「ここがスターちゃん達のおうちなんだ...」
大妖精は三妖精の一人、スターサファイアからお茶の誘いを受けて、家にやってきた。
「すごい...」
同じ妖精がこんなところで生活してるなんて...
「森に落ちてたものをみんなで集めたのよ。いろいろあるわよ」
「これは何だろう」
大妖精が指差したのは、木のようなものに布が覆いかぶさっていて、その上にふかふかしたものが乗っていた。
「ここで3人で寝るのよ。このふかふかしたのを体にかけてさ」
3人で...?
スターちゃん達は寝る時も一緒なんだ...
「私はお茶を用意するから、そこで座って待ってて」
「...」
「どうしたの、大妖精さん?」
「あ、いや、何でもないよ!じゃあ待ってるね」
大妖精は"それ"が気になって仕方がなかった。
木の椅子に座りながらじーっと見つめる。
「いいなあ...」
私もチルノちゃんと...
「おまたせ、大妖精さん。さあ飲みましょ」
「ありがとう。いただきます」
湖に森に、そして神社
馴染みのあるところをひと通り回っていた。
「ないなあ」
そんな都合よく目当てのものが落ちてるわけない、そう分かっているものの諦めきれず同じところを何日も探し続けたが・・・
「やっぱりないよね...よし、こうなったら...!」
大妖精は住処である湖に戻った。
ついに諦めて帰宅...したのではなく、
期待と不安を抱きながら湖の傍のかまくらへ向かった。
「いる...かな...」
少しだけ前屈みになって覗き込む。
「あ...」
「おう!大ちゃん!」
「チルノちゃん...!」
「あれ?大ちゃんなんか久しぶりな気がするなあ」
「あはは...」
たった数日会えなかっただけなのに、どうしてこんなに嬉しいんだろう。
どうしてこんなに心が暖かくなるんだろう。
やっぱり私は、チルノちゃんが大好きだ。
「チルノちゃん、今日は行きたいところがあるの」
「大ちゃんが行きたいとこならどこでも行ってやるぞ!で、どこなんだ?」
「あのね、それはね...」
一緒に寝るふとんを買いたい
そのまま言えばいいのに、恥ずかしさが邪魔をする。
「あの...その...」
「大ちゃん?」
「チルノちゃんにもっと気持ちよく寝てほしいの!」
「へ...?」
何言ってるんだろう、私
「チ、チルノちゃんはいつも氷の上で寝てて、体中が痛くならないのかなって...その...」
「あたいは平気だけどなー」
「平気じゃないよ!」
ガシッ
「なっ」
気がつくとチルノの手首を強く掴んでしまっていた。
「だ、大ちゃんどうしたのさ」
「はっ!?ご、ごめんね?チルノちゃん...」
大妖精が手をほどくと今度はチルノが大妖精の手を優しく握った。
「大ちゃん、言いたいことあるならはっきり言ってよね。あたいと大ちゃんの仲なんだからさあ」
「そうだよね...」
そうだ、落ち着こう。
落ち着いて正直に話そう。
チルノちゃんなら分かってくれるはずなのに、私が信じてあげれなかっただけなんだ。
私がそんなんじゃ、ダメじゃない...!
ゆっくりと深呼吸して...
「あのね、今までお店屋さんで貯めたお金で、人里に買い物に行きたいの」
「お、大ちゃん何か買いたいものがあるのか」
「うん...布を買いたいんだ...」
「ぬのぉ?」
チルノは目を丸くした。
「スターちゃんから聞いたんだ。いつも3人で1つの布を被ってくっついて寝てるんだって」
「ふむふむ」
「それでね、私もチルノちゃんと一緒に寝てみたいの。そのために布が必要なの...」
「一緒に寝るのって楽しいのかな?」
「そ、それは...」
わかっていた
チルノちゃんにとって私はただの遊び相手
楽しいか楽しくない以外関係ないよね
私がおかしいんだ、きっと...
