夜の紅魔館、ただでさえ少ない窓のうち明かりの灯ったヶ所はまばらで、満面の月明かりだけが赤いレンガ壁とスタッフォードシャーの青瓦を薄く照らしていた。その暗さから文字盤の判読ができない時計塔が、重厚な鐘の音を突然2発打ち鳴らした。
犯人は屋根から侵入した。霧に覆われた門前とその上空、人気のない正面の庭を超え、ふわりふわりと星もまばらな夜の空を飛んで、程よい角度の三角屋根に着陸した。角柱型の煙突が等間隔に生えていて、犯人はその1つを選んで中を覗き込んだ。
ところがその煙突は使用中だった。夜闇と同じ真っ黒な煙に突っ込んだ頭はゴホゴホと咳込んで身をのけぞらせ、バランスを崩した犯人は斜面から滑り落ちる寸でのところで空に飛び上がり難を逃れた。
犯人は再び屋根に上り、煙の出ていない煙突を慎重に選んで覗き込み、間違いなくそれが使われていないことを確認した。そしてその縁をまたぎ内側に足を垂らすように座って、ゆっくりと浮かびながら降りて行った。
ゴソゴソと犯人が暖炉から這い出して、ゴホゴホとまた咳込みながら立ち上がる。煙道内部の煤にまみれた全身をパシパシはたいて髪を軽く整えると辺りを見回す。
巨大な広間。色とりどりの着色ガラスをふんだんにあしらった、壁面積に対して極端に幅の狭い5枚の飾り窓。装飾豊かな金の骨材の、座面と背もたれに赤いクッションが設けられた小さな玉座。犯人が降りたのは紅魔館中央棟最上階にある玉座の間の、6つある暖炉のうちの1つだった。
歩き出しその部屋をあとにして犯人は階段を下りて行く。まばらな窓からの月明かりしか採光がない。特に秀でた能力のないごく普通の人間からすれば、その視界はほとんど無いに等しかった。しかし、夜しか活動しないとまでは言わないものの、人の出歩かないような夜中の空を徘徊することが特段珍しくもない犯人には、月明かりが差し込む程度のその視界は、犯行を遂行するためには全く持って問題の出ない明るさだった。
また暗闇の中を明かりを灯して歩いている奴がいたら「侵入者はここですよ」と侵入者が自ら言っているようなものである。月明かりだけを頼りに闇の中を隠れ歩くことは、紅魔館の原住民から自身が見つからないようにするためにも、ある程度有効な手段であった。
犯人はエントランスホールに降りて1階正面の扉をくぐり廊下を進んだ。しかし犯人は立ち止まった。真夜中だというのに妖精メイドや野良妖精が何匹かうろついていてその辺で遊んでいる。犯人からすればそんな妖精などは始末する程でもないが見つかって騒がれても都合が悪い。ひとまず犯人は妖精が後ろを向いている隙や談笑している脇を暗闇に乗じて素通りして、彼女らのことをやり過ごしたが、3組目の妖精を超えた時に別の妖精にぶつかった。
衝突の反動でしりもちを着いた妖精メイドは犯人のことを見上げて驚愕の表情を浮かべ、今にも叫びをあげようとしていた。犯人はすかさず手に持っていた木の棒で彼女の左側頭部を殴り飛ばして、悲鳴を上げる余地すら与えず妖精メイドを気絶させた。
きめ細やかな泡を口から溢れさせた妖精メイドがピクピクと痙攣しながら横たわっている。犯人は変わり果てた妖精を置きっ放しにして歩いて逃走し、すぐ近くに扉があったためそれを開けてそこに入った。
そこは厨房だった。犯人の目が輝いた。扉を閉め、犯人はシンク先からの月明かりを頼りに戸棚、引き出し、樽の蓋をひっくり返した。犯人はそこから瓶詰めピクルス、塩漬けキャビア、ノーカットのゴーダチーズ、干し肉5枚、3分の1消費したスペイン生ハム、熟成サラミに20連結のブラッドソーセージ、最後にバスケット付きのフルーツ盛り合わせを見つけ出した。
犯人は瓶の中から1本かじり、蓋を開けて指で一舐め、1本ちぎって咥え込み、次々に厨房の食材をつまみながら、次から次へと詰められる限りに、それらをバスケットの中へと詰め込んだ。流石に大きすぎたスペイン生ハムはキッチンナイフで切り取った5分の1程度で勘弁し、長すぎたブラッドソーセージは半分残し、仏心で干し肉を2枚そのままにしたが、ゴーダチーズだけはノーカットのままバスケットの底と持ち手の間に無理やり挟み込ませた。残りは全て詰め込んだ。
