お姉ちゃん、お燐、お空ってさ、みんな「お」から始まるのに、私だけそうじゃないんだよね。
仲間はずれだ、ずるいんだ~。
「おこいし」とかに改名しようかな?
***
お姉ちゃんは、ちょっと前にお燐からもらった簪(かんざし)をとても喜んでた。
付けるっていうより、飾る用のやつ。
細長い簪の先に、花の名前なんか判らないけれど、とにかくお花の意匠が3つくらい下がってる。
透明な飴色で、ホントに飴細工なんじゃないかって、舐めたら甘いんじゃないかって思うような、そんなやつ。
(実際、別に甘くは無かったんだけど)
お燐は、お姉ちゃんにプレゼントする時に謝ってた。
ごめんなさい、人里のおみやげで、最初はさとり様に似合う奴をって思ったんだけど、これがキレイだったので。
キレイでしょうって、見せたくなったんです。
そう言ってた。
おねえちゃんは嬉しかったみたい。
いつまでたってもふにゃふにゃした顔が戻らなかった。
必要以上に磨いたり、棚の上に置いてずっと眺めたりした。
嬉しそうで楽しそうで、幸せそうだった。
お姉ちゃんはお姉ちゃんで、こんなに良いものを貰ったのだから、とお燐にカンテラをあげた。
これに怨霊をしまっておきなさいって言ってた。
色気がないっていうか、簪貰ったお返しがそれ? っていうか、まあそれもお姉ちゃんらしいか……って感じ。
一応、物はとても良くって、照明の両側に金具が付いてるのが格好良くて、灯を点けると青く眩しく光って、お燐によく似合ってた。
お燐も嬉しかったみたい。
仕事に使うやつなのに、何処に行くにも持って行って、誰と会っても自慢してた。
カンテラを持つ手まで赤くなるくらい、はしゃいで過ごしてた。
しまわれた怨霊も、怨霊の割には大人しくなってるかもって感じで、居心地がイイみたいだった。
そういう塩梅で、二人はしばらくそのことが嬉しいばっかりの生活をしてた。
お空は羨ましがってた。
私も羨ましいから、お空とプレゼント交換しようかなと思ったくらい。
でもお空って、なんでも喜びそうすぎて逆に何をあげたらいいのか難しいなあ。
***
お姉ちゃんはたまに紅魔館に遊びに行ってる。
前に遊びに行ったときに話をしてて、レミリアさんと「私も自慢したい妹からのプレゼントとかあるわ。見せあいっこをしましょう」ということになったみたい。
お姉ちゃんは張り切って簪を磨いてた。
簪は磨かれ過ぎて「もういいよ」って言ってるように見えたけど。
遠くない内に、擦り切れて無くなっちゃうんじゃないかと思う。
お姉ちゃんは簪を大事に包んで持っていった。
簪って髪に付けるやつなんだけどな。
お姉ちゃん、簪って実は髪に付けるやつなの。
髪に付けて行けばいいんじゃないかな?
