Coolier - 新生・東方創想話

小悪魔日記 第12話 ファンタスティックエンベロープ

2026/03/24 00:23:05
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 俗世から切り離された静寂の中を、彼岸の向こうから届くような蝉の鳴き声がただただ響く。
 常世虚構の境目さえ曖昧模糊な山道を、現世にこびりついた幻想の洗い残しがただただ歩く。

「場所はここで違いなし」

 ひとりごとのように呟いてパチュリー様が足を止めたのは、寂れた───どころか廃れうらぶれ朽ちてて、後は風化するを待つばかりといった、参拝客どころか幽的すらも近寄るまいと思わせる有り様のボロ神社でした。

 ようやっとの到着ですか。パチュリー様のお隣で足を止めた私はわざとらしく腰のあたりをひと揉み、あたりをぐるりと見渡しました。それで、こんな辺鄙なところになにがあるってんです。
 言いながら視線入力でコンタクトレンズ型デバイスによる探査をするも、その結果は私の目ン玉と同じくただのオンボロ神社しかないときた。

 そんな私をどのように思ったものか、小さな咳払いをして出来の悪い教え子をたしなめる教師のような視線をくれ、パチュリー様はおっしゃいました。

「またそんなオモチャに頼ってからに。よくないわ、そういうの。目に見えぬものを視よ、耳に聞こえぬものを聴け───これ魔法の根幹」

 形にはなく事象としても確認できぬ、云うならば《境界》というべきものがあるの。それがパチュリー様の言でした。

 《境界》ときた。なんぞ壁でもあるってんでしょうか? 魔力を灯した目を凝らせども、ディスプレイに表示された物理存在から霊的事象までを網羅する高次元探知機にも映るものなど何もなく、ただ視えるのはうらぶれた廃墟も同然の社のみ。耳に届くのはかしましいセミの鳴き声ばかり。

 仮に目を引くようなものがあったとするならせいぜいがとこ、世間様から見捨てられた神社に相応の珍妙な、つまりは微塵のありがたみもなさそうな御神体くらいなもんでしょうか。

 注連縄を巻かれた大きさ1メートルほどの八面体という、巨大な結晶体を思わせる見てくれした〈石のような物体〉。
 こいつを見たパチュリー様がなぜだかものすごくイヤそうな顔をなさっておいでなのだけは気になりました。

 普段日常の、それこそ表情筋が退化してるのではと疑いたくなるようなこの方にこんなお顔をさせるとは。あの御神体と称するのもおこがましい、しみったれた代物にゃそんなに御大層な曰く因縁でもあるというのでしょうか。

「あると言えばある、ないと言えばない」

 なんにせよ知らずにいればそれでいい程度のもんだから気にしないことよ。この方にしては珍しく歯切れの悪い言い様に引っかかるものがありましたが、余計な詮索をしたところで得られるものがあるとも思えない。つまらぬ好奇心は猫も小悪魔も殺すのだから、ここは沈黙の黄金をこそ採るべきでありましょう。

「そうしたがよかろ。どうせあと何百年くらいなら大人しくしているだろうもの」

 今のところ、ほとんど無害だそうで。

   ◇

 なぜに私どもがかような田舎、ともいえぬ僻地をうろついているのかといえば、ことは1週間ほど前に遡ります。

 光陰矢のごとしとはよく言ったもので、居候先の家主であらせられる『お嬢様』の気まぐれ的な思い付きにより、海を越えた極東の端っこに浮かぶひょろ長い国の片隅でしがみつくように存在するしょぼくれた木っ端妖怪達の掃き溜めとやらへのお引越し計画が決まってからいくばくかの時が経ちました。

 その間における私といえば、読書以外では動かさずに済むなら毛の一筋に細胞の一片ほども動かしたくないと公言してはばからぬ雇い主の手足耳目となって(一時的とはいえおつむを含めた身体の制御権を明け渡しもしたので文字通りの意味ですよ)東奔西走、土地の確保や関係各位との折衝、やり取り、仲介、雑事、使いっ走りなどをこなし、提供された情報を基にして“館を”引っ越すために必要な計算を《図書館》最深部のビッグコンピューターに放り込み、最適の引っ越し日時をはじき出すのにおおわらわ。

