講義は数合わせのように終わった。
私は形式的な講義室の移動だけを行い、二限を受け、そしてそれも、何事もなく終わる。
その時分、何度か自分ゲームを開いて、"次は5時間後"、"次は4時間後"、"次は3時間後"と変化していく羅列達を眺めていた。
今はすっかりお昼休み。辺りの喧騒の水準は、恐らく一日の中で最も高い。食堂は人でごった返していることだろう。
今日は五限までみっちり授業があるから、空腹は現状一切感じないものの、今のうちに栄養を補給する必要があった。これは昨日の経験則から言っても間違いないロジックだ。
私は食堂には向かわず、大講義室の真横にある自動販売機に並び、サンドイッチを買うことにした。
合成レタスと、合成ハムと、合成チーズのミックス。つまりはトリプル合成サンドイッチ。
はて、パンも合成だったかしら。
私を含め、自販機には三人の学生が並んでいた。
前の学生は青いジャージを全身にまとっている。背中には『京都大学 陸上競技部』。
彼はしきりにタオルで額の汗を拭っている。
二限がなかったのだろう、きっとこのキャンパスを先程まで走っていたのだ。今朝の私みたいに。
『あなたは不思議な出会いをする』
ああ、またこれ。
何か行動を起こして、そのクールタイム毎に、あの文章を思い出してしまう。
そもそも出会いって、なんなのよ。
こうして辺りを見渡しても、同じ学部の学生がチラホラと散見される。視認しただけで、それは出会いになるのだろうか。
例えば目の前の陸上部の男、短髪で背丈は私より少し高いくらいの、服越しでも大臀筋の発達を見て取れるこの男に「こんにちは、宇佐見蓮子と申します」と一方的にピンポンダッシュしてしまえば、それは出会いとして認定されるのだろうか。
「……違うでしょ」
そう、何もかも違う。全くもって部分点を貰える要素がない。
私は、そもそも、あの文章自体よりもまず、自分ゲームという不可思議な現象そのものを明らかにする必要性に強く迫られているはずだ。
尚更、"出会いの定義"とかいうくだらないことに頭を使うのは、本来最悪なことなのだ。
「雲よ、雲」
列の一番前の学生が去った。手には何も持っていない。買わなかったのだ。
お金が足りなかったのか、目当てのものがなかったのか。それかもしかしたら、緊急の用事を頭に浮かべたのかもしれない。
もちろん、何度も何度も、この数時間例のゲームについて考えてみた。
しかしそれは、出題ミスを疑うレベルで解を導けない命題だったのだ。
「何買おうかな」
そしてそれから、陸上部の男も去った。
手には一番安いサンドイッチが握られている。
腕時計を確認し、三限までまだ五十分以上もあることを理解して、私は自販機の前に立ってトリプルサンドを選択し、購入した。
バッグに無理やり押し込むと、袋が現代アートみたいにくしゃくしゃとしわを作り、表面積を僅かながら変動させる。
その様子に、一息つく。
つまり、横隔膜を動かす。
目的を果たした私は、学部棟の入口付近に併設されている、イマイチ設置目的の掴めないイスに腰掛けた。それから背中を思いっきり後ろへ預け、足を組む。
「不思議な出会い……」
考えてみれば『あなたは不思議な出会いをする』というのは、ずいぶんと予言めいた文句だ。
"雨"、"逮捕"、"出会い"と新しくなるにつれて、確定的な事象から個人的な予言、安っぽい占いめいた文へと変化している。
そういえば昔、興味本位で占いアプリを入れたことがあった。課金しないと使い物にならない酷いものだったはずだが、今の私を占わせたら、果たしていったい何が出るのだろう。
私は足を戻して立ち上がり、この建物を出ようと思ったが、迷って、少しだけ考えて、そしてやっぱり立った。
座ったばかりで、足も組み始めたばかりだというのに、すぐに立ち上がる馬鹿らしさで恥ずかしくなる。
建物から出ると、春風が私の髪をひゅっとかきあげた。瞳に入り込もうと一生懸命に。
帽子でも買うべきかもしれない。
そのままよく分からない足取りで、私は中央図書館(正確にはその裏路地)へと歩を進めた。
*
路地は何か重大な変化がある訳でもなく、私のことを平坦に出迎えてくれた。
私は前と同じ壁に背中を預けて、鞄からサンドイッチを取り出し、ラップを外して義務的に咀嚼することにした。
「……ふぅ」
右手からは、相も変わらず文学部の連中が何人も通り過ぎていく。
合成レタスは紙みたいな味。
それも水で濡らしたべちょべちょの紙。
「ハムはまだましね」
最初は何もかもが偶然と考えた。
雨が降ったのも、篠崎透子が逮捕されたのも、全ては、プールの中で複雑な機械の部品がたまたま完成まで組み立てられるように、確率である。不確実性を言語化する道具である、と。
実際本当にそうなのかもしれない。
けれどもしこれが正解だった場合、それは自ずと近い将来に了解出来るはず。だから現段階では、特にこの考えを深める必要性は存在しないといえる。
