その夜は木枯らしが冬を煽っていた。それなら私も暖を取るために酒を呷ってやろうじゃないの……ってこれは何時ものことか。
さて、いつも通りにいかなかったのは夜道の突き当りに来た時のことなんだけどね?
「『伊吹萃香』だな」
「あー? お前誰だっけ」
藍染の頭巾をした女だった。尼僧にしちゃ妖気が漏れて見えるけど……って仏教徒なんか幻想郷にいたんだっけ。全然興味なくて困っちゃうよ。
「よもや儂の顔を見忘れたとは言わせんよ」
そう言って頭巾が脱がれると空色の富士額が現れた。古臭い喋り方をする割にはまだまだ若造に見える。それでどうも私に敵意があるようでその両手には金色の円月輪が握られている。果し合いでもしにきたようだ。
「で、お前誰だっけ」
「『雲居一輪』――『入道使い』じゃ」
「あっそ。雑魚の名前なんていちいち覚えてらんないから助かるよ」
「貴様、何故命蓮寺を襲った」
命蓮寺……? ああ最近人里の近くに出来たっていうのが確かそんな名前だったな、と思い出す。私に挨拶もなく寺なんか建てやがったものだからそういえばぶっ潰してやったんだった……って仏教徒なんか幻想郷に残っていたんだっけ。全然興味なくて困っちゃうよ。
「何故って言われてもなぁ、あんなのただの挨拶だし」
「……」
「正直あんま記憶にないなぁ。多分そいつらって全員雑魚だったんじゃないの――」
『鉄拳「問答無用の妖怪拳」』
そこからはもう滅茶苦茶でさ。あの女スペル宣言する前から私のことタコ殴りにしやがったの。しかもやたら力が強くてさ……おかげで全身が血霧に千切れて私の肉体跡形も無くなっちゃった。
本当こんなのされたら血沸き肉躍っちゃうよ。だからもうしょうがないよな?
「バカな。消えた――」
「鬼さん此方ァ!」
空いたどてっ腹に縦拳を入れる。当然同じパワーで返してやった。女は吹き飛ぶでもなくその場でうずくまった。くぅ~~!
酒が美味い! いやー久々に手加減せず力比べが出来そうで嬉しいなぁ! お互いにスペルカードルール慣れてないんだったら気兼ねしなくてよさそうだし!
「――」
「あれ? おーい。生きてる? 死んだら殺しちまうぞ」
「……馬鹿、力、が。鬼は、いい加減、だな」
「そんなんお前もじゃん。まともに食らったらひとたまりもないんだから霧にでもなっとけよ」
「なれる訳、ない、じゃろ。儂は――」
「『入道使い』だって? 止めとけよお前、嘘つくなら次は本気で行くぞ」
女は目を見開いた。こんな反応する時点でコイツの本性は謀り事に向いてないんだろうな。
「殴られてピンと来たよお前の本当の正体。急に冗談みたいにデカい拳骨が何個も何個も飛んでは消えて飛んでは消えて、ってそれ「密度を操ってる」んだよな?」
女はうずくまったままもう立ち上がることも無い。
どうせこれも演技だ。
「そういや今思い出したんだけどさ? 命蓮寺には「私と同じことができる」奴がいるっていうから行ってみたかったんたよな。そしたら軟弱な妖怪寺でさぁ、腕っぷしに自慢のある奴なんて一人も居なくて肩透かしだったんだけど……お前不在だったなら言ってくれよ」
女はうずくまったままもう立ち上がることも無い。
ていうかこいつは女じゃない。
「なぁもう立てよ噂の『見越し入道』さんよ~~。変化してんのバレバレだって~~」
「……この馬鹿がぁ」
入道親父は腹を抑えてよろよろと立ち上がった。
そう、コイツの正体は『雲居一輪』とかいう『入道使い』ではなく『見越し入道』そのものなのである。相方に変化しているのは仇討ちのつもりなのかね?
