【余談】
「では私たちは出かけてきますね」
「いってきまーす」
「気をつけて行ってきてください」
アサマ様が八つ山へ来てしばらくが経つ。
あれからアリヤ様が、ここで暮らしながら火吹き山の神としての仕事をこなす方法を考えてくださったようだが、それが形になるにはいましばらく時間がかかるらしい。
それまでは、こうして時折おふたりで火吹き山まで出向くようだ。
「では、王女」「うん」
アリヤ様は翼を器用にたたみ、アサマ様をその背に負うと──軽やかに山肌を駆け下りて行った。
「……」
なんか俺の時と随分扱い違うような……。
いや、分かってる。
あっちは女の子で王女様で新人神様だ。
同じ扱いをしろというのが土台無理な話だ。
分かってはいるのだが──
「俺が一日歩き通した時間って……」
俺は静かに首を振ると、社の掃除へと戻った。
火吹き山へと続く道を、重なる影が駆け抜ける。
「わーい! アリヤはやーい!」
「……落ちますよ」
「落ちないもん!」
アサマはアリヤの肩に回した腕に力を込めると、頬を染めながら笑っていた。
──その声は、山の風に溶けていった。
二人のあたたかい過去編、よきでした。