地獄。それは閻魔と鬼、妖怪たちが管理する、悪人を閉じ込める監獄。阿鼻叫喚の絶えない、苦しみと熱気にまみれた場所。
そんなイメージのある地獄だが、実際はあまりにも広大で光の差さない場所であるため、静寂と暗闇が広がるだけ虚無である。また、繁華街や地霊殿のある旧地獄と分けて、新地獄とも呼ばれたりもする。
そんな暗闇の中を、一本の閃光が飛び去っていく。音もなく、迷いもなく、ただ一直線に駆け抜けていく。
本来ならどこかへ向かうためには案内人が必須のはずの地獄を、何度も通った見慣れた道のように飛び出していく閃光の先には、一人の少女の姿があった。
黒いとんがり帽子に黒い服とスカート、箒にまたがるイメージ通りの彼女は霧雨魔理沙。ごく普通の魔法使いが、地獄の黒い空を飛んでいた。
「そろそろだな。休憩終わり、本番スタートだ」
魔理沙がぽつりとつぶやくと、示し合わせたかのようにぬうっと暗闇から紫色の人影が現れる。この広大な地獄の案内人、豫母都日狭美だ。
「ああ、また貴方ですか……。何度ここに来れば気が済むんです?」
「お前! 動くな!」
「は、はい!?」
出てきて突然大声を出されて怯む日狭美を構うことなく、魔理沙は彼女の頭の花のような飾りを凝視する。
「お前に動かれると大幅にタイムをロスするんだ。さっさと出てってやるから、良いって言うまで頭動かすなよ?」
「そう言われると反抗したくなりますねえ……。私、貴方が頻繁に入ってくるから、下手に地獄を調べられないよう追い出せと残無様に命じられているんですよ」
「別に地獄なんかに用はない。毎回私を地獄送りにする玉の方を調べてるだけだ」
「別に私は興味ないですし、このまま分からなければ叱られるからいいんですが……。いつも私のマスクを見て何をしていますの?」
本人しか分からないある一点を探しながら、魔理沙は日狭美の質問に答える。
「次の場所へ進むための方向の微調整だ。お前の頭の花? 一番上の花びらの中心から右に9ピクセル……じゃなかった、指三本分身体を向ける。……よし、もう良いぞ。退いてくれ」
「私ただの目印ですか? ぞんざいな扱い……。でも、それもちょっと良いかも……」
「相変わらず変な趣味してるな。じゃ、またな」
くねくねと悶える日狭美をスルーして、魔理沙は再び全速力で飛び出していく。
周りはほぼ暗闇、目印になりそうなものはなく、一面同じ景色で虚無のような洞窟を、魔理沙は迷いなく突き進む。
ただ、その手には懐中時計が握られていた。その懐中時計は時刻を見るためではなく、時間を計るストップウォッチ用の時計だった。
「……3、2、1、ここだ!」
時間を見ながらある秒数になった瞬間、魔理沙は箒に急ブレーキをかける。
慣性を押さえつけ、ぴったり止まった地点から、今度はまっすぐ慎重に向いている方向を保ちながら地面に降り立つ。
「よし、ここで次のセットアップ。前に13、45度左に大股10、そこから右に直角15歩、からの全力で真上に飛ぶ!」
呪文のような手順を反芻しながら、素早く移動してすぐに箒で急上昇し始める。
しばらく飛び続けるが、何かが見えてくる気配はない。しかし魔理沙は焦ることはなく、むしろ落ち着いた様子で用意していた水筒の水を飲む。
この上昇中の時間は、魔理沙にとって休憩時間でもあった。冷たい水で心を落ち着けるが、すぐに顔は渋くなる。
「良い調子で来られたな。ただ、この先お祈りポイントだからなぁ……。ま、異変解決もしてるし、徳は積んでる方だろ。へーき、へーき」
前向きになって顔を上げた魔理沙の目に、ぽつん、と小さな人影が遠くに現れた。
その小さな点を魔理沙は二度見した。近づいてくるそれは、しっかり人の形に大きくなっていく。
地獄で移動中に人影に会うことはほぼない。だが、魔理沙が二度見するほど驚いたのは別の理由だった。
「なんでこの道に誰かいる!? ここで何かにエンカウントするなんて予定にないぞ!」
思わず心の声が出るほどに焦っていた。なぜならこれは今まで一度も起きたことがない事態。