一仕事終えた。犯人は芸術的なほどに一まとめになった食材バスケットを力一杯に持ち上げて、ほくほく顔で厨房をあとにすると、目の色を変えて再び通路の先へ歩いた。
犯人にとって真の目的は他にあった。厨房の中の食材など犯人にとってはただのおまけに過ぎなかった。
厨房がそこにあったのだから、すぐ近くに目的地へ降りる階段が見つかるはず。犯人はそう信じ、どこまで続くかも判然としないその通路を見回し続けた。
犯人の勘は的中した。厨房を過ぎて次の部屋に当たるか当たらないかといった所に地下へ続く階段があった。犯人はその前に立ち、壁に片手を添えて闇の下を覗き込んだ。
段差も見えない真っ暗な階段、しかしその終わりは意外にもすぐに見つかった。踊り場すら挟まずまっすぐ降り続けた辺りに、簡素な扉の足元の隙間から伸びたような、うっすらとした光が漏れている。犯人は音を立てないようにゆっくりと慎重に階段を降りる。降り切って所々光の漏れる扉の前に立つ。真っ暗で何も見えないドアノブを握る。施錠はされていない、犯人は迷うことなくゆっくりとそれを開けた。蝶つがいがわずかにきしむ、しかし扉の向こうにいる光の主にはその音が気にならなかったらしい。わずかな隙間が大きく開き、階段の向こうが犯人に見えた。
紅魔館地下1階に設けられたワインセラー。赤白ロゼスパークリングのワインに始まり各地のビール、ウィスキー、ブランデーあるいは日本酒に焼酎など、当館主のかき集めた古今東西の数多の酒が、適正温度ごとに区画分けされて何百本も並べられている。
常備灯は点灯していない。こうこうと輝く蝋燭の1本の炎だけがワインセラーを照らし、扉の隙間から光を漏らしていた。
そして扉の先に、犯人から背を向けた紅魔館の頭首レミリア スカーレットが、左手に火の灯った燭台を携えて、右手に今しがた注いだばかりの赤ワインのグラスを鼻元に掲げ、くゆらせていた。
これだった。犯人の目当てはここにあるいくつもの酒だった。しかしそれらを手に入れるためには今目の前にいるレミリア スカーレットの存在が邪魔だった。
1歩、2歩と彼女に歩み寄り、背後まで接近する。レミリア スカーレットは香りを楽しみ、深紅の液に口付けることにばかり夢中で、少しも振り返る様子も見られない。
彼女の頭上に目の前に迫り、その柔らかな後頭部を一点に狙った。手に持つ木の棒をきしむ程強く握り、頭上高く振り上げた。
そして犯人はとてつもない力で、その右手に握ったお祓い棒を、彼女の後頭部めがけて振り下ろした。
ドン!!!
≦二二二≧
艸# ^з^ ) ブー=≡≡::###!!!
パリーン!!
にぶい音、軟らかい唇から鮮血のように赤い葡萄酒が霧吹くように辺り一面へ舞い飛んだ。右手からグラスがこぼれ落ち、石灰板の通路材にクリスタルガラスが砕け散った。中に満たされていたワインが赤々と四散し、それを追うように左手からこぼれ落ちた燭台が、先端に燃える蝋燭の炎を冷たい地面で叩き消した。
その炎が消えるが先か、レミリア スカーレットは両膝を付き、前のめりに倒れ、ボトルラックの下段に最後の力を振り絞りもたれかかった。しかし間もなく彼女は力尽きた。ラックの根元で彼女を支えた両方の指はその棚の縁から離れ去り、とうとう彼女は白くざらついた通路の隅に横たわった。
蠟燭の火が消えて、ワインセラーが真っ暗になった。もう月明かりすら届かない。しかし邪魔者は消えた。安堵の声が暗いセラーの中央で響いた。
「やっと片付いたわ。あとはしこたまお酒を回収するだけね。陰陽玉を灯し」
「つまみ食いですか?」
突然、暗闇の中で閃光が走った。陰陽玉よりも先に犯人のそばで誰かがマッチを擦った。
犯人は気付かなかった。夜ならば確かに、最も危惧すべきメイド長は人間であるため寝静まってはいるものの、他の全員は違うことに。特に門番については昼間にたっぷり寝ているから、夜は起きているか、寝ていたとしても至極浅い睡眠しかとらないことに。そしてこの門番に限って、どこに逃げ、どう隠れようとも、こちらの居場所を正確に感じ取り、見つけ出すことが出来るということに。
マッチ棒の先端で轟轟と爆ぜる炎が犯人を照らした。
住居不法侵入及び強盗傷害の犯人、博麗 霊夢は、彼女のことを半目に睨む紅 美鈴へ睨み返して言った。
「だったら、なんだって言うのよ。」
