カラカラカラ……
回る回る、風車が。それに気がついて私は見る。色々な色を使った水玉模様の風車。
ああ、あの童が置いていったのだったか。竹林で迷って泣いていたあの女の童は私を見て泣くのを辞めたけれど、ぽかんとしていたのでため息を着いて私は声をかけたのだったな。
「どうした、迷ったのか?」
「お姉ちゃんだれ?」
「質問を質問で返すな……私は妹紅って言うんだ。私はここで住んでるんだ、里まで送ってやろう」
「うん。ありがとう……」
ひゅうと風が吹く。カラカラカラ……と童が持っていた色とりどりの風車が回る。
「風車、すきなのか?」
懐かしいような気持ちにさせられる。
「うん!これ、おっかあが買ってくれたんだ!」
カラカラ回る風車。ああ、懐かしい。けど憎らしい。
「そうか。それは良かったな」
童の手を引いて私たちは歩いていく。会話らしい会話はこれしかなかったけれど、童は風車を回しながら楽しそうに笑っている。
竹林を抜けて里の方まで歩いていくと、探し回っている慧音が見えた。そちらの方に歩いていくと私たちを見つけた慧音は恐ろしい速さで走ってきた。
「ユキエ、大丈夫か!」
ユキエ、か。いい名前だな。
「慧音、この子、竹林で迷っていたから送りに来た」
「妹紅!ありがとう!親が探し回っていたんだ、助かった!」
慧音は本当に焦っていたみたいだった。私はしゃがんで童と顔を合わせる。
「ユキエ、ほら、帰りな。また竹林に迷い込むんじゃないぞ」
「……うん。妹紅お姉ちゃんありがとう。だからこれあげる」
両手で持った風車を私の前に差し出してくる。
「お気に入りじゃなかったのか?」
「お気に入りだよ。でも妹紅お姉ちゃんにあげたいなって思ったの。だからあげる」
「……それならお駄賃代わりに貰うよ。もう二度と竹林に来るんじゃないぞ」
そう言って私は風車を受け取った。
「うん。ありがとう!」
そう言って慧音に手を引かれて帰って行った。
それが爽やかな風が吹く皐月のことだった。
*
カラカラカラ……
また風車が回っている。
ふと目が覚めた。竹林の中の自宅、掘っ建て小屋の中で目が覚める。窓を開けたまま寝たのでその風に当たって風車が回っていた。一輪挿しの花瓶に差した風車も風情があっていいと思うのだ。
どうしてこんなにもこの風車が懐かしいと思うのか……眠気で回らない頭で考える。
ああ、昔、風車が流行った時に沢山見たからか?いや違う……
うう、頭がやけに眠くて回らない。もう一寝入りしようかと思い枕替わりの座布団に寝転ぶと、がららと戸の開く音がする。……慧音か?
「慧音、今は眠いから後に……」
「妹紅」
この声は……輝夜!?
ばっ、と起き上がって振り返る。そこには、にまにま笑う輝夜がいた。
「輝夜、何しに来たんだよ」
ぶっきらぼうに私は座布団の上に座って言う。
「何しているのかなって思って。あ、殺しに来た訳じゃないのよ。今日は」
はあ……今日の輝夜はお喋りの気分か。私はそんな気分じゃないんだがな……断ったら下手に殺されるのも嫌な話だ。また家が燃えるのはたまったものじゃない。
「…………なんだよ」
「あら、珍しい。不機嫌な顔してても話を続けようとするなんて」
「悪かったな、不機嫌で」
「ふふ、そう来なくっちゃ。で、この風車どうしたの?」
カラカラとゆっくり回る風車を花瓶から抜きながら眺めている。
「童に貰ったんだよ。それがなんだ?」
「ふうん。さすがに妹紅はこんなもの買わないよね」
「……?そうだが?」
輝夜は何を言っているんだ?