タイムアタックにおける、走者にとって最も恐ろしい存在、本番の魔物。これまで一度も起きることがなかったイレギュラー。豫母都日狭美が再び目の前に現れた。
「どうも、またお会いしましたわね」
「なんでお前がここに!? いつも出てきたことなかっただろ!」
「先ほど私、貴方を追い出せと残無様から仰せつかっていると言いましたわよね?」
「じゃあ問題ないだろ。私はここをいかに早く出て行けるか挑戦してるんだ、お前の職務を手伝ってやるよ!」
魔理沙が横を通り過ぎると、日狭美はにやりと笑って魔理沙の背に向けて弾幕を放ち始めた。
「なんで目的が同じなのに邪魔されるんだよ!?」
「いつ、目的が同じだと言いました? 私たちの目的は正反対です」
後ろからの弾幕を掻い潜りながら、魔理沙は日狭美の話に耳を向ける。
「貴方を引き留めれば残無様の命に背く。つまりそれは、残無様に叱られるということ! ならばそうする!」
「何でだよ、意味わかんないぞ! 怒られたいのかお前は!?」
「そうです! あの冷たい視線、最近は静かに蔑んできますが、それもまたいい! そういうわけで、まだまだ長居していただきます!」
「くそ、やっぱりここは地獄だな! ろくな奴がいない!」
極力出口まで曲がることがないほど早くたどり着くが、弾幕がそうさせてくれない。弾幕を避けるたびに時間を失う。しかし当たれば速度が落ちて、より多くの時間を失う。そもそも怪我もする。
どう足掻いても時間を失うこの状況で、魔理沙はいかに最速でゴールに向かうかを考え続ける。
「むぅ……。やりたくはないが、仕方ないか!」
短い舌打ちと共に、魔理沙は覚悟を決めた。
そして後ろから迫ってくる弾幕を避けることなく、そのまま被弾した。衝撃で視界がぶれるが、箒の進路だけは絶対に、ほんの数ミリすら曲げることはしなかった。
「よし! ……あら? 今、本当に当たりまして?」
「いったぁ……当たってるよ、しっかりな!」
「だったら少しくらい減速しても良いはずです。それで足りないなら……増やすまで!」
「いいさ、来いよ! 避けるなんて数秒のロスももったいない。被弾の衝撃でも何でも利用して、加速してやる!」
日狭美の弾幕が激しさを増す。そして被弾の数も増えていく。
帽子も服も、箒もボロボロの満身創痍。それでも魔理沙はひたすらに直進し続ける。絶対にゴールまで最短の経路を通り続けると体現していた。
「なぜ避けようともせず……。そんな被弾してまで帰りたいのですか!?」
「ただ帰りたいんじゃない、最速で帰りたいんだ。タイムは命より重い、死ぬまで直進する!」
「なんという執念……。ですが、私もそれほど、叱られたい!」
何かに追いすがることは、日狭美の最も得意とするところであり、それは弾幕にも現れていた。
後ろから追いかけるように放たれる弾幕は、的確に魔理沙を捉えてダメージを与えていく。
それでも魔理沙は止まらない。ようやく見え始めた出口の光が、より一層魔理沙の速度を上げていく。
自己ベスト更新、たったそれだけの気持ちが弾幕に耐え、振り切るだけの力を与えていた。
「だめ、この私でも追いつけない……! 邪魔をしても、普通に早く帰るのと変わらない程度の滞在時間……!」
「いける、いけるぞ……! あの出口を超えた瞬間がタイマーストップだ!」
片手に時計を持ち、時間を止める瞬間を逃さないよう構える。そして、魔理沙は光の中へ消えていった。
「よっしゃ、タイマーストップ、だああああ!?」
光の先は魔理沙の自宅、それも室内。最高速で部屋に突入すれば当然、部屋に積まれた本やガラクタに激突する。
「うわ、びっくりした! ……ボロボロだけど、大丈夫ではあるみたいね。お疲れ、魔理沙」
ガラクタの山から埋もれた服を引っ張り上げるように、三頭慧ノ子は魔理沙のことを雑に引っ張り出す。
「もっと優しく扱ってくれ……。そうだ、時計は!? タイムは!?」
「時計なら、私のとこまで飛んできたよ。どれどれ……」