 お陰でここ最近ときたら夜も寝られず昼寝をし、食はみるみる細くなりおやつと間食が増え、やっぱりお腹が空くのはイヤなのでご飯はしっかりと食べるのを心がけ、引っ越したらしばらくの間はろくにショッピングも楽しめなくなりそうなのでスキマ時間ができるや街へと繰り出してお買い物やグルメに勤しんだりの明け暮れときたものです。ああ、忙しい忙しい。

 その日も雇い主ことパチュリー様への進捗報告を済ませた私は、本日4回目のおやつの時間にするべくお茶の準備にとりかかっておりました。
 淹れたての珈琲の薫りに鼻をくすぐられながら、巷で評判のケーキ屋さんで買った、大きな大きなホールケーキにフォークを突き立てようとしたところで、

「ここは喫食のための場所じゃあない。飲み食いしたけりゃ他所でせえ」

 少し離れた場所から、いつもの玉座型の椅子に腰掛けお手元の書籍───桂文楽全集だそうで───に目を落としたままのパチュリー様が冷ややかなお声を投げつけてきました。

 ……そうはおっしゃいますが、このお館は他に落ち着いてお茶や休憩をできるような場所がないので仕方がないじゃありませんか。

 ややばつの悪い声を絞り出しながらも、私は唇を尖らせずにはいられません。
 なにせたまのお休みで部屋にいても気まぐれにやってきたお嬢様に対戦ゲームの相手をしろと命ぜられるわ、運が悪い日は妹様とかち合って生きた心地もしなくなるわ、外出すれば門番さんに捕まって延々としたくもない世間話や愚痴に付き合わされるわ、役立たずの妖精共がおやつをかっぱらっていくわで、おちおち休憩もとれやしない。

「そういえば少し前に、“あいつ”がこの図書館にはゲームの攻略本も置いてないのかと文句を言ってたっけ。───遠因はあなたか」

 こちらだけが一方的に悪いわけじゃござんせん。それにここ最近は、お嬢様が人の部屋を勝手に物色してはゲームや漫画を持ち出していかれるので、パチュリー様から注意をしていただけませんか? まだ読んでいない本まで持っていかれては困ります。
 
「買い直せばいいじゃない。それくらいで財布が悲鳴を上げるような、けちな給金を出していたつもりはないが」

 屠殺場の家畜ばりに“ぶうぶう”と文句を垂れる私の気持ちなど斟酌もせず、パチュリー様は首元に鉈を振り下ろす職人のごとき容赦の無さで斬って捨てられます。
 まったくそこそこ程度には長く付き合いのある健気で可愛く優秀な弟子、兼使い魔へもちっと愛情を示していただきたい。

「仮に明日、火事でお気に入りの本が焼けちまっても、責めずにいてやるくらいの情はみせてやろうさ」

 あなたが指でも怪我したら明日から本読んでお茶が呑めねえ。路傍の石より興味なさげに言って、パチュリー様は書籍のページをめくられました。

「そんなことより〈引っ越し先〉への実地見学と下見は来週よ。ちゃんと準備はできているのかしら?」

 でしたら心配ご無用。来週といわず今すぐにでも出立が可能なくらいには整っておりますよ。えーと……なんでしたっけか。桃源郷?

「幻想郷」

 ああ、そんなでしたか。今や消えゆくばかりとなった幻想の駆け込み寺───もしくは投げ込み寺───に、また御大層な名前が付いたものです。
 しかしわざわざパチュリー様が玉体をお運びにならずともよろしいのでは? 直に見て回るにしても、今までのように私の身体を中継して“視れば”よいではないですか。

「今までと違って向こうさんの元締めと会うわけだからね。無礼失礼の種になるようなことはしたくないのさ」

 ありゃあ殴り合いをするにゃ、ちょいと面倒な相手だ。そうつぶやくパチュリー様は普段の鉄面皮をかなぐり捨て、お気に入りの本を開いたらゲジゲジでも挟まっていたかのようなお顔をなさっておいででした。
 この方にかような感情を抱かせる相手とはいかなるものか。百年単位の時を閲そうと、いっかな頭から小の字が取れる気配もない悪魔風情では想像もつきません。