「そんな簡単に……って言ってもそうだものね。買うような性格していないわね」
「そんなに言われるか……?」
風車を眺めながらうんうんと頷く輝夜。
「この風車可愛いわね。選んだ子のセンスが良いわ」
楽しそうに風車の評価を言うものだから、なんか悪いものを見たような気がした。
「……お前がそんなに褒めるだなんて珍しいな」
「私だって褒めるわよ。回数が少ないだけで」
いやそれが問題では?まあいいか……
「カラフルな色の水玉模様。いいわね。可愛いじゃない」
一瞬、そんなに褒めるなら輝夜にやろうかなと思ったけれど、ユキエから貰ったのは私だ。さすがにやれない。
「同じようもの買えばいいじゃないか」
「こういうのは一期一会なのよ。さすがにあんたから奪うようなことはしないけれど。貰ったのはあんただし」
「……そりゃどーも。でいつ帰るんだ?出口はあっちだぞ」
戸の方に指さして私はそう言う。
「あら、酷い」
「いや帰ってくれよ……」
「妹紅、今日のところは帰るわ。次会ったら殺し合いましょうね」
そう言ってひらりと羽織を翻して、輝夜は帰っていった。
……なんだったんだあいつ。
梅雨が終わった夏前の水無月のことだった。
*
夢を見る。
一人で歩く夢を見る。同じところを回る、回る、回る。
永遠に同じ時間を歩む私を責め立てるような声がする。
歩く、歩く、歩く。回る、回る、回る……
目が覚める。ああまたか。いつも見る夢。今は夜だった。部屋の外が暗かった。
「……歩くか」
立ち上がって、玄関前につけた風車を持って私は家を出る。風車をカラカラと回しながら宛もなく歩いていく。
じーわじーわ……蝉の鳴く声が聞こえる。ああ暑くなったな。なんてことを思いながら私は影の中の竹林を歩いていく。
気がついたら、永遠亭の前まで来ていた。なぜだ。
引き返そうとしようと後ろを向いたところで声をかけられた。
「あれー妹紅じゃんか」
「……てゐか」
声をかけられた以上無視もできないので振り返る。
「姫様、忘れられたとか言ってなんか拗ねてたよ」
「……なんの事だ?」
輝夜が、拗ねた?一体何に対して?
「それはしーらない。というか妹紅も忘れてそうだね。その言い方だと」
「いや、忘れたというより覚えがないんだが……」
身に覚えが無さすぎて分からない。それじゃあ帰るか……と思うと嫌なことが起こるのだ。
「姫様、姫様!妹紅が来ましたよ!」
……は?鈴仙か?
「妹紅、やっと来たわね……」
ゴゴゴ……と背中からブチ切れる勢いでオーラが出ているように見えてしまった。
「いやなんでそんなに怒っているんだ?」
「知らなくていいの。ほらこっち来る」
そう言われて私は手を引かれる。
「おっ、おい。どこ連れていくんだよ」
「ひ、み、つ」
いやちょっと待て……って、力が強いな!手を振りほどこうとしたら離せない。私を逃そうとしないようにしているみたいだ。
そうしてずんずんと奥まで連れていかれる。
「……輝夜の部屋か?」
戸を開けて放って部屋の中に入る。
「何するつもりなんだよ……」
「今日ね、人里でお祭りなんですって。花火をあげるんですって。一緒に見ない?」
手を引かれたまま輝夜告げた。
「はあ……おまえそれ言うためだけに普通、部屋に通すか?」
「はいか、いいえよ」
なんでこんなに怒っているのか分からないけどまあいいだろう、花火を見るくらいなら。
「……はい。せっかくだから一緒に見るぞ。それと手、離してくれないか?」
「ああ、はい」
そう言って手を離してくれた。それだけのために私を逃がそうとしなかったのかね。まあ今は逃げる気はないけれど。
輝夜は座った。私は人一人分開けて隣に座る。
「……風車、まだ持ってたのね」
「まあ、回したかっただけだよ。音を聞くだけで少し落ち着くし」
「そう」
そう言って静かになる輝夜。
なんだこいつ。言いたいこと言って静かになるのもなんか怖いな。話題を振るのは苦手なんだがな。
「……あれから輝夜は風車を買ったのか」
「買ってないわ」
「羨ましそうにしてたのに買わなかったのか?」
「妹紅が持ってる風車が好きなのであって、とても欲しい訳ではないもの」
外を見ている輝夜。なんだこいつ……
ひゅーどかん。
花火がいつの間にか一発上がっていた。花火の弾けるこの瞬間が好きだ。