「んむっ……ソースだけは美味しいわね」
それから、私自身に未来を決定する力が宿ったのかもしれないと考えた。今や世界のシステムや構造というものは、私が承認さえしてしまえば、全てその瞬間から確定してしまうのだ。
空を飛ぶだとか目から光線を発するだとか、そんなものよりかははるかに地球的かもしれない。
あるいは、何か高次元的な存在(宇宙人とか?)が、私を弄んで因果の糸を絡み合わせているのかもしれない。そしてその様子に混乱する私を、モニターか何かでニタニタと鑑賞しているのだ。
「馬鹿みたい」
メルヘンな考えばかり。
この数時間、ずっとこれなのだ。
「もうっ」
むしゃくしゃするわね、ほんっとまずいし。
気を紛らわせる為に、別のものに集中してみましょう。
例えばこのサンドイッチ、レタス自体は最低だけれど、このソース自体は、何につけても味を均一化すると同時に、味覚の効用を平準化させる機能があるみたい。
サウザンソースかしら。
「……うん、うん」
私は唇についたサウザンソース(仮)を舌で舐めた。
右側の道を見ると、二人組の男女が歩いてくるところだった。
歩幅を合わせているのは男だけで、二人の間隔も絶妙に広い。女は一応笑っているが、一度も男の方を見ていなかった。
たぶん、男だけ女に気があるのだ。女はそれに気づいていないか――あるいは気づいていないフリをしている。
……どうでもいいし、通り過ぎる僅か数秒での推論に、ほとんど意味なんてない。
しかしながら論理的な思考力と洞察力は、一応最低限は働いてくれていると分かった。あまりにもくだらなさすぎる一般論ないしは推察ではあるが、しかし少なくとも、私は私でなくなったわけではないのだ。
では一体、自分の置かれているこの環境について、馬鹿みたいな考察しかできていないのは、一体何が原因なのだろう。
「昨日のお酒のせいかな」
今のところ、こうしてどこかに身体を預けて風に当たるという行為が、人々に内省を促すものだという観念しか得られていない。
それならこっちにだって考えがあります。
この美味しくないサンドイッチを口いっぱいに頬張って、情けない雲の様子でも見てやるんだから。
「夜は味噌ねぇ」
私はもう一口齧り付きながら顔を上げて、宇宙と地球との境い目を思いっきり睨んでやった。
ほら、見て、あの雲。
なんだか稚児が我儘言って喚き散らしてるような、そんな鬱陶しさがないかしら?
それに、あっちの雲。
まるで人間の躁と鬱をこねくり回して、砂糖を小さじ二杯くらい入れてから作ったわたあめみたいな感じよね。ふふ、思うでしょ。
「そこで何をしているんですか?」
雲が喋った。
ふわふわの雲が、私に。
違う、違うわ、右耳から聞こえた。
「……え?」
それは、鈴を鳴らした音というと、少し月並みすぎた。
それは、花が揺れる音というと、少し曖昧すぎた。
つまりは、言葉にするのが腹立たしいほど、綺麗な音。
私はレタスをゴクリと飲み込んで、壁に背中を預けたまま、頭をライトハンドへ動かした。
そこには少女がいた。
頭にはふわふわした白い帽子。その下には金色の髪。鮮やかな色合いを持って、タンポポみたいに肩へと流れている。
彼女は路地の入口に立って、不思議そうに私を見つめていた。
昨日より強い陽射しが、降り注いでいて。
「……えっと、暇でしたので。お昼ご飯を食べる場所を探して歩き回って、ここに来ました」
さすがに要領を得ない回答だと思い、すぐに「ほら、なんとなく落ち着きませんか、ここ」と付け足す。
どこか遠くで、自転車のベルが鳴った。
「落ち着ける場所にしては、随分と人目につく場所を選んだんですね。ここは学生の通り道ですのに」
少女は背中で手を組んで、少しだけ前のめりになる姿勢でそう言った。それから路地の奥を見つめている。
初対面の人間に自分から話しかけておいて、よくここまで突っかかれるなと思う。
きっと、遠慮がちな人間でないのだ。
「そう、ですかね。でも、一人になりたいってのと落ち着くってのは、また違いませんか?」
「そういうものでしょうか」
少女は少しだけ困ったように、眉尻を下げた。
帽子から覗く金の髪は、空の光で透けていて。
「ええ……多分。それで、貴女は?」
「私? 名前を聞いてくださっているのですか?」
それからわざとらしく、首を傾げてみせた。
小さな首が、頭を支えきれずに折れてしまうと思った。
「……いえ。どうして私に話しかけたのかと、そう思いまして」
「ちょうど、図書館に行こうと思っていましたの」
「本を借りるんですか?」
「いえ、特に用事は無いのだけれど、なんていうか、行きたいって思う時がたまにあるんです」
病理的な人間だ。
一際強い風が吹いて、彼女は帽子を上から押さえつけた。
「それは、どういう理屈からなんです?
