はじめに
とにかくセミの合唱が、やかましくてやかましい今日このごろ、こんなひぐらしの鳴く季節に、ひぐらし硯に向かったところで、何かいい感じの文章なんか思い浮かぶわけもないし、浮かんだところでそれを上手く書き表せないし、そもそも私は文才なんて持ち合わせてないし。
じゃあ、なんでこれ書いてんのかっていうと「暑さを紛らわせたいのなら、思いつく言葉をとにかく書き殴ってみなさい。少しは心が涼しくなれるかもしれないわよ」という、姉からの実にありがた迷惑な、いや、ありがたいお言葉を実行に移しているからに他ならない。
当然、そんな信ぴょう性のカケラもないような戯言を真に受けるつもりはサラサラないし、ましてや姉の思惑なんかに付き合うつもりなんてこれっぽっちもない。ようは単なる暇つぶしとして、これを書いてるだけであって、もっと言えば暇を持て余した神々のなんとやらってやつ。
そんなわけでこれから、私が夏に思うあれこれってのを、そこはかとなく書き殴っていくので、ま、ひとつお付き合いよろしく!
一
夏って一言で表すとなんの季節だろう。太陽の季節。灼熱の季節。情熱の季節。アツい季節。きっと色々な言葉が挙げられるだろうけど、私から言わせればこの一言に尽きる。
地獄
そう、ディス・イズ・ヘル。すなわち地獄の季節。乱暴かもしれないけど、私はこの二文字で夏のすべてを表せる。むせ返るような暑さ。地獄だ。ゆらゆらとゆらめく陽炎。地獄だ。そして不快極まりないセミの大合唱。これを地獄と言わずして何と言うか。生命あふれる季節? やかましい! 地獄っつったら地獄なの!
よし、いい機会だし、これから夏がどうして地獄なのか、一つ一つ書いていってみることにしよう。どうせヒマだし。
二
まず、なんと言っても夏は暑い。とにかく暑い! 朝から晩まで暑い。暑いったら暑い。まず朝起きて「おはよう」とあいさつしたら次に出る言葉は「暑い」。
本当、なんでこんなに暑いのかって思うくらい暑いので、もう何もやってらんない。暑い。
それこそ、ひがな一日、床に転がってるだけで終わる。姉に「また穣子ったら干しイモみたいに寝っ転がって」などと言われようが知ったこっちゃない。とにかく暑くて何もやる気が起きない。
今だって本当はこんなの書いてないで、ただひたすら寝っ転がっていたいけど、横で暇つぶしがてら、コレクションの紅葉の数を数えている姉が、どうも許してくれそうもないので、こうやって仕方なく筆を走らせてるってわけ。そうじゃなかったらとっくに倒れてるっての。あー暑い……。
三
夏は太陽のやる気が他の季節と違う。そう、やる気、すなわちヤる気。殺意マシマシってやつ。
それこそ、地上の生きとし生けるものから水分と養分を根こそぎ奪い去っていくようなそんな凄みすら感じる。それが夏の太陽。太陽は罪なやつなんて生やさしいものじゃない。もはや真夏の極悪人。真夏のサイコキラー。……そういや、姉の持ってるレコードにそんな曲あったっけ。なんかファファファファファーって歌ってるやつ。
ま、それは置いといて、実は私はごくごくたまーに、夏山へ散策に行ったりすることがある。もちろんあんなクソあっつい日中なんかじゃなくて、日が隠れた曇りの日とか、暑さの収まった夕暮れどきあたりに。
そうすると切り株の根元なんかに干からびたきのこが顔を出しているときがある。
すっかり水気を失い、かわいそうなくらいしわしわになったきのこを見ると、一種の「もののあわれ」を感じざるをえない。そう、こんな姿になっても、きのこは生きているのだ! その生命力の強さと健気さに思わず涙が出そうになる。
ちなみに、前にその干からびたきのこを持ち帰って、試しに水に浸しておいたことがあるんだけど、しばらくすると元のみずみずしい姿に戻った。なんという生命力! その逞しさに感動しつつ、そのまま鍋に入れて食べてみたんだけど、これがたいへん味が濃くてほんとう美味しかった。実はきのこはそのまま食べるより、一度干したほうが、味が凝縮されていっそう美味しくなる。これ豆ね。きのこだけど。
とにかく、まとめると夏の太陽はとても危険っていうわけ。
四
夏は虫が多い。もちろん四季の中で一番生命力にあふれている季節だから、当然と言えば当然なんだけど、まあ、とにかく虫が多い。虫を見ない日なんてない。それこそハエはそこら中にいるし、地面ではアリが忙しそうに歩き回ってるし、ふと、耳をすませば、いや別にすませなくてもセミの大合唱が聞こえてくる。というか、夏が必要以上に暑く感じるのってセミの鳴き声のせいなんじゃないかって最近思うようにすらなってきた。とにかく、まーうるさい。
