紅魔館、基本的には庭先に侵入することすら許されない。にも関わらず、主の許可なくその敷地に足を踏み入れた慮外者がいたならば、それを即座に捕縛して、裁判抜きで即刻処刑することができるように、その門前には本来、館とその周辺を昼夜警備し続ける門番が1匹、常に配備されているはずだった。
犯人は正面玄関から侵入した。十六夜 咲夜が日用品の確保に出かける際、その動作が木編み籠を小脇に抱えた、鼻歌を歌いながらのルンルンスキップでの外出であったならば、彼女はおよそ20回に13回の確率で扉を施錠しないまま館の門を後にする。犯人がエントランスドアのノブを握った時、それは何の抵抗感も見せず外側へ開いた。
片側の扉を開き、館へ踏み入り、扉を閉めて、施錠した。
扉の施錠は逃走時の手間を増やすことを意味する。しかし犯人には犯行後にロスタイムが出ることよりもむしろ、その完遂までに外出中のメイド長が帰館して建物内に辿り着くことができることの方がずっと怖かった。
エントランスホール。左右に別館へ繋がる廊下が伸びて、正面に中央館1階に移る大扉がある。舞踏会をひらける大広間の両脇には2階へ続く階段と、さらにその脇に地下へと続く階段があった、犯人はまっすぐ地下へと降りた。
上面にアーチ型と縁取りの彫られた厚いオーク手すりに片手をかすめ、柔らかなレッドカーペットを素早く走り犯人は地下を降りて行く。角型のらせん階段を次々に降り、片開きの木製扉を次々に横切り、踊り場から階段へと降り続ける。
それら扉の向こうには紅魔館地下の図書館がある。しかし犯人は紅魔館地上階のすべての施設、資材と同じく、図書館の蔵書もその奥の薬品類もそこに生きる全てのひとびとにも興味はなかった。犯人の興味はもっと下にあった。
犯人は地下図書館再下階まで降りようとした。しかし残り数段で降り切るところで犯人は突然立ち止まった。エントランスホールの反対側の階段と合流する広い踊り場、その中央に両開きの木製扉があり片方がひとりでに開いた。そこから唐草模様の風呂敷包みを首から背負った霧雨 魔理沙がしめしめと現れて扉を閉め、犯人の方へと近づいてきた。しかし彼女は3歩目で立ち止まって犯人を見上げた。
犯人には想定外だった。あまりに急いで階段を降りたために彼女と接近していることに犯人は全く気付かなかった。再下階への最初の1段を踏み入れた時点では犯人が霧雨 魔理沙に気付くためには互いの距離が離れすぎていて、犯人が彼女の存在に気付いた時には、上階へ隠れて彼女をやり過ごすには、犯人は既に階段を降り過ぎていた。
「なにしてんだよ、おま、nん!っぐは!!」バタン
霧雨 魔理沙の目の前までひと飛びに接近して口を塞ぎ、犯人はまるで溜まりに溜まった何かをぶちまけるかのように、彼女の腹部に右の膝蹴りを叩き込んだ。
口を塞ぐ犯人の手を跳ねのける勢いで肺内の空気をすべて吐き出し、霧雨 魔理沙は全身をくの字に曲げて床に倒れた。犯人は息を整えながらそれを見降ろした。
それが霧雨 魔理沙であれ誰であれ、自身の存在を誰かに気付かれることは犯人にとって都合が悪かった。この緊急的な状況で犯人がとることが出来たのは、彼女を気絶させることだけだった。
「こらぁ!本返しなさい魔理s、っぐは!!」バタン
両開きの扉からパチュリー ノーレッジが飛び出して犯人を目撃した。それは都合が悪いことだった。犯人は彼女の口を塞いで、まるで溜りに溜まった何かをぶちまけるかのように彼女の腹部に右の膝蹴りを叩き込んだ。
パチュリー ノーレッジは息吐く間もなく全身をくの字に曲げて床に倒れた。犯人は呼吸も凍り付かせてそれを見降ろした。
「パチュリーさまぁ、たぁいへぇんですn、そ、そんな、、、っぐは!!」バタン
