Coolier - 新生・東方創想話

上手く残してください

2026/01/14 21:18:39
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 蓮子がその祠の存在に気づいたのは、偶然だった。
 秘封倶楽部の活動といっても、実態は大したものではない。講義の合間や、図書館の静かな一角で、古い論文や郷土資料を読み漁り、世界のほころびのようなものを見つけては、面白がっているだけだ。世界の謎を解き明かす、などという大仰な目的はない。ただ、「おかしいな」と思えることを見つけるのが好きなだけだった。

 その日、蓮子が開いていたのは、戦後すぐにまとめられた地方史の資料集だった。市町村合併以前の地名や、小さな祠、道祖神の所在を一覧にした、味気ない表である。

 空白があった。
 罫線で区切られた表の中で、番号だけが飛んでいる。十四番の次が、いきなり十六番になっている。
 単なる編集ミスだろう、と最初は思った。こういう資料には、誤植や脱落が珍しくない。だが、ページをめくり、付録の地図を確認した瞬間、蓮子は小さく首を傾げた。
 対応するはずの注釈番号が、地図上にも存在しない。空き地を示す薄い網掛けの中に、ぽっかりと番号だけが抜け落ちている。
 まるで、そこに「何かがあった」こと自体を、後から丁寧に消したかのようだった。

 蓮子は、少しだけ背筋がぞわりとするのを感じた。怖さではない。期待に似た感触だった。
 別の資料を引っ張り出す。同じ地域を扱った民俗学の論文。昭和初期の住宅地図。白黒写真の載った郷土史。どれにも、同じ違和感がある。
 写真では、構図の中央が妙に白く飛んでいる。地図では、道の線が不自然に迂回している。文章では、その場所だけ記述が曖昧だ。
 だが、どの資料にも共通しているのは、何かを隠そうとしている痕跡だった。

「……これは」
 蓮子は、思わず声に出していた。
 消された祠だ。最初から存在しなかったのではない。あったものを、消した。それも、誰か一人の判断ではなく、複数の手によって、時間をかけて。
 場所は山奥ではない。再開発された市街地の一角。住宅街と商店街の境目に近い。

「面白いじゃない」
 蓮子はノートに簡単なメモを取りながら、自然と口角が上がるのを止められなかった。
 禁足地。触れてはいけない場所。理由は分からないが、分からないからこそ、調べる価値がある。
 そう考えた瞬間、誰かの視線を感じた。

 振り返る。
 図書館の閲覧室には、もちろん誰もいない。静まり返った空間で、空調の音だけがやけに大きく響いている。窓の外を見ると、夕暮れが近い。いつの間にか、随分長く資料と向き合っていたらしい。
 蓮子は肩をすくめ、再び資料に目を落とした。
 気のせいだ。ただの偶然が、いくつか重なっただけ。そう思い込もうとしていること自体が、すでに遅いのだと、その時はまだ気づいていなかった。

――――

 翌日の午後、蓮子は講義を一つ抜け、件の場所へ向かった。
 資料上の住所は、すでに存在しない町名だったが、区画整理後の地図と照らし合わせれば、だいたいの位置は割り出せる。駅から徒歩十分ほど。大型商業施設の裏手に広がる、少し古い住宅街だ。
 道は整備されていて、迷う要素はない。にもかかわらず、歩き始めて数分もしないうちに、蓮子は足を止めた。

「あれ……?」
 交差点に立って、スマートフォンの地図アプリを確認する。現在地は、予定通りの場所を示している。目的地までは、あと二百メートルもない。
 顔を上げると、細い道がまっすぐに延びていた。資料写真で見た構図と、よく似ている。蓮子は、何の疑いもなくその道へ足を踏み出した。
 そして、次の瞬間には、商業施設の裏手に戻っていた。
 自分でも不思議に思うほど、自然な流れだった。引き返した記憶はない。曲がった覚えもない。ただ、気づいたら、さっきまで立っていた場所にいる。