 面倒事と厄介事が増えたり関わったりは嫌だなあと思いながら、私は大きく切り取ったケーキを頬張りました。

   ◇

 …………。

 それから1週間後、つまり現在に到るというわけで。

 ちょいと海を越えるのさえ難儀した時代と違い、どこで何をするのもはなはだ便利となった今の御時世にこれだけの時間がかかったのは、この一件に関係する〈向こう側〉の連中への顔見せ等による足止めをくらったがゆえ。それさえなけりゃ1日足らずで行って帰って終いにできたのですが、まったくメンツなり立場というのがあるお方々というやつは遠回りや面倒なことを好むもんです。

 何か見るべきところもない、あばら家の親戚がごとき境内に到着してからしばし経った頃合いで、背後から何者かが私達に声をかけてきました。
 半径数kmを網羅する私の知覚と各種探知・警戒システムに狂いが生じていないなら、つい先程までこの近辺には誰もいなけりゃ近寄ってくる者もいなかったはずなのですが。

 しかし私ら以外にもこんなしみったれ神社に御用のある方がおられるあたり、世の中、存外に物好きというやつはいるらしい。

 声のした方を振り返ると、そこには妙齢の女性が一人、日傘をさして佇んでいました。

 白磁の肌と黄金の髪で彩られた、豪奢な美貌と肢体を紫サテンの豪奢なドレスに身を包む、女。
 降りしきる陽光の下にあってさえ、闇が育み磨き抜いた清純と汚濁を消しきれぬ、女。
 童女のあどけなさと毒婦の妖艶が同居する、掴みどころはおろか今そこにいるという現実感すらあやふやな、女。

 たんぽぽの綿毛のようにふわりと笑うその姿は、さながら夢の佳人が現し世に抜け出てきたかのようでさえありました。悪夢もまた夢には違いないけれど。

 老若男女の別なく見るものを蕩けさせるほどの美しい面に、決して心を許せぬ微笑みがへばりつく彼女こそ、今回の仕掛けの片棒をかつぐ〈会社〉から派遣されてきた案内役兼・アームワーカー(現場監督のようなものだと思っていただきたい)。

 その名を『YY』。

 偽名というのもばからしいお名前ですが、あの会社の連中はどいつもこいつもこんな名乗りをする輩ばっかりなので、気にするのは野暮というより不毛です。

 優雅な所作で一礼したYY嬢は、遠路はるばるこんなうらぶれ神社までやって来たことへの謝辞を述べました。
 頭に『小』が付くちんけな悪魔としましては、一文の得にもならない百千万の金言よりも一杯のお茶とお茶請けのがありがたいのですが、主を差し置き余計な口を叩くわけにもいかぬのでここはじっと我慢の子。丁寧な礼を返す主にならい、役に立つ方のメイド(一人しかいないけど)から教わったカーテシーなども添えて慇懃に挨拶を返してみせます。
 
 挨拶の後、ひとくさりの内容空虚無味乾燥冗長迂遠な会話を楽しんだという体で流してから、私達は本題に移ることとなりました。

「では、そろそろ〈あちら〉に移動するための手続きを行わせていただきたいが、よろしいか」

 パチュリー様からの要請に、YY氏はうさんくさい笑みを深めて頷き───


 転瞬、世界が替わった。


 別に何かが変わったわけではないのですが、それでも明確に“なにか”違っているとでも言えばよいのでしょうか。
 強いて近いものを挙げるなら例の役に立つ方のメイドが手慰みに作る異相空間に足突っ込んだときの感覚ですが、変容変質を旨とするがゆえに明確な違和感を覚えるあれとは根っこのところから似て非なる、自然に受け入れられながらも物事の表裏左右がひっくり返ったようなこれはなんでしょう。

「つまりはこれが“境目を越える”ということ。空気をよく嗅いでみなさい」

 パチュリー様に言われて私は“すんすん”と鼻をひくつかせました。
 ……? なんです、これ。嗅覚とはまた別の、魔法使いの弟子としての感覚へ訴えるにおいに、私は眉をひそめずにはいられませんでした。

「古い時代のものよ。幻想が廃れることなく当たり前に跋扈していた時代。〈外〉では失われて久しいそれがここには完全な形で、すなわちごくありふれたものとして流れている」

 かつてのパチュリー様のお住まいと同じく、時空間から隔離された土地ってことですか。

「大きく違う。境目によって区切られているだけで何か阻むものがあるでも、まして世界から切り取られているわけでもなし。〈異界〉を創り、あるいは〈向こう側〉へ渡り繋げる術や法は数あれど、現世にしっかと組み込まれながら袂を分かつものは限られる。結界とはつまりそういうことだが……これだけのものを視るのは私も初めてよ」

 ざっと見渡しても果てが視えん。パチュリー様の言を信じるならこの結界とやら、私ごときでは計り知れぬスケールであるようですが、いかな大妖怪といえどそんな規模で陣を張るのは不可能では?

