今年も、紅魔館にサンタクロースは来る。
これは確定事項だ。
だって、毎年プレゼントは置いてある。
置いたのは誰か。サンタだ。はい論破。
「お姉様は“それは咲夜よ”って言ってたけど」
咲夜はたしかに来る。時間を止めて、静かに、完璧に。
―――でも。
それでも、毎年1ミリのズレもなく、全く同じ形のリボンと包装でプレゼントが置いてあるのは……できすぎじゃない?
「そっか、で済ませるのも…つまんないよね」
私は小さく口角を上げる。
捕まえたいわけじゃない。
壊したいわけじゃない。
ただ、ちゃんと見たい。
だから、私は去年のクリスマスにもらったまっさらなノートの表紙をめくったのだった。
今年もサンタは来る。
だから、罠を作ってみる。
しかし、いかんせん罠には慣れていないもので、相場がわからない。
なので、とりあえず3段構えにしてみた。
まず、床一面に張り巡らせた体温に反応する魔方陣。サンタに30度以上の体温があれば、即座に発動して槍が飛び出す。
次に、人が足を踏み入れた瞬間、部屋ごと圧縮する結界。逃げ場はない。
最後に、大きな音とともに爆発する魔力爆弾。鋼鉄でさえ原型をとどめるどころか炭さえ残さないくらい強く、高火力だ。パチュリーに頼んだらうっきうきで作ってくれた。
捕まえる。
壊す。
だって、相手はサンタだ。
サンタの正体を知りたい子どもたちから逃げ切り、夢を守るスペシャリスト……言うならば、プレゼントのプロだ。
だって、そのプロが素人の罠に引っかかって壊れるなんて、あるわけないでしょう?
そう思いながら、私はいつものように自室の棺桶の中に潜り込んで、そのまま眠った。
◇◆◇
日が落ちかけた頃、目が覚めて棺桶の蓋を開ける。
私は吸血鬼だ。だから、血の匂いにはすごく敏感。
けれど全く、あの鉄のようなツンとくる匂いがない。壊れた跡も、焦げた匂いもない。捕まっていない、罠がきいていない証拠だ。
……それだけじゃない。
魔方陣は綺麗に消され、結界は解かれ、魔力爆弾は影も形もない。
「…サンタめ、小癪な…」
ぽつりと漏れた声が、思ったよりも大きく響いた。
ただ全てが…丁寧に、それはもう丁寧に、元通りだった。
嘲笑われた、とか、からかわれた、というより。
採点されたみたいだった。
「……ふふ」
でも、そういっても…怒りや悔しさなんかより、楽しさが勝った。
だってこれは―――
「サンタクロースからの挑戦状、ってところかな」
私は開きっぱなしだった手帳を見やった。
1年目
サンタは、捕まらなかった。
今年もサンタは来た。
それを前提に、罠を組んだ。
去年の構成を基準に、すべて改良した。
魔法陣は感度を上げた。
結界は厚くし、何重にも重ねた。
魔力爆弾は数を増やし、範囲を広めた。
逃げ道なんてもってのほか。廊下、天井、床下……あらゆる出入り口に鍵を付け、無理やり開けようとしたら鳴るブザーも取りつけ、施錠した。
去年より、明らかに完璧にした。
眠る時間中、異常は一切なかった。ブザーも鳴らなかったし、壊れる音も、何かが動く音も無かった。
◇◆◇
「…なんで?」
思ったより、素直な声が出た。
去年より強くした。
去年より多くした。
去年より逃げられないようにした。
それでも、いない。
日記に、初めてこの言葉を書いた。
“失敗”
捕まえられなかった。
でも、その理由が分からなかった。
―――2年目
サンタは、やっぱり捕まらなかった。
今年も、サンタは来た。
来ること自体には、もう疑問をもっていない。
罠の方向性を変えてみた。
力ではなく、気配を見ることにしたのだ。
侵入者の心拍を測る魔道具。
殺気を拾う結晶。
嘘や警戒に反応する簡易結界。
すべて、感知されたら私でも動けなくなるくらいの毒ガスをばらまく装置につながっている。