ん...冷たい...
はっ...!
「ほら!いこう!」
「チ、チルノちゃん!?」
チルノはうつむく大妖精の手をとっていった。
「あたい、よく分かんないけど、大ちゃんがやりたいってならいいよ!」
「チルノちゃん...」
「だからいこ?人里に!」
「うん、うん...!」
ふたりは手を繋いで飛び出した。
大妖精は今まで貯めたお金を落とさないように片手でぎゅっと胸に抱える。
ふたりで一緒にいくのは、ふたりで貯めたお金を使うのもそうだが、もう一つ理由があった。
大妖精は人里への行き方がよくわからなかった。今までも何度かチルノと一緒に行ったことはあるのだが、それでも覚えられないのである。
大妖精は確かに妖精の中では控えめな性格だが、特段頭がいい、というわけでもない。
他の妖精同様に忘れっぽいのだ。
一方でチルノはどういうわけかちゃんと行き方を覚えている。
チルノこそよくバカだ、バカだと言われているのに、他の妖精と一線を画す面も多かった。
その異質ともいえる氷の羽を見て、大妖精は時々思う。
彼女は本当に自分たちと同じ妖精なのだろうかと。
「ん...」
「どうした?あたいの顔に何かついてるのか?」
「んーん、何でもないよ!」
チルノちゃん...
だからチルノちゃんは、私を真っ直ぐ見てくれないのかな...
ねえ、チルノちゃん...?
「よおし、ついたぞ」
いつの間にか森を抜けて景色が変わっていた。
ふたりはゆっくりと地に足を降ろす。
「うーむ、布はどこにあるんだ、大ちゃん?」
「ごめんチルノちゃん、思いつきで言っただけなの...」
「そっか...じゃあ見つかるまで探そう!」
「ありがとう、チルノちゃん」
大妖精はチルノの手を強く握った。
「チルノちゃんは優しいね」
「えー?、そうかなあ」
「チルノちゃん、私に遠慮しないで嫌なことや怒りたいことがあったら正直に言っていいんだよ」
「うーん、大ちゃんに言われて嫌だったことなんて今までも無かったと思うなあ」
「そっか...」
チルノちゃんは優しい。
その優しさも、私は大好きだ。
「あら可愛い妖精さん達ね。何をお探しかしら?」
「布だよ!布!」
「私達の背より長いのを2種類ほしいんです。片方は少し分厚いのがいいです...」
「はて、そんな大きな布を何に使うんだい?」
「大ちゃんと一緒に寝るんだ♪」
あらま!といった表情でおばあさんは驚いた。
「チ、チルノちゃん」
「そーかいそーかい、仲良しなんだねえ。じゃあこれなんてどうだい」
おばあさんはたんすの中から布を取り出し、二人の前で広げてみせた。
「大ちゃん、これでオッケーか?」
「これだけ大きければ一緒に寝れるわねぇ」
「こ、これ買います!おいくらでしょうか...」
「ええっと、二つ合わせて...」
「ありがとうな!」
「ありがとうございましたっ!」
チルノは大きく手を振り、大妖精は深々とお辞儀をして店を後にした。
「よおし!これで一緒に寝れるね!」
「ごめんチルノちゃん...お金全部無くなっちゃった...」
「いーじゃんいーじゃん、またお店屋さんやって貯めりゃいいのよ!」
「うん、そうだね...!」
二人は手を繋ぎ飛びたった。
チルノは早く夜にならないかなと言わんばかりにウキウキしており、大妖精もまたあと少しで願いが叶うと思うと笑顔を隠せなかった。
「大ちゃん、今日はどこで寝るの?」
「チルノちゃんがよければ、チルノちゃんのかまくらの中でどうかなって」
「うん、もちろんいいよ!」
「じゃあチルノちゃん、夜になったらまた来るから、一旦バイバイだね」
「おう!まってるからなあ〜」
大妖精が去ってからチルノは敷かれた布をしばらく見つめていた。
「うーん...」
自分と「一緒に寝る」ことがそこまで楽しいことなのかと気になっていた。
「まあいっかあ」
寝るだけでも大ちゃんと一緒ならきっと楽しい、そう自分に言い聞かせてかまくらを出た。
「お...」
暇を潰しに散歩していたものの思ったより時間が速く進んでいたのか、気がつくと空の色はすっかり変わっていた。
「そろそろ戻ろう...」
チルノちゃん、お出かけ中かな...