「以前、〈会社〉の連中に提供された論理迷宮に近い技術なんでしょうね。私にとっては無用の長物に等しいが、扱い方によってはこうなるってことか」

 いくらの感嘆を込めてつぶやいたパチュリー様は相も変わらぬうさんくさい笑みをたたえる案内役へと声をかけ、引っ越しにおける諸々の契約の履行とその誓約書へのサインをなされました。

   ◇

 当座のやり取りを済ませた私達は神社の境内(そういえばいつの間にか廃屋まがいのボロ神社がちょっと寂れた程度の古神社くらいに格上げされてました)を後にし、山道というのもおこがましい獣道を抜けて目的地こと、引っ越し先として確保した土地に向かいました。

 なお案内役であると同時に監視役でもあるYY氏ですが、彼女は用が済んだら声をかけていただければ結構とだけ言って神社に残られています。
 声云々は喩えではなく、文字通りに名前なりを呼べばいつでもどこでもやって来れるということだそうで。ものすごい地獄耳なんですかね?

 四半刻ほどを歩き、こちらに来たときには存在していなかったはずの妙にでかい湖へ到着した私達は、さらに一刻ばかりの時間をかけて湖をうろつきました。
 別に観光がてらのお散歩を楽しんでるというわけではなく、お引越しのために必要な工事を執り行うために確保した土地の計測をしているのです。
 必要な器材はパチュリー様の頭脳、そしてお体に内蔵された複数の補助電脳でまかない、それを同期した私のデバイスによってサポートするわけです。

 そうやってしばらくすると、

「見つけた」

 探り当てた三つの地点───それらを結んで上から俯瞰すると、万分の一度の狂いすらない正三角形を描いているのがわかったことでしょう───それぞれに、パチュリー様は懐から取り出したものを埋め込んでいきました。

 大きさはドラム缶くらいの円柱状。花崗岩と思しき表面には余計な凹凸も傷もないそれは、水にでも沈み込むような様子でするすると土中に埋まっていく。

 〈石〉を埋め終わったパチュリー様がその場を離れて数秒後、そこには光を通さぬ飾り窓に上から下まで真っ赤に染め上げられた目ン玉と心に優しくない色合いの巨大な城館───つまり私らが居候しているお嬢様のお屋敷が音もなく現れておりました。

「これでおしまい。後は予定時刻になるのを待てばよし」

 ああ、疲れた疲れた。パチュリー様はなんの感情も含まぬ声で、建設重機にぶん殴られようとかすり傷さえ負わぬお肩を大儀そうに叩かれました。

 先程からの“これ”がなんの足しになるものかといえば、まさにこれこそが私どもが〈こちら側〉へ引っ越すために必要な仕込みとなるのです。
 当たり前と言われりゃ当たり前なのですが、お引越しひとつとっても幻想の住民による“それ”は真っ当な界隈を歩む方々の“それ”と異なるもので。

 まして常識の根付いた現世とは違う、幻想と怪奇が幅を利かせる土地ともなれば、お引越し屋さんへの電話一本で済ませられるわけもなく。
 〈こちら側〉(現世)から〈向こう側〉(幻想)への切り替えを含めた、儀式としてのお引越しが必要となるのです。

 そして今、私どもが仕込んだのはいわゆるマリー・セレスト号事件やリスボン町民消滅事件等でも知られる〈フォーティアン現象〉と呼ばれるもの───こちらの国では〈神隠し〉という名前で知られた現象ですね───を人為的に起こすことによるセレステイオ=メタセシス、つまりは相互物質交換を行うための下準備なのです。

 たとえば今、私らの目の前にそびえ立つのは本物のお屋敷ではなくその蜃気楼、ただしほんの僅かな誤差もない完全に完璧な実物大の蜃気楼。なれば幻といえど確かな存在としての重みが宿る。『そこに在る』という辻褄としての重みが。