サンタなら、純粋にプレゼントを届けるはず。
けれど、悪意や敵意があれば、必ず引っかかる。
夕方。
罠は、またしても綺麗に解除されていた。
ガスは、ほんの少したりとも減っていなかった。
サンタが足した、ということはないだろうから、やはり悪意、警戒、企みなどはないのだろう。
やっぱり、プレゼントを運んでいるのはどこまでも子どもたちの“理想”の、まるで面白くない夢のようなサンタクロースだ。
◇◆◇
「……おかしいでしょ」
思わず、壁に拳を打ち付ける。
きてる。
けど、その存在の証拠はこのプレゼントと並んだ罠たちだけしかない。捕まらない。
足跡一つ、ない。
人の家に不法侵入し、不法投棄していく不審者に、何の企みもないだなんて、絶対おかしい。
日記の端に、強く線を引いた。ペンがミシミシっと音を立てた。
考えも、言葉もまとまらない。
―――3年目
苛立ちだけが、はっきりのこった。
今年もサンタは来た。
その前提は揺るがない。
罠を根本から作り直した。
今度は、壊すためじゃない。
重力を反転する魔道具。
魔力を死のギリギリまで吸い取る鎖。
強烈な眠気を誘う霧を充満させた部屋。。
捕まえられればいい。
動けなくさせて、その姿を見ることができれば、それで。
静かな日だった。
霧は停滞し、鎖は来たる時まで音もなくまっていた。
夕方。
部屋は、もとに戻っていた。霧は瓶に戻され、鎖は絡まないようきちんと巻かれ、重力波は逆に安定していた。
◇◆◇
「…器用すぎない?」
誰にともなく、つぶやいた。
壊れても、失敗してもいなかった。
ただ、捕まらなかった。
日記に、少し考えてから、つけ足す。
―――4年目
捕まえようとしても、駄目だった。
今年もサンタは来た。
罠は、だいたい去年と同じ。
組むのも早かった。
特に工夫も、進歩もしていない。
失敗する前提で動いた。
夕方。
やっぱり、いなかった。
◇◆◇
片付けも、もう慣れた。
日記には、そのひと言だけ書いた。
―――5年目
今年も、そういう日。
今年は、空から来る可能性をつぶした。
巫女に頼んで、雨を降らせてもらった。
屋根も、窓も、煙突も、床も、全部ふさいだ。
侵入は許しても、せめて手間取るはずだった。
濡れるはずだった。
でも、夕方見るとプレゼントは乾いていた。
◇◆◇
罠は、作動していない。
今年も、等間隔に並んでいる。
足跡も、水滴のあと一粒さえなかった。
―――6年目
サンタは……人間どころか、妖怪や神、霊でもないのかもしれない。
今年は、罠をほとんど作らなかった。
糸を一本。
それにつなげた鈴を、一つ。
それだけ。
◇◆◇
糸は、きれいに巻かれていた。
鈴は、鳴らなかった。
―――7年目
今年は、一つの罠さえ作らなかった。
かわりに、明かりをつけた。
部屋の中心で、丸一日、消さずに。
私は、棺桶にはいらず、眠らなかった。
◇◆◇
気づけば、夕方だった。
肩に、毛布がかかっていた。
―――8年目
今年は、何もしなかった。
罠も作らず、明かりもつけず、普通に横になって寝た。
◇◆◇
夕方になって、目が覚める。
いつものように、1ミリのズレもなく、プレゼントが置いてあった。
壊されてもいない。見られてもいない。捕まえられてもいない。
でもなぜか、今日はそれでいい。それがいいと、思った。
―――9年目
サンタクロースは、捕まえられなくて、見られないから、サンタクロースなのだ。
これは確定事項だ。
だって、毎年プレゼントは置いてある。
置いたのは誰か。サンタだ。はい論破。
「お姉様は“それは咲夜よ”って言ってたけど」
咲夜はたしかに来る。時間を止めて、静かに、完璧に。
―――でも。
それでも、毎年1ミリのズレもなく、全く同じ形のリボンと包装でプレゼントが置いてあるのは……できすぎじゃない?