開け放たれた扉から小悪魔が現れて犯行現場を目撃した。小悪魔は全身をくの字に曲げて床に倒れた。犯人の呼吸はもう整っていた。犯人はしばしの間茫然と、自身の足元を見つめていた。
犯人はまずパチュリー ノーレッジの腰ひもからスチールリングにまとめられた真鍮の鍵の束を盗み取った。続いて小悪魔、パチュリー ノーレッジ、霧雨 魔理沙の順で被害者たちを図書館内へ引きずった。ちょうどいい大きさの箱型のブックチェストがあったためそれを開錠して蓋を開け、中にある本をすべて机に移して、犯人が引きずった順に変わり果てた少女たちをその中に積み重ねた。蓋を閉じてその鍵を施錠し、図書館をあとにしてその正面扉の鍵も施錠した。
犯人は1度深呼吸して振り返った。広大な踊り場の先に巨大な階段があり、さらに地下、さらに深くへと続いていた。
犯人の興味はもっと下にあった。
図書館よりももっと深くにある、地下巨大空間。
石造りの広大な通路だけがどこまでも続き、複雑に分岐し、入り組み、行き止まっている。たまに入り込んだ妖精が出られなくなり、今も彷徨い続ける個体や行き倒れて半透明になっている個体が所々に転がっている。照明は全くなく、数歩先は闇しか見えない。犯人は階段を降りてすぐの片隅に置かれたテーブルから燭台とマッチを取って、蝋燭を灯して奥へと進んだ。
この空間の正確な間取りを知っている者はほとんど、または1人もいない。犯人もその構造は分かっていない。しかしその経路は知らずとも、犯人は目当ての獲物がどにいるかは分かっていた。犯人は燭台の火が消えない速さを保ち、力強い足取りで通路を進んだ。
犯人は可能な限り目的地へ近づく方向へ道を選んだ。何度も分岐を間違え行き止まりに差し掛かり、何度も引き返して何度も道を間違えた。それでも犯人は着実に目的地まで接近し、1時間近くの時間をかけてとうとうある扉まで辿り着いた。精密に作られた片開きの扉。その縁からは少しも光が漏れていないが、ノブの下にある鍵穴から黄色い光が差し込んでいた。
犯人はその光を凝視した。ノブを握りぐるりとひねって前後した。その扉は施錠されていた。犯人はしゃがみ、前方後円型の鍵穴を蝋燭の光に当てながら見つめ、1ねじりの針金を懐から取り出してその中に挿し込んだ。犯人がこの扉を見るのは初めてだった。錠の形状、構造を知ったのも今が初めてで、当然その開錠法を考えたことも検証したこともなかった。しかし犯人はこの扉を開ける必要があった。まだ雪の降り積もらない頃に花壇の隅で拾い上げたその針金だけが今の犯人の希望だった。犯人は鍵穴とその向こうの部屋を何度も覗き込み、引き抜いた針金を成形し直し、何度も挿し直して、感覚を頼りに手首の力でそれをひねった。
ガチャリ
音が鳴った。犯人の目が輝いた。犯人は針金を挿したままノブをひねり手前に引いた。扉が開いた。
犯人は中に入り、扉を閉めた。施錠はできなかった。内側のドアノブ金具にはノブの他には鍵穴しかなく手動施錠ができるつまみは設けられていなかった。その扉は鍵による施錠と開錠しか受け付けない構造をしていた。
ゴシック アンド ネオクラシカルの内装、ぎっしり詰まった本棚が2つ、何も乗っていない化粧台とそれに据え付けられた円盤型の姿見、煙道のレンガ積みが壁から露出して、暖炉の炉口にくべられた数本の薪がカチカチと弾けながら赤い炎を噴いている。
テーブルの上には木彫りのトレイが乗っている。その上にはランチ代わりのケーキと紅茶が、純金のさじとフォーク、白磁のケーキ皿、ソーサー、カップに飲み残しの入ったポット、そして食べカスと茶渋だけを残して置かれている。
10畳あまりにまとめられた1人用の個室の中に、今犯人は辿り着いた。
ガチョウ羽詰めのマットをシーツと深紅の掛け布団で覆った木製フレームのシングルベッド。シーツはともかく掛け布団すら下敷きに、光沢艶やく黒い革靴すら履いたまま、1体の少女が羽らしからぬ骨ばった羽に身を包んでその上に横たわっていた。