カチリと慧ノ子が懐中時計の蓋を開ける。ゴクリと魔理沙は喉を鳴らして結果を待つ。
「結果は……24分09秒、記録更新!」
「いよっし! ようやく私のチャート、じゃなくて理論は証明された!」
自然とガッツポーズをとっても魔理沙がはしゃぐ。誰が見ても分かる、心から喜んでいる様子に慧ノ子も自然に笑顔になる。
「嬉しそうだねえ。完走した感想は?」
「今回は出口前の直線で、初めて日狭美から妨害を受けたんだ。それでも序盤調子よかったおかげで新記録が出せたんで満足だよ」
「24分だっけ? 地獄から脱出できる最速の時間まで、あとちょっとだね」
「ああ。あの宝玉、未だに地獄に転送されることしか分からないが、おかげで脱出経路は完全に把握できた。これで地獄に落とされても怖くないな」
「地獄行きになるような人生を歩まない方が大事だと思うけどね」
記録更新に満足していた魔理沙だったが、感想を言うとすぐに崩れた本の山の中から1冊のノートを取り出し、机に向かってペンを取る。
「何書いてるの?」
「今回の記録と、何が起きたかをメモっておくんだ。本来の目的はこの宝玉の調査だからな。脱出も含めて、全部観察記録ってわけさ」
「私のお願い、忘れられてなかったんだ」
「まあ、進展はないけどな。もう転送装置ってことでいい気がするよ」
でもまあ、と言って魔理沙は慧ノ子に向き直る。
「約束はしたからな。ちゃんと調査するから、もう少し待っててくれよ」
「魔理沙、ずいぶん頼もしくなっちゃって……。森で泣いてた頃が懐かしいよ」
「いつの話してんだ? お前が言い出すまで忘れてたくらい昔の話だろ」
「そうだねえ。人間ってのは成長が早いもんねえ、よしよし」
「頭をなでるな。ほら、今日は疲れたんだから、メモしたら休ませてくれ」
そう言っても、慧ノ子は頭をなでることを止めようとしなかった。魔理沙もなでられるまま、机に向き直ってメモを書き続ける。
記録更新のお祝いとしては悪くない、そう思いながら魔理沙は喜びの余韻に浸っていた。
そんなイメージのある地獄だが、実際はあまりにも広大で光の差さない場所であるため、静寂と暗闇が広がるだけ虚無である。また、繁華街や地霊殿のある旧地獄と分けて、新地獄とも呼ばれたりもする。
そんな暗闇の中を、一本の閃光が飛び去っていく。音もなく、迷いもなく、ただ一直線に駆け抜けていく。
本来ならどこかへ向かうためには案内人が必須のはずの地獄を、何度も通った見慣れた道のように飛び出していく閃光の先には、一人の少女の姿があった。
黒いとんがり帽子に黒い服とスカート、箒にまたがるイメージ通りの彼女は霧雨魔理沙。ごく普通の魔法使いが、地獄の黒い空を飛んでいた。
「そろそろだな。休憩終わり、本番スタートだ」
魔理沙がぽつりとつぶやくと、示し合わせたかのようにぬうっと暗闇から紫色の人影が現れる。この広大な地獄の案内人、豫母都日狭美だ。
「ああ、また貴方ですか……。何度ここに来れば気が済むんです?」
「お前! 動くな!」
「は、はい!?」
出てきて突然大声を出されて怯む日狭美を構うことなく、魔理沙は彼女の頭の花のような飾りを凝視する。
「お前に動かれると大幅にタイムをロスするんだ。さっさと出てってやるから、良いって言うまで頭動かすなよ?」
「そう言われると反抗したくなりますねえ……。私、貴方が頻繁に入ってくるから、下手に地獄を調べられないよう追い出せと残無様に命じられているんですよ」
「別に地獄なんかに用はない。毎回私を地獄送りにする玉の方を調べてるだけだ」
「別に私は興味ないですし、このまま分からなければ叱られるからいいんですが……。いつも私のマスクを見て何をしていますの?」
本人しか分からないある一点を探しながら、魔理沙は日狭美の質問に答える。
「次の場所へ進むための方向の微調整だ。お前の頭の花? 一番上の花びらの中心から右に9ピクセル……じゃなかった、指三本分身体を向ける。……よし、もう良いぞ。退いてくれ」