「まぁよし。次も受け止めろよ? 全部誉め言葉なんだから」
私は自分の密度を萃める――すると背丈が3尺、4尺、5尺……とどんどん大きくなっていく。霧になってみたりおもむろに巨大になってみたり、お互い密度が操れて便利だよなぁ。
「はっはっはっはー。見越し入道見越したり! ほれお前も大きくならんかい」
「何が見越したりじゃ。こっちはもう義理は果たしたんだ。これ以上はやらんわい」
「おい、つれないこと言うなよ。鬼に本気ださせるなんてすごい事なんだからさーー素直に受け止めてよぉ」
「やらんものはやらん! 命蓮寺の連中も別に死んではおらんのだからこれで終いじゃ」
「ええーー勿体ないなぁ……」
せっかく強そうな奴だったのに。何か、何かないのか――。
「あ! じゃあ名前教えてくれよ! 次に命蓮寺行った時すれ違いならなくて済むし!」
「……」
「なーお願い! 覚えとくからさぁ」
「……『雲居一輪』」
「えー? そうじゃなくてお前の名前だよ――」
「『雲居一輪』じゃ。此奴は儂より強いから『入道使い』なんだぞ? 雑魚だなんて忘れてやるなよ」
そう言い残して入道は夜道の向こうへと消えていった。
ったく頑固親父なんだから……。
「ってことで今日再戦しにきたわけなのよ」
「は、はぁ」
「いやーーその節はすまん! えっと『一輪』? いい酒持ってきたからこれで許して」
「何言って、私は仏道に帰依した身です。飲酒は禁じられているので「いいから飲めって」ウワーーアルハラダ――ジャアショウガナイナァチョットダケデスヨーー」
「良い飲みっぷりじゃん。入道親父の言った通り酒が強いんだねぇ」
「え? 『雲山』に会ったんですか?」
「『雲山』って言うんだアイツ。会ったよ? 昨日お前の仇討に来てくれた」
「はて。不思議なこともあるものねぇ」
「んあ?」
「だって『雲山』は私から離れられないんですよ。シャイなので」
「え?」
「あと基本的に彼喋りませんよ。シャイなので」
「は?」
【おーい! 『一輪』! ちょっとこっちきてー!】
「『ぬえ』の声だ。やっべ酒飲んでんのバレる! はいはいどったのーー!」
【なんか『マミゾウ』が昨日鬼に腹パンされたらしくて伸びてんのーー!】
さて、いつも通りにいかなかったのは夜道の突き当りに来た時のことなんだけどね?
「『伊吹萃香』だな」
「あー? お前誰だっけ」
藍染の頭巾をした女だった。尼僧にしちゃ妖気が漏れて見えるけど……って仏教徒なんか幻想郷にいたんだっけ。全然興味なくて困っちゃうよ。
「よもや儂の顔を見忘れたとは言わせんよ」
そう言って頭巾が脱がれると空色の富士額が現れた。古臭い喋り方をする割にはまだまだ若造に見える。それでどうも私に敵意があるようでその両手には金色の円月輪が握られている。果し合いでもしにきたようだ。
「で、お前誰だっけ」
「『雲居一輪』――『入道使い』じゃ」
「あっそ。雑魚の名前なんていちいち覚えてらんないから助かるよ」
「貴様、何故命蓮寺を襲った」
命蓮寺……? ああ最近人里の近くに出来たっていうのが確かそんな名前だったな、と思い出す。私に挨拶もなく寺なんか建てやがったものだからそういえばぶっ潰してやったんだった……って仏教徒なんか幻想郷に残っていたんだっけ。全然興味なくて困っちゃうよ。
「何故って言われてもなぁ、あんなのただの挨拶だし」
「……」
「正直あんま記憶にないなぁ。多分そいつらって全員雑魚だったんじゃないの――」
『鉄拳「問答無用の妖怪拳」』
そこからはもう滅茶苦茶でさ。あの女スペル宣言する前から私のことタコ殴りにしやがったの。しかもやたら力が強くてさ……おかげで全身が血霧に千切れて私の肉体跡形も無くなっちゃった。
本当こんなのされたら血沸き肉躍っちゃうよ。だからもうしょうがないよな?
「バカな。消えた――」
「鬼さん此方ァ!」
空いたどてっ腹に縦拳を入れる。当然同じパワーで返してやった。女は吹き飛ぶでもなくその場でうずくまった。くぅ~~!