深紅の布の上にあおむけになり、首だけ右に振り向いて、半開きの状態で枕元に寝かし付けられたマルキド サド全集に未だ右手を添えながら、フランドール スカーレットはそこで安らかな寝息をたてていた。
白いシャツのボタンが上から3つ外れている。無防備にもあらわになった胸元がその隙間から覗き込まれる。白く、しなやかで、堅いのか軟らかいのかよく分からない胸板あるいは柔肌が、その衣服の向こう側で、前に、後ろにと寝息にあわせて揺れ動いている。
犯人の呼吸が乱れた。犯人の目がいっそうギラギラ輝いた。犯人は半ば無意識に両手を伸ばした。
「ハァ、ハァ、妹様ぁ、会いたかったよぉ。ハァ、ハァ、いもうとさまぁ。」
犯人の興味は彼女にあった。
犯人は半ば無意識のうちに伸ばした両手でシャツを掴み、確固たる意志で4つ目のボタンを取り払った。犯人はボタンあるいはその向こう側を凝視していた。
ボーン。ボーン。ボーン。
その時、振り子時計が鳴った。板バネの先端に付いたハンマーが真鍮のぶ厚い打ち鐘を3回叩いた。
おやつの時間だった。
フランドール スカーレットが目を覚ました。そして彼女は両目を見た。自分の胸元を凝視する両目を見た。犯人の、フランドール スカーレットつまみ食い未遂の犯人、欲情した紅 美鈴の両目を見た。そして彼女は、その目に対して狙いを定めた。
瞬間、欲情した紅 美鈴は悟った。正確には悟る以外に何もできなかった。何かできる余裕なんてなく、そんな時間は存在しなかった。恐怖すらできなかった。そもそも間違えていた。欲情した紅 美鈴ごときがフランドール スカーレットに手を出すなんて間違いにも程があるのだった。
しかしその瞬間、欲情した紅 美鈴は間違いなく悟った。フランドール スカーレットが吸血鬼であるということを。
八意 永琳のカルテによると、永遠亭搬送時点での欲情した紅 美鈴の容態は「全治4年の軽症」だったという。
おわり
犯人は正面玄関から侵入した。十六夜 咲夜が日用品の確保に出かける際、その動作が木編み籠を小脇に抱えた、鼻歌を歌いながらのルンルンスキップでの外出であったならば、彼女はおよそ20回に13回の確率で扉を施錠しないまま館の門を後にする。犯人がエントランスドアのノブを握った時、それは何の抵抗感も見せず外側へ開いた。
片側の扉を開き、館へ踏み入り、扉を閉めて、施錠した。
扉の施錠は逃走時の手間を増やすことを意味する。しかし犯人には犯行後にロスタイムが出ることよりもむしろ、その完遂までに外出中のメイド長が帰館して建物内に辿り着くことができることの方がずっと怖かった。
エントランスホール。左右に別館へ繋がる廊下が伸びて、正面に中央館1階に移る大扉がある。舞踏会をひらける大広間の両脇には2階へ続く階段と、さらにその脇に地下へと続く階段があった、犯人はまっすぐ地下へと降りた。
上面にアーチ型と縁取りの彫られた厚いオーク手すりに片手をかすめ、柔らかなレッドカーペットを素早く走り犯人は地下を降りて行く。角型のらせん階段を次々に降り、片開きの木製扉を次々に横切り、踊り場から階段へと降り続ける。
それら扉の向こうには紅魔館地下の図書館がある。しかし犯人は紅魔館地上階のすべての施設、資材と同じく、図書館の蔵書もその奥の薬品類もそこに生きる全てのひとびとにも興味はなかった。犯人の興味はもっと下にあった。
犯人は地下図書館再下階まで降りようとした。しかし残り数段で降り切るところで犯人は突然立ち止まった。エントランスホールの反対側の階段と合流する広い踊り場、その中央に両開きの木製扉があり片方がひとりでに開いた。そこから唐草模様の風呂敷包みを首から背負った霧雨 魔理沙がしめしめと現れて扉を閉め、犯人の方へと近づいてきた。しかし彼女は3歩目で立ち止まって犯人を見上げた。