 蓮子は、少しだけ眉をひそめた。
「……方向音痴じゃないんだけどな」
 笑い飛ばすように呟き、もう一度歩き出す。今度は意識して、角を数えながら進んだ。一つ目、左。二つ目、直進。三つ目の角を曲がれば、そこにあるはずだ。
 ところが、三つ目の角に差しかかったところで、ポケットの中でスマートフォンが震えた。

 着信。知らない番号だ。
 一瞬、無視しようかと思ったが、反射的に画面を見てしまう。
 圏外表示。
 あり得ない。ここは市街地だ。電波が届かない理由がない。顔を上げた瞬間、蓮子は自分が立っている場所を理解できなくなった。同じような家並み。同じような電柱。だが、さっき数えたはずの角が見当たらない。
 地図アプリを開くと、現在地の表示が小刻みに揺れている。まるで、どこにいるのか決めかねているかのようだった。

 蓮子は、深く息を吐いた。
「……なるほど」
 怖くはなかった。むしろ、確信に近いものがあった。
 ここには、何かがある。
 そう思った瞬間、頭の片隅で、資料の空白がはっきりと思い出された。番号の抜け落ちた表。白く飛んだ写真。曖昧な文章。
 蓮子は、その場で写真を撮ろうとした。シャッター音は確かに鳴った。だが、保存されたはずの画像は、どこにもなかった。カメラロールを何度更新しても、空白のままだ。

「……意地悪だなあ」
 誰に向けた言葉でもなく、蓮子はそう呟いた。
 気づけば、日は傾き始めていた。これ以上粘っても、成果はなさそうだ。

 今日はここまでにしよう。そう判断して駅へ向かうと、今度は何の問題もなく道を辿れた。まるで、「帰る」ことだけは許されているかのように。

 ホームに立ち、電車を待ちながら、蓮子はふと思う。誰かに、この話をしておいた方がいい。頭に浮かんだ顔は、一人しかなかった。

 メリー。

――――

 メリーと会ったのは、次の日の夕方だった。
 大学構内の中庭。ベンチに腰掛け、缶コーヒーを二本並べている。西日が建物の影を長く引き伸ばして、学生たちの話し声が遠くに溶けていた。

「それでね」
 蓮子は、昨日の出来事を簡単に話した。辿り着けなかったこと。同じ場所に戻ってしまったこと。写真が残らなかったこと。
 話し終える頃には、缶コーヒーはすっかり冷めていた。
 メリーは、ほとんど相槌を打たなかった。途中で質問も挟まない。ただ、蓮子のノートと資料のコピーに目を通している。
 その横顔を見ていると、蓮子は気づいた。メリーの目が、資料の「空白」だけを追っている。番号の欠けた表、白く飛んだ写真、曖昧な文章。視線が、そこで止まる。

 しばらくして、メリーがぽつりと言った。
「……やめた方がいいと思う」
 あまりに即断だったので、蓮子は思わず笑った。
「早いなあ。理由は?」
 メリーは答えなかった。代わりに、資料の一枚を指でなぞる。
「ここ」
 番号の抜け落ちた一覧表。黒い罫線の中に、何も書かれていない空白。
「これ、嫌な消え方をしてる」
「消え方?」
「うん。偶然じゃない。事故でもないし、検閲とも違う」

 メリーは言葉を探すように、一度口を閉じた。
「……『忘れた』っていうより、『忘れることにした』感じ」
 蓮子は、その表現を頭の中で転がしてみた。
「ふうん。つまり?」
「触れていい理由が、もう残ってない場所」
 メリーは顔を上げ、蓮子をまっすぐに見た。
「理由が分からない禁足地って、一番危ないよ。怖いから近づくな、ならまだいい。でも、これは……」

言葉が途切れる。
「これは?」
「近づくな、っていう結論だけが残ってる」
 その言い方が妙に引っかかった。
「それって、逆に言えばさ」
 蓮子は、軽い調子を装って言う。
「もう理由は失われてるってことでしょ? だったら、調べ直してもいいんじゃない?」
 メリーは、首を横に振った。
「違う。失われてるんじゃない」

