Coolier - 新生・東方創想話

願いの形 - 余談

2026/07/04 22:24:24
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最初は憧れだった。

強くて。
綺麗で。
優しくて。
ほんの少しだけ──寂しげで。

気付いたら、特別になっていた。

でも相手は神様。
「隠し通せる」なんて最初から思ってない。

阿梨夜は多分知ってる。
でも言わない。
だから私も言わない。
そういう絶妙な均衡で何千年もやってきたのだ。

それなのに──



「ちなみに……どっちがどっちに、とかは……?」
「だから違うって言ってるでしょ!?」

雲ひとつ無い秋空の下の守矢神社に、少女たちの声が響く。
そこでは未だ、ユイマンが「誤解」に対して抵抗を続けていた。

「こらっ、早苗」
「続けて続けて」

踏み込み過ぎですよ──と、言外に釘を刺す神奈子に対して、諏訪子は完全に楽しんでいる。

「……?」
渦中の阿梨夜は、いまひとつ話の核を分かっていなさそうな顔で首をかしげている。

「どっちが、というか……」

(待って)

嫌な予感が、する──

「交代で込めていましたが」

「「「「……」」」」

『ふふっ、阿梨夜にも分かるかな』
『「これ」にはまだ、貴方の温度が残ってる』
『今度は阿梨夜が私に──ね?』

「ひぇえええええっ」

早苗の妄想劇場は、更なる進化を遂げてしまった。

「ぷっ……くくく」
「……はぁ」

そして程度の差はあれ、他の者達の脳裏に浮かんだ光景も、似たり寄ったりのものであった。

「もーーーーーー!!!」

「……ユイマン? 早苗?」

──その火種を放り込んだ当人を除けば。



守矢神社から、神域に帰る道すがら──
夕日に照らされながら、ふたりは無言で歩く。
彼女としては珍しく、ユイマンは口を閉ざしてうつむいていた。

「しかし」

不意に、阿梨夜がその沈黙を破る。

「貴方はあれだけ真摯に私を手助けしてくれたのに……」
「どうしてあんなに慌てていたのですか?」

「えっ」

思わず阿梨夜へ振り返る。
その顔は、ただただ不思議そうだった。

「いやだから!」
「あの人達が変な意味に取ったからでしょ!?」

「変な意味……?」

通じてない。

「だからその……!」
「私達が、その……!」
「そういう関係だと思われたの!!」

言いながら、自分にも謎のダメージが入っていく。
けれどそれに対する反応は──

「?」

「ああもう! 知らないっ!」

残りの帰り道、足早に進むユイマンの後を、阿梨夜は黙って付いて行った。



何とも言えない空気の中、ようやく辿り着いた神域。
そこに足を踏み入れた途端──ユイマンの羞恥と狼狽と、ある種の映像が、阿梨夜の頭に流れ込み──

「ああ」

数秒の沈黙。

「……なるほど」

「ぅぅ……」
ユイマンは、ただ頭を抱える。

(伝わらないのも困るけど)
(伝わり過ぎるのも嫌……!)

阿梨夜は少し考えた後、

「ですが」
「貴方が私を助けてくれたこと自体は事実でしょう?」

「そういう話じゃないのー!!」

阿梨夜は、身悶えするユイマンを本当に不思議そうな顔で見ていた。

──しばらくの沈黙の後、ようやく阿梨夜が口を開く。

「……あの言葉が、そういう受け止め方をされるのですね」

最悪だ。
頭の隅に追いやっていたはずの映像が、今さらのように脳裏によみがえる。

「うわあああああああ!!!」
地下深くの神域に、ユイマンの絶叫が響き渡る。
だが、その声が何かを打ち消してくれることはなかった。



「阿梨夜はさぁ……」
「私と、その……」
「……そういう関係だと思われても、平気なの……?」

顔を真っ赤にして縮こまっていたユイマンが、やっとのことで切り出した。
言葉を出すまでに一拍、二拍と間が空く。
視線は阿梨夜に向けることができず、斜め下へと逃がされている。