付けるっていうより、飾る用のやつだって、確かにお燐は言ってたけど。
紅魔館では妖精さん達がふざけ合って弾幕を打ち合うもんだから、畑がダメになったりしてて、門番さんがげんこつして回ってた。
メイドさんが作ったお菓子を食べて、お姉ちゃんとレミリアさんはお茶してたんだけど、その間もずっと外は賑やかで楽しそうだった。
レミリアさんはお姉ちゃんから簪を手渡しされて、一瞬「え、私、触っていいやつなの?」って顔をしながらも、これは綺麗ねえって嘆息してた。
そこで流れ弾が飛んできて窓が割れた。
ちょうどレミリアさんの処に日が射して、肌がすぐに真っ赤に腫れて……お姉ちゃんは、咄嗟にレミリアさんに体当たりした。
レミリアさんは日差しから守れたけど、簪は二人が倒れこんだ下敷きになって真っ二つに折れちゃった。
皆あやまってた。
妖精さんは危ないことしてごめんなさいって。
門番さんとメイドさんは私がもっとしっかりしてればって。
レミリアさんはこんなことになっちゃって申し訳ないって。
それでお姉ちゃんも、放っておいてもメイドさんがうまくやっただろうに、私が出過ぎた真似をしてしまったからって。
もう、次はレミリアさんが貰ったプレゼントを見せるとか、全然そんな雰囲気じゃなくなっちゃって、気まずい感じでそのまま。
紅魔館を出るまでは「大丈夫だから」って笑顔で居たけれど、それから帰るまでのお姉ちゃんはずっとボーっとしてた。
折れた簪が夕日の光を吸い込んでキラキラしてた。
お姉ちゃんはそれを見ながらぼけぼけ歩いてたから、何回か転びかけた。
自分の部屋に戻ってきて、机の上に簪を置いて、端の椅子に座って、それで、ずっとそうしてた。
お花の意匠は3つあったけど、1つは欠けてて、もう1つは割れてた。
こわれた断面はつるつるだった。
お姉ちゃんが座ると椅子が大きく見えるな、といつも思っていたけれど、今日はより一層そうだな、と思った。
***
お姉ちゃんはお燐に謝りにいった。
お空とお燐が一緒に帰ってきて、そこに声をかけたんだけど、お燐はその声色があんまり良いものじゃないって気付いて、びくっとした。
お燐はなんだか目を赤くしてて、それでお姉ちゃんは、お燐を見て、何故かすごく驚いた顔をして、それから暫く二人は見つめ合ってた。
お姉ちゃんはお燐の片手を両手で取って謝った。
「お燐。私ね、貴方に簪を貰ったの、とても嬉しかったわ、ありがとう。でも……注意が足りなくて、壊しちゃったの。折角あなたが選んでくれたのに……本当にごめんなさい」
お燐はびっくりしてた。
それで俯いて涙がぽたぽた落ち始めた。
そりゃあ泣くよね、あんなに喜んでくれてたプレゼントなのに、壊しちゃったのをこんな申し訳なさそうに謝られたら、私だってきっと泣いちゃうよ。
と思ってたけど、そうじゃなかったみたい。
「あ、あたいも……あたいも今日、カンテラ壊しちゃって。いつものように、お空に燃やして貰うために、地底の底に死体を持って行ってて。話をしてたら、死体を投げ込もうとした拍子にお空も落ちかけて。あたい咄嗟にカンテラを掴ませて、その拍子に……ほら、横に歪んで、容器はばきばき。油断して落ちても飛べばいいんだし、そもそもお空は炉に落ちたくらいじゃ死なないし、あたい何やってるんだろうって……いや、そうじゃなくて、あたい、さとり様になんて謝ったらいいかってずっと考えてて……ごめんなさい、本当にごめんなさい」
お空はお燐が喋ってるのを聞いてるうちに耐え切れなくなって、しくしく泣きだした。
私のせいでごめんなさいって言いたかったんだろうけど、くしゃくしゃ過ぎてあんまり聞き取れなかった。
お姉ちゃんとお燐は、なんとも言いづらい感じになった。
壊したの私だけじゃなかったんだ、なあんだ良かったね? ということではないし。
壊れちゃったのは悲しいし、相手が悲しい気持ちなのも悲しいから、何も言えなかったんだよね。
仕方ないなあ、と思って私は三人を寄せ寄せとまとめて、みんな抱きしめた。
今日はみんなで寝よーよ、と私が言った処でやっとみんなは私に気付いて、微妙な感じで笑った。
皆からすると、私って何にも知らないけど気まぐれにたった今やってきた風に見えてるんだろうな。
別にいいけどね。
私たちはそれから手を繋いで、廊下の横幅いっぱい使って歩いた。
左からね、お空、私、お姉ちゃん、お燐だった。
両手があったかくて良かった。
その間は誰も喋らなかった。
仲間はずれだ、ずるいんだ~。
「おこいし」とかに改名しようかな?