五
そういや前に某虫の王、まあリグルなんだけど、彼女に「セミをなんとかしてよ」と言ったことあるんだけど「セミだって頑張って生きてるんだよ」と言って相手にしてもらえなかった。違う! そうじゃない! 別にセミは生きててもいい。あの不快極まりない大合唱を止めてほしいという話だったんだけど、どうやら彼女にはセミを根絶やしにしてくれと伝わってしまったらしい。そんなことしたかったらセミを食えばいいだけの話で、それこそセミは海のない幻想郷の貴重なタンパク源なので、食用にする人も少なからずいたりする。
ま、セミ食うくらいなら私はイモ食うけど。
六
なんてったってイモはセミにはない成分がたくさん含まれているし、栄養満点! それにセミより食べやすい。ほら、セミって固くて食べにくいでしょ。その点、イモはやわっこくて甘くておいしい! やっぱりイモは最強なのだ。ああ、イモとセミ。同じ二文字なのになぜここまで差がついてしまったのか。
まあ、いくらイモ食ったところでセミがうるさいのは変わらないんだけど。
七
よく、夏は夜が趣あるなんて言うが、いったい夏の夜の何がいいのか私にはわからない。夏の夜なんて、虫の楽園なのはもとより、夜になっても暑いという事実だけが私の心を静かにむしばんでいく。風物詩と言われている花火ってのも、まぶしくてうるさくて不快なだけ。
地獄の釜の蓋が開こうが、夏祭りが開かれようが、秋の神様である私にはほとんど関係ない催しなのだ。
八
あ、そうだ。夏の夜と言えば田んぼのカエルの大合唱。昼がセミなら夜はカエル。そろいもそろって不快指数をこれでもかと高めてくる。しかも最近は何をとち狂ったのか、夜中でも鳴きわめくセミもいるってんだから始末におけない。こんなコラボ、誰も望んじゃいないっての! まだプリズムリバーと鳥獣伎楽のコラボの方がマシ。いや、あれも相当うるさいけど。
九
さて、これを書いてる今、徐々に外の様子が怪しくなってきている。雨が降る前特有の涼しい風も吹き始めていて、あと少し経ったら一雨きそうな感じだ。しかも夕立くらい激しいのが。
夏といえば天気の急変。特に夕暮れ時のにわか雨は困りもの。中でも雷を伴うような夕立なんかは正直、勘弁してほしい。
って、言ってるそばから、ぽつりぽつりと雨粒が縁側に当たり始めた。急いで雨戸をしめないと家の中に雨が入り込んでしまう。
十
私が雨戸をしめに行こうとすると、姉がかわりに行ってしまった。
私としては、この場を離れることで、やっとこの文章書きから解放されるかと思ったのに、姉はそれをさせないために自ら雨戸をしめに行ったのだ。
これは決して優しさなんかじゃない。
そこまでしてまで私にこの文を書かせたいというのか。その執念を他のことに使ってほしいと切に思う。まったく。
十一
雨がざんざんと降ってきたからと、雨戸をしめたはいいものの、案の定、家の中は蒸し暑くてまるで蒸し風呂状態。それこそ、このままでは蒸しイモになってしまうんじゃないかと思うくらい。この家、やたらと気密性が高いのはいいんだけど、こういう時にちょっと困る。あー湿気くさい。
十二
あれからだいぶ経ったけど、まだ雨は止む気配がない。そういえば、いったい今何時なんだろう。この家は姉の方針で時計がない。別に不便に感じたことないので構わないけど。便利より不便の方がだいぶいいし。
十三
そういや、明日は立秋だっけか。どうせ明日も暑いだろうけど。立秋なんて名ばかりだし。「暑さ寒さも彼岸まで」なんて言葉もあるみたいだし、それまでは暑い日が続くんだろう。どうせ。
十四
ようやく雨が止んだようなので、雨戸をあけてみると、外はすっかり明るくなっていた。雨上がりの夏の朝はそれはそれで心地よいものだけど、問題はこの後。太陽が昇るにつれてどんどん気温も上がってくる。雨なんか降ったもんだから、地面の水気が蒸発して湿気も高くなるだろう。それを思うだけで、今からうんざりしてくる。
十五
どうして夏は暑いのか。どうして夏はこんなに苦しいのか。
十六
よく季節は巡りゆくと言うけれど、夏ってやたら長く感じるのは気のせいか。なんか夏だけズルくない? 秋をもっと増やしてよ!