大妖精は一足先にかまくらに着いていた。
「おーい!大ちゃーん!」
「チルノちゃん...!」
「ごめん、もう来てたんだね」
「んーん、ちょうど今来たんだよ」
「あれ?大ちゃんそれは...?」
大妖精は小さな包みを握っていた。
「これね、スターちゃんからお菓子を貰ったの。何か食べたあとの方が眠くなるからーってね」
「ほー、あいつらも気が利くじゃん」
「うふふ、今度お礼しに行こうね」
「ちょっとそれはめんどいかも...」
「あはは...」
二人はお菓子を口にしつつ、数十分ほどいつものように談笑を交わした。
そして意外にも先に切り出したのはチルノの方だった。
「大ちゃん、そろそろ寝る?」
「う、うん。そうしよっか」
なんとか二人が収まるぐらいの布の上で横になった。
「えへへ、大ちゃんをこんなに近くで見るの初めてだな」
「私もだよ、チルノちゃん。じゃあもう一つの布をかけるよ」
「え?それじゃあ暑くない?」
「あ...」
しまった
寝る時はどんな格好をしているか、スターちゃんから聞いてなかった
どうすればいいんだろう...
「とりあえずこのままでいいか...」
「う、うん、そうだね...」
私ってバカだなあ
やっとチルノちゃんとこうして寝れるのに、チルノちゃんに苦しい思いをさせてしまうかもしれない
そう思うと申し訳なさでいっぱいで、言葉が出なくなってしまった。
「うーん...やっぱり暑い!」
「え?」
チルノは飛ぶように起き上がった。
「もう脱いじゃえ!」
そしてワンピースとブラウスを脱ぎ捨て肌着だけになり、ニッコリと大妖精に笑顔を見せた。
「これで丁度いいや」
「チ、チルノちゃん恥ずかしくないの!?」
「え?何で?」
「あ...」
そうだ
また私はチルノちゃんに自分の理想を押しつけようとしてしまった
チルノちゃんはチルノちゃんなのに
私は...
「ほら、大ちゃんも脱いで?暑いでしょ?」
「私は大丈夫だから...暑くないから...」
「ほんとう?」
つぶらな瞳で大妖精の顔を覗き込む。
大妖精も全く暑くないわけではなかったが、そんな格好になってしまっていいのか、勇気が出なかった。
「大ちゃんが大丈夫ってならいいっか」
でも...
チルノちゃんは脱いだのに、自分だけズルいよね...
「チルノちゃん、私も脱いでみるよ」
大妖精も緊張で震えかけてるのをぐっと抑え、自分のブラウスのボタンに手をかけた。
「おー!これでお揃いだあ!」
チルノはさらに笑顔を輝かせ、大妖精も思わずつられて笑顔になる。
いつの間にか、緊張も吹き飛んだ。
二人は再び一枚の布をかけ、身を寄せ合った。
「チルノちゃん...」
「なあに?大ちゃん」
「私、チルノちゃんのことが大好き。世界で一番好きだよ」
「あたいも大ちゃんのことだーいすき!」
「えへへ...」
大好きなチルノちゃんがこんな格好で、こんなに近くにいてくれてる
願わくば、ずっとこのままでいたいぐらい、幸せで、嬉しいのに...
胸の奥が少しだけ、ほんの少しだけ痛いの...
どうしてかな?チルノちゃん...