えーと――」
「マエリベリー・ハーンです。見ての通り、日本人ではありません。貴女のお名前は?」
マエリベリー。
美味しそうな名前。少なくとも、この今手に持っている物体よりかは。
「宇佐見蓮子です。理学部の一年です」
「宇佐見さん、ですね。よろしくお願いします」
マエリベリーは律儀にお辞儀をした。
私は慌てて背中と壁を引き離して、それに倣った。
「私は文学部の一年なんです。
なるほど、理学部。どこかで見覚えがあると思ったけれど、新入生代表の方ね」
彼女は少しだけ笑った。
頬が僅かに持ち上がり、その白い肌に薄く赤みが差す。
「ええ、まぁ。よく覚えてましたね」
膝下まで伸びている薄紫のロングスカートを揺らして、マエリベリーは私に少し近づいてきた。
すぐに名前の知らない花の香りが漂う。
「文学部ですか。図書館のすぐそばの」
「ええ、おっしゃる通りです」
「図書館が近くって、暇つぶしに来るのが容易だから、貸し借りとかの用がなくても訪れるんです?」
「暇だから来るという訳ではないんです。来たいから来るのよ」
そのまま私の横を通り過ぎ、背を向けてこの路地を歩き始めてしまった。
その理由を聞いてるのよ、こっちは。
「私に突然話しかけてきたのは、代表挨拶の時に顔を見ていて、それで見覚えがあったからですか?」
「……それも、多分あります」
「それも?」
「あの、なんていうのかしら。少し、難しいわね」
彼女はくるりとこちらに体と顔を向けた。
鼻筋は彫刻のように細くまっすぐと通り、白というよりも透き通った肌。小さく薄い唇だけが、肌に対しての反乱因子のように映えていた。
それから少しだけ間が空いて、息継ぎをするみたいに私を見つめてきて、言った。
「ここ、あんまり来ない方がいいと思います」
言い終えると、それだけで目的を果たしてしまったのか、私から目を逸らして、地面(かどうかは分からないが、少なくとも私ではない別の何か)を見つめだした。
マエリベリーには話を継続する意思がないようだったし、私は先の発言の意味を読み取ろうとしたり、彼女の次の言葉を待っていたから、十秒以上この空間には声が発せられなかった。
私はもう一度、壁に背中を預けた。
やがて耐えきれなくなって、思わず口を開く。
「それは、どういうことです? どうして来ない方がいいんですか?」
「……その、例えば、南極に何の装備もなしで行くのは、危ないですよね? それと、こう、同じなんです」
「この路地裏は危険なんですか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれません」
昔流行った小説家みたいな言い回し。
どういうことだろう。
彼女はこの路地裏について、何か知っているのだろうか。
つまり、昨日の二人組の、あの話について。
私は小さく咳払いをしてから言った。
「ハーンさんは、この路地裏について知っているんですか? その……不審者とか、薬とか、それから、記憶がなくなるとか」
単語テストみたいに、関連性のない語句をつらつらと並べる自分が阿呆らしくて、少し笑いそうになりながら。
「……何の話ですか? 不審者?」
マエリベリーは金と紫が混じりあったような瞳を細めて言った。
本当に理解していない様子。
私は説明しようがなくって、どう言えばいいか迷った。
「そういう話を聞いたんです。この路地裏で、記憶がなくなるみたいな。私もよく知らないんですけど」
「それで、理学部棟からわざわざここまで?」
「ええ、まあ」
「さっきは、お昼を食べる場所を探してここに来たって、そう言ってませんでした?」
「……それも、多分あります」
「あら、やり返されちゃった」
「あはは」
「ふふ」
手持ち無沙汰。
私達の間で今、何かやらないといけない特別なことはなかったのだ。
なら、サンドイッチを食べることにしよう。
もうあと二口くらいで食べ切れるのだし。
口に入れて噛み砕いていると、彼女は私の左隣までやってきて、同じように壁に背中を預けだした。
その瞳が静かに瞬きをする度に、長い睫毛が揺れた。それは端正な横顔に細い影を差していた。
頬は丸みを帯びていながら、やや細く、下顎はなだらか。成熟した女性と、世間知らずの子供の、ちょうど中間のような顔立ち。
「……あっ」
不注意から、ソースが口から漏れ、勢いよく私のスカートへ不時着してしまった。
それは今にもシミを残そうと、必死に存在感を出そうとしている。
はしたない!
恥ずかしい!