「良い度胸ですね。」
その後、紅 美鈴はボコボコにされた。
おわり
犯人は屋根から侵入した。霧に覆われた門前とその上空、人気のない正面の庭を超え、ふわりふわりと星もまばらな夜の空を飛んで、程よい角度の三角屋根に着陸した。角柱型の煙突が等間隔に生えていて、犯人はその1つを選んで中を覗き込んだ。
ところがその煙突は使用中だった。夜闇と同じ真っ黒な煙に突っ込んだ頭はゴホゴホと咳込んで身をのけぞらせ、バランスを崩した犯人は斜面から滑り落ちる寸でのところで空に飛び上がり難を逃れた。
犯人は再び屋根に上り、煙の出ていない煙突を慎重に選んで覗き込み、間違いなくそれが使われていないことを確認した。そしてその縁をまたぎ内側に足を垂らすように座って、ゆっくりと浮かびながら降りて行った。
ゴソゴソと犯人が暖炉から這い出して、ゴホゴホとまた咳込みながら立ち上がる。煙道内部の煤にまみれた全身をパシパシはたいて髪を軽く整えると辺りを見回す。
巨大な広間。色とりどりの着色ガラスをふんだんにあしらった、壁面積に対して極端に幅の狭い5枚の飾り窓。装飾豊かな金の骨材の、座面と背もたれに赤いクッションが設けられた小さな玉座。犯人が降りたのは紅魔館中央棟最上階にある玉座の間の、6つある暖炉のうちの1つだった。
歩き出しその部屋をあとにして犯人は階段を下りて行く。まばらな窓からの月明かりしか採光がない。特に秀でた能力のないごく普通の人間からすれば、その視界はほとんど無いに等しかった。しかし、夜しか活動しないとまでは言わないものの、人の出歩かないような夜中の空を徘徊することが特段珍しくもない犯人には、月明かりが差し込む程度のその視界は、犯行を遂行するためには全く持って問題の出ない明るさだった。
また暗闇の中を明かりを灯して歩いている奴がいたら「侵入者はここですよ」と侵入者が自ら言っているようなものである。月明かりだけを頼りに闇の中を隠れ歩くことは、紅魔館の原住民から自身が見つからないようにするためにも、ある程度有効な手段であった。
犯人はエントランスホールに降りて1階正面の扉をくぐり廊下を進んだ。しかし犯人は立ち止まった。真夜中だというのに妖精メイドや野良妖精が何匹かうろついていてその辺で遊んでいる。犯人からすればそんな妖精などは始末する程でもないが見つかって騒がれても都合が悪い。ひとまず犯人は妖精が後ろを向いている隙や談笑している脇を暗闇に乗じて素通りして、彼女らのことをやり過ごしたが、3組目の妖精を超えた時に別の妖精にぶつかった。
衝突の反動でしりもちを着いた妖精メイドは犯人のことを見上げて驚愕の表情を浮かべ、今にも叫びをあげようとしていた。犯人はすかさず手に持っていた木の棒で彼女の左側頭部を殴り飛ばして、悲鳴を上げる余地すら与えず妖精メイドを気絶させた。
きめ細やかな泡を口から溢れさせた妖精メイドがピクピクと痙攣しながら横たわっている。犯人は変わり果てた妖精を置きっ放しにして歩いて逃走し、すぐ近くに扉があったためそれを開けてそこに入った。
そこは厨房だった。犯人の目が輝いた。扉を閉め、犯人はシンク先からの月明かりを頼りに戸棚、引き出し、樽の蓋をひっくり返した。犯人はそこから瓶詰めピクルス、塩漬けキャビア、ノーカットのゴーダチーズ、干し肉5枚、3分の1消費したスペイン生ハム、熟成サラミに20連結のブラッドソーセージ、最後にバスケット付きのフルーツ盛り合わせを見つけ出した。
犯人は瓶の中から1本かじり、蓋を開けて指で一舐め、1本ちぎって咥え込み、次々に厨房の食材をつまみながら、次から次へと詰められる限りに、それらをバスケットの中へと詰め込んだ。流石に大きすぎたスペイン生ハムはキッチンナイフで切り取った5分の1程度で勘弁し、長すぎたブラッドソーセージは半分残し、仏心で干し肉を2枚そのままにしたが、ゴーダチーズだけはノーカットのままバスケットの底と持ち手の間に無理やり挟み込ませた。残りは全て詰め込んだ。
一仕事終えた。犯人は芸術的なほどに一まとめになった食材バスケットを力一杯に持ち上げて、ほくほく顔で厨房をあとにすると、目の色を変えて再び通路の先へ歩いた。
犯人にとって真の目的は他にあった。厨房の中の食材など犯人にとってはただのおまけに過ぎなかった。