「ねえ大ちゃん」
「ん...」
「こんなに近くで寝たら、きっと夢でも会えるね...!」
夢...
「そしたら遊ぼうよ。あ、そうだ、これから毎日一緒に寝よ?そうすれば今までの倍遊べるね...!あたいもっと早く気づけばよかったなあ」
私は悪い子だ
こんな幸せを味わいながら、さらに奥に進もうとしている
チルノちゃんを好きだと言いながら、今のチルノちゃんに満足しないでいる
「大ちゃん...?」
そんなのは間違ってる
チルノちゃんにとっても、私にとっても
だから、だから夢の中で一度だけ...
ちょっとだけ違うチルノちゃんに会ってみたいなあ...
てるの
え...?
「大ちゃん、泣いてるの...?」
チルノは大妖精ですら今まで見たことのない悲しそうな顔でそう言った。
大妖精は思わず目をこすると、ようやく自分が涙してることに気づいた。
「ごめんなさい...あたいが調子に乗り過ぎたからだよね...」
「違う、違うの、チルノちゃん」
「じゃあ、なんでよ...」
自分が泣いてしまっていたことより、チルノがこんな顔をすることに心底驚いていた。
「チルノちゃん、よく聞いてね。泣いちゃうのはね、悲しい時だけじゃないんだよ」
それはチルノにだけ向けた言葉ではなかった。
嬉しいから泣いているのだと、必死に自分にも言い聞かせていた。
「チルノちゃんは何も悪くない、だからそんな顔しないで、ね?」
「そう...なのかな...」
先程までの笑顔がまるで嘘のようだった。
このままではいけない、と思い大妖精はチルノを抱き寄せ背中をさする。
何とか抑えようとしていたのに、私の薄汚い本能が、涙という形で外に放たれ、結局チルノちゃんを傷つけてしまった。
やっぱり私は悪い子だ
「...今日、あたいに言ったよね」
「え...?」
「嫌なことがあったら正直に言ってって。だから、大ちゃんも正直に言ってよ...」
「チルノちゃん、私は本当に嬉しいだけなんだよ...?」
「...わかった。大ちゃんを信じる。じゃああたいも正直に言うね?」
「チルノちゃん...?」
チルノは大妖精に背を向け、静かに語り始めた。
「あたい、さっきからずっと変な感じなんだ...」
「変...?」
どういうことだろう
「なんかそれがあたいらしくなくて、ダサくて...大ちゃんに気づかれるのが怖くて、だからいつもみたいに喋り続けたの...」
もしかして...
「いつから...?」
「...服を脱いでから大ちゃんのことずっと見てたら、だんだんと...」
「チルノちゃんそれは...」
あぁ...
私はチルノちゃんのことなんて何も分かってなかったんだ
「チルノちゃん、そのまま向こうを向いたままでいいから聞いて...ね...?」
「うん...」
大妖精は祈るように声をかける。
「チルノちゃん、それはね、ダサいことなんかじゃないんだよ。私もおんなじ感じなんだ」
「大ちゃんも...?」
「うん。私はチルノちゃんが好きだから、嬉しくて、嬉しすぎて緊張しちゃって、変な気分になっちゃうことがあるの」
「嬉しすぎて...」
チルノの声は涙が混じってるようにも聞こえた。
「チルノちゃんもそうなのかは、私にはわからない。そしてチルノちゃん自身も今は分からないから、ダサいって思っちゃうのかもしれないね」
「あたいは...」
「だから、これから、ゆっくりでいいんだよ。自分と向き合ったり、目を背けたり、そうすればいつか分かるから...」
二人は見つめ合う
心と心で見つめ合う
「あたいも大ちゃんのこと好きだよ...?」
「うん、ありがとう...ありがとう、チルノちゃん...」
夢の中じゃない
目の前にいる彼女を
チルノちゃんを愛し続けよう
信じ続けよう
「おやすみ、チルノちゃん」
大妖精は三妖精の一人、スターサファイアからお茶の誘いを受けて、家にやってきた。
「すごい...」
同じ妖精がこんなところで生活してるなんて...
