Coolier - 新生・東方創想話

弾に入れる四角いやつ

2026/08/22 21:01:47
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「なあ親父。弾に入れる四角いやつ、ってわかるか?」
「なんでぇ薮から棒に」
「いやな、最近な、どうにもよくわからん注文が来るんだよ」
「よくわからん注文だ?」
 仕事の話とわかると、親父はすぐに新聞から目を上げた。
「ここ数日、氷の妖精やら、紅魔館のメイドの姉ちゃんやらが買いに来てな」
「お得意様じゃねぇか」
「それがいつもと違うんだよ」男は注文票を取り出した。「〝アカ〟と〝アオ〟が出るのはいつもどおりなんだけどな。しかしあの嬢ちゃんたち、最近はそれに加えて、口を揃えて同じこと言うんだ。『弾に入れる四角いやつありますか?』ってよ」
 そのとき、親父の目つきが心なしか厳しくなった。
 男は滔々と話し続ける。
「それで俺が『弾に入れるやつは丸いのしか無いよ』って言うと、やっぱり口を揃えて、『四角くて白っぽくて、いつもより大きいのは無いですか?』って聞いてくるだろ。だから俺はまた、『紫か黄緑で、丸くて小っちゃいやつしか無いよ』って言うんだけども、どうにも納得してないんだなあ」
 男は不思議そうに腕を組んでいたが、不意に視線を受けていることに気が付いた。
 親父の視線だった。何が悲しいのか眉間に皺を寄せ、妙に熱を帯びたような視線だった。
 戸惑う男に対して、この頑固親父は珍しく、どこか探り探りな様子で言葉を発する。
「それで……、それが、お客さん、必要だって言ったのか?」
「ん? ああ。そうだよ。しかしやっぱり、どうにも要領を得なくてなあ。俺が『四角いのが要るのかい? なんでそんなのが要るんだい?』と聞くと、口を揃えてこう言うんだよ。
『東方紅魔郷:New Classic! 九月十日発売決定‼︎』……ってな」
 親父はハッとして、しばらく息を呑んだように固まっていた。
 ごつごつとした指で曇った老眼鏡を外し、ちゃぶ台の上に置いた。そしてゆっくりと立ち上がると、奥の部屋へ消えて行く。
 すぐに戻ってきた親父の手には、小さな白い桐箱が握られていた。
「親父、これは?」
「開けてみろ」
 男は言われるがままに従った。
 箱の蓋が開くと、少しカビ臭い匂いが辺りに舞った。
 中に入っていたのは、真ん中に星の模様が描かれた、正方形の弾消しアイテムだった。
「二十年以上前に流行ったもんだ」親父は懐かしそうに星模様の輪郭をなぞっている。「自信作だった……。寝る間も惜しんで没頭して、ようやく完成したあの夏の涼しさは、今も昨日のことのように思い出せる」
 男は呆気にとられた。
 親父が引退するとき、仕事に関する事柄はすべて受け継いだと思っていたからだ。
「……だが、長続きしなかった。良い作品にしたいという一心で、貴重な銀の塗料を使ったのが失敗だった。弾に入れるやつは、アカとかアオとかとは比べ物にならない量を一度に使う。大量に消費する。当然、コストなんかかけていられない。しかも今はあの頃と比べて、一度にばら撒く弾の量が三倍以上っつうご時世だ。
 サイズがデカくて四角いのもダメだった。弾の中に詰めにくいんだよ。透明感が無い見た目も時代遅れ。今思えば、こんなものは廃れちまって当然だ」親父は男に顔を背け、そっと目頭を押さえた。「本当に……こんなもの……」
 男は震える親父の背中から桐箱に視線を戻すと、中に入っていた弾消しアイテムを手に取った。
 今の主流商品とは確かに違う、ずっしりとした重みが感じられた。
「親父」男は呟くように言った。「売れるよ、これ」
 親父の体がぴくりと動いた。
 親父が顔を拭って振り返ると、男は星の模様の入ったアイテムを撫でながら、どこか興奮した様子で話し始めた。
「――こんなイカしたデザイン見たことねえ。凄い……。良い作品だよ、親父! 原価なんかどうにかなる。俺がどうにかする。だから……俺に教えてくれよ! これの造り方!」
「お前……」
 男は注文票を鷲掴み、勢い良く親父の眼前に突き出した。
「これが証拠だ! なんで今なのかは知らんけど、注文がこんなに来てる! 覚えてたんだよ! 昔のお客さんたち、みんなコレのこと忘れてなかったんだよ!」
 親父は皺だらけの手で注文票の束を受け取ると、ちゃぶ台の上に置いていた老眼鏡を再び手に取り、着物の端でレンズの曇りをよく拭いてからかけ直した。
 一頁一頁確かめるように目を通していく。その顔はいつの間にか、いつもの頑固な仏頂面に戻っていた。
 やがて注文票を読み終えた親父は、男に一言、ぶっきらぼうにこう言った。
「忙しくなるぞ」

 夏も盛りというのに、やけに冷たい空気が肌を刺す。そういえば、以前にもこんな夏があっただろうか。
 故きを温ねることの目的は、未来を知ることなのだろうか。
 断じて違う。
 人間たちの営みをパターン化したところで、その先に何も無いのだから。

 男は力強く頷いた。
某企画向けに2000字以内の制限と「NewClassic」のお題で書き上げたのですが、「東方キャラが最低一人登場すること」というレギュレーションを満たしていないことに書いてから気が付きました。ちょっとショックでした。
https://x.com/K_T_Takenoko
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コメント



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3.100名前が無い程度の能力削除
熱い思いを感じました
4.100名前が無い程度の能力削除
P・点・残機・ボムよりも気にされてなかったりネタにされることがなかったりのアレとは。視点に脱帽しました