少し間を置いてから、続ける。
「……たぶん、隠れてる」
 蓮子は肩をすくめた。
「隠れてるなら、見つけないと」

 メリーは何も言わなかった。ただ、視線を落とし、指先で缶の縁をなぞっている。その指先が、わずかに震えているのに、蓮子は気づいた。

「ねえ、蓮子」
 しばらくしてから、低い声で言った。
「これ以上、深追いしないで」
 それは、命令でも忠告でもなかった。ほとんど、お願いに近い響きだった。

 その瞬間、蓮子ははっきりと理解してしまった。メリーは、何かが見えている。
 資料の空白に、蓮子には見えない何かが映っている。そして、それが何なのか、メリー自身にもまだ言葉にできずにいる。
「分かった分かった」
 蓮子は、笑って手を振った。
「一旦、様子見ね。今日は」
 嘘ではなかった。少なくとも、その時点では。

 メリーは納得した様子も、安心した様子も見せなかった。ただ、空になった缶コーヒーをゴミ箱に捨てて、こう言った。
「……もし、何か届いたら」
「届いたら?」
「すぐ教えて」
 その言葉の意味を、蓮子が理解するのは、翌日のことになる。

――――

 図書館のカウンターで資料を受け取ったとき、蓮子は特に違和感を覚えなかった。
 貸出カードに日付が押され、厚手の郷土資料が三冊、無造作に積まれる。どれも古い紙の匂いと、長く閉じられていた本特有の、わずかな湿り気。
 調査対象の地域を扱った資料ばかりだ。
 閲覧席に戻り、いつものように一冊目を開く。目的のページに付箋を貼り、ノートを広げる。
 
 ページをめくった、そのときだった。
 ぱらり、と紙とは違う、少し硬い音がした。
 薄いものが、ページの間から滑り落ち、机の上に伏せる。
 ハガキだった。
 蓮子は一瞬、それを拾い上げる手を止めた。資料の付録か何かだろうか、と考えたが、そんなものが挟まっているはずがない。ゆっくりと、裏返す。
 宛名が書いてあった。

 宇佐見 蓮子 様

 自分の名前だ。それも、毛筆で丁寧に。住所も書かれている。省略も誤字もない。現住所そのままだった。
 蓮子は、まず消印を見た。
 昨日の日付。局名は、読めなかった。潰れているというより、最初から判別できない形をしている。まるで、文字のようで文字ではない何かが、そこに押されているかのようだった。

「……へえ」
 思ったよりも、声は落ち着いていた。誰かの悪戯だろうか。そう考えるには、状況が妙すぎる。
 この資料は、今日初めて借りたものだ。返却されたばかりでもない。貸出記録を見る限り、自分以外に、最近この本を開いた人間がいるとは思えない。
 それでも、蓮子は慌てなかった。ハガキを裏返す。
 文面は短かった。行間が妙に広く、余白が多い。蓮子は、ゆっくりと読み下した。

 次の方へ

 ありがとうございます
 
 後のことはお任せします

 上手く残してください


 読み終えて、蓮子はしばらく黙っていた。怖くはなかった。代わりに、胸の奥で何かが静かに引っかかっている。
「次の方」
 それは、まるで役割を示す言葉のようだった。バトンを渡すような、業務の引き継ぎのような。
 蓮子は、ハガキをもう一度資料のページに挟み直した。ちょうど、番号の抜け落ちている一覧表のところに。そこが、いちばん収まりがいい気がした。
 ノートを閉じ、腕時計を見る。
「まだ、時間はある。メリーに、見せた方がいい」

そう判断するまでに、ほとんど迷いはなかった。

――――

 メリーは、図書館の自習室にいた。
 いつもの席。窓際で、外の景色がよく見える。ノートパソコンを開いていたが、画面はほとんど見ていなかったらしく、蓮子が声をかけると少し驚いたように顔を上げた。
「どうしたの、蓮子。そんな顔して」
「ちょっとね」
 蓮子は、軽い調子を装って隣に座り、資料の一冊を机に置いた。そして、その中からハガキを抜き取る。