「森に落ちてたものをみんなで集めたのよ。いろいろあるわよ」
「これは何だろう」
大妖精が指差したのは、木のようなものに布が覆いかぶさっていて、その上にふかふかしたものが乗っていた。
「ここで3人で寝るのよ。このふかふかしたのを体にかけてさ」
3人で...?
スターちゃん達は寝る時も一緒なんだ...
「私はお茶を用意するから、そこで座って待ってて」
「...」
「どうしたの、大妖精さん?」
「あ、いや、何でもないよ!じゃあ待ってるね」
大妖精は"それ"が気になって仕方がなかった。
木の椅子に座りながらじーっと見つめる。
「いいなあ...」
私もチルノちゃんと...
「おまたせ、大妖精さん。さあ飲みましょ」
「ありがとう。いただきます」
湖に森に、そして神社
馴染みのあるところをひと通り回っていた。
「ないなあ」
そんな都合よく目当てのものが落ちてるわけない、そう分かっているものの諦めきれず同じところを何日も探し続けたが・・・
「やっぱりないよね...よし、こうなったら...!」
大妖精は住処である湖に戻った。
ついに諦めて帰宅...したのではなく、
期待と不安を抱きながら湖の傍のかまくらへ向かった。
「いる...かな...」
少しだけ前屈みになって覗き込む。
「あ...」
「おう!大ちゃん!」
「チルノちゃん...!」
「あれ?大ちゃんなんか久しぶりな気がするなあ」
「あはは...」
たった数日会えなかっただけなのに、どうしてこんなに嬉しいんだろう。
どうしてこんなに心が暖かくなるんだろう。
やっぱり私は、チルノちゃんが大好きだ。
「チルノちゃん、今日は行きたいところがあるの」
「大ちゃんが行きたいとこならどこでも行ってやるぞ!で、どこなんだ?」
「あのね、それはね...」
一緒に寝るふとんを買いたい
そのまま言えばいいのに、恥ずかしさが邪魔をする。
「あの...その...」
「大ちゃん?」
「チルノちゃんにもっと気持ちよく寝てほしいの!」
「へ...?」
何言ってるんだろう、私
「チ、チルノちゃんはいつも氷の上で寝てて、体中が痛くならないのかなって...その...」
「あたいは平気だけどなー」
「平気じゃないよ!」
ガシッ
「なっ」
気がつくとチルノの手首を強く掴んでしまっていた。
「だ、大ちゃんどうしたのさ」
「はっ!?ご、ごめんね?チルノちゃん...」
大妖精が手をほどくと今度はチルノが大妖精の手を優しく握った。
「大ちゃん、言いたいことあるならはっきり言ってよね。あたいと大ちゃんの仲なんだからさあ」
「そうだよね...」
そうだ、落ち着こう。
落ち着いて正直に話そう。
チルノちゃんなら分かってくれるはずなのに、私が信じてあげれなかっただけなんだ。
私がそんなんじゃ、ダメじゃない...!
ゆっくりと深呼吸して...
「あのね、今までお店屋さんで貯めたお金で、人里に買い物に行きたいの」
「お、大ちゃん何か買いたいものがあるのか」
「うん...布を買いたいんだ...」
「ぬのぉ?」
チルノは目を丸くした。
「スターちゃんから聞いたんだ。いつも3人で1つの布を被ってくっついて寝てるんだって」
「ふむふむ」
「それでね、私もチルノちゃんと一緒に寝てみたいの。そのために布が必要なの...」
「一緒に寝るのって楽しいのかな?」
「そ、それは...」
わかっていた
チルノちゃんにとって私はただの遊び相手
楽しいか楽しくない以外関係ないよね
私がおかしいんだ、きっと...
ん...冷たい...
はっ...!