犯人には想定外だった。あまりに急いで階段を降りたために彼女と接近していることに犯人は全く気付かなかった。再下階への最初の1段を踏み入れた時点では犯人が霧雨 魔理沙に気付くためには互いの距離が離れすぎていて、犯人が彼女の存在に気付いた時には、上階へ隠れて彼女をやり過ごすには、犯人は既に階段を降り過ぎていた。
「なにしてんだよ、おま、nん!っぐは!!」バタン
霧雨 魔理沙の目の前までひと飛びに接近して口を塞ぎ、犯人はまるで溜まりに溜まった何かをぶちまけるかのように、彼女の腹部に右の膝蹴りを叩き込んだ。
口を塞ぐ犯人の手を跳ねのける勢いで肺内の空気をすべて吐き出し、霧雨 魔理沙は全身をくの字に曲げて床に倒れた。犯人は息を整えながらそれを見降ろした。
それが霧雨 魔理沙であれ誰であれ、自身の存在を誰かに気付かれることは犯人にとって都合が悪かった。この緊急的な状況で犯人がとることが出来たのは、彼女を気絶させることだけだった。
「こらぁ!本返しなさい魔理s、っぐは!!」バタン
両開きの扉からパチュリー ノーレッジが飛び出して犯人を目撃した。それは都合が悪いことだった。犯人は彼女の口を塞いで、まるで溜りに溜まった何かをぶちまけるかのように彼女の腹部に右の膝蹴りを叩き込んだ。
パチュリー ノーレッジは息吐く間もなく全身をくの字に曲げて床に倒れた。犯人は呼吸も凍り付かせてそれを見降ろした。
「パチュリーさまぁ、たぁいへぇんですn、そ、そんな、、、っぐは!!」バタン
開け放たれた扉から小悪魔が現れて犯行現場を目撃した。小悪魔は全身をくの字に曲げて床に倒れた。犯人の呼吸はもう整っていた。犯人はしばしの間茫然と、自身の足元を見つめていた。
犯人はまずパチュリー ノーレッジの腰ひもからスチールリングにまとめられた真鍮の鍵の束を盗み取った。続いて小悪魔、パチュリー ノーレッジ、霧雨 魔理沙の順で被害者たちを図書館内へ引きずった。ちょうどいい大きさの箱型のブックチェストがあったためそれを開錠して蓋を開け、中にある本をすべて机に移して、犯人が引きずった順に変わり果てた少女たちをその中に積み重ねた。蓋を閉じてその鍵を施錠し、図書館をあとにしてその正面扉の鍵も施錠した。
犯人は1度深呼吸して振り返った。広大な踊り場の先に巨大な階段があり、さらに地下、さらに深くへと続いていた。
犯人の興味はもっと下にあった。
図書館よりももっと深くにある、地下巨大空間。
石造りの広大な通路だけがどこまでも続き、複雑に分岐し、入り組み、行き止まっている。たまに入り込んだ妖精が出られなくなり、今も彷徨い続ける個体や行き倒れて半透明になっている個体が所々に転がっている。照明は全くなく、数歩先は闇しか見えない。犯人は階段を降りてすぐの片隅に置かれたテーブルから燭台とマッチを取って、蝋燭を灯して奥へと進んだ。
この空間の正確な間取りを知っている者はほとんど、または1人もいない。犯人もその構造は分かっていない。しかしその経路は知らずとも、犯人は目当ての獲物がどにいるかは分かっていた。犯人は燭台の火が消えない速さを保ち、力強い足取りで通路を進んだ。
犯人は可能な限り目的地へ近づく方向へ道を選んだ。何度も分岐を間違え行き止まりに差し掛かり、何度も引き返して何度も道を間違えた。それでも犯人は着実に目的地まで接近し、1時間近くの時間をかけてとうとうある扉まで辿り着いた。精密に作られた片開きの扉。その縁からは少しも光が漏れていないが、ノブの下にある鍵穴から黄色い光が差し込んでいた。