「……?」

阿梨夜は、質問の意図を測るようにしばらく黙る。
神域なら、ユイマンの心の揺れも伝わってくる。

恥ずかしさ。
不安。
少しの期待。
そして──もし嫌だと思われていたら、という恐れ。

(そんなふうに、思っているのか)
その「声にならない理解」だけが、静かに流れる。

「平気、というより」
阿梨夜は静かに首を傾げる。
「私はあまり、困っていませんでしたね」

「そ、そうなんだ……」

何とも言えない答えに、ユイマンの力が少し抜ける。
だが、その次の言葉で空気が変わる。

「事実、私は貴方を大切に思っていますし」
「……」

「傍に居たいとも思っています」
「ちょっと待って」

即座に遮るように声が出る。

「そういうことを平然と言うのやめて」
「どうして?」

本気で分かっていない。

しばらく、沈黙が続く。

「いや、その……」
「皆が思ってるのは、もっと別の意味というか……」

「ええ」
「ええ、じゃなくて」

阿梨夜は少し考え込む。

「私は、人が何を想像するかまでは止められません」
「ですが」

眼差しが、真っすぐユイマンへ向けられる。

「貴方と親しいと思われること自体は、嫌ではありません」
「むしろ」

その瞳が、柔らかに細められる。

「そう見えるほど、私達は長く一緒に居たのでしょう」

「……」

この神様は本当に──ずるいひとだ。

「そういうところなんだよなぁ……」

ユイマンの顔は、未だ赤い。
けれどその理由は、先程までとは少し違ったものだった。



神域に戻って、ようやく静かになったはずの空間で。
阿梨夜はほんの少しだけ目を伏せる。

ユイマンの心は、まだ少し騒がしいままだった。
慌てていて、恥ずかしくて、逃げたくて。
それなのに、その奥底にはどうしようもなく優しいものがあって──

──阿梨夜が、笑ってくれてよかった。
──あの神様の心が、少しでも軽くなってくれたならよかった。

「……」

阿梨夜は、しばらく黙ったままその感情を「見て」いる。
言葉にすれば軽くなるようなものを、わざわざ言葉にせずに持っている。
そういう種類のものだと分かってしまうから。

「ユイマン」

ぽつりと呼ぶ。
返事はない。
いや、返事はある。心のほうに。

(なに?)
(まだ引きずってるんだけど……)

少しだけ拗ねた気配。

「貴方は」

言いかけて、やめる。

『どうしてそんなふうに思えるのですか』
なんて聞いたら、この人はまた困る。
だから代わりに、ほんの少しだけ柔らかく言う。

「……優しいですね」
「はぁ!?」

即座に、跳ねるように反応が飛んでくる。

(やめてそういうの!! 今そういうのいらないから!!)

「事実です」
「事実とかじゃなくて!!」

神域に、いつもの騒がしさが戻ってくる。
さっきまでの沈黙が嘘みたいに。
けれど阿梨夜は、ふっと息を吐いて──

(そういうのは、ずるい)

その言葉の意味を、今度はちゃんと理解していた。
ずるいのは、言葉じゃない。
その奥にあるもののほうだ。

「……私は」
続く声は、何処にも届かないくらいにそっと零れた。
「貴方に、よくしてもらい過ぎてるのかもしれないわね」

そして少しだけ間を置いてから、いつもの調子に戻す。

「ですが安心してください。私はそれを嫌だとは思いません」

「だから!! そういう言い方が!!」

(もーーー!! ほんとに!!)

叫びが神域に響いているのを聞きながら、阿梨夜は静かに口元を緩める。

実直すぎる石の心と、色彩うつろう少女の心。
どちらが支えているのかなんて、もうとっくに分からないまま──
それでも、均衡だけは壊れずに続いていく。
え!! 感情筒抜けの環境で両片想いを!?

という訳で過去作『願いの形』の余談です。
書きあげたものの、本編とはちょっと方向性の違う話となったのでどうしようかなとは思ったのですが、せっかくなので投稿させていただきました。

本編では軽く触れただけだった、神域下でのふたりのコミュニケーションに焦点を当てた話となります。
石の心を超越者メンタル的に解釈しすぎてるような気はしますが、まあこの話の阿梨夜はこんな感じということで。

話の都合とはいえ、早苗さんにはノンデリ過ぎる質問させてすまんなという気持ちはあります。
名無しの異変敵
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
3.100名前が無い程度の能力削除
良かったです。二人がかわいい
4.100南条削除
面白かったです
よくわかってない阿梨夜がかわいらしかったです