***
お姉ちゃんは、ちょっと前にお燐からもらった簪(かんざし)をとても喜んでた。
付けるっていうより、飾る用のやつ。
細長い簪の先に、花の名前なんか判らないけれど、とにかくお花の意匠が3つくらい下がってる。
透明な飴色で、ホントに飴細工なんじゃないかって、舐めたら甘いんじゃないかって思うような、そんなやつ。
(実際、別に甘くは無かったんだけど)
お燐は、お姉ちゃんにプレゼントする時に謝ってた。
ごめんなさい、人里のおみやげで、最初はさとり様に似合う奴をって思ったんだけど、これがキレイだったので。
キレイでしょうって、見せたくなったんです。
そう言ってた。
おねえちゃんは嬉しかったみたい。
いつまでたってもふにゃふにゃした顔が戻らなかった。
必要以上に磨いたり、棚の上に置いてずっと眺めたりした。
嬉しそうで楽しそうで、幸せそうだった。
お姉ちゃんはお姉ちゃんで、こんなに良いものを貰ったのだから、とお燐にカンテラをあげた。
これに怨霊をしまっておきなさいって言ってた。
色気がないっていうか、簪貰ったお返しがそれ? っていうか、まあそれもお姉ちゃんらしいか……って感じ。
一応、物はとても良くって、照明の両側に金具が付いてるのが格好良くて、灯を点けると青く眩しく光って、お燐によく似合ってた。
お燐も嬉しかったみたい。
仕事に使うやつなのに、何処に行くにも持って行って、誰と会っても自慢してた。
カンテラを持つ手まで赤くなるくらい、はしゃいで過ごしてた。
しまわれた怨霊も、怨霊の割には大人しくなってるかもって感じで、居心地がイイみたいだった。
そういう塩梅で、二人はしばらくそのことが嬉しいばっかりの生活をしてた。
お空は羨ましがってた。
私も羨ましいから、お空とプレゼント交換しようかなと思ったくらい。
でもお空って、なんでも喜びそうすぎて逆に何をあげたらいいのか難しいなあ。
***
お姉ちゃんはたまに紅魔館に遊びに行ってる。
前に遊びに行ったときに話をしてて、レミリアさんと「私も自慢したい妹からのプレゼントとかあるわ。見せあいっこをしましょう」ということになったみたい。
お姉ちゃんは張り切って簪を磨いてた。
簪は磨かれ過ぎて「もういいよ」って言ってるように見えたけど。
遠くない内に、擦り切れて無くなっちゃうんじゃないかと思う。
お姉ちゃんは簪を大事に包んで持っていった。
簪って髪に付けるやつなんだけどな。
お姉ちゃん、簪って実は髪に付けるやつなの。
髪に付けて行けばいいんじゃないかな?
