現在の時刻は午前五時。幻想郷一紅い館も早朝である。
空が白み始めるこの時間、日を嫌う主の生活に合わせて、この館の住民は寝静まっている。
しかし、例外とはどこにでもいるものだ。
その“例外”の代表である館の主の専属メイドでありメイド長の十六夜咲夜は現在、散歩と見回りを兼ねた灯りの確認をしていた。
一般的には兼ねすぎであるように見えても、時間に厳格な彼女にとって、これはいつも通りのことだ。
彼女の能力を知る者にとってそれは一つ一つやればよいと思う行為であろうと、この時間のこの日課は能力を使わず、ゆっくりと明るくなっていく空を見ながらゆっくりと歩き行うのが、彼女の数少ない楽しみなのだ。
皆が眠るうえ、窓から差し込む日光によって明るいこの時間は、蝋がもったいないので、灯りである蝋燭の火をかぶせで消していくのだ。
ほとんどは勝手に消えるのだが、時たま消えないものがる。それを消すのがこの仕事の役割だ。
そうして見つけた火にかぶせを押し付け、離したとき。
彼女の目の前には、いまだ消えず、むしろ少し大きくなったように見える炎があった。
「…?」
手元が狂ったのだろうと結論づけ、再度、先ほどよりもしっかりと押し付ける。
かぶせを取れば、火は消えていた。
当たり前のことだが、彼女は安堵の息を一つ吐くと、歩を進める。
そこで、彼女は、今さっき消した火のあった隣のろうそくに、火が灯っているのを認めた。
「………」
蝋燭と蝋燭の間には、あまり間隔がない。隣り合う蝋燭が二つとも明るかったらわかるはずだ。
疲れているのだろうか、今日はお嬢様に暇をもらおうか、などと考えながら彼女が覆いを落とすと、その火は消えたが、気づいたときにはその隣の蝋燭に、まるで最初からあったかのように火が燃えていた。
さすがに、疲れているにしてもおかしい。
そう考えた彼女はあたりを見回し、目の前以外に火がないことを確認する。
これでまた横に移ったり火が残っていたりしたら、誰かのいたずらか何かのせいにして今日は諦めよう、と考え、覆いを落とす。
結論から言うと、火が消えることはなかった。
けれどそれは普通の火ではなく、彼女が見たこともないほど青く光る火へと変化していた。
「…はぁ」
その火があまり綺麗で目立っていたもので、少し消したく無くなってしまった自分への幻滅と火への呆れを込めて短く息をこぼす。
せめてこの目立ちすぎる火の色が直るまでは粘ろう、とかぶせをあてる。
すると、色は戻すことができた。
しかし、見渡す限りすべての蝋燭に、火が灯った。
「………ふぅ…はぁ、やるしかないわね」
長い火との戦いを予感して、彼女はそうこぼす。
白み始めた窓の外を見やり、せめて日が昇り切る前には火を消し切ろう、と決意した。
◇◆◇
やっと終わった……
その感情を声と口には出さず、最後の火の前に立つ。
ここでまた覆いをかぶせるほど、彼女は阿呆ではない。
窓外にいたずらをする妖怪がいれば懲らしめるだけなので楽なのだが、といないことを確認したあと、そっと火に視線を戻す。
「貴方、自我でもあるの?」
そう静かに響いた声に反応するように、一瞬火が青くなる。
まさか本当に反応が返ってくるとは思っていなかった彼女は一度目を見張り、すぐに確認のためもう一度光るように言う。
火はまたしても、その言葉に反応するように光った。
「………」
本物ね、と眉を寄せる。
悪意はない。
妖怪でもない、もっと純粋な気配。
彼女は壁一面の蝋燭に一瞬で火が灯ったのを思い出す。
蝋燭限定であればいいが、違う場合、あの大量の火を操れるうえに、言葉を理解できるほどの知恵を持つならば、この館を火事にすることは容易いはずだ。
そうでなくても、悪意という感情は今なくともいつ芽生えるのかわからない神出鬼没なもの。すぐに館を焼くかもしれないと言われれば否定できない。
メイドとして、自分の対処できない、主に害をなす可能性のあるものはこの館においていけない、という認識になるのだが……
……とりあえず、この火は見張っておき、お嬢様にどうするか判断してもらおう。火がついた瞬間なら能力を使い、すぐに消火できる。
今日の仕事はできないが、仕方がない。安全が最優先だ。
彼女はそう思考を放棄する。
しかし、まだ主が起きるまでに長い時間があることを示す、あまり昇っていない太陽に、肩を落とすことをとめることはできなかった。
空が白み始めるこの時間、日を嫌う主の生活に合わせて、この館の住民は寝静まっている。