慌てて内ポケットに手を入れるが、そこにはあるべきティッシュがなかった。
なんてこと、今朝の準備不足のせい!
「あの、よかったらどうぞ」
顔を上げると、マエリベリーが白い無地のハンカチを私へ向けていた。
暫しの間私は、何が一番の最適解なのか考えるために頭を動かそうとしたけれど、でも、それを導くには時間が足りないと思い、やむを得ずハンカチを受け取った。
「ど、どうも、すみません。……洗って返しますから」
「いえ、お構いなく」
私は受け取ったハンカチで、何事もないように、平然を装いながらスカートからソースを拭き取った。
「……それで、結局どういうことなんですか?
ハーンさん、さっきから誤魔化してるじゃない」
「宇佐見さんだって、さっき嘘ついてたじゃない」
「それは、説明するのも面倒だったから……」
私は、ハンカチを慎重に内ポケットに忍ばせようと思った。
このハンカチには飾りらしい飾りはなく、四辺を桃色の細い糸で縫っているだけだった。
彼女のことを一切知らないのに、何故だか彼女らしいと思った。
「……結界よ」
「え?」
マエリベリーは路地の奥に顔を向けて、確かにそう言った。
こちらからは表情が見えなかった。
「結界って、あの……入口の?」
「ええ、暴いちゃいけないやつ」
「それが、ここにあるんですか?」
「はい」
「どうして、あるって分かるんですか?」
「……」
マエリベリーは壁と背中を引き剥がした。
そして二歩ほど前へ歩いた。
私は最後の一口を口の中に入れて、少しだけそれに意識を向けた。
けれどやっぱり、それでも彼女は一言も話さなかった。
沈黙の中で、ようやく私は、この数分の出来事を思い返そうと思った。
そして、どうしてこんなにも見ず知らずの人間とベラベラ話しているのか、自分でもよく分からなくなった。
ふと、空を見上げる。
依然として、陽光が瞳に降り注いでくる。それに思わず目を細める。
もし夜だったらと、想像した。
それならきっと、月が出ている。
星達だって、ご多分に漏れず。
長いこと、星空を見ていないと気づいた。
『あなたは不思議な出会いをする』
……。
私は空から視線を奪い去って、彼女の後ろ姿を見つめた。
帽子の下からこぼれた淡い金髪は、時折小さな風でさらさらと左右に揺れている。
細い肩から腰へ落ちてゆく線は驚くほど華奢で、スカートの裾からのぞく足は白く、細く、その頼りない足でどうやって地面に逆らっているのか、心配に思える程だった。
「……ハーンさんには、視えるんですか?」
「何が?」
「結界が」
彼女は背中で手を組んだ。さっきもしていたポーズ。癖なのかもしれない。
そしてこちらへくるりと振り返った。
絵本からそれだけ抜き取って、無理やり別の紙に貼り付けたみたいな様子で。
「視えると言ったら、信じますか?」
「……さぁ、証拠がないですから」
「でも、信じるかもしれないんですね」
「そりゃあ、まあ」
「不思議な人ね」
「……」
私はサンドイッチを包んでいたビニールを、ハンカチが入っていない方のポケットへ押し込んだ。
「そろそろ行きます。お昼まだなんです、それじゃあ」
「え、あ……」
彼女はスタスタと歩きだしてしまった。
私はまだ、壁と背中を密着させたままだった。
その時、どこかで雲雀が鳴いた。
ピィ、チュルルル、リリリ、チィ。
ほんの一拍を挟んで、全く同じ節が、全く同じ高さで何度も繰り返された。
配送用無人機の接近告知音だった。それは文学部棟へ飛んでいる。
だから、私は少しだけ大きな声で言った。
「あのっ、このハンカチ、いつお返しすればっ?」
彼女は振り返らずに言った。
「次会った時でいいわっ」
同じように、少しだけ大きい声。
今すぐ追いかけるべきなのかもしれない。
それからお昼を一緒に食べようと、そう言うべきなのかもしれない。
「……わかったわ」
マエリベリーは路地口から右に曲がり、そして、見えなくなった。
人工雲雀は、まだ鳴いている。
*
購買で買ったボールペンを、私は右手の人差し指と薬指の間で挟んだ。得られるプラスチックの感触は、肌が喜ぶような摩擦。