「ほら!いこう!」
「チ、チルノちゃん!?」
チルノはうつむく大妖精の手をとっていった。
「あたい、よく分かんないけど、大ちゃんがやりたいってならいいよ!」
「チルノちゃん...」
「だからいこ?人里に!」
「うん、うん...!」
ふたりは手を繋いで飛び出した。
大妖精は今まで貯めたお金を落とさないように片手でぎゅっと胸に抱える。
ふたりで一緒にいくのは、ふたりで貯めたお金を使うのもそうだが、もう一つ理由があった。
大妖精は人里への行き方がよくわからなかった。今までも何度かチルノと一緒に行ったことはあるのだが、それでも覚えられないのである。
大妖精は確かに妖精の中では控えめな性格だが、特段頭がいい、というわけでもない。
他の妖精同様に忘れっぽいのだ。
一方でチルノはどういうわけかちゃんと行き方を覚えている。
チルノこそよくバカだ、バカだと言われているのに、他の妖精と一線を画す面も多かった。
その異質ともいえる氷の羽を見て、大妖精は時々思う。
彼女は本当に自分たちと同じ妖精なのだろうかと。
「ん...」
「どうした?あたいの顔に何かついてるのか?」
「んーん、何でもないよ!」
チルノちゃん...
だからチルノちゃんは、私を真っ直ぐ見てくれないのかな...
ねえ、チルノちゃん...?
「よおし、ついたぞ」
いつの間にか森を抜けて景色が変わっていた。
ふたりはゆっくりと地に足を降ろす。
「うーむ、布はどこにあるんだ、大ちゃん?」
「ごめんチルノちゃん、思いつきで言っただけなの...」
「そっか...じゃあ見つかるまで探そう!」
「ありがとう、チルノちゃん」
大妖精はチルノの手を強く握った。
「チルノちゃんは優しいね」
「えー?、そうかなあ」
「チルノちゃん、私に遠慮しないで嫌なことや怒りたいことがあったら正直に言っていいんだよ」
「うーん、大ちゃんに言われて嫌だったことなんて今までも無かったと思うなあ」
「そっか...」
チルノちゃんは優しい。
その優しさも、私は大好きだ。
「あら可愛い妖精さん達ね。何をお探しかしら?」
「布だよ!布!」
「私達の背より長いのを2種類ほしいんです。片方は少し分厚いのがいいです...」
「はて、そんな大きな布を何に使うんだい?」
「大ちゃんと一緒に寝るんだ♪」
あらま!といった表情でおばあさんは驚いた。
「チ、チルノちゃん」
「そーかいそーかい、仲良しなんだねえ。じゃあこれなんてどうだい」
おばあさんはたんすの中から布を取り出し、二人の前で広げてみせた。
「大ちゃん、これでオッケーか?」
「これだけ大きければ一緒に寝れるわねぇ」
「こ、これ買います!おいくらでしょうか...」
「ええっと、二つ合わせて...」
「ありがとうな!」
「ありがとうございましたっ!」
チルノは大きく手を振り、大妖精は深々とお辞儀をして店を後にした。
「よおし!これで一緒に寝れるね!」
「ごめんチルノちゃん...お金全部無くなっちゃった...」
「いーじゃんいーじゃん、またお店屋さんやって貯めりゃいいのよ!」
「うん、そうだね...!」
二人は手を繋ぎ飛びたった。
チルノは早く夜にならないかなと言わんばかりにウキウキしており、大妖精もまたあと少しで願いが叶うと思うと笑顔を隠せなかった。
「大ちゃん、今日はどこで寝るの?」
「チルノちゃんがよければ、チルノちゃんのかまくらの中でどうかなって」
「うん、もちろんいいよ!」
「じゃあチルノちゃん、夜になったらまた来るから、一旦バイバイだね」
「おう!まってるからなあ〜」
大妖精が去ってからチルノは敷かれた布をしばらく見つめていた。
「うーん...」
自分と「一緒に寝る」ことがそこまで楽しいことなのかと気になっていた。
「まあいっかあ」
寝るだけでも大ちゃんと一緒ならきっと楽しい、そう自分に言い聞かせてかまくらを出た。
「お...」
暇を潰しに散歩していたものの思ったより時間が速く進んでいたのか、気がつくと空の色はすっかり変わっていた。
「そろそろ戻ろう...」
チルノちゃん、お出かけ中かな...