 当然、先の〈石〉もただの石にあらず。
 私どもの専門とする分野における〈石〉とは天地のエネルギーを導き、蓄積し、放出する貴重なメカニズムのひとつ。設置された石は同様にお屋敷の根幹をなす要素を保存したものであり、お引越しの当日には〈こちら〉に設置された石が記憶した情報を励起、蜃気楼を設計図としてお屋敷の存在情報が顕現し、時を同じくして〈あちら〉───つまりは現世に存在する本来のお屋敷が同期して入れ替わるというからくりです。原理と動作に関してはちょいとばかり前に、プレアデス星団の宇宙人を称する阿呆を実験台にして確認済み。

 そんなしち面倒なことをせんでも魔法一発のちちんぷいぷいで済ませりゃよかろうと思われそうですが、いかな熟達の魔法使いとその弟子といえど万能というわけでもなし。
 ましてこれほどの霊的質量を伴ったデカブツを魔法だけで無理くりに転移させようものなら、運が良くて*いしのなかにいる*、悪けりゃ転移先の物質と混ぜ込まれて『どかん』と逝っちまうときては、多少の迂遠を承知で安全策を採りたくもなるというものです。

 それにこれだって言葉にすれば簡単ですが、起動の時間と場所が万分の一秒、億分の一nmでもズレたが最後、私らも消失事件の哀れな被害者として〈こちら側〉から抹消されてしまうので大変なのにかわりなく。我らが魔法工房の誇る、未来予知さえ可能とする超電子頭脳の力添えがなければ実行の日取りはさらに大きくずれ込んだことでありましょう。

 ……正味の話、人だけ引っ越すならこんなしち面倒なことをせんでもよいのですが、お嬢様があんなド田舎のちんけな住まいはイヤじゃあとワガママおっしゃるのでこれもまた仕方がなし。
 パチュリー様も口ではなんと言われようがお嬢様には甘いので、かくも二重三重の手間と暇をかけた作業と相成るわけです。げに麗しき友の情。

 必要な作業も終わったので、パチュリー様はここには居られぬ例の案内役ことYY氏へ声をかけました。

 返事は間髪をいれずにやってきました。私が瞬きひとつしている間にYY氏がすぐ目の前にいらっしゃっている。
 高次元スキャナーによる探査によれば魔法をや術を介したテレポートやアポーツの形跡も、まして空間をはじめとした物理的なゆらぎも確認できないのですが、これもまた彼女の保有する技術か能力なのでしょうか?

 パチュリー様が作業の終わりと協力への感謝を手短に告げ、それを受けたYY氏が薄ら寒くなるような微笑みを寄越すや、〈こちら〉に来たときと同じく世界が“替わり”、私達は例のしょぼくれ神社の境内に突っ立っている自分を発見したのでした。

 辺りを見回すと、うさんくさい笑みを浮かべた女の姿なぞ最初からいなかったかのように消え失せており、呆れたことに時間も数分と経ってはいないときた。
 おそらくですがデバイスの履歴を覗いても〈あちら〉での活動は一切、記録されてはいないことでしょう。

 なんですか、こりゃ。狐にでも化かされたんですかね。私が眉をしかめていると、パチュリー様はか細い首を“しずしず”と横に振られました。

「心配はいらない。狐狸の類も確かにいようが、さすがにアレは騙るにゃ荷が勝ちすぎる。……そんなことよりさっさと帰りましょう」

 用が終わったのなら、これ以上は外になんぞいたくもない。忌々しさもあらわに咳き込んでからパチュリー様は踵を返され、私も慌ててその後を追います。
 そうですね。私もお嬢様からのおつかいを言付かっておりますし、そちらの用事を済ませにゃなりませんから。

「うん? あいつが貴方に何の用があったというの」

 いえね、前に持っていかれたゲームの続編と攻略本を買ってこいと言われてるんですよ。必要経費で落ちるんですかね、これ。
登場人物

小悪魔

宇宙人は多摩能美須磨流を名乗っていたそうな

パチュリー・ノーレッジ

帰宅後もう二度と外になんて出ねぇと言い絶対物理防壁まで張って引きこもった

お嬢様

最近のお気に入りは鞭使いの筋肉がイケオジ吸血鬼をボコボコにするゲームなんだと



乗っ取られているのか本人なのかは勝手に考えるがよろしい
puripoti
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