ペンを挟む力を強めて、そこを支点として右に左に揺らす。そしてその様子を瞳で追った。
本当はくるくると回してみたい。けれど、昔からペン回しが上手くできなかった。
「――それでは、今日はここまで」
教授が講義の終了を告げ、半分くらいの学生達が一斉に立ち上がる。
午前中とは異なり、この三限は真剣に受講した。板書は一通りノートへ写したし、教授が途中で変数を一つ取り違えていたことにも気づいた。
私は立ち上がらず、ボールペンを仕舞って、代わりに内ポケットに手を入れ、白いハンカチを取り出した。
サウザンソースと思われる薄橙色の汚れは、拭き取った時よりも少しだけ輪郭を広げている。四辺を縫う桃色の糸だけは、そんなことに一切関心がないらしく、相変わらず細く、静かに、白い布の境い目を見守っている。
『次会った時でいいわ』
次。
それはいつなのだろう。
そもそも、次というものは、普遍的に、統計的に、必ず用意されているものなのだろうか。
『あなたは不思議な出会いをする』
マエリベリー・ハーン。
金髪で端正な顔立ちをした、綺麗な少女。
図書館に用もないのに行く、病理的な少女。
結界が視えているかもしれない――不思議な少女。
『結界』
別の世界(あるいは次元のようなもの)とこの世界とを結ぶもの。
実際のところ、あまりよく知らない。大学受験時における、政治経済の勉強過程で得た浅い知識しかないのだ。
「それ、宇佐見さんの?」
顔を向けると例の黒髪が立っていた。ハンカチを指さしている。また左からだ。
どうしてこの女は、いつも私の左側から現れるのだろう。心臓が左側にあることと、何らかの関係があるのかもしれない。
「違うわ。借り物よ」
「へえ。宇佐見さんが?」
「どういう意味よ」
「ごめんごめん。誰に借りたの?」
「話さないといけないの?」
黒髪は「ああ、うん」と小さく返事をして、それから私の前の席へ、本来とは逆向きに腰を下ろした。それから両膝の上へ行儀よく手を置き、何か言いたそうに私を見つめている。
「……何?」
「今朝の宇佐見さん、ちょっと様子が変だったけれど、大丈夫?」
私がミントの泡を飲み込み、朝食を抜き、心臓と肺と脚部に過剰な負荷をかけたことを言っているのだろうか。
「寝坊しただけよ」
「そうじゃなくって、一限の前よ。急に逮捕がどうとか、大きな声を出してたでしょう?」
「ああ」
そういえばそんなこともあった。
私はハンカチを内ポケットに戻して、結界について今この場でできる調査をしようと思い、検索ソフトを起動しながら言った。
「篠崎透子のことで少し驚いただけよ。有名人が逮捕されたんだから、少しくらい声を上げたって不自然じゃないでしょう?」
「その、篠崎透子って人のことなんだけれど」
「何?」
黒髪は僅かに声の調子を下げた。
「あれ、今朝は話を合わせちゃったけど……誰なの?」
「ん?」
まず、質問の意味を理解できなかった。
篠崎透子は篠崎透子だ。
それは恐らく、重力みたいに確かなこと。
インターネット出身の有名なアイドルグループに所属していて、違法電子薬物ファンタジアの所持によって、午前二時十四分に逮捕された女。
少なくとも今日の朝、この国で最も検索されていた人物の一人。
「誰って、アイドルよ、逮捕された」
「うん。それは宇佐見さんから聞いたけれど……私、その人のこと知らないの」
「知りもしないのに、あの時"そうみたいね"なんて言ったの?」
「だって宇佐見さん、あんまり真剣だったから。私が知らないだけだと思って」
「……ああ」
そうだった。
この女は流されやすいのだ。
恐らく、濁流の前に立たせれば、抵抗するより先に周囲の水分とよろしくやって、カーディガンごと海まで運ばれていってしまう。
「ニュースとか見ないのね、あなた」
そう結論づけ、"結界"とタイプを始める。
「私、結構ゴシップとか好きよ? だからそういう、アイドルの逮捕だなんて、知らないはずがないのよ」
どうだっていい。
私は結界省のホームページへ飛んだ。
「だから、その篠崎透子さん?