「私ただの目印ですか? ぞんざいな扱い……。でも、それもちょっと良いかも……」
「相変わらず変な趣味してるな。じゃ、またな」
くねくねと悶える日狭美をスルーして、魔理沙は再び全速力で飛び出していく。
周りはほぼ暗闇、目印になりそうなものはなく、一面同じ景色で虚無のような洞窟を、魔理沙は迷いなく突き進む。
ただ、その手には懐中時計が握られていた。その懐中時計は時刻を見るためではなく、時間を計るストップウォッチ用の時計だった。
「……3、2、1、ここだ!」
時間を見ながらある秒数になった瞬間、魔理沙は箒に急ブレーキをかける。
慣性を押さえつけ、ぴったり止まった地点から、今度はまっすぐ慎重に向いている方向を保ちながら地面に降り立つ。
「よし、ここで次のセットアップ。前に13、45度左に大股10、そこから右に直角15歩、からの全力で真上に飛ぶ!」
呪文のような手順を反芻しながら、素早く移動してすぐに箒で急上昇し始める。
しばらく飛び続けるが、何かが見えてくる気配はない。しかし魔理沙は焦ることはなく、むしろ落ち着いた様子で用意していた水筒の水を飲む。
この上昇中の時間は、魔理沙にとって休憩時間でもあった。冷たい水で心を落ち着けるが、すぐに顔は渋くなる。
「良い調子で来られたな。ただ、この先お祈りポイントだからなぁ……。ま、異変解決もしてるし、徳は積んでる方だろ。へーき、へーき」
前向きになって顔を上げた魔理沙の目に、ぽつん、と小さな人影が遠くに現れた。
その小さな点を魔理沙は二度見した。近づいてくるそれは、しっかり人の形に大きくなっていく。
地獄で移動中に人影に会うことはほぼない。だが、魔理沙が二度見するほど驚いたのは別の理由だった。
「なんでこの道に誰かいる!? ここで何かにエンカウントするなんて予定にないぞ!」
思わず心の声が出るほどに焦っていた。なぜならこれは今まで一度も起きたことがない事態。
タイムアタックにおける、走者にとって最も恐ろしい存在、本番の魔物。これまで一度も起きることがなかったイレギュラー。豫母都日狭美が再び目の前に現れた。
「どうも、またお会いしましたわね」
「なんでお前がここに!? いつも出てきたことなかっただろ!」
「先ほど私、貴方を追い出せと残無様から仰せつかっていると言いましたわよね?」
「じゃあ問題ないだろ。私はここをいかに早く出て行けるか挑戦してるんだ、お前の職務を手伝ってやるよ!」
魔理沙が横を通り過ぎると、日狭美はにやりと笑って魔理沙の背に向けて弾幕を放ち始めた。
「なんで目的が同じなのに邪魔されるんだよ!?」
「いつ、目的が同じだと言いました? 私たちの目的は正反対です」
後ろからの弾幕を掻い潜りながら、魔理沙は日狭美の話に耳を向ける。
「貴方を引き留めれば残無様の命に背く。つまりそれは、残無様に叱られるということ! ならばそうする!」
「何でだよ、意味わかんないぞ! 怒られたいのかお前は!?」
「そうです! あの冷たい視線、最近は静かに蔑んできますが、それもまたいい! そういうわけで、まだまだ長居していただきます!」
「くそ、やっぱりここは地獄だな! ろくな奴がいない!」
極力出口まで曲がることがないほど早くたどり着くが、弾幕がそうさせてくれない。弾幕を避けるたびに時間を失う。しかし当たれば速度が落ちて、より多くの時間を失う。そもそも怪我もする。
どう足掻いても時間を失うこの状況で、魔理沙はいかに最速でゴールに向かうかを考え続ける。
「むぅ……。やりたくはないが、仕方ないか!」
短い舌打ちと共に、魔理沙は覚悟を決めた。
そして後ろから迫ってくる弾幕を避けることなく、そのまま被弾した。衝撃で視界がぶれるが、箒の進路だけは絶対に、ほんの数ミリすら曲げることはしなかった。
「よし! ……あら? 今、本当に当たりまして?」
「いったぁ……当たってるよ、しっかりな!」
「だったら少しくらい減速しても良いはずです。それで足りないなら……増やすまで!」