付けるっていうより、飾る用のやつだって、確かにお燐は言ってたけど。
紅魔館では妖精さん達がふざけ合って弾幕を打ち合うもんだから、畑がダメになったりしてて、門番さんがげんこつして回ってた。
メイドさんが作ったお菓子を食べて、お姉ちゃんとレミリアさんはお茶してたんだけど、その間もずっと外は賑やかで楽しそうだった。
レミリアさんはお姉ちゃんから簪を手渡しされて、一瞬「え、私、触っていいやつなの?」って顔をしながらも、これは綺麗ねえって嘆息してた。
そこで流れ弾が飛んできて窓が割れた。
ちょうどレミリアさんの処に日が射して、肌がすぐに真っ赤に腫れて……お姉ちゃんは、咄嗟にレミリアさんに体当たりした。
レミリアさんは日差しから守れたけど、簪は二人が倒れこんだ下敷きになって真っ二つに折れちゃった。
皆あやまってた。
妖精さんは危ないことしてごめんなさいって。
門番さんとメイドさんは私がもっとしっかりしてればって。
レミリアさんはこんなことになっちゃって申し訳ないって。
それでお姉ちゃんも、放っておいてもメイドさんがうまくやっただろうに、私が出過ぎた真似をしてしまったからって。
もう、次はレミリアさんが貰ったプレゼントを見せるとか、全然そんな雰囲気じゃなくなっちゃって、気まずい感じでそのまま。
紅魔館を出るまでは「大丈夫だから」って笑顔で居たけれど、それから帰るまでのお姉ちゃんはずっとボーっとしてた。
折れた簪が夕日の光を吸い込んでキラキラしてた。
お姉ちゃんはそれを見ながらぼけぼけ歩いてたから、何回か転びかけた。
自分の部屋に戻ってきて、机の上に簪を置いて、端の椅子に座って、それで、ずっとそうしてた。
お花の意匠は3つあったけど、1つは欠けてて、もう1つは割れてた。
こわれた断面はつるつるだった。
お姉ちゃんが座ると椅子が大きく見えるな、といつも思っていたけれど、今日はより一層そうだな、と思った。
***
お姉ちゃんはお燐に謝りにいった。
お空とお燐が一緒に帰ってきて、そこに声をかけたんだけど、お燐はその声色があんまり良いものじゃないって気付いて、びくっとした。
お燐はなんだか目を赤くしてて、それでお姉ちゃんは、お燐を見て、何故かすごく驚いた顔をして、それから暫く二人は見つめ合ってた。
お姉ちゃんはお燐の片手を両手で取って謝った。
「お燐。私ね、貴方に簪を貰ったの、とても嬉しかったわ、ありがとう。でも……注意が足りなくて、壊しちゃったの。折角あなたが選んでくれたのに……本当にごめんなさい」
お燐はびっくりしてた。
それで俯いて涙がぽたぽた落ち始めた。
そりゃあ泣くよね、あんなに喜んでくれてたプレゼントなのに、壊しちゃったのをこんな申し訳なさそうに謝られたら、私だってきっと泣いちゃうよ。
と思ってたけど、そうじゃなかったみたい。
「あ、あたいも……あたいも今日、カンテラ壊しちゃって。いつものように、お空に燃やして貰うために、地底の底に死体を持って行ってて。話をしてたら、死体を投げ込もうとした拍子にお空も落ちかけて。あたい咄嗟にカンテラを掴ませて、その拍子に……ほら、横に歪んで、容器はばきばき。油断して落ちても飛べばいいんだし、そもそもお空は炉に落ちたくらいじゃ死なないし、あたい何やってるんだろうって……いや、そうじゃなくて、あたい、さとり様になんて謝ったらいいかってずっと考えてて……ごめんなさい、本当にごめんなさい」
お空はお燐が喋ってるのを聞いてるうちに耐え切れなくなって、しくしく泣きだした。
私のせいでごめんなさいって言いたかったんだろうけど、くしゃくしゃ過ぎてあんまり聞き取れなかった。
お姉ちゃんとお燐は、なんとも言いづらい感じになった。
壊したの私だけじゃなかったんだ、なあんだ良かったね? ということではないし。
壊れちゃったのは悲しいし、相手が悲しい気持ちなのも悲しいから、何も言えなかったんだよね。
仕方ないなあ、と思って私は三人を寄せ寄せとまとめて、みんな抱きしめた。
今日はみんなで寝よーよ、と私が言った処でやっとみんなは私に気付いて、微妙な感じで笑った。
皆からすると、私って何にも知らないけど気まぐれにたった今やってきた風に見えてるんだろうな。
別にいいけどね。
私たちはそれから手を繋いで、廊下の横幅いっぱい使って歩いた。
左からね、お空、私、お姉ちゃん、お燐だった。
両手があったかくて良かった。
その間は誰も喋らなかった。
面白かったです
簪とカンテラのようにきらきら輝いて見えるお話でした。
大切なものを失う悲しみもさることながら、壊れてしまった理由はあまりにも優しくてよかったです