十七
あつい なにもかけない
十八
今日も暑いぃ。そういや彼岸っていつだっけ。あーまだまだ先だった。
ま、彼岸が来たからって暑さが収まる保証はどこにもないんだけど。
十九
なんか今日から長月に入ったようだ。世間的には夏はこれで終わりらしいが、そんなわけがない。厳しい夏はまだまだ続く。だってセミはまだまだ鳴きわめいてるし、空だって山の奥から入道雲が顔を覗かせてるし。夏はまだまだ終わらないのだ。早く終われ。
二十
これを書き始めてどれくらい経ったのか。ふと今数えてみたところ、今日でちょうど一月ほど経ったところらしい。まったく飽き性の私がよくここまで続いたなと我ながら驚いている。まあ、さすがに毎日ではないけど。
それもこれも根っこにあるのは夏への憎しみと、秋への憧れがあったからなんだろうと思う。
強い想いというのは、肯定的か否定的かは関係なく、喜びだろう憎しみだろうと、人を動かす大きな動機となる。だから私の夏への憎しみもまた、大きな力の一つだったんじゃないかなって思う。
二十一
今もなお、夏は季節の椅子にどっかりと腰を落としたままだが、私は確かに感じている。ほんの少しずつだが、秋の訪れが近づいているのを。果たして今年の秋は、どんな秋になるんだろう。少しでも長いといいな。
二十二
姉が知り合いから梨をもらってきたので、切って二人で食べた。水気が強い品種だったようで、かじると甘酸っぱい風味が口いっぱいに広がった。姉はあまり好きではない品種らしいが、その割には美味しそうに食べている。あるいは秋を感じられるからか。個人的に梨は秋というより、夏の終わりを告げる果実のように感じるけど。
ふと、縁側から空を見ると、確かにほんの少しだけ高くなった気がする青空が見えた。しかし、その青空の向こうの方から徐々に黒い雲が広がり出していて、にわか雨の気配がした。
空を眺めているうちに、姉が梨を全部食べてしまった。ま、別にいいかと思い、自然と笑みがこぼれた。
了
とにかくセミの合唱が、やかましくてやかましい今日このごろ、こんなひぐらしの鳴く季節に、ひぐらし硯に向かったところで、何かいい感じの文章なんか思い浮かぶわけもないし、浮かんだところでそれを上手く書き表せないし、そもそも私は文才なんて持ち合わせてないし。
じゃあ、なんでこれ書いてんのかっていうと「暑さを紛らわせたいのなら、思いつく言葉をとにかく書き殴ってみなさい。少しは心が涼しくなれるかもしれないわよ」という、姉からの実にありがた迷惑な、いや、ありがたいお言葉を実行に移しているからに他ならない。
当然、そんな信ぴょう性のカケラもないような戯言を真に受けるつもりはサラサラないし、ましてや姉の思惑なんかに付き合うつもりなんてこれっぽっちもない。ようは単なる暇つぶしとして、これを書いてるだけであって、もっと言えば暇を持て余した神々のなんとやらってやつ。
そんなわけでこれから、私が夏に思うあれこれってのを、そこはかとなく書き殴っていくので、ま、ひとつお付き合いよろしく!
一
夏って一言で表すとなんの季節だろう。太陽の季節。灼熱の季節。情熱の季節。アツい季節。きっと色々な言葉が挙げられるだろうけど、私から言わせればこの一言に尽きる。
地獄
そう、ディス・イズ・ヘル。すなわち地獄の季節。乱暴かもしれないけど、私はこの二文字で夏のすべてを表せる。むせ返るような暑さ。地獄だ。ゆらゆらとゆらめく陽炎。地獄だ。そして不快極まりないセミの大合唱。これを地獄と言わずして何と言うか。生命あふれる季節? やかましい! 地獄っつったら地獄なの!