厨房がそこにあったのだから、すぐ近くに目的地へ降りる階段が見つかるはず。犯人はそう信じ、どこまで続くかも判然としないその通路を見回し続けた。
犯人の勘は的中した。厨房を過ぎて次の部屋に当たるか当たらないかといった所に地下へ続く階段があった。犯人はその前に立ち、壁に片手を添えて闇の下を覗き込んだ。
段差も見えない真っ暗な階段、しかしその終わりは意外にもすぐに見つかった。踊り場すら挟まずまっすぐ降り続けた辺りに、簡素な扉の足元の隙間から伸びたような、うっすらとした光が漏れている。犯人は音を立てないようにゆっくりと慎重に階段を降りる。降り切って所々光の漏れる扉の前に立つ。真っ暗で何も見えないドアノブを握る。施錠はされていない、犯人は迷うことなくゆっくりとそれを開けた。蝶つがいがわずかにきしむ、しかし扉の向こうにいる光の主にはその音が気にならなかったらしい。わずかな隙間が大きく開き、階段の向こうが犯人に見えた。
紅魔館地下1階に設けられたワインセラー。赤白ロゼスパークリングのワインに始まり各地のビール、ウィスキー、ブランデーあるいは日本酒に焼酎など、当館主のかき集めた古今東西の数多の酒が、適正温度ごとに区画分けされて何百本も並べられている。
常備灯は点灯していない。こうこうと輝く蝋燭の1本の炎だけがワインセラーを照らし、扉の隙間から光を漏らしていた。
そして扉の先に、犯人から背を向けた紅魔館の頭首レミリア スカーレットが、左手に火の灯った燭台を携えて、右手に今しがた注いだばかりの赤ワインのグラスを鼻元に掲げ、くゆらせていた。
これだった。犯人の目当てはここにあるいくつもの酒だった。しかしそれらを手に入れるためには今目の前にいるレミリア スカーレットの存在が邪魔だった。
1歩、2歩と彼女に歩み寄り、背後まで接近する。レミリア スカーレットは香りを楽しみ、深紅の液に口付けることにばかり夢中で、少しも振り返る様子も見られない。
彼女の頭上に目の前に迫り、その柔らかな後頭部を一点に狙った。手に持つ木の棒をきしむ程強く握り、頭上高く振り上げた。
そして犯人はとてつもない力で、その右手に握ったお祓い棒を、彼女の後頭部めがけて振り下ろした。
ドン!!!
≦二二二≧
艸# ^з^ ) ブー=≡≡::###!!!
パリーン!!
にぶい音、軟らかい唇から鮮血のように赤い葡萄酒が霧吹くように辺り一面へ舞い飛んだ。右手からグラスがこぼれ落ち、石灰板の通路材にクリスタルガラスが砕け散った。中に満たされていたワインが赤々と四散し、それを追うように左手からこぼれ落ちた燭台が、先端に燃える蝋燭の炎を冷たい地面で叩き消した。
その炎が消えるが先か、レミリア スカーレットは両膝を付き、前のめりに倒れ、ボトルラックの下段に最後の力を振り絞りもたれかかった。しかし間もなく彼女は力尽きた。ラックの根元で彼女を支えた両方の指はその棚の縁から離れ去り、とうとう彼女は白くざらついた通路の隅に横たわった。
蠟燭の火が消えて、ワインセラーが真っ暗になった。もう月明かりすら届かない。しかし邪魔者は消えた。安堵の声が暗いセラーの中央で響いた。
「やっと片付いたわ。あとはしこたまお酒を回収するだけね。陰陽玉を灯し」
「つまみ食いですか?」
突然、暗闇の中で閃光が走った。陰陽玉よりも先に犯人のそばで誰かがマッチを擦った。
犯人は気付かなかった。夜ならば確かに、最も危惧すべきメイド長は人間であるため寝静まってはいるものの、他の全員は違うことに。特に門番については昼間にたっぷり寝ているから、夜は起きているか、寝ていたとしても至極浅い睡眠しかとらないことに。そしてこの門番に限って、どこに逃げ、どう隠れようとも、こちらの居場所を正確に感じ取り、見つけ出すことが出来るということに。
マッチ棒の先端で轟轟と爆ぜる炎が犯人を照らした。
住居不法侵入及び強盗傷害の犯人、博麗 霊夢は、彼女のことを半目に睨む紅 美鈴へ睨み返して言った。
「だったら、なんだって言うのよ。」
「良い度胸ですね。」
その後、紅 美鈴はボコボコにされた。
おわり
早苗さんかと思ってました!
思いのほかバイオレンスでした
霊夢さんがヤバ過ぎる