「そっか、で済ませるのも…つまんないよね」
私は小さく口角を上げる。
捕まえたいわけじゃない。
壊したいわけじゃない。
ただ、ちゃんと見たい。
だから、私は去年のクリスマスにもらったまっさらなノートの表紙をめくったのだった。
今年もサンタは来る。
だから、罠を作ってみる。
しかし、いかんせん罠には慣れていないもので、相場がわからない。
なので、とりあえず3段構えにしてみた。
まず、床一面に張り巡らせた体温に反応する魔方陣。サンタに30度以上の体温があれば、即座に発動して槍が飛び出す。
次に、人が足を踏み入れた瞬間、部屋ごと圧縮する結界。逃げ場はない。
最後に、大きな音とともに爆発する魔力爆弾。鋼鉄でさえ原型をとどめるどころか炭さえ残さないくらい強く、高火力だ。パチュリーに頼んだらうっきうきで作ってくれた。
捕まえる。
壊す。
だって、相手はサンタだ。
サンタの正体を知りたい子どもたちから逃げ切り、夢を守るスペシャリスト……言うならば、プレゼントのプロだ。
だって、そのプロが素人の罠に引っかかって壊れるなんて、あるわけないでしょう?
そう思いながら、私はいつものように自室の棺桶の中に潜り込んで、そのまま眠った。
◇◆◇
日が落ちかけた頃、目が覚めて棺桶の蓋を開ける。
私は吸血鬼だ。だから、血の匂いにはすごく敏感。
けれど全く、あの鉄のようなツンとくる匂いがない。壊れた跡も、焦げた匂いもない。捕まっていない、罠がきいていない証拠だ。
……それだけじゃない。
魔方陣は綺麗に消され、結界は解かれ、魔力爆弾は影も形もない。
「…サンタめ、小癪な…」
ぽつりと漏れた声が、思ったよりも大きく響いた。
ただ全てが…丁寧に、それはもう丁寧に、元通りだった。
嘲笑われた、とか、からかわれた、というより。
採点されたみたいだった。
「……ふふ」
でも、そういっても…怒りや悔しさなんかより、楽しさが勝った。
だってこれは―――
「サンタクロースからの挑戦状、ってところかな」
私は開きっぱなしだった手帳を見やった。
1年目
サンタは、捕まらなかった。
今年もサンタは来た。
それを前提に、罠を組んだ。
去年の構成を基準に、すべて改良した。
魔法陣は感度を上げた。
結界は厚くし、何重にも重ねた。
魔力爆弾は数を増やし、範囲を広めた。
逃げ道なんてもってのほか。廊下、天井、床下……あらゆる出入り口に鍵を付け、無理やり開けようとしたら鳴るブザーも取りつけ、施錠した。
去年より、明らかに完璧にした。
眠る時間中、異常は一切なかった。ブザーも鳴らなかったし、壊れる音も、何かが動く音も無かった。
◇◆◇
「…なんで?」
思ったより、素直な声が出た。
去年より強くした。
去年より多くした。
去年より逃げられないようにした。
それでも、いない。
日記に、初めてこの言葉を書いた。
“失敗”
捕まえられなかった。
でも、その理由が分からなかった。
―――2年目
サンタは、やっぱり捕まらなかった。
今年も、サンタは来た。
来ること自体には、もう疑問をもっていない。
罠の方向性を変えてみた。
力ではなく、気配を見ることにしたのだ。
侵入者の心拍を測る魔道具。
殺気を拾う結晶。
嘘や警戒に反応する簡易結界。
すべて、感知されたら私でも動けなくなるくらいの毒ガスをばらまく装置につながっている。
サンタなら、純粋にプレゼントを届けるはず。
けれど、悪意や敵意があれば、必ず引っかかる。
夕方。