よし、いい機会だし、これから夏がどうして地獄なのか、一つ一つ書いていってみることにしよう。どうせヒマだし。
二
まず、なんと言っても夏は暑い。とにかく暑い! 朝から晩まで暑い。暑いったら暑い。まず朝起きて「おはよう」とあいさつしたら次に出る言葉は「暑い」。
本当、なんでこんなに暑いのかって思うくらい暑いので、もう何もやってらんない。暑い。
それこそ、ひがな一日、床に転がってるだけで終わる。姉に「また穣子ったら干しイモみたいに寝っ転がって」などと言われようが知ったこっちゃない。とにかく暑くて何もやる気が起きない。
今だって本当はこんなの書いてないで、ただひたすら寝っ転がっていたいけど、横で暇つぶしがてら、コレクションの紅葉の数を数えている姉が、どうも許してくれそうもないので、こうやって仕方なく筆を走らせてるってわけ。そうじゃなかったらとっくに倒れてるっての。あー暑い……。
三
夏は太陽のやる気が他の季節と違う。そう、やる気、すなわちヤる気。殺意マシマシってやつ。
それこそ、地上の生きとし生けるものから水分と養分を根こそぎ奪い去っていくようなそんな凄みすら感じる。それが夏の太陽。太陽は罪なやつなんて生やさしいものじゃない。もはや真夏の極悪人。真夏のサイコキラー。……そういや、姉の持ってるレコードにそんな曲あったっけ。なんかファファファファファーって歌ってるやつ。
ま、それは置いといて、実は私はごくごくたまーに、夏山へ散策に行ったりすることがある。もちろんあんなクソあっつい日中なんかじゃなくて、日が隠れた曇りの日とか、暑さの収まった夕暮れどきあたりに。
そうすると切り株の根元なんかに干からびたきのこが顔を出しているときがある。
すっかり水気を失い、かわいそうなくらいしわしわになったきのこを見ると、一種の「もののあわれ」を感じざるをえない。そう、こんな姿になっても、きのこは生きているのだ! その生命力の強さと健気さに思わず涙が出そうになる。
ちなみに、前にその干からびたきのこを持ち帰って、試しに水に浸しておいたことがあるんだけど、しばらくすると元のみずみずしい姿に戻った。なんという生命力! その逞しさに感動しつつ、そのまま鍋に入れて食べてみたんだけど、これがたいへん味が濃くてほんとう美味しかった。実はきのこはそのまま食べるより、一度干したほうが、味が凝縮されていっそう美味しくなる。これ豆ね。きのこだけど。
とにかく、まとめると夏の太陽はとても危険っていうわけ。
四
夏は虫が多い。もちろん四季の中で一番生命力にあふれている季節だから、当然と言えば当然なんだけど、まあ、とにかく虫が多い。虫を見ない日なんてない。それこそハエはそこら中にいるし、地面ではアリが忙しそうに歩き回ってるし、ふと、耳をすませば、いや別にすませなくてもセミの大合唱が聞こえてくる。というか、夏が必要以上に暑く感じるのってセミの鳴き声のせいなんじゃないかって最近思うようにすらなってきた。とにかく、まーうるさい。
五
そういや前に某虫の王、まあリグルなんだけど、彼女に「セミをなんとかしてよ」と言ったことあるんだけど「セミだって頑張って生きてるんだよ」と言って相手にしてもらえなかった。違う! そうじゃない! 別にセミは生きててもいい。あの不快極まりない大合唱を止めてほしいという話だったんだけど、どうやら彼女にはセミを根絶やしにしてくれと伝わってしまったらしい。そんなことしたかったらセミを食えばいいだけの話で、それこそセミは海のない幻想郷の貴重なタンパク源なので、食用にする人も少なからずいたりする。
ま、セミ食うくらいなら私はイモ食うけど。
六
なんてったってイモはセミにはない成分がたくさん含まれているし、栄養満点! それにセミより食べやすい。ほら、セミって固くて食べにくいでしょ。その点、イモはやわっこくて甘くておいしい! やっぱりイモは最強なのだ。ああ、イモとセミ。同じ二文字なのになぜここまで差がついてしまったのか。
まあ、いくらイモ食ったところでセミがうるさいのは変わらないんだけど。
七
よく、夏は夜が趣あるなんて言うが、いったい夏の夜の何がいいのか私にはわからない。夏の夜なんて、虫の楽園なのはもとより、夜になっても暑いという事実だけが私の心を静かにむしばんでいく。風物詩と言われている花火ってのも、まぶしくてうるさくて不快なだけ。
地獄の釜の蓋が開こうが、夏祭りが開かれようが、秋の神様である私にはほとんど関係ない催しなのだ。
八