犯人はその光を凝視した。ノブを握りぐるりとひねって前後した。その扉は施錠されていた。犯人はしゃがみ、前方後円型の鍵穴を蝋燭の光に当てながら見つめ、1ねじりの針金を懐から取り出してその中に挿し込んだ。犯人がこの扉を見るのは初めてだった。錠の形状、構造を知ったのも今が初めてで、当然その開錠法を考えたことも検証したこともなかった。しかし犯人はこの扉を開ける必要があった。まだ雪の降り積もらない頃に花壇の隅で拾い上げたその針金だけが今の犯人の希望だった。犯人は鍵穴とその向こうの部屋を何度も覗き込み、引き抜いた針金を成形し直し、何度も挿し直して、感覚を頼りに手首の力でそれをひねった。
ガチャリ
音が鳴った。犯人の目が輝いた。犯人は針金を挿したままノブをひねり手前に引いた。扉が開いた。
犯人は中に入り、扉を閉めた。施錠はできなかった。内側のドアノブ金具にはノブの他には鍵穴しかなく手動施錠ができるつまみは設けられていなかった。その扉は鍵による施錠と開錠しか受け付けない構造をしていた。
ゴシック アンド ネオクラシカルの内装、ぎっしり詰まった本棚が2つ、何も乗っていない化粧台とそれに据え付けられた円盤型の姿見、煙道のレンガ積みが壁から露出して、暖炉の炉口にくべられた数本の薪がカチカチと弾けながら赤い炎を噴いている。
テーブルの上には木彫りのトレイが乗っている。その上にはランチ代わりのケーキと紅茶が、純金のさじとフォーク、白磁のケーキ皿、ソーサー、カップに飲み残しの入ったポット、そして食べカスと茶渋だけを残して置かれている。
10畳あまりにまとめられた1人用の個室の中に、今犯人は辿り着いた。
ガチョウ羽詰めのマットをシーツと深紅の掛け布団で覆った木製フレームのシングルベッド。シーツはともかく掛け布団すら下敷きに、光沢艶やく黒い革靴すら履いたまま、1体の少女が羽らしからぬ骨ばった羽に身を包んでその上に横たわっていた。
深紅の布の上にあおむけになり、首だけ右に振り向いて、半開きの状態で枕元に寝かし付けられたマルキド サド全集に未だ右手を添えながら、フランドール スカーレットはそこで安らかな寝息をたてていた。
白いシャツのボタンが上から3つ外れている。無防備にもあらわになった胸元がその隙間から覗き込まれる。白く、しなやかで、堅いのか軟らかいのかよく分からない胸板あるいは柔肌が、その衣服の向こう側で、前に、後ろにと寝息にあわせて揺れ動いている。
犯人の呼吸が乱れた。犯人の目がいっそうギラギラ輝いた。犯人は半ば無意識に両手を伸ばした。
「ハァ、ハァ、妹様ぁ、会いたかったよぉ。ハァ、ハァ、いもうとさまぁ。」
犯人の興味は彼女にあった。
犯人は半ば無意識のうちに伸ばした両手でシャツを掴み、確固たる意志で4つ目のボタンを取り払った。犯人はボタンあるいはその向こう側を凝視していた。
ボーン。ボーン。ボーン。
その時、振り子時計が鳴った。板バネの先端に付いたハンマーが真鍮のぶ厚い打ち鐘を3回叩いた。
おやつの時間だった。
フランドール スカーレットが目を覚ました。そして彼女は両目を見た。自分の胸元を凝視する両目を見た。犯人の、フランドール スカーレットつまみ食い未遂の犯人、欲情した紅 美鈴の両目を見た。そして彼女は、その目に対して狙いを定めた。
瞬間、欲情した紅 美鈴は悟った。正確には悟る以外に何もできなかった。何かできる余裕なんてなく、そんな時間は存在しなかった。恐怖すらできなかった。そもそも間違えていた。欲情した紅 美鈴ごときがフランドール スカーレットに手を出すなんて間違いにも程があるのだった。
しかしその瞬間、欲情した紅 美鈴は間違いなく悟った。フランドール スカーレットが吸血鬼であるということを。
八意 永琳のカルテによると、永遠亭搬送時点での欲情した紅 美鈴の容態は「全治4年の軽症」だったという。
おわり