霧雨魔理沙は息を引き取った。八十年と少しの人生だった。それを短いという者もいれば、長いという者もいた。悲しむ者もいれば、そうでない者もいた。少なくともアリスにとっては短かったし、悲しかった。だからアリスはわんわん泣いた。
それから三十年が経った頃、アリスの元に魔理沙が現れた。今は真梨沙というらしい。真梨沙は、魔理沙が生前にアリスと完成させた「何度でも生き返る魔法」のおかげで、魔理沙だった頃の記憶を引き継いでいた。真梨沙は再びアリスと連れ添いたいと言い、アリスもそれを受け入れた。そして真梨沙はその五十年後に息を引き取った。アリスはさめざめ泣いた。
更に二十年が経って、また魔理沙が現れた。今度は馬哩紗というらしい。大陸に生まれて、これがフルネームだと馬哩紗は語った。馬哩紗は当たり前のようにアリスの家に棲みつき、そこから六十年生きて死んだ。アリスはしくしく泣いた。
それからも魔理沙は、現れて死んで現れて死んでを繰り返した。「眞莉沙」だったり、「万里咲」だったりした。「Marisa」だった事も、「ماريسا」だった事もあった。とにかく響きはずっと「まりさ」だった。
魔理沙は幸せな家庭に生まれる事もあれば、そうでない事もあった。どんな家庭に生まれても、それを捨ててアリスの元に向かった。十年掛かる事もあれば、八十年掛かる事もあった。どれだけ時間が掛かっても魔理沙は必ずアリスの元に辿り着き、そのそばで最期を迎えた。アリスもまた、魔理沙の手を握って見送り、涙を流した。
魔理沙が生まれたり死んだりを繰り返している内に、大きな時間が流れた。魔理沙が魔理沙だった時代に読んでいた本が、真偽不明の古文書扱いされてしまう程に大きな時間だった。
その間、人類は何度も存続の危機に直面し、乗り越えてきた。自らの手で招いたものもあれば、そうでないものもあった。危機に瀕する度に叡智を結集させ、打開策を打ち出していた。
しかし、それもいよいよ行き詰まっていた。異常気象は陸地の九割を砂漠化し、地球は緑の芽吹かない星と化していた。人類はいよいよ最後の手段として、地球外への脱出を決断した。数百光年先に、かつての地球とよく似た星があるらしい。自らをコールドスリープし、数千機のロケットで新天地を目指す計画を立てた。マザーコンピューターの計算によると、無事に辿り着けるのは運が良くてもその中のニ、三機らしい。
魔理沙は、その移住に最後まで反対する家庭に生まれた。丁度、百万回目の人生だった。地球と共に滅亡することを決めた両親に、魔理沙は何も思う事は無かった。ただ、久しぶりに「魔理沙」と名付けてくれた事には感謝していた。
魔理沙は頃合いを見て家を飛び出し、アリスの元に向かった。幻想郷はとうに解散して、妖怪達は別の楽園に移り住んでいた。アリスだけが、魔理沙を迎える為に、かつて幻想郷のあった場所に一人で暮らしていた。
魔理沙はアリスの家の扉を叩いた。そして、出迎えたアリスに抱きついた。魔理沙は、人類が地球を去る事、同時に地球が爆破される事をアリスに教えた。爆破する事についてアリスは「どうして?」と不思議がったけど、魔理沙が「死んだ後に日記見られると恥ずかしいんだよ」と言うと妙に納得していた。
それから三年間、二人は仲良く暮らした。食糧は少なくて、魔理沙はいつもお腹を空かせていたけど、ずっと幸せだった。
そして、人類の約束の日が訪れた。夜空に打ち上がる数千のロケットを、魔理沙とアリスは手を繋いで見上げた。
地球を包む炎が、二人を呑み込んだ。
数億年が経った。表面を焼かれた地球は、それでも生きていた。
新天地を目指したロケットが何機無事に辿り着いたのかは分からない。ただ、地球を包んだ人類の叡智の結晶は、地の底、海の底の極小生物までは死滅させる事は出来なかった。
極小生物からこの星の生命は盛り返し、大地は再び緑が覆い、哺乳類に近い動物までも出現していた。それは、リスのような生き物だった。
その生き物は、捕食者がまだいないので、潤沢な食べ物をおよそ独占し、警戒心も無く呑気に暮らしていた。
魔理沙とアリスは、その生き物に生まれ変わっていた。残念ながら知性に乏しいので、自分がかつて何であったかは理解していない。けれど、お互いが離れがたい存在である事は感じ取って、死ぬまで行動を共にした。
それからも二人は、常に食物連鎖の頂点となる生き物に生まれ変わった。鳥のような生き物だったり、虎のような生き物だったりした。どんな時も二人は一緒に生き、死んでいった。
更に数千万年経って、遂に高い知能を持つ生物が生まれ始めた。そんな新人類と呼ぶべき生物に生まれ変わった二人は、漸く自分達が魔理沙とアリスである事を思い出した。
そして、旧人類の魔理沙とアリスだった頃に得た知恵や知識を駆使し、新人類達を治め、国を作った。新人類は争いを好まない穏やかな性分であった為、平和な国となった。
魔理沙とアリスは、生まれ変わる自分達が代々統治する仕組みを構築し、それぞれの名前から二字ずつ取ってその国に名前を付けた。
二人は何度も生まれ変わりながら、星全体にその輪を広げていった。新人類達は、二人を敬い、その統治下で平和に幸せに暮らすようになった。