あ、そうだ。夏の夜と言えば田んぼのカエルの大合唱。昼がセミなら夜はカエル。そろいもそろって不快指数をこれでもかと高めてくる。しかも最近は何をとち狂ったのか、夜中でも鳴きわめくセミもいるってんだから始末におけない。こんなコラボ、誰も望んじゃいないっての! まだプリズムリバーと鳥獣伎楽のコラボの方がマシ。いや、あれも相当うるさいけど。
九
さて、これを書いてる今、徐々に外の様子が怪しくなってきている。雨が降る前特有の涼しい風も吹き始めていて、あと少し経ったら一雨きそうな感じだ。しかも夕立くらい激しいのが。
夏といえば天気の急変。特に夕暮れ時のにわか雨は困りもの。中でも雷を伴うような夕立なんかは正直、勘弁してほしい。
って、言ってるそばから、ぽつりぽつりと雨粒が縁側に当たり始めた。急いで雨戸をしめないと家の中に雨が入り込んでしまう。
十
私が雨戸をしめに行こうとすると、姉がかわりに行ってしまった。
私としては、この場を離れることで、やっとこの文章書きから解放されるかと思ったのに、姉はそれをさせないために自ら雨戸をしめに行ったのだ。
これは決して優しさなんかじゃない。
そこまでしてまで私にこの文を書かせたいというのか。その執念を他のことに使ってほしいと切に思う。まったく。
十一
雨がざんざんと降ってきたからと、雨戸をしめたはいいものの、案の定、家の中は蒸し暑くてまるで蒸し風呂状態。それこそ、このままでは蒸しイモになってしまうんじゃないかと思うくらい。この家、やたらと気密性が高いのはいいんだけど、こういう時にちょっと困る。あー湿気くさい。
十二
あれからだいぶ経ったけど、まだ雨は止む気配がない。そういえば、いったい今何時なんだろう。この家は姉の方針で時計がない。別に不便に感じたことないので構わないけど。便利より不便の方がだいぶいいし。
十三
そういや、明日は立秋だっけか。どうせ明日も暑いだろうけど。立秋なんて名ばかりだし。「暑さ寒さも彼岸まで」なんて言葉もあるみたいだし、それまでは暑い日が続くんだろう。どうせ。
十四
ようやく雨が止んだようなので、雨戸をあけてみると、外はすっかり明るくなっていた。雨上がりの夏の朝はそれはそれで心地よいものだけど、問題はこの後。太陽が昇るにつれてどんどん気温も上がってくる。雨なんか降ったもんだから、地面の水気が蒸発して湿気も高くなるだろう。それを思うだけで、今からうんざりしてくる。
十五
どうして夏は暑いのか。どうして夏はこんなに苦しいのか。
十六
よく季節は巡りゆくと言うけれど、夏ってやたら長く感じるのは気のせいか。なんか夏だけズルくない? 秋をもっと増やしてよ!
十七
あつい なにもかけない
十八
今日も暑いぃ。そういや彼岸っていつだっけ。あーまだまだ先だった。
ま、彼岸が来たからって暑さが収まる保証はどこにもないんだけど。
十九
なんか今日から長月に入ったようだ。世間的には夏はこれで終わりらしいが、そんなわけがない。厳しい夏はまだまだ続く。だってセミはまだまだ鳴きわめいてるし、空だって山の奥から入道雲が顔を覗かせてるし。夏はまだまだ終わらないのだ。早く終われ。
二十
これを書き始めてどれくらい経ったのか。ふと今数えてみたところ、今日でちょうど一月ほど経ったところらしい。まったく飽き性の私がよくここまで続いたなと我ながら驚いている。まあ、さすがに毎日ではないけど。
それもこれも根っこにあるのは夏への憎しみと、秋への憧れがあったからなんだろうと思う。
強い想いというのは、肯定的か否定的かは関係なく、喜びだろう憎しみだろうと、人を動かす大きな動機となる。だから私の夏への憎しみもまた、大きな力の一つだったんじゃないかなって思う。
二十一
今もなお、夏は季節の椅子にどっかりと腰を落としたままだが、私は確かに感じている。ほんの少しずつだが、秋の訪れが近づいているのを。果たして今年の秋は、どんな秋になるんだろう。少しでも長いといいな。
二十二
姉が知り合いから梨をもらってきたので、切って二人で食べた。水気が強い品種だったようで、かじると甘酸っぱい風味が口いっぱいに広がった。姉はあまり好きではない品種らしいが、その割には美味しそうに食べている。あるいは秋を感じられるからか。個人的に梨は秋というより、夏の終わりを告げる果実のように感じるけど。
ふと、縁側から空を見ると、確かにほんの少しだけ高くなった気がする青空が見えた。しかし、その青空の向こうの方から徐々に黒い雲が広がり出していて、にわか雨の気配がした。
空を眺めているうちに、姉が梨を全部食べてしまった。ま、別にいいかと思い、自然と笑みがこぼれた。
了