大妖精は一足先にかまくらに着いていた。
「おーい!大ちゃーん!」
「チルノちゃん...!」
「ごめん、もう来てたんだね」
「んーん、ちょうど今来たんだよ」
「あれ?大ちゃんそれは...?」
大妖精は小さな包みを握っていた。
「これね、スターちゃんからお菓子を貰ったの。何か食べたあとの方が眠くなるからーってね」
「ほー、あいつらも気が利くじゃん」
「うふふ、今度お礼しに行こうね」
「ちょっとそれはめんどいかも...」
「あはは...」
二人はお菓子を口にしつつ、数十分ほどいつものように談笑を交わした。
そして意外にも先に切り出したのはチルノの方だった。
「大ちゃん、そろそろ寝る?」
「う、うん。そうしよっか」
なんとか二人が収まるぐらいの布の上で横になった。
「えへへ、大ちゃんをこんなに近くで見るの初めてだな」
「私もだよ、チルノちゃん。じゃあもう一つの布をかけるよ」
「え?それじゃあ暑くない?」
「あ...」
しまった
寝る時はどんな格好をしているか、スターちゃんから聞いてなかった
どうすればいいんだろう...
「とりあえずこのままでいいか...」
「う、うん、そうだね...」
私ってバカだなあ
やっとチルノちゃんとこうして寝れるのに、チルノちゃんに苦しい思いをさせてしまうかもしれない
そう思うと申し訳なさでいっぱいで、言葉が出なくなってしまった。
「うーん...やっぱり暑い!」
「え?」
チルノは飛ぶように起き上がった。
「もう脱いじゃえ!」
そしてワンピースとブラウスを脱ぎ捨て肌着だけになり、ニッコリと大妖精に笑顔を見せた。
「これで丁度いいや」
「チ、チルノちゃん恥ずかしくないの!?」
「え?何で?」
「あ...」
そうだ
また私はチルノちゃんに自分の理想を押しつけようとしてしまった
チルノちゃんはチルノちゃんなのに
私は...
「ほら、大ちゃんも脱いで?暑いでしょ?」
「私は大丈夫だから...暑くないから...」
「ほんとう?」
つぶらな瞳で大妖精の顔を覗き込む。
大妖精も全く暑くないわけではなかったが、そんな格好になってしまっていいのか、勇気が出なかった。
「大ちゃんが大丈夫ってならいいっか」
でも...
チルノちゃんは脱いだのに、自分だけズルいよね...
「チルノちゃん、私も脱いでみるよ」
大妖精も緊張で震えかけてるのをぐっと抑え、自分のブラウスのボタンに手をかけた。
「おー!これでお揃いだあ!」
チルノはさらに笑顔を輝かせ、大妖精も思わずつられて笑顔になる。
いつの間にか、緊張も吹き飛んだ。
二人は再び一枚の布をかけ、身を寄せ合った。
「チルノちゃん...」
「なあに?大ちゃん」
「私、チルノちゃんのことが大好き。世界で一番好きだよ」
「あたいも大ちゃんのことだーいすき!」
「えへへ...」
大好きなチルノちゃんがこんな格好で、こんなに近くにいてくれてる
願わくば、ずっとこのままでいたいぐらい、幸せで、嬉しいのに...
胸の奥が少しだけ、ほんの少しだけ痛いの...
どうしてかな?チルノちゃん...
「ねえ大ちゃん」
「ん...」
「こんなに近くで寝たら、きっと夢でも会えるね...!」
夢...