そうして、かつて地球という名で呼ばれていた星は、まるごと「マリアリ王国」となった。
それから三十年が経った頃、アリスの元に魔理沙が現れた。今は真梨沙というらしい。真梨沙は、魔理沙が生前にアリスと完成させた「何度でも生き返る魔法」のおかげで、魔理沙だった頃の記憶を引き継いでいた。真梨沙は再びアリスと連れ添いたいと言い、アリスもそれを受け入れた。そして真梨沙はその五十年後に息を引き取った。アリスはさめざめ泣いた。
更に二十年が経って、また魔理沙が現れた。今度は馬哩紗というらしい。大陸に生まれて、これがフルネームだと馬哩紗は語った。馬哩紗は当たり前のようにアリスの家に棲みつき、そこから六十年生きて死んだ。アリスはしくしく泣いた。
それからも魔理沙は、現れて死んで現れて死んでを繰り返した。「眞莉沙」だったり、「万里咲」だったりした。「Marisa」だった事も、「ماريسا」だった事もあった。とにかく響きはずっと「まりさ」だった。
魔理沙は幸せな家庭に生まれる事もあれば、そうでない事もあった。どんな家庭に生まれても、それを捨ててアリスの元に向かった。十年掛かる事もあれば、八十年掛かる事もあった。どれだけ時間が掛かっても魔理沙は必ずアリスの元に辿り着き、そのそばで最期を迎えた。アリスもまた、魔理沙の手を握って見送り、涙を流した。
魔理沙が生まれたり死んだりを繰り返している内に、大きな時間が流れた。魔理沙が魔理沙だった時代に読んでいた本が、真偽不明の古文書扱いされてしまう程に大きな時間だった。
その間、人類は何度も存続の危機に直面し、乗り越えてきた。自らの手で招いたものもあれば、そうでないものもあった。危機に瀕する度に叡智を結集させ、打開策を打ち出していた。
しかし、それもいよいよ行き詰まっていた。異常気象は陸地の九割を砂漠化し、地球は緑の芽吹かない星と化していた。人類はいよいよ最後の手段として、地球外への脱出を決断した。数百光年先に、かつての地球とよく似た星があるらしい。自らをコールドスリープし、数千機のロケットで新天地を目指す計画を立てた。マザーコンピューターの計算によると、無事に辿り着けるのは運が良くてもその中のニ、三機らしい。
魔理沙は、その移住に最後まで反対する家庭に生まれた。丁度、百万回目の人生だった。地球と共に滅亡することを決めた両親に、魔理沙は何も思う事は無かった。ただ、久しぶりに「魔理沙」と名付けてくれた事には感謝していた。
魔理沙は頃合いを見て家を飛び出し、アリスの元に向かった。幻想郷はとうに解散して、妖怪達は別の楽園に移り住んでいた。アリスだけが、魔理沙を迎える為に、かつて幻想郷のあった場所に一人で暮らしていた。
魔理沙はアリスの家の扉を叩いた。そして、出迎えたアリスに抱きついた。魔理沙は、人類が地球を去る事、同時に地球が爆破される事をアリスに教えた。爆破する事についてアリスは「どうして?」と不思議がったけど、魔理沙が「死んだ後に日記見られると恥ずかしいんだよ」と言うと妙に納得していた。
それから三年間、二人は仲良く暮らした。食糧は少なくて、魔理沙はいつもお腹を空かせていたけど、ずっと幸せだった。
そして、人類の約束の日が訪れた。夜空に打ち上がる数千のロケットを、魔理沙とアリスは手を繋いで見上げた。
地球を包む炎が、二人を呑み込んだ。
数億年が経った。表面を焼かれた地球は、それでも生きていた。
新天地を目指したロケットが何機無事に辿り着いたのかは分からない。ただ、地球を包んだ人類の叡智の結晶は、地の底、海の底の極小生物までは死滅させる事は出来なかった。
極小生物からこの星の生命は盛り返し、大地は再び緑が覆い、哺乳類に近い動物までも出現していた。それは、リスのような生き物だった。
その生き物は、捕食者がまだいないので、潤沢な食べ物をおよそ独占し、警戒心も無く呑気に暮らしていた。
魔理沙とアリスは、その生き物に生まれ変わっていた。残念ながら知性に乏しいので、自分がかつて何であったかは理解していない。けれど、お互いが離れがたい存在である事は感じ取って、死ぬまで行動を共にした。
それからも二人は、常に食物連鎖の頂点となる生き物に生まれ変わった。鳥のような生き物だったり、虎のような生き物だったりした。どんな時も二人は一緒に生き、死んでいった。
更に数千万年経って、遂に高い知能を持つ生物が生まれ始めた。そんな新人類と呼ぶべき生物に生まれ変わった二人は、漸く自分達が魔理沙とアリスである事を思い出した。
そして、旧人類の魔理沙とアリスだった頃に得た知恵や知識を駆使し、新人類達を治め、国を作った。新人類は争いを好まない穏やかな性分であった為、平和な国となった。
魔理沙とアリスは、生まれ変わる自分達が代々統治する仕組みを構築し、それぞれの名前から二字ずつ取ってその国に名前を付けた。
二人は何度も生まれ変わりながら、星全体にその輪を広げていった。新人類達は、二人を敬い、その統治下で平和に幸せに暮らすようになった。
そうして、かつて地球という名で呼ばれていた星は、まるごと「マリアリ王国」となった。
今回も最高のマリアリでした。ありがとうございました。