調べてみたのよ、そんな人いたんだと思って」
ホームページには、まず真っ先にこう書かれている。
『結界省は、境界環境基本法に基づき、国際的な共通認識を元に、空間的・認識的境界の保全、および、国民の観測安全を目的として設置された行政機関です』
「けれど……そんな人、いくら探したって出てこなかったわよ?」
「……え?」
私はパソコンから目を離した。
黒髪は椅子の背もたれ上部に両腕を預けていた。
「友達に聞いても、みんな知らないって。でも、その人、有名な人なんでしょう?」
……さっさと切り上げてしまいましょう。
こんなサブクエストに付き合っている暇はないのだから。
「はぁ、仕方ないわね、ほら、見なさいよ」
私はホームページから戻って、パソコンを横向きにし、黒髪からも画面を確認できる状態にしてから、検索欄に文字を打ち込んだ。
『篠崎透子』
検索。
一拍置いて、無数の情報が画面いっぱいに表示される。
篠崎という名字を持つ学者。
透子という名前の小説の登場人物。
篠崎通りで発生した自動運転車両の接触事故。
どれも一文字か二文字だけ、私の求めるものと重なっている。けれど、肝心の"篠崎透子"という人間がヒットしなかった。
「……表記が違ったかしら」
『篠崎トウコ』
検索。
『しのざきとうこ』
検索。
『アイドル 逮捕 ファンタジア』
検索。
画面は、私の入力を理解してくれず、関係のない記事ばかりを並べ続けた。
「……おかしい」
「字、間違ってるんじゃない?」
「間違ってないわ」
だって、読んだのだ。何度も。
午前二時十四分という逮捕時刻まで覚えている。
私は仕方なく、閲覧履歴を開いた。
しかし、そこに並んでいたのは、検索ソフトの初期画面が勝手に提示してくる、社会にとってはそれなりに重要で、私にとっては明日になれば忘れてしまう程度のニュースばかりだった。
閲覧時刻は、今朝、私が篠崎透子について調べていた時刻と一致している。
「……は?」
それどころか――昨晩あれだけ繰り返したはずの、『自分ゲーム』についての検索履歴さえ、一件も存在していなかった。
本来のそれらは全て、よく分からない通販サイトに置きかわっている。
「宇佐見さん?」
黒髪が、画面をより覗き込もうと前傾になる。
私は反射的にパソコンを引き寄せて、自分だけのものにした。
「ちょっと待って」
順番に考える必要がある。
検索結果が消されたのだ。
つまり、何者かが、篠崎透子に関連する情報をインターネット上から全て削除し、そして同時に、私の端末から閲覧履歴まで消去した。いや、すり替えた。
"自分ゲーム"に関しての情報も、並行して。
そう考えれば、一応は説明できる。
……説明できる?
説明……できる?
篠崎透子という人間が存在していた痕跡を、名前一つ残さず、数時間で世界中から?
「……自分ゲーム」
そういえば、昼以来起動していない……。
あと数十分で、指定された"6時間後"になるはず。
私は答えを求めるように、開いていたウィンドウを全て最小化し、デスクトップを表示した。
執筆中のレポート。そして、その下のフォルダ。
勢いよく開き、中のアプリを起動する。
すぐにあの、無機質な白い文字が現れるはず。
「え……?」
しかし、次の瞬間。
黒い色も、反射する私の顔さえもなく、画面いっぱいに、吐き気がするくらい鮮やかな桃色が広がった。
私は思わず顔と画面の距離を離してしまったが、すぐにその情報を精査しようと試みた。
白い文字は写っている……しかし、そのフォントが前と違う。
読んでみる。
『未来えらび☆占いゲーム』
その下にも文字。
『♠無料占いは準備中です♠』
さらにその下。
『次の占いは、1時間後』
最後に。
『今すぐ占うには会員登録と追加課金が必要です』
「……なによ、これ」
「どうしたの?」
黒髪は立ち上がり、私の横までやってきて、画面を覗き込んだ。
「……これ、ちょっと前に流行った質の悪い占いアプリじゃない。宇佐見さんも入れてたのね」
「占い?」
画面では、桃色の壁紙だけでなく、黄色や水色の星が、何の法則性もなく明滅している。
「一回占うと、次まで六時間待たされるのよね。結果も適当だから、すぐ廃れちゃったけど」
六時間。
「そんなこと……」
いや、知っている。
私は、このアプリを知っている。
――そういえば昔、興味本位で占いアプリを入れたことがあった。課金しないと使い物にならない酷いものだったはずだが、今の私を占わせたら、果たしていったい何が出るのだろう。
昼間にそう考えた、まさしくあのアプリそのもの。
なんで入れようとしたか、どうやって入れたか、その記憶の何もかもを覚えている。
そうだ。
確かに、あれは、こんなものだった。
「……ね、ねぇ」
声が震えた。
誰の?私の。
「昨日、雨、降ったわよね?」
「雨?」
「夕方よっ、急に大雨が降ったでしょうっ!?」
黒髪は、肩を震わせて桃色の画面から私へと視線を移し、前より瞳孔を大きくさせながら、こちらを見た。
「え、えーと……どこで?」
「……この近くよ」
「降ってないと思うけど」
「降ったわ」
「降ってないって」
「降ったのよっ」
「……昨日はサークルの集まりで、夜まで大学の近くにいたもの」
「じゃあ局地的な雨だったのよ、私のアパートの周りだけで降ったのかもしれない、凄い、大雨だった」
「宇佐見さんのアパートって?」
私は簡単に住所を伝えた。
「すごい近くじゃない。私、ほんとにずっと外にいたのよ。夕方だって」
彼女は、証拠品を扱うみたいに自分のカーディガンの袖を摘まんだ。
「それにそんな大雨が近くで降ってたなら、服だってきっとびしょびしょだったわ。これ、お気に入りなのに」
薄いベージュ。昨日とおなじ、カーディガン。
それがびしょびしょになる。濡れる。
服が雨に濡れる。
つまり、水分を布や繊維へと溶け込ませる。
「……あ」
私は、自分の右肩に触れた。
今、この場で着ているシャツを。
随分と着心地が良く、袖に通すとさらりと肌を滑る、それを。
「……え」
今朝、寝坊した私が歯ブラシを咥えたまま干し竿からひったくったシャツ。
そう、干し竿から。
その干し竿は、昨日からずっとベランダに位置していた。家に帰って来た時も、夕日の中で黒い輪郭を作っていた。
この、シャツとともに。
「……なんで」
そして――帰宅後、雨が降った。
窓を叩いていた。
最初はぽつぽつ。
やがて、たたた。
最後には、ざあああ。
窓の奥を灰色に塗り潰すほどの、傲慢な雨。
私は――あの時、慌ててそのまま外へと飛び出した。けど、それはやかんの火を止めるためではなかった。
……ベランダに行って、シャツを取り込むためでも、なかった。
「おかしいじゃないの……」
私の家のベランダに、屋根なんてない。
今朝、私は何の躊躇もなくこれを着た。
それは、冷たくなかったし、湿っていなかったし、肌に貼り付くこともなかったし、乾ききっていた。
「宇佐見さん?」
いや、別に、どうってことはない。
そうよ。ね、そうでしょう?ね?