「そしたら遊ぼうよ。あ、そうだ、これから毎日一緒に寝よ?そうすれば今までの倍遊べるね...!あたいもっと早く気づけばよかったなあ」
私は悪い子だ
こんな幸せを味わいながら、さらに奥に進もうとしている
チルノちゃんを好きだと言いながら、今のチルノちゃんに満足しないでいる
「大ちゃん...?」
そんなのは間違ってる
チルノちゃんにとっても、私にとっても
だから、だから夢の中で一度だけ...
ちょっとだけ違うチルノちゃんに会ってみたいなあ...
てるの
え...?
「大ちゃん、泣いてるの...?」
チルノは大妖精ですら今まで見たことのない悲しそうな顔でそう言った。
大妖精は思わず目をこすると、ようやく自分が涙してることに気づいた。
「ごめんなさい...あたいが調子に乗り過ぎたからだよね...」
「違う、違うの、チルノちゃん」
「じゃあ、なんでよ...」
自分が泣いてしまっていたことより、チルノがこんな顔をすることに心底驚いていた。
「チルノちゃん、よく聞いてね。泣いちゃうのはね、悲しい時だけじゃないんだよ」
それはチルノにだけ向けた言葉ではなかった。
嬉しいから泣いているのだと、必死に自分にも言い聞かせていた。
「チルノちゃんは何も悪くない、だからそんな顔しないで、ね?」
「そう...なのかな...」
先程までの笑顔がまるで嘘のようだった。
このままではいけない、と思い大妖精はチルノを抱き寄せ背中をさする。
何とか抑えようとしていたのに、私の薄汚い本能が、涙という形で外に放たれ、結局チルノちゃんを傷つけてしまった。
やっぱり私は悪い子だ
「...今日、あたいに言ったよね」
「え...?」
「嫌なことがあったら正直に言ってって。だから、大ちゃんも正直に言ってよ...」
「チルノちゃん、私は本当に嬉しいだけなんだよ...?」
「...わかった。大ちゃんを信じる。じゃああたいも正直に言うね?」
「チルノちゃん...?」
チルノは大妖精に背を向け、静かに語り始めた。
「あたい、さっきからずっと変な感じなんだ...」
「変...?」
どういうことだろう
「なんかそれがあたいらしくなくて、ダサくて...大ちゃんに気づかれるのが怖くて、だからいつもみたいに喋り続けたの...」
もしかして...
「いつから...?」
「...服を脱いでから大ちゃんのことずっと見てたら、だんだんと...」
「チルノちゃんそれは...」
あぁ...
私はチルノちゃんのことなんて何も分かってなかったんだ
「チルノちゃん、そのまま向こうを向いたままでいいから聞いて...ね...?」
「うん...」
大妖精は祈るように声をかける。
「チルノちゃん、それはね、ダサいことなんかじゃないんだよ。私もおんなじ感じなんだ」
「大ちゃんも...?」
「うん。私はチルノちゃんが好きだから、嬉しくて、嬉しすぎて緊張しちゃって、変な気分になっちゃうことがあるの」
「嬉しすぎて...」
チルノの声は涙が混じってるようにも聞こえた。
「チルノちゃんもそうなのかは、私にはわからない。そしてチルノちゃん自身も今は分からないから、ダサいって思っちゃうのかもしれないね」
「あたいは...」
「だから、これから、ゆっくりでいいんだよ。自分と向き合ったり、目を背けたり、そうすればいつか分かるから...」
二人は見つめ合う
心と心で見つめ合う
「あたいも大ちゃんのこと好きだよ...?」
「うん、ありがとう...ありがとう、チルノちゃん...」
夢の中じゃない
目の前にいる彼女を
チルノちゃんを愛し続けよう
信じ続けよう
「おやすみ、チルノちゃん」
チルノちゃんは本当に妖精なの?と大ちゃんは言ってましたが、大ちゃんもお店の人にスラスラ話してたし、大概なのでは…面白かったです。