Coolier - 新生・東方創想話

アサガオ・右

2026/04/25 21:46:18
最終更新
サイズ
10.31KB
ページ数
2
閲覧数
121
評価数
2/2
POINT
190
Rate
14.33

分類タグ





 某日、喫茶店にて。
「『左右を宇宙人に教える方法』っていうのがあるんだけれどさ」
「そんなの色々あるでしょ。ナイフを持つ方が右でフォークが左」
「宇宙人がナイフとフォークを使ってると思う? それに、ナイフとフォークの使い方って地球上ですら統一されてはないのよ」
「じゃあ北を向いたときに東側が右」
「宇宙人はきっとこう聞くわ。『キタ、ドッチ?』」
 蓮子の機械音声みたいな宇宙人の声マネにメリーは頭を抱えた。
「宇宙人さん我儘すぎるわよ」
「我儘じゃなくて異文化交流よ」
「いーや、これは我儘ね……。『方法っていうのがある』って蓮子は言ったよね? 我儘宇宙人に伝わる方法あるんだ」
「あるわよ。『コバルト60の崩壊に伴い発生するβ線が多く飛ぶ方向をS極、逆側をN極と定め、S極を上、N極を下として、これに直交する導線に電流を流す時、電流手前から見て導線に力がかかる向きが右。補足すると地球人は電流の向きを自由電子の移動方向とは逆と定義しているのでその点留意されたし』」
 メリーは崩壊の「ほ」の字に入ったあたりから目線を蓮子ではなくケーキに定めた。
「……モグ……。説明終わった?」
「聞いてなかったわよね?」
「逆に聞くけどさ、見ず知らずの宇宙人にそんな説明の仕方するの? 正気?」
「物理学は全宇宙共通よ。余程の特異点でもない限りは」
「象牙の塔内の蓮子さんは世界を見たほうがいいわ。物理学者の常識は世間の非常識」
「うん、この話が一種の与太話みたいなものってのは流石に分かってるわよ。実際そうは説明しなかったし」
「ほら……。え?」
 メリーはフォークを落とし、それはテーブルの上でカチャンという音を立てた。
「説明したって……。会ったの?」
「どうだろ。金髪碧眼の長身の西欧紳士みたいな姿で」
「じゃあ只の外国人じゃん」
「でも日本語が普通に通じて」
「それは日本に来てから長いか日本語を勉強してる外国人ね。私みたいな」
「でも左右が通じないのよ」
「それはまあ地球人でも割といるわよ、左右盲って」
「左右の定義自体ができないのは違くない?」
「で、定義のために蓮子はあの分かる人が百万人に一人くらいしかいなさそうな説明を……」
「だからしてないんだって。駄目もとで『北を向いたとき……』って説明したわよ。そしたら『ワカリマシタ、アリガトウ』って」
「よかったじゃない」
「よかったのかしら? 彼? は『コウサテンヲミギニ』って言いながらアスファルトの中に沈んでいったのだけれど」
「……宇宙人どころか宇宙人以上じゃない?」
 メリーは疑いに加えてかなりの興味に目を輝かせていた。
「市役所の近くの細い路地での出来事だったわ。具体的にはここ」
 蓮子は地図アプリを開いて指さした。
「時間は深夜一時くらい。『ヤッキョクドコデスカ?』って聞いてたからもしかしたら最近住み始めたのかもね」
「ふーん」
「そうそう、お礼を貰ったのよ」
 蓮子は鞄から球体を取り出した。中には細長い菱形の板が入っており、それは赤と青の塗り分けも含め方位磁石のようだった。だがそれは地面に対して平行に軸で留められているのではなく、垂直に横倒れした向きで浮いていた。


***


 言うまでもなくメリーはその晩市役所近くの裏路地に佇んでいた。すると、期待通りに長身の男性の影が近づいてきた。ステッキを使っているようでカツンカツンと規則的な音が響いている。
「スミマセン、ボウシカエルトコロサガシテルノデスガ」
「帽子屋ですか……。それならこっち向きに進んで広い道に出たところで右に曲がって三つ目の交差点を……」
「ミギッテドッチデシタッケ? ドワスレシテシマッテ……」
「右なら……」
 メリーは一瞬逡巡した。蓮子と同じ説明をしてもいいが、それでは結果が変わらずつまらない気がしたのだ。
 宇宙人が待っている。あまり時間はない。メリーは内心焦ったが、咄嗟に宇宙人を待つまでの暇つぶしに読んでいた本のことを思い出した。それを鞄から取り出し開けて宇宙人に見せた。
「こういう本を開いたとき、偶数ページがある方が右です」
 見せた後で、メリーはしまったと思った。もし彼が宇宙人なら数字が読めるとは限らないのだ。
「アリガトウ、ワカリマシタ」
 しかし、無事に伝わったようだった。そして去り際に黒い箱のような物を彼はメリーに渡した。
「これは?」
「オレイデス。ワタシノホシノジショデスヨ」
 そうして大通りに向かって歩く宇宙人の背中をメリーは見つめていた。彼は今回も右折時に地面に埋没するのだろうか。
 結論としては逆だった。
「ホンノグウスウガミギ……」
 彼は大通りに入ると浮かび上がり、そのまま天高く飛び去っていった。


***


 例会をすっぽかすというのは互いに時々あるからそれ自体は蓮子も特に気にしてなかったのだが、一応とメリーの家に来た蓮子はもう少しだけ面倒な事態になっているのだと理解した。
 メリーの家の天井から細い線が伸びていた。上端は雲の高さに到達してるようだ。
「宇宙人さんの本は上開きなのよ」
 下端はメリーの部屋で、彼女は今それを読み耽っているとのことだった。曰く、今五百ページ目くらいらしい。
応募期間4/21~4/27のコピー本合同誌という企画をしている方がいて、そこに持ち込もうとしたが字数制限1000字前後のところ2000字オーバーで没になった作品二つです。字数制限を考えると不条理な変な話にして迅速にオチにしたほうがいいというのは考えていてその方向性で書いたので別々の話なのになんか似ているわけです

ちなみにこの二つを書いた後に三本目を書き、これが無事1000字程度に収まって提出したので合同の方でもこの二本とは特に関係のない私名義の作品があるものと思われます。「ひ16a」で頒布されるはずです。多分

おまけ:『右』で出てきた左右の定義の話
https://web.quizknock.com/migiisnani
東ノ目
https://x.com/Shino_eyes
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.簡易評価なし
1.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
2.100名前が無い程度の能力削除
おもしろかったです
すごいなあ