罠は、またしても綺麗に解除されていた。
ガスは、ほんの少したりとも減っていなかった。
サンタが足した、ということはないだろうから、やはり悪意、警戒、企みなどはないのだろう。
やっぱり、プレゼントを運んでいるのはどこまでも子どもたちの“理想”の、まるで面白くない夢のようなサンタクロースだ。
◇◆◇
「……おかしいでしょ」
思わず、壁に拳を打ち付ける。
きてる。
けど、その存在の証拠はこのプレゼントと並んだ罠たちだけしかない。捕まらない。
足跡一つ、ない。
人の家に不法侵入し、不法投棄していく不審者に、何の企みもないだなんて、絶対おかしい。
日記の端に、強く線を引いた。ペンがミシミシっと音を立てた。
考えも、言葉もまとまらない。
―――3年目
苛立ちだけが、はっきりのこった。
今年もサンタは来た。
その前提は揺るがない。
罠を根本から作り直した。
今度は、壊すためじゃない。
重力を反転する魔道具。
魔力を死のギリギリまで吸い取る鎖。
強烈な眠気を誘う霧を充満させた部屋。。
捕まえられればいい。
動けなくさせて、その姿を見ることができれば、それで。
静かな日だった。
霧は停滞し、鎖は来たる時まで音もなくまっていた。
夕方。
部屋は、もとに戻っていた。霧は瓶に戻され、鎖は絡まないようきちんと巻かれ、重力波は逆に安定していた。
◇◆◇
「…器用すぎない?」
誰にともなく、つぶやいた。
壊れても、失敗してもいなかった。
ただ、捕まらなかった。
日記に、少し考えてから、つけ足す。
―――4年目
捕まえようとしても、駄目だった。
今年もサンタは来た。
罠は、だいたい去年と同じ。
組むのも早かった。
特に工夫も、進歩もしていない。
失敗する前提で動いた。
夕方。
やっぱり、いなかった。
◇◆◇
片付けも、もう慣れた。
日記には、そのひと言だけ書いた。
―――5年目
今年も、そういう日。
今年は、空から来る可能性をつぶした。
巫女に頼んで、雨を降らせてもらった。
屋根も、窓も、煙突も、床も、全部ふさいだ。
侵入は許しても、せめて手間取るはずだった。
濡れるはずだった。
でも、夕方見るとプレゼントは乾いていた。
◇◆◇
罠は、作動していない。
今年も、等間隔に並んでいる。
足跡も、水滴のあと一粒さえなかった。
―――6年目
サンタは……人間どころか、妖怪や神、霊でもないのかもしれない。
今年は、罠をほとんど作らなかった。
糸を一本。
それにつなげた鈴を、一つ。
それだけ。
◇◆◇
糸は、きれいに巻かれていた。
鈴は、鳴らなかった。
―――7年目
今年は、一つの罠さえ作らなかった。
かわりに、明かりをつけた。
部屋の中心で、丸一日、消さずに。
私は、棺桶にはいらず、眠らなかった。
◇◆◇
気づけば、夕方だった。
肩に、毛布がかかっていた。
―――8年目
今年は、何もしなかった。
罠も作らず、明かりもつけず、普通に横になって寝た。
◇◆◇
夕方になって、目が覚める。
いつものように、1ミリのズレもなく、プレゼントが置いてあった。
壊されてもいない。見られてもいない。捕まえられてもいない。
でもなぜか、今日はそれでいい。それがいいと、思った。
―――9年目
サンタクロースは、捕まえられなくて、見られないから、サンタクロースなのだ。
面白かったです
面白かったです。
おしゃれで無邪気で完璧で瀟洒なお話でした
パチュリーなにしてん
コメントしてくれた皆さん、本当にありがとうございます。