濡れた布は、乾くじゃない。
水分が周囲の大気へ移動するだけの、極めて一般的な現象。
雨が止んでから朝まで、何時間もあったのよ。
乾いたって、何もおかしくない。
何も。
……何も。
「どうしたの宇佐見さん?」
でも、本当に?
あれだけの雨を吸い込んだシャツが、ひんやりした夜の間に、私が異変を一つも感じない程度まで?
そもそも――雨はいつ止んだ?
私はそれを、確認した?
雨を外で確認した後、びしょ濡れで部屋に入った。
歩く度に水分がぽたりぽたりと落ちるくらい、私の髪はやかんと同じくらい水分を有していた。そして服も濡れきっていた。
……その服は?いつ着替えたの?
濡れた服は、どうしたの?どこへ行ったの?
シャワーを浴びて、着替えなかったの?
いや……浴びた。
違う、違うわ、それは雨が降る前。帰ってきて、カップラーメンを作る前に、浴びた。
……じゃあ、私は濡れたままずっと、着替えもせずに、そのまま過ごしたの?
そして、寝たの?
「……っ」
逮捕の記事も、篠崎透子も、検索した履歴も、自分ゲームも、雨も。
私は何を見たの?
見たの?
本当に?
私は観察したわ、検証したわ、統合したわ。
五感の全てに誓って。
でも――その五感が、最初から壊れていたとしたら?
「違う」
幻覚。
妄想。
パラノイア。
どれも知識としては知っている。
どれも私とは関係のない、世界のどこかで、不幸にも自分と現実との境い目を見失った人間に与えられる言葉。
決して、何かを渇望して、物語を渇望する愚か者が、縋るように見るものなんかじゃ……。
「違う、違うわっ」
自然法則は変化しない。
世界は原因と結果によって連続している。
「そんなのっ」
以前の状態は現在の原因であり、現在は次に来る状態の原因である。
「宇佐見さん……顔、真っ青よ」
黒髪が手を伸ばした。
私は反射的に、その手から身体を遠ざけた。
椅子の脚が床を強く擦り、講義室中に不愉快な音を響かせる。
何人かの学生がこちらを見た。
いや、本当に?
本当に私を見ている?
見るって、何?
どういう行為を指すの?
それは、誰が証明するの?
どうすれば確定するの?
「具合でも悪い?」
分からない。
分からない。
分からない。
分からない。
分からない。
引き出しを開けようとした。
いや、そんなものはない。
ここは大学の講義室。
あの本はない、ないのよ、ないのよ。
パソコンなんてそのままに、講義室を走って抜け出してっ!