「これ、見て」
 メリーは、最初、意味が分からないという顔をした。次に、宛名を見て、眉をひそめる。消印に視線が移った瞬間、表情が変わった。
 それは、怖がっている顔ではなかった。距離を測り直している顔だった。何かと自分の間に、どれだけの空間があるのかを、確認しているような。

「……触っていい?」
「どうぞ」
 メリーは、指先だけでハガキをつまみ、裏返す。文面を読み進めるにつれ、目の動きが少しずつ遅くなっていく。
 最後の行を読み終えたところで、ハガキを机に伏せた。

 しばらく、何も言わない。
 自習室には、キーボードを叩く音と、ページをめくる音だけが流れている。窓の外では、誰かが笑っている声がする。
「ねえ、メリー」
 蓮子が先に口を開いた。
「これ、どう思う?」
 メリーは、すぐには答えなかった。視線はハガキから外さず、まるでそこに書かれていない行間を読もうとしているかのようだった。
「……蓮子」
低い声だった。
「これ、誰かが”引き止めようとしてる”んじゃない」
「うん」
 蓮子は頷いた。
「じゃあ何?」
「……役割を、引き渡そうとしてる」
 その言い方に、蓮子は小さく息を呑んだ。

「引き渡す?」
「調べる人から、残す人へ」
 メリーは、そこで初めてハガキから視線を外し、蓮子を見た。
「これを書いた人は――人かどうか分からないけれど――もう調べてない。調べ終わってる」
「終わってる、って」
「終わらされた、の方が近いかも」

 メリーは、ハガキをそっと押し返した。触れない距離で。
「蓮子、お願い。これ以上はやめて」
 その声は、以前よりもはっきりしていた。理屈ではなく、結論として。

「これはね、知らない方がいい話じゃない。知ったあとで、戻れなくなる話。関わらない方が良い話よ」
 蓮子は、少し考える素振りを見せた。
 そして、笑った。

「……でもさ」
 ハガキを指で叩く。
「もう、向こうは私のこと知ってるんだよ?」
 メリーは、何も言い返せなかった。
「それに」
 蓮子は、資料を一冊、メリーの前に差し出す。
「これ、見て。これまで集めた情報と組み合わせると色々と合点がいくの。この祠は都市開発で何度か場所を移しているけれど、御霊抜きだとかをやっていないのよ。だから――」
 メリーの指先が蓮子の口を遮った。
「……それ以上“秘密”を口にしない方がいい」
 
 そしてメリーは、静かに続けた。
「これ以上、止めない」
「うん、ありがと」
「その代わり」
 メリーは、蓮子をまっすぐ見つめる。
「あなたが何を”残すことになるのか”、私が全部、見ておく」

 蓮子は、一瞬だけ驚いた顔をしてから、笑顔に戻った。
「それ、心強いなあ」
 メリーは笑わなかった。

 ハガキを、もう一度だけ見て、呟く。
「……選ばれちゃったね」
 その言葉の意味を、二人とも、まだ正確には理解していなかった。

――――

 三日後。蓮子は、また一人で現地へ向かった。

「ちょっと行ってくる」
 メリーにそう告げたとき、メリーは何も言わなかった。ただ、小さく頷いただけだった。

その表情が、妙に諦めているように見えて、蓮子は少しだけ胸が痛んだ。
「すぐ戻るから」
 そう言って、メリーの部屋を出た。

 蓮子が戻ってきたのは、日が沈みかけた頃だった。
「ただいま」
 声も、足取りも、いつもと変わらない。少しだけ、靴の縁に乾いた土が付いているのを除けば。

「どうだった?」
 メリーが聞くと、蓮子は首を傾げた。
「何が?」
 メリーの手が、一瞬、止まった。
「……今日、調査に行くって」
「ああ」
 少し考えてから、肩をすくめる。
「歩いたよ。結構」
 それ以上は、出てこなかった。