「いいさ、来いよ! 避けるなんて数秒のロスももったいない。被弾の衝撃でも何でも利用して、加速してやる!」
日狭美の弾幕が激しさを増す。そして被弾の数も増えていく。
帽子も服も、箒もボロボロの満身創痍。それでも魔理沙はひたすらに直進し続ける。絶対にゴールまで最短の経路を通り続けると体現していた。
「なぜ避けようともせず……。そんな被弾してまで帰りたいのですか!?」
「ただ帰りたいんじゃない、最速で帰りたいんだ。タイムは命より重い、死ぬまで直進する!」
「なんという執念……。ですが、私もそれほど、叱られたい!」
何かに追いすがることは、日狭美の最も得意とするところであり、それは弾幕にも現れていた。
後ろから追いかけるように放たれる弾幕は、的確に魔理沙を捉えてダメージを与えていく。
それでも魔理沙は止まらない。ようやく見え始めた出口の光が、より一層魔理沙の速度を上げていく。
自己ベスト更新、たったそれだけの気持ちが弾幕に耐え、振り切るだけの力を与えていた。
「だめ、この私でも追いつけない……! 邪魔をしても、普通に早く帰るのと変わらない程度の滞在時間……!」
「いける、いけるぞ……! あの出口を超えた瞬間がタイマーストップだ!」
片手に時計を持ち、時間を止める瞬間を逃さないよう構える。そして、魔理沙は光の中へ消えていった。
「よっしゃ、タイマーストップ、だああああ!?」
光の先は魔理沙の自宅、それも室内。最高速で部屋に突入すれば当然、部屋に積まれた本やガラクタに激突する。
「うわ、びっくりした! ……ボロボロだけど、大丈夫ではあるみたいね。お疲れ、魔理沙」
ガラクタの山から埋もれた服を引っ張り上げるように、三頭慧ノ子は魔理沙のことを雑に引っ張り出す。
「もっと優しく扱ってくれ……。そうだ、時計は!? タイムは!?」
「時計なら、私のとこまで飛んできたよ。どれどれ……」
カチリと慧ノ子が懐中時計の蓋を開ける。ゴクリと魔理沙は喉を鳴らして結果を待つ。
「結果は……24分09秒、記録更新!」
「いよっし! ようやく私のチャート、じゃなくて理論は証明された!」
自然とガッツポーズをとっても魔理沙がはしゃぐ。誰が見ても分かる、心から喜んでいる様子に慧ノ子も自然に笑顔になる。
「嬉しそうだねえ。完走した感想は?」
「今回は出口前の直線で、初めて日狭美から妨害を受けたんだ。それでも序盤調子よかったおかげで新記録が出せたんで満足だよ」
「24分だっけ? 地獄から脱出できる最速の時間まで、あとちょっとだね」
「ああ。あの宝玉、未だに地獄に転送されることしか分からないが、おかげで脱出経路は完全に把握できた。これで地獄に落とされても怖くないな」
「地獄行きになるような人生を歩まない方が大事だと思うけどね」
記録更新に満足していた魔理沙だったが、感想を言うとすぐに崩れた本の山の中から1冊のノートを取り出し、机に向かってペンを取る。
「何書いてるの?」
「今回の記録と、何が起きたかをメモっておくんだ。本来の目的はこの宝玉の調査だからな。脱出も含めて、全部観察記録ってわけさ」
「私のお願い、忘れられてなかったんだ」
「まあ、進展はないけどな。もう転送装置ってことでいい気がするよ」
でもまあ、と言って魔理沙は慧ノ子に向き直る。
「約束はしたからな。ちゃんと調査するから、もう少し待っててくれよ」
「魔理沙、ずいぶん頼もしくなっちゃって……。森で泣いてた頃が懐かしいよ」
「いつの話してんだ? お前が言い出すまで忘れてたくらい昔の話だろ」
「そうだねえ。人間ってのは成長が早いもんねえ、よしよし」
「頭をなでるな。ほら、今日は疲れたんだから、メモしたら休ませてくれ」
そう言っても、慧ノ子は頭をなでることを止めようとしなかった。魔理沙もなでられるまま、机に向き直ってメモを書き続ける。
記録更新のお祝いとしては悪くない、そう思いながら魔理沙は喜びの余韻に浸っていた。