酒が美味い! いやー久々に手加減せず力比べが出来そうで嬉しいなぁ! お互いにスペルカードルール慣れてないんだったら気兼ねしなくてよさそうだし!
「――」
「あれ? おーい。生きてる? 死んだら殺しちまうぞ」
「……馬鹿、力、が。鬼は、いい加減、だな」
「そんなんお前もじゃん。まともに食らったらひとたまりもないんだから霧にでもなっとけよ」
「なれる訳、ない、じゃろ。儂は――」
「『入道使い』だって? 止めとけよお前、嘘つくなら次は本気で行くぞ」
女は目を見開いた。こんな反応する時点でコイツの本性は謀り事に向いてないんだろうな。
「殴られてピンと来たよお前の本当の正体。急に冗談みたいにデカい拳骨が何個も何個も飛んでは消えて飛んでは消えて、ってそれ「密度を操ってる」んだよな?」
女はうずくまったままもう立ち上がることも無い。
どうせこれも演技だ。
「そういや今思い出したんだけどさ? 命蓮寺には「私と同じことができる」奴がいるっていうから行ってみたかったんたよな。そしたら軟弱な妖怪寺でさぁ、腕っぷしに自慢のある奴なんて一人も居なくて肩透かしだったんだけど……お前不在だったなら言ってくれよ」
女はうずくまったままもう立ち上がることも無い。
ていうかこいつは女じゃない。
「なぁもう立てよ噂の『見越し入道』さんよ~~。変化してんのバレバレだって~~」
「……この馬鹿がぁ」
入道親父は腹を抑えてよろよろと立ち上がった。
そう、コイツの正体は『雲居一輪』とかいう『入道使い』ではなく『見越し入道』そのものなのである。相方に変化しているのは仇討ちのつもりなのかね?
「まぁよし。次も受け止めろよ? 全部誉め言葉なんだから」
私は自分の密度を萃める――すると背丈が3尺、4尺、5尺……とどんどん大きくなっていく。霧になってみたりおもむろに巨大になってみたり、お互い密度が操れて便利だよなぁ。
「はっはっはっはー。見越し入道見越したり! ほれお前も大きくならんかい」
「何が見越したりじゃ。こっちはもう義理は果たしたんだ。これ以上はやらんわい」
「おい、つれないこと言うなよ。鬼に本気ださせるなんてすごい事なんだからさーー素直に受け止めてよぉ」
「やらんものはやらん! 命蓮寺の連中も別に死んではおらんのだからこれで終いじゃ」
「ええーー勿体ないなぁ……」
せっかく強そうな奴だったのに。何か、何かないのか――。
「あ! じゃあ名前教えてくれよ! 次に命蓮寺行った時すれ違いならなくて済むし!」
「……」
「なーお願い! 覚えとくからさぁ」
「……『雲居一輪』」
「えー? そうじゃなくてお前の名前だよ――」
「『雲居一輪』じゃ。此奴は儂より強いから『入道使い』なんだぞ? 雑魚だなんて忘れてやるなよ」
そう言い残して入道は夜道の向こうへと消えていった。
ったく頑固親父なんだから……。
「ってことで今日再戦しにきたわけなのよ」
「は、はぁ」
「いやーーその節はすまん! えっと『一輪』? いい酒持ってきたからこれで許して」
「何言って、私は仏道に帰依した身です。飲酒は禁じられているので「いいから飲めって」ウワーーアルハラダ――ジャアショウガナイナァチョットダケデスヨーー」
「良い飲みっぷりじゃん。入道親父の言った通り酒が強いんだねぇ」
「え? 『雲山』に会ったんですか?」
「『雲山』って言うんだアイツ。会ったよ? 昨日お前の仇討に来てくれた」
「はて。不思議なこともあるものねぇ」
「んあ?」
「だって『雲山』は私から離れられないんですよ。シャイなので」
「え?」
「あと基本的に彼喋りませんよ。シャイなので」
「は?」
【おーい! 『一輪』! ちょっとこっちきてー!】
「『ぬえ』の声だ。やっべ酒飲んでんのバレる! はいはいどったのーー!」
【なんか『マミゾウ』が昨日鬼に腹パンされたらしくて伸びてんのーー!】