弾幕も綺麗だが、花火は弾幕とは違った美しさがあると思う。とても儚いのだ。
こいつ……輝夜とは殺しあって長い付き合いだがまだ知らない一面がある。まるで花火みたいだな。知らないところがくるくる回る風車にも見えて。同じように回って同じところに戻る。まるで風車だ。
「……お前のこと嫌いだけど。嫌いじゃないよ」
口の中に転がして独りごちる。
ひゅーどかん。 また花火が上がる。
「独り言?」
不思議そうな顔をした輝夜。
「ううん、なんでもない」
私は誤魔化すのだった。
*
カラカラカラ……
回る、回る、廻る。
風車のように永遠に同じところを廻る。
いつかひとりぼっちになっても私は同じようにしているんだろう。
風車を回して、あいつが来るのを寝て待っているんだろう。
回る回る、風車が。それに気がついて私は見る。色々な色を使った水玉模様の風車。
ああ、あの童が置いていったのだったか。竹林で迷って泣いていたあの女の童は私を見て泣くのを辞めたけれど、ぽかんとしていたのでため息を着いて私は声をかけたのだったな。
「どうした、迷ったのか?」
「お姉ちゃんだれ?」
「質問を質問で返すな……私は妹紅って言うんだ。私はここで住んでるんだ、里まで送ってやろう」
「うん。ありがとう……」
ひゅうと風が吹く。カラカラカラ……と童が持っていた色とりどりの風車が回る。
「風車、すきなのか?」
懐かしいような気持ちにさせられる。
「うん!これ、おっかあが買ってくれたんだ!」
カラカラ回る風車。ああ、懐かしい。けど憎らしい。
「そうか。それは良かったな」
童の手を引いて私たちは歩いていく。会話らしい会話はこれしかなかったけれど、童は風車を回しながら楽しそうに笑っている。
竹林を抜けて里の方まで歩いていくと、探し回っている慧音が見えた。そちらの方に歩いていくと私たちを見つけた慧音は恐ろしい速さで走ってきた。
「ユキエ、大丈夫か!」
ユキエ、か。いい名前だな。
「慧音、この子、竹林で迷っていたから送りに来た」
「妹紅!ありがとう!親が探し回っていたんだ、助かった!」
慧音は本当に焦っていたみたいだった。私はしゃがんで童と顔を合わせる。
「ユキエ、ほら、帰りな。また竹林に迷い込むんじゃないぞ」
「……うん。妹紅お姉ちゃんありがとう。だからこれあげる」
両手で持った風車を私の前に差し出してくる。
「お気に入りじゃなかったのか?」
「お気に入りだよ。でも妹紅お姉ちゃんにあげたいなって思ったの。だからあげる」
「……それならお駄賃代わりに貰うよ。もう二度と竹林に来るんじゃないぞ」
そう言って私は風車を受け取った。
「うん。ありがとう!」
そう言って慧音に手を引かれて帰って行った。
それが爽やかな風が吹く皐月のことだった。
*
カラカラカラ……
また風車が回っている。
ふと目が覚めた。竹林の中の自宅、掘っ建て小屋の中で目が覚める。窓を開けたまま寝たのでその風に当たって風車が回っていた。一輪挿しの花瓶に差した風車も風情があっていいと思うのだ。
どうしてこんなにもこの風車が懐かしいと思うのか……眠気で回らない頭で考える。
ああ、昔、風車が流行った時に沢山見たからか?いや違う……
うう、頭がやけに眠くて回らない。もう一寝入りしようかと思い枕替わりの座布団に寝転ぶと、がららと戸の開く音がする。……慧音か?
「慧音、今は眠いから後に……」
「妹紅」
この声は……輝夜!?
ばっ、と起き上がって振り返る。そこには、にまにま笑う輝夜がいた。
「輝夜、何しに来たんだよ」
ぶっきらぼうに私は座布団の上に座って言う。
「何しているのかなって思って。あ、殺しに来た訳じゃないのよ。今日は」
はあ……今日の輝夜はお喋りの気分か。私はそんな気分じゃないんだがな……断ったら下手に殺されるのも嫌な話だ。また家が燃えるのはたまったものじゃない。
「…………なんだよ」
「あら、珍しい。不機嫌な顔してても話を続けようとするなんて」
「悪かったな、不機嫌で」
「ふふ、そう来なくっちゃ。で、この風車どうしたの?」
カラカラとゆっくり回る風車を花瓶から抜きながら眺めている。
「童に貰ったんだよ。それがなんだ?」
「ふうん。さすがに妹紅はこんなもの買わないよね」
「……?そうだが?」
輝夜は何を言っているんだ?