しかし、例外とはどこにでもいるものだ。
その“例外”の代表である館の主の専属メイドでありメイド長の十六夜咲夜は現在、散歩と見回りを兼ねた灯りの確認をしていた。
一般的には兼ねすぎであるように見えても、時間に厳格な彼女にとって、これはいつも通りのことだ。
彼女の能力を知る者にとってそれは一つ一つやればよいと思う行為であろうと、この時間のこの日課は能力を使わず、ゆっくりと明るくなっていく空を見ながらゆっくりと歩き行うのが、彼女の数少ない楽しみなのだ。
皆が眠るうえ、窓から差し込む日光によって明るいこの時間は、蝋がもったいないので、灯りである蝋燭の火をかぶせで消していくのだ。
ほとんどは勝手に消えるのだが、時たま消えないものがる。それを消すのがこの仕事の役割だ。
そうして見つけた火にかぶせを押し付け、離したとき。
彼女の目の前には、いまだ消えず、むしろ少し大きくなったように見える炎があった。
「…?」
手元が狂ったのだろうと結論づけ、再度、先ほどよりもしっかりと押し付ける。
かぶせを取れば、火は消えていた。
当たり前のことだが、彼女は安堵の息を一つ吐くと、歩を進める。
そこで、彼女は、今さっき消した火のあった隣のろうそくに、火が灯っているのを認めた。
「………」
蝋燭と蝋燭の間には、あまり間隔がない。隣り合う蝋燭が二つとも明るかったらわかるはずだ。
疲れているのだろうか、今日はお嬢様に暇をもらおうか、などと考えながら彼女が覆いを落とすと、その火は消えたが、気づいたときにはその隣の蝋燭に、まるで最初からあったかのように火が燃えていた。
さすがに、疲れているにしてもおかしい。
そう考えた彼女はあたりを見回し、目の前以外に火がないことを確認する。
これでまた横に移ったり火が残っていたりしたら、誰かのいたずらか何かのせいにして今日は諦めよう、と考え、覆いを落とす。
結論から言うと、火が消えることはなかった。
けれどそれは普通の火ではなく、彼女が見たこともないほど青く光る火へと変化していた。
「…はぁ」
その火があまり綺麗で目立っていたもので、少し消したく無くなってしまった自分への幻滅と火への呆れを込めて短く息をこぼす。
せめてこの目立ちすぎる火の色が直るまでは粘ろう、とかぶせをあてる。
すると、色は戻すことができた。
しかし、見渡す限りすべての蝋燭に、火が灯った。
「………ふぅ…はぁ、やるしかないわね」
長い火との戦いを予感して、彼女はそうこぼす。
白み始めた窓の外を見やり、せめて日が昇り切る前には火を消し切ろう、と決意した。
◇◆◇
やっと終わった……
その感情を声と口には出さず、最後の火の前に立つ。
ここでまた覆いをかぶせるほど、彼女は阿呆ではない。
窓外にいたずらをする妖怪がいれば懲らしめるだけなので楽なのだが、といないことを確認したあと、そっと火に視線を戻す。
「貴方、自我でもあるの?」
そう静かに響いた声に反応するように、一瞬火が青くなる。
まさか本当に反応が返ってくるとは思っていなかった彼女は一度目を見張り、すぐに確認のためもう一度光るように言う。
火はまたしても、その言葉に反応するように光った。
「………」
本物ね、と眉を寄せる。
悪意はない。
妖怪でもない、もっと純粋な気配。
彼女は壁一面の蝋燭に一瞬で火が灯ったのを思い出す。
蝋燭限定であればいいが、違う場合、あの大量の火を操れるうえに、言葉を理解できるほどの知恵を持つならば、この館を火事にすることは容易いはずだ。
そうでなくても、悪意という感情は今なくともいつ芽生えるのかわからない神出鬼没なもの。すぐに館を焼くかもしれないと言われれば否定できない。
メイドとして、自分の対処できない、主に害をなす可能性のあるものはこの館においていけない、という認識になるのだが……
……とりあえず、この火は見張っておき、お嬢様にどうするか判断してもらおう。火がついた瞬間なら能力を使い、すぐに消火できる。
今日の仕事はできないが、仕方がない。安全が最優先だ。
彼女はそう思考を放棄する。
しかし、まだ主が起きるまでに長い時間があることを示す、あまり昇っていない太陽に、肩を落とすことをとめることはできなかった。
火そのものなら、氷精避けくらいには使えそうですね
好きなキャラは秘密です。今作品集の「アタイは馬鹿だから」や、着想が近しい「妖精は二進法を採用しました」が好きです
風音さんの作品も好きですよ