 メリーは、それ以上踏み込まなかった。
 代わりに、蓮子の顔をじっと見た。何かを探すように。蓮子は、いつも通りの笑顔を浮かべている。何も変わっていないように見える。

 だが、メリーには分かった。蓮子の中で、何かが抜け落ちている。
 祠の名前。場所。経路。そして、辿り着いた事実。それら全てがきれいに、きれいに、消えている。

「……お疲れ様」
 メリーは、そう言うしかなかった。
 蓮子は、少し不思議そうな顔をして、笑った。
「別に、そんな大したことしてないけど」

――――

夜になってから蓮子は自宅へ帰り、メリーは一人でソファに腰掛けていた。

メリーは蓮子が置いて行ったファイルを手に取る。

 背表紙の文字は、見慣れたものだった。
 《市街地における祠の変遷》
 中身は完成していた。
 年表は整い、引用元も明記され、資料としての体裁は申し分ない。蓮子らしい、几帳面な仕事だった。
 本文を読み進めて、メリーは手を止めた。

――――

**■■■は■■■であるため■■■を元に検索。**
**該当資料は棚番号A ■番■■■■を参照。**
**■■の■■■と同一住所が■■■ある為、■■■を重ね■■ことを推奨。**

たぶん意味は通じる。

だが、決定的な部分だけが欠けている。

次のページも、同じだった。

――――

**■■■年以降、当該区域における■■■の記録は確認されない。**
**ただし、■■■■の場合を除く。**

――――

 例外があることだけが、示されている。何が例外なのかは、書かれていない。

 ページの端に、小さな注記があった。

 **――※現地確認済**

 メリーは、息を止めた。やはり蓮子は、辿り着いたのだ。
 そして、正しく残した。
 忘れるべきことは忘れて。記録すべきことだけを記録して。
「そして、肝心のファイルを私の家に忘れていく辺りの詰めの甘さがまた蓮子らしい」
 きっとこれは観測者に託された後始末なのだろうと笑う。

 翌朝メリーは、図書館の研究レポート蔵書コーナーに件のファイルをしれっと納めた。
 背表紋が、他の資料に紛れていく。控えめで、目立たない。

 町の中にある。どこにでもある。だからこそ、次に辿り着くのが誰なのかは、分からない。

――――

 その日の午後。
「ねえ、メリー」
 講義の合間、蓮子が何気なく言った。
「最近、何調べてたんだっけ?」
 メリーは、少しだけ迷った。そして、答えた。
「町の古い話」
「ふーん」
 それで、終わりだった。
 蓮子は、もう祠の名前を知らない。場所も、経路も、辿り着いた事実さえも。
 忘れるべきものは、すべて忘れている。

 メリーは、放課後、再び図書館に寄った。
 あのファイルは、誰でも手に取れる位置にあった。背表紙は、控えめで、目立たない。だが、確かにそこにある。

 次に手に取るのは、誰だろう。
 どんな理由で、ページを開くのだろう。そして、その人もまた、同じように「残す側」になるのだろうか。
 メリーは、ファイルに触れなかった。

ただ、その存在を確認して、静かに図書館を出た。廊下を歩きながら、ふと思う。
 蓮子は、幸せそうだった。忘れてしまったから、また新しいものを探せる。
 それでいいのかもしれない。でも、メリーは忘れない。蓮子が何を見つけて、何を残して、何を失ったのか。
 それを覚えておくことが、自分の役割だと思った。

 西日が、廊下の窓から差し込んでいる。メリーは、その光の中を歩きながら、小さく呟いた。

「……さよなら」

 誰に向けた言葉でもない。ただ、終わったものへの、静かな別れだった。

終話
 
 
酉河つくねと申します
ホラーの様な秘封倶楽部を書いてみました
酉河つくね
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コメント



0.簡易評価なし
1.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
2.100名前が無い程度の能力削除
祠が具体的に描かれていないからこそ不気味な感じが伝わりますね。
面白かったです。