*
それは、風が強いから。
それは、走っているから。
それは、汗が瞳に入ったから。
泣く理由なんて、どこにもないのだから。
*
「はぁっ、はぁっ」
ここはどこなのだろう。
私はどこにいるのだろう。
地球は、太陽系に位置している。
そこそこ太陽に近くて、そこそこ太陽から離れている。
そういう話をしていたんだっけ。
「ふぅっ、ふぅっ」
春らしき風が肺へと入り込んで、同時に血みたいな味の唾液が口の中を荒し回る。息を吸えば吸うほど、張り付くように苦しい。
そうだった。
私は今、確かに足を定期的に地面にぶつけさせて、前進しているのだ。
少なくとも、そういう感覚はある。
「はぁっ、ふぅっ」
どこかで自転車のベルが鳴る。
今度は遠くではなかった、すぐ真横だった。
乗っていた学生が何かを叫んでいる。恐らく、危ない、とか、前を見ろ、とか、そういうの。
その音が何度も何度も反響する。
「はっ……はっ……」
角を曲がり、横断路を渡り、医学部のそばを通った。
視界が流れているのか、それとも私が流されているのか。脚が自分のものではないみたい。
サンドイッチだと思った。
昼に食べたあれではない。
上には雲があって、空があって、陽光が差し込んでいる。
下には、地面があって、アスファルトがあって、桜の花びらがぺたりと落ちてくっついている。
その間に、私は挟まれている。
だからこれは、サンドイッチなのだ。
私はサンドイッチであり、世界の一部がハムで、レタスで、パンで、サウザンソースに違いがなくって。
「……ぅ、ふぅっ」
何度も誰かとぶつかりそうになり、その度に身体だけが器用に相手を避けた。
私は走って、走って、走ったのだ。
方角だとか、そんなものはシュレッダーにかけてしまって、けれど、走った。
そもそもなんで走っているのだろう。
周りを見ても、走っている人なんていない。
今朝はどうだったっけ?
私以外にも走っている人はいたかしら。
笑っている女。
端末を見ながら歩く男。
大きな鞄を背負った学生。
そんなのが周囲に配置されていたはず。
彼らは同じものを見ていたのだろうか。
私と同じ青空を。
私と同じ建物を。
私と同じ、私を。
確認する方法はない。
世界は、多分きっと、以前と何一つ変わっていないのだ。
変わったのは、私だけ。
それがいつからなのかすら分からない。
昨日?今朝?一か月前?もっと前?
生まれた時から?
「ふっ、はっ、はぁっ、はっ」
胸が痛い。脇腹が辛い。喉の奥が熱い。視界がぼやける。
これは夢なのかもしれない。
あるいは、一部分がそうなのかもしれない。
私が確認した事象たちは、どこまでがそうなんだろう。
「はぁっ、はぁっ、んっ」
世界がグラフだったら良いのにと思った。それも、点と線だけの、二次元の。
自分が明確に、ここに存在していると、無条件で認識される。すなわち座標という識別番号で。
それなら、その番号を拠り所にするだけで、少しくらいは、大地に自信をもって足の裏を接触させられるかもしれない。
やがて、目の前に古びた薄茶色の建物が現れた。
あちらこちらで塗装が剥がれ、細かなひびが走っている。
中央図書館。
「はぁっ、ふぅっ……どう、して」
どうして、ここに来た?
その問いに猶予を与えることをしないまま、私は図書館の入口を横切った。
側面へ。
野良猫が好きそうな場所。
突き当たりのある場所。
昨日一日を無駄にした場所。
気づいた時には、その入口を通り過ぎていて。
急に使い方を忘れたみたいに、脚が止まって、身体が前へ倒れそうになり、私は膝へ両手をついた。
肺が、内側から肋骨を叩いている。
額から落ちた汗が地面へぶつかり、小さな染みを作っている。
「はぁっ……ふぅっ……はっ……」
口の中に唾液が溜まっていた。
飲み込む。
喉の奥を、汗と、それから少しばかり血の混じっていそうな味が通り過ぎていく。
鉄。
今朝と同じ味。
今朝も走っていた。
今朝と今とが同じなのか、唾液を吐き出して確かめればよかった。
けれど、赤いものが混じっていたとして、それを私が赤いと認識しているだけかもしれない。
もう、何をしても同じだったから、私はゆっくりと身体を起こした。
路地は何も言わない。金網のゴミ箱と図書館の壁。
私はどうすればいいか分からなくなって、その空間を見つめた。
「宇佐見さん?」
「……え?」
背後からの声。
――それは、鈴を鳴らした音というと、少し月並みすぎた。
――それは、花が揺れる音というと、少し曖昧すぎた。
ゆっくりと振り返る。
路地の入口に、彼女はいた。
ふわふわした白い帽子。その下から肩へ流れる、タンポポみたいな金色の髪。金と紫が混じりあった瞳と、透き通るような肌。
「……あ」
マエリベリー・ハーンが、そこにはいた。
昼とほとんど同じ姿で。
眉尻を少しだけ下げて、不思議そうに私を見つめて。
「どうしたんですか? そんなに息を切らして」
「……ハーン、さん?」
声が掠れた。
内ポケットへ手を入れる。
白い布の感触が、確かに、指先へ伝わった。黒髪も認識した、あの布の。
「走ってたんですか?」
「……」
雨は降らなかった。
篠崎透子はいなかった。
そしてそもそも、自分ゲームなんて存在しなかった。
全ては、私が見た幻覚であり、妄想であり、パラノイアだった。
黒い画面から生まれたものは、何もかもが嘘だったのだ。
だったら、それなら――
『あなたは不思議な出会いをする』
その言葉によって現れた、この少女は――
「宇佐見さん?」
一体、何なのだろう?