに応募した作品になります
たまにはこういうSS書くのも楽しいですね
かなり急いで考えたので、軽い気持ちで楽しんでくださると幸いです
Xでも応援よろしくね
折り畳み傘
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