「そんな簡単に……って言ってもそうだものね。買うような性格していないわね」
「そんなに言われるか……?」
風車を眺めながらうんうんと頷く輝夜。
「この風車可愛いわね。選んだ子のセンスが良いわ」
楽しそうに風車の評価を言うものだから、なんか悪いものを見たような気がした。
「……お前がそんなに褒めるだなんて珍しいな」
「私だって褒めるわよ。回数が少ないだけで」
いやそれが問題では?まあいいか……
「カラフルな色の水玉模様。いいわね。可愛いじゃない」
一瞬、そんなに褒めるなら輝夜にやろうかなと思ったけれど、ユキエから貰ったのは私だ。さすがにやれない。
「同じようもの買えばいいじゃないか」
「こういうのは一期一会なのよ。さすがにあんたから奪うようなことはしないけれど。貰ったのはあんただし」
「……そりゃどーも。でいつ帰るんだ?出口はあっちだぞ」
戸の方に指さして私はそう言う。
「あら、酷い」
「いや帰ってくれよ……」
「妹紅、今日のところは帰るわ。次会ったら殺し合いましょうね」
そう言ってひらりと羽織を翻して、輝夜は帰っていった。
……なんだったんだあいつ。
梅雨が終わった夏前の水無月のことだった。
*
夢を見る。
一人で歩く夢を見る。同じところを回る、回る、回る。
永遠に同じ時間を歩む私を責め立てるような声がする。
歩く、歩く、歩く。回る、回る、回る……
目が覚める。ああまたか。いつも見る夢。今は夜だった。部屋の外が暗かった。
「……歩くか」
立ち上がって、玄関前につけた風車を持って私は家を出る。風車をカラカラと回しながら宛もなく歩いていく。
じーわじーわ……蝉の鳴く声が聞こえる。ああ暑くなったな。なんてことを思いながら私は影の中の竹林を歩いていく。
気がついたら、永遠亭の前まで来ていた。なぜだ。
引き返そうとしようと後ろを向いたところで声をかけられた。
「あれー妹紅じゃんか」
「……てゐか」
声をかけられた以上無視もできないので振り返る。
「姫様、忘れられたとか言ってなんか拗ねてたよ」
「……なんの事だ?」
輝夜が、拗ねた?一体何に対して?
「それはしーらない。というか妹紅も忘れてそうだね。その言い方だと」
「いや、忘れたというより覚えがないんだが……」
身に覚えが無さすぎて分からない。それじゃあ帰るか……と思うと嫌なことが起こるのだ。
「姫様、姫様!妹紅が来ましたよ!」
……は?鈴仙か?
「妹紅、やっと来たわね……」
ゴゴゴ……と背中からブチ切れる勢いでオーラが出ているように見えてしまった。
「いやなんでそんなに怒っているんだ?」
「知らなくていいの。ほらこっち来る」
そう言われて私は手を引かれる。
「おっ、おい。どこ連れていくんだよ」
「ひ、み、つ」
いやちょっと待て……って、力が強いな!手を振りほどこうとしたら離せない。私を逃そうとしないようにしているみたいだ。
そうしてずんずんと奥まで連れていかれる。
「……輝夜の部屋か?」
戸を開けて放って部屋の中に入る。
「何するつもりなんだよ……」
「今日ね、人里でお祭りなんですって。花火をあげるんですって。一緒に見ない?」
手を引かれたまま輝夜告げた。
「はあ……おまえそれ言うためだけに普通、部屋に通すか?」
「はいか、いいえよ」
なんでこんなに怒っているのか分からないけどまあいいだろう、花火を見るくらいなら。
「……はい。せっかくだから一緒に見るぞ。それと手、離してくれないか?」
「ああ、はい」
そう言って手を離してくれた。それだけのために私を逃がそうとしなかったのかね。まあ今は逃げる気はないけれど。
輝夜は座った。私は人一人分開けて隣に座る。
「……風車、まだ持ってたのね」
「まあ、回したかっただけだよ。音を聞くだけで少し落ち着くし」
「そう」
そう言って静かになる輝夜。
なんだこいつ。言いたいこと言って静かになるのもなんか怖いな。話題を振るのは苦手なんだがな。
「……あれから輝夜は風車を買ったのか」
「買ってないわ」
「羨ましそうにしてたのに買わなかったのか?」
「妹紅が持ってる風車が好きなのであって、とても欲しい訳ではないもの」
外を見ている輝夜。なんだこいつ……
ひゅーどかん。
花火がいつの間にか一発上がっていた。花火の弾けるこの瞬間が好きだ。
弾幕も綺麗だが、花火は弾幕とは違った美しさがあると思う。とても儚いのだ。
こいつ……輝夜とは殺しあって長い付き合いだがまだ知らない一面がある。まるで花火みたいだな。知らないところがくるくる回る風車にも見えて。同じように回って同じところに戻る。まるで風車だ。
「……お前のこと嫌いだけど。嫌いじゃないよ」
口の中に転がして独りごちる。
ひゅーどかん。 また花火が上がる。
「独り言?」
不思議そうな顔をした輝夜。
「ううん、なんでもない」
私は誤魔化すのだった。
*
カラカラカラ……
回る、回る、廻る。
風車のように永遠に同じところを廻る。
いつかひとりぼっちになっても私は同じようにしているんだろう。
風車を回して、あいつが来るのを寝て待っているんだろう。
拗ねる輝夜が面倒臭くて可愛いです。
すねてる輝夜がかわいらしかったです