Coolier - 新生・東方創想話

異変後ユイ阿梨

2026/07/18 01:14:38
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私の体内の爆弾は、今か今かと炸裂寸前だ。どうしようもない情勢により離れ離れになっていた恋人が、無事に戦争兵役から生還した時の内縁の妻のような。私は今すぐにでも愛を叫びながら阿梨夜に飛び付きたい気持ちを、必死に堪えていた。

夕暮れの、一面が濃紫に染まった空の下。異変後に2人でピラミッドに帰ってきたのは良いものの、何故かさっきから阿梨夜が頑なに話そうとしない。正確に言うと返事はしてくれるのだけど「うん...」とか「あぁ...」とか酷く上の空といった感じで、自分の世界に入り込んでますって人の返事だ。それだけならまだ喋りかけ続ければ何とかなりそうだが、そんな事する気にはなれなかった。阿梨夜の顔色が悪すぎるのだ。二日酔いの寝起きのような、顔面蒼白。私の洗脳をダシに、半ば強制的に月人の勧誘を受けた時でも、阿梨夜はそれを断って一人を選んだ事は知っている。多分、その事を気にして、自己嫌悪しちゃっているのかも....と考えてみたり。自意識過剰かな、私。阿梨夜は優しいし、なまじ力が強力だから、無理を承知で誰かの為に平気で自分を犠牲にしてしまう。考え過ぎであって欲しいなと思いながら、我慢の限界を迎える前に、私の阿梨夜への気持ちを小出ししていくことにした。気遣うように阿梨夜の反応を伺いながら、気まずい沈黙を破る。
「仮面、昔みたいに2人だけの時は外して欲しいな.....阿梨夜の顔、よく見たいからさ。」
「あぁでもでも、阿梨夜が嫌だったら無理にじゃないよ!!」
すると、意外にもしっかりした受け答えが返ってきた。
「私を...憎んでないの?本当なら、今更、合わせる、顔なんて.....」
消え入りそうな声で、今にも泣き出しそうになりながら阿梨夜は返す。
あぁ、最低な人間だ、わたし。先程まで舞い上がっていた自分を思い切りぶん殴ってやりたい。私が月人に良いように使われていた途方も無い時間、阿梨夜はずっと自分を責め続けていたのだ。
「っ、阿梨夜は正しい事をしたよ。私が洗脳されたのは、捕まった自分が悪いの。阿梨夜のせいじゃな━━」
「私のせいよ!!!」
必死に阿梨夜のせいじゃないと話す私を遮って、ピラミッドの入口まで響くんじゃないかと思う程、阿梨夜は声を張り上げた。駄目だ、これは重症だ。自責する時間が長すぎたんだ。阿梨夜は多分、もう自分が悪いという認識を決して曲げられないのかもしれない。
「そんな簡単に、私を受け入れないでよ。もう、私は、私を許せない。」
言葉を発する毎に、阿梨夜の表情が涙ぐんで崩れていく。
「私は、貴女がこうなる事を薄々感じておきながら1人になって...自分が我慢すればいいだけだと思い込んで、楽な道を選んだ。月人に立ち向かって戦っていれば、貴女にあんな思いさせずに救い出せたかもしれないのに...」
「貴女をあんなに傷つけておいて、私は、わたしは。お願いだから、拒絶してよ。お前のせいだって。二度と会いたくないって...」
久しぶりに大声を出したのか、段々と声が酷くしゃがれていく。ひとしきり訴えると、阿梨夜は膝から崩れ落ち、落涙した。
「...疲れた。もう、いっそのこと━━」
阿梨夜はひたすらに自分を責め続けた。私に突き放して欲しいと訴えるように。でも、だからなんだというのだ。阿梨夜は阿梨夜。私は私。違う存在なのだから、誰もが笑顔100点満点の結末なんて、そう簡単に出来ることじゃない。たとえそれが神であっても。私の言葉ではもう、阿梨夜の自尊心を保つ事は出来ないと悟り、私は無理矢理行動で示す事にした。
「━━私なんて、死ん...えっユイ?んぐっ!?」
阿梨夜は私の行動に、目を見開いて驚いた。そりゃそうだ。私も自分でびっくりしたもん。それ以上はだめ。絶対言っちゃいけないと言おうとするよりも先に、身体が動いていた。
「...んっ。ぷはっ。」
「んはっ、ユイ、なにしてっ」
勢い良く口付けした私を見つめている阿梨夜。ああ、やっとこっちを向いてくれた。岩みたいに固まった阿梨夜の首に手を回し、優しく抱きしめる。
「んー?抱きしめてる。えへへ、相変わらずホネホネだね。」
「じゃなくて...ああ、全く....」
「阿梨夜自身が自分を許せないなら、私は何も言えないよ。」
「でも、阿梨夜だけじゃなくて、私も自分のせいだって思っちゃってるんだよ?」
阿梨夜には少し悪いけれど、阿梨夜がこれだけ苦しんでいたのは、ぜんぶ私を想ってくれていたからなんだって思えてしまい。嬉しくないと言えば嘘になる。なら、私も阿梨夜に思いの丈を伝えるくらい、してもいいだろう。
「....。はは、貴女らしい。」
「ふふっ。だから、お互い様。もう、阿梨夜を1人にさせないし、させたくない。私も、もう阿梨夜から離れたくない。これからは、ずぅーっと一緒だよ?」
「だから、いなくなるなんて言わないで?阿梨夜がいなくなったら、私、寂しくって死んじゃう。」
「━━そうね、もう言わないわ。ありがとう、ユイ。」
何十年何百年と抱え込んでいたものを吐き出して立ち直ってくれたのか、阿梨夜はゆっくりと仮面を外し、優しく語りかけてくれた。とても嬉しい。嬉しいんだけど.....
「あっ、うんっ、どう、いたしまして....」
模造人間(ハルシネーション)ではない、久しぶりの阿梨夜のご尊顔に、思わず顔が赤くなる。
「...?ユイ?やっぱりどこか悪い所があるの?」
「っ!!い、いや違うの!久しぶりに、阿梨夜の顔見たから...見惚れちゃって...えへへっやっぱり阿梨夜はかっこいいね。」
「はは、相変わらず面白いこと言うね。私なんてただのホネホネザウルスなのに。カッコよくなんかないよ。」
むむ、この顔は、本気でそう思ってるな。
「む〜。阿梨夜は自分のビジュの良さが分かってない。」
「へ?びじゅ?」
「ふふっ、じゃぁ、今日は久しぶりに"鹿狩りごっこ"でもする?」
「んぇ!?い、いや、今日は辞めておいたほうがいいんじゃ...お互い疲れてるし。うん。そう、また今度にしよう。うんそうしよう。」
急なお誘いに阿梨夜がタジタジに。赤面して照れちゃって.....かわいい。
「ふふっ。いーよ。じゃ、阿梨夜を可愛がるのは今度にしよっか。」
「えぇ良かった、分かってくれて。」
何はともあれ、またこうして2人になれて、幸せな気持ちが心の底からドクドク湧いて来て、思わずまた勢い良く阿梨夜に抱き着く。

「ただいま、あーちゃん。」
「おかえり、ユイ。」
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